忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。135話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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※作中使用の特殊フォントは、〝キャベツの中から出てきた青虫〟様作成の特殊フォントを使用させて頂いています。 
 特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますので、ご了承ください。







135話 どうしてこうなった? byリムル

 

 

 ツキハとコハクの前に馬車の客室から飛び出て来たのは――

 

 貴族御用達定番の服を着た、恰幅の良い中年の男性だった。

 

 ブロンドの髪に肩まである長めの髪をオールバック気味にしていて、豊かな鼻髭を蓄え、顔付はふっくらとしたどこか人の良い苦労人といった顔付だった。

 

 そして、ガバッと(ひざまず)くと、いきなり口を開く。

 

「ツキハ様、コハク様。お帰りの際は、()ず最初にこの(わたくし)め、ノルベルトにご報告をお願い致しますと、再三お願いしておりますのに。いきなり『思念伝達』で、領民全員に()の国の魔王リムル陛下も御一緒との御報告。私は、心臓が飛び出る思いで駆け付けた次第で御座います。もう少し、事前準備というものをして頂かないと!」

 

 ツキハとコハクに、一気に捲し立てたこの中年男性。

 しかし、この剣幕に慣れているのかツキハとコハクは、まあまあと(なだ)め言う。

 

「ごめんごめん、ノルベルト公。急に帰る事になってね、まあ、そう怒らずにさ、いつも言ってるじゃん、もう少し気楽にやんなよ。みんな自由にやってんだからさ、ねっ?」

「何を(おっしゃ)いますかツキハ様。ツキハ様の自由は、それこそ、自由ヤッホイ! 暴走上等じゃい! では御座いませんか! 少しは自重と言うのをですな――」

「もう、ノルベルト公はいつも(うるさ)いんだからぁ。サンコとニコを一週間くらい、ここに放り込むぞ?」

「いやいや、それは絶対にお()め下さい! 子供達に悪影響があります故。放り込むならば、キチンと言い聞かせてからお願いしますぞ!――」

「すまんなぁ、ノルベルト公。急にリムルにうちらの領地を見せる事になったんや。堪忍やで」

「コハク様も困りますぞ。一国の(あるじ)を招かれる時は、それ相応の準備が必要になるので御座います。急であれ、何も出来ないとなれば、傭兵公国シャルフューズの恥となります。取り急ぎ私の屋敷に魔王リムル陛下の歓待の準備をさせております故――」

 

 そこまで言うと、ノルベルト公は立ち上がり、リムルの前まで歩み寄り(ひざまず)くと、謝罪の言葉を述べる。

 

「魔王リムル陛下、挨拶が遅れた事をここに謝罪致します」

 

 (こうべ)()れ、リムルの言葉を待つノルベルト。

 

「いや、こちらこそ、急に押し掛けてすまなかったな」

「おお、なんと寛大な御言葉、痛み入ります。そして、名乗りが遅れました事、重ね重ね申し訳御座いません。私は、この迷宮領地にある傭兵公国シャルフューズの管理を任されている、第二十四代目領主ノルベルト・フォン・リッケンバッカ公爵であります。以後、お見知りおきを下されば、幸いで御座います」

「うむ。俺は、ジュラ・テンペスト連邦国の盟主、魔王リムルだ。ルヴナンとも契約を交わしているし、これからは色々と協力をお願いするかも知れない。そして、この国ともより良い関係を築きたいと思う。よろしく頼むよ、傭兵公国シャルフューズの領主、ノルベルト公爵」

「ハハッ。恐悦至極で御座います、魔王リムル陛下」

 

 これにて略式ではあるが、リムルと傭兵公国シャルフューズ領主ノルベルト公の挨拶が交わされた。

 

 ノルベルトはリムルに(うなが)され立ち上がると、今から屋敷に来て頂けないかと言うも、リムルは、今回は本当に急なお忍びで来たから、〝教授〟に会ったら直ぐに国に帰るからと、ノルベルトに告げる。 

 

「左様で御座いますか。それは本当に残念です……」

 

 それを聞いたノルベルトはガックリと肩を落とし、ツキハがまた今度正式にリムルを招待するからその時に頑張ればいいじゃんと、慰める。

 

 と、その時、リムルが何かを閃いたようにポンと手を打ち。

 『胃袋』の中で急ぎあるモノを作った。

 

 そしてそれを、如何(いか)にもポケットから取り出したように取り出し、ノルベルトに差し出す。

 

「ノルベルト公。今度俺の国で開国際をやるんだけど、是非傭兵公国シャルフューズの代表として参加してもらいたい。受け取ってもらえるかな?」

 

 そう言ってリムルは、開国際の招待状をノルベルトに手渡した。

 

「え? これを私に、ですか?」

「そうだ。参加してくれると、俺も嬉しい」

 

 招待状を手に唖然としているノルベルトにリムルは、ニコッと笑みを浮かべて言う。

 

 嬉しさ半分、戸惑い半分のノルベルトは、ツキハとコハクの方を見て、主の言葉を待った。

 

 それを見たリムルが、「あ! そうか、お前達の領地は、隠し領地だったな。不味かったか?」と、コハクに問うと。

 

「せやねぇ。歩きながらでええなら、少しこの領地について、いや、うちらの国について話しましょか?」

「いいのか?」

「かましまへん」

「そうか。是非聞かせて欲しいな」

「へぇ。事の始まりは、三千年前や――」

 

 こうして、傭兵国シャルフューズの成り立ちが、コハクの口から語られ始める。

 

 

 迷宮領地、傭兵公国シャルフューズは、迷宮内に領地を構えて約三千年近くの歴史を持つ。

 

 そして、この国の初代領主が、ノルベルトの先祖であるモルド・フォン・リッケンバッカ公爵であると。

 

 三千年前に、現在のブルムンド王国、その南西に位置する場所に、人口約七万人の小国で農業が盛んな、城塞都市ラズランド王国が存在していたと話す。

 

 この国の王に仕えていた貴族の一人が、シャルフューズの初代領主モルド・フォン・リッケンバッカ公爵だったと説明する。

 

「ほうー。そんな国があったんだ。ああ、でもあの辺りって、城塞の跡らしき遺跡があったような気がするけど?」

「せやね。でな、そのラズランド王国の王の腹心たる魔導士が、とある古代石板を手に入れたんや。その石板に記されていたのがな、何と、人が名誉や金よりも欲するモノ、不老不死へ進化する術式が記されていたんどす」

 

 と、コハクは言う。

 

 それを聞いたリムルは驚き、一瞬立ち止まる。

 

《!?》

 

「ええ!? それマジか?」

「ないない、そんなもんあるわけあらへん」

「あ、まあ、そうだよな。ちょっとビックリしたぞ(ん? 今、智慧の王(ラファエル)先生も反応した?)」

「さよか、クククッ」

 

《……》

 

智慧の王(ラファエル)先生。嘘の記述だとわかって、残念だった?』

《……》

『はい、いつものダンマリですね。失礼しました』

 

 魔物が進化する条件を満たす場合の苦労を知っているリムルは、思わずコハクに聞き返すも、それは無いと返され、少し残念そうに言うリムル。

 そして、智慧の王(ラファエル)のどこか不機嫌な感じを受け取る。

 

「それでや、その石板に記された術式な、何と起動したんやで」

「ふあ!? 嘘じゃなかったのか?」

「いや、不老不死の術式じゃなかったんどす。その石板に記された術式は、万単位の魂を(にえ)にして、一人の人間をバケモンに変える術式やってん」

「ええ? それ、呪いとかの類じゃないのか?」

「せやね、呪いに近い……いや、そのものかも知れまへんな。石板には、不老不死を欲するのならば、この石板に万の魂を捧げよと、書いてたんや。それで、その王は国民七万を生贄に、石板を起動したんどす。笑えますやろ? 自国民七万を、己の欲望の為に平気で生贄にしたんやから。でな、王が石板の記述に魅せられてから、再三(いさ)め止めようとしたのが、ノルベルトの祖先である、シャルフューズ初代領主モルド・フォン・リッケンバッカ公爵やねん」

「いや、流石に笑えはしないけども……。何とか王を諫め止めようとした。でも、止められなかった、と」

「せや。再三諫められたのが気に入らんかったんやろな。そのモルド公爵を、一族もろとも国外へ追放したんやその王は。でもな、モルド公爵は王も国民も救うのを諦めんかったんどすな。どこから聞きつけたか知らんけども、ルヴナンにその石板の奪取を依頼して来たんや、これが」

「なるほどなぁ。モルド公爵は、本当に王と国民を助けたかったんだな」

「ほんま、貴族にしては真面目で正直でいて、勇敢な人間やったで、モルド公爵は……」

 

 そう言ったコハクは、歩きながら空に広がる雲を眺め、どこか、生きていた頃のモルド公爵を思い出しているように見えた。

 

「でもな、国外追放されて、ルヴナンに依頼を取り付けるまでに二ヶ月掛かってしもうてなぁ。依頼があった日の深夜に、石板を起動する準備が整うてしもうてな、起動してしまったんや。うちらがラズランド王国に着いた時にちょうど広域破壊魔法術式が発動されたんどす。城塞都市を覆い尽くさんばかりの、真っ赤で巨大な魔法陣が漆黒の空に浮かんでいたんどすえ」

 

 そうコハクは言い、リムルにその時の記憶映像を、『思念伝達』で見せる。

 

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「うお! デカいな。それに真っ赤な魔法陣とか、不気味満載だな……」

 

 その血のように真っ赤な魔法陣にリムルは、少し驚いた声を上げる。

 

「で、その魔法陣が国民の魂を抜き取り吸い上げ、石板に集約して王に供給したんどすえ」

「なあ、コハク。魂を人間に与えてどうか出来るものなのか?」

「術式での進化は、不可能やろな。それでや、吸い上げた魂は石板の中に仕込まれた呪術によって、呪いの媒介として変換されてしまうんや。対象を呪いでバケモンに作り変える為にな」

「呪いに、変換だと?」

「せや。万の魂の怨嗟(えんさ)により、人を根本的から作り変えてしまう禁忌の呪術やねん。これを考えた(いにしえ)の魔人は、呪術の天才や(呪術……なんやあのクソムカつく女を思い出してアカンわ。ほんま、ねちこい(シツコイ)女どしたな……)」

 

 呪術の天才と口に出したコハクの表情が一瞬険しい顔付きになり、それを見たリムルが、どうかしたんだろうか? という顔で見ながらコハクに問う

 

「ん? どうかした?」

「え? ああ、なんでもあらへん」

「そっか。でさ、その魔人って――」

「太古に生きていた魔人どすな。なんや、もの凄い恨みを人間に持ってたみたいでなぁ。あの石板にこびり付いた怨念は、そりゃもう普通の人間などには手に負えるもんではなかったどすな。人の欲を利用した罠みたいなもんや、アレは」

「ふーむ……ブービートラップみたいなものか。えげつないな、ほんと」

「リムル。儀式が完成した時の記憶がコレや」

 

 そう言ってまたコハクは、記憶映像を『思念伝達』を使ってリムルに見せる。

 

 ――儀式が完成した時、夜空に浮かび上がる古代の言葉。

 

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 〝欲深き人間よ 我が恨みを受けよ〟――

 

「ハハッ……ガチで人間に対しての恨み満載だな」

「この時には国民の(ほとんど)どが魂を抜かれてたんよ。モルド公爵が必死に助けた国民は百数十人くらいやったおすな。そして、呪霊獣(じゅれいじゅう)、カースビーストにされた王は、国を焼き尽くしたんや。でな、燃え盛る王都を見てモルド公爵が懇願したんどす。王の魂と、贄にされた民の魂を救ってくれと、な」

「呪霊獣、カースビースト……。聞いた事のない魔物だな、ソレ」

「まあ、魔物と言うより、呪術で創り出した生きた呪いと()うモンやで。石板にもそう記されていたというか、石板にこびり付いた思念を読み取っただけなんどすえ」

「ふーむ。人工的に創り出したモンスターかぁ……。確かに死霊兵とか、死体を媒介に配下を創るヤツもいるらしいから、不思議ではないよな」

「せや、コレを見て見なはれ」

 

 そうやってコハクが、リムルに見せた記憶映像は、燃え盛る城と――

 

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 その燃える城の上空で不気味に蠢く髪の毛みたいな触手を持つ醜悪で嫌悪感を(もよお)す、体長数メートルはある化け物だった。

 

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「うげっ。なんじゃこの魔物はっ!」

 

 あまりの醜悪さに思わず声を出すリムル。

 

「中々にえげつないでっしゃろ?」

「ぁあ、何か、触りたくねえ魔物だわ。それで、この後どうしたんだ?」

「うちがモルド公爵に、あんさんは何が差しだせるんやと、聞いたんや。そしたら全てをやると、子々孫々、うちらに忠誠を誓うと、()うたんどす。当時うちらも、人間の人出が欲しかったからな、それで契約成立やねん」

「へえー、そうなのか。お前等、手広く色々やってるもんな」

「で、後はツキハが時雨で一刀両断して終わりやねん。石板は、うちが粉々に破壊して、火山の火口に捨てたねん」

「はあっ!? 一撃なのか、アレを? 石板は破壊して火山に投棄か。ならもう、その呪術は失われたも同然だな」

「せやね。万単位の魂と怨念で創られた呪霊獣()うても、精々、災厄級(カラミティ)くらいの強さしかあらへん。本気を出したツキハに取っては、遊びにもならへんで」

「なあ、コハク。時折思うんだけど、お前とツキハの強さって、どこかバグってるよな?」

「はい? なに()うてますねん。あんさんも十分その域にいますで? フフッ」

「そうか? ククッ」

 

 横に並んで歩く二人は、お互いに顔を向き合わせ、クスリと笑い合う。

 

「それで、王の魂と贄にされた民の魂はどうなんったんだ?」

「……アカンかった。流石のうちも、あそこまで汚染された魂を、冥界に送る事は出来ひんねん。だから、うちとツキハが喰らったんや……」

「そうか。お前達って、悪魔族(デーモン)と一緒で、魂の扱い方に()けているんだったな。それは、モルド公爵も無念だったろう……」

「せやね。燃え盛る王国を凝視したまま、握りしめた拳から血が(したた)り落ちてましたねん。でや、うちとツキハの体内で呪詛(じゅそ)ごと分解消滅させたんよ。死霊となって、永遠に彷徨(さまよ)わへんようにな」

 

 リムルの問いに、死者を弔うような言葉で静かに返す。

 

「なあ、コハク。お前とツキハって、呪術に詳しかったりするのか?」

「大昔に、覚えがあるだけやねん……」

「そっか……」

 

 リムルはコハクの返って来た言葉に一言だけ返し、そのまま口を閉じる。

 

 その少し後ろを離れてついて来るノルベルトは、コハクの話を聞きながら、どこか遠い祖先を思い、空に流れる雲に目を移していた。

 

 そしてまた、コハクがリムルに説明をしていく。

 

「でや、その後にな、モルド公爵と生き残った国民がこの地に移り住んで、今に至るんやで。今では領民も増えて、町に二万五千百四十二人、ルヴナン本拠地に五千の、計三万百四十二人がこの領地に住んでますねん。元々、うちとツキハと眷属達の隠れ家だったんや、ここは」

「ほお、結構いるんだな。それに、元々がお前達だけの隠れ家だったとはなぁ。そんな経緯があったんだな、この隠し領地には。ありがとな、話してくれて」

「かましまへん。とりあえず、リムルは信用出来るさかいな」

「とりあえず、か。相変わらず手厳しいなコハクは。ハハッ」

 

 リムルが苦笑いで返し、コハクはそのまま立ち止まると、ノルベルトに向き直った。

 

 そして、主としての(めい)を出す。

 

「ノルベルト公」

「ハッ、コハク様」

魔国連邦(テンペスト)で開かれる開国際。傭兵公国シャルフューズの代表として、出席を命じます。この領地を明かす事は許しまへんけども、周辺諸国の来賓客には適当に誤魔化しなはれ。腹芸はあんさんの得意とするところやろ?」

「ハッ、仰せのままに!」

「それにリムルも、あんさんと何やら商談がしたいみたいやし。たまには奥方はんと一緒に羽を伸ばしなはれ」

「お気遣い頂き、感謝の極みで御座います、コハク様。それでは、魔王リムル陛下。私はこれにて失礼させて頂きます。開国際、楽しみにしておりますぞ!」

「うん、待ってるよ、ノルベルト公。次は、開国際で会おう!」

 

 (かしこ)まるノルベルトにリムルは笑顔で右手を差し出す。

 そこで二人はガッチリ握手を交わすと、ノルベルトはリムルに深く一礼をし、足早にその場を去って行った。

 

 それからコハク達は、木造で出来た百人くらい入る小さな体育館みたいな建物の前までやって来た。

 

「ここなのか?」

 

 リムルが建物を見て尋ねると。

 

「そう。ここが〝教授〟のいる拷問屋敷だよ、リムル」

「ええ!?」

 

 ツキハの言葉にリムルが驚き、ズビシッと、凄まじい音が鳴り響いた。

 

「アイタァーッ!」

 

 頭を抱えしゃがみ込むツキハ。

 

 それは、コハクがツキハの頭にチョップを叩き込んだ音だった。

 

「何が拷問屋敷やねん。馬鹿()うたら、あきまへんで! ほんま、いい加減大人になりなはれ!」

「うーっ。だから殴る前にいつも、一言先に言えってんだろうがッ。不意打ちすんな!」

「だまりや!」

 

 涙目で文句を言うツキハに、目を吊り上げて説教するコハクであった。

 

「ツキハがすまんな、リムル。ここに教授がいるハズやねん」

「え、ああ、いいよいいよ。ちょっと驚いただけだからな。ハハッ。でも、何で拷問屋敷とか言ったんだ、ツキハは?」

「うーん……まあ、それはまた、話しますさかい。ちょ、ちょお、ごめんやっしゃ!」

 

 コハクは、どこか言いたくないような、困ったような感じで建物の方へ小走りで向かって行った。

 

(あらら? 何か思い出したくないような過去でもあった? ふむ……ツキハの事だ、とんでもない事を仕出かしたりしてたのかな?)

 

 リムルがそんな疑問を頭の中に浮かべていると、建物の入り口で誰かと話していたコハクがまた小走りで戻って来た。

 

「リムル。教授な、今日は休みたいやってん。ここからすぐ近くに教授の家があるんやけど、なんかぎょうさん歩かせて、すんまんへんなぁ」

「いいって、気にするなよコハク。じゃあ、そこに行こうか」

「へぇ」

 

 そうやってまたコハク達は教授の家に向かって歩き出していく。

 途中、ラミリスが「やーい。コハクに怒られて、ツキハ涙目じゃん!」と、ツキハをからかう。

 ツキハは、「うっさいわ! あんたねえ、()巻きにして、魔獣の口に放り込むわよ!」と、自分の周りを飛び回りながら舌を出すラミリスを捕まえようとして、ギャアギャア騒いでいると――

 

「なにしょうもない事で騒いでるんや。あんさんら二人揃って簀巻きにして、活火山の火口に放り込むで」

「「ひっ、ヒャイッ!」」

 

 後ろを振り向きもせずに、静かに低い声で吐き捨てるコハク。

 こういう時のコハクはガチでやりかねないのを知っているので、慌てて黙るツキハとラミリスであった。

 因みにツキハは、コハクを怒らせて簀巻きにされて、何度か火山の火口に放り込まれている。

 

 やがて、木造作りの壁はレンガを積み上げて作られた、この世界では一般的な一軒家が見えて来た。

 玄関に付き、コハクが扉をノックするも返答がなかった。

 

「いてるんやけど、返事がありまへんなぁ。寝てはるんやろか?」 

「また怪しげな研究でもしてるんじゃないの? 研究に没頭すると『思念伝達』にも応えないじゃない」

「せやろかねぇ。まあ、入ってみましょか。入るで、教授」

 

 そう言うとコハクは玄関の扉を開け、家の中に入っていく。

 

 廊下の右側の部屋に入るコハク。

 

 

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 そこは小さな実験室みたいな部屋だった。

 部屋の真ん中辺りには、丸い(まき)ストーブが設置されていて、右側にはフラスコみたいなものが所狭しと置かれていた。そして左側には長い机があり、その上には乱雑に置かれた魔導書と思しきものや、何かが走り書きされた紙が置かれていて、用途の良く分からない機械みたいなモノの部品? が並べられていた。

 

「いてまへんなぁ」

「あ! 離れの倉庫兼第二研究室にいるんじゃない?」

「せやね。そこ行ってみよか。リムルはここで待っててくれはるか? ちょお教授呼んで来るさかい」

「うん、わかった。ここで待ってるよ」

 

 そう言うとコハクはツキハと離れにある倉庫に向かって行った。

 何故かラミリスも、「待ちなさいよ」と言いながらトレイニーとベレッタを伴って二人に付いて行き、家にリムル一人だけが残った。

 

 薪ストーブは、パチッパチッと薪が燃える音を響かせながら暖かい熱を出し、部屋を暖めていた。

 それを見たリムルは、「これ、家にいるんじゃないか?」と呟き、廊下に出ると、突き当りの部屋の左側の部屋のドアが開いているのが目に入る。

 

 そして、リムルがそこのへの前まで行き、開いている扉の前で中を覗くと、そこは小さな書庫だった。

 

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(ん?) 

 

 そこで、気配を消した女性が本棚にある書物を手に取り、読んでいる最中だった。

 

(え? 気配を消していたのか……? いや、これは違うわ。コハク達が使う、気配を隠し偽る技だ)

 

 コハクとツキハさえ気付かせない隠形術。

 そう、教授もまた、この隠形術をコハク達から教えられていたのだった。

 

 本を読むのに没頭していたその女性は、リムルに気が付くと、本を棚に戻しリムルの方に首だけを傾け口を開いた。

 

「あら? キミは誰? ここでは見ない顔だねぇ」

 

 

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 黒髪ショートボブ、眼鏡をかけていて、上着は黒のスウェットに、下はふくらはぎ中心までの長さのミモレ丈の藍色スカートを履いている女性が、凛と通る声でリムルに声をかける。

 

「あ、俺は――」

「ちょっと待って!」

「え? はい」

 

 リムルが自分の名を名乗ろうとした瞬間、その女性が右手で待ったをかけた。

 

「少女のようなその容姿に、銀髪でありながら透き通るような青が散りばめられているような綺麗な長い髪……これは、蒼銀と言うべきだろうか? そして、金色の瞳、うん、もの凄い美人と言ってもいいね! しかし、これだけ完璧に妖気(オーラ)を抑えているのも見事としか言えない。うーん――」

「えーと、ちょっといいですか?」

「!? あ、つい、いつもの癖で。失敬失敬」

 

 いきなり自分みて分析を始めたその女性に呆気に取られたリムルが、たまらずその女性に尋ねる。

 女性はそれを聞いて、自分の頭をペシペシと叩きながら苦笑した。

 

 そして、今度はリムルに向き直ると、挨拶を始めた。

 

「コハク様から報告を受けてます。貴方が魔王リムルですね、おっと、陛下をお付けした方が良かったかな、元、日本人の三上悟君」

「ええ!? 何で知って、ああそうか、コハクかツキハから聞いたのか。もしかして、日本人なのか?」

「はい、その通りです。自己紹介が遅れましたけど、私は綾瀬流子(リュウコ・アヤセ)と言います。この世界に転移して来た『転移者』です、陛下」

 

 この綾瀬流子と名乗った、どう見ても二十代くらいの女性が時折見せる大人の雰囲気が、どうにも自分より大人に感じるリムルは、大人の女性には聞いてはいけない質問を、してしまう。

 

「ぁあ、何だ、綾瀬さんは、いつこの世界に来たのですか?」

「気になるかな、リムル陛下? フフフッ」

 

 リムルの質問にクスリと笑い返す教授にリムルは、やっちまった感満載でその話を終わらせようとするが……。

 

「いや、失礼しました。大変失礼な事を――」

「いえ、構いませんよ。私は、十二年前に、この世界に転して来た『転移者』なんです。そして、転移前の年齢は、三十三でした。フフッ」

「えっ?……(転移して来た時が三十三、という事は今四十五歳か!? 若すぎだろ!?)」 

 

 思わず出かかった言葉を無理やり呑み込み、え? という表情で見るも、リムルはそこである事に気付く。

 

(あ、そういえば……。ユウキのヤツもこっちに来て以来、外見がほとんど変わらないと言ってたような? ヒナタも、この世界に来て十年だっけ? 妙に若いというか、転移時の十七歳からあまり変わってないような? だったら綾瀬さんも、そういうものなのかな? ってか、十二年前……? 綾瀬、流子、三十三歳……。何か、こう引っかかるというか……うーん……ああ!! 俺が大学を卒業した翌年に、日本中を騒がせた、失踪事件。量子力学の論文を発表する東京の会場内で突如行方不明になった、若干三十歳で教授に抜擢された物理工学の天才じゃないのか?)

 

 転生する前の記憶を辿り、その確信を得る為、リムルは教授に再度尋ねる。

 

「えーと、綾瀬さん――」

「今のキミは、魔王なんでしょ? そんなに(かしこ)まらなくてもいいですよ。魔王と言えば、この世界最強の一角なんだから。あ? 〝竜種〟を除いてだね、失敬失敬。あれは、冗談を通り越した何かだね。フフッ、こう言うとツキハ様が怒るんだけどね。ってか、私が砕け過ぎか、失礼しました、陛下」

「あ、いえ、同じ日本から来た異世界人だし。まあ、俺は転生したんだけども、スライムに。ハハッ」

「スライムに転生か、中々に興味深いね。私達がいた世界と、この世界。何か、因果関係があるんだろうかねぇ……。と、いけないいけない。すぐこれだ。どうにもこの世界は不思議に満ち溢れていて、探求心がつい抑えられなくなるんだよ。フフフッ」

「あ、何かそれ、少しわかりますよ。ククッ。ところで一つ聞いてもいいかな?」

 

 リムルが言いにくそうに尋ねると、教授は気さくにそれを了承する。

 

「どうぞ」

「綾瀬さんは、十二年前に突如として、量子力学の論文発表会場から消えた、綾瀬流子教授ではないですか?」

「うん、そう。あの時は、控室で自分の番を待つまで休息を取ってたのよ。そうしたら、急に異様な眩暈(めまい)と、浮遊感に襲われてねぇ。気が付いたら、見知らぬ山の麓に立っていたんだよ。びっくりしたねぇ、いきなり見知らぬ土地に飛ばされたんだから」

「その時に、何か声を聞きませんでした?」

「ん? ああ、頭の中に直接響いて来る声だよね?」

「そう、それです」

「当時は、何かよくわからなかったんだけど、どうも能力(スキル)などを授かる時や、進化の時に聞こえる声なんだけど、何だろうね、アレ?」

「んー、何でしょうかねぇ」

「ともかく、こっちに来る時に私はユニークスキル『教導者(オシエミチビクモノ)』というものを、もらった訳なんだけど。これも、同じ『転移者』でもユニークスキルがない人物もいるし、このユニークスキルが付与される条件はなんだろうかと、調べてはきたのだけど、未だにそれは謎だわね。多分、〝魂〟の強さに関係してるとは思うんだけどねぇ」

「ですね。何も能力(スキル)が無い人も実際いますから、考えてみたら何とも不思議ですね。でも確かに、持つ〝魂〟の強さに関係するのは間違いないですよ。後、色々条件もあるみたいだし――」

「ほんと? だったら――」

 

 いつの間にか、能力(スキル)付与の談議になってしまい。

 綾瀬が講義してるみたいになり、リムルが講義を聴く大学生みたいな感じで話が弾んでいった。

 

 リムルは、この世界に転生して来て、日本の食文化やファーストフード、日本以外の料理を再現したいと思い立ち、様々なモノを再現したと話す。

 後、流通機関の整備や、インフラの整備を行っている事も話した。

 

 それを聞いた綾瀬は、カレーパンを再現した経緯をリムルに説明した。

 自分がいた大学の近くに個人経営のパン屋があり、そこが学生に人気の店で、特にカレーパンが美味しかったと言った。

 

 そして、この世界に転移して来てルヴナンに保護され、自由な日々を生きていてふと、あの日本で食べていたカレーパンが無性に食べたくなり、二年かけてカレーを作る素材が無いか探した結果、ジュラの大森林の奥地で見つけたと、説明した。

 

 ただ、他の国などに広めるつもりはなく、このシャルフューズのみでしか作られていないと言った。

 リムルが何故かと聞くと、綾瀬は笑いながら、そこまで考えてはいなかったよと、答える。

 

 そして、シャルフューズでは下水とか生活に関わる最低限の事は助言して協力をしてきたが、異世界の技術は殆ど教えていないと言い、リムルはそれに驚く。

 (ただ)し、この世界の技術の研究はしているよと、綾瀬は付け加える

 

 リムルは自分のしたい事優先で、インフラ整備や、様々な異世界技術を現在進行形で進めていると、話す。

 

 そのもっともな例が、魔導列車であった。

 

 大学の教授であり、量子力学の研究者でもある綾瀬が、自分の持つ知識をひた隠しにする事の理由を聞くと、綾瀬は真剣な表情になり話始める。

 

「そうだねぇ。キミは、って失礼、陛下は東の帝国を知っているよね?」

「ああ、噂くらいは聞いているよ」

「あそこは、私達がいた世界の兵器を量産しているふしがあるの。わかっている事といえば、拳銃の存在ね」

「え!? 拳銃だと?」

「そう、あの拳銃よ。まあ、能力(スキル)でそれを創造する者もいるんだけど、って、これはまだ言っちゃっいけないんだったよ。陛下、忘れてくれる?」

「はい? あぁ、わかりました」

「うん、ありがとう。で、話を戻すけど。この世界で、私達がいた世界の兵器を再現すると、どうなると思う?」

「え? ああ、再現っていっても、俺達の世界の最強兵器核ミサイルを凌ぐ威力の魔法や技、能力(スキル)があるから、そう脅威にはならないんじゃないかな?」

「そうだね。半分当たりで半分外れだよ」

「半分?」

 

 リムルがそう聞き返すと、綾瀬は本棚に背を預け腕を組み、リムルをしっかりとした眼で見つめ言う。

 

「確かに最初はそうだろうね。でも、この世界にも独自に発展した魔導科学、精霊工学などがあるのはご存知のハズだよね?」

「うん、知っている」

「では、ここで問題です。私達の世界の科学と、この世界の魔導科学と精霊工学が結びついたとしたら、どんな兵器が生まれる事になると、思う?」

 

 そう問われたリムルは、何が出来るんだ? と、(しば)し頭をひねる。

 

(核撃魔法っていうモノがあったよな。レーザー兵器……これ再現できるわ。魔力を媒介に、魔法で焦点レンズの代わりを再現出来れば作れるか。現に魔力光線とか撃てるしな。核ミサイル……ウラン鉱石ってこの世界にあったっけ? 多分あるんだろうけど、魔法と組み合わせたら核兵器以上のモノが出来たりしてな。科学といえば、SFに出て来る架空の平気なんかも作れんじゃね? あ、そう言えば俺、ゴブタに鞘型電磁砲(ケースキャノン)作ってやってたわ……これ、真面目に考えたら、ヤバくね? 今は魔法や能力(スキル)に圧倒されているけども、これが長い年月で洗練された兵器に進化したら……)

 

 リムルは、綾瀬に問われた問題が将来的には最悪な方向に到る事に気付いた。

 

「今でも悲惨な戦争が、更に悲惨な戦争になるかも知れない……」

 

 無意識についた言葉が、リムルの心を揺さぶる。

 

 そしてその呟くような言葉を聞き、綾瀬が静かに返す。 

 

「その通りだね。ちょっと意地悪な質問だったわ。ごめんなさい。でも、陛下には、異世界の技術を広める事の危険性を、知っておいてもらいたかったんだよ」

「いや、気にしないでくれ、綾瀬さん。むしろ、無自覚に色々広めようとした事に、もっと注意しなくちゃいけなかったんだ。俺は……」

「でも、ううん、それで救われた者もいるんでしょ? 矛盾する言い方だけど、適度にコントロールしつつやるのも良いとは思う。特に、下水道とか街道整備などは、私も賛成だよ」

「そう言ってくれると、助かるよ。便利さイコール、全てが皆の幸せに繋がるとは限らないものな。そう言えば、ここも下水とか完備してたんだな。町を歩いていて気付いたよ」

「そう、私が助言したんだよ。建築関係の知識はほとんどないんだけどね、フフッ。トイレは陛下の国みたいに水洗ではないけれど、オガクズや木のチップを作って入れてる。使用済みは肥料に出来るし、焼却してもいいからね」

「へえー。山のトイレと一緒のやり方なんだ。でも綾瀬さんは、他に何か教えたりしたの?」

「後は、子供達に読み書きと、算術くらいかな。私のユニークスキルはね、『教導者(オシエミチビクモノ)』という名の通り、他者に教える事に特化した能力(スキル)なの」

「教えること?」

「そう。私の知る知識を基礎原理から応用まで、きちんと説明すれば、教えられた者は一回でその知識を理解出来るの」

「ほう。じゃあ、子供でも、大学で習う数学とかの方程式を理解出来ると?」

「うん、その通り。だから、もし、近代兵器などの技術理論を教えたなら、極端な言い方だけど。明日から兵器を、子供でも作れるようになるわ」

「ええ!? それって反則級じゃね?」

「そうだね、キミっ、じゃない、失敬失敬。陛下の言う通りだよ。戦う力はないけれど、戦う兵器を量産する者を一気に増やせる事が出来る、これが私のユニークスキルなの」

「ほんと、それ凄いユニークスキルだよ、綾瀬さん。これなら、建築知識を広めて、作業員や現場管理が出来る人材を――」

「ごめんなさい、陛下。私のユニークスキルは、広く使う気はないの。私は、このユニークスキルの恐ろしさに気付いてしまったから……」

 

 綾瀬はそう言うと目を伏せ、腕組をした両腕をギュッと抱きしめた。

 どこか悲し気な顔の綾瀬にリムルは、少しはしゃいだ事を後悔する。

 

「すまなかった、綾瀬さん。つい、凄いユニークスキルだったもので、これなら何年も勉強せずに知識を得られると思ってしまったんだ。実際、建築関係の事を教えるのは大変だったもので」

「陛下は、元サラリーマンと聞いたけど?」

「そう。大手ゼネコンで働いていたんだ」

「なるほど。それで、インフラ整備とか詳しかったんだね。本当に、気を悪くしたらごめんなさい」

「うん。まあ、綾瀬さんみたいに、自分の持つユニークスキルが恐ろしいって言った人初めてだったから、ちょっと戸惑っただけさ」

「私は、戦う力は一切ないの。ユニークスキル以外は、『思念伝達』が出来るとか、『魔力感知』とかあるくらいだし。運動は苦手だし、格闘とか(もっ)ての(ほか)。怖くて人なんか殴れない……。ツキハ様なんか、自衛の為に覚えろとか言うけど、無理無理無理! だから、気配を隠し偽る技だけ教えてもらった。今では、ツキハ様とコハク様に気付かれないくらいにはなったかな……」

 

 綾瀬は言いながら、(うれ)いた瞳で窓の外の景色を見る。

 

 その仕草を見たリムルは、(うっ、ちょっとドキッとしたわぁ。これが大人の女性の魅力、か? 何気に可愛いし、歳が二十代にしか見えねえもの……。これ、シオンがいたら、えらい事になったかも)と思い、一瞬小さく身震いをする。

 

「はあっ……。何か、変な方向に話が()れてしまったね」 

 

 短く息を一つ吐くと、苦笑いを浮かべ言う綾瀬。

 

 それにリムルは、そんな事はないよと返し、自分も窓の景色に視線を向けた。

 

 暫く無音の時間が過ぎ、そして、綾瀬が何か決心したように口を開いて来た。

 

「私は、ツキハ様とコハク様にだけは、異世界の技術を教えると契約したんだ。そのお陰で、ここで自由に生活出来るし、私の身も守ってくれてる」

「何を教えてるんです?」

 

 リムルは静かに問うてみる。

 

「そうだね。何年か前に、相手の防御結界を貫きたいと言ってきたんだツキハ様が。だから私は、モンロー/ノイマン効果の原理を教えたんだよ」

「それって、戦車の装甲を貫通する兵器の仕組みですよね?」

「そう。そうしたら、一度の説明でそれを理解して、一週間後には、貫通術式とそれを応用した技を編み出していたの。元々は戦国時代の人間で、異世界科学知識など全くないのに……。私のユニークスキルがそれを理解させたの、完璧にね」

「それで怖くなったんですね、綾瀬さん」

「うん。私はね、自分の持つ知識が異世界の人間にも完璧に理解させられると分かった時に、震えたの。もし、この知識をこの世界に広めたら何が起きるんだろうって、ね。魔導と異世界の科学の融合なんて、考えたら本当に怖いの。でも、私は教授と言うより研究者だもの。異世界科学と魔導の融合したモノを見たいと思うのも事実なの。矛盾してるよね、本当に……」

 

 哀しそうに視線を落とす綾瀬。

 

 リムルは何と声を掛けていいかわからず、あーとか、うーとか唸りながら固まっていた。

 

 しかしリムルは、思い切って自分の考えを綾瀬に伝える。

 

「あー、これはさ、俺の考えなんだけど、いいかな?」

 

 リムルの言葉に静かに(うなづ)く綾瀬。

 

「綾瀬さんの危惧してる事は、理解出来たよ。確かに、無秩序に異世界技術を広めたら、それを悪用する天才は出て来るだろうね。でも、俺のやりたい事には、異世界技術は不可欠なモノなんだ。だから、俺の広めた異世界技術には権利と特許を付けて、おいそれと利用出来なくするし、核心の技術には何重にも制限を掛けて、俺以外、もしくは俺の許可が無ければ利用出来ないようにするつもりだ」

「それって、私達がいた元世界の権利みたいなモノをつくるという事? 出来るのそんな事?」

「出来るさ。何たって、俺は魔王だからな! 綾瀬さんが困ったなら、微力ながら俺も手助けするよ!」

「本当に? 私が困った時は、助けてくれるの?」

「ああ、任せろ! ツキハとコハクに出来ないって事があったなら、俺に頼ってくれ!」

「あ、ありがとう……本当に、嬉しいよ……」

 

 そう言ったリムルは、綾瀬に向かってニヤリと笑って見せる。

 

 綾瀬はそのリムルの笑みに、どこか(いや)される感覚を感じ、金色の瞳を見詰め、下を向いたまま何かを微かに呟いた。

 

「ククッ。本当に君は、コハク様とツキハ様が言った通りの人だね。魔物に転生して、両方の心を持ってる変わり者のスライム君。フフッ」

「え!? アイツらそんな事を言ってたのかー!」

「コハク様もツキハ様も同じ魔物に転生した方だけど、あの人達の考え方は魔物そのものだもの。ただ、人間の思考も理解出来るから、傭兵商ルヴナンなんて商売が出来るんだと思う。それに陛下を、〝面白いヤツだ!〟と、大変気に入られていますよ。今回も、私が異世界技術の事でずっと悩んでいたから、一度陛下に会って話をしてみたらと、勧められていたの。私も陛下の事を聞いて、是非一度お話しをしたいと思っていたのですよ」

「そうなのか。アイツらがそんな事をねぇ、ほんと何考えてるかわからない二人だな。ハハハッ」

「確かにそうですよね。掴みどころが無いというか、掴ませないというか、変な猫です。ウフフ」

 

 二人して互いに本棚を背にして、笑い合う。 

 

 窓から差す日が、淡くリムルと綾瀬を照らし出し、穏やかな時間が過ぎていく。

 

(ああ、何か新鮮だ……。こう、なんていうか、この当たり前でいてお互いに立場を意識しない会話って、良いよなぁ~。俺の周りってさぁ、何かおっかない女性ばかりが寄って来るような気がするんだけど……? う~ん、たまにはこんな感じも許されても良いハズ! 四十五歳って、この世界では若者だ! 実際四十五歳には全然見えねえし。綾瀬さん、ファッションは地味目だけど、それが似合ってて可愛い! 眼鏡女性、ある意味最強?  百年、数百年、千年以上生きてるヤツらがゴロゴロしてるんだし、全然ありだよね!! うんうん、心のお洗濯が出来た感じだよ! 俺の大学時代の教授は、むさいオッサンばかりだったから、こんな教授がいてくれれば、もっと大学生活は楽しかっただろうな。ウクククッ)

《……》

(え? 智慧之王先生(ラファエル)、怒ってらっしゃる?)

《……》

(先生? おーい……。はい、ダンマリですね。すみませんでした)

 

 リムル、心の内で本音駄々洩れ全開である。

 それを察知した智慧之王が不機嫌オーラを放ち、リムルを慌てさせるも、いつものダンマリの智慧之王に、またですかというように言葉を濁すのだった。

 

 そして、綾瀬の前まで行くとリムルは――

 

「綾瀬さん。俺の方もさ、これから時々で良いから、異世界技術の事について相談に乗ってもらえるかな?」

 

 優しい笑みを浮かべながら、ふわりと言葉を投げかける。

 

「はい、私でよければ。私も、自分の持つ知識をどうやってこの世界で生かしていくか、真剣に考えてみたいと思います。それと、陛下。私の事は、アヤセでも、リュウコでも、お好きに呼んで下さい。敬称はいりませんよ。貴方は、ジュラ・テンペスト連邦国の盟主、魔王リムル陛下なのだから」

 

 リムルの言葉に綾瀬は微笑みながら返す。

 

 その微笑みにまたもドキッとしながら、少し照れくさそうに言う。

 

「え? あぁ、と、そうだね。じゃあさ、俺も教授と、呼んでいいかな? そして俺の事も、さんでも君でも、好きに呼ぶ事を許そう、ってか、そうして欲しいかな、なんて。ハハッ、ハハハッ、ハッハハ」

 

 人たらしには定評のあるリムルが、デレた瞬間である。

 ここに、シオンがいなかったのはリムルに取って幸いであった。

 

 いたら、間違いなく修羅場と化したのは間違いないだろう……。

 

「ええ。もちろん、構いませんよ、リムル君」

「それじゃあ、これからよろしくお願いします、教授」

 

 リムルがそう言いながら右手を差し出すと、教授はそっとその手を握り、握手を交わす。

 

(あ、柔らかい手だなぁ。それに、意外に小さい手?)

 

 またもそんな事を思っていると、不意に書庫の入り口に気配を感じ、グリッと首を動かし見るリムル。

 

 ニヤニヤとした顔が三つ、リムルと教授を見ていたのだ。

 

「お前ら、何時(いつ)からそこにいた?」

 

 少し怒ったような口調で言うリムル。

 

「ん? ちょっと前から? それより、教授に手を出したら怒るよ? リムル君」

「せやねぇ、なーんや、ええ雰囲気やおまへんか、二人とも? でも、手え出したら、あきまへんで? リムル君」

「なになに、リムルってば、教授に一目惚れしたワケ!? リムル君って、アッハッハハハー」

 

 言いたい放題の三人である。

 

「そんなんと、違うわ!」

 

 恥ずかしさのあまり、怒ったように言い返すリムル。

 

「それでそれで、教授。悩みは解消出来た?」

「え? 悩み、解消?」

 

 唐突に教授に聞いて来るツキハ。

 いきなり不穏な空気を感じ取るリムル。

 

 それに対して教授がにこやかに答える。

 

「そうだね。スッキリした感じかな」

「スッキリ?」

 

 リムルが、教授の発言に(いぶか)()に教授に問うも、教授はニコニコと話を続けていく。

 

「いやー、本当にツキハ様とコハク様が言った通りの人で良かったよ~」

「良かった?」

「でしょ? リムルは、こういう事に関しては出来る魔王なんだよ~」

「出来る?」

 

 さっきまでの雰囲気はどこへやら。

 リムルの疑問は、あえなくスルーされていく。

 

 そして教授はツキハと、楽しそうに会話を弾ませていったのだ。

 

「これでさ、悩むことなく研究と開発に専念出来るよ」

「そっかそっか。教授悩んでたもんねぇ。私の知識を他人が利用して大量虐殺でも起きたら、目覚めが悪くなるーって、マジに悩んでたもんね。ウヒヒヒ」

「はい!? えーとツキハさん、教授?」

「それ、本当にそれ。でもね、リムル君が異世界の技術を特許化して、権利なども発生させるんだって。それでね、おいそれとは悪用出来なくするんだってさ。魔王の理不尽力全開! 凄いよね~」

「えと……もしもし、教授?」

言質(げんち)取ったの?」

「言質、って? 教授? ツキハさん?」

「取れた取れた、大取れよ! 今度から色々と相談に乗って欲しいと言われたよぉ~。ウフッ。だから、私も、これから色々と相談させてもらうね、リムル君」

「え? あ、はい……こちらこそ……」

 

 嬉しそうに顔(ほころ)ばせる教授にツキハが、「やったじゃん」と言いながら、肩をポンポンと軽く叩く。

 

「悲惨な戦争がって、話は嘘だった?」

 

 呟くように言うリムルに教授が、すまなそうに答える。

 

「いや、あの話は私の本音だよ。嘘じゃない。それで、ずっと悩んでいたしね。でも、リムル君が何とかしてくれそうな事を言ってくれたから、私もようやく決心出来たんだよぉ」

「決心?」

 

 そこでまた、ん? と思うリムルであった。

 

 そして、教授の口は止まらない。

 

「うん、決心だ。異世界技術と魔導科学、精霊工学を融合した研究を本格的に始める、決心をね! 私の開発した研究成果はそちらにも流すから、その他諸々よろしくね、リムル君! あ、開発費用とかは、要相談だよー、よろしくぅ! さあ、やるぞーー!」

「はい……」

 

 一気に(まく)し立てた教授は、書庫の魔導書を数冊抱えると、第二研究室へ向かって行った。

 

 それを目が点になったリムルが、静かに見送る。

 

 そこへ、ラミリスがパタパタと飛んで来てリムルの肩に止まり、告げる。

 

「リムル。言い忘れていたけど」

「何を?」

「教授って、研究馬鹿だから、あれが本当の姿なのよさ」

「あれが?」

「うん。研究の事になると目が見えなくるワケ。それだけ」

「それだけ?」

「そうよ。それだけなのよさ」

「おい、ラミリス」

「なによ?」

「まさかとは思うが、マッドサイエンティストの部類とか言わないよ、な?」

「え? ぁあ、うん……気にしないでいいよリムル!」

「答えになってねーよ!」

 

 そう言うとラミリスは、リムルの右頬にポンと左手を当てる。

 

 完全にさっきまでの良い感じが吹き飛んだリムルは、呆然と教授の出ていった入り口を見ていた。

 

 はあーっと深い溜息を吐くリムルの前にコハクがやって来て、慰めの言葉を言う。

 

「リムル、ありがとな。もう何年も教授がそれに付いて悩んでたのは、ほんまなんやで。気分悪うしたなら、かんにんな」

「あ、いや、そのくらいで怒ったりはしないさ」

「さよか。良かったわぁ、リムルに合わせたのは間違いあらへんかったわ」

「え? 間違い?」

「うちらじゃ、教授の悩みを解決してやる事は無理やねん。そこへ、この世界に現れたのがあんさんやろ? 調べる内になんやけったいな魔物やなぁと、思ってんけど。あの一件であんさんの国に住む事になって、色々話す内にあんさんが、異世界技術に付いて、特許とか権利とか言ってたのを思い出して、ピンときたんや。一回、教授と話させてみたらどうやろか、とな。ツキハもそれに賛成してな、あんさんが急遽こっちに来ることになったんで、これはチャンスやと思ったんどす」

「へっ……チャンス、ですか?」

「せやねん。でな、どうやって教授と合わせるか考えてたら、ここがバレましたやろ? まあ、怪我の功名どすな。ウフッ」

「それ、教授も加担してる、の?」

「なに()うてますねん。このセッティングを画策したのは、うちやねん。教授にリムルの話をした時に、是非一度会って話をしたいと、お願いをされてたんや。だから、いい機会やと思って、二人っきりにしてあげたんやで。フフフッ」

「お前、家にいたの気付いていたのか?」

「いや、倉庫に着いていなかったから、もう一度気配を探ったんどす。そうしたら、家の方に微かな気配を見つけたんどすえ。それで、暫くうちらは倉庫の方で暇を潰していたという訳やねん」

「なんだ、そうだったのか」

「そうやで。だから教授が何を話すかまでは、予測が付かへんかったねん」

「まあ、同じ世界の日本人にまた会えるなんて思ってなかったからな。正直に、嬉しかったよ」

「そう言ってくれはるなら、会わせた甲斐があったと、()うもんやで。ほんま、ありがとな、教授の背を押してくれはって」

「いや、いいさそのくらい。ん? 背を押す?」

 

 コハクがニコニコとリムルに言った言葉に、何か引っ掛かるモノを感じたリムル。

 とりあえず、その引っ掛かった言葉に付いて、コハクに尋ねてみる。

 

「コハク?」

「なんどすか?」

「背を押すって、どういう意味なのかな?」

「決まってますやん。あんさんが教授に困った事があったら助けたると、言いましたやん。その事やねん」

「そうなんだけど、何でそれかなと?」

「ん? ああ、それな。教授の持つ知識はもの凄いやおまへんか。でも、アノ事は本当に気にしてたんや。せやけどな、無理にその知識を使わせるのは、うちらの主義に反するねん」

「主義? ああ、お前達は自由に生きろが信条だったな」

「せや。だから、自発的にその知識を使う気になってもらわなアカンねん。だって、あの知識を腐らせるのは、もったいないと思わへんか、リムル? でもな、大量破壊兵器が蔓延するのはうちらも望んではいまへん。人間や魔物が少なくなると、おまんま(ご飯)の食い上げやさかいな」

「え? まぁ、お前の理屈はわからんでもないけども……」

「せやから、あんさんがそのへんを制御してくれたら、無秩序にその技術は広まらへんと、思ったんや」

「はい?」

「とりあえず、もう教授はその気やから、後は頼むで、リムル」

「おい、ちょっと待ってくれるかな、コハクさん」

「あ、技術関連の契約はまた、向こうで纏めましょかぁ」

「ねえ、何で決定事項みたいになるんだよ?」

「え? ほな、直接教授に、やっぱりさっきの話は無かった事にと、()わはったらええんやないか?」

「あ、俺が、直接?」

「せやで。あんさん、()うたんやろ? 困ったら助ける、と。フフッ」

「う、ぐぬぬぬ……」

「ほんま、ありがとさん、リムル。感謝するでぇ」

「お前、最初からこれを狙っていたな?」

「さぁ、どうでっしゃろなぁ。ウフフフ」

「ど、どうして、こうなったんだ……? おい、コハクぅーーーーっ!!」

 

 クスクスと笑うコハクは、それじゃあ魔国に帰るでと言い、ツキハ、ラミリスと一緒に書庫を後にする。

 

 一人残されたリムルの声が、書庫に響き渡る。

 やはり、リムルの周りには、おっかない? 女性が寄って来るのだった……。

 

 隠し領地がバレた時にこの事を思い付いたコハク。

 そして、それにまんまと乗せられたリムル。

 

 

 しかし、これが後の大戦で、魔国の助けになるとは予想だにしなかったリムル。

 

 

 ジュラの大森林、東の平原国境向こうにある東の帝国――

 正式名、ナスカ・ナムリウム・ウルメリア東方連合統一帝国。

 

 この強大な軍事力を持つ東の帝国の脅威を、コハクとツキハは知っている。

 

 そして、東の帝国の軍事力の全貌は未だ、明かされていない……。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

リュウコ・アヤセ(綾瀬 流子)

 

※ユニークスキルを獲得しているが、戦闘能力はない。 

 魔法は知識として習得してるので一応使えるが、戦闘センスが皆無なので主に研究の時にしか使わない。

 

 基本、身の危険が迫りヤバイ時は逃げの一手である。

 この、逃げに徹した時は、ツキハやコハクが捜すのも苦労するくらいなので、ある意味、逃げの天才かも知れない。

 

身長・スリーサイズ:159.2・B80/W59/H79.5 

 

 

種族:人間

 

 

加護:悪戯(いたずら)猫の守り

 

称号:教授

 

魔法:元素魔法 精霊魔法

 

技術:天牙影千流・隠形術

 

エクストラスキル:魔力感知 思念伝達 思考加速 多重結界 量子演算 時空間操作 解析鑑定 空間転移 

 

ユニークスキル:教導者(オシエミチビクモノ)

        

 講義(自身が知る知識を、他者に完全に理解させることができ、それが一人でも百人でも効果は変わらない)

 

 自己学習(他者から教えられた技術や書物などを、一度でも読み聞きすれば、完璧に理解できる)

 

 瞬間記憶(一瞬で見たものを記憶でき、1度見ただけで細かい形状や文字、色や配置を理解する事ができる)

 

 

耐性: 物理攻撃無効 状態異常無効 精神攻撃無効 自然影響無効         

 

    聖魔攻撃耐性 痛覚無効 耐熱耐冷耐性

 

 

 





 この作品を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新もよろしくお願いします!

 これが今年最後の投稿になります。

 お正月明けの作品投稿は、少し遅くなるかも知れません。


 それでは、皆様良いお年を!


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