忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。137話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 教授(リュウコ・アヤセ)

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 ※〝打刀〟
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137話 年パスがいい!

 

 

 ラミリスの地下迷宮(ダンジョン)を創る為リムルは、街の南東区画の空き地、避難民である獣人達に開放している区画に闘技場を作る運びとなる。

 

 その地下にラミリスの地下迷宮が創られる事となった。

 

 それからリムルは多目的ホールである歌劇場を、高級保養施設が立ち並ぶ北西区画に建設を始める。

 迎賓館の並びに体育館や博物館なども、建造中だった。

 

 だがしかし、地下迷宮と歌劇場はいいが、闘技場が問題だった。

 

 そう、人手が足りなくなっていたのだ。 

 何せ、ゲルド達主力がミリムの領地になる獣王国跡地に立つ、ミリムの城の高層建造物に掛かり切りだったからだ。

 

 今の人員では開国際までに、ギリギリ間に合うかどうかのところ……。

 

「――結構厳しいですぜ、リムル様」

「あ、やっぱり?」

 

 これほどの建造物となると、年単位の日数がかかるのは当たり前。

 

 これを、二、三ヶ月で完成させるのは無茶ぶりもいいところである。

 

 いくら魔物が凄い力を持つといっても、かなり厳しいのだ。

 

「だよな……わかった、俺も手伝う。土を運んだり、鋼材の加工は俺がするよ」

 

(まあ、俺も元はゼネコン勤務。実作業はあまり得意じゃなかったけど、見よう見真似でも素人よりはマシだろう。俺には智慧之王(ラファエル)先生もついてるし、何とかなるだろうよ)

 

 リムルがそう考えていると――

 

「リムル、アタシも手伝うさ!」

「ならば、当然ワレも手伝いましょう」

「ええ。ラミリス様の仰せとあらば」

 

 そこでラミリス達も建設の協力を申し出て来た。

 

 更に。

 

「ねえ、リムル。(ひま)猫ども呼ぼうか? どうせルヴナン支店にいる(眷属)達は暇してるだろうし」

「え? いいのか?」

「うん。全然構わないよ」

「でも、現金報酬とか出せないけど?」

「いいっていいって、あの子達の報酬は、あたしの財布から出すからさ。その代わり、建設中の間だけお昼と晩御飯だけは、アンタの配下専用食堂で好きなメニューを食べさせてやってよ」

「いいのか、それだけで?」

「うん、多分飛び付くと思うよ。あの食堂のメニューは、どれもめちゃ美味しいからね」

「わかった。それでいいぞ」

「じゃあ、ちょっと待っててね」

 

 そう言うとツキハは、早速『思念伝達』で眷属達に呼びかける。

 

『おーい、(ひま)猫ども~。臨時のお役目(仕事)やらないかぁ? リムルがね、闘技場造るのに人手が欲しいんだってさ』

『あ? めんどくさい』

『えー。寒いし嫌よ』

『しらん』

『キャットタワーの小屋でヌクヌク中だから、無理』

『いやです。やっとお休暇中なのにぃ。春までいやですー。ホッドッグ強奪未遂犯の言う事なんか知らないです~』

(あるじ)が、やればいいんでないかい?』

『雪が降る中やれってか!? アホか?』

『アンタらなぁ。ちょっと自由すぎやしないか?』

『『『『『主が望んだ事ではないですか?』』』』』

『う……。ぐぬぬぬ』

 

 と、眷属達は中々に言いたい放題である。

 そして、日頃眷属達に言ってる事を言い返され、何も言い返せなくなるツキハだった。

 

(にゃろー。アイツら言いたい放題言いやがってぇ。どうしてくれようか……。フッ、うんうん、気まぐれな猫らしくていいじゃん。猫は自由! フフッ。よし、リムルの御褒美の出番だな。ってか、ロモコのヤツいつまで根に持ってんだよ!)

 

『あ、そう。ならいいよ。リムルがさ、闘技場建設中の間あの食堂で、お昼と晩御飯ご馳走してくれるって言ってたんだけど。ふーん、いらないんだ――』

『『『『『な!?』』』』』

『やりますー。ロモコやりますー!』

『やる。私もやるよー』

『俺も暇だから、やる!』

『やるぞ!』

『はいはいはいはい、やります!』

『あ、それと。臨時報酬として、あたしから一人に付き、金貨十枚出すからね』

『『『『『にゃほーーいっ!』』』』』

『じゃあ、今から現地集合ね』

 

 ツキハは『思念伝達』を終え、リムルにニカッと笑いかける。

 

「リムル、あの(眷属)達来るってさ」

「お! すまないな、助かるよツキハ」

「気にしないでいいって。それより、あの子達のご飯よろしくね」

「おう、任せとけ」

 

 すると、あっという間に百数十人の眷属がリムルの前に集合した。

 リムルは『胃袋』の中で、闘技場建設中の間だけの期間限定、臨時フリーパス食券を作り、眷属達に配っていった。

 

 フリーパス食券を配り終わったリムルはツキハに、眷属達にいくら報酬払うんだと聞き、ツキハは一人金貨十枚と答えると「え!? 金貨十枚って、全部で金貨千枚を超すじゃん」と驚くも、ツキハは「ん、余裕」と答え、「ええ? 余裕って、お前……」と、リムルの目が点になったのは言うまでもない。

 

  

 そして、リムルはテントが立ち並ぶ現地にて、『胃袋』で智慧之王(ラファエル)に作成してもらった図面を広げ、それをゴブキュウに渡す。 

 

 次に獣人族達に説明会を開き、アルビスとスフィアの協力のお陰で、ラミリスの地下迷宮に移動する準備が整った。

 

 ()ず先に、仮の入口の扉になる石板を、これもやはり『胃袋』内で作り上げ、ゴブキュウの急遽作った仮台に設置する。

 

 ラミリスが石板に手を触れたら、地下迷宮一層だけが創り始められていく……。

 

 ……

 

 一時間が経ち、とりあえずの地下迷宮一層が完成すると、スフィアの号令一下、テントの中から獣人達が出て来て整列をする。

 

 それを確認したラミリスが、テントと生活用品などを自分の迷宮内に転移させた。

 

 あっという間に更地の完成である。

 

 そこへリムルが、『暴食之王(ベルゼビュート)』で真四角に地面を喰らい、『胃袋』で作った鉄骨を組み上げた。

 

 更に、リムルが『胃袋』で加工した石材をゴブキュウ達が手早く並べて壁を作っていく。

 こうして重厚な質感の地下空間が完成したのだ。

 正面に大きな扉が創られ、そこが正式な迷宮内へ至る入口となる。

 

「す、凄いわ。これがアタシの城に……。そうそう、この扉に触ったら、さっきのテントを並べた階層に出るようにしてあるよ!」

 

 そんなラミリスの言葉に、リムルと獣人達全員が地下迷宮へと入っていく。

 

 そこは、獣人達の生活空間がそのまま広がっていた。

 空調は整いほんのり暖かく、外より快適であった。

 

 アルビスとスフィアが驚きの声を上げる。

 

「これ、テントいらないんじゃないかしら?」

「だよな。雪も降らないみたいだし、俺達なら地面の上で寝てもいいくらいだぜ……」

 

 獣人達は皆、不思議そうに出たり入ったりしていた。

 

 リムルはラミリスに、この階層は農作業をしてるわけではないから、昼と夜だけをリンクするように頼んだ。

 

 この快適な空間に獣人達は安心したのか、闘技場建設の手伝いに外に出て行き始めた。

 技術指導を受けていた獣人達に加え、女子供まで工事に参加していた。

 女子供とはいえ、人より強い獣人なので、現場監督のゴブキュウは簡単な仕事を割り振り任せていく。

 

 眷属達は、リムルが作った鉄骨を抱えゴブキュウの指示の下、先程の地下空間の上に鉄骨を組み上げていき、石材で壁を作っていった。

 

 皆がゴブキュウの指示の下働く様を見ながら、リムルがラミリスに尋ねる。

 

「なあ、ラミリス。シャルフューズはどうやって移転させるんだ?」

「ルヴナン支店の敷地の地下に入り口だけ作って、そこを新しい出入口にするだけだよ。移転というより、入口の移設ってワケ」

「ああ、なるほどね。亜空間内に迷宮はあるものな」

「そういう事よ。ルヴナン支店の入口が出来れば、その真下が迷宮領地になる感じよ。ジュラの大森林にある入口は、封鎖するなりどうとでも出来るワケ」

 

 そう言うとラミリスは、コハクに今からルヴナン支店敷地に入口を作る? と聞き。

 

「せやね。ほな、ちゃっちゃとすませましょ。もう扉にする入口は、敷地内の倉庫に作ってるさかい」

 

 と、コハクは言い。ラミリスと二人でルヴナン支店へと向かって行った。

 

 倉庫に着いたラミリスは、コハクから倉庫奥の大きな扉を入口にしてくれと言われた。

 ラミリスがその扉に手を触れ、数十秒が経つと扉から手を離し、設定が終わった事を告げる。

 

「終わったわよ、コハク」

「ありがとさん、ラミリス」

「大森林奥の入口はどうする?」

「せやねぇ、とりあえず封印しておいてもらえますか、ラミリス」

「ちょっと待ってね……。よし、いいわよコハク。封印解除はいつでも出来るよ。あ、そうだ。アタシの迷宮にも行けるようにしようか?」

「うーん……。それは、あんさんの迷宮が完成してから考えましょか」

「そうね、わかったわ」

 

 ラミリスはコハクにまた闘技場建設現場まで送ってもらい、コハクはシャルフューズに新しい入口が出来た事を知らせに行くとその場を後にした。

 

 帰って来たラミリスが、リムルに階層はどこまで創るかと聞いてきた。

 

「じゃあ、限界の百層まで頼むよ」

「えっ、マジで!? そんなに必要なの?」

「ああ、そうだ。階層ごとに色々な仕掛けを仕込みたいからな。それに、魔物の強さも調節しないといけないだろう?」

「あ、うん。それはそうなんだけど、ちょっと聞いていい?」

「何だ?」

「さっきから気になっていたんだけど、どうやって魔物を増やすつもりなのよさ? ツキハ達みたいに、どっかから捕まえてくるワケ?」

「実はな、ここだけの話だが……」

「え? なになに?」

 

 リムルは、まだ伝えていない自分が考えた地下迷宮(ダンジョン)構想があると、話していく。

 

 こうしてリムルはラミリスと、面白そうな話か? と寄って来たツキハに、内密に説明する。

 

「ほほう。それなら、あたしも手伝えるぞ。こんなのはどう?――」

「じゃあさ、じゃあさ、こうやれば――」

「ほうほう、するとだよラミリスちゃん、ツキハちゃん――」

 

 ヒソヒソと内緒話をするように、お互いに知恵を出し合うリムル達。

 

 リムルとラミリス、更にツキハが加わり、ノリノリで相談する。

 そうなれば、当然のように行ってならない方向に向かって突き進んでいき。

 

 …………

 

 ……

 

 やがて、考えられない機能を有した進化型地下迷宮(アドバンスダンジョン)が出来上がってしまった。

 

 リムルは冷静になった後、大丈夫か、コレ? と、内心思ったが、時すでに遅し。

 もう、後には退けないのであった。

 

 ラミリスはやる気に燃え、全力で迷宮創造を頑張るとリムルに言い、ツキハは何やらあれこれと考え始める。

 

「ラミリス、ゆっくり休みながらでいいからな?」

 

 リムルがラミリスを気遣って言うと――

 

「ハンッ! こんな凄い話を聞いた今、ゆっくり休んでなんかいられないわよ! アタシはやるよ。やってやるのよさ!!」

 

 気遣ったつもりが、余計にラミリスのやる気を燃え上がらせてしまった。

 

 リムルは、ラミリスとツキハがダンジョンの浪漫を理解してくれたのが嬉しく、自分の中で膨らむ空想が実現に向かって進み始めたのに胸を躍らせる。

 

「じゃあ頑張ってくれよラミリス。俺は俺で必要なものを揃えておくから」

「あたしも、色々と用事を済ませてくるよ。頑張ってねラミリス」

「わかったわ。頑張ってね、リムル! ツキハ!」

 

 同士となったリムル達は互いに声を掛け合うと、ニンマリとした笑顔を浮かべ合ったのだった。

 

 

 リムルが話を終えて地下迷宮を出ると、既に日が沈みかけ辺りに薄暗い影を落としていた。

 

 現場の方も今日の作業は終わり、片付けと炊き出しの準備が始まり、眷属達は臨時パスを握りしめ一目散に食堂目掛けて次々と『空間転移』で向かっていった。

 

 リムルはゴブキュウやスフィア達に、明日また顔を出すと声をかけ、その場を後にして、その足でリムルはクロベエの工房へと向かう。

 

 街の南西区画は、工業地区となっている。

 

 クロベエの工房もここにあり、その周辺には弟子達の工房も立ち並んでいた。

 そこから少し離れた所に、まだ自分の工房を持てない見習い達の寮があり、倉庫などが立ち並ぶ。

 

 そこは、そんな職人や見習い達を相手にした宿屋や食堂に、軽く飲める酒場などが開いており、それなりの活気に満ち溢れていた。

 

 この中心にクロベエの工房があるのだ。

 

 リムルが工房の扉をトントンと叩き顔を見せると、クロベエが嬉しそうに工房から出て来て出迎える。 

 もう日が落ちてしまったのでとクロベエがリムルに言って、リムルはクロベエに夕餉(ゆうげ)をご馳走になった。

 

 二人して食べ終えると、食後のお茶で一服しながらリムルは今日来た用件をクロベエに告げる。

 そして、工房にある倉庫に向かったリムルが見たものは――

 

「リムル様、こっちだで。この倉庫に仕舞っている品々は癖が強いだで、誰でも簡単には扱えねえです。それでも構わないだべか?」

「構わないさ、クロベエ」

 

 心配そうに聞いて来るクロベエにリムルは、大丈夫だと頷いて見せた。

 

 リムルは倉庫に置いてある武具を一つ一つ手に取って、『解析鑑定』をしていく。

 

(ふむ……単純に威力が高過ぎてお蔵入りさせたものが結構あるな。お? これは……確かに熟練者じゃないと、取り扱いが難しいか)

 

 リムルは胸部だけを覆うプレートアーマーを一つ手に取る。

 

(……着用者の魔力を吸って、魔法障壁を展開する胸当てかぁ。って、これ、着用者の魔力を制限なく吸ってしまうじゃん。こりゃ危険だわ。まあ、確かに癖が強すぎるというか、危なくて使えないよなぁ。うーむ……)

 

 他にも魔法の発動が一切出来なくなる程に周囲の魔素を吸い込み、凄まじい爆発力に変え、制限なく使用者もろとも巻き込む剣。

 

 時間制限で尋常ならざる体力を装着者に与える鎧。

 俗に言うバーサーカーアーマーみたいなもので、時間が過ぎたら全身の筋肉が断裂して動けなくなり、回復薬や回復魔法を前提とした鎧で、流石に凶悪過ぎてアウトである。

 

(あれだな、油断すると死ぬような装備もあるので、未鑑定で使う馬鹿はいないと信じたい……、まあ、ラミリスの迷宮内での宝にするから、大丈夫だろう。そうか、これにリミッターでも付けたら、安全に使えるようにならないかな? でも、そんな事出来る者……は、いた! 教授なら何か良い対策案を見つけれるかも?)

 

「うん、大丈夫だよ。これだけ特徴的だと、凄い価値がありそうに見えるよ」

 

 そう、リムルが言う通り、大半が希少(レア)級以上の価値があり、中には特質級(ユニーク)に匹敵しそうな凄い武具も混ざっていたのだ。

 

「これだけ質の良い武具を、試作品だからと眠らせておくのは勿体(もったい)ないよ。この武具達もさ、きちんと扱ってくれる所有者を待っているんじゃないかな? それに、この癖が強い武具の制御法も当てがある」

 

 そう言ったリムルの発言に、クロベエはとても喜び照れくさそうに頭を掻く。

 

「そうだべか? 好きなだけお持ち下され。それで制御法とは、何だべかリムル様?」

「うん、ちょっと待ってくれ」

 

 そう言ったリムルは『思念伝達』でツキハに事の事情を説明して、教授に連絡は取れるかと尋ねる。 

 すると、ツキハが教授に『思念伝達』を飛ばし、()ぐに返答が返って来た。

 

『連絡取れたよぉ』

『お、すまんなツキハ』

『すぐにそっちに行くからだって。空間座標教えていい?』

『うん、構わないぞ』

『ほーい。じぁあまたねーリムル』

『お、ありがとなツキハ』

 

 そこで『思念伝達』を終えたリムル。

 

 その数分後、倉庫の扉をノックする音がした。

 

 トントン。

 

 リムルが扉まで行き、カチャリと開ける。

 

「こんばんは、リムル君。強すぎる武具の制御法だって? ん? ども、こんばんは」 

 

 挨拶をしながら入って来た教授が、クロベエを見て軽く頭を下げる。

 

「あ、紹介が遅れたな。こっちは、俺の配下で魔国一の鍛冶職人、クロベエだ。クロベエ、こちらはルヴナン所属の教授こと、リュウコ・アヤセさんだ」

「お初にお目にかかるだ。オラはクロベエと申しますだ。宜しく頼むだよ」

「宜しお願いしますね、クロベエさん。私の事は教授でもアヤセでも好きに呼んでくれて構わないよ」

「そうだべか。なら、教授と呼ばせてもらうだよ」

 

 軽く握手を交わしながら、二人の自己紹介と挨拶が終わる。

 

 そして、教授が本題を切り出す。

 

「でさ、リムル君。どの武具なのかな?」

「ここにある武具さ。見てくれるか、教授」

「よし、見てみよう」

 

 リムルが選び出し並べていた武具を、『解析鑑定』をかけながら見る教授。

 

 すると、あの魔法障壁を発生させる胸当てのプレートアーマーを身に着ける。

 

「え? おいおい、大丈夫なのか教授?」

「大丈夫大丈夫。無茶はしないよ……」

 

 リムルとクロベエが心配する中、教授は何事かをブツブツ言い始めていた。

 

 ――魔力過剰吸引……数値は……うーん、これ死ぬな、装着者……。

   これは……駄目ね、根こそぎ魔力を持っていかれるわね……。

 

 ある程度検証したら胸当てを外し、次はあの魔素を爆発力に変換する剣の刀身に触れる。

 

 ――ほほう、これは……周囲の魔素を取り込み、ってか、これも際限なく魔素を吸収、か……。

   ふーん、剣を振ればそれが爆発力となり、斬った相手に爆発力を乗せた斬撃をお見舞いするのかしら……あらあら、これ所有者もろともの自爆剣じゃない。フフッ、ツキハ様とサンコちゃんが喜びそうな剣ね。

 

 教授は、ある程度検証すると次の武具へと変え、時折、ほおぉとか、ふむとか、一人頷き呟きながら武具を触ったり、身に着けたりしていった。

 

 そして、全部の検証が終わると、リムルとクロベエに尋ねてきた。

 

「大体はわかったから、ちょっと試してみたい事あるんだけど、いいかな?」

「え? もう対策考えついたのか? 早いな。いいぞ、試してくれ」

「構わないだよ、教授」

 

 二人の許可を得た教授は、先程の胸当ての胸側だけを取り外し、ひっくり返した。

 そこで、スカートのポケットから細長い木のケースを取り出し、中から先の尖った金属ペンを取り出す。

 

 そして、胸当てを倉庫内にある台に乗せ、胸当ての裏側にカリカリと何かの術式を刻んでいく。

 

 その行為を後ろから覗き込むリムルとクロベエ。

 

(へえ~。何かの魔法術式なのかな……え? この術式って、俺が元いた世界のコンピュータープログラミング言語に似てないか?)

 

 リムルが見た魔法術式は、教授が考案した、異世界のコンピュータープログラミング言語と、こちらの魔法術式を組み合わせたハイブリッド魔法術式だった。

 

 これは、魔力数値を感知し、過剰吸引しないように制御して尚且(なおか)つ、装着者の魔力減少が一定レベルに達すると、魔力吸収を止める制御術式だったのだ。

 おまけに、少ない魔力でもかなり強力な魔法障壁が展開される性能に引き上げられていた。

 

 術式を書き終わった教授が、コンコンと胸当てをペン尻で軽く叩くと、びっしりと書かれた術式がポワッと一瞬輝き、消えていた。

 

「これでいいかな」

 

 小さく呟きながらまた胸当てを身に着けていく教授。

 

「……よし。出来たよ、リムル君」

 

 教授は、そう言って胸当てをリムルに差し出す。

 

 受け取ったリムルは、早速『解析鑑定』で胸当てを見て見た。

 

「……え? 完璧に魔力吸収が制御されてるし、性能が一割増しとか凄いな。それに、安全装置みたいな術式もあるみたいだし、パーフェクトだよ教授!」

「本当に凄いだよ教授。この胸当ての魔力吸収率が完璧に制御されてるだよ」

 

 胸当てプレートアーマーの性能が少し上がっただけではなく、安全面も考慮した制御術式にリムルとクロベエは感嘆の声を上げる。

 

「それじゃあ、残りの武具はツキハ様の工房に運んでおいてよ。刻印式の制御術式をすぐに作るから。いいかな?」

「わかった、後から運んでおくよ。それと報酬だけど――」

「年パス」

 

 リムルの報酬という言葉に、教授は迷わずに年パスと答えた。

 

「ね、年パス?」

 

 いきなり年パスと言われ、意味がわからず戸惑うリムル。

 

「そう、君の所の配下用食堂の年パスよ! ツキハ様やコハク様がそこのご飯めちゃ美味しいと言ってたしぃ。眷属達もさ、魔国(テンペスト)のご飯美味しいと言うんだもん。それ、私も食べたい! だから、食堂のご飯を無料で食べれる、年パスが欲しい!」

 

 目をキラキラと輝かせながら力説する教授は、両手を握りしめリムルににじり寄っていく。

 

 その迫力にタジタジになるリムル。

 

「え、えっと、本当にそれでいいのかな?」

「いいよ! 朝昼晩どれでも好きなメニューが食べれて、お代わり自由の年パス! が欲しい!」

「あ、うん。じゃあさ、今年ももう終わりだから、新年から使えるでいいかな?」

「うん、いいよ。やったね!」

 

 リムルは急ぎ『胃袋』で、教授専用の食堂年パスを作り手渡した。

 

 それを受け取った教授は、両手で年パスを頭上に(かか)げると、とても満足そうな笑顔で「年パス、ゲットォーッ!」と、叫んでいた

 

 そして、用は終わったとばかりに――

 

「じゃあ、私はいくね。せっかく来たから、夜の街を楽しんで来るよ」 

「え? 夜の一人歩きは――」

「大丈夫だよー。私に何かあったら眷属達が飛んでくるからね。またねーリムル君、クロベエさん」

 

 ぶんぶんと手を振り、軽やかな足取りで夜の街へと消えてゆく教授であった。

 

 それを見送ったリムルとクロベエ。

 

 リムルは選び並べた武具を、ツキハの工房に運ぶ為『胃袋』に仕舞っていると、クロベエが何かを思い出したように、奥の座敷へと行った。

 

 そして、とある品を抱えて戻って来た。

 

「これは?」

「リムル様。お待たせしておりましたが、ついに完成しただよ」

 

 クロベエがそう言いながら、一振りの漆黒の刀身を持ち、リムルの為だけに(あつら)えた直刀型の打刀。

 

「これが――」

「へい。オラの最高傑作だで、リムル様」

 

 刀身は黒いだけで、一見すると何の変哲もない。

 凄まじい力を放っているでもなく、強力な魔法の発動体になっている訳ではない。

 

 だがしかし、リムルは、これだ! というように満足気に漆黒の刀身を眺めていた。

 

 クロベエ――

 

 リムルの〝魔王への進化(ハーベストフェスティバル)〟の際、祝福(ギフト)としてユニークスキル『神職人』を獲得し、その鍛冶職人としての腕に、更に磨きをかけていた。

 

 この『神職人』により、クロベエの作る武器は最低でも希少級(レア)、最高で特質級(ユニーク)に達するが、ツキハの〝妖刀時雨〟を解析した為に、今では作る武器が伝説級(レジェンド)に到ろうとしていた。恐らく、そう遠くない内に、伝説級(レジェンド)の武器が作れるだろう。

 

 

 そしてこの打刀は、強度に重点を置いていた。

 

 クロベエは、刀身の外側を覆い刃の部分を形作(かたちづく)る〝皮魔鋼(かわまがね)〟と、刀身の芯になる〝心魔鋼(しんまがね)〟を別々に鍛えて、のちに組み合わせて一体化させることで、折れにくさと曲がりにくさを両立させていたのだ。

 

 この工法は、古くからオーガの里に伝わっていた刀の製作法であり、一節では、この里に朧流を伝授した荒木白夜が、刀の製作法をもたらしたのではないかと言われているが、真相は謎である。

 

 これにより、〝折れず、曲がらず、よく切れる〟という打刀が完成し、そしてリムルの魔力に馴染むように調整され、リムルにしか扱えないシロモノとなったのだった。

 

「見事、見事だよクロベエ!」 

「オラも満足する手応えがあっただよ。だども、それで完成っちゅう訳ではないだ。前も説明しただが、リムル様の発案通りに、刀身の根元に(あな)を空けられるようになってるだよ」

 

 クロベエに言われたリムルは、刀の根元を見た。

 

「ん……孔なんてないぞ?」

「へい。他の武器は完成時に孔が空くんだども、この直刀だけは別なんだべ。リムル様の魔力に馴染む事で、より成長――進化するだよ。これは、ツキハ様の〝妖刀時雨〟と同じ性質を持たせただ」

「ほほう。凄いなクロベエ」

「へへっ。だども、同じと言っても、今のところは模倣だべ。あの〝妖刀時雨〟は今でも、少しづつ、少しづつ、成長して進化の道を歩んでいるだよ。本当にあれは、恐ろしい妖刀だべ」

 

 そう言ったクロベエは、〝妖刀時雨〟の事を思い浮かべながら、真剣な表情を見せる。

 

(その〝妖刀時雨〟を、そこまで解析できるなんてクロベエだけなんだけどな。ツキハやコハク、そして俺以外に触れる事を許された、唯一の鍛冶職人。本当にお前は、凄いよ……)

 

 クロベエの鍛冶職人としての腕に、今一度、信頼を寄せるリムルであった。

 

「リムル様。これは、〝妖刀時雨〟みたいに、一見すると普通の武器にしか見えないように仕上げただよ」

 

 クロベエは、真剣な表情から一変、口元に笑みを浮かべながら誇らしげに言った。

 

 この刀は完成すれば、伝説級(レジェンド)以上の性能となると、クロベエは言う。

 そう、この直刀の孔に嵌める魔力結晶が完成したその日には……。

 

 リムルはその時を楽しみに待つ事にしたのだった。

 

 因みに、〝妖刀時雨〟の魔力結晶となる部分は、刀身にある刃紋の上の鎬地(しのぎじ)という部分に、古代語で彫り込まれた文字列がツキハの魔力と妖気(オーラ)を蓄積していて、普段は見えないが、ツキハが全力で時雨を振るう時に浮かび上がると、クロベエの談であった。

 

 

 こうしてリムルは目当ての品と、自分専用の刀も手に入れ、嬉しそうな気分を全身に表しながらクロベエの工房を後にした。

 

 リムルは夜の工業地区を歩きながら、思案を巡らせ始める。

 

(よしよし。これらの品々を宝箱に入れて地下迷宮(ダンジョン)に配置するとしよう。

 確かに、この試作品や未完成品をオークションにかけてもかなりのお金になるだろうな。

 でも、教授のお陰で試作品や未完成品が完成品に近い形として使えるのは、嬉しい誤算だった。

 

 冒険者が地下迷宮(ダンジョン)に潜り、様々なアイテムを得て帰還する。

 鑑定を行わずに武具を使うと危険なのは変わらない。

 

 そうだ、〝鑑定屋〟を地下迷宮内か出口付近に用意するのも有りだな。

 中には危険なモノがあるのは、さっき見た通りだし、いくら制御術式があるとはいえ、癖の強い武具には変わりないからな。

 

 そうだな、その地下迷宮(ダンジョン)内で手に入れた武具を、買い取ってもいいかもね。

 武具の買い取り屋とういうのはどうだろう?

 

 冒険者の手に余る武具を買い取り、そのお金で適正な武具を揃えてもらう……。

 うん、これいいかもな。

 

 俺のいた日本であった、リサイクルショップ。

 

 お金は回してナンボだ。俺達だけが貯め込んでも経済は回らない。

 

 リサイクルショップに、新品の武具を売る店も地下迷宮(ダンジョン)に作るか。

 宝箱から得たアイテムを売るも良し、自分で使うも良し、売って新たな武具を揃えるも良し。

 これでいこう。そうすれば冒険者も潤うし、宿屋や飯屋を経営する住民達も潤う。

 

 これが冒険者の口から広まれば、我が国も有名になるに違いない。

 

 この、普段から人を呼ぶ事が大切なんだよな。

 

 南東地区には闘技場、その地下にはラミリスの地下迷宮(ダンジョン)

 南西地区には割安の宿屋や宿泊施設の用意が整いつつある。

 

 しかし、何かリアルでダンジョンツクールをしてるみたいで、ワクワク感が止まらないな、クククッ。

 

 後、高級旅館が立ち並ぶ北東地区と違って、ここの宿屋はお手頃価格。

 冒険者専用にする事で、住み分けには丁度良いだろう。

 

 地下迷宮(ダンジョン)に向かうのにも利便性がいいし、きっと大繁盛間違いなしだね。

 

 ラミリスが引越ししたいと言い出した時には、どうしたものかと思ったけど、ツキハ達の迷宮領地を見てこの事を思い付いたのだけども、これで正解だったな。

 

 闘技場では年に一度か二度は、大規模なイベント行う予定だし、ミョルマイルが、普段も様々な行事に使えるよう知恵を出して頑張ってくれている。

 

 それに、あの地下迷宮(ダンジョン)では、訓練の成果を試すべく、実戦形式で確かめられる。

 いや、迷宮内では死なないから。かなり無茶な訓練が出来るな。

 

 うんうん、商業目的だけではなく、軍事目的や多目的な用途に使えるかも?

 

 一度、ベニマルとコハクに相談してみるかな……)

 

 と、様々な事を考えつつリムルは、ふと足を止め夜空を見上げる。

 

 暫くして……。

 

 ニヤリと笑みを浮かべてると、これから来る魔国連邦(テンペスト)の未来に胸を(おど)らせながら開国祭の成功を信じて、夜のしじまに歩を踏み出して行った。

 

 

 

 

 





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