忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
リムルは工業地区からルヴナン支店へと移動して、
戻りながら
だがしかし、早急に片付けないといけない案件があった。
この
それは、ヴェルドラであった。
ヴェルドラは、離れにある小屋で寛いでいた。
ここは、
その茶室の主であるかのように馴染んでいるヴェルドラであった。
で、当然のようにツキハが入り浸っていたのだ。
先ほどリムルが、『思念伝達』でツキハの工房に
茶室で二人して、ツキハが持参したポテチを食べながら漫画を読んでいた。
そして、ツーンとスパイスの香りが漂って来て、リムルはスンスンと鼻を鳴らし匂いを嗅いでみる。
(あ、やっぱりいたか。それに、あの大きな葉の包みは、カレーパンを貰ったなヴェルドラのヤツ。アレ、多分次からねだってくるぞ。まあ、いいけど……アレはツキハが喜んで持って来るだろう。しかしあれだ、カレーパンのレシピと権利を、先にコハクが主張してきたからなぁ。抜け目がないというか、ホントに、クククッ)
予想通りにいたツキハと、思い切りツキハにカレーパンを貢がれてるヴェルドラ。
(こっちに気付いているハズなのに、一心不乱に漫画を読みなさっている二人。うぬー)
とりあえずリムルは、ヴェルドラに用件を切り出す。
「おい、ヴェルドラ。ちょっと頼みがあるんだけど、いいか?」
「む? 何だ、我は忙しいのだが?」
「ヴェルドラ、漫画読んでるだけじゃん」
「黙るのだ、ツキハよ」
「あい」
(うん。ツキハのツッコミ通り、漫画読んでるだけだよね。ってか、どう見ても暇してるだろ? 二人とも)
「そうか……残念だ。せっかく面白い話だったんだけど……。忙しいのなら仕方ない、か。せっかくお前が
リムルはそう言って立ち去るフリをする。
チラリと寝転がって漫画を見るツキハを見てみると、猫耳だけがリムルの方に向いていた。
(よし。ツキハは俺の意図を知っているから、察したな)
「おっと、待つが良い。我も忙しいのだが、貴様の頼みなら仕方ない。話を聞こうではないか! と、その前に。また、我を言いくるめようなどと、思ってはないだろうな?」
「うん、それはない」
「よかろう!」
(釣れたか。チョロイな、チョロゴンさんと、言いたいが――ツキハが暇さえあればヴェルドラと一緒にいるから、何かこういう時に変な知恵を働かせるようになったよな、ヴェルドラのヤツ。ツキハさん、あまり変な事を教えないで頂きたい。ってか、貴女、漫画読むフリして笑ってるよな?)
漫画を見ながらクスクス笑うツキハは置いといて、リムルはヴェルドラに頼みごとの続きを、勿体ぶりつつ、思わせ混じりに話していく。
「実はな、お前の為の
ツキハの猫耳がピクピクと動き、尻尾がピンと真上に立つ。
「な、何だとっ!? 我の
思い切り喰い付き、読んでいる漫画から目を離すヴェルドラ。
漫画本で顔を隠し、ニヤリとするツキハ。
「そう、君の為に、ね。でも、忙しいんだろう?――」
「待て待て、そう慌てるでない。我とお前の仲ではないか。なあ、ツキハもそう思うであろう?」
「うん、友達は大事」
「うむうむ。リムルよ、お前の頼みならば優先するのは当然というものだぞ。クアーーハッハッハ!」
(これで良し。聞く態勢になったから、もう話しても大丈夫だろう。ヴェルドラって基本、人の話を聞かないからな。でも、ツキハとかコハクの言う事は、結構聞くんだよなぁ。あれかね、付き合いの長さってヤツか? まあ、五千年もヴェルドラと一緒に遊んでいれば、その辺りはわかって来るもんなのかねぇ? 良いにしろ悪いにしろ、二人の及ぼす影響は大きいかも知れない、な……)
ヴェルドラが、
だから、ヴェルドラが他の者達とのコミュニケーションを覚えてくれれば、恐れられるだけではなく、もっと別の形で
ヴェルドラとの出会い、そして番外魔王二人との出会い。
この事が、自分と、
そんな事を思いながらリムルは話を続けていく。
「そうか、やっぱ持つべきものは友達だよな」
「うむうむ。何でも頼るが良いぞ、リムル!」
「実はさ、ラミリスがこの街に引っ越しをしてきてね。それで闘技場の地下にアイツの迷宮を創る事になったんだ――」
「ふむ。それは先程ツキハから聞いたぞ。我も、ツキハとコハクの領地が迷宮にあると教えてもらったのだ。ツキハは今まで黙っていてゴメンと謝っていたが、我はそんな事くらい気にはせぬぞ、ツキハ」
「ほんと、ゴメンねヴェルドラ」
いつの間にか
(あぁ、多分あれだ。竜の姿のまま迷宮領地に遊びに来られては、間違いなく大混乱になるだろうからな、主に領地民が……)
ツキハとコハクが今まで黙っていた訳を、察するリムルなのだった。
「でもな、リムル。アヤツの力は大体はわかったが、そんなに凄いのか?」
「うん。ツキハ達の所と違って、階層も増やせるんだよ。でさ――」
リムルはヴェルドラに、ラミリスが引っ越して来た事を、もう一度話していった。
「それで、階層が増えた事を利用して、色々な仕掛けを
「ふーむ。あの
「だから、凄いんだよと言ったじゃん。ちゃんと聞いてた、ヴェルドラ?」
「ん? ふむ、そうだったな。クワーハハハハッ」
ツキハがヴェルドラの顔を覗き込むように言い、それを誤魔化すかのように笑うヴェルドラであった。
(フフッ。何だかんだ言って、仲が良いよなこの二人。ツキハが一方的にあたしが〝ヴェルドラの彼女だ〟宣言してるけども、それを迷惑とは思っていないヴェルドラ。うーむ……。世界最強である〝竜種〟。この〝竜種〟に、恋愛感情など芽生える事などあるのだろうか……?)
笑いながら言い合うツキハとヴェルドラを見てリムルは、ふとそんな疑問を頭の中に浮かべる。
この細やかなる疑問も、後の大戦で〝ある者〟と相対した時に、リムルは知る事となる……。
とりあえず、そんな疑問もサラッと置き去りにして、リムルは
「なあヴェルドラ。ただの
「ほほう。それでリムルよ、我への頼みとどう繋がるのだ?」
「実はな、その
「――何、王、だと?」
「そう、王だ。
「うむ。思うとも! なるほど、流石はリムルだ。それを我に任せたいと、そういう事だな?」
「その通りだよ、ヴェルドラ」
リムルの思惑通りに乗ってきたヴェルドラ。
そこでリムルは、更にヴェルドラの役目の利点を上げていく。
「でだ。お前さ、
「なにっ!? まさか……」
「そう! 何と迷宮内では、
「お、おお……!!」
「ふにゃっ!?」
ここでツキハが何故か喰い付いてきた。
ヴェルドラが竜の姿に戻れる、そう、ツキハは竜の姿のヴェルドラが大好きなのだ。
リムルは、間髪入れずに説明を続ける。
「想像してみろ。迷宮奥深くで待ち受ける、神々しいまでに格好いいドラゴン――」
「それは我の事だな?」
「ヴェルドラ~。是非やるのよぉ~」
「おお、ツキハも我の本当の姿が好きであったな。という事はだぞ、我も遠慮せずやって来た者共に『クアハハハハ、よくぞ来た! 歓迎するぞ、ムシケラ共!』とか言って、格好を付けても良いのだな?」
リムルの言葉を途中で遮ったヴェルドラは、ツキハと二人でノリノリで言い出した。
(フフフ。完全に乗る気になったな)
そう思いつつリムルは、
「
リムルは
ユニット――つまり魔物である。
これを配置して冒険者を撃退させ、宝箱を守る階層ボスモンスターも配置したい。
上層部の魔素は薄くなるので、下位の魔物しか発生しない。
だがしかし、下層部に行けば行くほど、上位魔物が徘徊するハズだと、リムルは考えていた。
封印状態のヴェルドラから漏れ出た魔素でさえ、A⁻ランク
今のヴェルドラならば、どれほどの魔物を生み出すか想像も出来ないと、言ったところである。
とにかく、重要なのはヴェルドラの
そろそろヴェルドラに
放っておくと、どこか人目のつかない所で勝手にスッキリしてしまいそうで、目が離せなかったのだ。
事実ツキハも、いつまでもヴェルドラの本当の姿が見れずジレてしまい。西の果てのどこかで戦争やってる所に乱入して、ドカンする? と、ヴェルドラに提案して、二人で行こうとしたところを、慌ててコハクとリムルが止めたのは記憶に新しいところ。
それに、間違ってこの周辺で暴発して解き放たれてしまうと、リムルや幹部達、番外魔王の眷属達はともかく、一般人は生き残れない。
魔素が濃いと、Bランク未満の者は簡単に死んでしまうのだ。
ヴェルドラの自尊心と、ツキハの自重心に期待するのは危険なので、ラミリスの迷宮は渡りに船といったところであろう。
それで、ラミリスの迷宮なのだ。
何しろ、迷宮内部は隔離された空間である。
シャルフューズで確かめた事なので、魔素が漏れ出る心配はない。
だからこそ、迷宮は都合が良かったのだ。
リムルの真の目的。
それは――高濃度の魔素溜まりを用いて魔物を発生させる事であった。
これが、今回の計画の肝だったのだ。
(フッフッフッ。ヴェルドラの
しかし、そんなリムルの思惑に反して、ヴェルドラが思わぬ事を言ってきた。
「我が最終ボスであり、王か。フハハハッ。良い、良いぞリムル。ならば、
何やら自信あり気にニヤリと言うヴェルドラ。
「それは何だ?」
「裏ボス、または隠しボスだ」
「ほう。それは表の王を倒すと、よくある、〝騙して悪いが〟と言う、アレか?」
「うむ。我を倒すなど有り得ぬのだがな。しかし、仮にだ、そんな者が現れて我を倒しても、もう一人隠れた王がいたのだ! とか、面白くなりそうではないか?」
「ふむ……」
(うーん。これってアレだな。ファンタジー物の漫画から仕入れた知識だな。ほんと二人して、格闘ものから、こういった系を読み漁っているからなぁ。あ、そうだ、最近はSFものもよく読んでいたよな。そうだな……それもありだな)
ヴェルドラが言った案をリムルは、それも良いかもなと、受け入れる事にしたのだった。
「でさ、その隠しボスは誰にするんだ?」
「ん? 決まっておる、ツキハだ」
「ほほう。それも面白いかもな」
「え? あたし?」
「そうだ。嫌か、ツキハ?」
いきなり隠しボスの役をふられたツキハは、キョトンとした顔で言葉を返して来た。
「別にいいけども。一つ、聞いてもいいかなリムル」
「いいぞ、何だ?」
「もしもだよ。あたしの大好きで大事なヴェルドラを、倒した者がいたら――」
「いたら?」
「あたしさ、ソイツを全力で殺しに行くけど、いいの?」
「ふあっ!? まあ、
スーッとツキハの表情から感情が抜けて瞳が縦長に細くなり、忍びの者の顔を覗かせていく。
一瞬にして茶室の雰囲気が、張り詰めたように鋭敏な空気で満たされていった。
それを見たリムルの背筋にゾワリとしたものが走り、ごくりと唾を呑み込む。
(うあぁ……。いつもは、ポヤポヤした顏でめんどくさそうに話すツキハさんなのに、ヴェルドラの事となると、これだよ。そう言えばコハクが言ってたっけ、戦いになると豹変すると。うむー、元戦国時代の忍び、ツキハさん。恐るべし……)
これはどうしたものか? と、思うリムルであったが、ヴェルドラだけはそんなツキハの頭をポンポンと軽く叩き、笑い飛ばす。
「クワーハッハッハッハ。相変わらず戦いの事となると、どんな相手でも手を抜かぬなお前は。それでこそツキハだ。我とお前で
ヴェルドラの言葉を聞いたツキハの表情が、一瞬にしてホヤッと崩れる。
「うん、やろう。ヴェルドラ! アンタとあたしで、百層に辿り着いた者をぶっ倒そう! ウハッ、ウハハハ、ウワッハハハ――ッ!」
「我が表の王、お前が裏の王。この二大王を倒せるものなど、誰一人おらぬぞ! クックックッ、フハハハハ、ウワッハッハッハ――ッ!」
二人してバンバンと背中を叩き合い、声を上げて笑う。
(そうだな、ツキハの事はヴェルドラに任せてみるか)
「良し、表の王はヴェルドラ、裏の王はツキハ。頼むぞ二人とも」
リムルが立ち上がり、そう言うと――
ヴェルドラとツキハも漫画を懐に入れて立ち上がり、リムルが差し出した手にヴェルドラも自分の手を重ね、ツキハもヴェルドラの手に自分の手を重ね、三人共にニカッと笑みを浮かべる。
「任せよ、リムル。
「別にいいよ~。ヴェルドラを倒せるヤツなんかいないしね」
「そして当然、我を見た冒険者達は逃げようとする。だが、それを許す我ではない。そうよな、その時のセリフは『フハハハハハ、我からは逃げられぬ。知らなかったのか? 〝暴風竜〟からは逃げられない――』とかどうだ? 漫画にあっ、じゃなく。一度言ってみたいと思っておったのだ。ようやく念願のセリフを、口に出来る訳か。楽しみだ、実に楽しみだぞ!」
「だねだね。で、仮にヴェルドラが倒されたら、いや、そんな事は絶対ないんだけどね。でもでも、あたしも言うセリフがあるんだ。『騙して悪いが、もう一人王がいたのだ。裏の王こと、ヴェルドラの嫁が相手になってあげるわよ!』とね。これ、一度いいから言ってみたかったんだよねぇ。ヴェルドラの嫁! ウフッ」
「ツキハよ」
「なに?」
「お前はツキハであって、嫁? ではないぞ? 嫁って漫画のアレなのか?」
「これはね、役割、役割なんだよぉ。気にすんなぁ~、ヴェルドラ」
「お、ん? そうか、そういうモノなのか? しかしあれだ、ツガイとは――」
「違う! 同じようなものだけど、違う。だから、気にしないでいいの。わかった?」
「うむ、わかったぞ。そういうモノなのだな。ウワッハハハハ」
ヴェルドラが勝手な妄想を垂れ流し始め、ツキハも便乗して妄想を垂れ流す。
途中ヴェルドラが、嫁? 何だそれ? みたいな反応してツキハに返すも、ツキハが役割だとゴリ押しで誤魔化し、ヴェルドラを納得させてしまう。
(大丈夫か、コイツら?)
そんな一抹の不安を抱えるも、リムルは――
(まあ、良いだろうさ。そもそも、普通に考えて百層にまで辿り着くヤツなんているのか? それに、あの二人を倒せる冒険者なんているハズもないしな。少し不安が残るが……。うん、計画の為だ、ここは割り切ろう)
こうしてリムルは、難なくヴェルドラの協力を取り付けたのであった。
迷宮最下層ボスの役割も決まり、後は
リムルがこの世界に転生して来て三年余り。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
転スラには明確な月単位の表現が無かったので、古代ローマのヌマ歴を参考にラテン語を模した造語の月を作りました。
度々この造語を使う事になるかもなので、ここに表記しておきます。
1月マルティース
2月アプリス
3月マーウス
4月ユーニース
5月クィンティ
6月セクティス
7月セプテン
8月オクトー
9月ウェンベル
10月デンベル
11月ヤーヌリウス
12月アーリウス
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