忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせ致しました。141話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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141話 お帰り

 

 

 ヴェルドラの部屋も出来、ここで本来の目的に戻るリムル。

 

 そうそれは、ヴェルドラの妖気(オーラ)を解放する事なのだ。

 

 そして、久しぶりにヴェルドラ本来の姿が見れる事に嬉しさを隠しきれないツキハが、そこにいた。

 

 

「頑張ったなラミリス。これでようやく、本来の目的と、次の段階に計画を移せる」

「へへっ、当然じゃん! アタシだって、やる時はやるのよさ!」

「ツキハも、今までよくヴェルドラの余剰妖気(オーラ)を吸収してくれた。ありがとう」

「いいよいいよ。ヴェルドラの妖気(オーラ)はあたしにとって、心地よいからね」

 

 パタパタと飛び回るラミリスを褒めて、そして、ツキハに礼を言ったリムルはヴェルドラに振り向いた。

 

「でだ。待たせたね、ヴェルドラ君。ようやく君に、妖気(オーラ)を解放してもらう時が来たようだよ」

「おおお、ついにか! クアハハハ、任せよ!」

 

 ヴェルドラにとって待ちに待ったこの時が来たのだ。

 

 百階層ある地下迷宮(ダンジョン)には、階層を繋ぐ階段と換気口がある。

 地下百階まで換気可能かと言われれば無理があるのだが――

 

 リムルが教授に相談したところ、風魔法と大気を操る気候術式を掛け合わせ、魔素と空気を循環する術式を教授が構築して、各階層に大気循環術式を施した高さ十メートル、幅二メートルほどの石碑似たモノリスみたいなものを設置して、全階層に魔素と空気を循環させる事に成功した。

 

 魔素濃度に関しては、カイジンが作った魔素を濾過する装置を教授が改良をして、人に対して致死量の魔素濃度になる事を防止した。

 

 また、一階層だけを閉鎖して、魔物を増やす魔素濃度にも出来るようにしてあったのだ。

 

 

 最下層、百階層の大広間の中央にヴェルドラが立っていた。

 

 そして、勇ましく声を発する。

 

「ツキハよ、来い!」

「あいよ、ヴェルドラ!」

 

 元気よく返事をしたツキハがヴェルドラに向かってジャンプして、自身を黒猫の姿に変化(へんげ)させる。

 

 くるっと空中で身体一回転させ、ヴェルドラの頭の上にふわりと四本足で降り立つ。

 

 それを上目遣いで確認したヴェルドラは、口端を上げてニッと薄く笑うと――

 

「では、いくぞツキハ!」

「おう! いけえぇーヴェルドラぁーー!」

「ぬうおりゃあぁーーーーッ!!」

 

(いちいち掛け声などいらないのに、二人してノリノリだな。あれか、気分の問題なんだろう。ククッ)

 

 どこか楽しそうにやるヴェルドラとツキハを見て、プッと吹き出すリムル。

 

 ヴェルドラの頭の上で腰に両手をやり仁王立ちする、黒猫ツキハ。

 それを見てラミリスが、「相変わらず猫をやめてるわね」と、ポツリ呟く。

 

 すると、吹き付けるような凶悪な妖気(オーラ)が、リムルとラミリスを襲う。

 それを察知したリムルが、『絶対防御』で自分とラミリスを包んだ。

 

 一瞬の間の跡、爆発したかのような衝撃波が大広間を駆け巡る。

 

 ズズンッと、重く低い音と共に迷宮全体が、微細な震動と地鳴りのような音を鳴らす。

 

「あ、あぶ、あぶなぁ……。リムルが守ってくれなかったら、アタシ、吹っ飛んでいたかも……」

 

 ラミリスが、ガクガクと震えながらリムルの肩の上に降り、言った。

 

(確かに。思っていた以上の衝撃だったな。でもしかし、何でツキハはヴェルドラの頭の上にいて無事なんだ? しかも、猫がマタタビでも喰らったかのように、フニャニャーとか言ってヴェルドラの頭の上で転げまわっている始末。うーむ、()せねえ……。まあ、いいか。考えてもしょうがない) 

 

 ヴェルドラの凶悪な妖気(オーラ)を浴びても平気なツキハに、リムルはある種の疑問を浮かべるも、ひとまずそれを置いておく事にする。

 

 普通の人間なら軽く死ねる、濃密な魔素が周囲を満たしていた。

 

「クアーーーッハッハッハ! 我見参!!」

「ニャーーーハッハッハ! ついでにあたし見参!!」

 

(うお。久ぶりに見たけど、やっぱ大きいなヴェルドラ)

 

 最奥の大広間はかなりの広さがあったが、ヴェルドラが本来のサイズになったらやや狭く感じる程であった。

 

 ツキハも黒猫から、いつもの猫魔人の姿に戻ってヴェルドラの頭の上で一緒に高笑いをしていた。

 

(うん、久しぶりの竜形態は、とてつもなく威厳に満ちた姿だね。これで、黙っていたら本当に威容があるんだよ。でもなぁ……。頭の上にツキハを乗せて一緒に高笑いとか、ちょっとアレだとう思うのは俺だけか? しかしあの〝竜種〟が、よくツキハを頭の上に乗せる気になったもんだよ。昔からツキハが頭の上でお昼寝をするとは聞いていたんだけど、本当だったとは俺もビックリだわ。でも、ヴェルドラのヤツ、ツキハだけは特別に許していると言ってたし。大昔から何かあったのかねぇ。俺の知らないヴェルドラか。ツキハは知ってるんだろうな……)

 

 竜形態のヴェルドラと、ヴェルドラの頭の上にいるツキハを見てリムルは、いつもは迷惑をかけられてばかりいるヴェルドラの知らない一面を見た気がして、ツキハに対して少し羨ましい気持ちが起きたリムルであった。

 

「我、スッキリ!」

「あたしも、スッキリ!」

「いやあ、しかし派手にいったな。これを外でやっていたら、ちょっぴり大変だったやも知れぬ」

「ヴェルドラ、ちょっぴりじゃなくて、大惨事になってるかもよ?」

「ツキハの言う通りだ。こんなん外でやられたらえらい事になるわ。スッキリしたとか言いながら、妖気(オーラ)がまだ漏れてるし……」

 

 暢気(のんき)なヴェルドラに、首を傾げながらダメ出しをするツキハ。

 それに同意するかのように頷くリムルである。

 

「や、やっぱ師匠って凄いね……。アタシの迷宮が(ゆが)むとは思わなかったさ……。それにツキハは、何で妖気(オーラ)の衝撃波の中で平気でいられる訳? アンタの事だから、今更驚かないけれどね……」

 

 そう、ラミリスの言う通り、壁が妖気(オーラ)解放の衝撃波で歪んでいたのだ。

 凄まじい内圧の膨張を受けた結果であった。

 

 これが攻撃ではなく、ただの妖気(オーラ)を解放しただけであるから、驚きである。

 

「ほんとにな。相当我慢してたんだな、ヴェルドラ。これからはこうなる前に、適度に妖気(オーラ)を放出しておいてね……」

「ん? うむ、任せよ」

 

 何んとも言い難い状況にリムルはそうヴェルドラに伝えるも、ヴェルドラはツキハと何か話してるようで、半分(うわ)の空だった。

 

『ヴェルドラ……三百年と三年ぶりに外で竜の姿に戻れたね。お帰り、ヴェルドラ』

 

 頭の上に仰向けに寝たままツキハが『思念伝達』を使い、普段とは違う物言いで優しく言った。

 

『う、うむ。戻ったぞ、ツキハよ』

 

 ツキハの言葉に少し照れくさそうに返すヴェルドラ。

 

 ツキハはヴェルドラが『無限牢獄』から解き放たれてから、まだ一度もお帰りを言ってなかった。

 

 ヴェルドラが竜形態でツキハの前にいる事こそ、ツキハにとって本当の意味での『無限牢獄』からの帰還になるのだ。

 

 だから今、心の底から〝お帰り〟を、ヴェルドラに告げたのである。

 

 するりとヴェルドラの頭の上から降りたツキハ。

 そして、ヴェルドラに向かって、手でコイコイと誘う。

 

 ヴェルドラが頭を下げツキハに顔を近づけると、ツキハがヴェルドラの鼻頭をスリスリと柔らかく撫で、そっと抱えるように抱きつく。

 

 頭の上では何も言わないヴェルドラが焦ったように、「ちょっと近づき過ぎだツキハ。少し離れぬか」と言うも、ツキハはお構いなしに抱えた両手を離さなかった。

 

 リムルが「嫌なら、自分から離せばいいじゃん」と茶化す。

 ラミリスは「師匠ってば……」と、興味津々にそれを眺めていた。

 

 とりあえずリムルは、ひと時の間ツキハの好きにさせる事にして、さっき思い付いた事を実行に移す。

 

 それは、魔素濃度が高いこの百階層に、もう一つ大広間という倉庫を作る事。

 

 その目的は、魔鉱石を作る事である。

 

 魔素濃度が高いこの百階層は、鉱山などから採掘され届けられた鉄鉱石を、この百階層に置いおくだけで、大量の魔素を浴びて短時間で魔鉱石に変質するのではないかと考えたのだ。

 

 魔鉱石――〝魔鋼〟の原石であり、金に匹敵する価値がある。

 鉄鉱石とは比べ物にならないほど需要があり、魔国にとって有用な資源となるだろうと睨んだのである。

 

 現在、鉄鉱石などは近隣諸国からの輸入されたものだが、ガットエランテが鉱石関係も卸していると聞き、ガットエランテから仕入れる事にしたのもつい最近の事だったのだ。

 

「ラミリス、この大広間の隣に、もう一つ広間を創れるか?」

「うん、余裕だよ!」

 

 リムルのお願いに快く了承するラミリス。

 

 これで後は、街にある倉庫から鉄鉱石を運び込むだけ。

 

 リムルがそんなあざとい金策を考えている間にも、魔素は予定通りに各階層へと浸透していく。

 

 そんなツキハも気が済んだのか、別の話でヴェルドラと盛り上がっていた。

 

 地下五十階階層地点で、〝封印の洞窟〟最奥部以上の魔素濃度になって、後は魔物の発生を待つばかりである。

 

 この濃度なら、かなり強力な個体が生じるだろう事を期待しつつこの日はお開きにしたリムル達であった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 それから翌日。

 

 今日はベレッタとトレイニ―もいる。

 

 

 リムルは、ベレッタがしたギィとの約束を実行させるべく、ベレッタに最終確認を行う。

 

「ベレッタ、お前はギィに、ラミリスに仕えると宣言したんだったな? その気持ち、今も変わりないか?」

 

 ベレッタは驚いたようにリムルを見て、次の言葉を述べる。

 

「――リムル様、御無礼を承知で申し上げますが、以前に申した通りワレは貴方様とラミリス様にお仕えしたいと考えております」

 

 きっぱりと自分の考えを得リムルに伝えるベレッタ。

 

 それにリムルは苦言を呈するも、ラミリスがこの街に引越しをして来て、迷宮運営を手伝ってくれるんだろうと聞き、ベレッタはその言葉に、「勿論です!」と力強く答える。

 

 それを確認したリムルは、「ならば、問題ないよ。それは結局、俺に仕えているのと一緒だからな」と、言う。

 

「宜しいのでしょうか? ならばワレは、ラミリス様に仕えたいと存じます」

「いいだろ。では、今後はラミリスに仕えるがいい! ベレッタ、俺の事よりラミリスを頼むぞ。しっかりとラミリスを守ってやってくれ」

「はは! この命に代えましても、必ず!」

 

 リムルは「うむ」と頷くと、製作者命令(マスターロック)を解除した。

 

 これで委譲は完了し、リムルは今後、製作者権限を有するのみとなる。

 

 

 そして、ベレッタの真の主(マスター)となったラミリスはというと――

 

「ベレッタちゃんが、アタシの本当の配下に……これでようやく、ボッチも卒業できるのね――」

「あら、ラミリス様。わたくしもおりますわ」

「そうだった! トレイニ―ちゃんもいるし、大所帯になったもんね!」

 

 余程嬉しかったのかラミリスは、トレイニ―とベレッタの周りを飛び回る。

 

 

 愛すべき小さな妖精ラミリス。

 寂しがり屋でもあり、しかし精霊工学に秀でた天才でもある。

 

 そんなラミリスを見て、「良かったな」と小さく呟き、飛び回るラミリスを微笑ましく眺めるリムルなのであった。

 

 

 興奮冷めやらずのラミリスにリムルは、「じゃあ、三日ほど野暮用でどこかへ行ったツキハが帰ってくるまで、大まかな迷宮構造を考えるか」と言い、大広間で竜形態のまま寛いでいるヴェルドラも加わり、あれこれと相談を始めていく。

 

 

 その留守にすると言ったツキハは、どこへ行ったかというと――

 

 お忍びで、とある国へと来ていた。

 

 

 そう、イングラシア王国へ、人型に変化して来ていたのだ。

 

 

 イングラシア王国の酒場街にある、二階が宿で一階が酒場兼食堂の宿屋、子猫亭に、一人の少女が入って来る。

 

 

 ギイィッと、乾いた(きし)む音が響きながら木の扉が開けられる。

 

 濃い緑色のフード付き外套(がいとう)を来た少女が中に入りフードを取ると、猫耳尻尾なしの人間バージョンのツキハが、そこにいた。

 

 

 夜も更けた酒場に似つかわしくないその少女に、酒を飲んでいた男達が一瞬少女を見るが、顔を確認した途端、何事もなかったようにまた酒を飲み始め談笑を始めていく。

 

 酒場の給仕をしている若い女性がその少女を見つけ、なんと駆け寄って来た。

 

「ツキコちゃん、久しぶり! 数ヶ月ぶりだね」

「うん。久しぶり、ジーナ」

 

 ツキハに駆け寄って来た給仕の女性は、この宿屋の一人娘で十九歳。

 

 そして、ツキコとは、ツキハが人間の時の偽名である。

 

 今年も残すところ、後十日と三日あまり。

 

 

 二日後に開催される、今年最後の地下闘技場の賭け試合に出る為にツキハは、ここイングラシア王国を訪れたのであった。

 

 

 





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