忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。147話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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 ※作中で使用している特殊フォントは、〝ライム酒〟様作成の特殊フォントを使用させて頂いています。

 特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますので御了承ください。
 





147話 〝一年に一度〟?

 

 

 突然やって来たミリムがツキハを伴い、竜の捕獲に旅立って三日が過ぎていた。

 

 罠の設置は無事終わり、後はミリムとツキハが竜を捕獲して来るだけである。

 

 

 次にリムル達は、宝箱の設置に取り掛かろうとしていた。

 

 これには、ベレッタがクレイマンの魔人形から戴いた特質級(ユニーク)の武器や防具等を提供してくれたのだ。

 

 この事にはラミリスも、遠慮なく使ってくれてもいいのよさ! と快く承諾してくれて、リムルはこれらをありがたく有効活用する事にしたのである。

 

 というところで、早速リムルは宝箱を設置しながら、迷宮の出来具合を確かめる事になった。

 

 地下一階から順番に、迷宮の出来上がり具合をリムル達は確かめていく。

 

 

 最初の階層はお試し程度の難易度。

 初心者でも安全に進めるようにしてあった。

 

 ただ、二百五十メートル四方はかなり広い。

 マッピングしながら散々歩かされて、収穫は無しとなりかねない。

 

 それでは人気が出ない可能性が高いが、弱い魔物が大量に徘徊するから問題ないだろうと、リムルは考えた。

 

 何故なら、魔物からは〝魔晶石〟や有用なドロップアイテムが得られるので、それなりの収入になるだろうからと。

 

 そうした獲得品は、魔国側で買い取るつもりでいた。

 まだ街には自由組合支部がないので、一番近い支部はブルムンド王国になる。

 

 冒険者達がそこまで運ぶのは大変だろうからと、魔国でそれらを割安で購入して、その差益分を運搬費としと徴収するのもアリだろうとリムルは考えた。

 

(そうだなぁ。ユウキと相談して、魔国に自由組合支部を作るのもアリかな? これは要検討だな)

 

 ともかくリムルは、そうした話が出るまでは、組合の仕事は自分達で代行するつもりであった。

 

 そうして、地下五階まではこんな感じで進めていくリムル。

 

 五階まではやんわりと、六階からは少し厳しくなっていく。

 ここで各種罠の出番となるからだ。

 

 だがしかし、リムルは九階までは凶悪な罠は設置していない。

 余り難易度が高過ぎると、リピータがやってこないからである。

 

 そこはラミリスとも相談をして、九階まで親切設計にしたのだ。

 

 そして、最初の難関十階層。

 この部屋には、少しだけ強い魔物を一体だけ配置する。

 

 そう、最初のボス部屋である。

 

 このボスを倒せば十一階層へ至る扉が開き、そこへ降りる階段が出現する仕掛けだった。

 

「ねえリムル。ここはどんな魔物にするの?」

「ん? それはまあ、魔物の発生具合を確かめてからなんだけど……いないよな?」

「そうね。本当にいないわね……」

 

 なんと、リムル達がここ地下十階に至るまで魔物の姿を見かけてはいなかったのだ。

 

 ヴェルドラが妖気(オーラ)を解放してから十日余り。

 もう、魔物が徘徊していてもいいはハズだったのだが……。

 

《解。妖気(オーラ)を隠していても、魔物には個体名:ヴェルドラの気配を察知出来ます。近づく者はいないでしょう。しかし、個体名:ツキハが一緒にいれば、それは回避出来ると推測します》

『あ、なるほど。ツキハの幻遁(げんとん)とかいう忍魔術ね。あれ、何気に便利だよなぁ』

 

 智慧之王(ラファエル)による報告に、納得をするリムルであった。 

 

「ヴェルドラから漏れ出た魔素から生まれた魔物は、ヴェルドラの気配に気付くみたいだな。ビビッて近付いて来ないってさ。ツキハがいたらそれを回避出来たかもな」

「何と!? それでか……。どうりであの封印された洞窟内でも、我の前に魔物が姿を見せなかった訳だ。それに、ふむ、ツキハの忍魔術というモノだな。ツキハなら我の気配すらも隠せるのだろうよ」

 

 リムルの説明に納得をするヴェルドラ。

 

「まあ、あれだ。今度適当に見繕うさ。一応はさ、十階層にはBランク程度の少し強めの魔物を配置する予定だよ」

「ふーん、わかったわ。知恵のないヤツなら、アタシの配下にはしない方がいいわね。この部屋に連れて来て、この首輪を()めておけばいいよ!」

 

 ラミリスがそう言い、リムルはその首輪を受け取る。

 

 この首輪、ラミリスが言うには、ラミリスと契約をしなくても何度でも復活が出来る(すぐ)れものであった。

 

「おお、これは便利だな。手間が省けるし助かるよ」 

「でしょ? フフー♪ ま、この迷宮内なら、アタシは何でも出来るからね!」

 

 実際、ラミリスの言う通りなのである。

 

 アイテムごとに付与する機能を変えられるし、迷宮内では大抵の事は実現可能なのだ。

 ツキハとコハクは、ラミリスと知り合ってからこのとんでもない能力(スキル)に気付き、領地を持たないと見せかける為にラミリスに協力を願い出たのだ。

 

 その見返りは、美味しい食べ物とお酒の定期的な提供に、外の世界の情報提供。

 こうして、迷宮領地が誕生したのだった。

 

 ボスの問題も片付き、リムルは一番大事な宝箱の設置に取り掛かる。

 

 ボスの間の宝箱には罠は無し。

 ただし、武器や防具の出現率だけは調整してある。

 

 この階層以降は隠し部屋なども用意していく。

 罠付きの宝箱も順次設置していった。

 

 そして、二十階層以下には疑似宝箱(ミミック)の登場である。

 

 ここらあたりからはかなり罠などが悪質になって来るが、それこそが探索型迷宮の醍醐味(だいごみ)というところだと、リムルは妥協しない。

 

 だがしかし、悪い事ばかりではないのも事実。

 

 迷宮内は魔素で満たされている。

 ならば、宝箱に入れられた武具が、魔剣や魔装防具などに近い形で変質するかもしれない。

 

 それらを手に入れられるので、このくらいの危険は付き物だろうと、リムルの考えなのだ。

 

 〝復活の腕輪〟さえあれば死にはしないのだから、多少凶悪な方がやり応えがあって楽しめるハズ。

 そう考えるリムルは、冒険者達の反応がとても楽しみであった。

 

 こうして十階層の確認を終えたリムル達。

 

「どうする? ここに魔物から獲得した品を買い取ったり、預かったり出来る施設を用意するか?」

「え? うーん……要らないんじゃない? だってさ、そんなのがあったら〝帰還の呼子笛(よびこぶえ)〟が売れなくなるじゃん」

「そう言えば、そうだな」

 

 ラミリスにしては鋭い突っ込みに、(うなづ)くリムル。

 

記録地点(セーブポイント)がある場所に階にそうした施設を用意しても、意味はないか。じゃあさ、中間層辺り、五の倍数階に安全地帯を設けるとかどうよ?」

「だねだね、それがいいかも!」

 

 それからリムルは、冒険者達が獲得した品を預かる店とか、割高で売りつける回復薬等を扱う雑貨屋、後は飯処を作ろうと提案して、ラミリスとヴェルドラもそれに賛成する。

 

 これらは別にその階ごとに用意する事はなく、全部同じ場所に繋がるようにすればいいとラミリスが言い、リムルはそれでいこうと言う。

 

 そして、〝帰還の呼子笛(よびこぶえ)〟はあくまでも保険アイテムなので割高にする事となる。 

 

 後の細かい点は、新しい年にやるお披露目が終わってから考えようとなったのだった。

 

 

 それからリムル達はああでもないこうでもないと相談しながら、各階層を点検して回った。

 念入りに百層まで点検を終え、満足したリムル達。 

 

 出来上がった迷宮は、凶悪の一言では済まないシロモノであった。

 

《――告。一般的な冒険者の力量から判断すれば、低級の魔物と迷路あれば十分な難易度です。それに加えて、悪辣な罠の配置と、数多の上級魔物の発生を考慮するならば、凶悪という言葉も生温いのは当然であると推測します――》

 

(え、何? 聞こえない。ラファエル(智慧之王)さんが呆れてるような気がするけど、きのせいだろう。うん、そうだろう)

 

 と、聞き流すリムルであったが、それが気のせいではなかったと実感する羽目になるのであった。

 

 ――後日、発生している魔物を見繕って、ボスの設定を行おうとしたのだが、迷宮内に大量の魔物が溢れていたのである。

 

「ふあ!? なんじゃこりゃあぁああーー!?」

 

 と叫んでみたものの、後の祭り。

 

 難易度調整で大変な思いを味わった、リムルだったのだ。

 

 色々あったリムルだが、やる気に満ちたラミリスとヴェルドラに後を任せるのだった。

 

 そうしてる内にミリムとツキハが帰って来て、捕獲した竜達も各階層に放ち、各階層の魔素濃度も再調整を施す。

 

 これで大量発生した魔物も、竜が放たれた事で間引かれる事になった。

 

 まだ三十階層までしかボスが決まっていないが、とりあえずそれで良しとしたリムル。

 

 

 地上では円形闘技場(コロッセオ)が急ピッチで建造中である。

 雪解けの後の開国祭までには間に合うだろう。

 

 地下にある迷宮は、リムル達が思った以上に素晴らしいアトラクションに仕上がった。

 

 その仕上がりに、リムル達は邪悪な笑みを浮かべて、顔を見合わせ頷き合う。

 

 ここに、迷宮の準備は整ったのである。

 

 

 更に様々な準備は進み、街には見慣れぬ者の姿がチラホラと見え始めていた。

 

 アーリウス(十二月)の月も残すところ八日。 

 

 

 リムルの考えた行事と、ルヴナンで行われる、とある行事が行われようとしていた。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 覚えているだろうか?

 

 コハクが〝魔王達の宴(ワルプルギス)〟でクレイマンの深層意識に潜った時に、クレイマンに言った〝一年一度〟という話の事を。

 

 そう、眷属達がツキハとコハクに――

 

 〝下剋上〟出来る特別な日!

 

 この一日だけは、暴言暴力策略何でもアリ!

 

 日頃の鍛錬の成果や、溜まりに溜まった鬱憤(うっぷん)を晴らすも良し。

 眷属達が、日頃の鬱憤晴らしにツキハとコハクに襲い掛かるのであった。

 

 最初は、普通に眷属達の修行成果を見る為のモノが、いつからかツキハとコハクに下剋上が出来る特別な日となっていたのだ。

 

 そして、今年も終わりが近づくこの日、〝眷属達の下剋上〟が始まろうとしていた。

 

 

 

 迷宮領地シャルフューズにある、ルヴナン演習場。

 

 ここに数百匹の眷属が集合していた。 

 

 その眷属の中央にいるのはサンコ。

 

「にゃははは! 猫使いの荒いバカ(あるじ)、今日こそぶっ倒してやるニャ!」

「「「「「今日こそ、猫使いの荒い主に天誅を!」」」」」

 

 サンコが口火を切るように口を開き、後に眷属達が続く。

 

 サンコ達の前に悠然と立つ、ツキハとコハク。

 

「はいはい。御託はいいから、早くかかってきな。ククッ」 

「天誅どすか。あんさんらも言いますなぁ。今年も遊んでやるさかい。()よ、かかってきなはれ。ウフフッ」

 

 その光景を遥か約二千五百メートルに位置する、高さ二百四十三メートルの小さい山の頂上から、ツキハとコハクを見ている少女がいた。

 

「あーぁ、面倒だなぁ。サンコちゃんの頼みだから断れなかったんだけど……。これ、絶対わたしも参加になるよねぇ。流石にツキハ様とコハク様とのタイマンは、勘弁してほしいんだけどなぁ……」

 

 ここシャルフューズでは今日の日に合わせて、雪だけ降らない設定になっていた。

 気温は真冬の寒さだが、この少女の格好は真夏の恰好とも呼べる姿だった。

 

 肩甲骨(けんこうこつ)の下まである少しくせっ毛のある黒髪ロング。 

 右前髪横に髪留めを付けていて、左耳にはリング型のピアス。

 

 目がパッチリした、可愛い系の顔。

 年齢は十七歳であり、この世界に来たのは四年前で日本人である。

 

 

 着ている服は白地の半袖セーラー服。

 (えり)袖口(そでぐち)は黒色で、襟の淵には三本の白い線が入っていて、袖口には二本の白い線が入り、スカートは黒の膝上約十五センチ。

 リボンタイ(スカーフ)は赤。

 靴は黒のスニーカーに靴下も黒のショートソックスである。

 左手首には赤と黒のスリムリストバンドを付けていて、右肩にはブルーのミニデイパックを提げていた。

 

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 状況を把握した少女は、空間収納式ミニデイパックから、厚手の幅六十センチ長さ二メートルの巻いた濃い緑色した布のシートを取り出す。

 

 巻いている紐を解いて、それを地面に敷いていった。

 

 そして、まるで口径の違う太い金属製のパイプを繋げたような無骨な物を取り出し、バイポッドを開きドスンとシートの上に置いた。

 

 その置いた物とは――

 二十ミリ口径の対物ライフルであった。

 

 //重量――約六十キロ

 

 長さ――二百五十センチ

 

 バレル長――百九十センチ

 

 魔導カートリッジ――20×102mm

 

 初速――2,000メートル

 

 最大射程――約一万メートル

 

 アクション――ボルトアクション

 

 装弾――三発着脱式ボックスマガジン//

 

 

 少女は、ユニークスキル〝銃操者(ガンスリンガー)〟を持つ、能力(スキル)持ちだった。

 

 その権能の一つである、『武器創造』で知識にある銃器などを創り出す事が出来たのだ。

 

 因みに、体感温度は能力(スキル)で調整出来るので、真冬でも問題なしなのである。

 普段は、セーラー服の上にコートやセーターなどを着ているが、今回は戦闘になるかも知れないと、セーラー服だけにしたのであった。

 

 元いた世界の、とあるFPSゲームに出て来たライフルを具現化したものである。

 これの元になった対物ライフルは、少女が元いた世界のアメリカという国で作られている、〝ANZIO(アンツィオ)〟という対物ライフルがモデルとなっていたのだ。

 

 少女はこの対物ライフルを、パンツァーランツェ(戦車への槍)と呼んでいた。

 

 対物ライフルを置いたシートにうつ伏せに寝そべり軽く両足を広げてスコープを覗き、ツキハの姿を捉える。

 スコープの上下左右に付いた丸いノブをチキチキッと回し、十字線(レティクル)をスコープの中心に持って来る。

 

 一度ライフルを揺すって、バイポッドが地面に正しくロックされているか確認する。

 それから魔力感知で銃身がターゲットに向ているかを確認し、それをスコープと交互に見ながら調整する。

 

「うーんと、試し撃ちは出来ないから頭を狙うのは()めておこう。まあでも、ここは異世界で私は能力(スキル)持ちだから関係ないんだけどね。ククッ」 

 

 少女はクスリと笑い、予測射撃演算を始める。

 

「距離は、二千五百と七メートル三十三センチ……風力は1.5、気温二度。この星の自転によるコリオルの力はぁ、ブツブツブツ」

 

 目まぐるしく脳内で繰り広げられる弾道計算。

 

 そして、少女は思考イメージで仮想射撃を行った……。

 

「うーん、ちょい右に一センチほどズレたかな? 調整調整っと」

 

 クリクリとスコープの真上に付いたエレベーションノブと左横に付いたウィンデージノブを回して、十字線(レティクル)を上下左右に動かし微調整をする。 

 

 

「これで、決まりかな」

 

 最後に、右横に付いたパララックス補正ノブで標的の焦点を合わせ、狙撃の準備が整った。

 

 そこへ、少女に『思考加速』付きの『思念伝達』が飛んで来た。

 

『リンコ。準備は出来たかニャ?』

『あ、サンコちゃん。うん、出来たよ』

『じゃあ、バカ主を盛大に撃ち抜くにゃよ。ニャッフッフッフッ』

『それはいいけど。報酬の、テンペスト食堂年パス。ほんとーに、くれるんでしょうね? 教授がゲットしたモノと同じヤツ』

『任せるニャ。〝お子さまホイホイ〟で稼いだ報酬で、ちゃんとリムル様からもらったニャよ』

『はあ? 〝お子さまホイホイ〟って、何なの? ぁ、ああ、あれね。サンコちゃん達って相変わらずえげつないね。それ、他の人達もやってるの?』

『暇つぶしにロモコ達もやってるニャ』

『え? ロモコさん達もって……。それさぁ、アイツらの方が可哀そうになってくるんだけど? まあ、奴隷売買組織の残党だし、いいんだけども。ほんとに、ヤツら懲りないよねぇ』

『今でもその筋の貴族には、高く売れるからニャあ』

 

 サンコの言う〝お子さまホイホイ〟とは、奴隷商会オルトロスの残党と、奴隷売買のうま味から抜け出せない者達を、サンコ達が小さな男の子や女の子の獣人に『変幻(ヘンゲ)』して、奴隷密売人をあぶり出す事だった。

 

 不定期ながらも暇つぶしに眷属達がやるお陰で、もうジュラの大森林と魔国連邦(テンペスト)の周辺には、奴隷密売人の姿は見なくなっていたのだ。だがしかし、リムルが魔王になったというのが一番の理由でもある。

 

『そう。残党の親玉がわかったら、わたしが、頭撃ち抜いて上げるけど?』

『にゃあぁ、リンコちょっと怖いニャよ?』

『いや、サンコちゃんの方が怖いって。自覚してる?』

『アチシは幼気(いたいけ)なニャンコにゃよ?』

『どこがよ!』

『それよりリンコ。もうぶっ放していいニャ』

『もう、相変わらず話をぶった切るんだからぁ。わかったわよ。後はそっちでやってね。それと、間違いなく防がれるから、後はヨロシク~』

『はいニャ~』

 

 こうしてサンコは『思念伝達』を終えた。

 

 異世界人少女の名はリンコ。

 日本名は、早見凛子。

 

 この世界では、リンコ・ハヤミを名乗っている。

 

 

 スコープを覗きながらリンコは、静かに息をスーハ―っと吐いて飲むを三回繰り返す。

 寒さで吐く息が白く染まる。

 

 三回目に息を吸い、そのまま止めた。

 

 スコープの十字線(レティクル)の真ん中にツキハの胸が入る。

 

 丁度サンコがツキハとコハクに向かって何か言ってる時だった。

 

(さてと、殺気と気配は消してるからギリギリまで気付かれないハズ……)

 

 グッと対物ライフルのストックを肩に押し当て、左手は肩に押し当てたストックの上に置く。

 

 そーっとトリガーに右手人差し指をかけ――撃鉄を落とすようにグッと引き絞る。

 

 ドゴォオオオオンンッ!!

 

 銃身の先に付いている、左右に四つ丸い穴が空いた排気口を持つハーモニカ型のマズルブレーキから発射炎が勢いよく吹き出し土煙が舞い、反動で対物ライフルごとリンコの身体が十センチほど後ろに下がる。

 

 その爆風はリンコの穿いているスカートを一気に上に(まく)り上げた。

 ひらひらと舞うスカート、モロにパンツが見える構図だが――

 

 そこには白いパンツではなく、黒いモノが見えていた。

 それはショートパンツタイプの、一分丈のインナーパンツであり、ようするに黒色の見せパンである。

 

 凄まじい発射音が山に響き木霊(こだま)する。

 

 権能『無音(サイレンサー)』でリンコは発砲音を完全にほぼ無音に出来るが、距離が離れていて、しかも傭兵のお仕事でもないので、今回は敢えて無音化しなかったのだ。

 

 因みに、無音化出来る範囲は、自分を中心に、半径一メートルから数百メートルの範囲であるが、これには制限時間があり無音化効果の時間は数分が限界である。

 

 そして、インターバルにも数分を要する。

 これはかなりの魔素(エネルギー)を消費するからであり、連続使用にはまだまだ技量が足りていなかったのだ。

 

 バシャッ、すぐさまライフルのボルトを引き、空薬莢(からやっきょう)を排出するリンコ。

 

 ガキンガキン、重々しい音を響かせ地面に転がり落ちる、二十ミリ魔導徹甲弾の空薬莢。

 

 ガシャッ、ボルトを戻し次弾装填。

 

 バゴォオオンッ!!  

 

 初弾を撃ってから二秒足らずで二発目を撃ったリンコ。

 

 ツキハとコハクに対して、ほぼ真正面から襲い来る魔導徹甲弾。

 

 

 ツキハとコハクの猫耳がピクピクンと動く。

 

 音速で飛来する弾頭の風を切る音を察知したツキハは、時雨を空間収納から取り出すと角帯(かくおび)には差さずに、左手に持ったまま濃い口を切り、右足を前に出し少し腰を落とす。

 

「大鉄砲か。あの距離から狙って来るか、流石だねぇ」

 

 刹那――ツキハは右手中指と人差し指の間に柄を挟み抜刀。 

 そのまま中指と人差し指の間で柄を縦に回し、刃が凄まじい速さで縦に一回転する。

 

 ギキンッ! 金属の塊が断ち切られた音が鳴り響く。

 

 逆手に持った時雨を、スーッと鞘を前に送り出しながら刃を納める。

 

 コオォッ~~~~ン 遅れて木霊(こだま)する発砲音。 

 

 チンッ、軽やかな(つば)鳴りの音が鳴り、ツキハの後ろに真っ二つに斬られた徹甲弾がドススッと地面に落ちた。

 

 続きコハクにも徹甲弾が襲い来る。

 

「サンコが引き込んだんどすか? フフ。呪符結界・葉重音(はがさね)

 

 シュパパッ、一瞬で印を五つ切り、幅二十センチ、長さ六十センチの呪符がコハクの前に、十枚一列に並んだその瞬間――

 

 バキン、バキキンッ! ガラスの砕けるような音を響かせ、次々に呪符が砕けていった。

 

 徹甲弾は八枚目の呪符を砕いたところでその運動エネルギーの全てを使い果たし、ゴトリと音を立て地面に落ちて転がった。

 

 落ちた徹甲弾はひしゃげ潰れていて、原型を留めてはいなかった。

 

「あらま。八枚も貫通したやないか。リンコも、ちゃんと技量を磨いてるんどすな。ええことや、フフッ」

 

 コハクはそう言うと、遠く二千五百メートル先の小さな山の山頂にいるリンコに目を向けた。

 

 ツキハも時雨を下緒(さげお)の空間収納に仕舞いながら、コハクと同じ方向に視線を向ける

 

 その狙撃したリンコは二発目を撃つや、早々と撤収準備に入っていた。

 

『なんやリンコ。もう帰るんか?』

『はわ!?』

 

 パンツァーランツェも空間収納に仕舞って、地面に敷いたシートも丸めてミニデイパックに入れようとした時に、いきなりコハクから『思念伝達』が飛んで来て驚き、裏返ったような声を上げる。

 

『もうコハク様ったら、いきなり『思念伝達』を送るなんてビックリするじゃないですか!』

『あんさんも今年は参加するんかと思ったんやけど? 違うんか?』

『しません! ってか、それ眷属の皆さんの行事じゃないですかあ。出ませんよ、幾ら命があっても足りませんって。ほんと、ムリ』

『さよかぁ。まあ、気が変わったら腕試しがてら参加しなはれ』

『今から教授と中央都市リムルの甘味屋に行くんです。だから、参加はしませんって』

『あんさんなら、結構いいところいくと思うんやけどなぁ』

『ムリ! ムリムリ。あ、そうそう。カラフリ村を襲っていた盗賊団は殲滅したんで、報告書は支店に上げておきましたぁ~。それじゃあ、わたしはこれで~』

『へえ、ほなな』

 

 『思念伝達』が終わるとリンコは、そそくさとその場から立ち去って行った。

 

 リンコの狙撃が失敗に終わったのをサンコ達は、予想していたかのように残念そうな表情を浮かべていた。少しでも気を()らせれば、そこをついて全員で襲い掛かるつもりだったのだ。

 

「にゃー、やっぱり無理だったニャ。仕方ないニャ、全員でシバキ倒すニャ!」

「「「「「おうよ!」」」」」

 

 サンコが言うと、眷属達が呼応して、一斉にツキハとコハクを囲んだ。

 

 そして――

 

「次から次へとお役目を入れやがって、俺の休暇はどこ行ったんだあ――ッ!」

「あっちの戦場からこっちの戦場、猫使いが荒すぎです! この守銭奴オタンコナスゥー!」

「酷いですー。(あるじ)だからって期間限定ハンバーガーセットを強奪するのはやめやがれですぅ~~」

「私のアンティーク家具を返せーー! 買い叩くように持っていくのはやめろや馬鹿ツキハ様があ!」

「クソがああああっ! 私の事務処理が年末になっても終わんねえんだよ! いい加減に偽造予算申請書を提出するのはやめろやああああああ! ぶっ殺すぞゴラアぁあああああああッ!!」

「コハク様。ツキハ様の(しつけ)をちゃんとして下さい! いくら好きだからって野放しは駄目なのだ、です!」

 

 まさに言いたい放題。

 

 主にツキハのやらかしが多いのは、いつもの事。

 二人を囲むように眷属達が、手に苦無(クナイ)や小太刀、呪符を持って襲い掛かった。

 

「「「「「串刺しになりやがれ!」」」」」

 

 男性眷属百数十二人からの〝飛び苦無(トビクナイ)〟。

 

 ヒーンと空を裂き、ツキハの四方八方から迫りくる。

 

「爆震脚」

 

 ツキハはそう呟くと、右足を前に放り出すように出し、中腰の形で震脚を踏んだ。

 

 ドズンッ。

 

 重く低い重低音と共にルヴナン支店敷地内の大地が激しく揺れ、ツキハを中心に半径五十メートルの地面が火山が噴火したように爆発した。

 

 大量の土砂が空に向けて吹きあがり、あたかも豪雨のようにザザァアーっと周辺に降り注ぐ。

 

 その衝撃波で〝飛び苦無(トビクナイ)〟は宙に打ち上げられ、バラバラと音を立て地面に落ちてきた。

 

「「「「「ほげぇええええっ」」」」」

 

 ついでにツキハを囲んでいた男共もセットで空に打ち上げられ、バタバタと地面に落ちて来る。

 衝撃波をモロに喰らった男共は目を回し、フニャフャ~と気の抜けた呻き声を上げながら気絶していた。

 

「このおーですぅー」

 

 いつの間にかツキハの背後に回り込んでいたロモコが、ツキハの腰目掛け縦拳を打ち込んだ。

 

〝天牙影千流・柔術拳技 尖孔烈華(せんこうれっか)

 

 しかし、後ろを振り向きもしないままツキハは、ロモコの縦拳を尻尾で叩き払った。

 

 パン! 乾いた音を響かせロモコの右拳が(はた)かれ、体勢を崩すロモコ。

 

「あらら!?」

「うんうん。あたしの背後を取るなんて、中々に鍛えているねロモコ」

「え? えへへ~。ちゃんと頑張っているんです~」

「でも、まだまだ鍛えないとね」

「――はい? きゃうぅ!」

 

 ツキハから褒められたロモコは嬉しさのあまり、ほんの一瞬だけ気を抜いてしまう。

 そして、鞭のようにしなったツキハの尻尾で左脇腹を殴打される。

 

 ゴロゴロと地面を数メートル転げまわりながら止まり、ロモコは体を丸め左脇腹を手で押さえたまま半泣きで言い放つ。

 

「ううぅー。痛いですぅ酷いですぅ~。でも、死にやがれですぅー」

 

 半泣きの言霊(ことだま)(とな)えられた。

 

 かこめ 

(囲め)

 

 ツキハを覆い囲む円錐(えんすい)の幻想結界。

 

 その半径三メートルの円錐(えんすい)結界の中の酸素が急激に減少し、(くす)ぶった魔炎と魔力酸素球がツキハの足元でユラユラと揺れていた。

 

「お?」

 

 ツキハが声を出した瞬間――

 

 言霊(ことだま)が宙を走る。

 

 もえさかれ

(燃え盛れ)

 

 〝火遁・逆爆炎流《バックドラフト》〟

 

 隔離された結界空間内が一気に膨大な魔力酸素で満たされ、爆発的に燃え上がる魔炎。

 一瞬でツキハを魔炎の業火が包み込み、焼き尽くしていく。

 ゴオォーッと唸りを上げ荒れ狂う魔炎が、うねりながら結界内を暴れ回る。

 

「灰になるといいですぅ~」

 

 地面に横に倒れ体を丸めたままロモコは、吐き捨てる。

 

 しかし――

 

「うんうん、良い置き土産だったよ。クレイマンクラスなら焼却完了だね。ウキキッ」

 

 確かに結界内のツキハは燃えているのに、体を丸めているロモコの頭をポンポンと優しく叩く、ツキハの手があった。

 

「ふあ?」

 

 そう、ロモコは尖孔烈華(せんこうれっか)を囮にして、本命の忍魔術をツキハに仕掛けていたのだ。

 

 しかしそれは――

 

 〝幻遁(げんとん)変わり身の術、虚ろ猫〟で創り出した身代わりであったのだ。

 

「ううぅ~、理不尽この野郎ですうぅ~」 

 

 あっさりと自分の捨て身技を(かわ)されたロモコは、シクシクと半泣きで文句をたれる。

 

 ロモコ脱落。

 

 下剋上に参加した眷属達の三分一が、既に脱落していた。

 

 

「なんやなんや、もっと本気できなはれ。きばって、襲い掛かりや!」

 

 ドーン、ドーンと響く爆発音。

 

 襲い来る眷属をモノともせず、優雅に歩きながら爆裂呪符を投げていくコハク。

 

 ドドーーン。「「「「「みぎゃぁああああ」」」」」

 

 ドゴォオオオオンッ。「「「「「うぎゃあああああ」」」」」

 

 呪符が炸裂するたびに、まるでコントのように放物線を描き、吹き飛んでいく眷属達。

 

 もはや、コハクに近付く事さえ困難を極めていた。

 

 どうにかしてコハクを囲んだ百数十人の男女眷属。

 

「よし、前後左右時間差でいけ」

 

 一人の眷属が叫び。

 

「「「「「おうよ!」」」」」

 

 他の眷属が声を上げる。

 

 

 しかし――

 

 ここでコハクの広範囲爆裂術が炸裂する。

 

「あんさんら、足元用心やでぇ。うちが、なーんも考えなしに歩き回っていたと、思うてはるんか?」

 

 ニヤーッと口端を上げ笑うコハクは、右手の小指を立てて上に上げた小指の先には。

 

「「「「「はあ?」」」」」

 

 蜘蛛の糸のようにキラキラと光る、極細の糸が小指の先から出ていて、コハクの足元に()れていた。それを見て眷属達は動きを止め、何だそれ? みたいな声を出す。

 

 それはコハクが魔素と魔闘気で作り出した念糸であった。

 

 その極細の念糸は、眷属達の足元を這うように設置されていて、コハクの小指の先に繋がっていたのだ。

 

 コハクの言霊(ことだま)と術名が空に響き渡る。

 

 れんばく 

(連爆)

 

「忍魔術、火遁・爆導糸(ばくどうし)

 

 念糸が赤くポワリと輝くと、コハクを中心に渦を巻くように連鎖爆発が起きた。

 

 ドドドドドドンッ! まるで地面に埋めた地雷が連鎖爆発するかの如く爆発していき、コハクを取り囲んだ眷属達を(まと)めて吹き飛ばしてしまう。

 

「「「「「はあぎゃああああ」」」」」

 

 真下から来る爆発に、為す術も無く空に打ち上げられる眷属達。

 その数秒後、ドサドサーと地面に落ちて来て、力なく転がる眷属達であった。

 

「「「「「ふにゃあああぁ~」」」」」

 

 誰もが爆発と落下の衝撃で目を回し、気絶していく。

 

 こうして、不毛な? 下剋上は続いていき、最後に残るはサンコだけになった。

 

 コハクは襲い来る眷属を皆撃退して、ツキハと対峙するサンコを見ていた。

 

「にゃふふ。そろそろ、疲れたかニャ?」

「うーん。ちっとも」

「にやぁ~。少しは疲れるニャよ、守銭奴バカ主」

「今回は、あたしが疲れるのを待っていたようだけど、みんなと一緒に来た方が良かったんじゃない?」

「そうかもニャ。リンコの狙撃も牽制にもならなかったニャ。う~ん、どうするニャ?」

「いやいや、下剋上しなよ」

「でもニャ~。無駄な戦いはお金を呼ばないのニャよ?」

「まあそうだね。一銭の得にもならない戦いもあるんだよねぇ」

「そうニャ~。でも、強いヤツと戦うのは楽しいニャよ? でもでも、お金にならない戦いもあるニャ」

「いやいや、」それ言い出したらキリがないじゃん」

「キリがないより、(ふた)がない?」

「意味わかんねえし! なんも考えてないだろサンコ」

「ニャあ~。考えてはいるけどニャあ。そう言えば何してんのニャ? バカ主」

「アンタの下剋上を待ってんのよ」

「んニャ? ……そうだったニャ。アチシは――」

 

 相変わらず意味不明で頓珍漢(とんちんかん)な会話を繰り広げるサンコ。

 しかしツキハは、そんなサンコの会話にはビクともしない。

 

 そして、サンコは思い出したように何かを言いかけると――

 キラーンと目を輝かせて、一気に〝瞬歩〟でツキハの間合いに飛び込んだ。

 

「にやははは! 油断したニャ、バカ主。喰らうニャ、猫鉄拳奥義、ニャンコ百裂拳!」 

 

 ズバババーと、神速の猫パンチがツキハに叩き込まれた。

 

 それをツキハは、肘で迎え撃つ。

 

 ガガガガガッ。お互いの拳と肘がぶつかり合う。

 

 二人とも魔闘気で拳と肘を強化しているので、骨が砕ける事はなかった。

 

「ニャッ!」

 

  パンチを打ち終えたサンコは、すかさずその場でポンと軽く飛ぶフェイントを入れ、そのままツキハの腹部目掛け左後ろ回し蹴りを放つ。

 

 ズガッ。ツキハはそれを両腕を交差させて受け止める。

 

「おお。いい虚実の使い方だ」

 

 しかし、受け止めた後ろ回し蹴りの威力は、ツキハの身体を数十メートル後方に吹き飛ばした。

 ツキハは少し腰を落として踏ん張り、ズザーッと両足が地面を抉り長い二本の線を描く。

 

「にやっはぁー。猫鉄拳奥義その二、ニャンコ百裂脚!」

 

 吹き飛んだツキハを追うように接敵して来たサンコが今度は、右横蹴りの連打を見舞う。

 

 上下中上下中下上と、凄まじい速さで蹴り分けるサンコ。

 

「うにゃにゃにゃあああああっ!」

 

 サンコが雄叫びを上げて蹴りの速度を上げていく。

 

 ツキハはそれを、手で受け流し(さば)いていった。

 

 そして、蹴りの応酬が不意に止まると。

 

「あにゃあッ!」

 

 蹴る動作をした右足を、膝だけ上げてピタッと止め、右足を降ろした瞬間――

 

 サンコは左に身体を倒しながら、一気に高速左回転をする。

 

 バシーンッ! 左胴回し蹴り。

 

 だがツキハは、それをも読んでいたのだ。

 

 左腕を上げて、左顔面を防御した。

 回転の勢いが乗ったサンコの蹴りは、ミシリと骨の(きし)む音を上げる。

 

 サンコは地面に倒れた体を転がりながら跳ね起こし、一旦間合いを外す。

 

 お互いに顔を見合わせると、ニヤリと笑いを浮かべる。

 

「やるじゃんサンコ」

「うニャー。あれを防ぐなんて、この理不尽バカ主メエ」

「んじゃ、やるか?」

「はいニャ!」

 

 そう言い二人は、また、闘いを再開する。

 

 流石に飽きたのかコハクは「先に帰るでえ」と言い残すと、中央都市リムルの飲食街へと『空間転移』して行った。

 

 気絶していた眷属達も意識が回復して口々に――

 

「ああスッキリした」

「また今年も瞬殺かよ、クソ。まあ、来年もやるか。ガハハハ」

「来年こそ、燃やし散らかしてやるですぅ~」

「疲れた……。酒飲みに行こう……」

「はあーっ。今年も駄目だったかぁ。ほんとやんなっちゃう。でも、楽しかったな。ウフッ」

「また来年から理不尽なお役目が回って来るのかあー! もういいや、飯食いにいこう……」

「クスン……。来年こそツキハ様の偽造予算申請書を残らず捨ててやるんだからあぁ―ッ! はあ……吉田さんのお店にケーキ買いにいこ」

 

 などど、愚痴を言いながらもどこかスッキリした顏で中央都市リムルに向けて、『空間転移』していく眷属達であった。

 

 

 一方、参加しなかった眷属達はというと……。

 

 大半の者達がロロロオ主催の、〝誰が最後まで残るか?〟の賭けをしていたのだ。

 

「やっぱり今年も、最後に残ったのはサンコだったわねぇ。ウフフフ」

「くそおー。今年こそサンコのヤツ、最初にやられると思ってたんだけどな。なあロロロオ、胴元でしこたま稼いだだろ? 焼肉奢れ!」

「サンコに賭けて正解だったな。ウシシシ」

「サンコのヤツまた最後まで残りやがったか。チクショーー」

「負け猫の遠吠えは心地良いわねぇ。ウフフフ」

「「「「「なんだとー、ロロロオ!」」」」」

「まあまあ、そう怒りなさんな。私がリムル様ご自慢の居酒屋で一杯奢るわよ。さあさあ、行くわよみんな。ウフッ♪」

「「「「「なに!? ゴチになります、ロロロオさん!」」」」」

 

 賭けに勝った者、負けた者、お互いが笑い合いながらゾロゾロと、酒場街に向かって行った。

 一気に満席になった居酒屋は、先に来ていた客と、ロロロオ達の笑い声で満たされていく。

 

 人間も魔物も一緒になって酒を酌み交わす、そんな魔国の居酒屋なのであった。

 

 

 そして、ツキハとコハクの自宅隣のイチコの家では、囲炉裏端で向かいあい酒を飲みながら談笑している、イチコとイチオがいた。

 

「今年も飽きずに良くやりますね、サンコ姉さん」

「あの子は、毎年これを楽しみにしてるもの。フフ」

「それにしても、この日が近づくと姿を消すニコ姉さん。本当にどこに行ってるんでしょうかねえ……」

「いいじゃない。あの子にはあの子で、大事な何かがあるんでしょう」

「そうですかあ、(かあ)様?」

「そうよ、イチオ。私は母親だもの。だからわかるの」

「ふーん。まあ、それならいいですけど」

「でもイチオは、今年も参加しなかったわね」

「はい。あまり、ああいうのは好きになれなくて、どうも……」

「フフ。いいのよ、気にしなくても。〝猫は自由〟、ツキハ様もコハク様も、それを私達に望むもの。だから、貴方も好きに生きなさい。眷属としての務めも立派に果たしてるのだから、胸を張りなさい。ニコはニコ。サンコはサンコ。イチオはイチオよ。もし、貴方の生き方を否定する者がいたら、この母がその者を滅してやります」

「ああ、いや、大丈夫です。自分でやれますから。もう、子供ではないんですよ?」

 

 そう言うとイチオは、盃に入った酒をグッと飲み干す。

 

 それを見ながらイチコは、(たもと)で口元を隠しクスリと笑う。 

 

「ごめんさいね。母にとっては、貴方達はいつまでも大切な子供なの。でも、貴方は本当に大人になったわね。母は嬉しいです」

「え? そんな、そうですか? ああ、まあ、うん、何というか、姉さん達はもっと大人になって欲しいです。本当に……」

 

 イチコは優しく微笑みながらイチオに言った。

 それを聞いたイチオは、少し照れくさそうに猫耳をポリポリとかき、尻尾をピンと真上に立てる。

 

「それにしても静かになりましたね。ツキハ様とサンコ姉さんの闘いは終わったんでしょうか?」

「多分、もう飽きて、二人でどこかに遊びに行ったんじゃないかしら?」

「あああ、それ、有り得ますね」

「ツキハ様もサンコも、ほんと、本当の姉妹みたいで、母はとっても嬉しいですよ。ウフフフ」

「流石にツキハ様が姉さんって、ご勘弁願いますよ。ハハッ」

「あらあら、イチオも中々に言いますのね。フフ」

「あ! いやいやいや、これは、その、あ!? まだ今日だから下剋上の日です。だからこの発言はアリですよ」

「まあ。イチオの、細やかな下剋上初参加ですね」

「え? ああ確かに。そうなりますね」

 

 二人して顔を見合わせると、クスクスと笑い始めた。

 

 囲炉裏の燃え盛る(まき)がカラリと音を立て、火の粉を上げる。 

 

 

 こうして、〝一年一度の下剋上の日〟は、終わりを迎えていく。

 

 

 また新年になり、新しい下剋上の日がやって来る。

 

 

 そんなツキハとコハク、そして眷属達のちょっとしたお遊び。

 

 

 

 今はもういない、クレイマン。

 これを聞いた時、とても信じられないといった顔をしたのは言うまでもない。

 

 

 

 





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