忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。148話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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148話 魔国連邦(テンペスト)の年末

 

 

 今年も残すところ、後七日。

 

 

 円形闘技場(コロッセオ)も予定通りに工事が進み、年明けには外周の工事を残すのみとなっていたのだ。

 

 その間、地下迷宮(ダンジョン)もほぼ完成に近づいた。

 それを見てリムルは、一旦迷宮創作の手を止め、ラミリス達に作業は年明けからやろうと提案すると、皆がそれに賛同して、暫しの休みを楽しむ事になった。

 

 ミリムは、このままツキハの家にお泊りすると宣言をし、ツキハが「アンタは家帰れよ!」と抵抗をする、が。

 

 「嫌なのだ、絶対にお泊りするのだ!」と、ツキハの激しい抵抗も(むな)しく、ミリムはツキハとコハクの家にお泊りをする事になったのだ。

 

 こうして、各々の短い休暇が始まる事になった。 

 

 ヴェルドラとツキハは、お決まりの漫画を読みながらゴロゴロする毎日へと突入する。

 ラミリスはというと、ミリムと何やら、あれやこれやと迷宮について楽しく談議をしていた。

 

 そして、リムルは、……。

 

 

 

 ★ちっちやな頃から問題児?★

 

 

 リムルは執務室で溜まった仕事を片付けると、珍しく一人で昼食を取ろうと、幹部と配下用食堂に来ていた。

 

 お昼のスペシャル定食が載ったトレイを持ち、座る場所をどこにするか探していると、一人でお昼を食べているコハクを見つけ、そこに向かう。

 

「よっ、コハク。一人でお昼は珍しいな」

「何や、リムルもお昼どすか。そらうちでも、一人で静かに食べたい事もありますねん」

「ああ、やっと溜まった仕事が一段落したんでな」

「何やツキハ達と、おもろい事やってるそうやないか。フフッ」

「まあなぁ。ククッ」

 

 お互いに顔を見合わせると、クスリと笑い合う。

 

 挨拶を済ませたリムルがコハクの真向かいに座る。

 

 今日のスペシャルメニューーー

 メインのおかずは炭焼きハンバーグに、新鮮な野菜のサラダ、ドレッシングはリムルの元いた世界のイタリアンドレッシングを再現したものに、陶器で作られたマグカップに入ったコークリームスープ。デザートは、カスタードクリームがのせられたプリンであった。

 

 コハクもリムルと同じ定食を食べていた。

 

 リムルは食べながら年明けにやる行事と、テンペスト軍とルヴナンとの合同訓練などをやらないかと話し、コハクもルードネスの訓練状況を報告していく。

 

 そして、リムルが何かを思いついたようにコハクに尋ねて来る。

 

「そうそう。コハクの迷宮領地にも学校があったよな?」

「へえ。学校()うても、読み書きと計算教える位のもんやで」

「確か、教授も先生やってよな」

「せやな。でも、能力(スキル)を使った指導やないで?」

「あ、うん。それはわかってるさ。それでな、俺の国にも学校を作ろうと思うんだ。それで、一つ相談なんだが、いいか?」

 

 リムルは、そう言ってコハクを見る。

 それを聞いたコハクは、ウッドジョッキに入った水をゴクリと一口飲むと、「ええで」と、話の続きをリムルに(うなが)す。

 

 

「学校を作ったらさ、ある子供達をこの国に呼び寄せようと思ってるんだよ。だから、その前に一度この国を見せようと、開国祭に招待もしてある」

「そうか、そらよろしおすな。で、相談とはなんやねん?」

「シャルフューズの子供達を何人か、うちの学校に転入させないか? まあ、魔国とシャルフューズの交流の一環としてと、考えたんだが、どうだ?」

「へえ。そらかましまへんで。うちの子達も喜ぶやろな。最近は、中央都市リムルに遊びに行く子も増えましたしな」

「そうか。なら、学校が出来たらまた話し合おう」

「へえ。そん時は、よろしゅうに」

 

 そこで一旦会話を終えると、リムルとコハクはお昼を食べていく。

 

 …………

 

 ……

 

 昼食を食べ終えたリムルコハク。

 すると、コハクが席を立ち、リムルとコハクの分のコーヒーを持って来て、二人はそれを飲み一息ついていた。

 

 そこで、リムルがやおら口を開く。

 

「ああ、そうだ。ツキハとかさ、子供受けがいいから、学校に体験入学とか面白そうだよな」

「せやねぇ。でもな、やめときなはれ」

「え? 何で?」

「そこな、跡形も無く吹っ飛びますえ」

「はい?」

 

 コハクの言葉にリムルが驚いた声を上げる。

 

「なあコハク、何でそうなるんだよ?」

「せやねぇ、うーん……」

「そう言えばさ、初めてお前達の迷宮領地に行った時にも、学校みたいな場所で、ツキハが何か言ってお前口を濁したよね? 昔に何かあったの?」

 

 そうリムルがコハクに尋ねると、コハクは下を向いたまま腕を組み、うーんと唸ったまま押し黙ってしまう。

 

 しかし、()ぐに顔を上げると、その訳を話し始める。

 

「まあ、よろしやろ。単刀直入に()うとやな。ツキハは、超が三つ付くくらい、読み書き計算などを教えるところが大嫌いやねん」

「え? それで何で学校が吹っ飛ぶことになるんだよ」

「あれは、うちとツキハがまだ人間で、七歳の頃やった――」

 

 二人がまだ忍びとしての訓練をやっている幼き頃。

 

 どこの忍びの里でも、小さい女衆と男衆は、三歳から十歳になるまでに読み書きと計算、それにあらゆる作法を教え込まれるとコハクは話す。

 

 まず、武家の屋敷の子供や主、奥方(おくがた)の護衛をやる時の作法。

 踊りから言葉使いに立ち振る舞い、更に町人や農民に変装する術、忍びは潜入工作や諜報活動に要人暗殺などもやらなければならず、人を(あざむ)く手段を身に着けていくと、語った。

 

 そして、ツキハはこの勉強が何よりも嫌いだったと、苦笑いしながらコハクは言う。

 里には、畳三十畳の大広間がある屋敷があって、そこで子供達は学んだと。

 

「あの子なぁ。物心ついた頃から、剣術や体術の修行はめっちゃ好きやったねん。でもな、こと読み書き計算とかの日になると、いつも逃げ出してたんや」

「へー。何かアイツらしいというか、まんま今のアイツみたいだな」

「せやねぇ。それでな、あんまりいつも逃げ出すもんやさかい、里の大人達がその日になるとツキハを捕まえて、柱に縄で(くく)り付けて無理やり読み書き計算などを教えたんどす」

「柱に縛り付けてか? そらまた、何と言うか、アハハ」

 

 リムルは、小さいツキハが柱に縛られて勉強させられているところを想像して、つい笑ってしまう。

 

「まあ、それで一応は大人しくなったんやけど。暫くしてな、裏の山で奇妙な爆発音が響くようになったんねん」 

「ええ? 爆発音ってさ、何か物騒だな」

「でもな、里の者はあまり気にせえへんねん」

「何でだ?」

「裏の山は、里の大人が火遁や火薬を使った罠、火縄銃の訓練に使ってたんや。だから気にしなかったんどす」

「へえー、火遁かぁ。ほんとお前達のいた日本って、和製ファンタジーの世界だよな。妖怪や怨霊みたいなものもいたんだっけ?」

魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈し、戦乱渦巻く中々に楽しい世界やったで。フフフ」

「なるほどなぁ」

 

 コハクは昔を思い出したのかクスリと笑い、コーヒーのカップを手に取り、ゆっくりと喉に流し込んでいく。

 

 そして、ホッと息を吐くと、話を続けていく。

 

「毎日毎日、夕方近くにポン、ポンと爆発音が鳴っていてな、それがいつしか、ドン、ドンと、大きくなっていったんよ」

「ほおお。それで――」

「それが二週間近く続いたある真夜中。里を大きな爆発音が襲ったんや」

「はあ?」

「襲撃かと、里の大人達が爆発がした方に行ってみると――」

「どうなった?」

 

 ここまで来るとリムルは、何が起こったか察しがついたが、敢えてコハクに聞く。

 

「子供達に読み書き計算を教える屋敷が――綺麗さっぱり屋根だけを残して、ぺしゃんこやねん」

「おいおいおい、それやったのまさか――」

「せや。ツキハが屋敷を破壊したんやで」

「うわぁ……それ、被害者が出たんじゃね?」

「その屋敷に人は住んでなかったんや。そして、ツキハはそれらを計算に入れ、周りの家に被害が出ないように火薬の量を調整していたんやで。恐ろしい子やろ? ウフフフ」

「あぁ……七歳でそれって、ああ、あれだ、何と言うか、うん、そうだね」

 

 クスクス笑いながら言うコハクに対して、どう返していいかわからず適当に相槌(あいづち)を打つリムルであった。

 

 コハク曰く(いわ)――

 

 ツキハは、強制的に勉強をさせられてから、密かにこの屋敷を破壊しようと考え始めていたらしい、と。

 

 そして、里の武器庫から、火薬を盗み出し、裏山の奥の方で屋敷を爆破破壊する方法を模索していたと。

 

 裏山の木を使い屋敷の柱だけを破壊する火薬の量を、調整しながら試していたと。

 

 コハクの説明を聞きながらリムルは、あるビル解体の方法を思い出す。

 

(おいおい、それって……。爆破式ビル解体のやり方に似てるじゃねえかよ。戦国時代の子供が考えつくのかよ、そんな事を?)

 

「なあコハク。子供が、そんな爆破方法を普通考えつくのって、どんな頭してんだよツキハのヤツ」

「ツキハなぁ。自分の自由を阻害する者は、等しく敵やねん。ほんま、里でも問題児のやんちゃ娘どしたからなぁ。でえ、その自由を阻害する敵を滅ぼす為なら、物凄い考えを思い付く子なんやで」

「それさ、ある意味天才と言わないか?」

「せやねぇ。天才と言うよりも、鬼才やろね。普段はボーっとして、いつもめんどくさそうな顔してる子やったさかいな。()うても、今もそんなに変わらしまへんけどな」

「ふーん。あ! それで〝猫は自由〟が信条なのか! なるほどなぁ」

「ツキハな、家で猫をニ十匹くらい飼ってたんどすえ。里でも無類の猫好きやったんや」

「何と、本当に猫好きだったんだ。でさ、それってツキハがやったとバレたの?」

「へえ。ツキハのおかあさんがな、ツキハの首根っこを掴んで引っ張って来て、里の(おさ)のところに謝罪に来たねん。まあ、怒られはしたんやけど、子供でそんな爆破の術を使いこなすのは凄い! と(おさ)もツキハのやった事を不問に付すと言って、お(とが)めなしやねん」

「へえー。流石忍びというか、将来有望な子供には寛大なんだな」

「それは違うで、リムル。人的被害はなかったさかい、それで済んだんやで。怪我人が出ていたら、まあ、酷いお仕置きを喰らってたやろね」

「ふーん。そこまで計算づくでやれて、何で勉強嫌いなんだよ」

「さあ、何でやろな? 体を動かすことが何よりも大好きだった子やからなぁ。あの頃から〝戦いこそあたしの生きる道〟とか言ってたんやで。ほんま、忍びをやる為に生まれて来たような子や、ツキハは」

 

 そう言うとコハクは、少し遠い眼をしながら窓の外の景色に視線を移す。

 

 外は降り積もる雪で白く染まっていた。

 

 リムルも窓の外で降る雪を何とはなしに眺め、カップに残ったコーヒーを飲み干し、ソーサー(受け皿)にカチャリと置いた。

 

 そしてリムルは、最後に小さい頃のツキハがその後どうなったかをコハクに聞いた。

 

「それでさ、ツキハの勉強はどうなったんだよ。やらなくてよくなったとか?」

「そんな訳あらしまへん。読み書き計算や作法教える時には、ツキハのあかあさんが付き添う事になったんや」

「え? 母親が監視役?」

「せやで。ツキハの唯一逆らえんお人やったさかい。()うてみれば、ツキハの最大最強の天敵や。うちでも、怖いと思うことあったんやで。ほんま、うちのあかあはんと同じで、怒ると、めっちゃ怖かったどすなぁ」

「ほおぉ。怒ると人が変わるとかか?」

「うちのおかあはんは、普通に怒るんやけど。ツキハのおかあさんは、静かにニコニコと怒るねん。声も荒げず淡々とニコニコしながら怒るんどす。あれは、アカンヤツやねん。うちもツキハと一緒に悪さして、怒られた事あんねんけど、それはもうトラウマ級に怖かったで。里の大人達すらも、ツキハのおかあさんを怒らすなと()うくらいやったやからな。フフッ」

「へ、へえー(うっ、何か、身近に似たお人がいるような、いないような?)」

「ま、そう()う事やリムル」

「そっか。そう言う事ならツキハを学校に体験入学させるのは()めておこう。間違って爆破されたら大変だからな。ハハハッ(何か、人間の頃からあまり変わってないんだな、この二人。こういう話もたまにはいいもんだ)」

「せやな。フフフ」

 

 リムルは、コハクとツキハが普段あまり話してくれない人間だった頃の話を聞けて、どこか上機嫌だった。それから暫く年明けの行事の事を話しながら午後の時間は過ぎていく。

 

 冷え切るような冷たい空気も、この食堂の中ではほんわりと暖かい空気に変わっていた。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ★真下にロケットダイブ★

 

 

 降り積もった雪が日に光りに反射してキラキラ光る昼下がり。

 

 

 魔国連邦(テンペスト)(そば)にある支流の一つの川にある、川舟を止める小さい桟橋(さんばし)にサンコと、小さいゴブリナの子供五人が向かっていた。

 

 サンコは右手に、直径二十五センチの網が付いた長さ二メートルの虫取り網を持ち、左手には竹で編んだ蓋付きの丸い壺型の(かご)を持っていた。

 

 川辺に付きサンコは桟橋の(はし)に行くと、腹ばいになり水中を覗き込む。

 それから手に持った虫取り網を水中に突っ込み、左右に動かし始める。

 

 ゴブリナの子供達は、サンコから少し離れたところで、それを見守っていた。

 

 サンコが何をしているかというと――

 

 体長十五センチほどの川海老を取りに来ていたのだ。

 冬の川海老は、寒さを乗り切るためにまるまると肥えており、塩焼きにして食べると中々の珍味であったのだ。

 

 サンコが街の中を虫取り網と丸籠を持って歩いていたら、ゴブリナの子供達がサンコを見つけて、何してるの? と聞いて、サンコが川海老を取りに行くと言うと、私達も食べたいと言い、サンコが「それなら一緒に行くニャ」と言って、この川に来たのである。

 

「にゃぁー。何か桟橋の柱が新しくなってないかニャ? ()が付いていないから、川海老があまり寄ってこないニャよぉ」

 

 水深一メートル六十センチあまりの川底を覗きながら言うサンコ。

 

 時折虫取り網が桟橋の柱にカツンカツンと当たり、乾いた音を立てていた。

 

「ねえサンコちゃん、その柱なんだけどね。三日前にツキハ様が川海老を取りに来てて、うっかり壊したんだって、あたしのパパが言っていたんだけど」

「にゃぁ? まーたあの守銭奴(あるじ)はやらかしたのかニャ」

 

 一人のゴブリナの子供がそう言うと、また別のゴブリナの子供がサンコに向けて言った。

 

「いけないんだー。主様にそんな口はいけないんだよー」

「いいのニャ。アチシらはそれを許されてるから問題ないニャよ」

 

 サンコがそう返すと、また別の子がサンコに言う。

 

「そ、そこの柱なんだけど、あのね、その」

「にゃぁ?」

「わたしのお父さんが、ね。し、しゅう、修理したんだけど、ね、ね」

「うにゃあ、ハッキリ言うニャ。修理したならいいんじゃないかニャ?」

 

 水中の柱の周りにいる川海老を網で(すく)おうと激しく水中で虫取り網を振り回し、ガツンガツンと激しい音を立て始めるサンコ。

 

「だからあ、その柱はね、まだ、仮組って、言ってたんだよ。危ないから近寄っちゃ駄目って言ってたのぉ」

 

 そうゴブリナの子供が言った時。 

 

 ガコォン。何かが外れるような音が響く。

 

「「「「「あ!」」」」」

 

 子供達が声を上げた瞬間――

 

 柱を失った桟橋の端の部分、長さ一メートル七十の一枚床板が水中に向かって折れ曲がる。

 

「ニャ!?」

 

 滑り台のようになった床板の上を、真っ逆さまにロケットダイブのように水中へ撃ち出される、サンコ。

 

 ザパアァーン!

 

 見事頭から川底へ突っ込んだサンコ。

 

 プクプクプクと水の泡だけが水面に浮かんで来ていた。

 

 折れた床板の端から川底を覗き込むゴブリナの子供達。

 

「浮いて来ないよ?」

「来ないね」

「お、お、溺れたの、かな?」

「うーんとね、番外魔王様の眷属だから大丈夫だと思う」

「もう、帰ろっか?」

 

 などと、口々に言いながら暫く水面を眺めていた子供達。

 

 やがて、ポコ、ポコポコポコと連続した泡が水面に上がって来ると、何か小さい物体の頭が浮かび上がってきた。

 

 その頭は、白黒茶の三色毛の頭をした、三毛種魔猫だった。

 

 ずぶ濡れの頭がまず上がって来て、柱が倒れて水面に折れ曲がったままの床板をカッカッと音を立て上がって来る。

 

 その魔猫はサンコであり、右手には折れた虫取りを持っていて、左手には丸籠を掴んでいた。

 

 後ろ足の爪だけを伸ばし、床板に引っ掛けながら上まで上がって来たサンコ。

 

 ゴブリナの子供達の前に、ボーッと立つサンコの体からは、水がポタリポタリと(したた)り落ちていた。

 

 上がって来たその姿はずぶ濡れで短毛種でありながらも、濡れた全身の毛が体に張り付くようになっていて、何ともいえない姿になっていたのだ。

 

 猫耳は後ろに()ってイカ耳みたいになって、力なく開かれた両目は、どこかやるせない気持ちを表していた。

 

 それを見た子供達は――

 

「「「「「キャハハハハ」」」」」

「サンコちゃん体が細くなってる? アハハハ」

「魔猫が水に濡れると、どこか可笑(おか)しいね。ウククク」

「だ、大丈夫? 早く乾かさないと、か、風邪を引くよ?」

「プクッ、クククッ、ダメ、笑いが、キャハハハハ」

「ねえサンコちゃん。川海老取れたの?」

 

 とりあえず心配はするも、サンコのずぶ濡れの姿が可笑しくて笑わずにはいられなかった子供達。

 

 サンコは後ろ足で立ったまま、疲れたようにそれに返す。

 

「にゃあ……川海老は取れたニャよ。もうめんどくさいから、落ちたついでに潜って取ってきたニャ」

 

 そう言うと、左手に持った丸籠の蓋を開けてを子ども達に見せる。

 籠の中にはびっしりと川海老が入っていて、百匹近くは入っていた。

 

「「「「「わあぁー」」」」」

 

 籠の中にびっしり詰まった川海老がビチビチと跳ねる姿を見て、子供達が声を上げる。

 

 一頻り見せるとサンコは籠の蓋を閉め、魔猫状態で立ったまま後ろ足だけで歩き出す。

 

「行くニャよ、チビッ子ども」

「「「「「はーい」」」」」

 

 そう言いながらサンコは、折れた虫取り網をカラカラと引き()りながら、丸籠に付いた紐で籠を肩に担ぎ、濡れた毛から水を滴らせながら歩き出す。

 

 その後を、浅く積もった雪に足跡を残しながら、ゴブリナの子供達がキャイキャイと騒ぎながら付いて行く。

 

 そして、ルヴナン支店まで帰って来たサンコは焚火を起こし、細く切った木の枝に川海老を刺し、焚火の周りに置いて焼き出す。そして、塩を川海老にパラパラと振りかけていった。

 

 やがて、香ばしい香りが漂って来て、ゴブリナの子供達が一斉にグウゥーッとお腹の音を鳴らす。

 

 サンコはこんがり焼きあがった川海老を、子ども達に渡していった。

 

「できたニャ。熱いから気を付けて食べるニャよ~」

「「「「「いただきまーす」」」」」

 

 子供達は、息をフーフーと吹きかけると、皮ごと川海老に(かぶ)り付いた。

 パリパリと小気味(こぎみ)良い音を立てて食べる子供達。

 

「おいしーー」

「皮パリパリ、中はプリプリして、うま!」

「あつ、あ、あつ、あつつ、おいし、あつ。おいしい」

「サンコちゃん。お代わりいい?」

「わたしもー」

「沢山あるから、どんどん食べるといいニャ」

「「「「「わーい」」」」」

 

 焚火を囲んで川海老を食べるサンコと、ゴブリナの子供達。

 

 川海老を焼く匂いを嗅ぎつけて、キャットタワーで寝ていた眷属達もゴソゴソと起きてきて、いつしか焚火の周りはちょっとした人だかりが出来ていた。

 

 ゴブリナの子供達はそんな眷属達を怖がる事もなく、にこやかに眷属達と離しながら一緒に川海老を頬張る。

 

 その内誰かが、野生のケガモ(鶏鴨)を取って来て(さば)き、それを串に刺して焼き始める。

 

 すると、別の眷属が酒を持って来て皆に配り始めたのだが。

 

「こらあー! 子供達に酒を配るんじゃニャい! リムル様に怒られるニャよ!」

 

 と、子供達に木のコップを渡し、果実酒を()ごうとした馬鹿者に怒る。

 

 サンコがツキハとコハクの自宅隣にあるイチコの家に行き、リンゴを(しぼ)ったジュースが入った小樽(こだる)を持って来て子供達に分けていった。

 

 うっすらと日が落ちて来て薄暗くなった敷地に、ひときわ明るく燃え盛る焚火の灯り。

 

 その灯りに照らさるサンコとゴブリナの子供達、それに眷属達。

 

 皆の笑い声が、ルヴナン支店敷地に響いていく。

 

 寒い冬の、ちょっと心が暖まる一時であった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ★大晦日前の(もち)つき大会★

 

 

 今年も後二日で終わり。

 

 そこでリムルが、密かに作っておいた餅米で餅つき大会をやろうと皆に言い、皆で餅つきをやる事になった。

 

 しかし、街中でやるには人数が多すぎるという事になり、急遽ルヴナン支店敷地を借りてやることになったのだ。

 

 そしてリムルは、この餅つき大会の前に、クリスマスも魔国連邦(テンペスト)で再現しようとした。 

 よくある、異世界でのサンタの解釈間違いを防ぐべくリムルは、最初にきちんと説明をし、皆に理解を深めてもらった。

 

 こうして深夜のアーリウス(十二月)二十四日の深夜に、有志による魔国に住む子供達へのプレゼント配りが行われたのだが……。

 

 ソリに乗ったサンタ衣装のゴブタ、そしてレプリカトナカイの角を付けたランガ。

 

 同じくミニスカサンタ衣装のツキハと、亜人形態のサンコがトナカイの角が付いた帽子を被り、リヤカータイプのソリを引く。

 

 この、ツキハのミニスカサンタ衣装を推奨したのは、誰だかお分かりであろう。

 

 気配を偽り隠し、『空間迷彩』で姿を隠したエロ猫さんが歓喜の心の声を上げながら、ミニスカサンタのツキハの横を追従していたのは言うまでもない。

 

 話は()れたが、この二組がスピード勝負と称して街中をもの凄いスピードで走りプレゼントを配り始めたのだ。

 

 暴走サンタの出来上がりである。

 

 他のサンタ達を蹴散らし、暴走するゴブタとランガ。

 

 そして、どこぞのモヒカン族よろしく、ヒヤッハァーと雄叫びを上げ暴走するミニスカサンタツキハとサンコ。

 

 翌朝、ゴブタにランガ、ツキハとサンコは、リムルにこっぴどく説教されたのだった。

 

 

 ルヴナン支店敷地内で響く(もち)つきの音。

 

 切り倒した木をリムルが『胃袋』内で加工した、餅米を入れる(うす)と、餅をつく(きね)という、丸く少し太めの幅十一センチの円形棒に、長さ九十センチの柄が付いたハンマーみたいな物。

 

 これらを使い、敷地のあちこちで餅をつく音が軽快に響いていた。

 

 シオンが餅のつき手、ベニマルがつかれた餅を(うす)の中で合いの手を入れる。

 

「いきますよ」

「おう」

 

 (きね)の先を水に濡らし杵を振り上げると、杵の重さだけ利用して一気に振り下ろすシオン。

 

 ドスッ。

 

 ベニマルは(おけ)に入れた水に手を(ひた)すと、合いの手を入れ、すかさず餅を外から中へ織り込むように動かす。

 

 これには、つき手と合いの手を入れる者との呼吸が大切になる。

 

 お互いが朧流の使い手、そこは息ピッタリであったが、たまにシオンがベニマルの手を狙い、ワザとタイミングをズラすのもご愛敬である。

 

「シオン。さり()なく俺の手を狙うのはやめろ」

「フフッ、ベニマル。それくらい(かわ)すのは、造作もないでしょう?」

「言ってくれるな、シオン。フッ」

 

 シオン、ベニマルのコンビは、こうやりながらも次々と餅をつき上げていった。

 

 隣では、ゴブタとゴブゾウが賑やかに餅をついていた。

 

「いくっすよゴブゾウ!」

「いいダスよ、ゴブタさん」

 

 ゴブタがつく、ゴブゾウが餅を折り返す。

 この二人も息ピッタリで餅をつく。

 

 つき上がった餅をゴブリナ達が、この世界にもあるカタクリ粉をまいた長方形の台座の上で、一口大に丸める作業をしていた。

 

 この楽しい餅つきの会場に、ドォーン、ドォーンと、地響きのような音が先程から響き始めていた。

 

 ゴブタ達はそれを気にせずに餅をつくのだが、シオンだけは何故か音の鳴る方を気にしてしょうがない様子だった。 

 

 その音の正体とは――

 

「いいわよ~」

「その手をぶっ潰してやんよ!」

 

 ドォーン!

 

「クソが! 外したわ」

「はい、ザンネン~。次は誰かしらぁ~」

 

 そう、ルヴナン側では普通の餅つきでは飽き足らず、合いの手の手を潰したら、金貨総取りの賭けが始まっていたのだ。

 

 つき手が金貨一枚を払い、合いの手が用意した金貨百枚を狙う。

 

 合いの手のニコが金貨百枚を用意して、挑戦者を(つの)ったのだ。

 

 しかし、予備動作なしの無拍子で合いの手を入れるニコの手を、誰もまだ潰せてはいなかった。

 

 ここまで挑戦者二百七十八名。

 

 金貨の総額は、三百七十八であった。

 

 そこへ――

 

「アチシがやるニャ。ニコお姉、覚悟するニャよ!」

 

 そう言うとサンコは、ニコの隣に置いてある正方形の台座の上に積まれている金貨の山に、金貨を一枚置く。

 

「いらっしゃい~ サンコちゃん。相変わらずおバカ面下げているのねぇ~。アハハ」

 

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「ほざけニャ、バカお姉! 今日はどこに脳みそを落っことして来たんニャ? にゃふふ」

 

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「アハッ。後で念入りに切り刻んであげるからぁ、覚悟しないさいねぇ♪」

「それはこっちの台詞(セリフ)ニャ! 火山の火口に叩き込んでやるニャ!」

 

 新しい餅が(うす)に入れられ、それを普通についていく二人。

 

 そして、ほぼ餅がつき上がり、最後のひとつきになると、ニコが上目使いでサンコを見て、口端に薄く笑みを浮かべ、それが賭けの開始の合図となる。

 

 水桶に手を入れたままのニコ。

 (きね)を肩に担いだままのサンコ。

 

 二人の間に、異様な緊迫した空気が満たされていく。

 

 ……

 

 水桶の水面が微かに揺れたその時――

 

 ドオォーンッ!

 

 けたたましい衝撃音が大気を裂き、鳴り響いた。

 

 サンコの杵は臼に入った餅をついてはいたが、ニコの手は既に餅を折り返し、水桶の中に入れられていた。

 

「うにゃあああああ! 外したニャよぉおお」

「はいサンコちゃん、ザンネンでしたぁ~。アハハ」

 

 ひとしきり悔しがったサンコは、続けて三回挑むもニコの手には当たらなかった。

 

「ふがぁあああ! このバカお姉え――ッ!」 

 

 捨て台詞を吐き捨てながら、他の眷属と変わるサンコなのであった。

 こうして、サンコの後に十四人の眷属が挑むも、誰もニコに勝てなかった。

 

 ここまで、金貨の総額は三百九十六枚。

 

 餅つきが始まってからずっと大人しいミリムは、出来立てのお餅のつまみ食いに夢中だった。

 

 眷属達の勝負を横目で見ているシオンに、ベニマルが声をかける。

 

「シオン。ニコ殿と勝負したいんだろう? 行って来たらいいさ」

「いいのですかベニマル?」

「ああ、構わんよ。リムル様も笑っておられるから、行って来い」

「わかりましたベニマル!」

 

 元気よく返事をして行こうとするシオン。

 

 しかし、ニコの所に行きかけて、何かを思い出したように着ているスーツのポケット中を(あさ)り出す。

 

 だが、どんなにポケットの中を探そうとも、勝負に大事なモノは入ってはいなかったのだ。

 涙目状態でベニマルを見るも、それだけは無理だと言うようベニマルは力なく首を横に振る。

 

 そこでシオンは、そのままリムルの方を見る。

 

(え? シオンのヤツ、俺を見てるんだけど、涙目の状態で……。そうだよなぁ、まだ配下達には給料出してないもんな。うーん、どうしたものか……)

 

 そう思いながらリムルは、チラッとシュナの方を見る。

 

 シュナはリリナ達と楽しげに餅を丸めている最中だった。

 

 リムルの目がキラリと光る。

 

 シオンに小さくコイコイと手招きをすると――

 

「いいかシオン。皆には内緒だぞ」

「はい?」

 

 小声でシオンに言いながら、『胃袋』に隠してあるヘソクリから金貨一枚を取り出し、そっとシオンに渡すリムル。

 

 途端にパーッと明るくなるシオンの表情。

 

 ありがとうございますと、言いかけたシオンの口をリムルは慌てて押さ、「デカイ声を出すんじゃない」と、小声で注意する。

 

 小さく「ありがとうございます」と言ったシオンは、駆け足でニコの所へと行った。

 

「ニコ姉さん、勝負です!」

 

 バチンと台座の上に金貨を一枚置くシオン。

 

 シオンの狙いは金貨ではなく、純粋に腕試しである。

 

「あらあ、シオンちゃん参加するのねえ~。いいわよぉ♪」

 

 また新しく臼に餅が入れられ、餅をついていくシオンとニコ。

 

 やがて餅もつき上がり、最後のひとつきのところで、シオンは右足を軽く前に出し、杵を持った右手を上に振り上げたまま動きを止めた。

 

 ニコは水桶に手を入れたまま、動きを止める。

 

 シオンは、ニコの全体像を視野に入れながら、筋肉の動き、着ている小袖のかすれる音、妖気(オーラ)の流れなどを観察する。

 

 一挙手一投足を見逃さないよう、自分の感覚を最大限に張り巡らす。

 

 いつしかベニマル以下魔国側の皆が、それを息を飲んで見守る。

 

 シオンの吐く息が(ほの)かに白く染まる。

 

 そこへ、ふわりと冷たい風がニコの前髪を揺らす。

 

 刹那――

 

 シオンの杵が振り下ろされた。

 

 ズッドオンッ!

 

 臼が真ん中からバッカリと割れ、シオンの振った杵の先は地面にめり込んでいた。

 

 そして、つかれた餅はというと、眷属達が餅を丸めている台座の上に、空中をふわりと漂いながらポフッと着地していたのだ。

 

 そう、シオンがニコの手目掛け杵を振り下ろした瞬間ニコは餅を折り返し、更に臼が割れるのを察知して餅を台座目掛けて放り投げていたのである。

 

「完敗です。ニコ姉さん」

 

 そう言うシオンの顔は、とても満足そうにしてえいた。

 

「ふふふ。シオンちゃん~、また腕を上げたわねぇ。あの無拍子に反応出来るのは、うちの眷属達にもぉ、そうそういないのよぉ~」

 

 クスクスと笑いながら言い、おもむろに台座の上の金貨を十枚掴むと、シオンに差し出した。

 

「敢闘賞よおぉ♪」

「ええ? 良いのですか? ニコ姉さん」

「いいわよぉ、遠慮なく貰いなさいなぁ」

「わかりました。有り難く頂戴します」

 

 シオンはにっこりと微笑み、金貨十枚を受け取った。

 

 そして、リムルのところまで走りいくと、「敢闘賞を貰いました」と、嬉しそうに言い、金貨を全部渡そうとするも、「一枚だけでいいよ。後はお前が貰った敢闘賞だから、それはお前のだよ」、そう言いリムルは笑みを返す。

 

 それからは、ベニマルやガビル、休暇で帰って来てるゲルドにゴブタ達も挑むも、誰もニコには勝てなかった。

 

 そして、ずっと餅のつまみ食いで忙しく大人しかったミリムがやると言い出すも、流石にそれは駄目だとリムルとツキハ、コハクに止められる。

 

 こうして、魔国側とルヴナン側の交流も楽しく終わりを迎え、皆が出来立ての餅に舌鼓(したつづみ)を打つ。

 

 

 最後の大晦日とも取れる日は、魔国の宴会場で関係者全員の宴会が開かれた。

 

 それはまさに、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ、年明けの早朝には皆で初日の出を拝もうとリムルが提案するも……。

 

 

 あまりにも酒を飲み過ぎて、リムルを含めほぼ全員が酔いつぶれてしまい、目が覚めた時には、お日様が昇った後であった。

 

 う、うぅー 頭いてえぇぇ 

 

 あ、頭が 目が 回るのだぁ~

 

 だ 誰だ ミリムに酒を 飲ませた ヤツ は……

 

 だれ よ……

 

 はい ツキハ……さんですよ ね?

 

 し ら な い……

 

 ツ キハ に もらったのだぁ……

 

 お前 たち 後で……O・H・A・N・A・S・I、な

 

 い や で す

 

 い や な の だ ぁ~

 

 今日 の オヤツ 抜き な

 

 ふあ?

 

 はあ?

 

 し かし 頭いてえ ぇぇ

 

《……》

 

 状態異常無効を限界値まで下げた、リムル達の末路であったのでした。

 

 

 

 

 マルティース(一月)を迎え、魔国連邦(テンペスト)の新しい年が動き始める。

 

 

 

 雪が解け、暖かい春が来ると――

 

 開国祭の前振りでもある、〝謁見式〟が行われる事となるのであった。

 

 

 

 

 





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