忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。149話です


 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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 作中に出て来る〝食客(しょっかく)〟とは、一例として〝自分の家に客分として抱えておく人〟の事を指すそうです。










149話 年パスから永久パスへの進化?

 

 

 魔国に新しい年が来て数日が経った頃。

 

 

 去年魔国に移住して来たミョルマイル一行も、以前住んでいたブルムンド王国との、生活の違いに驚くも、ここの生活にもかなり馴染んで来ていた。

 

 何よりミョルマイルが驚いたのが、リムルに案内された新居だったのだ。

 

 ()ず、家には水道が敷かれ、台所には魔力コンロ、そして風呂。

 更にミョルマイルが声を上げて目を見開いたのが、水洗トイレの完備である。

 

 この世界のトイレ事情は汲み取り式か集めて焼却が主流であり、農村や農業を営む国などでは畑に()く肥料にしたりする。

 

 だが、貴族や王族などは、高価な浄化魔法式を(もち)いていた。

 

 そう、魔国にある高級宿の設備をそのままこの新居にも設置していたのだ。

 

『ありえん……これは、ありえませんぞ!?』

 

 ミョルマイルの第一声が、この言葉だった。

 

 そのミョルマイルも今、リムルの執務室で開国祭の準備に向けて談議中であった。

 

 闘技場の建築状況。

 南西地区の宿場街の活況に、闘技場周辺に出す予定の露天などを説明した。

 

 そして、一番の肝である出来立ての地下迷宮(ダンジョン)に、冒険者を呼び寄せるという計画を語って聞かせた。

 

 ミョルマイルはその説明を、ほう、なるほどと頷き、同席しているリグルドと供に食い入るようにリムルの説明を聞いていた。

 

 それから、リムル、リグルド、ミョルマイルの三人は夢中になって話し合っていく。

 

 個々にこの計画の足りない分を指摘し合い、検討を重ねていった。

 

 …………

 

 ……

 

 案も出揃い、無駄な部分を削ぎ落しながら計画の修正を行い一段落したところで、一息をつくリムル達。

 

「本当に、ミョルマイル殿が計画に加わってくれて、実に頼もしいですな」

「だろ? ミョルマイル君は出来る男だからね。今回の開国祭が成功に終わったら、我が国の財務統括部門を任せたいと思っているんだ」

 

 にこやかにそう答えたリグルドにリムルは、一番重要な事を伝えた。

 

 ミョルマイルを財務統括部門の責任者に任命しようと考えている事と、更に、商業部門と広報部門も兼任してもらい、この国に役立ってもらいたいと、考えている、と。

 

 手始めに、行商隊ガットエランテと迷宮領地シャルフューズとの、物質取引の交渉をやってもらうとも付け加えたリムル。

 

 それを聞きリグルドも深く頷き、ミョルマイルにつける部下の選別を約束してくれた。

 しかし、現在進行形で街道の宿屋などで帳簿をつける訓練をさせているが、まだまだらしい。

 

 ベスターの教育のお陰で識字率は向上したものの、それで全員が読み書き計算が出来る訳ではないのだ。

 

 これからは、必ずミョルマイルみたいに商才に()けた者が必要になってくるだろう。

 その事はリグルドも熟知していた。自分達が数字に弱い事を理解しているからだ。

 

 だから、リムルが望むからという訳ではなく、(おの)ずからそれを解決する方法を模索し、シャルフューズにある子供達に読み書き計算を教える場に(おもむ)き、見学したりもした。

 

 そして、そこで先生をしていた教授に出会い、色々と学問について聞いたりもした。

 

『――という事で御座いまして。読み書き計算の知識を、もう少し早く覚える手段はないものかと……』

『ふーん。リグルドさんは、少しでも早くリムル君の役に立ちたいと。そして、来たる開国祭に向けて必要不可欠なのだと――』

『はい、その通りです。今、皆が一丸となって頑張っているのですが、これが、中々に難しくて。さりとて、弱音を吐くわけにもいかず、こうして教授にご相談した次第なのです』

『ねえ、リグルドさん。一つ聞いても良いかな?』

『はい。なんなりと』

『私に相談しろとリムル君が言った訳ではなく、リグルドさんが自分で考え、私のところに来たと、いう事かな?』

『ええ、その通りですぞ! このような事でリムル様のお手を(わずら)わせる事など出来ません。これは、私の意思でここに来たのです』

『そう。本当に君達は、リムル君が大好きなんだね』

『ええ。そうです。リムル様は我が村をお救いしてくれたお優しい御方であり、我等が尊敬する偉大な(あるじ)なのです!』

 

 教授の問いに、力強く答えるリグルド。

 その笑顔を見た教授は、リグルドにある提案をする。

 

『リグルドさん。貴方のその心配事を解決する(すべ)を、私は持っています』

『なんと!?』

『でも、私は不必要にその力を行使したくはない。その理由はおわかりですか?』

『ええ、承知しておりますとも。教授は、傭兵商会ルヴナンに所属されている御方。そして、その持っている能力(スキル)はルヴナンの最高機密事項だと、リムル様から聞かされております』

『でも、限定的で良いのなら、協力をする事もやぶさかではありません。しかし、それには対価が必要なのですけども』

 

 そこまで言うと教授はニヤリと笑みを浮かべる。

 

 それを見たリグルドは、以前リムルから聞いた教授の人柄を思い出す。

 総動員されるリムルが話した教授の事の記憶。

 

 こう言った時の教授は九分九厘交渉に応じるが、求める条件は地位や名誉でもお金でもない、それは――

 

 意を決してリグルドは口を開く。

 

『教授の条件をお聞きしてもよろしいですかな?』

『うん。私の条件はね。今持っている幹部用食堂の〝年パス〟を、私が生きている間は有効の、生涯有効の、〝永久パス〟にして欲しい。で、今はベスター殿が一人で先生をしてるわけでしょ?』

『はい、如何(いかん)ともしがたくその通りです』

『私なら、手っ取り早く先生を増やせます。でも、その能力(スキル)については、他言無用にてお願いします。まあ、幹部の皆さんなら、リムル君から聞いてるかもだけど。そうですね、ベスター殿とは別に、先生を十人ほど増やしましょう。それで如何(いかが)ですか、リグルドさん』

 

 そう言われてリグルドは、腕を組み目を(つぶ)って、うーんと唸りながら暫し考えるが。

 

 やおら顔を上げると、しっかりとした言葉で教授に答える。

 

『承知しました。幹部用食堂の利用〝永久パス〟の申請をリムル様にお頼みしましょう。そして、一つ提案というか、お願いがありますのですが、宜しいでしょうかな?』

『ええ、どうぞ』

『先生は、三十人にして頂きたく存じます。その見返りとして、リムル様が経営に関わっている高級焼肉店、居酒屋等、それらの無料利用権を〝永久パス〟にお付けするのは、どうでしょう? ――』

『のった!』

 

 即断即決、教授はリグルドの追加依頼を引き受けた。

 

 リグルドはすぐにリムルにこの事を報告し、〝永久パス〟についての許可も取り付けた。

 これを聞いたリムルは大層喜んだ。

 

 自分を敬愛するあまり、言われるままに動くのだけはないように心配していたのだが、リグルドは自分で何が今一番必要か考え、教授と交渉して、より良い結果をリムルにもたらした。

 その事が何よりも嬉しく、他の者達にもこういう傾向が表れ始めているのが頼もしく、配下達の成長を見守りつつ、困った時には手を差し伸べようと思うリムルであった。

 

 こうしてリグルドの懸念は解消され、リグルドと教授が選抜した者達は厳重な監視の下、ユニークスキル『教導者(オシエミビクモノ)』により、読み書き計算を教える先生が三十人生み出されたのだ。

 

 

「――なるほど、それは良きお考えですぞ! 目下、(あきな)いに関わる者の育成も進んでる故、楽しみですな!」

「いやいや、ワシなどまだまだですな。ですが、このミョルマイル、全力で事に当たらせてもらいますぞ!」

 

 これに謙遜するミョルマイルであったが、元来は野心のある男。

 この話には最初から乗る気で、開国祭が無事に終われば問題なくミョルマイルの幹部入りは受け入れられるだろう。

 

「でもなぁ。あくまでも実績が必要なんだよ。そうでなければ、他の者は納得をしないし、意味がない」

「左様ですな。確かにリムル様が一言お命じ下されば、皆も納得するでしょうが、それでは……」

「うん、それはしたくない。正直、俺が関与し過ぎるのは、良くないと思っているんだ」

「わかりますぞリムル様。我が国の住民以外の者でも幹部になれる、これは我が国に取って良い宣伝になるでしょう。ですがその為には、ミョルマイル殿には何としても、誰もが納得をする結果を残してもらいたい」

「そう、そうなんだよ。無茶を言って悪いけど、頑張ってくれるかなミョルマイル君?」

 

 実際、これは難しいところなのだと思うリムル。

 

 ミョルマイルに強さという理解しやすい基準があれば、魔物達は簡単に納得する。

 

 例に挙げればディアブロなんかがそれに当たり、リムルの第二秘書になっても誰も文句を言わなかった。正確にはシオンが文句を言っていたのだが、それはシオンが空気を読めなかっただけである。

 

 ディアブロの強さは魔国では、ヴェルドラを除外して、リムルに次ぐ強さを持つ。

 そんな危険なヤツに、誰が文句を言えるのだという話であった。

 

 だが、文官はそうはいかないのが実情。

 

 ベスターのような経験者ならば大歓迎なのだが、それでも実績が必要になる。

 そう、ベスターでさえも、未だに顧問なのだから。

 つまりは、ベスターは客人扱いなのだ。

 

 そろそろベスターも幹部に迎えたいとリムルは考えていた。

 

 その為にもミョルマイルには、是非とも実績を残してもらいたいと、リムルは思っていたのだ。

 

 

 しかしだ、そんなリムルに取って幸運なのは教授の存在であった。

 

 シャルフューズやルヴナンでの教授は、誰からも一目を置かれている。

 戦闘力は皆無なのに、眷属達ですらそうなのだ。

 

 力ではなく、知識で実績を示していたのだ。

 

 リグルドも教授と話していくうちに力ではない何かを教授に感じ取り、一目を置くようになっていた。

 

 これらを(かんが)みれば、開国祭の成功という実績があれば、皆を納得させるには十分だと考えるリムルだった。

 

 そして出来るならば、ベスタ―とミョルマイルを同時に新体制の国家組織に組み込み、大臣として採用したいと考えていたのだ。

 

 だがしかし、そんなリムルの心配を吹き飛ばすように、ミョルマイルは自信に満ちた笑みを浮かべてみせた。

 

「ふっふっふっ、リムル様。余りこのミョルマイルを見くびらないで欲しいものです。必ずや期待に応えて、きっちりと、開国祭を大成功に収めて見せましょうぞ!」

「ふっふっふっ、ミョルマイル君。当然、君の事は信頼しているともさ。頼んだぞ!」

「ふっふっふっ、まあ多少失敗したとしても、強引に成功したと吹聴しますがね。リムル様の考えに背く者など、この私の鉄拳が黙ってはおりませんからな」 

「いやいや、リグルドさん? それ駄目だから。大事な事だから二度言うけど、駄目だからね。ミョルマイル君に頑張ってもらおうって話だったろ?」

「御安心を、ルヴナン暗部の如く証拠は残しませぬ――」

「いやいや、リグルド殿も恐ろしいお人よ」

「ほんと頼むよ。俺は知らなかった事にしておくからね?」

 

 そんな事を言いつつリムル達は、悪い笑顔を浮かべる。

 

 リグルドもミョルマイルとは知らぬ仲ではない。

 どうやら受け入れられているみたいで、それがわかったリムルは内心ほっとする。

 

 リムル的には、ミョルマイルが皆に受け入れられるならば、理由は何でもいいのだ。 

 

 暫く三人は笑い合い、ほどなくして打ち合わせは終わった。 

 

 後は各々話を持ち帰り、開国祭に向けて備える事となる。

 

 そして、着々と準備は進んでいく。

 

 

 翌日の夕方。

 

 リムルは、新築のミョルマイル邸に招かれ、晩御飯を御馳走になっていた。

 

 食事の席でまた、地下迷宮(ダンジョン)の話で盛り上がるリムルとミョルマイル――

 

「そうですな。冒険者に定期収入があれば、この国が活気づくのは必定」

「うんうん、そうなんだよ。このアトラクション――」

「――ッ!? 何と、そのような目論見が。そうだったのですね、リムル様!」

 

(え、何が?)

 

 いきなりそう言われたリムルは、内心で意味が分からないといった声を出す。

 

 そんなリムルを置き去りにして、ミョルマイルは興奮したように叫んだ。

 

「いやはや恐れ入りました。その為の地下迷宮(ダンジョン)! 流石はリムル様。このミョルマイル、感服つかまつりましたわい」

「お、おう、そうだとも」

 

(どゆ事?)

 

「迷宮に発生した魔物を、冒険者が狩る。それは、ジュラの大森林が安定して魔物が少なくなり、仕事を失った冒険者へのの救済かと思っておりましたが……いやはや、そこまでお考えだったとは――」

 

(ふあ、救済? いや確かにジュラの大森林の魔物が減ったというか、ツキハとコハクが危険な魔物を大森林の奥に移動させたというか……俺の国の周辺に妖気(オーラ)でマーキングしたから、街道の結界と合わせて生息地を移動させてしまったんだよなぁ。うん、ジュラの大森林の奥地には、未だに危険な魔物はいっぱいいるんだよねぇ。たまにゴブタ達が、新人を連れて実践訓練とかしてるし――)

 

「いけます、これはいけますぞ! 魔物が少なくなって食うに困った冒険者も増えておりましたし、地下迷宮(ダンジョン)を仕事場にする者も出て来るでしょう。そこでも回復薬や装備なども売れるでしょうから、観光地や保養所としてだけではなく、生活基盤が築かれる事となれば、この国に定住してくれるかと存じます。この、素晴らしいサービスを提供してくれる数々の宿屋。そして、目玉となる円形闘技場(コロッセオ)。どの国にもない刺激と仕事を同時に満たしてくれる地下迷宮(ダンジョン)とは……」

 

(はい? 地下迷宮(ダンジョン)って、そういう目的だったっけ?)

 

 どうも話が噛み合わないのを隠しつつリムルは、今一度地下迷宮(ダンジョン)の目的を思い出していた。

 

 元々が、アトラクシみたいな目的で、地下迷宮で取れたアイテムを買い取って利益を上げる目的であった。だがしかし、ミョルマイルの言葉はリムルの思惑を超え、新たな方向へと導いていく。

 

「うーん、簡略的に俺の話を聞いただけで、そこまでわかるかミョルマイル君?」

勿論(もちろん)ですとも。金の匂いを嗅ぎ分ける事ならば、旦那に負けぬと自負しております」

「ふっふっふっ、全くかなわないなミョルマイル君には」

「はっはっはっ、ご冗談を。これも全て、旦那あっての事ですぞ」

「よし。俺が考えただけでは心許(こころもと)ないので、この計画も君に任せたいのだが、どうだ?――」

「なんと! 本当ですかな?」

「ああ、是非ともやってもらいたい」

「わかりました、リムル様。喜んで協力させてもらいますとも」

 

 ここに、地下迷宮(ダンジョン)を冒険者の職場とする計画が立ち上がった。

 

 冒険者にこの国の住人となってもらう、これはリムルに取って盲点だった。

 

 一部の者は迷宮で稼げるが、大半の者には財布の中身を空にして帰ってもらう。

 そういうギャンブル要素のあるアトラクションのつもりだった。

 

 客ではなく、住み着いた冒険者に迷宮の魔物を狩ってもらうという考えは、人との共存を目指すリムルに取ってはまたとない妙案だったのだ。

 

 大森林の魔物や動物達と違って、乱獲によって生態系が狂う事もない。

 もとよりそれを危惧したツキハとコハクが、魔物を大森林の奥地へと行くように仕向けたのだが。

 

 その問題も解決出来る事になるのは、リムルに取って嬉しい事だった。

 

 ならば、増えすぎた大森林の魔物は、迷宮で十分に訓練と実践を積んだ冒険者に狩ってもらえばよい。

 見方を変えれば一石二鳥のこの案は、リムルの思惑にガッツリ絡むのだ。

 

 そこを捉えたミョルマイルは、流石裏に表にも顔が利く商人と言ったところであろう。

 

 住人が増えれば国の財政も(おの)ずと増えて来る。

 

 国庫が潤えば、その資金で他国から輸入を行う。

 

 現在、獣王国ユーラザニアからの輸入が滞っている。

 

 魔国では算出する野菜や穀物だけでは、来たる新しい住人である冒険者達の胃袋を満たす事は出来ないかもしれない。

 

 今、急ピッチでシャルフューズとの貿易の交渉を行ってはいる。

 

 迷宮領地シャルフューズ、この国は〝戦費〟として、毎年の収穫した穀物やガットエランテの行商で得たお金を備蓄している。特に食料に関しては、保存の効く物を地下大倉庫に大量に備蓄しているのだ。

 

 その一部である小麦粉やオリーブオイル、スパイス等を、魔国は買い付けていた。

 

 そして、ガットエランテの販路を利用させてもらい、魔国製の商品を他国や近隣の村などに売る計画をリムルは立てていた。

 

 更に今、ミョルマイルが加わった事で、リムルの貿易国の中心地という野望が加速する事になるのであったのだ。

 

 野望の一つである、大量物質輸送の確立。

 これは、街道を作る事を始めた時から構想にあった。

 

 なので、街道の道路は広めに作ってある。

 舗装してある部分は半分だけであり、残り半分は地が見えている。

 

 そう、そこには将来、軌道(レール)敷設(ふせつ)して、魔導貨物列車を走らせる予定なのだ。

 

 そしてもう一つ、現在教授が研究開発している物の一つ、小型の魔導ジェネレーター。

 将来的にはこれを使い、魔導トラックを作り、更なる輸送網を作る計画を、秘かに練っているリムル。

 この魔導ジェネレーターは、周囲の魔素を吸収しエネルギーに変換するシステム。

 しかし、起動させると際限なく魔素を吸収し、あっという間に周辺の魔素を枯渇させる事になる為、実用化には難があった。現在、魔素とは別に、魔力をエネルギーとする案も考えられている。

 

 これらの問題点を解決した物が出来れば、リムルの野望はまた一歩と進む事となるのだ。

 

 こうして、リムルとミョルマイルの悪巧み、もとい、談議は続いていく。

 

「後は、宣伝だけですな」

 

 夢が膨らむ気持ちで一杯だったリムルは、ミョルマイルの言葉で我に返る。

 

(そうだ、今は焦る時じゃない。軌道(レール)はともかく、魔導列車の開発には時間がかかるし、教授の開発している魔導ジェネレーターも、まだまだ実用化にはほど遠い。先ずは盛大に開国祭を成功させて、各国へ好印象を与えるのが先決だな)

 

「まあアレだ、宣伝というほどでもないけども、各国首脳には既に招待状は出してある。数ヶ国の記者達は協力してくれるので、それなりには客は来ると思うけど――」

「おお、流石はリムル様。王侯貴族に予定を入れさせるならば、雪解け前の今から交渉せねばと思っていたのですが、そんな心配は無用でしたな。では、ワシの方では取引先の大店(おおだな)の店主達に、この国の祭りについて報せておくとしましょう」

「頼めるか?」

「お任せ下さい。実は既に用意してあるのです。この国の現状を見てから、使いを出そうと思っておりました。それと、明日のガットエランテ隊長リアナ殿と、傭兵公国シャルフューズが領主ノルベルト公爵様との交渉。良い結果を引き出して見せましょう」

 

 そう言いミョルマイルは、ニヤリと笑った。

 

「いやあ本当に、毎回毎回、君の抜かりのなさには感心するよミョルマイル君」

「何をおっしゃいますリムル様こそ。これほどまでに先の事を見通していなさるとは、まだまだワシの及ぶところでは御座いませんよ」

 

 お互いにそう言い合うと、顔を見合わせて笑い合う二人。

 

 そして、リムルが立ち上がり、続いてミョルマイルも席から立ち上がる。

 

「頼んだぞ、ミョルマイル君!」

「お任せを、リムル様!」

 

 そう言いながらリムルはミョルマイルに手を差し出すと、リムルの手を力強く両手で握り返すミョルマイル。

 

 リムルは、このミョルマイルの参加により開国祭の成功を確信するのだった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 粗方(あらかた)話を終えたリムルは、ミョルマイルの家から帰ろうとすると、ミョルマイルがもう少し宜しいですかと引き留め、リムルは再び席に着いた。 

 

 そして、ミョルマイルが家人に何かを伝え、誰かを呼びに向かわせた。

  

 現れたのはゴブエモンだった。

 

 ゴブエモンの性格からして、てっきり陰から見守るだけだと思っていたリムルは、少しそこで驚いた。

 それよりも、ここにいるという事は、ミョルマイルに名乗り出たという事かと推測するリムル。

 

 しかし、気になる事が一つあった。

 

「リムル様、こちらのゴブエモン殿は、リムル様がワシの護衛に付けて下さったそうですな」

 

 知らぬフリをしようとしたリムルだったが、ゴブエモンが陰の護衛だとミョルマイルにはバレているようだった。

 

「うん、そうだけど。それよりもゴブエモン、その腕はどうしたんだ?」

 

 バレてるならばと、リムルは気になった事をゴブエモンに尋ねてみた。

 ゴブエモンの右腕が、肘の先からバッサリと無くなっていたのだ。

 

「り、リムル様! こ、これは……本当に、申し訳御座いやせん。俺とした事がドジっちまいまして、挙句、ミョルマイルさんにバレる始末。この腕は、馬鹿な俺への罰でさあ」

 

 そう言ってゴブエモンは床に両膝をつくと、床に頭を(こす)り付けるように謝罪して来た。

 

 それを見たリムルは状況が掴めず、助けを求めるようにミョルマイルを見る。

 

「ま、まあまあ、ゴブエモン殿。頭を上げて、お立ちなさい。さ、ささ、先ずはお茶でも飲んで落ち着きなさい」

 

 ミョルマイルはゴブエモンを席に着かせると、家人の用意したお茶を差し出した。

 

 ゴブエモンがお茶を飲み落ち着きを取り戻すと、ミョルマイルはリムルに向き直り説明を始めた。

 

 ミョルマイルが言うには、あれから何度か襲撃があったと。

 

 ミョルマイルの方でも警戒していたのだが、何度か危険な場面があったらしい。

 

 しかし、そこを何者か――ゴブエモンと、恐らく眷属のモモコだろう――の助けによって、事無きを得ていたと。

 

 リムルが思っていた以上に襲撃が多かったせいで、誰かに守られているとわかったのだと。

 

 で、思い当たるのはリムルしかいない訳で、ミョルマイルもゴブエモンに気付かないフリをしていたのである。

 

 流石にモモコの存在には、ゴブエモンもミョルマイルも気付く事は出来なかったのだなと、リムルは思った。潜み、気付かれる事なく狩る事を得意とする番外魔王の眷属達。

 

 その最たる者がロモコ班なのだが、他の眷属達も同様の力はある。

 

 モモコが、ゴブエモンの腕の怪我を報告しなかったのは、命に別状はないのと、完全回復薬(フルポーション)で腕は元に戻るから、敢えてそのままにしておいたのだろうと、恐らく、カザック子爵の動向を探るついでの事なんだろうなとリムルは判断した。

 

 ミョルマイルの話は続き、何度目かの襲撃の後、決定的な事が起きたと言う。

 

 幾度となく襲撃を防がれた事で業を煮やしたカザック子爵が、大胆な実力行使に出たのだと。

 

「ブルムンド王国にある店を後任に譲り、ワシはこの国を目指した訳です。街道まで出れば安全で、襲撃者も手は出せぬだろうと安心しておったのです。ですが――」 

 

 街道には警備部隊も巡回している。行商人や冒険者などの旅人も多くいる。

 街道には雪が積もらないように、毎日街道の雪かきを行っているので、冬場にも関わらず人の往来は途切れてはいない。

 

 ミョルマイルもそれを熟知していて、街道で何かあればすぐに警備兵が駆け付けてくれると踏んでいた。

 

 だが、その安心を突くように街道の端にある村で襲撃が起きたのだと言った。

 

 村に入った時に黒塗りの馬車が現れ、中から魔物が飛び出して来たと。

 それも、Bランクの大物が数体。

 

 ミョルマイルの護衛に付いていた、元Cランクのビッドやその仲間達では相手にはならず、誰もが死を覚悟したのだと。

 

 それでも必死に村人達を避難させ、少しでも助けが来るまで時間を稼ごうとしていたところにゴブエモンが来たのだと、ミョルマイルは言った。

 

「あの時に現れたゴブエモン殿に、ワシだけではなく、あそこにいた皆が助けられたのです。ゴブエモン殿には、皆が感謝しておるのですよ。それとこの事の報告が遅れた事、申し訳ございませんでした、リムル様」

 

 ミョルマイルがそう言うが、何故かゴブエモンの表情は晴れない。

 

「いや、悪いのは俺でさあ、ミョルマイルさん。リムル様に合わせる顔が無くて、少し時間をくれと言ったのは俺です。それに、俺が失敗したのは事実。あの程度の魔物なら問題はないと、余裕で魔物を倒したんですが……。最後に残ったB⁺ランクのバジリスクの石化ガスを右腕に受けちまいまして、何とか肘から先を切り落として全身石化は防いだんでさ。しかし、黒塗りの馬車には逃げられてしまい……」

「失敗って、犯人に逃げられた事なのか?」

「それもですが、ミョルマイルさんに気付かれてしまった事なんです」

「失敗って、別に気付かれたって構わないよ。大事なのは、護衛対象が無事である事だからね。それよりもお前、その腕をさっさと治せよ」

 

 リムルはそう言うと、『胃袋』から完全回復薬(フルポーション)を取り出しゴブエモンに渡そうとするも、ゴブエモンは唇を噛み受け取ろうとはしなかった。

 

「いや、これは俺の未熟さ故の怪我です。バジリスクも結局俺一人では倒せず、護衛対象の皆に助けられたという無様さ。あの時、バジリスクが一瞬(ひる)まなかったら、俺は死んでいたかも知れない。片手では不自由しますが、時間をかければ再生しますんで……」

 

 (かたく)なに受け取りを拒否するゴブエモン。

 良くも悪くも頑固であり、自分の力を過信し過ぎる傾向があった。

 

「ゴブエモン、お前さあ、護衛対象に助けられて恥じているのか?」

「そ、そりゃまあ……俺の任務は護衛です。その護衛対象を危険に晒したとあっちゃあ――」

「待て待て、ちょっと待てよゴブエモン。お前は盛大な勘違いをしているぞ」

「勘違い、ですか?」

「そうだ。お前は何でも一人でこなそうとし過ぎるんだよ。それが、お前とゴブタとの違いだ」

「お、俺が……? ――」

 

 リムルが言った、ゴブタとの違い。

 それは一言で言って、仲間、果ては自分の部下と協力出来るか出来ないかである。

 

 ゴブタの場合、全部の仕事を自分でしようとはしない。

 強力な魔物と戦う場合でも、部下に指示を出しつつ全員で戦う。

 簡単な任務ではサボっているようにしか見えないが、事実その場合も多々あるだろうけども、それでも部下の育成、(すなわ)ち部下の成長を促すと言う点では、ゴブタの方が指揮官に向いているというのがベニマルの意見だった。

 

 では、ゴブエモンはというと、強力な魔物が出た場合、自分だけで戦おうとする。

 それだけの力があるから、その方が早いと言った考え方も理解出来るだろう。

 しかし、それではいつまで経っても部下が育たないのだ。

 

 それでもし、ゴブエモンが倒れてしまえば、残った部下達では対処が出来ず、挙句、撤退も出来ずに部隊は全滅である。

 

 事実ベニマルは自分の見識だけでは判断せず、時折行われるルヴナンとの模擬戦や合同訓練で、ツキハとコハクに意見を求める事があった。

 

 そして、ゴブタとゴブエモンの指揮能力を尋ねた時に二人は――

 ゴブタは絶対に無茶はしないが、周りと部下を良く見ている。

 ゴブエモンは、単独行動に(ひい)でていてその力もあるが、部下との連携はゴブタより劣る。

 

 これが、ツキハとコハクが出した意見だった。

 

 ベニマルの判断には、こうした見解があったのだ。

 

 ベニマルもまた、自分の指揮能力を上げるべく、積極的に他者の意見を聞き考え、それを自分に取り込むといった事をやっていた。

 

 そう、戦闘経験が浅ければ、遥かに長く戦って来たお手本が目の前にいるのだから、それを利用しない手はない。これがベニマルのやり方であり、自分の〝技量を磨く〟事に熱心なのである。

 

 そしてリムルは、そんなゴブエモンに仲間に頼る事を覚えて欲しいと思っていたのだ。

 

 ミョルマイルは部下を扱うのが上手い。

 そんなミョルマイルをお手本として、ゴブエモンにも更なる成長をして欲しいと願っていたのである。

 

「――だからこそ、お前はもっと仲間に頼る事を覚えるべきなんだよ。と言っても、仲間に無茶をさせるって話ではないんだ。お前が常に全力を出すんじゃなく、余力を残しておいて、いざという時に助けてやれという話なんだよ」

「お、俺は……」

「お前が強いのは、皆も認めている。ツキハが言っていたそうだが、単独任務をこなすだけの力はあると、な」

「え! ツキハ、様がですか?」

「そうだ。でも、部隊を任せるというと、それだけでは足りないんだ」

「…………」

 

 リムルの言葉に項垂(うなだ)れるゴブエモン。 

 

 するとリムルは完全回復薬が入った小瓶をゴブエモンに投げつけ、小瓶が当たる瞬間に『暴食之王(ベルゼビュート)』で小瓶だけ喰らい、中身の液体だけゴブエモンに降りかかる。

 

「あ!?」

 

 (またた)く間に、ゴブエモンの右腕が再生する。

 

「さて、ゴブエモン。お前は当分、ミョルマイル君にお世話になりなさい。ビッド達を鍛えるも良し、ぶらぶら遊ぶのも良し、何ならルードネスの訓練を見学しても良い。今、シオンとサンコが部隊員の訓練に当たっているから、中々面白いかも知れんぞ?」

「え? 今あそこは、一部の幹部しか出入り出来ないんでは?」

「お前の出入りを許可しよう。まあ、色んなものを見て、見識を広めてこいと、いう事だ。ゴブタも最近は部下を連れて、良くルヴナン訓練場に遊びに行ってるからな」

「なっ! ゴブタが……」

「結局さ、一人では何も出来ないよ? ツキハとかコハクとか参考にしたら駄目だからね。アイツ等は冗談みたいな存在だから。後、眷属達も基本、単独自由ヤッホイだけど、アイツ等はアイツ等でちゃんと連携すべき時は連携するからな。そうだな、ロモコ班の訓練も一度見学させてもらえばいい。お前も今回の失敗で、学んだだろ。だったら次は何をしたらいいか、(おの)ずと答えは出るんじゃないか?」

 

 リムルはそう言ってゴブエモンに笑いかけると、腰に差してある打刀(うちがたな)を抜き取ると、右手に持って差し出した。

 

 目を見開き、驚き固まるゴブエモン。

 

 打刀――ゴブエモンに取ってこの刀は憧れの一つであった。

 

 ホブゴブリン達が普段使うのは小太刀である。

 腰に打刀を差している者はいない。

 

 ハクロウは仕込み刀、ベニマルは太刀、シオンは大太刀。

 

 ここ魔国で、腰に打刀を差しているのはリムルとツキハだけである。

 例外があるとすれば、番外魔王の眷属達であるが、彼等彼女等は、その戦況に応じて武器を持ち変える。それは、苦無(クナイ)であったり槍であったり小太刀であったり野太刀であったり、そして打刀であったりと、臨機応変に武器を使い分けているのだ。

 

 そして、その打刀が目の前に。

 

「やるよ」

「で、ですが……俺は任務を――」

「ゴブエモン。お前は、ミョルマイル君を無事にここまで届けてくれただろう? だからさ、これからもより一層の成長を期待するよ。 この刀をお前の心を映し出す鏡として、毎晩(やいば)に問いかけてみるといいさ」

 

 そう言いいリムルはゴブエモンに打刀を渡し、ゴブエモンはそれを両手で受け取り(こうべ)を垂れたまま(ひざまず)く。

 

 これでゴブエモンが増長や慢心を戒めてくれれば、更なる成長への道が開けるだろうとリムルは、そう確信する。

 

「わかりました! この俺、ゴブエモン。きっとリムル陛下の期待に応えて見せましょう!!」

 

 顔を上げ、リムルを見るゴブエモンの目に、火が(とも)った。

 

 元来、野心家のゴブエモン。目標を見据える道筋が決まれば、成長も早い。

 きっと、リムルの期待に応えてくれるだろう。

 

「それじゃあミョルマイル君、ゴブエモンの事は頼むけど、いいよね?」

「はっはっはっ、構いませんとも。寧ろ、ワシの方からお願いしたいくらいですわい。ビッドも喜ぶ事でしょう。何せ、ゴブエモン殿に鍛えてもらいたがってましたからな」

 

 これで、ミョルマイルの了承も得た。

 

 こうしてゴブエモンはミョルマイルの食客(しょっかく)となり、当面は自由に行動する事になったのだった。

 

 

 リムルはミョルマイル邸を後にして、夜道を一人歩きながら、ぼんやりと夜空を見上げる。

 

 澄んだ夜空に(きら)めく冬の星座。

 

 リムルが元いた地球とは、全く星の配置が違って見えた。

 

 

 暫く夜空を見上げていると、ふと襲撃者の事が気になったリムル。

 

 

(あれって、本当にカザック子爵の差し金なんだろうか? たかが子爵位しか持たない貴族が、襲撃の為とはいえ、複数の魔物を用意出来るとは思えない。しかもだ、BランクからB⁺ランクまでとか、飼い慣らすにしても相当の金がかかるはず。んーむ、B⁺ランクねえ……金で用意出来るものなのか?)

 

《解。以前、A⁻ランクの召喚士(サモナー):ジーギスが、B⁺ランクの下位悪魔(レッサーデーモン)を召喚しておりました。バジリスクを飼い慣らされる者がいても、不思議ではありません》

 

(ジーギス? ああ、ブルムンド王国で初めて冒険者の資格を取る時にいた、ギルドの試験管のジーギスか)

 

 智慧之王(ラファエル)の解答に、以前冒険者登録をした時の事を思い出すリムル。

 

(なるほどなるほど。<召喚魔法>なら簡単かもな。馬車で魔物を運搬するより遥かに楽だ。だけどその場合……。街の中ではシュナの『結界』とコハクの『呪符結界』で魔法を妨害しているけど、街道上までカバーするのは無理だ。これは、警備態勢を強化する必要があるな。そう言えば、ルードネスの部隊員の第一陣の訓練が、そろそろ終わるとかコハクが言っていたっけ。その人員を警備増強に回すのもありだな。一度コハクと相談してみるか)

 

 リムルはそう呟くと、その場を後にしたのだった。

 

 まだ肌寒い風がリムルの長く美しい髪を撫で、優しく吹き抜けていく。

 

 

 

 





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