忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
足を速めていたリムルは今、歩を緩め、周りを見渡すようにゆっくりと歩いていた。
その顔に、凄まじい怒りを込めて。
そこへ、中央広場近くに来たリムルを見つけた魔物がいた。
「リムルさまあぁーーーー!」
猛烈な勢いで駆け寄るリグルドと、
「リムル様。よくぞ、よくぞ御無事でお戻りになられました」
リムルの足元に跪き、感極まったように言った。
「ああ。心配かけたようだな、スマン」
「とんでも御座いません!!! くっ……くぅ……」
それだけ言うと、左腕で顔を覆い号泣するリグルド。
駆けよって来た皆が、跪く。
皆が混乱する中、比較的冷静なカイジンがリムルに声を掛ける。
「旦那、よく御無事で……」
その言葉、声は……何かを耐えるような、悲痛とも言える声に、リムルには聞こえていた。
カイジンと一緒に来た、ドワーフ三兄弟が何故か中央広場に続く通路を塞ぐように、立っていた。
「取り乱して申し訳ありませんでした。まずは、報告と相談したい事が御座いますので、こちらへ」
号泣して落ち着いたリグルドが、リムルを広場と逆の方へと案内しようとする。
ドワーフ三兄弟、リグルドの行為に。
何か自分を、広場の方へ行かせない様に感じたリムルは、広場にある何かに嫌な予感を、感じた。
「リグルド、カイジン。何があった? そこを通してくれ」
「いえ、少し……問題が、起きただけでして……」
「誤魔化すな。いいから、そこをどいてくれ」
リムルが言葉に『威圧』を乗せ、皆が跪き頭を垂れ、ゆっくりと広場に繋がる道が、開けていく。
すると、広場から離れた場所から凄まじい爆音が鳴り響いた。
魔素の薄い中感知出来る
ベニマルのものだった。
そしてこの薄い魔素の中に、凄まじく強大な
リムルはすぐにベニマル達が、誰かと戦闘状態だと察す。
「誰かと戦ってるのか?(この強大な
リムル達は急ぎ、ベニマル達の所へ向かう。
その少し前。
ヨウムとグルーシスはミュウランを守る為、ベニマル達の前に立ち塞がっていた。
ベニマルとゲルドそれに黒塗りの鎧で統一された
「貴様もか! 何故その女を庇う!? 悪いが今の俺達に余裕はない。そこを、どけ!」
「へ、へへっ……ガハッ……。それは、出来ん。冷静さを欠いた、今のお前達に、この女を渡すわけには、いかねえんだよ!」
「冷静さ? ほう、今の俺が冷静さを欠いていたら、既にお前達を消し炭にしているさ。大人しく、そこをどけ!」
「い……カハッ……嫌だね」
まだ剣すらも抜いていないベニマルに、獣人化したグルーシスは何度も打ちのめされ、満身創痍だった。
その後ろではヨウムがベニマルに打たれ、気を失っていて地面に倒れていた。
格の差、獣人化したグルーシスでさえベニマルの足元に及ばなかったのだ。
そこへ。
二つの影が、グルーシスの前へふわりと舞い降りた。
「「「なっ!?」」」
舞い降りたそれは、猫の亜人。
いきなり空から現れた亜人に、ベニマル達は驚くも、直ぐに戦闘状態を取り戻す。
目の前に降り立つ亜人にグルーシスは、小さく呟く。
(ツキハ様? コハク様?)
「何者だ、お前達?」
ぴくりと右眉を跳ね上げ、ベニマルが目の前の亜人に問う。
尻尾をゆらゆらと揺らしながら、ツキハとコハクが口を開く。
「うーん。何者って聞かれても、
「どすなぁ。〝忍魔術・飛天影縫い〟」
コハクが両袂に入れていた手を出し、両手に握っていた棒手裏剣二十本を一斉に投げた。
カカカカカッ 二十体の
「「「「「「か、身体が……」」」」」」
飛天影縫い――
それは棒手裏剣に『気動操作』で魔王覇気を纏わせ、周囲にではなく一個体限定に覇気をぶつける技である。
格下の相手を黙らせるのに使う、コハク達の〝忍魔術〟の一つである。
コハクはそのままベニマルの前に出て、牽制する。
「チッ……こいつ、出来るな」
コハクの隙の無さに、舌打ちをするベニマル。
「なんだと!?」
ゲルドは配下が動きを封じられたのを見て、驚きの声を上げるもすぐに反撃に転じた。
うおおおぉ! 掛け声と共にゲルドは右足で大地を踏みしめた。
ドズンッ!
烈震脚――
踏みしめた衝撃波は大地を揺らす。更に
その衝撃は地面を伝い、ツキハとコハクが立つ大地を揺らして――
トン。
ツキハが左足の踵で、軽く地面を叩いた。
「何っ!?」
ツキハはゲルドが放った振動波を、同じ振動波で相殺していた。
「ふーん。振動波とは、中々やるね」
そう言った瞬間、ツキハの体が一瞬ブレた刹那――
ゲルドの前に接敵していた。
「相殺された? 早いッ!?」
咄嗟に〝
ツキハが右半身を取り。
ズンッ 右足の震脚が地面を揺らし足元がクレーター状に陥没したと同時に、右縦拳が放たれる。
激しい轟音が鳴り、楯鱗の盾が砕かれた、
ゲルドはすかさず『胃袋』から新品の盾を取り出して構えるが。
そこへ、ツキハの
ガゴンッ 鈍く重い音が響き、粉々に粉砕された。
「なら、これでは!」
更に『胃袋』から新品の盾を二枚取り出し、合わせる様に構えた。
「次から次に、切りがない、な!」
ツキハは言い放つと、盾に左掌底を打ち込んだ。
グワン 何かを打ち付けるような音が鳴り、二枚の盾を振動させていく。
「これは!?」
ツキハは〝魔闘気〟を打撃振動波に変えて、波紋のように盾に流し込んだのだ。
ゲルドの防衛本能が危険を知らせ、盾から両手を離す刹那――
それは打ち込まれた。
ズンッ 左手に右掌底を重ね合わせるように打つ。
盾に流し込まれていた〝魔闘気〟は波紋から打振と化し、ゲルドの腕を伝い胸の中心に集まる。
「〝天牙影千流 柔術・掌打
技名を告げた時、『気動操作』で一点集中された、打振がゲルドの中で弾けた。
弾ける瞬間、ゲルドは自身の
バガンッ! 胸の中心から、背中へ逃がされた打振が抜けていき、背中側の鎧が吹き飛んだ。
「がふっ……」
あまりの衝撃にゲルドは、たまらず片膝を付く。
(俺自身の
片膝を付いたままゲルドは、止めを刺しに来ないツキハを訝し気に見ていた。
「ゲルド!」
コハクに牽制され手が出せなかったベニマルが、ゲルドが倒されたのを見て声を上げる。
太刀を抜こうと柄に右手を掛けた瞬間――
バキンと言う音と共に太刀が、後方に鞘ごと蹴り飛ばされていた。
コハクの右前蹴りが、太刀の柄頭をピンポイントで蹴り抜いていたのだ。
「なっ!?」
自分の手元から太刀を蹴り飛ばされたのを見て、ベニマルは驚愕する。
それはベニマル自身の反応速度を遥かに超えた、蹴りだったのだ、
「ちいっ」
ベニマルは間合いを即座に詰め、コハクの右手首を掴み小手返しを極めようとするも。
コハクはするりと手首を返し、逆にベニマルの左手首を内側に極めて、小手返しを掛け。
くるりと体を内側から潜る様に回し、ベニマルの左腕を逆くの字に曲げ、そのまま投げた。
ベニマルは左手首を極められたまま、投げられる方向に逆らわずポンと飛ぶ。
飛び受け身を取り、そのまま倒れ込む様にコハクを巻き込んでいく。
巻き込みながら、コハクの右腕を十字固めに持っていこうとするも、即座に右手首を振り切るように離され、十字固めを外された。
ゆらりと立つコハクが、薄い笑みを浮かべ言葉を吐く。
「ふふ。朧流・柔術どすか? 中々に鍛えてますけども、まだまだどすなぁ」
「なに!? 何故、朧流を知っている?」
「ふふふっ。なんで、でっしゃろな?」
「そうか。なら、お前を倒して聞くとしよう!」
「やってみなはれ」
コハクは淡々と言葉をぶつけると、両手を半開きにし、眼前でゆらりと構えた。
ベニマルが右手刀をコハクに打ち下ろすと。
コハクは左手首を内に曲げ、五本の指を揃え鳥の
打ち下ろした右手刀を弾かれるように防御されたベニマルは、左の正拳突きを入れようとした所に。
コハクがまるで柳の枝が風に揺れる様に体をしならせ、左孤拳をヒュンと返し、軽く開いた掌底をベニマルの右胸に打ち付けた。
大木を打つような重く乾いた音が鳴り響く。
「グッ……(なんだ、この衝撃は?)」
体内に残る打撃の衝撃にベニマルが、苦痛の声を漏らす。
追い打ちとばかりにコハクが拳を軽く握り、五発ベニマルの胸に拳打を見舞う。
「グハッ!(これも……内部に、残るのか……)」
拳が当たった瞬間にだけ拳を握り込み、打撃の衝撃を内部に残す打ち方。
コハク達が忍びの頃に使ってた〝鎧通し〟と言う、打撃技法の一つである。
この打ち方には様々な打ち方があり、〝天牙影千流・柔術〟においては、コハクが使った打ち方の他、ツキハが使う拳を密着させてからの打ち方に、掌底からの打ち方と、その場の状況に合わせて使い分けていた。
その〝鎧通し〟を魔物の身体能力で使う為に、ツキハとコハクが昇華させた
そして、気を自在に操作出来る『気動操作』で、〝魔闘気〟を波紋の様に広げたり、ピンポイントで収束したりと出来た。
この応用で魔王覇気や殺気までも、狙った相手にだけその気を飛ばすことも出来たのだ。
胸を押さえ前屈みになるのを堪えるベニマルへ、ツキハから『思考加速』を掛けた『思念伝達』が届く。
『ふふ。中々に効きますやろ? この拳打』
『くっ……内部に打撃の衝撃を残す打ち方か、朧流柔術にもあるが、これは、少し違うな?』
『ほう、違いがわかるんどすか? あんさん、意外に優秀おすなぁ。御褒美に、少しネタバラシしてあげましょか。これはな、〝気闘法〟を応用したもんや。うちらは〝魔闘気〟と、呼んでますな』
『〝魔闘気〟……お前ら独自の、
『せや。うちらが〝気闘法〟を元に、作りだした、〝魔気闘法〟と言いますんや』
『とんでもないバケモンだな……』
『ふふふ。ども、ありがとさんどす。それじゃあ、少し大人しくしなはれ』
『なっ!?』
体感一秒にも満たない会話が終わり、それは打ち込まれた。
ドズンッ コハクが右掌底による
弾ける様に打ち込まれた〝魔闘気〟は、ベニマルの体内で打震となり暴れ回る。
「ぐっ……く、そっ……」
ガクガクと震える両膝を支えながら、ベニマルは膝を付かなかったが、魔力回路を乱されその場から動けなかった。
それを余所目にコハクはミュウランの近くにいき、ミュウランの胸に右手を当て、ツキハの名を呼ぶ。
「ツキハ!」
呼ばれたツキハは、二本指を立てた右手を口元に持っていき、「幻遁・
コハクの右手を通し、権能『猫騙し』による、偽装信号を出す針をミュウランの心臓に打ち込んだ。
これにより、ミュウランのあらゆる言動と身体データが偽装された暗号通信に変換され送られることになる。
それを確認したコハクが『思考加速』を掛け『思念伝達』を飛ばす。
『あんさん、売ったどすな? せやけど、それはキャンセルや!』
『え!? え? なぜ……』
『うちに売りなはれ。これは、うちの気まぐれや。千年に一度あるかないかの――気まぐれや』
『……わかりました。コハク様に、魂を売ります』
『ええ子や。せやけど、本当に魂を喰うんと違いますえ? ふふ』
『はい、わかっています』
『今から、うちらのやる事に口出し無用や。その後には、全てを明かしなはれ』
『明かす? 全てをです、か?』
『せやで。あんさんは、この業を背負う覚悟をしたんやろ? 好いとる男を守る為に。でもな、どっちに転ぶかは、わからへん。それでもあんさんは、あんさんの想いを貫きなはれ。ええな?』
『はい。コハク様とツキハ様は、どうするのですか?』
『うちらか? せやなぁ……敵に回るやろなぁ。だから、遠慮はいらんで。それじゃあ、あんさんに掛けた術を解くさかい。ここからは、あんさんの意思で動きなはれ。きばりや、ミュウラン』
『はい……ありがとうございます。コハク様、ツキハ様』
コハクは言い終えると右手を離し、〝幻想針〟を解除した。
「ミュウラン。あんさんの役目は、終わりやな」
コハクが冷たく言い放つと、グルーシスが驚いたように目を剥くが、次の言葉が出てこなかった。
「なっ……つ……こ……」
ほわりとツキハの瞳が猫目になり、グルーシスを見る。
ツキハが『気動操作』でグルーシスにだけ『魔王覇気』を飛ばし、口を封じていた。
獣王国に時折訪れていた二人をグルーシスは知っており、訪れた時にはカリオンと手合わせをしていたのも、何度か見ていた。
だから、余計なことを言わない様にしたのだ。
「おい! お前。それを、詳しく聞かせろ(なんだ、こいつらの恰好は?……)」
「「り、リムル様!」」
片膝を付き、荒い息のベニマルとゲルドが来た者の名を呼んだ。
ソウエイ達を伴いやって来たリムルは、亜人の二人組がベニマルとゲルドと戦ってたとみるや、その亜人二人に激しく言葉をぶつけながら、亜人の着てる服装に目が止まった。
(あの着ている丈の短い朱色の着物は……小袖か? 腰に巻いてるのは、角帯だな。脚の
二人を見た疑問が頭を巡る前に、ツキハが口を開く。
「詳しく? 見たらわかるよね? そう言う事だよ」
「見たら? お前達がこれを手引きしたのか!?」
「違いますえ。正確には、知ってはいたけど、見ていただけおすえ」
「見ていた?……そうか、お前らは魔物が人間の騎士団に襲われるのを、ただ見ていただけだと、でも?」
「そうだよ。そこのミュウランが大魔法で魔法不能領域を作り。そこで、外にいる者達が結界を張り、この複合結界を作ったんだよ――」
「そして、ミュウランは捨て駒おす」
「捨て駒だと? どういう事だ!?」
「どうもこうもないおすえ。言った通りの言葉どす。あんさんらの国を亡ぼす為に、絵を描いた
「傭兵だと!? まさか……」
「おい、ベニマル?」
雇われた亜人二人組の傭兵、その言葉を聞いた途端、ベニマルが驚きの声を上げ、何かを思い出すように固まり。
そのベニマルを訝し気に見ながらも、亜人の正体がベニマル達の知る何者かだとは、思う。
そこへ、何かを確信したベニマルが、次の言葉を続けた。
「おまえ、いや、貴女様御二人は……〝番外魔王〟なのでは?」
重々しく口を開いたベニマルの言葉に、二人が肯定する。
「あら、よく気付いたねぇ」
「ですなぁ。うちらは、傭兵稼業をやってますけども――巷では〝番外魔王〟とも呼ばれていますなぁ」
その言葉を聞いたリグルド以下ホブゴブリン達は、「これは、〝番外魔王〟様とは知らず、ご無礼をしましたーー!」と、いきなり跪くリグルド達。
ベニマル、ゲルド、ソウエイ達は表向きは戦闘状態を解いたが、警戒だけは解かなかった。
皆がいきなり跪いた事に驚きを覚えながらも、目の前の亜人がとてつもなくヤバい魔物だと、漏れ出る
〝番外魔王〟、リムルは以前一度だけ聞いた言葉だと、『思考加速』で記憶を手繰った。
⦅あれは、確か……ミリムが言っていた気が………………!? そうだ、魔王の話を聞いていた時だ。『よいか、リムル。ワタシ達魔王とは別に、魔王であって魔王ではない、魔物がいるのだ。〝番外魔王〟と呼ばれている亜人型魔人なのだ。そいつらには手を出しては駄目だぞ? ワタシとガチで遊べるからな。わっはははは』って聞いたな。ミリムとガチでって、すっげえヤバい奴じゃねえか! だが、アイツらは俺の国を荒らした輩の雇われ兵だ……なら、あいつらが何者であろうと、潰す!⦆
リムルは激昂の
『大賢者』が、〝番外魔王〟の検索結果をリムルに伝える。
《告。〝番外魔王〟ですが。四千年以上前に現れた、魔王に匹敵する魔物のようです。魔王にはならず、されど魔王に匹敵する力を持つ為。最古の魔王から、魔王ではない魔王、〝番外魔王〟と言う地位を与えられたようです。その力は太古の魔王ともやり合えるほど強く、〝暴風竜〟ヴェルドラと懇意にしていたと》
『ヴェルドラと?…………あれか、ヴェルドラが言ってた、よく暴れる時に一緒に暴れていたと言う、あの魔物のことか。友達ではないが、それ以外の何かだと言ってたな』
《是。それを表現するならば、〝悪友〟と言った括りではないかと》
『そうか、長い時を生きてる魔物、か。厄介だな』
《是。〝番外魔王〟の能力は、計り知れないと推測します》
『わかったよ『大賢者』。最大限に警戒して、当たろう』
更に強まるリムルの
「リムルはん、そないに強い妖気を漏らすと、周りの配下に影響しますえ。それと、あんさんらはうちらの配下やおへん。立ちなはれ」
コハクの言葉に、リムルは
〝番外魔王〟に纏わる伝承の一部に。
〝暴風竜〟ヴェルドラが荒ぶるとき、それに付き従う二体の魔物、〝番外魔王〟
その〝番外魔王〟が怒れる時、抑えしもの〝暴風竜〟ヴェルドラ
と、あった。
しかし、そのヴェルドラは、現在消息が知れないのである。
ある伝承の一節に残されているこの文を知るジュラの大森林に住む魔物達は、今現在この〝番外魔王〟を抑止できる存在、〝暴風竜〟ヴェルドラが居ない事にリグルド達は、一抹の不安を感じていたのだ。
そこへ。
「なあ、リムルはん。あんさんは、このような現状を見て、まだ人間と仲ようしようと、思てはるのか?」
「なんだと?」
「あんさんは、全ての業を背負う――〝覚悟〟はありますんか?」
「業、だと?」
「せや。あんさんが、これから背負う業や」
「……これから?」
リムルは、これから背負う業と言われ、何が起こるんだと考えようとした時、ツキハがその考えを遮る。
「ねえ、あんた。もう、この国は
「みるもの?……」
「そう、今からあんたが見るものだよ。あんたが、どう動こうとも、怨みや憎しみを受け、背負う事になる。それと向き合う事が出来るかの、〝覚悟〟だよ」
「〝覚悟〟、か……そう言うお前は、どうなんだ?」
「あたしは、大昔から恨みつらみは買ってるよ。それに――そんなの恐かったら、傭兵なんてやってない。
ツキハの言葉にリムルは(俺の覚悟は、なんだ?)と自問自答していると。
「リムルはん。あんさんが、覚悟を決めはったら、また来ますえ」
「また来るだと? そこの、ミュウランはどうするんだ?」
「煮るなり焼くなり、好きにしたらええんちゃいますか?」
「おい! ちょっと待て。ミュウランはお前らの、仲間じゃないのか!?」
「仲間? なに
「死んでもらう?」
「せやで。ほな、さいなら」
コハクはツキハに「いくで」と言い、悠々とリムルの前を通り過ぎて行く。
リムルは、今この二人をこの国から出すべきかと考えたが、『大賢者』に戦った場合の危険性を告げられる。
《告。〝番外魔王〟と戦った場合。魔国連邦の九割が、壊滅状態に陥ると推測します》
『九割か……』
《唯一の手段。〝暴風竜〟ヴェルドラですが。〝無限牢獄〟の解析は後百年は掛かると推測します》
『そうか。とりあえず、〝無限牢獄〟の解析は続けてくれ』
《了》
『大賢者』の言葉にリムルは、通り過ぎていく二人に妙な違和感を抱く。
(こいつら……なんだ……。凄まじい殺気はあるのに、悪意が感じられない?)
ベニマル達がツキハとコハクの前に立ち塞がろうとするのを、リムルが止める。
「駄目だ。そいつらに、手を出すな。今戦えば被害が大きすぎるし、確実に皆殺しにされる」
「しかし――」
「駄目だ」
ベニマルが食い下がろうとするのを、静かに重く威圧を込めた言葉で止める。
二人の後姿にリムルは、嵐のように巻き起こる怒りを抑えながら、二人に問うた。
「お前らは、敵か?」
その問いに、コハクが返した。
「せやなぁ。今は、どちらでもあらへんけど、多分敵やで」
その言葉に、リムルは「そうか」とだけ返す。
『空間迷彩』発動。
空間が歪曲しながら二人の姿が足元から景色に溶け込んでいき、ぽわんと波打つように空間が揺れ、ツキハとコハクの姿は掻き消すように消えた。
その光景をリムルは、爆発しそうな感情を抑えながら見ていた。
ミュウランは、ツキハとコハクの消えた場所に向かって、静かに目を閉じ、これから受ける自分への罰を全て受け入れる〝覚悟〟を今一度、胸に刻んだ。
ふわりと吹く風が、ミュウランの頬をそっと撫で、通り抜けて行く。
傾きかけた太陽が夕日になり、真っ赤な色に彩られる。
閉じた目を開けたミュウランの瞳に映る夕日は、血の色の様に真っ赤に燃えていた。
十五話を読んで頂きありがとうございます!
次回の更新も読んで頂けたら、幸いです。