忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。151話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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151話 Concerns about the East(東への懸念)

 

 

 今日の謁見式残り二組の内、一つの種族がリムルの前に平伏する。

 

 

 その種族は、猪人族(ハイオーク)の各氏族長であった。

 数名の共を連れての挨拶だった。

 リムル達を信頼しているようで、護衛は一人もつけていない。

 

 その数名の共も、子や孫達であった。

 

 食糧事情の改善は勿論、暮らし向きも良くなったとの事だった。

 更に、子が生まれる中で何よりも猪人族(ハイオーク)達が驚いたのが、その生まれた子供達も猪人族(ハイオーク)である事だったのだ。

 

 それを聞いたリムルは、子供が猪人族(ハイオーク)になるのは当然だろう? と思った、が。

 

 しかし、それは違った。

 

 普通は豚頭族(オーク)に戻ると聞き、一代限りの変異が当たり前と説明を受けた。

 これにはリムルも驚き、内心、何で? と考えたけども、とりあえずは猪人族(ハイオーク)の氏族長達とそれを喜んだ。

 

 そして、リムルが少し心配した名前の継承も、案外上手くやっているらしいとの事だった。

 

 リムルは、適当に番号を振って名前を付けた訳だが、流石に万単位の者に名付けはそうするしかなかったのは否めない。

 

 まあ、番号を名付けにするのは先駆者がいて、じゃあ俺は二番手だから良いよな? 的な事を言うも、ツキハに千とうん十万単位では、やらかし度が違うよと、一蹴されたのは、魔国にツキハとコハクが住み着いた時の事であった。

 

 それでも猪人族(ハイオーク)達にとっては、自然な名前だと受け取っていたのだ。

 

 氏族長の近況報告も終わり、猪人族(ハイオーク)との謁見をリムルは終えた。

 

 

 本日の最終組。

 

 樹人族(トレント)である。

 

 とは言っても、樹人族(トレント)は動けないので、ここに来たのは、トレイニーの妹である樹妖精(ドライアド)のトライアとドリスであった。

 

「お久しぶりです、リムル様。この度、魔王となられました事、本当におめでとう御座います」

「リムル様。今後とも、私共をお守り下さりますよう、宜しくお願いします」

 

 トライアとドリスは、気兼ねすることなくリムルに笑顔で挨拶をする。

 

 それからは、お互いに近況を報告を済ませていった。

 

 今現在、目立った不都合はなかったのだが、ジュラの大森林の魔素濃度が薄くなった事で、移動が少し不便になったと二人は言う。

 

 トレイニーそっくりの二人からは、大きな魔力を感じるけども、それでも魔素濃度の低下の影響は受けているとの事だった。

 

 リムルが見ている目の前のドリスは、実際、構成されている身体が薄くなっていた。

 そう、街道各所に設置された、『結界』発生装置の影響である。

 

 この問題は、今現在教授が取り組んでいた。 

 教授が開発中の魔導ジェネレーターも、魔素を際限なく吸収するシステムなので、これを克服する事が出来れば、一気に魔素濃度低下の問題は解決する事になる。

 

 そして、その糸口を見つけた教授は、不眠不休で開発中なのだが……

 リムルに伝わって来た話によると、ここ最近は、もう十日は寝てないとの事だった。

 

(そう言えば、教授があんまり寝てないと聞いたけど、大丈夫なんだろうか? 物質体(マテリアル・ボディー)、つまり人間の教授に魔物みたいな肉体的特性はないし、過労死もあり得るんじゃないか? ちょっと心配だな。何とか時間を作って様子を見に行こう)

 

 と、思うリムルであった。

 

「そうだな。街道に『結界』を張っている影響か……。対策は考えているし、今しばらく待ってくれれば――」

「あ、いえ。そこまで問題としている訳ではないのです」

「そうです、リムル様。私達姉妹は魔素を使って『魔体』を(かたど)っていますので、影響を受けやすいという事ですわ」

 

 そう言いながら、トライアとドリスは顔を見合わせて、軽く(うなづ)き合い、そして。

 

「それよりも、リムル様――」

「大事なお話があるのです!!」

 

 魔素濃度の低下問題など些事(さじ)であると、二人は言ったのだ。

 

 影響を受ける魔物も確かにいるが、そんな魔物などは、魔素濃度の高い森林の奥地へと生息場所を移していると。

 

 魔素をエサとする樹妖精(ドライアド)樹人族(トレント)以外には関係のない話だとも言った。

 

 それよりも、大事な相談があるとリムルに言って来たのだ。

 

 話を聞いたリムルは、本日最後の予定なので、場所を変えて二人の相談を聞く事にした。

 

 こうして、その日の夜に二人の相談を受けるべく、個別に時間を設ける事になったのである。

 

 この予定外に取れた時間を利用してリムルは、トライアとドリスに合う前に、教授の所へと行くことにしたのであった。

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 その夜、リムルは教授の研究室兼自宅へとやって来ていた。

 

 教授の家の研究室の扉を軽くノックするリムル。

 

 すると、どこか力の抜けた声が返って来た。

 

「は~い。開いてるから入って来て、どうぞぉ」

 

 

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 返事が返って来たので、お邪魔しますと、リムルは扉を開けて研究室へ入る。

 

「こんばんは、教授」 

「やあ、リムル君。いきなりだねぇ、どうしたの?」

 

 ややぼさぼさ髪の髪に目の下にクマを作り、灰紫色の作務衣(さむい)を着て草履(ぞうり)を履き、積み重ねられた魔導書や、様々な術式が書かれた紙に埋もれた作業机の前に立つ教授がいた。

 

「いや、用と言うほどではないんだけど、最近不眠不休と聞いてね。少し心配になって様子を見に来たんだよ」

「ああ、そうかそうか。リグルドさんから聞いたのかな?」

「うん、まあ、リグルドやシュナ達からね」

「なるほど。まあ確かにぃ、ここ十日は寝てないねぇ――」

「はあ!? おいおい、それ不味いんじゃないか? なあ、教授。いいから少し寝たらどうなんだ? いくら何でも、そのままじゃ過労死しかねないぞ!」

「ふむ。あぁ、でも、大丈夫大丈夫。合間合間に、ほんの少しだけ寝てるから、ね」

「合間? 少しだけ?」

「そうなんだよぉ。でさぁ、もう限界みたいだからぁ、五分だけ寝るねぇ」

「え? あ、はい、おやすみなさい」

 

 そう言うと教授は、研究室にある簡易ベッドに向かうと、これまたベッドに乱雑に置かれた魔導工学書や精霊工学書をかき分けて、コテリと横になると一瞬で眠りに落ちた。

 

 呆気に取られたリムルは、そのまま教授が起きて来るのを待つ事にした。

 

()や、もう寝たのか。しかし、相変わらず凄い術式だな。異世界の技術とこの世界の魔法術式を掛け合わせた混合術式。よく考えついたものだよ)

 

 リムルが手に取った一枚の紙には、びっしりと混合術式が書かれていた。

 ふと、作業机から少し離れた所にある大きな黒板には、これまた、リムル達がいた世界の物理工学の公式や、熱エネルギーと電気エネルギーの変換公式などがびっしりと書き連ねられていた。

 

 そうしてる内に五分が経つと、教授が目を覚ます。

 

「……うーーん。よく寝たあーー」

 

 簡易ベッドの上で上半身を起こし、うーんと伸びをする教授。

 

 寝起きの顔には、クマが綺麗に消えていて、心なしか肌もツヤツヤとしていた。

 変わらないのは、ややボサボサした髪だけである。

 

「おはようって、え? クマが消えている、何で? 肌も、どこかツヤツヤしているし……」

 

 寝起きの教授を見て、ビックリするリムル。

 不思議そうに教授の顔を見ていると――

 

「ん? 何か私の顔についてる?」

「いや。凄い疲れた顔してたのに、たった五分寝ただけで、そこまで体力が回復するのかなって、思っただけなんだけど」

「その事ね。最近さぁ、完徹は勿論、何日も徹夜しても、ちょっと寝るだけで体力が回復するんだよねぇ。不思議だね、ふふ」

「へえ、そうなの?」

 

 教授の返って来た言葉に、何とも言えないような感じで返すリムル。

 見た目にも先程までの疲れ切った様子は無くなり、今は元気そのものである。

 

 するとそこへ――

 

《告。個体名:リュウコ・アヤセには、精神生命体への進化の兆候が現れつつあります》

『ふあ? マジに?』

 

 リムルは、突然の智慧之王(ラファエル)による報告に、内心で変な声を出す。

 

《告。睡眠時間の低下現象がその証拠です。更に、極短時間での体力回復がそれを裏付けています》

『ほお。でもなぁ、教授は戦いが出来ないから、進化するにしても、それおかしくないか? 進化には、魂を鍛える事が条件に入るんだよな?』

《是。確かにその事も条件に入ります。が、しかし、別の形での進化も可能と推測します。魔王種ではないので、()を必要とはしませんが、個体名:ヒナタ・サカグチみたいに剣技を鍛え、己を鍛える事で、精神生命体への進化へ至る事も出来ます》

『うん、それはわかっているけど。じゃあ、教授はどうやって急激に精神生命体への進化を始めたんだよ。ツキハやコハクの影響とかか?』

《解。教授は頭脳を使う事でそれを成し遂げたのではと、推測します》

『頭を使う、か。確かに俺の国に引越しして来た教授は、物凄い開発案件を抱えているものなぁ……あ!? そうか、ユニークスキルのフル活用か!』

《是。能力(スキル)を多用する事による魂の修練。個体名:リュウコ・アヤセに取っては、頭脳を使う事こそ、進化への道が開けるといった事になるのでしょう》

『なるほどなぁ。それに気付いて、あれだけの開発を抱えていたのかな――』

《告。個体名:リュウコ・アヤセはその事には気付いていないものと推測します》

『え? 気付いてないって、天然かよ!』

 

 智慧之王(ラファエル)との会話の中で、思わず声を上げるリムル。

 自分の天然さには気付いていない模様である。

 

 どこか溜息を付く智慧之王(ラファエル)の感じに、先生(ラファエル)何かご不満でも? とリムルが聞くも。

 

《……》

 

 いつもの(ごと)く無言を返す智慧之王(ラファエル)なのであった。

 

『あー、まあいいけど。でもさ、自力でそこに到るなんて、ある意味凄いよな』 

《告。恐らく本能でやっているのではと、推測します》

『本能ねえ……これも研究者の(さが)なのかねぇ』

 

 とりあえずは『思考加速』をかけてるとはいえ、教授の方に時間を戻そうと、リムルは智慧之王(ラファエル)との会話を終えた。

 

「――そうなんだよねえ。まあ、これは置いといて。でさ、リムル君は何の要件で来たのかな?」

「あ、えと。うん、本当に教授の事が心配で見に来ただけなんだ」

「そっかぁ、それは心配かけたね。ごめんね、リムル君」

「あ、はい、いや、えと、はい」

 

 リムルの言葉に、クスリと笑みを浮かべ言う教授の顔に、思わずドキッとするリムル。

 どこか不機嫌な気配を漂わせる智慧之王(ラファエル)だが、リムルはそれをいつものアレかと、受け流す。

 

 それからは、魔導ジェネレーターの改善状況を聞くリムルであった。  

 

 教授は、魔導ジェネレーターの核である、発電コイルを回すエネルギーを魔素で生み出していたのだが、一旦魔素を利用すると言うことを破棄したと教授が説明をする。

 

「まあ、この世界に無尽蔵にある魔素を利用するのが一番手っ取り早いんだけどね。周辺の魔素を枯渇させると色々不味い事もあるからねぇ」

「確かにな。魔素を必要とする生物もいるし、それを絶滅させるのは俺も望んでいないよ。いくら凶悪な生物でもね」

「まあ、内燃機関を作るのが一番いいんだけど。それをするには、膨大な時間とこの世界の環境問題にも関わるのは避けられない。でも、私達がいた世界とは違い、この世界には魔法と言う摩訶不思議技術がある。魔導工学に精霊工学。リムル君が取り組んでいる、精霊工学を用いた魔導蒸気機関がそれだね」

「ああ、火の精霊を使っての蒸気機関が試作段階までは来たよ」

「ほほう、それは何よりだね。それよりも、コレを見てくれるかな」

 

 そう言うと教授は、作業机の上に、四方二センチ、厚さ五ミリの正方形の物体を少し離した間隔で二個並べた。

 

 リムルが、これは? と言うと、教授が片方の正方形の物体を、もう片方に近づけると――

 

「おお!? これ磁石か!」

 

 片方を近付けた瞬間、もう片方が弾かれたようにピンッと反対方向に動いたのだ。

 

 磁石、この世界にも天然の磁鉄鉱は存在する。

 教授は、この磁石を魔鉱石から作ったと言った。

 

 磁石を作るには、幾つもの複雑な工程を要するし、その設備も必要になる。

 

 だがしかし、この世界には魔法と言うモノがあり、魔導工学や精霊工学もある。

 それらを用いれば、魔法術式と簡単な設備で出来ると、教授は言った。 

 

 そして、この魔鉱石で作った磁石には、ある変わった特性が備わっていると、教授は説明する――

 

「この魔鉱石で作った磁石はね、何と驚く事に、常温超伝導の特性を持ってたんだよ!」

「はあ!? 超伝導って、常温の方なのか……マジなの?」

「マジも、大マジよー!!――」

 

 目をキラキラさせて、力説する教授。

 これにはリムルもビックリである。

 

 リムルがいた世界では、未だにその物質の生成には至っていない。

 魔素で変質した鉄鉱石にこんな特性があったとは、灯台元暮らしもいいところである。

 

 もっとも、〝魔鋼〟で作った武具などは、作り手によっては、様々な特性を持つ事になるのだ。 

 クロベエがリムルに打った一振りの打刀(うちがたな)が、それに当たる。

 

 この様々な特性を持つ魔鉱石、これで磁石を作ろうという発想はリムルにはなかった。

 教授は研究者であり、この世界にある鉱石で磁石を作ってきていた。

 その過程で、魔鉱石でも作ってみたのがつい最近の事だった。

 

 魔鉱石なら、常温超伝導の物質体が作れる事が実証されたのだ。

 常温、十五度から三十度前後なら、風魔法や低級水や風の精霊魔法で温度管理が容易にできる。

 

 これよりにより電気抵抗がゼロになり、極めて少ない電力損失で通電でき、さらに電力を消費せずに強い磁場を発生させる事が可能になるのだ。

 

「でね、コレを利用すれば、少ない魔力で魔導ジェネレーターを稼働させる事が出来るんだ。電気抵抗がゼロ、という事は、エネルギーの損失が全くなく利用出来る。〝超伝導魔鋼線材〟で閉回路を作れば、電流はいつまでも流れ続ける事になる。つまり、電流が直接貯蔵できるんだよ。電力を消費しないで強い磁場を発生させコイルを回す。で、その魔導ジェネレーターで生み出した電気エネルギーで、モーターを稼働するってところかな。いや、魔導ジェネレーターそのものを超魔力伝導モーターとしてもいいかも。まだ理論だけで、試作品すらもないけれど――」 

「凄い発見だよ教授! これを用いれば、リニアモーターカーだって夢じゃなくなるよ」

「そうだね。でも、まだまだずっと先の事だねぇ。この制御に用いる術式は、かなり高度で複雑なんだよね。それよりも、魔素ではなく、少ない魔力でどうにか出来る事がわかっただけでも、良しとしよう」

「ああ、確かにな。この原理を用いれば、街道沿いの『結界』発生装置にも生かせそうだ」

「とりあえずは、試作機を完成させる事が先決だね。さあて、やるかあー」

 

 そう言うと教授は作業机に座り、紙束で作ったノートに、様々な術式と計算式を書きなぐっていく。

 

 もうリムルの存在を忘れたかのように、作業に没頭する教授。 

 

 その姿を見てリムルは、相変わらず研究熱心だなというようにフッと口元に笑いを浮かべると。

 

「じゃあ、俺はいくよ。あんまり無理はするなよ、教授」

 

 リムルがそう言うと、教授は座ったまま右手を上げて軽く振る、と。

 

「あ、そうだ。リムル君」

 

 扉を開けて出ていこうとするリムルを呼び止める教授。

 クルリと座った椅子を回して、教授はリムルの方に向く。

 

「お、どうしたの教授」

「あぁー、いやぁ、これはもしもの話なんだけど」

 

 と、先に断りを入れて話す教授であった。

 

「もしもだよ。私と同等かそれ以上の知識を持つ異世界人がこの世界に〝召喚〟、もしくは〝転移〟して来ていたら。間違いなく私と同じ発想に到るかもねぇ。そして、国によってはそれを軍事利用するかも、知れない。あくまでももしもの話だけど。そして、この世界に取って凶悪極まりないモノを作る発想にいく者がいたりして、ね」

「うーん。教授ほどの人材が、そうポンポンと都合よくこの世界には来ないだろう、普通」

「それは、そうなんだけども……」

 

 この時の教授の視線が一瞬、〝東〟を見ていたのにリムルは気付かなかった。

 

「ま、そうだね。ごめんごめん、ちょっと考え過ぎかな。忘れてくれていいよ、リムル君」

「いや、教授の懸念は理解出来るよ。頭の片隅にでも置いておくさ」

「そっか。引き留めて悪かったね」

「構わないよ。それじゃあ」

 

 そう言いリムルは、教授の自宅兼研究室を出ると、トライアとドリスが待つ特別室へと向かって行った。

 

 リムルは特別室に向かいながら、教授みたいな人が他の国にいたら厄介だよなぁと、考え歩く。

 

 そして、智慧之王(ラファエル)はその可能性について、自分の知り得る全ての情報を精査し、教授の懸念が少なからずも間違いではないのではと、推測するが、まだ判断材料が少ない為リムルにこの事は告げなかった。

 

 智慧之王(ラファエル)は教授の話と、自分の知る限りの情報から、ある事を導き出す。

 教授の懸念は、〝東〟の方にあると。

 

 だが、それがどの様な形なのか、今はわからない……。

 

 

 

 やがて、特別室に着いたリムルが部屋に入るといきなり―― 

 

「相談と言うのはですね――」

「私達も大姉様と同じく、(うるわ)しき妖精嬢王様にお仕えしたいのです」

 

 二人は声を合わせて、リムルにそう言った。

 

 そして、リムルは思う。

 

(ないわぁ。それはない。麗しいとか……うん、絶対ない。俺のイメージと二人のイメージ、絶対に一致しないわ。あれよ、思い浮かぶのは、ツキハと一緒にバカやって無邪気に笑う顔が浮かぶぞ。まあ、いんだけども。何かトレイニーさんといい、この二人といい、あまりにもラミリスを美化し過ぎてないか? と、俺は思うよ)

 

 と、内心苦笑いを浮かべつつも、二人の相談を聞くリムルである。

 

「これは私達だけの意志ではなく、樹人族(トレント)全体の意志なのです」

「聞けばこの街に――」

「ラミリス様が引っ越しをされたとの事」

「であるならば我々も、ラミリス様のお役に立ちたいと……」

 

 二人は交互に、リムルではなく、ラミリスに仕えたいと訴えてくる。

 

 リムルはそれを聞きながら、別の(あるじ)がいいと言い張る者達を、自分の配下に加えるのは如何なものか? と考えるも、今更だなと、その考えを消し去った。

 

 何故なら、彼女達の姉であるトレイニーが既に、ラミリスに仕えているのだから、反対する理由がないのである。

 

「あの、本人に聞いてみる?」

「――えっ!?」

「宜しいのですか?」

 

 物凄い勢いで反応する、トライアとドリス。

 

 こうしてリムルは、トライアとドリスを連れて、ラミリスの所へ向かったのだった。

 

 ラミリスの所に着くと、そこではベレッタが黙々と作業を続けており、トレイニーがラミリスの世話を甲斐甲斐しく焼いていた。

 

 そこで、ラミリスの姿を見た二人は――

 

「ああ、やはりラミリス様は麗しい」

「変わりなく美しく、気品あるその姿。私達の(あるじ)に相応しい御方ですわ」

 

 ラミリスを見るなり、号泣し始めるトライアとドリス。

 

 それを見て、満足そうにウンウンと頷くトレイニー。

 

(アンタらラミリスに激甘じゃね? この人達が一体誰の事を言ってるのか、俺には良くわからない)

 

 三人の様を見て、少し現実逃避するリムルである。

 

 こんな時にツキハがいれば、ケラケラ笑いながら無慈悲なツッコミを入れてくれるのにと、思うリムル。その当人は今、夜の街でお遊び真っ最中であった。

 

「聞いた? ねえ、ちょっと聞いたでしょ!? アンタ、アタシの事を見直したわよね?」

 

 リムルの周りを鼻高々で飛び回り、「どーよ!」という感じで大喜びするラミリス。

 

(ウザッ。って、まあいいか。褒められるのは誰でも嬉しいものだし、ふふ。これなら答えを聞くまでもないかな)

 

 そう思いながらもラミリスに聞くリムル。

 

「どうする、ラミリス? この二人だけではなく、樹人族(トレント)の皆さんもお前に仕えたいそうだけど?」

「え、でも……」

 

 ラミリスは自分が居候(いそうろう)という立場を自覚しているのか、躊躇(ためら)うようにリムルを見る。

 

 それを見たリムルは、救いの手を差し伸べた。

 

「お前の迷宮内に引っ越しをしてもらったらどうだ? 迷宮領地シャルフューズの土地もそうやって移してきたんだったよな? だったら樹人族(トレント)の集落を移すのも同じ事だろ」

「いいの? それなら明日にでも行ってくるよ! 師匠の力を借りたら迷宮拡張も簡単だったし、他にはツキハとコハクもいるもんね。アタシの力も増した気がするからね。空いてる階層があるから樹林(ジャングル)階層にするのもいいかもね!」

 

 喜色満面で、リムルの提案に頷くラミリス。

 

 こうして、ラミリスの迷宮内に樹人族(トレント)の集落を移す運びとなったのであった。

 場所は地下九十五階、獣人達が避難場所としている階層である。

 

 もっとも広い面積を持つその階層は、迷宮領地シャルフューズと同様に、直径五キロメートルの真円に設定されていた。 

 

 この階層にリムルは、休憩場所を作るつもりだったので、憩いの場所が殺風景では駄目だろうと思っていたリムルにとって好都合だったのだ。

 

 そして、ほどなくして小さな森林地帯が出来た。

 

 九十五階は五の倍数なので安全地帯である。

 

 そこで、階層には余裕があるので、九十一階から九十四階まで、倉庫や花畑とし、更に魔国製品の加工工場として利用する事にした。

 

 もっと正確には、九十一階が鉄鉱石の保管庫。

 九十二階が〝魔鋼〟の製造工場になる。

 

 九十三階は花畑で、アピトが集めた蜜を、九十四階で蜂蜜への加工工場となる。

 

 これらは、九十五階から直通で行けるようになっていて、移動も楽というメリットがあった。

 

 中央部には記録地点(セーブポイント)があり、各種階層の扉と、下の階へと続く階段がある。

 

 ちなみに、九十階のボスを倒せば、九十五階への扉が現れるのだ。

 

 そして――

 

 九十六階からは、地獄の最難関領域が牙を剥く事になる。

 

 そこに挑む前の九十五階であり、地下へと続く道への前に扉を設け、〝ここからは地獄への最難関領域となる〟と、注意書きの看板を設置するつもりのリムル。

 

 その上で、扉の周辺に宿屋と武器防具屋を用意する事にした。

 

 宿屋は、安全地帯からの扉からも繋がるようにしてあった。

 そして、武器防具屋には、ここでしか買えない貴重な武具を店先に並べるつもりのリムルである。

 

 だがしかし、客は滅多に来ないだろうから趣味の店になるだろうなと、リムルは思う。

 

 

 後にこの階層は、一つの森林型都市を形成する事になる。

 

 迷宮領地シャルフューズとは、また違った形で。

 

 

 地下迷宮(ダンジョン)を突破して辿り着いた者だけが、癒しと更なる力を与えられる――

 

 〝迷宮都市(ラビリンス)〟と称され、繁栄する事になる幻想の都。

 

 

 

 だがしかし、今のリムルはそこまで想像はしていなかったのだった。

 

 

 





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