忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。152話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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152話 問題児〝やさぐれ三獣士〟

 

 

 翌日の朝。

 

 

 朝早くからツキハとコハクの自宅から、トントンと包丁で食材を切る音が聞こえていた。

 

 まだ、〝寝て(低位活動状態中)いる〟ツキハとコハクに代わって、台所に立って朝食を作るイチコ。

 

 

 暫くすると、コハクが二階の自室から降りてくる。

 

 階段途中で右手をサッと振り、パジャマ代わりに来ている薄手の草色の肌小袖を()や着替えで、いつもの装束(しょうぞく)に着替える。

 

「おはようございます。コハク様」

 

 二階から降りてきたコハクに気付きイチコは、朝食を作る手を止め挨拶をした。

 

「ん、おはようさん」

 

 そう言うとコハクは、囲炉裏の前の座布団に正座で座る。

 

 イチコが素早くお茶を入れ、コハクに持って来て、コハクは湯呑みを両手で持つと、一口熱いお茶をゆっくり喉に流し込み、ほっと一息をつく。

 

 そしてコハクは、ツキハの部屋に目を移す。

 

「まだ寝てるんかいな。ほんま、しょうもない」 

 

 (つぶや)きながらコハクは立つと、ツキハの部屋の(ふすま)の前に立つ。

 

「ツキハ、開けるで」

 

 そう言うと、襖に掛けられた鍵術式を事も無く解錠し開ける、と。

 

「くさっ!」

 

 襖を開けた途端、一気に漂って来る酒の匂い。

 

 幾つもの酒瓶が散乱し、ワインの入ってたであろう小樽(こだる)も二つほど部屋に転がっていた。

 

 部屋の真ん中に敷かれている布団に大の字で寝ているツキハ。

 

 そのツキハの胸に右足を乗せて、左足をツキハの右顔横に置いて、同じく大の字で寝ているサンコ。

 

 二人共、着ているパジャマ代わりは、勿論、紺色の甚平(じんべえ)である。

 

「こんのアホ二匹はぁ、また、色気のいの字もないもんを着てからにぃ……」

 

 コハクは、どこかやり場のない気持ちを抑えながら右(こぶし)を握り締め、呟く。

 

 魔国に移住するまでは、ツキハもパジャマ代わりに、大体は薄手の肌小袖を着て寝ていた。魔国に移住してからは、暫くシュナが作った肌小袖を着て寝ていたが……。

 

 あの、ヒナタ達との宴会で、部屋着は甚平を着るようになったのだ。

 もっぱら、夏用の衣類なのだが、そこは魔物であるツキハとサンコ、オールシーズンでこの甚平をパジャマ代わりと部屋着にしていたのである。

 

 以前なら、ツキハを起こしに行くと、寝相の悪いツキハの肌小袖の(すそ)と胸元は乱れ、健康的な生足に、程よい胸の膨らみが堪能出来ていたのだが、今や色気とは無縁の光景であった。

 

「アカン。ここ最近、オヤジ化が加速度的に進んでるやおまへんか。あれや、今一度、女の子の(たしな)みを、みっちり教えなあきまへんな。じゃないと、うちの目の保養が無くなってしまうやおまへんか!」

 

 心の声を駄々漏らしながら言っていると、サンコが何か嫌な記憶の夢を見たのか、ウガッウガガと呻き声を上げながらいきなり左足でツキハの右顔面をネコキックするサンコ。

 

 ズバババ。

 

 寝たまま右顔を蹴られるツキハは、右手でガシリとサンコの左足首を(つか)むと、ふわりと上に持ち上げ。

 

 ズバアンッ! と畳にサンコを叩きつけ、その震動で部屋に散乱した酒瓶がカラカラと音を立てて転がりまわる。

 

 ミギャッ。

 

 変な声を上げて、ピクピクンと身体を震わせて大の字まま白目を()くサンコ。

 

「なにしてんねん、この二人は……」

 

 半目でツキハとサンコを見下ろしながら、コハクは一言叫んだ。

 

「もうとっくに朝やで。はよ起きなはれ!」

 

 空気を震わせてコハクの声が、ルヴナン支店敷地内に響き渡る。

 

 その声を聞いた眷属達の尻尾の毛が一斉にボワッと逆立つ。

 イチコだけは顔色一つ変えず、朝食の用意をしていた。

 

「ぁあ……ぁー、コハク? おあよう」

 

 上半身をむくりと起こし、ゆっくりと周りを見渡し、襖を開けて部屋の前に立つコハクを見つけると、気の抜けた声を出すツキハ。

 

「まったく色気のないもん着はって、今日も謁見会場の警備で忙しいんやで。ちゃっちゃと朝飯を食べて、用意しなはれ」

「ほっとけ。アンタの目の保養が出来ないからって、文句言うな、エロ猫が!」

「エロ猫ちゃう。あんさんへの愛に溢れた猫さんやねん! 乱れた裾から覗く、あんさんの(なまめ)かしい素足や、乱れた胸元から覗く胸を見れない、可哀想な猫さんやねん!」

「あんたねぇー。朝からやめて、変態全開は……」

 

 ツキハがエロ猫と言い放つと、自信たっぷりの変態返しをされ、若干引き気味の声を出すツキハであった。

 

 サンコの足を掴んだまま起きて来たツキハは、サンコ起きなと、囲炉裏端(いろりばた)の前に敷かれた座布団の一枚に、サンコをポンと放り投げた。

 

「ニャッ!?」

 

 放り投げられた瞬間目を覚ましたサンコは、空中でクルリと体を回し、正座の形でポフッと座布団の上に着地する。

 

「おはようございます、ツキハ様。サンコ、おはよう」

 

 穏やかな声で朝の挨拶をするイチコ。

 

「ん、おはよう、イチコ」

「お、おはようニャ。ツキハ様、コハク様、(かあ)様」

 

 ツキハとサンコは、まだ眠そうな顔して挨拶を返す。

 

 ツキハが囲炉裏端に座ると、コハクも続いて座る。

 

 それを確認したイチコが、お(ぜん)に載せた朝食をツキハとコハクの前に置き、次にサンコの前に置き、空いてる座布団の前に自分のお膳を置く。

 

 今日の朝食は、魔黒米にダイコンと油揚げの味噌汁にリムルが最近再現した沢庵(たくわん)の漬物、そしてイワナモドキの焼き魚である。

 

 四人は朝食を食べながら、今日の警備の軽い打合せをする。

 

 ツキハとコハクは、昨日と同じく謁見会場内の警備。

 サンコはニコと、六歳児くらいの人間の子供に変幻(ヘンゲ)して、子供に変幻した他の眷属達と中央都市リムルの警備。

 イチコも同じく、人間の女性に変幻して、一桁番号眷属達と謁見会場周辺の警備。

 

 残った眷属達も、魔国のあちこちに散らばって警備。

 

 ロモコ班は、〝封印の洞窟〟周辺を警戒、警備に当たる。

 

 やがて、朝食を食べ終わった四人は、それぞれの持ち場へと向かって行った。

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 今日の謁見予定は、ジュラの大森林に住まう種族の中でも、比較的強い種族の番である。

 

 強い種族達が集まると、大体争い事が起こるのは避けられないのだが、お約束のように二つの種族が言い争いを起こしていた。

 

 謁見会場に入り、壇上にやって来たリムルと、幹部達。

 

 争いの声を聞いたシュナが眉をひそめ、シオンは笑顔こそ崩していないが、あからさまに額に血管を浮かべていた。

 

 会場内を警備しているツキハとコハクが、その言い争いをしている者達から少し離れた所に立ち、両手は前に組んでいるが、二人とも右手を開いたり握ったりしていた。

 

 入って来ていたのは、牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)の二種族だったのだ。

 

 それを見たリムルは――

 

(やれやれ、これ、無事に終わればいいんだけど。あー、ツキハとコハクがにこやかに右手をグーパーしてるじゃん。いい加減にしないとアイツら、ゲンコツで頭粉砕されかねないわ。まあ、流血沙汰にはならんと思うけども、あの二人だからなぁ……)

 

 そんな事を思うリムルであった。

 

 

 それぞれが若い戦士を引き連れて、リムルが壇上に来たというのに、互いに威圧し合うように睨み合いと罵倒を繰り返す。

 

 シオンの額の血管が更にピクピクと波打ち、我慢の限界が近づきつつあり、それを見たツキハが『思念伝達』でシオンに、出すなよぉ、手ぇ出すんんじねぇぞー リムルに怒られるぞぉと、(なだ)めていた。

 

 しかし、そう言った本人はシバキ倒す気満々なのだから、説得力ゼロである。

 

 そして、コハクからリムルへ『思念伝達』が送られ、この二種族は仲が悪く、もうかれこれ百年以上も戦争を続けていると聞かされる。

 

 言い争いの理由は、どちらが先に謁見するかであった。

 

 今にも喧嘩に発展しそうな空気を漂わせつつ、お互いに牽制しながらリムルの前に立つ二種族。

 ジュラの大森林の上位種族なだけあり、その態度はかなりふてぶてしい。

 

 先に、牛の頭部を持つ魔人が口を開く。

 

「おう、魔王様よ。(いくさ)に役に立つなら、俺達の方だぜ? 俺達牛頭族(ゴズ)を味方に付ければ、この森にも睨みが利くってもんさ! そこにいる馬頭族(メズ)を滅ぼしちまえば、俺達に適う種族なんざこの森にはいねえーよ!」

 

 上位種族なだけあって、リムルを恐れもせずに大口を叩く牛頭族(ゴズ)

 

(うん、確かに、初期の頃の大鬼族(オーガ)や、蜥蜴人族(リザードマン)以上の魔素量はあるな。少なく見積もっても、Aランク相当に達する者が何名かいるか。百年戦争し続けて来たというのなら、実力は本物だろう。単純な戦闘能力だけならば、ジュラの大森林の中に限って言えば、最強の部類に入るかもな……)

 

 スライム形態で置物のようになってるリムルは、牛頭族(ゴズ)を見ながらそう考えた。

 

 すると、もう一方の馬頭の魔人が激昂する。

 

「ふん、馬鹿め! 魔王というからには、見る目もあろう。我等、馬頭族(メズ)と組むがいい。そこの牛頭族(ゴズ)だけではなく、逆らう魔物共は皆殺しにして見せるぞ!」

 

 これまた、過激な発言を言い放つ馬頭族(メズ)

 

(ちょーい! それは駄目だって。お前の後ろには、番外魔王がいるんだぞおー)

 

 ツキハとサンコの眉がピクンと跳ねたのを見たリムルは、スライム形態の体を(わず)かにプルンと震わせる。

 

 そこへ、謁見会場周辺にいた一桁番号眷属の中でも一際血の気の多いムツオ(六番)が、『空間迷彩』をかけたまま牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)の近くまで来て、忍魔術の印を切ろうとしているのをツキハが慌てて止める。

 

『おい。何してるの? やめんかい!』

(あるじ)よ。俺は、この舐めた牛と馬を消し飛ばしてやろうとしてるんだが?』

『やめろって。あたしがリムルに怒られるじゃん!』

『いや、魔王リムル様を馬鹿にしてるんだから、自業自得だろが! 大丈夫、怒られねえって』

『あ゛あ? テメエ、あたしが怒られたら、十年ぐらい魂だけにして、コハクの呪符に隔離すんぞ』

『はうあ!? いや、それだけはご勘弁をー! ツキハ様、すいませんでしたあーーッ!』

 

 ツキハが一瞬にしてキレると、ムツオは即座に謝罪して、すぐさまその場から逃げるように去っていった。

 

 それにツキハは、前に組んだ右手だけを、()よ持ち場に戻れというように、小さくピッピッと振る。

 

 あーあ、なんだかなぁとばかりに壇上から牛頭族(ゴズ)と、馬頭族(メズ)を眺めていたリムルは、ふと、ある考えが(ひらめ)いた。

 

(そうだ、迷宮といえば、ミノタウロスだ! 俺の元いた世界のギリシャ神話にある迷宮にいる、〝牛の頭を持つ怪物(ミノタウロス)〟。コイツ、そのミノタウロスそのものじゃん。正にミノタウロスの外見そのもの。良いねえ、実に適任だ。俺の迷宮に足りないもの、それは各階層のボス。(おさ)と呼ばれる大柄のヤツは、ボスにもってこいだわ。まだ目立った魔物を三体、十、二十、三十階層しか配置してないしな。コイツなら、四十か五十階層を任せられる器はあるだろう。欲しい、是非とも階層ボスとして、コイツ等欲しいー)

 

 そんな気持ちがグングン湧いてくるリムルであった。

 

 しかし、そんなリムルの気持ちとは裏腹に、この魔物達のリムルへの忠誠は低そうであった。

 とにかく、リムルを利用して相手を滅ぼそうという思惑がミエミエの二種族である。

 

 そういう訳でリムルは、ちょっとだけ『魔王覇気』を解放してみた。

 

(よし。これで俺の凄さに気付き、服従を、って、コイツら、全く気付く気配がない。俺の前だというのに、まだ睨み合っているし……。仕方ない、ちょっと荒療治だけど、心を折って従順にするか?)

 

 などと、リムルが打算を働かせていると――

 

「あんさんら、あまりにも無礼がすぎますえ。誰の前やと思てますねん」

「「ふあ!?」」

 

 業を煮やしたコハクが、『猫騙し』の効力を解除して、口を開いてきた。

 

「「ば、ば、番外魔王様!? どうしてここに?」」

 

 いきなり現れたコハクに、すっとんきょんな声を出す牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)

 

「どうしても何も、うちらは謁見会場の警備を任されてるんやで」

「で、では、眷属の方々もここに」

「せや、いてるで。全員な」

「「!?……」」

 

 悪名高き、ルヴナン傭兵の最強戦力の千人が居ると聞き、絶句する牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)

 

 新参者の魔王を値踏みするかのように、大柄な態度をして来た牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)は、番外魔王と傭兵商会ルヴナンが、魔国に住み着いている事を、今思い出す。

 

 何故これを忘れていたのかというと――

 謁見会場に入るまでは、番外魔王と傭兵商会ルヴナンには気を付けようと、話していたにも関わらず、謁見会場に入った瞬間に、いつの間にかその事を忘れていたのだ。

 

 と、言うか、ツキハの権能『猫騙し』によって、その認識を欺瞞され、番外魔王と傭兵商会ルヴナンへの注意を完全に()らされていたので、ある意味仕方ないのである。

 

 魔王の配下ならいざ知らず、ジュラの大森林の上位種族程度なら、こんな風に存在を(いつわ)らせる事は造作もないのである。

 

 先程とは違って、リムルを見る目があからさまに違って来た牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)である。

 

「番外魔王二人と傭兵商会ルヴナンを、傘下に入れた?」

「あの某弱無人(ぼうじゃくぶじん)なツキハ様が住まう、国」

 

 小さく呟きながら、牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)の二人は、目をキョロキョロと動かしていると――

 

「よお、馬頭。あんまりジュラの大森林の盟主に無礼働いていると、馬刺しにして喰っちまうぞ」

「へ? ひい! つ、つ、つ、ツキハ様!?」

 

 馬頭族(メズ)(おさ)の後ろに音もなく現れたツキハが、感情のない言葉で言い放つ。

 左後ろにいるツキハを見下ろしながら固まってしまう馬頭族(メズ)の長。

 

 これには、若い衆も(おさ)と同様、完全に委縮してしまう。

 あの凶悪極まりない、番外魔王と傭兵商会ルヴナンが、魔王リムルの警護をしているのだから。

 

 こうして、魔王リムルへの無礼な態度を手の平を返すように改める牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)達であった。

 

 リムルに対して、平身低頭で謝罪を入れる牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)(おさ)

 

 リムルが(うなづ)き、それを許そうとするその時――

 

「なっ!?」

「あー、また面倒な」

「またしょうもないもんが、来はりましたな」

「……これは」

「やれやれ、少し厄介か?」

「フンッ、問題ないでしょう」

 

 街の外から、凄まじい圧力を感じたリムル達。

 

 シュナの張った結界が破られたのだ。

 

 感じられる巨大な妖気(オーラ)

 

 膨大な魔素量(エネルギー)を有する魔物――

 いや、漂う魔人の気配。

 

 リムルの『魔王覇気』に気付かなかった牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)でさえも気付き、顔を青褪(あおざ)めさせていた。

 

「な、何という力――」

「お、おいおい魔王さんよ。こりゃあ、他の魔王様方か、番外魔王様に恨みを持った魔人が攻めて来たんじゃ……?」

 

 そう言って震える牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)(おさ)

 

 とりあえずリムルは、牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)達は後回しでいいなと考える。

 

 サッと人の姿に『変化』すると、ベニマル達に「行くぞ」と言い。

 ツキハとコハクにも、来てくれと言う。

 

「へえ。直ぐに行くさかい、先に行きなはれ」

「わかった」

 

 リムルはそう言うと、巨大な気配のする方へ走り出して行き、ベニマル達も後に続く。

 

 それを見たコハクは、すぐにイチコを呼び寄せ、牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)達を見ておくように言いつける。

 

 そして、小さなゴルフボール大の水晶球を袂から取り出すとイチコに渡す。

 

「イチコ。これで、今から起る事をあの牛頭と馬頭に見せなはれ」

「はい、コハク様」

「ほな、頼むで。『あんたら、そこにいるもんに、手を出したらあきまへんで。うちとツキハが行くまで動いたらアカン、ええな』」

 

 コハクはそうイチコに言い付けると、更に『思念伝達』で、その現場にいる眷属に待機を(めい)じ、ツキハと共にリムルの後を追う。

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 リムル達が現場に着くと、〝紅炎衆(クレナイ)〟の十名ほどが、三人の男達を囲み、その(かたわ)らには警備兵に門番、〝紫克衆(ヨミガエリ)〟数名が倒れていた。

 

 それを見ながらリムルは――

 

(あ、ゴブゾウもいる。頑張ったようだけど、流石にあの三人を相手にするには無謀だったか。しかし、同じく警備に当たっていた眷属達が周りに来てはいるけども、手を出す素振りがないな。でも、最大限の警戒はしている、か) 

 

 と、現状を把握していくリムル。

 

 無事な者達が、来客達や旅人を避難させていて、それを見守りながら何時(いつ)でも動けるように警戒する眷属達。

 

 リムルが思った程の被害は出てはいないが、配下が倒されている事を不愉快に思う。

 

 そして、その元凶である三者に視線を向ける。

 

(一人目は、長身で引き締まった体躯(たいく)で、耳にピアスを付けた優男風か。二人目は、筋肉の塊のような体躯で、巨漢のボディビルダーを思わせる、鼻にピアスを付けた男ね。最後、コイツは大柄というより、最早おデブというような体躯の小男だな。で、下唇の端にピアスを付けているか。極めつけは、三人とも、奇抜な髪形で髪の色はカラフルとは、何というか、アレだよなぁ)

 

 この三人を見ながらどうするべきかと考えていると、『猫騙し』をかけたツキハとコハクがやって来た。コハクは現場に着く早々、袂から二個目のゴルフボール大の水晶球を袂から取り出し、宙に放り投げると、地上から十メートル位の高さでピタリと止まり、その場に浮かびながら、現場の光景をイチコの持つ水晶球に映像を転送する。

 

 すると、牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)の前に立つイチコの手の平に載せられた水晶球から、立体映像が眼前に映し出された。

 

 その映像を、興味深く覗き込む牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)の長と若い衆達。

 

 そこへ――

 

「何だ貴様等、ここを魔王リムル様の支配領域と知っての狼藉(ろうぜき)か?」

 

 リムルの後ろからシオンがそう問うと、耳ピアスがニヤリと笑いながら前に出た。

 

「どけどけ、雑魚には用はねえ。俺がクレイマンをぶっ殺して魔王の座を奪おうと思っていたのに、それを邪魔されてイラついてんだよ。無駄な殺しはしねーが、俺の邪魔をするヤツには容赦はしねーぜ?」

 

 粗暴で威圧的な態度だが、倒れている者達は、誰も殺されてはいない。

 これだけの魔素量(エネルギー)があれば、〝紫克衆(ヨミガエリ)〟といえども、即死させられていただろう。

 

 無駄な殺しはしない、この言葉に嘘はないと見たリムル。

 

(うーむ。見た目ほどに悪い奴らとはいう訳では無そうだけど。ツキハとコハクは来て、いるな。アイツ等が見てるだけなら、そういう事だろうな。ってか、この三人の事知ってたりして? まあ、それは置いておこう。ともあれ、売られた喧嘩は買わねばなるまいよ。特に今は、お披露目の真っ最中だし。開国祭を目前に控え、各国の商人の出入りも多いと来てる。穏便に済ませるのは、正直難しい。面倒だけど、仕方ない。ここは俺が相手を――) 

 

 そう思いながらリムルが前に出ようとすると。

 

「リムル様、お待ち下さい。この場は私が出ます」

 

 リムルが前に出ようとすると、シオンに止められた。

 ベニマルも出ようとしていたが、シオンと目配せ交わし合い、シオンが先に出ると決まったようだった。恐らく、シオンの部下が倒されているのが理由なのだろう。

 

 リムルは近くにいるであろうツキハとコハクを捜すように視線を動かすと、あの三人を挟むように右側と左側の何も無い空間が、リムルに知らせるように一瞬ポワンと波打った。

 

(あそこにいるなら、不測の事態が起きても、一瞬でアイツ等はツキハとコハクに()られるだろうな)

 

 などと考えていると――

 

『リムル。あの三人さ、そう警戒する必要はないよ。多分、オッサンからの差し金だわ。ククッ』

 

 『思念伝達』でツキハが含み笑い気味に、リムルに話しかけてきた。

 

『え、オッサン? どうゆこと?』

『まあ見てなって、面白いから。ヤバくなったら、あたしとコハクがシバキ倒してやるから大丈夫。ウクッ』

『え? 大丈夫って、何それ? おい、聞いてる?』

 

 ツキハの言葉に問うリムル。

 しかし、微かに笑いを漏らしたのを最後に、ツキハから返答はなかった。

 

(一方的に言って会話を切りやがった。全く何考えてんだか、ツキハのヤツ)

 

 と、ブツブツ心の内でボヤキながら、事の成り行きを見るリムルであった。

 

「ほお、お前が魔王リムルの側近か? 親父(おやじ)から聞いていた、クレイマンをぶっ倒した女鬼人だな? これは面白い。先ずは肩慣らしに――」 

「兄貴、待ってくれよ。魔王は譲るから、側近どもは俺達にも寄越してくれや」

「ふぇーーっふぇっふぇっ、そうでやすよ。オイラも腹が減ってるんで、一人くらい欲しいでやんす」

 

(ほおぉ。どうやらこの三人兄弟みたいだな。耳ピアスが長男で、後の二人が弟達か。で、父親から俺とクレイマンとの戦いを聞いていると。となれば、父親は魔王で確定かな。じぁあ、コイツ等の父親は誰だ……? ギィ、ミリム、ラミリス、ルミナスは除外。残るはと、ダグリュール、ディーノ、レオンになるけど……ディーノはない、レオンも考えられない。となると、やっぱり考えられるのはダグリュールしかいないよなぁ。ツキハのヤツがオッサンと呼んでたし)

 

 リムルが色々考えを張り巡らせていると、シオンが一歩前に出た。

 

「黙れ、お前達。今はリムル様の謁見式で忙しい。時間が勿体ないから、三人纏めて相手をしてやろう」

「は? おいシオン?」

 

 シオンのセリフに、呆れたような声を出すリムル。

 

「おいおい、俺達を舐めているのか?」

「女だから手加減してやろうかと思ったが、()めだ。泣かす、絶対に泣かしてやるぜ」

「ふぇーーっふぇっふぇっ、今のは少し腹に響いたでやんす。久しぶりに満腹になれそうでやんす」

 

 三兄弟はの顏は激高した表情を浮かべ、言葉を吐き捨てる。

 

 リムルはシオンを止めようとしたが、相手が既に激高しており止められるような雰囲気ではなかった。

 

(どうしてシオンって、こうも血の気が多いのやら……。あれだ、サンコと遊びだして、更に血の気が多くなった、ような?)

 

「べ、ベニマル君?」

「シオンの好きにさせましょう。手加減するなら、俺よりもシオンのが向いてますし」

「え、そうなの?」

「シオンの手加減は、サンコのお墨付きですよ」

「そ、そうなんだ……」

 

 ベニマルのあっさりとした言葉に、リムルは絶句するしかなかった。

 

(こうなったら、任せるしかないか……)

 

 シオンの勝利を信じて、好きにさせる事にしたリムルであった。

 

 だがしかし、街を壊されてはたまらない。

 

 リムルは、ここではなく別の場所でやる事を提案すると、意外にも三兄弟は大人しくそれを了承した。

 

 興味深そうに街を観察しながら、三兄弟は出来上がったばかりの円形闘技場に入って来る。

 

 コハクとツキハもやって来て、コハクは闘技場の真ん中上に水晶球を浮かべる。

 

 そして――

 

「おい女、度胸は買ってやるが、今ならさっきの発言を撤回させてやるぜ?」

 

 耳ピアスがニヤニヤとしながら提案するも、シオンはそれを鼻で笑い飛ばした。

 

魔素量(エネルギー)の違いが、戦力の決定的差ではない事を教えてやろう!」

 

 あろう事か、シオンはそう言って三人を挑発したのである。

 

(どこかの赤い○○みたいな事言ってるな、シオンのヤツ。最近は、自分に制限をかけてサンコやツキハと組み手をしてるみたいだけど、ひょっとしてひょっとするかもな)

 

 と、リムルは思う。

 

 こうして、この騒ぎに興味津々の野次馬達が見守る中、道場破りならぬ魔王破りを仕掛けてきた三兄弟と、シオンの戦いが始まった。

 

 先に、太った小男が仕掛けてくる。

 その体躯に見合わない速度で大地を蹴り、砲弾のようにシオンに向けて突進して来た。

 

 姿勢を低くして右肩を前に突き出し突進して来た小男をシオンは、腰を落としてそれを受け止めた。

 

 ドズンッと重い肉のぶつかる音が響き、受け止めたシオンの身体が三メートル程後ろに下がったところで止まった。

 

「ぐ、ぐえぇっー」 

 

 小男の苦しげな声が上がる。

 

 シオンは両足をやや広めに広げ、小男に()し掛かるように受け止め、更に左腕を小男の首に回し、を引き絞るように上に締め上げていたのだ。

 

 小男の意識が落ちる前に左腕を離すと、シオンの右後ろ回し蹴りが小男の右顔面を蹴り抜く。

 

「グギャッ!」

 

 小男はそのまま、耳ピアスの方へと吹き飛んでいった。

 

 それを見て唖然となった鼻ピアスの一瞬の隙を突き懐に飛び込んだシオン。

 

「なっ!?」

 

 反射的にシオンに右パンチを放つ鼻ピアス。

 

 だが、パンチを放った瞬間にはシオンの姿はなく、代わりにシオンの右足が鼻ピアスの顔面を襲った。

 

 ズバンッ! 乾いた音が響き、鼻ピアスが白目を()いたまま仰向けに倒れ、ピクリとも動かくなった。

 

 シオンの放った技は、ツキハとサンコから教えられた〝卍蹴り〟である。

 朧流体術を極めたシオン。基礎はバッチリ出来ていたので、ツキハとサンコから特別に天牙影千流で使う技を幾つか伝授されていたのだ。

 

「うぉおおおお、よくも兄ちゃんを!」

 

 吹き飛ばされた口ピアスの小男が、大声で叫びながらシオンの後ろから抱き付き締め上げようとする。

 

「甘い!」

 

 シオンはそう声を上げると、身体を少し左に()じり腰を落としながら左脚を膝から軽く折り曲げ、右足を後ろに引くと同時に両手を重ね合わせると勢い良く前に突き出した。

 

「な!?」

 

 一瞬で抱えた両腕を切られ、驚愕する口ピアスの男。

 

 そして――

 

「ば、馬鹿な! オイラの方が力は上のハズ……」

 

 驚愕する口ピアスの男。

 シオンは前を向いたまま冷たくフッと笑うと、前に突き出した両手の内右手を振り子のように真後ろに打ち下ろし、口ピアスの股間を手の甲で打ち抜いた。

 

 スパアーンッ。鞭で叩いたような乾いた音が鳴り響く。

 

「グギャッ!」

 

 口ピアスの男は内股状態になり、股間を押さえたまま顔を(ゆが)め、口元に苦悶(くもん)の笑みを浮かべながら前のめりに倒れ伏した。

 

(あ!?)

 

 リムルが内で声を上げた時には、いつの間にかシオンの背後に回った耳ピアスがシオンの頭に左足で(かかと)落としを見舞う。

 

 ゴズッ! と鈍い音が響いた。

 

 一瞬で耳ピアスの方に振り向いたシオンが自分の頭の(ひたい)でそれを受ける。

 そして、闘気を額にだけ一点集中させ耳ピアスの踵の骨を砕いたのだ。

 

「お、俺の足があー。ウガァッ! ――」

 

 更に、残った片方の右足も、真正面から膝を斜めに打ち下ろすように前蹴りで蹴られ、曲がらない方向に衝撃を加えられ、ボギンと木の砕けたような音を鳴らしながらくの字に折れ曲がり地に倒れ伏す。

 

 すかさずシオンは耳ピアスに馬乗りになると、拳の連打を叩き込んだ。

 あぅうぁーっと、声にならない呻き声を漏らす耳ピアスの男。

 

 こうして、シオンの勝利が確定したのである。

 

 剛力丸・改という愛刀を抜くまでもなく、あっという間に三兄弟をボコボコにしたシオン。

 以前より明らかに実力が上がっていた。 

 

 同程度以上の魔素量(エネルギー)を持つ三兄弟を一方的に沈めていて、息一つ乱していないのだ。それも、三人同時なのだからリムルもビックリである。

 

「ふあ? べ、ベニマル君!? シオンって――」

「ええ、驚きましたね。手加減が上手くなったみたいです。サンコが、最近シオンとの実戦組み手で気が抜けなくなってきたとボヤいていましたからね」

「って、そういう問題じゃねーよ!」

 

 少し動揺気味に思わず声を上げるリムル。

 

(まったくミリムやツキハにコハクじゃあるまいし、手加減が上手くなるも何もないわ。ベニマルの認識もどこかズレていると思う。俺の言いたい事はそこじゃないんだけど……もういいか、言っても無駄な気がしてきた。それにしても、シオン……冗談抜きで凄い。魔力と闘気の扱い方次第では、同格を相手にしても圧倒出来る事が実証された訳、か……クレイマンを倒し、番外魔王眷属の一桁番号のサンコと〝遊ぶ(組み手)〟内に大きく成長したんだろうな)

 

 『思考加速』をかけつつ、思案に(ふけ)るリムル。

 

(しかし、それを見ても動じぬ辺り、ベニマルもまたそれを当然と思ってるという事か。サンコが使う猫鉄拳。あれは、天牙影千流柔術から派生した、サンコ独自の拳法だったな。天牙影千流と同じ、相手を壊し殺す事に特化した技の数々。朧流とは一線を画する流派。朧流は朧流で、それに準ずる技はある。それらが融合したのが、シオン独自の技という事になるのかなぁ……。うーむ、良いのか悪いのか、納得はいかないが、シオンも旧魔王に匹敵する力がある訳だ。で、当然ベニマルも。ひょっとすると、ソウエイやゲルドなんかもそうなのか……? いやいや、それは考え過ぎかも……。いや、番外魔王とその眷属との交流、それらのもたらす影響は小さくはないのかもしれないな)

 

 シオンの急激な成長を見て、少し考えすぎるリムル。

 それはある意味、仕方のない事かもしれないが、必然とも言えるかもしれない。

 

 リムルの配下達に圧倒的に足りないもの、それは経験値である。

 

 いくら能力が高くとも、戦闘経験豊富な相手が来たら、最後にはその経験の差でやられるのは間違いないだろう。

 

 しかし今、魔国には、五千年以上生きている魔物、番外魔王のツキハとコハクに、千年以上生きている眷属達がいる。それよりも、遥かに長く生きているヴェルドラとディアブロもいる。

 

 リムルの配下達に取って、こんなに良い環境はないだろう。

 特に、番外魔王の眷属との交流が最も大きいのは言うまでもない。

 

 

「すみません、物足りませんでしたか?」 

 

 リムルの動揺を見てどう勘違いしたのか、シオンはギロリと横たわる三兄弟を睨む。  

 

「え、いや、もう十分だ!」

 

 リムルは慌ててシオンを止める。

 

 リムルにとっては、物足りないどころか、十分過ぎる程のモノであった。

 

「これに懲りたら、もう俺達に迷惑をかけて来るなよ! 後、他の魔王と番外魔王はもっとヤバいから、迂闊(うかつ)な真似は慎むように」

 

 リムルが鉄拳制裁で沈められた三兄弟にそう声をかけると、意識を取り戻した鼻ピアスの男が激しく首を縦に振って頷く。

 

「親父に聞いていた以上の強さだったぜ……」

 

 続いて目を覚ました耳ピアスの男が静かに呟く。

 

 そして、口ピアスの男も意識を取り戻す。

 

「あ、兄貴。って事は魔王リムルは――」

「そうだ。もっとスゲエって事だ」

「ふぇーーっふぇっふぇっ、腹が減ったでやんす」

 

 リムルを尊敬の眼差しで見始めた、三兄弟。

 

 一人おかしな奴がいるが、気にしたら負けだろうとリムルはスルーする。

 

「それで、お前達は誰の差し金だ?」

 

 もう答えは分かっているが、敢えて本人達から聞こうとリムルは尋ねた。

 

「はい! 俺達は、魔王ダグリュールの息子ですわ。俺は長男のダグラ」

「次男のリューラです」

「末っ子のデブラでやんす」

 

 三名は、簡単に口を割った。

 

(あら、あっさりとぶっちゃけたな)

 

 リムルはどこか拍子抜けた気持ちになる。

 

「おいおい、簡単に認めちゃったけど、大丈夫なの?」

「はい。実は親父から、魔王リムル様のもとで修業して来いと命令されましてね」

「その、我々がちょっと暴れただけで、えらく激怒されちまいまして……」

「ふぇっ、ふぇっふぇっ、追い出されたでやんす!」

「ぶっちゃけたよ、おい!?」

 

 いきなりの言葉に、はあ? という顔になるリムル。

 

(要するに、アレか? 手に負えない暴れ者の息子達を、俺に押し付けようって魂胆か? ダグリュールの野郎、そこまで親しい訳でもないのに、勝手な真似しやがって……)

 

 リムルがそんな事を考えていると――

 

「なあに考えてんだよ、あのオッサンは」

「ほんまやで、かなんなぁ」

 

 三兄弟の後ろに、『空間迷彩』と『猫騙し』を解除したツキハとコハクが、いきなり現れた。

 

「「「げえっ! 番外魔王!」」」

 

 驚き突拍子もない声を上げる三兄弟。

 

「お前らさ、迷惑だから帰れよ。オッサンにはあたしが断っておくから」

「え、え、しかしですねツキハ様。親父の言う事に逆らうと、俺達の――」

「知らん。それはそっちで何とかしな」

「はいい!?……」

 

 にべなく突き放すツキハに、ダグラは言い返すことも出来ずに固まってしまう。

 

「リムル。コイツら、オッサンのところに叩き返して来てやるよ」

「あ、はい。お願いします」

 

 そう言うとツキハは、両手の指の骨をパキッポキッと鳴らしながら三兄弟の前に立つ。

 

「ち、ちょっとツキハ様。お、落ち着きましょう、お願いです! ね、ね、話だけでも聞いてもらえませんか?」

「ダメ」

 

 ああ、これはもう駄目だとダグラが観念した時、リューラが何かを思い出したようにコハクのもとへ急ぎ駆け寄る。

 

「コハク様、少しお耳を貸してもらえませんか?」

「なんや?」

 

 コハクが聞く態勢を取ると、リューラは身を(かが)めコハクの耳元で、誰にも聞こえないように小さな声で話し出す。

 

「えとですね、親父からの伝言があります」

「伝言?」

 

 伝言と聞いて(いぶか)()な表情になるコハク。

 それを気にせずリューラは話を続けていく。

 

「それでは、親父からの伝言を伝えます。『ワシの領地で散々遊んでくれたのう、今現在でもだがな。そんなお前の傍若無人な行い、許しても良いと思っておる。何なら、領地の端のあそこならば、好きに遊んでも構わぬ。但し、息子共の事をリムルに口添えをしてくれるならば、だがな』、だそうです」

「……」

 

 リューラの言葉に猫耳をピクピクと動かしながら、黙ったまま聞いていたコハク。

 ゆらりと左右に尻尾を動かし、満面の笑みをリムルに向ける。

 

「はい? コハクさん、どうしたの?」

「リムル。この三人な、ダグリュールに恩を売ると思うて、面倒みなはれ」

「おいコハク、何でそんな面倒くさい事を――」

「黙りや、ツキハ」

「はあぁ? ぁ、はい……」

 

 いきなり手のひらを返したコハクにリムルは唖然として、ツキハが文句を言うも、にこやかに黙れと言ったコハクに、何か取引をしたなと察し、それ以上は突っ込まなかったツキハ。

 

「なあ、リムル。あんさんにも利があるかも知れへんで、この願い受けたらどないや?」

 

 コハクからそう言われたリムルは、確かに一理あるなと、考える。

 

(そうだな……コハクの言う通り、ダグリュールに恩を売るのも悪くない。俺達はまだまだ勢力として安定した訳ではないし、ルヴナンに頼っているところが大きいしな。ここで最強の一角を敵に回すのは面白くない。うーーん……そうだな、ここには丁度、鬼軍曹その者のシオンがいる。ゴブゾウ達の訓練を見た事があるけど、ハクロウ以上の(しご)きぷっりで俺もちょっと引いたもんなぁ。コイツ等をシオンに預けておけば、その内に嫌になって逃げだすだろう。あわよくば、サンコも引き込んでくれたら、更に逃げ出す確率は跳ね上がる事だろうよ。自分達から逃げ出すなら、俺としては義務を果たしたようなもんだしな。うんうん、これで問題あるまい)

 

 そう結論付けたリムルは、三兄弟に向かって告げる。

 

「わかった。それじゃあお前達は、シオンのもとで修行をしなさい。ああ、シオン。面倒ならお友達も誘ってコイツ等を(しご)いても構わないよ」

 

 リムルはそう言って、それとなくサンコも誘っても良いよと、誘導する。

 

 リムルとしては、厄介者を押し付けられて嫌がるだろうと思っていたのだが、何とシオンは、リムルに頷き返して、邪悪な笑みを浮かべたのだ。

 

(あれ? 思っていた反応と違うじゃん?)

 

「フッフッフッ、たった今、リムル様から任命されたシオンだ。貴様達のような軟弱者であっても、私にかかれば一流の戦士に育てて見せよう。それに、私の修行に付き合ってくれている友人にも、会わせてやる」

 

(お! サンコ巻き込み確定したな)

 

「お前達、安心して付いて来るがいい!」

「へい、願ってもない事! その友人という御方に会うのも、楽しみでさあ!」

「おうよ! これからは姐さんの下で、背一杯頑張らせてもらう所存です!」

「オイラもでやんす! でもその前に、何か食わせて欲しいでやんす!!」

 

 リムルが嫌がるかと思ったシオンは、嬉々(きき)としてこの(めい)を受けたのだ。

 

(文句がないなら、それでいいか。サンコも上手く巻き込めたし)

 

 と、リムルも開き直ったのであった。

 そして、シオンと三兄弟を残して、リムルはツキハとコハクと一緒に謁見会場へと戻る事にした。

 

 去り際の背後から、『先生、いや師匠と呼ばせて下さい』とか『うむ、お前達。しっかりと私の教えに従うように!』とか何とか聞こえて来たが、リムルは敢えて聞かなかった事にする。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 謁見会場へ向かう途中、コハクは魔王御用達の〝魔法の指輪(デモンズリング)〟でダグリュールを呼び出す。

 

『ダグリュール、いてるか?』

『ん? 何用だ、コハク』

『あんさん、息子どもをリムルのところに送り込みよって、何を企んでいるんどすか?』

『ああ? 何を言っておるのだ』

『ダグリュール、正直に白状しなはれ』

『白状も何も、息子どもが言った通りだ。それ以上でも以下でもないわ』

『さよか。うっとこの問題児〝やさぐれ三獣士〟を、あんさんところに、放り込むで?』

『やめろ! あの三人はやめろ!!』

 

 コハクの言葉に、慌てて声を上げるダグリュール。

 

 〝やさぐれ三獣士〟。

 それは、ルヴナンにおける、最凶最悪の問題児三人――

 

 ツキハとニコに、サンコである。

 

 大昔に一度、コハクとダグリュールが大喧嘩をした事があった。

 この時に、ブチキレたコハクが、制限を取っ払ったツキハとニコにサンコを、ダグリュールの領地に放り込んだのだ。

 

 結果は、お察しの通り。

 ダグリュールまで出て来る羽目になり、大騒動に発展したのだ。

 

 結局は、ギィが間に入り事なきを得たが、本気のツキハにその眷属のニコとサンコを相手にしたのはかなり骨が折れたと見て、出来れば相手にしたくないのが本音であった。

 

 この後、コハクとツキハは、ギィから盛大な説教と、ヴェルザードからキツイ〝OSIOKI〟を喰らったのは言うまでもない。

 

 そんな訳で、ダグリュールとしては、〝やさぐれ三獣士〟を放り込まれては大変迷惑な話なのだ。

 

『いいか、コハク。別にそっちの事情を探ろうとかそんな魂胆は一切ない。そっちにお前達がいる時点で探るなど、難しいにも程があるわ!』

『ほう。ほんまやな?』

『くどい! だから、奴らを放り込むのは、絶対にやめろ。いいな! 非常に、迷惑だ!!』

『そう何度も言わんでもよろし。ただの、冗談やおまへんか』

『はあ? その冗談はシャレにならぬわ。まったく、相変わらずの性悪(しょうわる)猫じゃのう、お前は』

『すんまへんなぁ、こんなんで。フフフ』

『とにかく、リムルに口添えはしてくれたんだな?』

『へえ。引き受けると()うてましたで』

『そうか。一つ言っておく、端のあそこだけだからな、いいな?』

『わかってますえ、ダグリュール』

『ならいい。他に用がなければ、切るぞ?』

『ありまへん』

『いいか、絶対に、放り込むなよ? 絶対だぞ!』

『しつこいどす!』

 

 そこでダグリュールからの魔法通信は切れた。

 

 最後のダグリュールの言葉に、クスリと笑みを漏らすコハク。 

 

 それに気付いたツキハが、「どうしたの?」と聞くも、コハクは「何でもあらへん」と、()まし顔で返す。

 

 こうして、ダグリュールの息子達の一件は片付いたのであった。

 

 

 





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