忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。155話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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155話 テングの長老の娘 In Tempest

 

 

 ベニマルの正面にはテングの長老と、その娘モミジが座り。

 

 そして、ベニマルの右側にはアルビス、左側にサンコが座る。

 

 

 あの後長老からゲンコツをもらったモミジも、若干涙目になりながら頭を撫でていた。

 

「いや、無理をなさらなくても、俺達は挨拶だけで――」 

 

 目的はまだ果たしていないが、既に話し合いという雰囲気ではなくなっていた。

 それにアルビスも落ち込んでいるので、長居するのは気が引けたベニマルであったのだが――

 

 それを制したのは、長老本人だったのだ。

 

 

「フフフ、少年。気にするな。それよりも、その体術見事であったぞ。〝朧流〟柔術か?」

「え? 何故、いや……やはりそうか。モミジ殿の舞も、我が流派の型に見えた。もしかして――」

「そうじゃ。(わし)も、少年と同じく〝朧流〟を学んだのじゃ。我が師、〝荒木白夜(ビャクヤ・アラキ)〟からのう」

「なっ!?」

 

 長老の言葉に驚愕するベニマル。

 

 サンコは、「ビャクヤかぁ、懐かしい名前を聞いたニャ」と、小さく呟く。

 ツキハからよく、ビャクヤという剣士は凄いと聞かされていたからである。

 

 ベニマルの驚く顔とサンコの呟きに、長老は満足そうに笑った。

 

「儂の〝名〟は、(カエデ)という」

 

 そう名乗った、テングの長老カエデ。

 

「そうじゃのう。少し――」

 

 カエデはフッと一瞬天井を見つめ、昔話を始めたのである。

 

 

 それは、三百年と少し前に(さかのぼ)る。

 

 自分本来の力を隠して旅をしていた折り、ジュラの大森林でビャクヤと出会ったのだ。

 正確には、ビャクヤとツキハが限りなく真剣勝負に近い手合わせをしていたところに、偶然出くわしたのである。

 

 気配を殺して大木の陰からその手合わせを見ていたカエデ。

 

 殺人剣のツキハの剣技に対して、ビャクヤの、まるで水の中に流れる木の葉のように(やいば)を受け流し、激流のように返す剣。

 

 陰と陽、邪と正のような剣技のぶつかり合い。

 

 幾度となく交わされる刃、しかしその手合わせは突然に終わりを告げる。

 

 ビャクヤの首筋にツキハの切っ先が――

 ツキハの右胸、幻魔核に当たる部分にビャクヤの切っ先が触れる寸前で止められた。

 

 暫くそのままで動かなかったビャクヤとツキハ……。

 

 ツキハが口端にニヤリと薄く笑いを浮かべると、スッと切っ先をビャクヤから離し(いば)を鞘に納め、ビャクヤも同じように刃を鞘に納めた。

 

 辺りに鍔鳴(つばな)りの金属音が二つ、(ささや)くように鳴る。

 

 互いに少し離れて一礼すると、ツキハは何処(いずこ)へと『空間転移』してその場から去った。

 

 噂に聞いていた番外魔王ツキハの殺人剣に対して、真っ向から打ち合い相打ちに持ち込んだ〝朧流〟の剣技。

 

 カエデには、先程の手合わせが剣技のみの手合わせだと理解出来た。

 

 番外魔王ツキハの剣技も凄まじかったが、人の身でありながらその番外魔王ツキハに剣技で互角に持ち込んだビャクヤを見て、剣を師事したのだと言う。

 

 弟子入りしたカエデには兄弟子がいた。 

 

 ビャクヤに劣らず、天才としか表現出来ぬ、剣の申し子。

 そう、ビャクヤの孫である。

 

『ワシが名を授けてやれぬのが、これほど悔しいとはのう』

 

 というのが、生前のビャクヤの口癖だったのだとカエデは語る。

 

 この世界では下手に魔物に名を授けると、命を奪われる危険もある。

 人間であるビャクヤならば、間違いなくその命を落とすだろう。

 

 当時、カエデもまた〝名〟を持たなかった。

 

 故にその時は、その気持ちを理解出来なかったのだが、今ならば何となく理解出来ると言った。

 そう、愛する者に、何かを残してやりたかったのだと。

 

 魔物にとって名がないのは自然でも、人間にとっては違うのだと。

 

 そしてビャクヤが寿命でこの世を去り、残されたビャクヤの孫は――

 鍛錬に鍛錬を重ね〝技量を磨き〟剣鬼となったのだ。

 

 その力はカエデに迫り、剣の技量だけならば、完全に負けていた。

 

 同じように修業を重ねる中カエデは、その見事な剣の腕に惚れたのだ。

 

 そして、大きな楓の木の下で告白をした。

 

 こうして一夜の契りを経て、明け方のまだ朝日の昇らぬ暗い内に大鬼族(オーガ)の里を後にしたのだという……。

 

 気候の定まらぬジュラの大森林であるが、その楓の木は大きくて立派だった。

 秋には見事な紅葉に彩られ、里のシンボルにもなっていたのだ。

 

 ベニマルは今でも鮮明に思い出す、里に大きく立っていた楓の木を。

 

 だからこそ、カエデの言葉が真実であると、気付く。

 

「おいおい、ちょっと待ってくれ。それってつまり、ハクロウの……」

 

 一気に焦るベニマル。

 

 思わず呟いたその言葉に、カエデが反応する。

 

「ほう、ハクロウとな? そうかそうか、我が兄弟子である剣鬼殿は、〝名〟を得たのだな。いや、そもそも……まだ生きておった事が驚きじゃわ」

 

 そう言いながら笑うカエデを前に、ベニマルの動揺は大きくなっていく。

 

(おいおいおい、おい。ハクロウはこの事を知っているのか!?)

 

 ベニマルの脳裏には、様々な疑問が巡り()ぎる。

 

 更にベニマルに、思いもかけない混乱が押し寄せる。

 

「だが、これで儂も安心じゃ」

「――?」

「ハクロウ殿が育てた立派な男が、儂の娘の婿になるのじゃからのう」

 

 ブッ!!

 

 とりあえず心を落ち着けようと飲んでいたお茶を、思わず吹き出すベニマル。

 

 同じくサンコは、込み上げる笑いを堪えようと下を向き、右(たもと)で顔を隠し引き()った笑いを漏らし尻尾がプルプル震えていた。

 

 滅多に動揺する事のないベニマルだが、この時ばかりは違っていた。

 

 その横ではアルビスも唖然となり、ポロリと手から湯呑を落とす。

 

 そしてそれを聞いたモミジは、顔を真っ赤にしてベニマルを一度見て、それから母であるカエデを見る。

 

「ち、ちょ、ちょっとお母様――ッ!?」

 

 わたわたしながらカエデの口を塞ごうとするモミジ。

 

 だがしかし、カエデは、モミジの口を押さえようとする手を軽く掴むと、力のかかる方向を利用して、スッと下方向に力の流れを変えると、そのまま正座する自分の膝の前に片手で押さえ付けた。

 

 モミジを制したカエデは、ベニマルに向き直って表情をあらためた。

 

「さて、ベニマル殿。先程のそちらの提案だが、一つを除いては呑んでも良い」

「一つとは?」

 

 ベニマルは、カエデの言いたい事はわかったが、敢えて問う。

 

「鉱物の採掘調査じゃが、それは既に、ある御方に採掘権を譲渡しておるのじゃ」

「それは、番外魔王様ですね?」

「うむ、その通りじゃ。よくわかったの、ベニマル殿」

 

 リムルの予感が的中したのを、ベニマルは確認した。

 

(やはりな。やれやれ、リムル様の頭を悩ませる案件が一つ増えたな)

 

 ベニマルは番外魔王が、どうやってこの採掘権を得たのか長老カエデに、再度聞いてみた。

 

「ぶしつけで申し訳ないのですが、その譲渡した条件を、お教え頂けますでしょうか?」

「ふむ、簡単な事じゃ。御山に危機が迫れば、傭兵商会ルヴナンの最強戦力を貸し出すと約束してくれたのじゃよ」

「ルヴナンの最強戦力です、か。わかりました。有難う御座います(最強戦力、恐らく、ツキハ様とコハク様の事だろう。いや、違うな……眷属達も含まれるな、間違いなく)」

 

 カエデの言葉に、察したベニマルであった。

 

 ベニマルが納得の表情を浮かべたのを見て、カエデは言葉を続ける。

 

「でじゃ。我等も魔王リムルに属してもいいと考えておる。ただし、其方(そなた)が儂の娘の伴侶となる事が条件じゃ。考えるまでもないと思うが、返答は如何(いか)に? 」

「……(流石に、このような重要な事を、俺だけの……)」

 

 ベニマルは無言のまま、このような案件を直球で言われても困るといった顔をした。

 

 少なくとも、考える時間が欲しい、と。

 

 だがしかし、そんなベニマルを救ったのは、当事者であるモミジだった。

 

「待ってよ! その方をお母様が認めたのは理解したわ。でも、私はまだ認めてはいません! サンコ殿の強さは体感出来ました、が。でも、確かに、私よりも強そうだけど……そういう事、いえ、それならばそれで、お母様に言われて無理やりにじゃなくて、それこそ、私自身をしっかり見てもらい好きになってもらいたいわ。惚れた男を振り向かせてこそ良い女、いつものお母様に口癖よね?」

 

 そう言うとモミジは、名前の通りに真っ赤になった顔を扇子で隠し、逃げるようにその場を去って行ってしまった。

 

 それを見て大笑いするカエデ。

 

 カエデの大笑いに何故かサンコも便乗して大笑いする。

 そして、二人は顔を見合わせると、更に大笑いを重ねていった。

 

 一瞬大笑いするサンコを見て、ハッとしたような表情で顔を上げるアルビス。

 

 ベニマルもまた、そんなモミジを見て少しだけ自分を恥じる。

 

(そう言やあ、サンコは常に堂々としていたな、良いも悪いにも限らず。たまに、悪さが過ぎてアレなところもあるが……俺もこんな事でうろたえるとは、まだまだ修行足りん――)

 

 そう考えベニマルは、少し反省をした。

 

 とはいっても、今回は余りにも突然過ぎるというもの。

 

 結局、この話は持ち帰って検討する事になったのであった。

 

 

 そもそもこの話はカエデの独断なので、本気でベニマルに強要するつもりはなかったのだ。

 あくまでも希望を述べただけで、実現すれば儲けものという、程度の考えである。

 

 それ以外の魔国連邦(テンペスト)側の要望は、鉱石の採掘調査以外は、(おおむ)ね問題なく検討された。それともう一つ、山にトンネルを通すという話は別にして、サリオンの街道工事の許可は下りたのだ。

 

 だが、それで話は終わらなかった。

 

 ベニマルとモミジが伴侶となるのは、置いとくとして。

 

 魔王リムルと長鼻族(テング)との関係は良好なものにしておきたい――

 そうカエデが申し出たのだ。

 

 カエデは病で臥せっている――という事になっている。

 

 だがしかし、事実は違う。

 

 ハクロウとの子を妊娠した時に、モミジを胎内で永く育て、その力の大半を託した。

 

 そして、十五年前に産み落とし、(みずか)ら〝名〟を授けた。

 

 その結果、山の神とも称されるほどの魔素量(エネルギー)のほぼ全てをモミジに分け与え、死を待つだけの身となっていたのだ。

 

 だからこそカエデは、経験の乏しい可愛い一人娘に、傭兵商会ルヴナンという盾とは別の、後ろ盾を作ってやりたい、そう願ったのである。

 番外魔王率いる傭兵商会ルヴナンは、あくまでも契約上の盾なのだから。

 

 ベニマルがこの地に訪れたのは偶然である。

 しかし、コハクとツキハは、カエデが子を産んだ事を知っていた。

 

 だからコハクは、リムルに長鼻族(テング)とは面識があると教えたのである。

 ここから先はコハクの何某(なにがし)かの思惑があったのか、本当に偶然だったのかは、わからない。

 

 (ただ)し、千年以上もの永き年月の中でコハクが動く時は、ある種の気まぐれか、ルヴナンにとって利益がある時だけである。

 

 

 そして、ベニマルの来訪は、カエデにとって希望となった。

 

 惚れた男(ハクロウ)(つか)わしてくれた最後の希望、そう思えてならなかったカエデ。

 

(もしも断られてもそれはそれ。魔王リムルのもとには、お前様がいるのじゃろう? 儂より先に死ぬと思っておったのに、嬉しい誤算じゃな。〝あの子(モミジ)〟を見れば、お前様も昔を思い出してくれるかのう? それにしてもお人が悪い。番外魔王様はあの国に住んでいるというではないか。ほんに気まぐれな御方達じゃ……コハク様も、ツキハ様も。ふふ)

 

 そんな風にカエデは思い、結論を先送りにする事に同意したのであった。

 

 という訳で、今度はモミジ本人が長鼻族(テング)(おさ)の代理として、魔王リムルに挨拶に出向く事となったのだ。

 

 

 そんなこんなで、ベニマルからしたら頭の痛い話に発展したのであった。

 

 ベニマルからの報告を聞いたリムルは、鉱石の件は予想通りと言うか、それよりもハクロウに娘がいた事に驚きを隠せなかった。

 

(マジかよぉ。あのハクロウに娘がいたとはねぇ……。まあ、ハクロウの帰還を待ってこの件は整理しよう。しかし、鉱石の発掘権はやっぱりコハク達が既に押さえていたかよ。アイツ等って、ドワルゴンに金鉱石等を卸してるみたいだったからそうだとは思っていたけども。あのスパイスの件といい、クシャ山脈の鉱石といい、俺の欲しいモノのトップ5に入るモノの二つを手にしてるとはねぇ。やれやれ、また交渉かよって、いいや、鉱石の件はミョルマイル君に丸投げしよう、そうしよう。頑張ってねミョルマイル君! 俺は応援するからね!)

 

 ハクロウの娘の事は後回しにしつつ、鉱石の件に関しては、全力でミョルマイルに放り投げたリムルであった。

 

 

 ほどなくして、当事者であるハクロウが帰還して来た。

 

 そして昨晩、三人で集まったのだ。

 

 話し合いは混迷を極めた、ベニマルの立場としては……。

 

「ちょっと待って下さいよ! 俺にだって、何というか、都合というか立場がですね――」

「何ですと? 若はワシの娘が気に食わぬとでも、申すのか?」

「そんな事は言ってないだろうが! そもそもだな、今ままで会った事がないどころか、生まれた事さえ知らなかったのに、何を父親面しているんだ!? もっとも、サンコが言うには、ツキハ様とコハク様は知っていたみたいだがな」

「知ってしまったからには、ワシにも責任があるというものですじゃ! しかし、ツキハ様もコハク様もお人が悪い。何故教えてくれなかったのか、御二人の悪い顔が浮かびますのう」

 

 と、こんな具合に、ベニマルは困惑し、ハクロウははっちゃける始末。

 

 そんな二人を見てリムルは――

 

(うんうん。アノ二人はねぇ、面白ければそれでいいんだぞぉ。多分、こういう事を予測して楽しんでるだけだと思うぞぉ)

 

 そう思い、ただただ静観するだけであった。

 

 結局寝ずに語り合うも、結論出ず。

 

 ぶっつけ本番で、今に至ったのである。

 

 

 ★ここで、本来の時間に戻そう★

 

 

 謁見の間に、急遽用意した席を挟み、リムルの対面に美少女モミジが座っていた。

 

 テングの(おさ)の代理モミジは、不遜な態度でリムルを見る。

 

 そして、堂々と挨拶の口上を述べた。

 

「魔王リムルよ、初めまして。私はテングの長の代理として参った、モミジと申します。以後、お見知りおき下さいませ」

「これは御丁寧に。俺は魔王になったリムルという。見ての通り今は人の姿をしているけども、正体はスライムだ。基本的には平和主義なので、困った事があったら相談してくれ」

「そのような気遣いは不要です。この度のジュラの大森林の掌握、実に見事でした。貴方様をこの森の支配者と認め、良き隣人となれる事を期待します。ただし、我等への干渉は許しません」

 

 きっぱりとそう宣言したモミジ。

 

 一瞬シオンがピクリと反応するも、何と自力で思い留まったのだ。

 これにはリムルも内心驚き、シオンも成長しているんだなと感心する。

 

 そして、モミジはというと、リムルの反応を緊張した様子で待ち受けていた。

 

 リムルが敵なのか味方となるのか、それを測りかねていたのだ。

 

(うーん、やっぱり俺を警戒してるというか、どういう考えかわからないんだろうな。だったら恭順の意を示せばいいんだけど。それは誇り高い種族として許容出来ないと、言ったところか。確かになぁ、経験の浅い指導者は舐められたら終わりだからね。その気持ちはわからなくもない、というより、うん、よくわかるわ。俺もまだまだ新参者みたいなものだからな。経験と言えば、何気(なにげ)に千年以上も生きて悪さしている、ツキハとコハクが羨ましいわ) 

 

 リムルは内心そう思いながら、モミジを見る。

 

「なるほど、そちらの意向は理解した。こちらとしては、過度な干渉を行うつもりはない。ここにいるベニマルも説明したと思うが、クシャ山脈の(ふもと)で街道工事を行いたいだけだ。それと一つ確認なんだけど、既に山岳地帯に移住した猪人族(ハイオーク)の権利は認めてくれるのかな?」

「ええ、それは問題ありません。山の恵みに対しての権利も主張しませんし、鉱石に関しては好きに傭兵商会ルヴナンと交渉を行ってもらえば結構です。実際、我々には不要なモノですから。我々は干渉を嫌う、ただそれだけです」

 

 モミジはそこまで言うと、出されていたお茶を一口、二口と飲み湯呑を置くと、真っ直ぐリムルを見た。

 

(えーと……。山岳地帯はジュラの大森林の領域に入っているから、少しは文句を言われると思っていたけど、あれよ、テングは一体何を警戒しているんだろうか?)

 

 リムルは何か引っかかるのを感じて、ストレートにモミジに聞いてみた。

 

「あのさ、何を警戒しているのか知らないけれど、俺達は本当に君達と争うつもりはないよ?」

「それを信じろと? そちらも傭兵商会ルヴナンと契約を交わしているらしいけど、危機が迫れば、優先順位は私達の方にあるのはおわかりかしら?」

 

 モミジの言葉を聞いてリムルはシュナを見ると、シュナはコクリと(うなづ)き、コハクとツキハに目を向けると、二人は表情を一切変えずに黙していた。

 リムルも契約を交わす時に、契約主の危機にルヴナンが重要戦力を派遣する優先順位が存在する事をコハクから知らされ、魔国連邦(テンペスト)は優先順位三位にあると告げられていた。そして、現段階では、リムルを含め、この三つの最重要契約主が存在すると。

 

 その一つが今、判明したのだ。

 

 モミジの言葉からも、テングの里が魔国連邦(テンペスト)より優先順位が高いのが(うかが)えた。

 

(まあ、鉱石の採掘権を持っている事からわかっていたけど……二位と三位がるのなら、優先順位一位の国はどこなんだ? ガゼルの国ドワルゴンは違う……えーと、どこ? ……わからないわぁ。まあ、いっか)

 

 優先順位一位が気になり考えるも一向に見当がつかなくて、とりあえずそれは忘れる事にしたリムル。

 

「大体、俺達に領土的野心があると、何か疑わしき根拠があるのかな?」

 

 そこで一瞬ツキハが、プッと吹き出しかけコハクからお尻を(はた)かれる。

 

 (え?)

 

 リムルが疑心をツキハに向けた時、モミジが敵か味方か探るようにリムルを見て、吐き捨てるように言う。

 

「貴方達も、あの狡猾(こうかつ)な鳥女のフレイと、仲良くつるんでるじゃない。それが、何よりの証拠だわ!」

 

 寝耳に水のリムルは、思わず声を上げる。

 

「タァーイムッ!」

「は? タイムって何よ!?」

「タイムはタイムだよ。ちょっと相談するから待っててね、って意味だよ!」

 

 リムルは幹部を呼び寄せ、相談する事にした。

 

 コハクとツキハが、「じゃ、あたしはこれで」「ほな、おいとまするでぇ」と帰ろうとするところを、シュナがコハクを、ツキハをシオンが捕獲する。

 

 シュナはコハクの前にニッコリと立ち塞がり、ツキハはシオンに小脇に抱き抱えられ、リムルのところまで連れてこられた。

 

 そして、幹部達が話し合う中、一斉に皆がコハクとツキハの方を見る。

 

「なに?」

「なんや?」

 

 二人がやや不機嫌そうに言うと、リムルが二人に尋ねる。

 

「なあ、コハク、ツキハ。お前達フレイについて詳しいだろ? 聞かせてもらえるか? 」

「うーん、めんどくさ。コハク、頼むわ」

「はい? あんさんなぁ、面倒な事はいつもうちに丸投げはやめなはれ、全くもう――」

 

 早々と逃げたツキハに溜息を付きつつ、コハクは話し始めた。

 

「フレイはやな、〝天空女王(スカイクイーン)〟の二つ名が示す通りに、誰よりも高き場所に都を移そうと企んだんや。そこで目を付けたのが〝長鼻族(テング)やねん〟。でもな、本当の――」

 

 コハクが先を言おうとすると。

 

「だーかーらぁ、私を無視するなぁ!!」

「うぉ!?」

 

 突然耳元で叫ばれて、リムルは思わず飛び跳ねる。 

 いきなりカヤの外に置かれたモミジが、ぷりぷり怒りながら文句を言って来たのだ。

 

 リムルはとりあえず椅子に座り直して、再びモミジと向き合う。

 

 そして、率直に問う。

 

「なあ、質問なんだけど、フレイってテングの支配領域に領土的野心を持っていたんだよな?」

「はあ? 何を馬鹿な事を――」

 

 呆れたようにリムルを見るモミジ。

 

「へ?」 

 

 リムルが本気だと悟ると、モミジは「嘘でしょ……」と、小さく呟いた。

 

 リムルとモミジの間には、かなりの食い違いがあった。

 

 そこでリムルは、詳しく説明を聞く事にしたのであった。

 

 モミジがチラリとコハクの方へ視線を泳がせると、もう、あんさんが説明しろとばかりに、にこやかな圧を送り、モミジは仕方ないとばかりにリムルを見る。

 

 モミジ(いわ)く。

 

 フレイが狙っていたのは、魔導王朝サリオンの首都である、〝神樹に抱かれた都市(エルミン・サリオン)〟だったらしい。

 

 領土よりも、高さ。本当にそれが目的だとは思わなかったリムル。

 

 フレイらしいが、そもそも笑い話にはならない。

 

 規模だけを見れば、サリオンは大国だけあってフレイの軍勢を上回る。

 ただし、地上軍が主な主力であるサリオンでは、天空を自由に舞うフレイの軍勢に苦戦は免れないだろう。

 

 故に、戦力はほぼ互角。

 

 それなのにフレイは、神樹を諦めなかった。 

 

 そこでフレイが目を付けたのがテングだったのだ。

 強力なテングを支配下に付けて、サリオンに対抗する為の戦力増強を企んだのである。

 

 だが、テングは誇り高い種族。

 そう簡単にフレイの要求に従う事はなかった。

 

 そしてサリオン側だが、何故か沈黙を守っていたのだ。それも不自然なくらいに、は。

 

 すると、どこでそれを聞きつけたのか、傭兵商会ルヴナンの最高責任者であるコハクとツキハが、テングに接触を図って来たのだ。

 

 そしてテングは、傭兵商会ルヴナンと契約を交わし今に至る。

 

 これで流石のフレイも、テングには迂闊に手が出せなくなった。

 ミリムとガチで遊べる二人はともかく、全く全貌が見えない傭兵商会ルヴナンとの戦争はリスクが大き過ぎたのだ。

 

 仮にルヴナンと戦争をしても、コハクとツキハに軍勢の大半を壊滅させられる恐れがあった。

 そう、フレイでは小国と言えど、一番の手練れ達を引き連れたとしても、一夜にして壊滅させる事は出来ない。

 

 しかし、ツキハとコハクはそれを成し遂げている。

 

 こうしてフレイは、テングにルヴナンという、もっとも厄介なモノを相手にしなければならなくなってしまい、一旦はこの野心を抑えたのだと……。

 

 リムルはその説明を聞きながら、コハクとツキハを見る。

 

(何だろうな、この妙な違和感……アノ二人ってか、コハクはどこまで計算づくで動いているんだ? いや……ちょっと考え過ぎかな。しかしなぁ、クレイマンとの契約とか、フレイの野心を妨害するような動きはさぁ、暗躍し過ぎだろ! と、俺は言いたいよ。鉱石の採掘権も先に持っていかれてたし……元、戦国時代の忍び、か。あの情報源の秘密は、どうやったら……おっと、駄目だ駄目だ。この件の詮索(せんさく)はアイツ等と戦争になりかねない。ふう、毎度の事ながら、アイツ等との交渉は骨が折れるよなぁ。千年以上生きてきた魔物であり忍び。マジ、怖えわ……。しかしあれだな、もしかして三獣士のアルビスを一緒に行かせたのが誤解の始まりなのか、な……)

 

 リムルはそんな事を考えながら、モミジの説明を聞いていた。

 

 そんな折、リムルとクレイマンとの戦争が勃発して、あれよあれよという間にフレイやカリオンが魔王ミリムの配下に納まった。

 

 しかも、頼みの綱の傭兵商会ルヴナンの最高責任者であるコハクとツキハが魔国連邦(テンペスト)に住み着いたのである。

 

 これではいくら傭兵商会ルヴナンと契約しているとはいえ、今後の身の振り方を議論する毎日だったという。

 

 そんな時に現れたのがベニマル達だったのだ。

 

 その一行に、三獣士の一人であるアルビスが一緒だったのが不味かった。

 リムル達からの無言の圧力だと、モミジは勘違いをしてしまったのだ。

 

 それをようやく理解したリムルは、モミジの説明が終わったのを確認すると、口を開く。

 

「フレイさんって、今はどんな様子なの?」

 

 と、ゲルドに問う。

 

 ミリムの新王都建造の責任者であるゲルドは、色々とフレイから注文を承っていた。

 ならば今、リムル達の中でもっともフレイに詳しい男になる。

 

「ハッ、フレイ様はですね、リムル様の設計にとても満足をしておられました。そして、あの無口なミルド殿とも意思疎通なさいまして、かなり詳細に打ち合わせに参加なさっておいででした」

「なるほど、そうか。それじゃあ神樹への興味なんて、とっくに失せてそうだな」

「そうですな……。フレイ様の興味は、いや、その――」

「ん? フレイの興味がどうしたって?」

「ハッ、実は……ここ最近、ミリム様の姿が見えぬらしいのです。色々と勉強を教える立場にあるフレイ様が目を離した隙に、度々(たびたび)どこかへ出掛けてしまうらしく、ルヴナンにミリム様の動向調査を依頼しようかと、申されてる次第で――」

 

(あ、はい。俺、どこにいるか知ってるよ? ちなみに、ルヴナンの親玉のツキハも知ってるよ? ほら、ツキハさんの尻尾が微かだけど、左右に動いているよ。猫は尻尾で語る、とは、この事だね。でも、俺達は知らないよ? ミリムの行方なんて、知らないんだ、うん)

 

 と、リムルはゲルドの説明を聞きながら、ミリムの事は知らぬ存ぜぬを貫き通す事にした。

 〝触らぬ神に祟りなし〟、リムルもツキハも巻き込まれるのは御免なのだ。

 

「――そんな訳でして、フレイ様の興味というか関心は、魔王ミリム様を探し出す事なのではと愚考致します」

 

 そこでゲルドの説明は終わった。

 

 新都摩天楼――その天を()くような巨大建造都市は、フレイを完全に魅了したのだろう。

 それよりも、ミリムの方が大事(もんだい)なのだと……。

 

 そして、リムルとゲルドの会話を聞いていたモミジは、余りにも想像とは違う現実に、どう反応していいかわからず絶句していた。 

 

(あ、あぁ。そうだよね、現実ってさ、そんなものだよね……)

 

 スライム形態で目はないが、どこか遠い眼をするリムルであった。

 

 種族存亡の危機に、傭兵商会ルヴナンと契約を交わし警戒していた相手は、とっくに方向転換してしまっていて、それを知った今、呆然となるのは仕方のないところでもあった。

 

 リムルがチラリと視線をコハクの方に向けると、コハクの口端が薄ーく笑みを浮かべていたのを見た。

 

(あー、悪い顔してるわぁコハク姐さん。コハクって未来が見えるのかね?――)

《告。そのような能力(スキル)は、全く見受けられません》

(あ、そう。それは何よりだね)

 

 リムルのちょっとした疑問に、爆速で返す智慧之王(ラファエル)

 

「――事情はわかった。ま、アレだ、そういう事だ。そちらの勘違いだとわかってもらえたのなら、俺としてはそれでいいよ」

 

 リムルはコハクから聞かされていた事を、ふと思い出す。

 テングは俗世に無関心で、世情に疎いという事を……。

 

「まさか、私の思い込みだったなんて……お母様からは、それは考え過ぎだと言われていたのですが……」 

 

 そう言うなりモミジは、張り詰めていた気が一気に抜けたのか、その場に崩れ落ちてしまう。

 

 この時ほどリムルは、思い違いによる勘違いの怖さを十分に理解したのであった。

 

《勘違い……これは、番外魔王の能力(スキル)に関わるのでは……。眷属が口にした『猫騙し』という能力(スキル)。個の勘違いを何かしらの干渉で増幅、または操作して騙す……能力(スキル)? いえ、これは力の一端。恐らく、この勘違いの部分が大きく関与しているかも知れません……》

 

 リムルの思いを感じ取った智慧之王(ラファエル)は、番外魔王の能力(スキル)『猫騙し』について解析した。

 

 しかし、不確定要素が大きく、完全に解明は出来なかったが、その本質の一端は解き明かしてしまう。

 コハクとツキハが本能的に智慧之王(ラファエル)を警戒するのは、このような事を事無げに(おこな)ってしまう驚異的な探求心と、凄まじい解析能力にあるのかもしれない。

 

 

 

 誤解が解けた今、会談は速やかに進み終了する。

 

 若干へこみ気味のモミジに変わり、テングの若武者が細々とした協定の確認をしてくれた。

 護衛かと思われた若武者だが、文官としても有能だったみたいである。

 

 トンネルに関しては保留。 

 その安全性を証明せぬ限り、着工は認められないと言われた。

 

 リムルはそれに納得を示し、特に問題はないとした。

 そもそも、トンネルを通すか否かはサリオン側とも相談する必要があるし、それに、魔導列車の開発も終わってないので、今すぐに取り決める必要などないのである。

 

 テングとしては、不干渉が希望だったので、テング側の問題が片付いた今は、別に交流する事を(いと)う理由はなくなった。

 

 そこで最後は、何かあったら協力し合うという事で話は纏まったのである。

 

「――と……うん、これで終わりかな?」

「はい。我等に有意義な交渉を認めて下さり、魔王リムル様に感謝致します」

 

 若武者は、リムルに向かって丁寧にお辞儀をする。

 これで協定も締結した。

 

(さてと、後は、ハクロウとモミジの関係、そして、ベニマルとモミジの婚姻についてだけど……いや、マジに、どうしよう……) 

 

 リムルは、この事をどう切り出そうか悩んでいる、その時、テングの若武者が封書を取り出した。

 

「それと、こちらを。我等が主たるカエデ様より、リムル陛下への書状で御座います」 

 

 そう言って、(うやうや)しくリムルに差し出したのである。

 

 これを受け取ったのはリグルドで、それをシュナが受け取り開封した。

 

 折りたたまれた書状をパラパラと広げ、目を通して行くシュナ。

 

 

 そして、読み上げていくシュナであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 ベニマル達が、魔国連邦(テンペスト)へ帰還すべくテングの里を出る少し前。

 

 サンコだけが長老カエデのところに残っていた。

 

「テングの長老、これをコハク様から預かってきたニャ」

 

 そう言うとサンコは、左(たもと)から大人の男の拳大くらいの革袋を取出し、カエデに渡した。

 

「これは?」

 

 受け取ったカエデが、サンコに革袋の中身を尋ねる。

 

「悪魔界にしか育たない、貴重な木の実ニャ。一日に一個食べるといいニャよ。滋養強壮爆発ニャ!」

「ふふ。滋養強壮爆発は危険では?」

「にゃ? 細かいところは気にするなニャよ、テングの長老。ニャハハハ」

「相変わらずじゃのう、サンコ殿は」

「照れるにゃ~」

「褒めてはないのじゃが? まあ、良しとしよう。ふふ」

 

 会話が脱線寸前で修正をするカエデであった。

 

 すると、真面目な顔付になったサンコが、次の言葉を言う。

 

「テングの長老。その木の実でも気休めにしかならないけども、多少は今の状態を緩和出来るニャ。少しでも長生きをするニャ。親が死ぬのは、わかってても子に取って辛いのニャ、よ」

「お気遣いありがとうございますじゃ、サンコ殿」

 

 遥か昔、目の前で喰い殺された父を思ったのか、どこか寂し気な表情を一瞬見せるサンコ。

 

 それを察したのかカエデは、一言だけお礼を言い、数秒ほど目を閉じた。

 

 そして、サンコが帰ると言った時に、カエデはある事をサンコに聞く。

 

「サンコ殿。一つお聞きしても宜しいかのう?」

「にゃ? いいニャよ」

 

 ニコニコとした笑顔で、カエデに返すサンコ。

 

 カエデはスッと顔を引き締めると、口を開く。

 

「ぶしつけじゃが、サンコ殿は、ベニマル殿をお好きではないのか?」

「はにゃ?」

 

 カエデの質問に、首を傾げながらどこか間の抜けた顔で返すサンコ。

 その顏に一瞬吹き出しそうになったカエデは、思わず手で口元を隠す。

 

 気合で笑いを押し殺したカエデは、質問を続けていく。

 

「ほう。べニマル殿に、恋愛感情というモノは芽生えてないと?」

「あにゃ~。芽生え~、芽生え、アチシの芽生え、お胸が大きく芽生えないのニャ。どうすれば、大きく芽生えるのニャ? 長老は知ってるかニャ?」

「いや、残念じゃが存じぬ。それよりも、ベニマル殿を好きではないと?」

「好きー? スキー? 好き好き~? すき焼き? でもお胸がぁ――」

「胸は忘れるのじゃ」

「うにゃー。うーーん……」

 

 真剣に腕を組み頭を捻るサンコ。

 

 それを見たカエデは、少し質問を変えてみる。 

 

「ところでサンコ殿は、ベニマル殿をどう見られておるのじゃろうか?」

「面白いヤツニャ!」

 

 サンコの即答返しに、カエデは更に質問続けていった。

 

「面白いとは、どういう意味じゃ?」

「そのまんまの意味にゃ。遊ぶと面白い、手合わせすると面白い。そして、ここからが一番大事なのニャ!」

「何が大事なのじゃ?」

「フッフッフッ、聞いて驚くニャ? アチシが忍魔猫になった時の、寛ぐ場所がここニャ!」

 

 そう言うとサンコは、自分の右肩を左手でポンポンと叩く。

 

「右肩?」 

 

 頭の中に? を浮かべながらサンコの次の言葉を待つカエデ。

 

「そうニャ。アチシがダラーッとする大事な場所ニャ。この右肩に乗る権利だけは何人(なんびと)にも譲らないニャ! 長老の娘にもアルビスにも譲らないニャよ? 譲れというなら、アチシとガチンコの争いは覚悟するニャ」

「左様か。でも、我が娘もアルビス殿も、流石にベニマル殿の右肩には乗れのじゃが? 本当にそれだけなのか?」

 

 余りにもサンコの場所主張が可笑(おか)し過ぎて、二度同じ事を尋ねてしまうカエデであった。

 

「そうニャよ。この右肩に乗る権利を主張しないのなら、長老の娘がベニマルとつがいになろうが子作りしようが頑張ると良いニャよ。ニャハハハハハ」

「まあ、ふふっ、ふふふふふ」

 

 そう言って豪快に笑うサンコ見てカエデも、釣られ笑いをしてしまう。 

 ひとしきり笑ったサンコは、長老カエデを真っ直ぐに見て、告げる。

 

「今言った事は、嘘偽りなしのアチシの気持ちニャ。心配はしなくていいニャよ?」

「そうか。変な質問をしてすまなんだのう」

「アチシより年下でも、カエデは、テングの里の立派な長老ニャ。アチシに気遣いはいらないニャよ。ニャフフ」

「ありがとうございますじゃ、サンコ殿。それと、コハク様とツキハ様に、宜しくお伝え下され」

「伝えておくニャ。じゃあ、長老も無理をするニャよ? じゃあにゃ~」

 

 こうしてサンコは、ベニマル達が待つテングの里の入口へと去っていった。

 

 サンコを見送りながら、フッと笑みを漏らしてしまうカエデ。

 

(ふふ。ああ言ってもサンコ殿は、本当の自分の気持に気付いてはいないのじゃな。当分はそれに気付く事はないのじゃろう。百年先か、千年先か、いつか自分の気持ちに気が付いた時に、同じ事が言えるのかのう? 我が娘も、一番厄介な恋敵を相手にしないといけないとはのう……。じゃが、サンコ殿がこのままという可能性もある、か……。ふふふ、これぞ、〝神のみぞ知る〟じゃな)

 

 サンコの姿を見送ったカエデは、我が娘の未来に幸あれと願い、ゆっくりと自室へと戻って行った。

 

 このままサンコが右肩に乗る権利だけを主張する忍魔猫と化すのかは、誰にも、本人にもわからない。

 

 だが一つ言える事は、モミジとアルビスが正妻の座をかけて、戦うのか話し合うのかは定かではないが、確実に二人は衝突するだろうという事だけ。

 

 そこにサンコが加わる事は、現時点ではない。

 

 

 遠い未来の先に起こるかも知れないが――

 

 

 それはまた、別のお話である。

 

 

 

 

 





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