忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。〝お祭り準備編〟最終話157話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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157話 開国祭に向けて

 

 

 謁見式の最終日。

 

 

 長鼻族(テング)との会談が終わったのは、日も沈みかけた夕刻であった。

 

 早めの夕食の後、久々に幹部一同が会議場に集合した。

 

 リムルは、せっかくの機会だからと、近況報告会を行うことにしたのだ。

 

 

 今回は、お客さんもいる。

 

 ヴェルドラとラミリス、そしてその従者であるトレイニーとベレッタである。

 

 

 ミリムは三日後に正式に訪れる事になるので、流石にヤバイからと帰って行った。

 ずっとこの街に滞在していれば間違いなく怒られる、フレイから。

 

 とばっちりはごめんなので、リムルもツキハも一安心なのである。

 

 因みに、ツキハは会談が終わったらすぐにサンコと一緒にどこかへ出かけた、というより、この後にあるだろう会議を察知して逃げたのだ。

 

 コハクは「そんなんそっちの事やおまへんか。今回はしらへんで」と、自宅から出てこなかった。

 何しろ、開国祭の警備などは当に打ち合わせも済んでおり、細かいすり合わせも全て終わっていた。

 現時点でツキハやコハクが出る事は不要なのである。

 

 だがしかし、リムルとしては出て欲しかったのだが、ツキハは逃亡、コハクは出席を完全拒否。

 そういうことで今回の会議に、ルヴナンに出席してもらう事を諦めたのだった。

 

 

 そして、今回は客人がもう一人――

 

「それでは、会議を始める前に紹介しておこう。こちらが、幹部候補となるミョルマイル君です。三日後に始まる開国祭で成功を収めたら、正式に財務統括部門の責任者に任命しようと考えている。皆もそのつもりで、接してやって欲しい」

 

 リムルはそう言って、皆にミョルマイルを紹介した。

 

 それに続きミョルマイルが席を立つ。

 

「ガ、ガルド・ミョルマイルと申します。この度はリムル様から大役を任ぜられ、緊張で身が引き締まる思いです。どうか幹部の皆様方も、これから贔屓(ひいき)にして頂ければと存じます」

 

 挨拶を終えたミョルマイルは一礼をして、再び席に着く。

 

 初顔合わせを済ませ、リムルは本題に入る。

 

 

「それではミョルマイル君、皆に状況説明を頼む」

「了解ですぞ。それでは失礼して――」

 

 リムルの合図を受け、ミョルマイルは再び席を立ち、開国祭での流れを語り始めていった。

 

 ()ず、明後日の夜――

 開会式の前夜には、街を挙げての前夜祭が執り行われる。

 

 これは、今回のイベントで招待された者以外に、訪れている商人やその護衛の冒険者達にも、無料で酒や御馳走を提供する予定だとの事。

 

 当然これは告知済みであり、それを目当てに近隣都市や大きな村などからやって来る農民達もいると。

 

 こういう人達は将来の顧客になる可能性が高いので、盛大に持て成すつもりだとミョルマイルは言う。

 

 そして迎賓館では、王侯貴族を招く宮廷晩餐会が催されると。

 今回、王侯貴族に提供する料理は全て、シュナと吉田氏の共作である。

 

 新作も多数あるとの事で、これにはリムルも楽しみにしていた。

 食する形式は、立食形式にしてある。これは、少量づつ多種多様な料理を楽しんでもらえるようにとの配慮だった。

 

 そして本番である、開国祭初日。

 

 この日は、朝からリムルの演説がある。

 

 その後、円形闘技場(コロッセオ)では武闘大会の予選が始まる。

 

 しかし、リムル達はそれを見学はしない。

 他国の重鎮達に魔国を知ってもらうのが目的なので、予選は見せないのである。

 

 だから予定としては、改築したての豪華な歌劇場での鑑賞会を予定していた。

 どのような演目があるのかは、リムルは知らされていない。

 

 しかし、ミョルマイルは自信満々だった。

 

「――ここで、リムル様が文化にも精通しておられる事をアピールしたく存じます」

 

 と言って、ミョルマイルはニヤリと笑った。

 

 それにまるで呼応するかのように、シオンも笑みを薄く浮かべる。

 

(え? シオンまで笑った気がしたけど、気のせい? まさかね……)

 

 リムルが一瞬ドキリとするも、それを(心配しても仕方ない。ミョルマイルが太鼓判を押すのだから、ここは信じよう)と、嫌な気配を払拭する。

 

 そして、ミョルマイルの説明はまだまだ続いていく。

 

 

 昼食の後は、技術発表会。

 

 ガビルとベスタ―による、回復薬の歴史紹介。

 クロベエとガルムによる、武具展示。

 

 これらがテンペスト博物館にて、説明が行われる事になる。

 

 (ちな)みに、歌劇場や博物館の一般公開は二日目からになるので、この日は王侯貴族だけに心ゆくまで楽しんでもらえるようにとの配慮だった。

 

 それに時間をずらすのは、警備上の問題を軽減する為とルヴナンからの提案でもあったのだ。

 

 

 そして二日目。

 

 武闘大会の本戦見学である。

 

 昼からは、歓談会という名目の自由行動を予定に組む。

 リムルは闘技場の貴賓席にいるので、用がある方は順番に語り合うといった寸法だった。

 

 更に、この武闘大会には今回だけ限定の〝エキシビジョンマッチ〟を予定していると、ミョルマイルが言った。

 

 リムルがそれに即反応して「な!? 誰が出るの?」と問うも、ミョルマイルは当日をお楽しみにとだけ言って笑っていた。

 

 リムルとしては武闘大会だけでなく、〝エキシビジョンマッチ〟という楽しみが増えて当日が楽しみになったのは言うまでもない。

 

 そして、招待状ごとに案内の者を用意するので、祭りで屋台を楽しんだり、この国自慢の温泉街を楽しんでもらったり、そのまま大会を見学したり、思い思いの楽しいひと時を満喫してもらえば幸いだと、ミョルマイルは力説する。

 

 

 そして、三日目。

 

 待ちに待った地下迷宮(ダンジョン)のお披露目である。 

 

 午前に武闘大会の決勝戦を観戦し、午後からは遂に冒険者による地下迷宮(ダンジョン)攻略の様子を見学するのだ。

 

「オレがいなくとも、なかなか立派な円形闘技場(コロッセオ)が完成しておりましたな」

 

 ゲルドが、嬉しそうに言う。

 自分の後人が育っている事を、頼もしく感じているようだった。

 

「ああ。お前やミルドの弟子のゴブキュウが頑張ってくれたし、番外魔王の眷属も手伝ってくれた。突貫工事と思えないほど、強度面でも問題ない。幹部級が戦うなら話は別だが、Aランク未満の者達が競うなら十分だよ」

 

 そう言ってゲルドを見るリムル。

 

(まあ、安全率を考慮したら、イフリートのような上位精霊が暴れてもギリギリ耐えれる感じかな。でも、一点集中で攻撃されたらどうしようもないんだけど、本戦を観戦する際には俺もいるし、『絶対防御』を薄く張り巡らせるつもりだからな。だから、余程の事がない限り観客は安全だろう)

 

 そう考えながらリムルはゲルドから視線を外し、前を見る。

 

 そこへ。

 

「クアッハッハッハッ! 我の鉄板焼きも究極の味を発見したのだぞ。そちらも楽しみにしておるがいい!」

 

(あ、忘れてなかったんだ。まあそうか、ツキハも絡んでるんだから忘れようはないか)

 

 屋台を出す気満々のヴェルドラを見て、こりや正体を隠させて参加させるしかないなと、思うリムルだった。

 

 それからいくつか細かいところを話しミョルマイルの説明は終わった。

 

 ディアブロやハクロウ、それにゲルドといった遠征組は、終始興味深そうに話を聞いていた。

 自分達が参加出来なかったのが悔しそうであった。 

 

(この三人は、何か別個に褒美を与えた方が良いかもな。ゲルドは今の仕事が終わってからの方が良さそうだけど、ディアブロとハクロウは、見事に作戦を成功させてくれた訳だしな)

 

 そんな事を心のメモ帳に書き残してから、リムルは幹部達の顔を見回した。

 

「今のところ計画は順調だ。何か問題はあるかな?」

 

 リムルは皆を見渡しながらそう言うと、何も無ければソウエイからの報告をと続けようとしたら――

 

「はい!」

 

 と元気よく、ビシッと綺麗な直立不動でラミリスが挙手をした。

 

「何かな、ラミリス君?」

「えーと、えっとね、ちょっと問題が発生したワケよ」

「だから何だよ?」

「実はね、地下迷宮(ダンジョン)の下層が、ですね……」

 

 そこでラミリスは口ごもり、チラッとヴェルドラを見る。

 すると、ヴェルドラが誤魔化すように高笑いをした。

 

「クアーーハッハッハッ! いや、あれだ、何、大した事ではないのだ。迷宮内の九十五階層に森林が出来たであろう? それが何故か上層へと侵食を始めてな、今では七十一階層まで全部を埋め尽くしてしまったのだよ!」

 

 いやあ失敗失敗と、軽い調子で言うヴェルドラ。

 

 九十一から九十四階層は、隔離していたので無事だったとラミリスが言った。

 しかし放置していた階層が、魔素を満たす為の換気口を伝って、原始林のような有様になったと。

 

「おいおい、それを綺麗に処理となると、結構手間じゃないか?」 

「そうなのよ。それでアンタに相談したんじゃん! (ツキハ達の領地創る時でも、規模は小さいけどこれと似た事起こってたの忘れてたわ……うん、これは黙っておこう。そう、アタシは知らない。しーらないっと)」

 

 開き直るラミリス。

 

 原因はヴェルドラだが、それが起きる事をすっかり忘れていたラミリスであった。

 

「それと、問題がもう一つあるのだ」

「……何だよ?」

 

 他人事のように言うヴェルドラにリムルは、聞きたくはないが聞くしかないと問うてみる。

 

「問題って?」

「ボスに適した魔物がいないのだ。ツキハに眷属を何人か出してくれぬかと頼んだのだが、「それは駄目」と、一言で却下されてなあ。だから、それを相談したいと思っていたのだよ」

 

(そりゃ却下されるわ。眷属はルヴナンの傭兵だもの。コハクの許可もいるだろうから無理だよな)

 

 ヴェルドラの言葉にそりゃそうだと、心の内で思う。

 

 A⁻ランクの〝嵐 蛇(テンペストサーペント)〟が一匹生まれていたが、それはリムルが四十階層のボスとして設定してしまっていたのだ。

 

 さてどうすると、考えるリムル。

 

 そこへ。

 

「アタシは〝精霊の守護巨像(エレメンタルコロッサス)〟をもう一度創ろうと思うワケ。だからさ、材料を用意して欲しいのよさ!」

「我には、ボスに相応しい者を雇ってくれ。それと、原始林を綺麗に掃除せねばならん。この忙しい時にツキハはどこに行ったのだ?」

 

(うん、ツキハはね、既に逃亡してるんだ。多分、開国祭当日か前日にならないと帰って来ないと思うぞぉ)

 

 心の内で心境を吐露するリムル。

 

 とりあえずラミリスの言い分はわかったが、ヴェルドラの件はどうするかと思案するリムル。

 

 すると――

 

「それならば、丁度いい人材がおります」

「リムル様、それでしたらあの者達に任せてみてはいかがでしょう?」

「我が主よ、それならば相応しき者が――」

 

 三つの声が同時に上がった。

 シュナ、トレイニー、ランガである。

 

 シュナが言うには、死霊(ワイト)のアダルマンが適任だと言う。

 アダルマンはともかく、その部下達は基本封印の洞窟から出られない。

 

 夜間は徘徊してるようだが、それをたまたま目撃した商人達から苦情が入ってるとの事だった。

 ならば、迷宮内に隔離するのも有りかとリムルは考える。

 

「それにあの者、リムル様を神と(たた)えて、少々暑苦しいと申しましょうか……」

 

 どこかウンザリとした顔で、シュナが言った。

 

 どうやら、リムルを神と定めて、シュナを巫女姫と見立ててるとの事。

 

 なので、その案を採用する事にしたリムルである。

 

「良し。アダルマンを六十階層のボスにしよう。で、材料を用意するので、ラミリスは〝精霊の守護巨像(エレメンタルコロッサス)〟を創ればいいよ。何なら、アダルマンにも手伝わせてさ」

「いいの?」

「ああ、アイツは知識だけは豊富だからな。研究にも協力してくれると思うよ」

「わかった。ありがとうリムル!!」

 

 これで、六十階層と七十階層のボスが決まった。

 

 

 次に、トレイニーが口を開く。

 

「樹木の(まば)らな七十一から八十階層までは、ゼギオンとアピトに任せては如何(いかが)でしょう? あの二名ならば眷属も召喚出来ますし、開拓も簡単だと存じますわ。それに――」

 

 トレイニーはチラリとラミリスと目配せし合い、再びリムルを見た。

 

「あの者――ゼギオンならば、八十階層のボスも見事に務め上げるかと。今までも、樹人族(トレント)の集落を、見事に守護していてくれましたから」

 

 微笑みながらそう言ったトレイニー。

 

「なるほど……」

「リムルよ、それは良い案だと思う。我が、いや、ツキハの技も欲しいな、うむ。我とツキハがあの者を鍛えて、八十階層を任せるに足る戦士に鍛え上げて見せようではないか!」

「ああ、それって、ツキハが協力するか?」

「フッフッフッ、リムルよ。お前はまだツキハがわかっておらぬな。こんな面白い事を、ツキハが見逃す訳なかろう?」

 

 そう言ってニヤリと笑うヴェルドラ。

 

(うーむ。ゼギオンは確かに思った以上には強いけど……小動物だよ? どうやって鍛えるんだ? 鍛えるとか難しいと思うんだけどなぁ……。まあいい、ヴェルドラが変なのは理解出来たし、好きにさせてみるか)

 

 ヴェルドラだけならまだしも、ツキハまでが加わると考えると、これ大丈夫なのか? と一抹の不安を覚えながらも決断するリムル。

 

「わかった。それでツキハの方には――」

「任せよ。我がツキハに言っておく」

「そう。じゃあ、それも任せたよ」

 

 リムルが了承した事でこの件も片付いた。

 

 

 そして、残るはランガの発言のみ。

 

「我が主よ、我が預かっていた妖狐(ようこ)が目覚めました。そして、森を好きに開拓するのは得意だと申しております。任せてみるのも一興かと」

 

 リムルの影からニュッと顔を出し、そう言ったランガ。

 

 その頭には可愛らしい子狐(こぎつね)が乗っており、金色のモフモフした尻尾が四本、ユラユラと揺れていた。

 

(お、可愛い。めっちゃ可愛い子狐じゃん♪)

 

 リムル、余りの可愛さに歓喜。

 

「やってみるか?」

「わっちは、やってみたいでありんす」

 

 リムルをキラキラした瞳で見つめながら、子狐は(うなづ)いた。

 

「よし、じゃあ、あ!――」

 

 リムルはそこで、ある問題に気付く。

 

 そう、その子狐。

 クレイマンの配下で九頭獣(ナインヘッド)と呼ばれていた妖狐(ようこ)には、ちゃんとした名前がなかったのだ。

 

「そうだな、その前に、お前にも呼び名をやろう。今日からお前は、〝九魔羅(クマラ)〟だ」

 

(おっと、ペットに名前を付ける感覚で、ついつい名前を付けてしまった。しかーし、俺は馬鹿ではない。ないよ? ちゃんと学習をしているのだ。ここで一気に魔素(エネルギー)を奪われたりしない、しない、? 制限を守っ――てぇ、あれえ?)

 

 いきなりガクンという脱力感に襲われ、焦るリムル。

 

《告。名付けによる影響です。個体名:クマラの本来の魔素量(エネルギー)が膨大だった為に、想定以上(・・・・)魔素(エネルギー)喪失が発生しました》

 

 焦るリムルに淡々と告げる智慧の王(ラファエル)

 

(子狐の外見に騙されたかぁ。だよな~、確かにその正体は超希少な最上位の魔物だったか。ちょっと油断していたも知れないな)

 

 そしてクマラは、リムルが名付けた途端に一気に成長したようだった。

 といっても、体格が大きくなった訳ではない。

 

 四本だった尻尾が、一気に九本になったのである。

 そしてその尻尾の一本一本が、特殊能力を持つ魔獣へと変化(へんげ)していた。

 

 今やクマラは、九体の魔獣を召喚出来るという事になるのだ。

 

「ありがとうございます、リムル様!! わっちも頑張るでありんす!!」

 

 満面の笑みで御礼を言うクマラ。

 

(まあいいか。やっちゃった事は、考えても仕方ない。俺も無事だったし、智慧の王(ラファエル)先生の計算通りみたいだしね。ね? 想定上という割には、声に驚きがないよな? な? だから絶対に、最初からこの量を譲渡しようと決めていたに違いない。じゃないと、ピッタリ九本の尻尾が生える訳ないよね? ね!?)

 

《……》

 

(だんまりして、誤魔化したって駄目。俺はちゃんとお見通しなのだよ。先生)

 

 リムルは智慧の王(ラファエル)の策略に気付くも、(しゃねーな)と心の内で苦笑いしながら、喜びはしゃぐクマラを優しい眼で見る。

 

 クマラには、八十一から九十階層までを任せる事にしたリムル。

 

 こうして、ラミリスとヴェルドラが持ち込んだ問題は片付いた。

 

 

 これで開国祭関連の報告は終わった。

 

 そこでリムルは、ここ最近ソウエイに任せていた様々な調査報告を聞く事にした。

 

「それじゃあソウエイ、報告を頼む」

「承知――」

 

 そしてソウエイの口から語られた報告は、リムルの想像以上の成果だった。

 

 先ず一つ、〝奴隷商会オルトロス〟という犯罪組織が、〝勇者〟によって滅ぼされたと。

 それに伴って、繋がりのあった各国の貴族達も摘発されたらしく、ブルムンド王国のカザック子爵も捕縛されたと。

 

「イングラシア王国でも、その噂で持ち切りでした。各国を股にかける犯罪組織の一つ〝奴隷商会オルトロス〟は、戦闘奴隷を多数抱えた武闘派集団。魔獣や魔人の奴隷もおり、ちょっとした小国以上の戦力を保有していたらしいのです。それを、勇者とその仲間達が壊滅させたのだと――」

 

 ソウエイはそう言って、小さく笑った。

 

 勇者――閃光のマサユキ。

 今では、西側諸国最強との呼び名も高いそうだ。

 

 ヒナタがリムルに敗北した事で、最強の座が塗り替えられたらしい。

 

 そこでリムルは、ソウエイの言葉に一つ引っ掛かるものがあったので、問うてみる。

 

「ところでソウエイ。犯罪組織の一つって言ったよな? 奴隷商会はまだあるのか?」

「はい。オルトロスより古くからある、〝奴隷商会バステト〟という犯罪組織があります」

「バステト? ほおぉ……(そう言えば、俺のいた世界のバステトって、古代エジプトの神だっけか? 確か猫の頭を持つ、女神。猫頭か……)」

 

 猫というワードにリムルは、その奴隷商会がどこの所属か察しが付く。

 

「ソウエイ。その〝奴隷商会バステト〟の事をルヴナンに聞いたか?」

「はい。コハク様に尋ねたところ、一言、「触れたら火傷するで」との事でした」

「そうか(ソウエイだからこそ、釘を刺しに来たか)」

「ですので、バステトに関しては、こちら側の調査資料を一切残しておりません。それに、〝奴隷商会バステト〟の噂はあれど、実態が一切不明なのも事実です」

「懸命だよ、ソウエイ。下手に(つつ)くと、蛇どころか大蛇が出て来るからな。その〝奴隷商会バステト〟に関しては、俺の預かりとする。皆もこの件に関しては、他言無用で頼む」

 

 リムルの言葉に幹部達全員が、無言で頷く。

 

 そして、ソウエイの報告が再開される。

 

 勇者マサユキは、〝奴隷商会オルトロス〟を潰して、耳長族(エルフ)を解放したと言う。

 ガットエランテが保護した耳長族(エルフ)も、リアナの報告通り〝奴隷商会オルトロス〟から流されて来たものだと確信が取れた。

 

「数名のエルフが(とら)らわれていたようで、マサユキの手で我が国へと連れて来られるようです。どうします、リムル様? 何なら俺が、面倒ごとになる前に始末してきますが?」

 

(始末って、ソウエイ君。ここ最近、ルヴナン思考に染まってないかね? ほんと、アイツ等と交流させるって諸刃の剣だよ……)

 

 ソウエイの言葉は頼もしい限りではあるが、やり過ぎは禁物であると、リムルは思った。

 

「――いや、止めておこう。一度会って、会話をしてみるさ」

「わかりました。〝魔王討伐〟という戯言(ざれごと)を抜かすヤツには、身のほどを弁えさせてやりたかったのですがね」

 

 ――そう、何やらマサユキが魔王リムルを討伐するといった噂が、西側諸国に流れていたのだ。

 

 それよりも、リムルには多大な懸念があった。

 

 〝勇者〟を凄まじく敵視する者、ツキハの存在である。

 

(勇者が俺の国に来る。まあ、それはいい。勇者マサユキが俺の国に来て、ツキハがどう出るか、だけど……。開国祭に死人は不味い、ってか非常に不味いじゃないか! しかし待てよ。あのルヴナンが勇者マサユキの情報を掴んでいない事は、絶対に有り得ない。って事は、ツキハは御乱心にならない? そうだよな、殺す気ならとっくに()りにいってるもんな。うんうん、ちょっと心配し過ぎか、な)

 

 ツキハは、ヴェルドラを〝無限牢獄〟に封印した勇者を見つけたら殺すと、リムル達に公言している。

 そのツキハがサンコを連れてどこかへ遊びに行ってる事からして、それは無いなとリムルは考えた。

 

 この開国祭という国家事業の最中(さなか)に、勇者と事を構えるのは絶対に避けねばならない。

 ツキハだけではなく、ソウエイにシオンやディアブロという戦闘脳が先走る恐れが十分にあるのだ。

 

「勇者マサユキに関しては、俺が対応する。手出し厳禁、いいな?」

「「「「「承知しました!」」」」」

 

(うん。皆、返事だけはいいんだけどね。ツキハの事は後でコハクに相談してみよう。ついでに、〝奴隷商会バステト〟の事もそれとなく聞いてみるか)

 

 開国祭を三日後に控えて厄介な問題が発生したと、リムルは内心溜息を付く。

 

(はあぁ。どうしようかね、ほんと。勇者マサユキ……大体何者だよ。日本人の〝召喚者〟か〝転移者〟だという事は名前からわかる。何でこう次から次へと問題が寄って来るのかね。アレか? アレなのか? 厄介ごとに愛されている、とかか? ふざけんな! と俺は言いたいよ、全く……。本当に神様がこの世界にいるのなら、何とかしてくんねーかなぁ……) 

 

 内心ブツブツと文句を吐き捨てるリムル。

 

 

 だがしかし――

 

 リムルの小さな不安を吹き飛ばすかのような、熱く激しく、楽しい祭りの日々がもうすぐやって来る。

 

 

 

 ★お祭り準備編、終幕。

 

 





 この作品を読んで頂きありがとうございます!

 157話で〝お祭り準備編〟は終了です。

 158話からは〝魔都テンペスト開国祭編〟が始まります。


 それでは、次回の更新もよろしくお願いします!


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