忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。158話です


 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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魔都 テンペスト開国祭編
158話 勇者ヨ〇〇〇? 違います、閃光の勇者マサユキです


 

 

 

 閃光のマサユキ――本名は、本城正幸(マサユキ・ホンジョウ)、〝勇者〟である。

 

 マサユキ自身が勇者と名乗ったわけでもなく、不思議な事に、出会った者が勝手にそう呼ぶようになっていたのだ。

 

 そして――

 

 彼は、〝転移者〟でもある。

 

 

 それは、一年前の事……。

 

 

 マサユキは、学校帰りに友人達と街を歩いていた。

 

 その時、人が行き来する雑踏の中、蒼色の髪をしたとても若く美しい女性を見た。

 モデルも芸能人も真っ青な、北欧系の美女である。

 

 その奇抜な髪色は遠目でもよく目立ち、マサユキの視線はその美女に釘付けになる。

 

 しかし、これだけ目立つ風貌(ふうぼう)なのに、道行く人々はその美女に気付いてはいない様だった。

 

「おい、見ろよ。すげえ美人――」

 

 だからマサユキも、男子高生らしい反応を見せ、隣の友人に声をかけたのだが……。

 

 友人の反応はなかった。

 

 そして、自分の立ち位置が景色ごとグルリと回転した感覚に襲われた瞬間――

 

 あれっと疑問に思い、振り向いた先には、見知らぬ街が広がっていたのだ。

 日本とは違う、まるで中世ヨーロッパを思わせるような風景が。

 

「――はい!?」

 

 思わず脳がフリーズし、固まるマサユキ。

 

(何だこれ? おいおい、ファンタジーの世界に迷い込んだってか……意味がわからない、よ!?)

 

 内心、パニックを通り越して、変に冷静になるマサユキ。

 

 そしてマサユキは、その場で途方に暮れる事になったのである。

 

 ふと目に入った街の広場の噴水にあるベンチに腰掛けて、マサユキは呆然としていた。

 

 ただただ、道行く人々をボンヤリと眺め、深い溜息を付く。

 

(何かさ、思えば、あの美人が怪しい。多分、そうだ)

 

 時間が経ったことで幾分か冷静になったマサユキは、あれだけの美人なのに何故か周りから注目を集めていなかった事に気付く。

 

 だからどうだという訳ではないのだが、マサユキの勘がそう告げていたのだ。

 

 けれど、どこを見渡しても、その美人はいない。

 必死に探すも、どこにもいなかった。

 

(こういう時ってさ、原因となった美人のお姉さんも一緒に来るんじゃないの? っていうか、一緒に来るのがお約束だよな? これ……? マジで異世界に来ちゃった系?)

 

 まあ、事情を知る者が(そば)にいる、それはいささかご都合主義というものだろう。

 

 そのような都合の良い展開がマサユキにあるのか? それは、今のところわからない。

 

 日が傾き始め、辺りに陰りが出始めた頃。

 

 一気に焦り始めるマサユキ。

 

(不味い不味い。とりあえず、制服のポケットには……財布)

 

 ポケットから財布を取り出し、中身を確認する。

 

(虎の子の一万円札が一枚。後は、千円札が三枚に、残るは小銭か。まず、今いるここでは、役立たずだ)

 

 ガックリと肩を落とし、財布をポケットに仕舞うマサユキ。

 

 次にカバンを見るも、教科書等は全て学校に置いてあるので、カバンの中身は買ったばかりの週刊誌が一冊と、スマホ、そしてガムが一枚あるのみ。

 

 カバンの中身にも有用なアイテムは無し。

 凄まじく大きな溜息をつきながら、空腹を紛らわせる為最後のガムを口に放り込む。

 

(はあぁ~。これ、最高に駄目なヤツだ。ハードモード過ぎるよ……けどまあ、こうしていても仕方がない)

 

 盛大に落ち込むも、切り替えだけは早かったマサユキである。

 

(このカバンとか、スマホで物々交換できるかなぁ……。とりあえず交渉してみないとな)

 

 そう言うとマサユキは、覚悟を決めて噴水前のベンチから立ち上がる。

 

 そんなマサユキを、周辺の建物の屋根から数匹の野良魔猫が、じっと見つめていた。

 

 

 歩きながらマサユキは考える。

 

 この異世界で、この国の法律や治安がどうなっているのかは不明だが、この国に存在する公的機関に保護してもらえればそれが最善だろうと、そう結論を出したマサユキ。

 

 だがしかし、一つだけ致命的な事が現在進行中である。

 

 それは――言葉が全くわからないのだ。

 すれ違う人々がマサユキの方を見て、小声で何か言っているが、それは今まで聞いた事のない言語だった。

 

 会話が通じない事は、生死に関わる。異世界に飛ばされたのなら、なおさらの事。

 このままでは、飢え死にする未来しか見えない。

 

 水は何とかなる、食べ物は最悪、残飯を漁る覚悟も決めた。

 プライドはもう、放り捨てた。

 

 いきなり最悪な環境に置かれても、頭の切り替えだけは早い男なのだ。

 この切り替えの早さがなければ、マサユキはこの時点で遠からず命を落とす事になっていたであろう。

 

(さて、先ずは交渉だけど……無理だな。なんせ、言葉が全然わからないしな。チート能力とかいらないから、言葉だけでもわかるようサービスして欲しかったんだけど……)

 

 と愚痴っても、誰も答える者はいない。

 

 その時、通りに並ぶ店の一つの扉が勢い良く開き、店の中から喧騒が聞こえて来た。 

 

「!?」

 

 驚いて一歩退いたマサユキの胸に、何とも柔らかい感触が飛び込んで来た。

 それは小柄で可愛らしい女性だったが、どこか怯えた表情を浮かべていた。

 

(あれ? これ不味いよね? もしかして、いきなりトラブルに巻き込まれた感じ……?)

 

 まさかねと思ったマサユキ、その予感は的中する。

 

「〇□×△……!?」

 

 マサユキの胸に飛び込んだ女性が、意味不明な言葉を(まく)し立てていた。

 

 しかしマサユキにはその言語を理解出来ず、曖昧な笑みを浮かべるしか出来ない。

 

 とりあえずそれで誤魔化して、この場を逃れようとしたが、当然そんな事は許されるハズもなかった。

 

 すると、店の中から筋骨隆々の如何にもな見た目の荒くれモヒカン頭の大男が飛び出して来たのだ。

 

(あ、これ、下手すれば死ぬ……)

 

 マサユキがそう直感したのも無理はない。

 

 マサユキの身長も百七十を超えているのだが、出て来た大男は、頭一つ分マサユキより大きく見えたのだ。

 

 大男からは明らかに酒を飲んでいるだろうと思わせるくらい、真っ赤な顔をして酒の匂いが漂っていた。

 しかも、その腰には長剣を帯びていた。

 

 普通の殴り合いでも勝てるはずもなく、相手は部気持ち。

 どうあがいても、殺される確率が濃厚である。

 

(は、ははは、はぁ、終わった。これ、終わったっぽい……)

 

 内心諦めつつ、固まるマサユキ。

 

 足はガクガクと震え、動悸は早鐘のようにかき鳴らし、失禁しないだけでも褒めてやりたいと思うマサユキ。

 

 が、その時、マサユキの耳にというか脳内というか、不思議な声が聞こえて来た。

 

《英雄的〝勇気ある行動〟を確認しました。ユニークスキル『英雄覇道(エラバレシモノ)』が解放されました。発動させますか? YES/NO》

 

(えっと、はい?)

 

 という、疑問に満ちた応答をするマサユキ。

 

 ――これが、彼の運命を決定的に変える事となる――

 

《確認しました。『英雄覇道(エラバレシモノ)』の効果で、言語を習得……成功しました。続いて『英雄覇気』と『英雄補正』が常に発動します》

 

 次から次へと聞きなれない言葉が、脳内に響き刻まれていく。

 膨大な情報量が脳内に流れ込み、一瞬ウッと呻き頭に手をやるマサユキ。

 

(――ッ……はい? これって、一体何が……)

 

 状況についていけずに混乱するマサユキであったが、今はそんな場合ではなかった。

 

「おいおい、どうした兄ちゃん。まさか、俺の邪魔をしようってのかい?」

 

 突然、大男の言葉が理解出来るようになった。

 

 それは、ユニークスキル『英雄覇道(エラバレシモノ)』の権能の一つなのだが、それを理解出来る余裕などマサユキにはなかった。

 

 この場をどう乗り切るのか、それが今、最優先で重要な事なのだ。

 

 とにかく、逃げる事を諦め自分の気持ちを落ち着かせて、冷静に場を分析しようとするマサユキ。

 

 周りの野次馬達が口にする言葉を聞いていく。

 

 最初にわかった事、自分にしがみ付く女性はカーチャといい、飛び出て来た店の給仕だという事。

 

 次に、店を飛び出て来た大男は、〝狂狼〟のジンライと言われていた。

 更に、周りの野次馬達からの言葉を聞いていると、このジンライは冒険者のB級試験に落ちたらしく、気が立っていたらしい。

 

 それを察したカーチャが給仕を断り、お気に入りのカーチャから断られたジンライが怒って今に至るとの事までは理解したマサユキだった。

 

  要は、お気に入りのカーチャが見も知らずの男にしがみ付いてるのがジンライの気を更に激高させ、その怒りがマサユキに向いたのである。

 

(お気に入りの給仕のカーチャか。そら、今のコレを見たら、誤解して怒るよな……)

 

 そして、ジンライの実力は、C+ランクらしいが、一人の男からの言葉では、Bランクに相当するとの事だった。

 しかし、素行が悪いから減点されて、試験に落とされているらしい事がわかり、かなり強いのではと思うマサユキであった。

 

(うん、勝てる気が全くしない) 

 

 と、マサユキが出した結論だった。

 

「しかし、カーチャの奴も、関係ない小僧を巻き込んでやるなよ……」 

 

 そこへ、周囲で見守っている一人の男が呟いた。

 

(ホントだよ! 何で僕なんだよ!?)

 

 それを聞いたマサユキは、内心そう叫ぶも、時既に遅しだった。

 

 結局は、しがみ付くカーチャを引きはがせず、逃げ出さずに今に至るマサユキの自業自得でもあった。

 とにかく、カーチャを無理やり振りほどき、脱兎の如く逃げ出していれば、こうもならなかったのである。

 

「覚悟はいいか?」

 

(言い訳がない。言い訳がないんだけど、はあぁ、もう、いいや)

 

 打つ手がないマサユキは、せめて最後だけは格好付けようと考えた。

 

 高校デビューという訳ではない。

 別に不良という訳でもない、髪を金髪に染めてはいるが、実際喧嘩の仕方もわからない、普通な高校生だった。

 

 そんなマサユキだったが、口喧嘩(ハッタリ)だけは得意だったのだ。

 

「弱い犬ほどよく吠えるってね。君こそ、いいのかい? この俺に喧嘩を売るなんてね?」

 

 どうせ一発殴られたら終わりなので、マサユキは大見えを切るのを躊躇(ためら)わなかった。

 

 これで時間が稼げれば良し、そうでなければ大怪我か、もしくは、死ぬ。

 マサユキは気付く、さっきから恐怖感が麻痺したようで、足の震えもいつしか止まっていた。

 

「フンッ、良い度胸じゃねーか。いいぜ、それなら俺も遠慮しねーですむな」

 

 ジンライは獰猛(どうもう)な笑みを浮かべ、マサユキを(にら)む。

 

 覚悟を決めたマサユキはカーチャに声をかける。

 

「君、ちょっと離れていてくれないか?」

「はい! そいつ、いつもアタイを嫌らしい目で見てくるんだ。お兄さん、そいつをコテンパンにやっつけちゃってね!」

 

 するとカーチャは、マサユキの戦いの邪魔になると考えたのか、素直にマサユキを放し、周囲の野次馬の所まで下がる。

 

(やっぱり、逃げる事は無理か。野次馬達に囲まれてるし……)

 

 そう、野次馬達は、マサユキとジンライの戦いが見たくて、円を描くように二人を囲んでいたのだ。

 

「へへっ」

 

 ジンライの笑みが深まっていく。

 

(ああ、こうなったら、噛んでいるガムをアイツの目に吹き付けて、その隙に逃げよう)

 

 マサユキがそう思った時――

 

《英雄的〝立ち向かう勇気〟を確認しました。ユニークスキル『英雄覇道(エラバレシモノ)』の権能、『英雄魅力』と『英雄行動』が解放されました。これにより、個体名:本城正幸(マサユキ・ホンジョウ)が、ユニークスキル『英雄覇道(エラバレシモノ)』の完全解放に成功しました》

 

(え? 逃げようとしたんですけど?)

 

 しかし、このマサユキの心の声は、黙殺された。

 

 それよりも、さっきから度々聞こえる声は何なのか?

 マサユキは疑問に思ったが、完全解放と言われても意味がわからないので、完全に考える事を放棄した。

 

 ユニークスキルという響きは凄そうだと思うマサユキだが、こんなに簡単に手に入れられる能力(スキル)など、どうせ大した事ないだろうと興味を持てなかったのだ。

 

 それよりも今は、目の前のジンライである。

 ジンライに立ち向かうつもりなど、マサユキに毛頭なかった。

 

 ましてや、ガムを相手の目に吹き付けて怯ませるという卑怯な作戦なのに、それをどう受け取れば英雄的行動になるのか? 理解できなかった。

 

 だが状況は、そんな事をあざ笑うように、事態は新たな展開を見せる。

 

「――ぐっ、な、何て威圧感を放っていやがる……。貴様、只者じゃねーな……何者だ!?」

 

 さっきまで自信満々で威圧的なジンライが、マサユキを前に脂汗を流し始めたのだ。

 

 思わずマサユキは、口に含んだガムを二回噛む。

 心を落ち着かせようとしたその行動は、ジンライに更なる動揺心を与える事になる。

 

「クッ、怪しい術を使いやがって!? もう貴様が何者だろうと関係ねえ!! ぶっ殺してやらあ――ッ!!」

 

 叫びながら激昂したジンライが、マサユキに向かって殴りかかる。

 

「え?」

 

 事態に完全に置いていかれたマサユキは、棒立ちであった。

 

 眼前に迫るジンライの巨大な(こぶし)

 

(ヤバッ。終わった――!?)

 

 どうせ間に合わないだろうと目を閉じ、少しでも痛みを抑えようとマサユキは、拳を避けようと頭を下げる。

 

 チッ。何かが(こす)ったような音がマサユキの耳に届く。

 

 そして、マサユキの想像した最悪の事態は訪れなかった。

 確かに痛みは走ったが、それは額に少しだけ。

 

 不思議に思いつつ、目を開け周囲を見渡して下を見て見ると、何故かそこには白目を剥いて仰向けに倒れているジンライがいた。

 

 そう、マサユキが下を向いた時に、拳を繰り出す為に一歩踏み込んだジンライの顎に、絶妙なタイミングでマサユキの額が掠ったのだ。

 

 それにより脳を揺らされたジンライは、呆気なくダウンさせられたのである。

 

「えっ?」

 

 起こった事がまるで理解出来ず、マサユキは戸惑いの声を漏らす。

 

 しかし、その声を掻き消すような盛大な歓声が、周囲から沸き起こる。

 

「す、すげえ!! あの少年、狂狼ジンライを両手も使わずに倒しやがった!!」 

「し、信じられん。見たか、あの目にも見えぬ動き?」

「ああ……紙一重で拳を(かわ)し、ジンライの懐に潜り込んで頭突き一発。あれは、達人の動きだ」

「あの小僧、何者なんだ?」

 

 実はこれ、マサユキが獲得した『英雄覇道(エラバレシモノ)』が発動した結果であった。

 

 英雄覇気――

 ドワーフ王ガゼルも獲得している、英雄のみが放つ覇気である。

 格下の相手では、この覇気を浴びただけで威圧され動けなくなり、命令に従うようになるという、特殊なオーラなのだ。

 

 英雄補正――

 超幸運により、普通の攻撃も全て致命の一撃(クリティカルヒット)になる。

 その効果は、共に歩む仲間達にも適用される。

 また、ユニークスキル所有者の発言や行動全て、周囲の者が勝手に都合よく解釈してくれるようになるという、とんでも効果を発揮する。

 

 英雄魅了――

 英雄の活躍を見た者は、その心が奮い立ち、恐怖心が薄れ、勇気が湧いてくる。

 その結果、英雄を信じて共に同じ道を歩もうと考えるようになる。

 もう一つの効果として、英雄に敗北した者は、その軍門に降り仲間となる。

 生きている事が条件ではあるが、この効果は意志ある魔物にも適用される。

 

 英雄行動――

 その行動は、英雄への第一歩。

 仲間達の手本となり、やがて称賛されるようになる。

 そして、更に……。

 

 というのが、ユニークスキル『英雄覇道(エラバレシモノ)』の権能。

 

 この『英雄覇道(エラバレシモノ)』は、数あるユニークスキルの中でも、レア中のレアである。

 

 かつて勇者が用いたと言われる、『絶対切断』や『無限牢獄』に並ぶ、ユニークでありながら究極(アルティメット)にさえも届こうかという、優れた権能を発揮するのだ。

 

 街の中では腕の立つジンライであっても、マサユキの能力(スキル)の前には敵ではなかった。

 いや、大抵の者は、この『英雄覇道(エラバレシモノ)』を前にしては、無力であろう。

 

 だがしかし、残念な事にマサユキはその事実を知る由もない。

 この恐るべき能力(スキル)の完全解放を成し得たという自覚さえも、マサユキにはなかった。

 

 それでも、何も問題はない。

 

 何しろ、この能力(スキル)は、常時発動型(パッシブスキル)だったのだから。

 

 マサユキが生み出した『英雄覇道(エラバレシモノ)』は、もう止まらない。

 

 本人が望むと望まぬにもかかわらず、とんでもない勢いでマサユキを英雄に駆り立てる……。

 

「そうか、金髪の勇者……」 

「そう、そうだ。聞いた事があるぜ――」

「確か、一昔に前に活躍していたって勇者様だな? 行方不明になったと聞くが――」

「まさか、復活なされたのか……?」

 

 段々と、周囲のざわめきが大きくなった。

 

「勇者だと?」

「勇者様?」

「まさか、いや――」

「違いない、あの強さだ。彼は本物だぞ!!」

 

 誰が言い始めたのか、マサユキが勇者であるという話が流れ始めていた。

 

(いや、この髪、染めてるだけですけど……) 

 

 マサユキが気付いた時には、最早手遅れ状態。

 周囲の者達の視線には熱がこもり、憧れの人物を前にしたように輝いていたのだ。

 

「はい? えっと、ちが、違います――」

 

 慌てて否定しようとしたマサユキ。

 しかしその時、足元から轟く大音声がその声を掻き消した。

 

「散れ、お前ら! この俺を簡単に倒した勇者様に、何を馴れ馴れしくしてやがる!!」

 

 そう、マサユキに超幸運で倒されたジンライが起き上がりざまに、周囲の野次馬達に吠えたのだ。

 

 そしてジンライは、マサユキに向き直ると、姿勢を正して頭を下げる。

 

 それからはジンライが正式にマサユキに名乗り、マサユキもジンライに名乗る。

 ジンライから、何とお呼びすればすれば宜しいですかと問われと。

 

「俺の名はマサユキ。そうだな、マサユキと呼んでくれ。この街に来たばかりで――」

「わかってますよ」

 

 訳知り顔で頷くジンライ。

 

 そう言いながら耳元まで顔を近づけ。

 

「復活したばかりなんでしょ、勇者様?」

 

 と問う。

 

 だから違うと言いかけたマサユキだったが、このままジンライの勘違いを利用する方がいいんじゃないかと思い直す。何にしろジンライは、マサユキが何を言っても聞く耳を持たなそうだったのもある。

 

 だから――

 

(勇者に負けた事にしないと、この人のプライドがズタボロだもんな。とりあえず、そういう風に話を合わせていた方が良さそうだ)

 

 と、マサユキも納得をしたのである。

 

 こうしてマサユキは、それ以上勇者と呼ばれる事を否定しなかった。

 

 これが痛恨のミスになるとは知らずに……。

 

 何故ならば、これが原因となり、〝勇者〟――

 

 閃光のマサユキの伝説が始まる事となるのだから。

 

 

 その後、駆け付けた自由組合の職員によってマサユキは保護されて、イングラシア王国の王都へと護送される事となった。

 

 そこで出会ったのが、神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)である。

 

 ユウキという少年は、この世界に来て十年近くになるマサユキに言った。

 この世界に来た為に体の成長が止まり、見た目は少年くらいにしか見えないと笑い言うユウキ。

 実際の年齢からすると、中学生の頃にこの世界に来た計算になる。

 

 それから暫くは、ジンライと共にユウキの所に世話になったマサユキ。

 

 その時に、バーニィという青年を紹介される。

 バーニィは、イングラシア学院の卒業生で、ユウキが保護していた〝異世界人〟だったのだ。

 アメリカ出身で、最初来た時は英語しか喋れなくて、意思疎通に苦労したとユウキは言った。

 

 しかし、そこで出番となったのが魔法であり、それ以降バーニィは魔法に魅せられて、学園での勉強を希望したのだと言う。

 

 バーニィは冒険者になったばかりで、冒険者仲間を探していた。

 そこにやって来たのがマサユキ達で、バーニィから声をかけて一緒に活動する事になったのだ。

 

 こうして三人組が出来上がったのである。

 

 マサユキ達は圧倒的な速度で成長していく。

 半年も経つ頃には、チーム〝閃光〟と呼ばれるようになった。

 

 マサユキは剣道を齧った程度の素人だったが、『英雄覇道(エラバレシモノ)』を持つ男である。

 英雄補正の効力は、仲間にも適応されるので、仲間の攻撃も全て致命の一撃(クリティカルヒット)となるのだ。

 

 この能力(スキル)の影響下にある仲間達は、実力以上の力を発揮する事になるのである。

 実質、ワンランク上の力を手に入れらるという事。

 ジンライはBランク相当の実力を持っているが、Aランクに近い強さを見せつける程だ。

 

 更には、敵からの攻撃が当たりにくくなるという加護まで付与される。

 

 これにより、チーム〝閃光〟は無類の強さを誇る事になったのだ。

 

 そして、何よりも驚くのが『英雄覇道(エラバレシモノ)』の真骨頂である。

 

 何と、仲間の為した行為でもあっても、マサユキの功績として還元されるのだ。

 チーム〝閃光〟としての評価も全て、マサユキが負う事になる。

 

 丁度その頃、イングラシア王都で開催される武闘大会に参加した事で、マサユキの二つ名が広まる事に加速をかけた。

 

 装備と当面の生活費を工面する為に、優勝賞金が目当てだったのだが、簡単に優勝してしまった。

 

 何しろ、マサユキが剣を抜いただけで相手が、「参った」と言って敗北を宣言してしまうのだ。

 

 

 実際には、マサユキは何もしていないが、それを見た観客達はマサユキの瞬速攻撃だと錯覚してしまう。

 

 ある意味、ツキハの持つ権能『猫騙し』に似ているともいえるが、根本的な所は全く違う。

 

 これにより、マサユキの〝閃光〟という二つ名から、マサユキを過大評価してしまうのだ。

 

 『英雄覇道(エラバレシモノ)』の恐るべき権能。

 マサユキもこの頃には自覚はしていたが、もう止める(すべ)はなかったと、いうより、止め方がわからなかったのである。

 

 これに対抗するには、最低でもユニークスキル保持者でなかれば、抵抗(レジスト)不可能である。

 マサユキが自分の意志で止められない以上、噂が拡散するのは仕方のない事でもあった。

 

 マサユキとしては、胃が痛くなる思いであったが、不利益を(こうむ)る訳ではないので、諦めて適当に、民衆の期待に応えるフリをして、〝勇者〟を演じる事にしたのである。

 

 

 そしてその頃、四人目の仲間が、チーム〝閃光〟に加わった。

 

 ジウという名の少女である。

 

 かなり高レベルな<精霊魔法>の使い手で、回復魔法も使えるジウ。

 やがて、チーム〝閃光〟の要として活躍する事となる。

 

 こうしてマサユキとその仲間達は、快進撃を続けていく……。

 

 冒険者としてもAランクに到達し、武闘大会では表のチャンピオン。

 

 イングラシア王国を活動拠点とし、たった一年足らずで英雄の仲間入りを果たした、マサユキ。

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 そんな感じで、怒涛(どとう)の一年が過ぎ去ろうとしていた。

 

 

 そして、マサユキに取って、大きな転機が訪れる事となる――

 

 

 

 

 ◆◆◆魔国の開国祭一カ月前、イングラシア王都を仲間達と歩くマサユキ◆◆◆

 

 

 そのマサユキを、三階建ての建物の屋根から、気配を偽り隠し見ている者がいた。

 

 黒猫とシャム猫である。

 

『ツキハ様。一年前の〝転移者〟として迷い込んだ時から、かなり変わりましたね、アノ少年』

『そだねぇ。野良魔猫からの報告から一年監視して来たけど、今や〝勇者〟としての二つ名が定着したかぁ。しかし、何の冗談よ、あの能力(スキル)。あの坊やが発してる効力……ユニークスキル持ちか、あたしみたいに究極能力(アルティメットスキル)持ちしか抵抗(レジスト)出来ないじゃん。ほんと、厄介よねぇ』

 

 『解析鑑定』でマサユキを見て、どこかしみじみと言う黒猫ツキハ。

 そして、ツキハの隣にいるシャム猫はヤトコ(八十)である。。

 

『どうしますか、ツキハ様?』

『そうだねぇ……〝勇者ヨ○○○〟かぁ』

『え? 誰ですかそれ?』

『いや、あれよ。教授がさ、元いた世界で見てた深夜、深夜、ばん、ばん……そう、深夜番組でめっちゃ笑える演劇(ドラマ)があったんだって。それを前に聞いててさぁ、凄い面白かったから思い出したんだよぉ』

『えーと。何言ってるか意味不明ですが、教授の話してくれた異世界の漫画が面白かったと、いう事ですね?』

『漫画じゃないよ。小さい箱に大勢の人間が入っていてね、それが芝居をするのを見るんだって』

『小さい箱に? それ、何の罰ゲームですか』

『違うって、芝居をする、する、罰ゲーム?』

『いや、そこで首を傾げないで下さい。返答に困ります』

『え、え~?』

 

 暫く頓珍漢(とんちんかん)な会話を続けるツキハとヤトコ。

 

 教授が話聞かせたテレビドラマの事を、正確に理解していないツキハの迷走会話は続く、が、業を煮やしたヤトコがストップをかける。

 

『ツキハ様。一旦その勇者ヨ○○○から離れましょう。いいですね?』

『え、あ、うん。でも、凄い面白い話だったんだよ?』

『離れて下さい』

『うん、わかった』

 

 静かにヤトコからダメ出しを出され、とりあえず大人しくなるツキハ。

 

『それで、ツキハ様。どう致しますか?』

『うーん……アイツさ、カ○○の村から来たのかな?』

『離れて下さいと、申しましたよ、私は』

『あ、ごめん(もう、真面目なんだからヤトコは。サンコなら行き着く所まで、話に乗ってくれるのにぃ)』

 

 やはり、サンコの会話脱線能力は、(あるじ)であるツキハの影響が大きいのが見て取れる光景だった。

 

『勇者ヨ○○○はね――』

『違います! 閃光の〝勇者〟マサユキです。余りしつこいと、コハク様に報告しますよ』

『いや、それはやめて、ほんと、真面目にするから』

『それで、どう対処致しますか?』

『今すぐに()ってもいいけど……。勇者か、ヴェルドラを封印した勇者とは全く違うし、今のところは放置でもいいよ。でも、監視は今まで通り付ける事。で、あの少年は当分好きにさせておこう。もし、あたし達の自由を脅かす存在になるならば、あたしが()る。ルヴナンの傭兵と全眷属に通達。閃光の〝勇者〟マサユキには、一切の手出しを厳禁とする。この(めい)を破った者は、厳罰と処す。コハクにもそう伝えて。ヤトコ、わかったね?』

『はい、ツキハ様。仰せのままに』

 

 そういうとヤトコは、魔素粒子を巻き上げ『空間転移』してその場を去った。

 

 

『レア中のレアスキル持ちの少年で〝転移者〟かぁ。一体どんな道を突き進んでいくんだろうね。どうにも掴めない子だわ、あの少年。ふふ、ふふふ、うふふふっ』

 

 前足で口元を押さえながら、笑いを漏らしていくツキハ

 

 建物の屋根からマサユキを見るツキハの目は、瞳孔が縦長に細くなり淡い金色の光を放つ。

 

 

 また一つ、ツキハとコハクに関わる小さな運命の歯車が、カチリと音を立て回り始めていく……

 

 

 

 

 





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