忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。159話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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159話 ブルモンド王と王妃

 

 

 今回マサユキ達は、ユウキからの依頼で動いていた。

 

 

 イングラシア王国周辺の小国の一つバラキア王国にて、奴隷売買を行う巨大市場の存在が確認された。

 

 聞けば、運よく逃げ出してきた奴隷が助けを求めて来たとの事で、調査の為の人員を派遣する必要に迫られたのだ。

 

 そこで白羽の矢が立ったのが、チーム〝閃光〟である。

 

 相手が小国とはいえ、一つの国家が関わっているとすれば推定危険度B+以上であり、荒事が得意な冒険者には荷が重い仕事であった。

 

『僕としては断りたかったんだけど、スポンサーの意向には逆らえなくてね。君達は既に有名だし、(おとり)になってもらいたいんだ』

 

 と、マサユキはユウキから頼まれたのだ。

 

 依頼を受けたマサユキは、チームの仲間にこの事を告げると、ジンライ、バーニィにジウもあっさりとそれを受け入れた。

 

 そして、その渦中にあるバラキア王国も、国内に西側諸国に影響力を持つ〝奴隷商会オルトロス〟が、この小国バラキアを隠れ(みの)にしている事実を、到底容認出来る話ではなかった。

 

 しかし、一小国が相手に出来るハズもなく、バラキア王国は、自由組合を巻き込むことにしたのだ。

 この、巧妙に自由組合に誘導したのは、ユウキの手の者であり、〝奴隷商会オルトロス〟掃討((処分))という大義名分を得たのである。

 

  

 その後――

 

 マサユキ達、Aランクパーティが参加すると知れ渡り、〝奴隷商会オルトロス〟掃討作戦には大勢の冒険者が集まった。

 

 バラキア王国軍と合わせて、その数総勢二千名を超えた。

 

 そして、その全てが『英雄覇道(エラバレシモノ)』の影響下に入り、想像を絶する強さを発揮したのだ。

 

 〝奴隷商会オルトロス〟の拠点には、数百名の組織員が待機していた。

 Aランク相当に当たる者も十数名いて、捕えていた数十匹にも及ぶ魔獣も脅威であった、が。

 

 持てる力を『英雄覇道(エラバレシモノ)』でブーストされた、兵や冒険者達の敵ではなかった。

 

 激しい戦闘の中、幾人かのエルフの奴隷を連れて逃げ出した者もいた。この者がバンズ侯爵に耳長族(エルフ)を売り付けたのである。

 

 やがて、激しい戦いも終わりを迎え、〝奴隷商会オルトロス〟掃討作戦は成功した。

 

 この時、掃討作戦を監視していたヤトコは、この戦いの一部始終を自分の目を通してコハクに流していた。マサユキの能力(スキル)を見たコハクは「また厄介なもんを持ってはるなぁ」と呟き、ツキハと同じく現状維持で監視とだけヤトコに伝えたのだった。

 

 

 掃討作戦が終了し、拠点を捜索中、拠点の地下施設に数多くの奴隷が捕らわれているのを発見する。

 保護された奴隷の中には、魔物も多くいた。

 

 凶暴な魔獣はその場で処分されたのだが、そうも出来ない者達もいた。

 

 耳長族(エルフ)である。

 

 これが人間達には問題であった。

 

 エルフ達は里に帰る事を希望したのだが、そのまま帰す訳にはいかなかったのだ。

 それは、現在の世界情勢にあった。

 

 現在、ジュラの大森林の盟主は、新しく魔王になった、魔王リムルの支配領域になっているからである。

 

 そんな時に、奴隷にされたとエルフ達が魔王リムルに訴え出たら、どんな事になるか? 容易に想像出来るだろう。 

 

 ファルムス王国の惨状は西側諸国が知る所であり、小国であるバラキア王国に抵抗出来るハズもない。

 

 そこでバラキア王が(すが)ったのが、勇者マサユキである。

 

 マサユキは(エルフの皆さんを魔国連邦(テンペスト)に連れて行くだけだし、問題ないよね?)と、その願いを気軽に引き受けてしまう。

 

 しかし、これが間違いの始まりであった。

 

 

 勇者マサユキが魔国連邦(テンペスト)に出向く――

 それを聞いた人々は、ついに魔王討伐を決意したと受け取ってしまったのだ。

 

 

 噂は、風が吹くより早く広まっていった。

 

 これを知ってもマサユキは、事を余り重要視しなかった。

 今度もまた、上手くいくだろうと、慣れに任せて考えてしまったのだ。

 

 ユニークスキル『英雄覇道(エラバレシモノ)』の権能は、確かに恐るべき効果を発揮する。

 それは疑いようもない事実だが、しかし――

 

 上には上が存在する。

 それもまた、確かな事実。

 

 恐らく、ツキハとコハクが本気を出せば『猫騙し』でその効力を一気に無効化出来るだろう。

 また、〝八星魔王(オクタグラム)〟の魔王達には通じないのも、容易にわかる。

 

 そうマサユキは、この事実を慢心とともに失念していたのだ……。

 

 

 

『じゃあそういう事だから、現地で落ち合おう』

 

 その言葉を残して、ユウキとの魔法通信を終えるマサユキ。

 掃討作戦終了の報告と、今後の打ち合わせであった。

 

 イングラシア王国は多重の『結界』にて守られている。

 その為に魔法通信を行うにも、特定波長の暗号通信でしか繋がらない。

 だから、気軽に魔法通信を出来ない為、決まった日時に行うと取り決めていたのだ。

 

 その時にユウキから釘を刺されたのが、番外魔王とルヴナンには目を付けられるなだった。

 魔王リムルより、こちらを警戒しろとユウキから言われていた、絶対にと。

 

(魔王リムルより、番外魔王の二人と傭兵商会ルヴナンを警戒しろかぁ。どっちも大丈夫だと思うんだけど……。僕だって魔王リムルに恨みがある訳でもないし、番外魔王の二人にしても噂しか知らないし、傭兵商会ルヴナンとか、本当にあるの? という認識しかないんだよなぁ。どっちにしろ、わざわざ喧嘩を売らなくてもいいかな)

 

 と、気軽に考えるマサユキ。

 

 ジンライやバーニィにジウも、魔王を討伐しようと口にするが、最終的には様子見に収まった。

 

 そしてマサユキ一行は、意気揚々と魔国連邦(テンペスト)に向けて出発したのだった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 謁見式が終わったリムルは、次なる予定に追われていた。 

 

 今度は来訪客達の相手である。

 

 現在、魔国には続々と各国の代表使節団が到着していた。

 早い者は一週間も前から滞在していて、噂を聞きつけた商人達も集まって来て街は活気に満ちていた。

 

 各国の重鎮や王族方も、見慣れぬ異国の様相に興味津々といったところだった。

 

 リムルの思惑通り、この地を観光地にするという計画も上々である。

 

 

 そして、場所は会談の間。

 

 シュナとシオンは色々と準備で忙しく動き回っていた。

 大人数の食事を用意するとなると、事前準備が大切なのだ。

 

 リグルドも各所対応に追われていた。

 

 ガビルやクロベエなんかも、自分達の出し物の最終確認と準備とで目も回る忙しさであった。

 

 今回リムルは、人型での姿で出迎える事となる。

 

 西側諸国から来た王侯貴族と当たり障りのない挨拶を交わすリムル。

 そんな中、チラリと会談の間を見渡すと、リムルの後ろに付くコハクとツキハがいた。

 

 いつも通り『猫騙し』を展開し、更に気配を偽り隠し、会談の間にいる王侯貴族達に二人の姿を認識出来る者はいなかった。

 

(二人しか護衛がいないなんて、普通なら皆が納得出来ないんだろうけど、ツキハとコハクが護衛というだけで、皆が、それなら大丈夫ですねと言ったのは意外だったな。まあ、忙しいのもあるんだろうけど、それだけツキハとコハクの実力が認められているというところか。番外魔王……その恐怖は他の魔物にも刻まれているとヴェルドラが言ってたっけ……)

 

 会談の間にいる二人を見て、しみじみとそう思うリムルだった。 

 

 コハクが会談の間全体に『呪符結界』を張り巡らせた。いつ事が起こっても、即座にこの会談の間にいる王侯貴族達を幻想領域に隔離退避させる事が出来るように。

 

 ツキハは、妖刀時雨(しぐれ)を腰に差し、この会談の間全域に己の間合いを広げた。

 今この場は、ツキハの間合いに入っていたのだ。

 

 もし、賊がこの場に侵入すれば、どの位置にいても一刀両断される事になるだろう、神速の抜刀術で。

 

 

 そんな中、ブルムンド王の来訪があった。

 どこか人当たりの良さそうな、童話の挿絵に出て来そうな王様である。

 

 王の隣には、まだ若く見える綺麗な王妃が微笑みながらいた。

 

 この王と結婚したのは二十年前らしく、ブルムンド王国ではオシドリ夫婦として国民に親しまれていたのだ。

 

 リムルの後ろ左にツキハ、右にコハクが立つ。

 

「お礼が遅れて申し訳ない。ファルムスの貴族であるミュラー侯爵とヘルマン侯爵を懐柔し、また、評議会と西方聖教会へ揺さぶりをかけて下さり、とても助かりました。そして、ロンバート男爵の妻モーラを助けて下さった事、感謝致します」

 

 リムルは自分の作戦が成功したのは、この王が約束を守ってくれたからと思っていた。

 

 こちらに都合の良い情報を流してくれたお陰で、リムルの評判もそんなに悪くはならなかったのだ。

 魔国を訪れる商人が増えた事からも、ブルムンド王国の影響は大きかった。

 だがしかし、その陰の情報の一部は、そのまた影からの情報でもあった。

 

 情報を(おも)んじる王は、ルヴナンからも情報を仕入れていたのである。

 

 リムルが感謝の気持ちを伝えると、ブルムンド王は笑って手を振った。

 

「どーもどーも、リムル殿。お礼には及びませんぞ。ワシは、貴国との協定を守ったまで。それに、フューズから聞き及んでおるのでしょう? ワシは、貴方に賭けた。我が国の命運を、貴国に委ねたまでの事ですじゃ。当然そこには打算がある故、感謝される筋合いの話ではありませんぞ。まあ、もっとも、あの御方達からの情報がなければ、この決断には至りませんでした」

 

 そういうとブルムンド王は、リムルに向かって礼をした。

 それを見てリムルは、そこまでしなくてもと言いかけたが、その礼がリムルの後ろにいる誰かに向けたものである事に気付く。

 

(あ、これって、俺の後ろにいるコハクか? なるほど、ブルムンド王には姿を見せているのか。やはりブルムンド王も、ルヴナンから情報を買っていたんだな)

 

 何も言わずリムルは、にこやかにブルムンド王を見る。

 

 それからブルムンド王は、カザック子爵を身分と財産を剥奪の上、国際犯罪者集団に協力したとして、国外退去に処したとリムルに告げる。

 

「承知しました。俺としては、その処罰に異論はありません」

「それを聞き、安堵しましたぞ。それでは今まで通り、両国の協定は維持される、という事で宜しいかな?」

「ええ、こちらこそ、願ってもない事です。これからも宜しくお願いします」

 

 この件に関してリムルは全面的に受け入れ、お互いに固い握手を交わした。

 

 

 それからは、本題へと入った。

 

 ブルムンド王はにこやかな表情をとり、駆け引きも何もなく、真っ向からリムルに問いかける。 

 

「ところで、リムル殿。フューズから聞きましたぞ。何でもリムル殿は、壮大な計画を立てておられるとか?」

 

(なるほど。あの情報に関する事は売ってないんだな。敢えてフューズからの情報だけに絞ったのか。全容はわからない。けども、ブルムンド王の洞察力は、俺がやろうとしてる事の重大さを見抜けるってか? 一応は、こっちに配慮していると見ても、いいんだろうな)

 

 そんな事を考えながら、ブルムンド王の問いに答えるリムル。

 

「それにつきましては、我が国と貴国だけで済む話ではありません。俺としては、関係国の代表を集めて、正式な会談を希望しております。こちらから出向いて、詳しく説明しようと思っていたんですがね――」

「ほっほっほ、固い事を申されるな。フューズからは軽く説明を受けたのだが、事は我が国の立場を左右するものとなるそうじゃな。ある筋からの情報を細かく分析しても、それは明確に浮かび上がってくる。文官共に任せる訳にはいきまいよ」

「わかりました。そいう事なら、少しだけ――」

 

 正式な会談を行うのは、後日にする予定のリムル。

 

 だからリムルは、ブルムンド王国に流通の中心地となって欲しいという計画の一端だけを話した。

 

 それなのに、王と王妃は……。

 

「なるほど、それはそれは」

「陛下、この話は是が非でも、万全を排して実現させねばなりませんね」

 

 計画の一端だけを話しただけなのに、ブルムンド王の目の色は変わり、その本性を剥き出しにして、野望に燃えていた。

 

 そして今ままで発言を控えていた王妃もまた、王と同様にリムルの計画に興奮を隠せないようだった。

 このオシドリ夫婦、二人揃って頭の回転が速く、リムルの話を軽く聞いただけで、今後ブルムンド王国にどれだけの利益をもたらせるのか、かなり正確に読み取ったのである。

 

 即断即決でありギャンブラー気質の王。

 冷静沈着で計算高い王妃。

 

 そして、得た情報の使い道に()けている王。

 

 この二人がいるからこそ、小国でありながら、大国並みにその影響力を維持しているのだ。

 

「それもこれも、三日後から始まる開国祭を、成功させてからの話ですよ」

「ほっほっほ、それは心配いらぬでしょう。始まってもおらぬのに、この盛況ぶり。この地に足を延ばす各国の貴族は、かなりの数に上るようで。魔物の住む国、これからの発展に、どこの国も目が離せぬようですな」

「そうですわね。ですが今は、リムル陛下の申されるように、私共が慌てる時期では御座いませんわね。確かにこの計画は、他の国々とも足並みを揃える必要が御座います。私共はその時に備えて、国内の意思統一を確たるものにしておきましょう。()の方達の情報も、今以上に活用せねばなりませんね」

「うむ、(きさき)の言う通りじゃ。それではリムル殿、良い話を聞かせてもらえて、楽しかったですぞ。それでは我等は、ここで失礼させてもらうとしよう」

「テンペスト開国祭の成功を、お祈り申し上げておきますね」

 

 ブルムンド王と王妃はそう言って、椅子から立ち上がる。

 貴族的な言い回しで長々と話をして、リムルの時間を浪費させるつもりはないようだった、

 

 そして、リムルの後ろにいるコハクとツキハにブルムンド王が目を向けた瞬間、リムルとツキハ、ブルムンド王と王妃をコハクの幻想領域が包み込んだ。

 

 コハクが軽く頷くと、ブルムンド王がコハクの前に来て、口を開いた。

 

「お久しゅう御座いますな、番外魔王コハク様、そして番外魔王ツキハ様」

「せやね、五年ぶりどすか?」

「お久しぶり、ブルムンド王」

 

 にこやかに二人が挨拶を返す。

 

「この度の貴重な情報、非常に助かりましたぞ。これからも、宜しくお願いしますじゃ」

「へぇ、よしなに」

 

 周りからは今この光景は見えてはいない。見えているが、見るという認識が欺瞞(ぎまん)されていて、ブルムンド王と番外魔王が話しているなど、誰も認識が出来てはいなかったのだ。

 

 ブルムンド王はコハクとツキハに簡単に挨拶を躱すと、リムルの方に向き直る。

 

「それでは、是非とも我が国を楽しんでいって下さい」

「そうさせてもらいますぞ」

「ええ、とても楽しみですわ」

 

 そう言い残して、ブルムンド王と王妃は去っていった。

 

 

 

 ★その日の夜★

 

 

 リムルは教授から、小型魔導モーターの完成を知らされた。

 とりあえず晩飯を済ませ、教授の自宅兼研究室へと急ぐ。

 

 研究室の扉をノックして入ると、そこには円筒形の直径三十センチ、長さ六十センチの大きさの物が、一メートル四方の台座の上で低い唸りを上げて、真ん中に当たる車軸が凄まじい速さで回転していた。

 

「おお、完成したのか!」 

「うん、何とかね」

 

 椅子に座ったままの教授がにこりと答えた。

 そして、椅子から立ち説明を始める。

 

「これのエネルギー元はね、魔力だ。この台座の下にある小樽(こだる)位のタンクに魔力を圧縮して充填してある。これで、そうだねぇ、馬車に付けて理論上は、約五百キロは動かせるかな」

「凄いな、これで魔導トラックが――」

「リムル君、その事だけど。魔導トラックは当分禁止ね」

「はい?」

 

 いきなりの教授の、魔導トラックは禁止発言に、リムルは唖然とする。

 

「理由を聞いても、いい?」

 

 とりあえずは何事かと問いただすリムル。

 

 すると教授は、爽やかに言った。

 

「いやあ、もし魔導トラックが急激に普及したらさ、馬車で生計を立ててる人が職を失って、恨まれるじゃん。それも盛大に、ね。もう、何かさ、寝覚めが悪くなるんだよねぇ。だから、西部開拓時代で行こう計画を、提案します」

「え、ええと、それって、どういう計画なの教授?」

「ん? 簡単な事だよ」

 

 教授は、魔導モーターをポンポンと叩きながら説明を始める。

 

「私達が元いた世界の、西部開拓時代を参考にするんだよ。緩やかに機械技術を浸透させていけばいいんじゃないかと、ね」

「へえー、具体的には?」

「西部開拓時代ってさ、馬に馬車に蒸気機関車が物資輸送と移動手段だったでしょ? それを百年単位で続けて、少しづつ行くんだよ。君も急激な変化での軋轢(あつれき)は望まないでしょ?」

 

 リムルは教授の説明を聞いて、自分が知る限りの西部開拓時代の歴史を思い出す。

 

「ああ、確かにな。あれなら、そう軋轢(あつれき)を生まずに魔導列車等を広められるな」

「でしょ? でね、馬車にはもっと小型化した魔導モーターを補助動力として取り付けて動かせば、馬の負担も減って、もっと大量の荷物を運べると思うんだ。そうすれば、荷馬車や客を乗せる馬車を引く人も職を失わなくて済む。まあ、魔導モーター付きの馬車をどこまで安価に普及出来るかだけど、そこは、要相談ってところで――」

「ああ、そこは慎重にやらないと駄目だろうな。考えてみればそうだよな。急激に馬車より便利な移動手段を大量に普及させたら、特に馬車を生計にしてる人からは猛反発を喰らうし、下手をすると、俺が魔王だからと、敵対する人間も出るだろうからな」

「そうだね。魔導列車にしても最初は、ある程度お金を持った客と物資輸送だけに絞ればいいと思うよ。維持費とか整備系統は、魔法で大幅に簡略化出来るだろうし、何しろこの世界は、魔術に満ち溢れている。現代科学と融合させたら、元いた世界なんて、鼻で笑うくらいのモノが出来るかも知れないしね。人件費とかも相当軽減出来るかもよ? 能力(スキル)持ちに協力してもらえば、ね。ふふふ」

 

 そう言って教授は、リムルに向かって小さく笑って見せる。

 

 リムルも流通に関しては急ぎたいところだが、とりあえずは魔導列車を完成させて、そこからゆっくり広げていけばいいとも思っていた。

 

 ある程度までは急激に進むだろうが、そこからはキッチリ安定させて行けばいいかなと、教授の話を聞いて思うリムルだった。

 

「こちらの世界で西部開拓時代の再現かぁ、うん、それ面白いかもな。流通関係だけはキッチリ整備して、そこからは教授の言う通り、ゆっくりとやるという案には賛成だよ、教授」

「おほ、流石はリムル君だねぇ、理解が早くて助かるよ~」

「ってか、教授が仕事を奪われた人に恨まれるのが嫌なだけだろう?」

「うん、そうだよ。ふふふ」

 

 悪びれもせずに笑みを返す教授。

 

(本音を隠さないというか、自分の好きな事に邁進してるというか、ほんと教授は不思議な女性だよ。ククッ)

 

 そう思いながらリムルは内心で笑う。

 

 それからは、補助動力として魔導モーター付きの馬車をガットエランテの馬車から始めると教授は言い、リムルもそれに了承する。

 

 何故ガットエランテからというと、欠点や不具合が起こった時に、被害が少なくて済むし、何より不具合の報告が迅速に行われるからである。これにより、安全に稼働する小型魔導モーターを民間に卸す事が出来るのだ。

 

 更に機械技術の普及に関しては、緩やかに進めるという事で、リムルと教授は合意した。

 

 そして、軍事技術に関しての話になると――

 

「ところで教授。教授の技術の軍事技術に転換の話だけど、それはどうする?」

「そうだねえ……そこは、別にいいんじゃない? それで食ってる人っていないでしょ?」

「ああ、まあ、そうだけど。ドワルゴンには精霊工学があるし、サリオンには魔導工学があるからな。俺の国の技術形態とは違って来るだろうから、そうかもな」

「既にね、コハク様からの依頼で幾つか兵器開発しているんだよ。それに、カイジンさんにちょっと協力してもらって、あるモノを作っているしね。ごめんね、事後報告で」

「え? 兵器開発、ですか?」

 

 呆気に取られて固まるリムル。

 

「あ、そうそう。カイジンさんには、口止めしてるから、無理やり聞き出したら駄目だよ?」

「え? あ、はい」

 

 教授から聞いたら駄目よの言葉に、素直に返事をするリムル。

 

 それからは、軍事技術の話と、これからの技術革新に付いて語り合う教授とリムル。

 

 夜も更け、静寂が辺りを包む頃に、二人の談議は終わる。

 

「じゃあ教授。そういう事で頼むよ」 

「わかった。魔導モーターの開発費の援助ありがとうね、リムル君」

「いいさ教授。それは、これからの物流の発展に繋がるからね」

「おやすみ、教授」

「おやすみなさい、リムル君」

 

 そう言ってリムルは教授の自宅兼研究室から去っていった。

 

 

 リムルは夜道を歩きながら、ボンヤリと兵器開発に付いて考えていた。

 

(兵器開発ねぇ、これに関しては誰かさんが一番ヤバい気がするけど……)

《……》

(まあ、黙ってやらないとは思うけど、けど、ここ最近のやらかし具合がねぇ)

《……》

(でも、教授も教授で、そら恐ろしいところあるよなぁ。量子物理学の権威……この世界の魔術と組み合わせて、どんなトンデモ兵器作るのやら。出来ればロボット兵器とか作ってくれないかなぁ、ガ○○○とかさ。あれぞ、男の浪漫!)

《……》

(しかしあれだよな、軍事技術から民生技術に転用されたものって、保存食の缶詰や腕時計、今や俺が元いた世界に欠かせないコンピューターやインターネッもそうだっけ? そういえば、携帯電話や電子レンジにGPSにしてもそうだったな。こうしてみると、戦争が技術革新に貢献してるなんて、何て皮肉なんだろう……)

(こちらの世界でも、精霊工学や魔導工学は、多分戦いの中から発展してるだろうからな。俺の国からの技術にしても、一体どんな系統を辿るのやらだ。教授が研究してる、精霊工学と魔導工学との異世界工学の融合技術。一体どんな理論を組み込むんだろう教授は……。いや、それに先生(ラファエル)が目を付けたら……考えるだけでも、ちょっと怖いな)

 

「ハッ、ハハッ、ハハハハハ」

 

 智慧の王(ラファエル)と教授が手を組んだ場合、どんな凶悪な兵器が生まれるのか、それを想像したリムルの口からは、自然と乾いた笑いが(こぼ)れ出した。

 

 夜道を照らす月明かりの中、歩くリムルは、二日後に控えた開国祭に思いを寄せる。

 

 

 

 





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