忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
ツキハとコハクの去った後、リムルはミュウランの前に居た。
「リムルの旦那、すまねえ! 俺は裏切る気なんざ、微塵もないんだ! 俺はただ、このミュウランを助けたいだけなんだ!」
意識を回復したヨウムが、リムルの前で平伏し地に頭を擦り付けながら、ミュウランの命を助けてくれと懇願する。
〝覚悟〟を決めたミュウランは、そのヨウムの姿を見てワザと冷たく言い放つ。
「いい加減にして! ヨウム。もういいから、私を見捨てなさい。貴方まで巻き添えになる必要は、ないわ」
その表情は少し悲しげであるも、〝覚悟〟を決めた女の顔であり、大切なものを失いたくはないという、決意が込められた表情であった。
「リムル様、客人である俺が口出しなど出来ないのは、百も承知。それでも、何卒、何卒、ミュウランの話だけでも、聞いてはもらえませんか?」
ヨウムの横で同じように平伏し、地に頭を擦り付けながら懇願するグルーシス。
それを見ていたベニマル達は苦々しい表情であるも、ツキハとコハクの言った〝捨て駒〟の言葉を思い返していた。
全てを知ってそうな〝番外魔王〟の登場に、その怒りの矛先が〝番外魔王〟に移り、ミュウランに対する激昂は、許したわけではないが収まりつつあった。
「いいえ、ヨウム、グルーシス。私は貴方達に庇われる資格はないの。私のせいで、この街にどれだけの犠牲がでたか……。捨て駒だとしても、あの惨劇を生み出したのは――私なのよ」
そう言うとミュウランは、リムルの目をしっかりと見詰め。
「――付いて来てください」
と、言い。毅然とした態度で歩き出す。
全ての責を受け止める、その〝覚悟〟を見た、ベニマル以下ゲルド達は警戒を解いていく。
ミュウランの案内する先は、リムルを行かせないようとした場所であり、惨劇と言うにはあまりにも凄惨な光景が広がっていた。
あちこちに池の様に広がる、夥しい血溜まり。
そして……。
その先には――
横たえられた、街の魔物達。
男、女、子供も関係なく、それはあった。
リムルはゆっくりと、近付いていく。
そして、ミュウランがリムルにはっきりと告げる。
「これが私の犯した罪であり、惨劇です」
言い終えた後、横たえられている魔物達に向かって、静かに目を閉じる。
リムルはその言葉が聞こえてないかのように、横たえられている百名程の魔物達を、ぐるりと見渡した。
魔物達は………………
………………
皆…………
……
死んでいた。
リムルの両拳が力の限り握りしめられ、爪が皮膚を突き破り、手の平に喰い込んでいく。
しかし、リムルの拳からは、血は流れない。
崩れそうになる足元に、漏れ出る妖気が小さな渦を巻いていった。
これ……全員……
死んでるのか……?
嘘だろ…………!?
動揺がリムルの心を、激しく揺さぶる。
そこへ、ホブゴブリンの長老の一人が、悲痛な声で告げた。
「我々は、リムル様の言い付けに従い、人間達を受け入れ丁寧に接していたのに。まさか、あのような者共が紛れ込んでいようとは――」
「馬鹿者ッ!! それでは、リムル様に責があるように聞こえるではないか!!」
激昂したリグルドがその言葉を遮るが、はっきりと聞こえたその言葉が、リムルの心に突き刺さっていく。
すぐに長老の一人が謝罪の言葉を口にしたが、悔恨の声に満たされたリムルの心には届かなかった。
激しい感情に心がかき乱され、後悔、怒り、悲しみ、と言った心の声が荒れ狂う。
俺の命令……
俺の言葉が……原因だったのか……
俺は、魔物なんだ……でも……
――元は人間だった……だから……
ただ、人と仲良くしていきたかった……だけなんだ
〝番外魔王〟コハクとツキハの言った、言葉が……。
心に深く、深く、突き刺さる。
『なあ、リムルはん。あんさんは、このような現状を見て、まだ人間と仲ようしようと、思てはるのか?』
『ねえ、あんた。もう、この国は
この事を……言っていたのか……
だったら、どうすれば……よかったんだ……
覚悟……なんの覚悟を……受け入れれば……いいんだ……
俺が見るもの?……まだ、何かあるのか……?……
思考が上手く働かない、息をする必要も無いのに、この息が荒くなる感覚は、なんだ?
あるはずもない心臓が、激しく鼓動を打つこの感覚に陥るのは……
ああ、わかってるさ……
この心の声に、流されるのは許されない
原因は俺だ……責任は俺が負わなければならないんだ
俺がやるべき事は、状況を把握し、二度とこれ以上の過ちを重ねる事がない様に、する事のみ、だ
強引に荒れ狂う心の声をねじ伏せ、リムルは全容を聞くべく、その場にいる全員を会議室へ行くようにと、告げた。
移動中、他に犠牲者がいないかと尋ね、犠牲者はここにいる者全てとリグルドは言い、怪我を負った者は別の場所でシュナが治療に当たっていると言う。
それならばとリムルは、先に話を聞こうと言い、会議室へと足を進めた。
その時、助力してくれた一部の商人や冒険者達も一緒に集めた。
会議室へと着いたリムルは事の全容を説明され、静かに目を閉じた。
ベニマルが「弱体化がなければ、ハクロウが負ける事はなかった」と悔しそうに呟いた。
リグルドの説明は続き。
ファルムス王国の騎士団百名が、この国を訪れ。
襲撃者達が助けを求めると、人類の法の名の元にと剣を掲げ、一方的な虐殺を始めたと。
「街に入る前に、武装解除させておけば……」
ベニマルが悔やんで言うが、リムルは(そんな事、俺の命令が無い限り、勝手に出来るはずない)と心の内で言う。非常時の連絡は『思念伝達』『念話』で、行える。リムルはそう考えていて、その考えが俺の落ち度だと、再認識していた。
(全ての原因は、俺に帰結するな)
内でそう呟き、沸き起こる感情を抑えつつ、頭は冷静に保っていく。
リグルドの話は続き。
一方的な虐殺を終えた騎士団の一人が残した言葉を説明する。
『この街は魔物に毒されておる! 我らは人類の法を守る者として、またルミナス神に忠実なる神の子として、魔物の国など断じて認める事など出来ない!! よって、正規の手続きを以って西方聖教会とも協議し、この国への対応を考える者なり!! 時の猶予は一週間なり。指揮官は、英傑と誉れ高い、エドマリス王、その人である。降伏して恭順の意を示すならば良し。もし、無駄な抵抗をしようものなら、神の名の元に、貴様らを根絶やしにしてくれようぞ!!』
と告げ、去ったとリグルドは言った。
「茶番だな」
「はい、仰る通りだと……」
リムルの呟きに、リグルドも即頷く。
西方聖教会の介入は分かるとして、何故ファルムス王国が、この国を攻めて来たかの話を始めた。
ファルムス王国と西方聖教会は、繋がってるとはわかった。
しかし、ファルムス王国がこんなにまでこの国に、敵意を向けたのかと協議を始めた時に。
そこへ一人の商人が、口を挟んで来た。
第三者的な意見も聞きたいと、怪我を負った魔物達の看護などを率先してやってくれた商人、冒険者の代表者数人を、会議室へと招き入れていた中の一人。
商人のミョルマイルであった。
「リムル様。その事なんですが……」
恐る恐ると言った感じで口を挟んで来たミョルマイルに、リムルは。
「おお、ミョルマイル君。思う事があれば、遠慮なく言ってくれ」
ミョルマイルが発言しやすいように、少し砕けた感じでリムルは言った。
普段は大きな態度のミョルマイルも、この場の空気を読み、いつもの様には振舞えなかったのだ。
だがミョルマイルも、リムルが精神的にかなり追い詰められていることに気付いていて、神妙そうに答える。
「お気遣い感謝致します。ご心痛はお察ししますとも」
リムルは逆に気遣われた事に感謝しつつ、ミョルマイルに意見を促す。
「では、申し上げます。現状、この魔国連邦を経由した新しい交易路が生まれ、流通に大きな改革が起き始めています。この事はまだブルムンド王国と、周辺国にしか知られていませんが……一度火が付き広がり始めれば、瞬く間に西側諸国を駆け巡る情報として知れ渡るでしょう。さすれば――」
「さすれば?」
「はい。それが広がる前に、この国を手中に収めたい、と。考える者が出ても不思議ではないでしょう。ファルムス王国の王は、強欲で有名ですからな」
そこまで言い切ると。
他の商人や冒険者などが、口々に「今回のあのやり方は、おかしい」「評議会も通さずに、行動を起こすとはな」「俺達冒険者は、ここが気に入ってるんだ、攻めて来ると言うなら、迎え撃つ手伝いをしますぜ」「しかし、西方聖教会が神敵認定をしたとは……これは厄介なことになりましたね」など、自分の意見を言い始めた。
リムルは、冒険者や商人の者達が気遣ってくれるのを嬉しく感じた。
それは、ファルムス王国の騎士達と違い、魔物の自分達を仲間と受け入れてくれた事なのだから。
味方となり迎撃に参加するという者達に感謝の意を示しつつ、その申し出はキッパリと断ったリムル。
そして取り急ぎこの事態を国元へ知らせて欲しいと、自分の考えを説明する。
そこで、この国を出る時に襲撃を受けて皆殺しにされ、この国に罪を被せる懸念をミョルマイルが言い。
リムルは皆に、そこは心配いらない、必ずブルムンド近郊へお送りすると言い、すぐに帰還の準備を始めてくれと告げる。
冒険者と商人の代表達が出て行った後。
リムルは、ミュウランの前に来る。
「さて、どういう経緯で俺達にちょっかいを出す事になったか、それと〝番外魔王〟の事も。詳しく聞かせてもらおうか」
リムルがそう切り出すと、ミュウランは一度右手を自分の胸にやり、落ち着いた声で話し出す。
「私は、魔王クレイマンの配下――五本指の一人です。〝人形傀儡師〟の二つ名を持つクレイマンは、配下を人形のように、自分の意のままに操る事が出来ます。この街の内偵が、私に与えられた任務で、私はヨウムを利用し、この街に潜入したのです」
「そうか。それで、あいつら〝番外魔王〟は、なんの依頼を受けていたんだ? 雇い主は、誰だ?」
「依頼は、私と同じくこの街の内偵。依頼主は――クレイマンです」
「「「「「!?」」」」」
雇い主はクレイマン、それを聞いた時、その場は一時騒然とした。
が、リムルが右手を軽く上げ制し、ミュウランに話を続けるように促す。
「〝番外魔王〟ツキハ様、コハク様は、〝傭兵商会・ルブナン〟を営んでおられます。依頼主がどんな者であれ、余程理不尽な事を依頼しなければ、どなたの依頼でも受けます。暗殺、潜入調査工作、情報収集、戦争への戦力貸出等、多岐に渡る商売をしておられます」
「戦力の貸し出しって、そんなに構成員が多いのか?」
「いえ……実態は、誰も知りません。お二人以外の構成員は、未だに謎に包まれているのです。これは、魔王クレイマンも実態は知り得ていません」
「でも、戦力を貸し出すって事は、人員が動くだろ?」
「戦力とは、ツキハ様、コハク様のお二人の事なのです」
「ん?……いや、待て。あの二人が戦力なら、〝番外魔王〟とバレて、大騒動にならないか?」
「それは――何をしているのか判りませんが。あのお二人は自身の能力、素性などを隠すことが出来るんです」
「隠す!? 出来るのか、そんな事……」
そこまで聞くと、リムルはしばし腕を組み、考えに集中する。
能力の完全偽装隠蔽、そんな事が出来るのか『大賢者』に問うも、あらゆる検索項目に該当なしと告げられた。
そんなリムルを見ながら、一番大事なことをミュウランは話す。
「私は――クレイマンの〝
言い切ったミュウランは、悔恨の表情を浮かべながらも、すぐに〝覚悟〟を決めた表情になり、下される裁定を待つ。
リムルは聞いた話の中で、そもそもミュウランはヨウムを殺すと脅され、これが最後の命令だと言われたことを信じ、従う事にしたのだとミュウランは言った。
その後で自分は死んで、ヨウム達に迷惑が掛からない様にするつもりだったと。
そう、ミュウランは最初から死ぬ気だったのである。
この大魔法にしても、ミリムとカリオンの戦いにリムルが行けない様に、魔法通信を妨害するのが目的だとミュウランは思っていた。
だがしかし、それは違っていた。
ファルムス王国の召喚者の襲撃に、騎士団の乱入。
目にしたのは、罪なき魔物達の虐殺。
ヨウムを守る為とは言え、自分の行ないは死よりも辛い罰が相当だと。
聞き終えたリムルは、怒りでもなく、憎しみでもない、眼差しでミュウランを見ていた。
「旦那!! 怒りはもっともだが、何とかミュウランを助けて欲しい! 頼む、旦那!!」
「俺からもお願いします、リムル様!! 彼女は、クレイマンに逆らえなかっただけなんです!」
リムルは二人の嘆願を静かに聞きつつ、次の言葉を告げる。
「許すも助けるも、それは全てが終わってから考える。それまでは、部屋で大人しくしていろ」
「わかったわ」
「旦那……」
「リムル様……」
「悪いなヨウム。今は頭が混乱しているんだ、色々とな。だから、心配ならお前の部下がいる宿屋の部屋で、一緒にいるがいいさ」
そうしてリムルは、ヨウム達が滞在する宿屋に、軟禁するように命じた。
一応リグルドに、見張りを付けて監視を付けるように命じたリムル。
もし、この状況で次裏切ったら、リムル自身がミュウランを許せそうにない事態になると、リムル自身が思い、念の為の監視だったのだ。
それを察したヨウム達は、大人しく宿屋に向かって行った。
やがて、ブルムンド王国の客人や、他の冒険者、商人達の出発の準備が整い、馬車や台車などを引いた百数十人程の列がリムルの後ろに続いた。
「では、我々は強行して、それぞれの国へ帰ります」
代表でミョルマイルが言うが、それをリムルが止める。
「ミョルマイル君、皆さん。ここで見た事は、秘密でお願いしますよ?」
「は? 今度は、一体何をなさるつもりで?」
リムルのデタラメさを知っているミョルマイルは、変に警戒しながら聞き。
それに「君も、遠慮がなくなったねぇ」と返し。
ミョルマイルも「ハハハ。それもこれも、リムル様のお陰ですな」と答え。
リムルは「言うねえ、君」と軽く笑い合った。
リムルは言いながら『空間移動』を目の前に大きく展開させた。
いきなり目の前の空間が揺らぎ、大きな穴が開きある景色が、その穴の中に映し出される。
皆がびっくりする中、リムルは告げた。
「ブルムンド王国までの近郊が精一杯だ。時間も残り少ないから、早く行ってくれ」
皆、会釈をしつつ進み始め、客人達は別れの言葉を告げ、皆去って行った。
そうしてリムルは状況を把握し、客人たちを送り出して、シュナ達の応援に向かう。
緊急に病院として使ってる建物に来た、リムル。
そこには、シュナとクロベエがいて、ベッドには二人寝ていた。
シュナが看病して、クロベエがそれを手伝っているようだった。
「どうだ、具合は?」
「あ、リムル様!」
「リムル様、オラ、なんて言えばいいんだか……」
シュナの顔には疲労の色が浮かんでいて、クロベエは普段より落ち着かずオドオドしていた。
ベッドに寝ていたのは、ハクロウとゴブタの二人。
二人共、ざっくりと大きな切り傷が出来ており、じわりじわりと傷口から血が滲み出していた。
「おい、大丈夫か? 大怪我じゃないか!? すぐに回復薬で――」
慌てて取り出した回復薬を振り掛けるも、傷は回復する兆しを見せなかった。
「申し訳御座いません。既に回復薬を試したので御座います。それで、シュナ様の治癒だけが頼りだと……」
リグルドが頭を下げ、リムルに謝罪をする。
それを見てリムルは、初めて気が付く。
盟主たるリムルには、今後の方針を決める義務があり、他国からの客人の対応を行う責務はあった。
だからこそリグルドは、自分に心配を掛けたくは無かったのだと。
そこへハクロウが声を掛けてくる。
「リムル様、グフッ。心配召されるな。ワシは大丈夫です。この傷は、あの襲撃者の
大怪我を負ってる中、笑みを浮かべ言うハクロウ。
リムルは思った……。
武人だ、と。
それでも、そんなハクロウを見て、泣きそうになるのを、主が泣くなど絶対に出来ないのだと、リムルは耐えて笑顔を見せる。
「ハハッ。元気そうじゃねーか。ちょっと傷を見せて見ろ。俺なら、治せるかもしれない」
言いながらハクロウの傷を、確かめていく。
「リムル様。この傷は〝空間属性〟によるものです。体力を回復させて、現状を維持しつつ、時間経過の自然治癒を待たねばと……」
シュナも『
リムルは『空間移動』の応用で、〝空間属性〟を操ることが出来るかも知れないと、思った。
すると。
《解。〝空間属性〟の影響を確認しました。『
思った通り、『大賢者』がリムルの期待に応えた。
リムルはYesと念じて、〝空間属性〟で犯された傷口の影響を喰らいながら、回復薬を振り掛ける。
みるみるうちにハクロウの傷口が塞がり、跡形も無く切り傷が無くなっていく。
「こ、これは! 流石です、リムル様!」
驚くハクロウをそのままに、ゴブタの傷も同様に治癒していく。
だが、リムルはそこで小さな疑問が、ん? と言う様に頭を掠めて行った。
意識を取り戻したゴブタが、跳ね起きる。
「ゴブゾウ! ゴブゾウは大丈夫っすか!?」
「これ、ゴブタ!」
慌てて声を掛ける、リグルド。
それでゴブタはようやく現状に気が付く。
「オイラ、助かったっ、すか?」
目をパチパチとしながら、言うゴブタの姿を見ながら、リムルは先程の小さな疑問に――
気が付いた。
そう、シュナと一緒にいると思っていた、あの騒々しいシオンが見当たらないのである。
「シオン……シオンはどこにいるんだ? さっきから姿が、見えないんだけど――」
リムルの言葉に、リグルド、シュナ、ベニマル、ハクロウまで、その場にいる全員が動きを止めた。
「おい、まさか。あの馬鹿一人で仕返しに、行ったんじゃないだろうな?」
「え!? まさか、ゴブゾウも? アイツも抜けているから、突っ走っているんじゃ……」
リムルの言葉にゴブタが頷きつつ言う。
「いえ、その、あの……ですね……」
リグルドがしどろもどろで答える。
何か様子がおかしいとリムルは、感付く。
「シオンは、どこに行ったんだ?」
誰も答えなかった。
リムルがシュナを見ると、涙を堪える様に顔を背けていた。
嫌な予感が、リムルを襲う。
そんはずは……そんな事は――
無い。そう自分に言い聞かせて、
「そうか。怒らないから、アイツがどこに行ったか、教えてくれ――」
………………
「わかった……。こっちです、付いて来てください」
ベニマルが口を開き、その言葉にリムルは頷き、後に続いて歩き出す。
広場の中央に着くと。
横たえられた者達の中央に、シオンはいた。
白い布で全身をすっぽり覆われ、ひっそりと目立たぬよう横たわっていた。
リムルに気付かれない様に目立たぬように、と。
リムルの
感情が
弾けた。
目を開けろよ――
信じたくない。
目を開けてくれよ――
頼むよ。
これが、あいつが言った……これから見るもの だったのか――
なぜだ? どうして……こんな事に……。
「ゴブゾウーーーーッ!?」
リムルの隣で、ゴブタが絶叫しながら号泣する声が響き渡る。
その号泣する声の中、まるで遠くから聞こえるかの如く、説明をする声がリムルの耳に届いていく。
流れる言葉を聞きながら、リムルはクロエにやった仮面を複製し、そっと被る。
シオンは、殺されそうになった子供を庇って――
魔素濃度低下による弱体化で――
動けぬシオンを――
ゴブゾウはシュナ様を守り――
それを笑いながら騎士が槍で一突きに――
リムルに向けた言葉なのに、リムルは聞きたくはなかった。
それでも聞こえてくる言葉は……否応が無しにリムルの心を抉る。
弾けた心は、内なる声を無慈悲に紡いでいった。
シオン、目を開けてくれ……。
俺の心は、グチャグチャでどうしようもないのに、この身体は涙を流す必要は感じないんだな……。
そうか――
俺は、やっぱり……魔物なんだ。
「スマン……暫く、一人にしてくれ……」
その言葉に広場が、静寂に包まれていった。
皆が遠ざかる中、シュナが泣きながらリムルに抱き付き、何か一言言って、皆と一緒に去っていった。
一人残されたリムルを、完全に日が暮れた闇を照らす、一筋の月明かりが照らす。
そう。
今は、一人にして欲しい。
自分で自分が、わからないんだ。
気が狂いそうに心が弾けてるのに、頭が酷く冷静なんだ。
後悔、悲しみ、激しい怒り。
そんな感情が、俺の中で荒れ狂いせめぎ合い、爆発しそうになる。
――どうして、こんな事に、なったんだ?
《告。計算不能。理解不能。回答不能》
――どうすれば、よかったんだ?
《告。計算不能。理解不能。回答不能》
――人間と関わらなかった方が、よかったのか?
《告。計算不能。理解不能。回答不能》
――なあ、〝番外魔王〟達が言った、覚悟って……なんなんだ?
《告。計算不能。理解不能。回答不能》
――俺が……間違っていたのか……?
《告。計算不能。理解不能。回答不能》
『大賢者』をもってしても、出ない答えもある。
リムルは分かっていても、剥き出しの感情を露わにする。
――ふざけやがって。
――ふざけんじゃねえよ。
俺から大事な者を奪いやがって……。
ここが自分の街ではなかったら、好きに暴れられるのに。
怒りのまま暴走して、暴れられたらどんなに楽か……。
そうだよな……。
俺は親しい者が死ぬ場面に遭遇したのは、初めてだったな。
奪われたことが無い者に、奪われた者の悲しみを理解する事など出来ないよな。
今初めてわかった……これが身を切られるよりも激しい痛みって、ものなんだな。
何が『痛覚無効』だ、役に立ちゃしねえじゃねえか。
リムルの内側から渦を巻き、沸き起こる
それに抗いきれなかったのか、被ってる仮面の右目の下に当たる部分にピシリと小さなヒビが走り、カラカラと破片が地面に落ちて、小さな音を立てる。
やがて小さなヒビは、乾いた音を響かせながら、ゆっくりと下まで伸びていき……。
その涙の軌跡のような模様は。
まるで泣けないリムルの代わりに、泣いてるように見えていた。
リムルの体から漏れ出る
ゆらゆらと纏わり付くように、リムルの周りを漂い揺れ躍る。
あたかも、リムルを慕うシオン達の……魂の様に。
十六話を読んで頂きありがとうございます!
次回の更新も読んで頂けたら、嬉しいです!