忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。160話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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160話 ガゼル王

 

 

 ブルモンド夫妻とあった翌日。

 

 

 次にやって来たのは、ドワーフ王ガゼルであった。

 

 

「来てやったぞ、リムルよ。今回は久々の馬車の旅で、流石の俺も疲れたわ」 

 

 そう言うと、ドカッと対面に座り、リムルの後ろにいるツキハとコハクを一瞬だけ見る。

 

(なるほどな、俺の影の護衛に眷属を寄越して来たと思えば、リムルの護衛をしていたであるか)

 

 相変わらず威風堂々とした態度のガゼル王。 

 

「しかし、本当にこの国に馴染んでいるとはな。どう気変わりしたら、闇の底から()い出て来るのだ。全く頭の痛い事よ」

 

 ツキハとコハクを見ながら苦々しく言うガゼル。

 

「ただの気まぐれと、あたしの大事な〝男〟との約束だよ。ガァ――」

「待て。その呼び方は、この場では遠慮してもらおう」

 

 ツキハがガゼルの名を呼ぼうとした時、ガゼルが慌ててツキハを止める。

 

「ガゼル王。王たるものがただの護衛に気安く声をかけてどうしますねん。うちらは、依頼を受けて護衛をしてるだけどすえ。本当に、ガァ――」

「待て、番外魔王コハク。それは、遠慮してくれと言っておる」

「あら? それは、すんまへんな。ふふふ」

 

(ん? 何で名前呼ばれるくらいでガゼルは焦ってるんだろう。コハクは最初にガゼル王と、言ったよな。どうしてだ?)

 

 ツキハに続いて、コハクまでも何故か名前を呼ぶのを止められる始末。

 リムルは、何か呼ばれたら不味い呼ばれ方でもあるのかと勘ぐるが、とりあえず突っ込まない事にした。

 

 それからは、やれ長老共が張り切ったせいで馬車の数も大層な数になったと言い。 

 これは、大国ならではのドワルゴンの武威を見せ付ける意味では必要だとはわかってはいるが、その為の何着もの着替えや、それを管理する者達に加えて着替えを任せる侍女達も連れて来なければならず、とんでもなく大所帯となったと辟易(へきえき)して言うガゼル。

 

 元来王たるもの、隣国に招待されたら、こういった事は当たり前なのだ。

 

「王として行動するならば、それ相応の準備が必要なのだ。街道が整備されておったお陰でまだマシだったが、ここ数日の旅は本当に大変だったのだぞ。貴様のせいだぞ、リムルよ!」

 

(ああ、だから、いつも少人数で遊びに来てたのか。飛翔馬(ペガサス)で移動ならば、ドワルゴンからここまで一日くらいだからな。確かに王侯貴族の移動は、凄まじい労力と金がかかるのは、わかる気がするわ) 

 

 リムルはガゼルの愚痴を聞きながら、元いた世界の江戸時代にあった大名(だいみょう)の参勤交代を思い出していた。中身は違うが、一国一城の(あるじ)と言えば大名も王である。その移動となれば、かなりの経費が掛かった事は容易に想像が出来たのである。

 

「まあ、そう言うなよ。まさか、来てくれるとは思わなかったんだ。てっきり、使者が来るものとばかり思っていたのに」

 

 王の移動が大変なのはわかるが、本当にガゼル本人が来るとは思っていなかったと、弁明するリムル。

 

 しかし、ガゼルは納得はしなかった。

 

「フンッ、そんな訳にはいくか! お前がまた何か企んでおるようだし、俺としてはこの目で見て判断せねば安心出来ぬわ! それに……聞きたい事がある。というか、番外魔王ツキハとコハクを住まわせるなんて、何を考えておるのだ! しかも、眷属までもが住み着いてるではないか、リムル!」

 

(いやー、それは、ヴェルドラ君に言って欲しいんだけど……。これ、迷宮領地である傭兵国シャルフューズの存在まで知れたら、俺……ガチで怒られねえか!? うん、これは秘密だ。どうせ迷宮領地だから、バレないよな。そう、多分、バレないと、思う……)

 

 ガゼルのお小言を聞きながらリムルは、住めと言ったのはヴェルドラだよと言いたかったが、それはそれで不味いので喉まで出かかった言葉を呑み込んだ。

 

 更に、傭兵国シャルフューズの存在まで知れたらと考え、これは秘密にしておこうと心に決めるリムルであった、が、バレるのは時間の問題かも知れない。

 

 ガゼルのお小言は続く――

 

「それとな、聞きたい事がある」

「何だよ?」

「お前は、ヒナタ・サカグチと戦ったようだが、引き分けたと言うのは嘘であろう? かなり巧妙に広まってはいるが、裏で、ルヴナンが動いている形跡が垣間見える」

 

 ガゼルは、嘘は聞かぬぞといった視線で、リムルを見る。 

 

 それを聞きながらツキハとコハクは、ただただ、笑みを浮かべていた。

 

(バレているとは思っていたけど、やっぱりかぁ。あそこの暗部もかなり優秀だとコハクが言っていたから、当然か。でも、あの二人の笑みは、ワザと痕跡を残して、どの国がどこまで情報を掴み取れるか試しているんだろうな。それにまんまと乗せられたのがガゼルの所の暗部か。コハクが言うだけはあるけど、逆に遊ばれている感は(いな)めないな)

 

 と考えたリムルは、ならばと。

 

「まあね。試合に勝って試合に負けたような気分だけど、勝ったには勝ったよ」

 

 とりあえず、秘密だと断った上でリムルは、事の顛末を話した。

 

 ……。

 

「信じられん。あの女は……正直言って、俺よりも強いのだぞ? 剣の腕だけならばともかく、総合力では俺が負ける。まさか、貴様、天牙影千流(てんがえいせんりゅう)を学んだのではあるまいな?」

 

 と、少しキツイ口調でリムルを問い詰めるも、当のツキハは顔の前で、それは無いというように、真顔で手を横に振る。

 

「ないのか……。それなのに、お前が勝ったというのか?」

 

 ツキハの反応を見ても、信じられないといったように、本音をぶちまけるガゼル。

 

 英雄王としてのガゼルは、ヒナタと勝負する訳にはいかない、何があっても。

 だから、暗部に情報を探らせて足りない分はルヴナンから情報を買い、その強さを分析していたらしい。その結論として、ヒナタには勝てないと分析していたのだ。

 

「運が良かったってのもあるかな。実際、俺が倒したクレイマンよりもよっぽど、ヒナタの方が強かったよ。それに、天牙影千流の剣術は見せてもらった事はあるけども、あれは俺が学んでいる朧流とは真逆の剣術だ。とてもじゃないが、付け焼刃で学べるほど甘くはないよ。だからさ、俺が勝てたのは、能力(スキル)による恩恵が大きかったと思う」 

 

 リムルも嘘偽りもなくそう言い、肩を(すく)めて見せた。

 

「フッ、運も実力の内よな。弟弟子の成長は嬉しくもあるが、このまま簡単に負けを認めるのは少々面白くないぞ」

「相変わらず負けん気が強いねぇ、ガァじゃなくてガゼル王は。ククッ」

「ほんまやねぇ。若い頃を思い出しますなぁ。フフッ」

「なっ!? グッ、ヌゥウゥゥ……」

 

 そう言ったガゼルの言葉に、ツキハとコハクが茶々を入れて来たが、何故かガゼルは(うな)りながらも言い返さなかった。

 

(へえー、やっぱりツキハとコハクはガゼルの若い頃を知っていたのか。あ、多分これ、小さい頃からを知ってたりする? もしかして、相当昔から関りがあったりなかったりし、て?)

 

 ガゼルの態度を見てそう判断したリムルだが、それは当たっていた。

 

 先代、いや先々代からルヴナンは、ドワルゴンと情報の取引をしていたのだ。

 それが顕著になったのは、先代からである。

 

「ゴホン。相変わらずであるな、お前は。本当におかしなヤツよな。本来もクソもなかろう。能力(スキル)を含めてお前の実力であろうが?」

 

 一つ咳払いをしてガゼルは、呆れたようにリムルに言い放った。

 

「まあ、それはそうなんだけども……」

 

 どこかバツの悪そうな様子でリムルは口を(にご)す。

 

「まあ良いわ。それで、今回は、何を考えているのだ、お前は?」

 

 呆れた様子から一変、ガゼルが真剣な顔付で問うてきた。 

 

 しかしリムルは。

 

「何のこと?」

 

 と、本当にわからないといった返答を返す。

 

「何の事、ではないわ! 西方聖教会が我がドワルゴンに、今後の交渉を見据えて正式に窓口を開きたい、と打診してきおったのだぞ? 今まで我等の事を、魔物に近しい存在と定めておったあの西方正教会がだぞ? 何故にその教義をこうも簡単にひっくり返したのだ? 突然のこの変わりよう、貴様、ルヴナンを使ったのではあるまいな? これを企みと言わずして、何と言う!!」

 

 そう言われたリムルは、このガゼルの言った事に、大いに心当たりがあった。

 

(あ、あの酒の席でヒナタ達に、盛大にガゼル王を巻き込んだらいいと言ったんだったわ。ハハッ、ハハハ……。ガゼルに了承を取るのをすっかり忘れてた……どうしよう?)

 

 リムルは上目遣いで後ろにいるツキハとコハクを見るも、二人の顔は、自分で何とかしろと、目がにこやかに訴えていた。

 

(ア、アカン、この二人、口を開く気ゼロやん……。無理だな、自分で何とかしよう)

 

「い、いやあ、何の話だか、俺にはサッパリだよ。ま、まあ、ヒナタとは実際戦った上で、あ、あれよ、ちょっとした友情がね、芽生えたと思う。でさ、今後も仲良くしようと纏まったんだよ。だから多分、俺達だけじゃなくて、ガゼル達とも正式に友誼(ゆうぎ)を結ぼうと考えたんじゃないかな? ルヴナンには、何も依頼はしてないからね」

「――ほう?」

 

 低い声を漏らし、盛大に疑わしい眼で見るガゼル。

 

《告。個体名:ガゼル・ドワルゴにより、表層心理を『思考読破』されています。因みに番外魔王の二人は、完全に『抵抗(レジスト)』しています。敵意や害意を感じなかった為に、放置しておりますが、妨害しますか? YES/NO》

 

『YES!! 勿論、YESですよ!! というか、そんな重要な事は、最初に言って下さいよ智慧之王(ラファエル)先生――ッ!!』

 

《……》

 

(えと、待てよ? そう言えば以前、ガゼル自ら心が読めると言っていたような……!? そうだった、そんな会話を交わした記憶があるわ……。ヤバッ、今の一瞬でどこまで読まれたんだ?)

 

 そう思いリムルはガゼルをチラッと見ると、ガゼルは額に青筋を浮かべてニヤリと笑う。

 

「フ、フフッ、俺の『思考読破』を見破ったか。それは見事と褒めてやるが、しかし――邪魔をするという事は、(よこしま)な考えがあったという事であろうな? それにしても、番外魔王二人の涼しい顔には如何(いかん)ともし(がた)いものがある、昔からだが。妨害の痕跡すら感じぬとは、な」 

「い、いやいや、そんな事はね、無いと思うよ?」

 

 ガゼルの追及に、ツキハ張りに首を(かし)げて逃れようとするリムル。

 

 しかし、ガゼルの追及は止まらない。

 

「馬鹿め! 俺を巻き込んだらいいという思考が、チラッと()えたぞ! 誤魔化すなら、番外魔王の二人みたいにやらねば、意味ないわ!」

 

 終始ニコニコと笑顔を絶やさず、リムルの後ろに立つツキハとコハクを見てガゼルは、苦々しく言い捨てる。

 

 こうしてリムルは、ガゼルからしこたま説教を喰らい、ヒナタ達と交わした話の内容を、洗いざらい白状させられたのであった――

 

「そうであったか。人間至上主義だったのは、〝七曜の老師〟共であったとはな……」

「ああ。だからヒナタ達は、この際に〝七曜の老師〟に毒された者達の粛清を考えてるみたい。その証拠に汚職など、既に掴んでいるからな」

「ふむ、ルヴナンか――」

「え? よくわかったなガゼル」

「そんな誰も知りえぬ隠された内部事情を暴ける者など、コヤツ等くらいしかおらぬわ」

「あ、まあ、そうだよねぇ」

 

 どこか憂鬱(ゆううつ)そうに言うガゼルに、リムルももっともだと同意する。

 

 そしてガゼルは、しばし熟考に入った。

 

 ……

 

「――で、あるなら。この話、断るのは愚か、か。番外魔王コハクから買った情報に、ヒナタ達との宴会も記されていたからな……」

 

 そう呟いたガゼルの言葉に、リムルが「え?」と後ろを振り返りコハクを見る。

 

「なんえ?」

 

 コハクは動じずに、リムルにニコニコと返す。

 

「いや、何でも、ない(かあーっ。やっぱり売ってやがったよ、コハクさん。わかっちゃいたけど、こうも堂々と一切動じないところは羨ましいというか、何だろうねこの人は! 全くもうだよ、本当に!)」

 

 情報を売るのはルヴナンの自由であり、魔国連邦(テンペスト)に不利益ならない範囲での内部情報の売買はルヴナンに許可されていて、契約書にも記されている。

 

 リムルは、ルヴナンが意図的に魔国連邦(テンペスト)の情報を他国に売っているのを、ソウエイからの報告で知っていた。

 

 情報の使いどころ売りどころをこうも見事にやられると、何とも言えない気持ちになるリムルである。

 更にソウエイの報告では、このソウエイが掴んだ情報でさえ、意図的に掴まされた形跡があると言っていた。

 

 ソウエイ達に意図的に掴ませるなど、本来至難の(わざ)なのだが、それを難なくやるルヴナンの恐ろしさは、合同で活動するソウエイが一番よく知っている。

 

 しかし、ルヴナンの意図を断片的に掴むなど、ソウエイの暗部としての腕もさることながら、着実に力を付けて来ているのが伺えるところでもあった。

 

 

 そして、ガゼルの出した結論は、ヒナタ達西方聖教会からの申し出を受け入れるというものだった。

 

「ガゼルなら、そう言ってくれると思っていたよ」

「抜かせ、勝ってな事ばかりしおってからに……まあ良い。せっかくの祭りなのだから、野暮な話は控えるとするか。最高の席を用意しておるのだろう? せいぜい、楽しませてもらおうではないか」

 

 散々リムルを怒った後で、野暮な話は控えるとのたまうガゼル王。

 ある意味理不尽ではあるが、それが通るのが王なのである。

 

 そんな事を理解しているリムルは、それを口にするほど馬鹿ではない

 

 

 テンペスト開国祭にはヒナタ達も参加するので、当人達と会った上で、詳しい話をする事になった。

 

 

 そして、祭りの後に会談の場を設ける事を約束し、リムルはガゼルを見送ったのであった。

 

 

 

 

 ★やっちまった猫★

 

 ここ最近、度々〝魔法の指輪(デモンズリング)〟でギィの呼び出しを喰らうツキハとコハク。

 

 コハクは、こんなん捨ててしまうかと吐き捨て、ツキハは〝殴り込み〟に行く? とガチギレまじかであった。

 

 そんな、とある日、その事を教授の自宅リビングで愚痴るツキハがいた。

 

 すると教授は――

 

「へえー、そうなんだ。私が元いた世界の携帯にかかって来る迷惑電話みたいだね」

「迷惑、けいたい? でんわ? なにそれ?」

 

 耳慣れない言葉にツキハが、首を(かし)げる。

 

「えーとね。そうそう、さっきツキハ様が言ってた〝魔法の指輪(デモンズリング)〟みたいな、モノかな」

「ほーん。教授の元いた世界にも、はた迷惑なモノがあったんだね」

「いやあ、はた迷惑なモノではないんだけども。ただ、それを利用してね、ほんとガチで迷惑な電話かけてくるヤツがいたんだよ。うん、アレは、今思い出しても腹が立つわね」

 

 元いた世界での出来事を思い出し、どこか憤慨(ふんがい)する教授。 

 

「でねでね。それを撃退する方法が、私が元いた世界の動画サイトにアップされてたんだよぉ」

「にゃに! それ、詳しく! ところで、ドンガサイトって、なに?」

 

 撃退方法って聞いて食いつくツキハだが、動画サイトをドンガサイトと聞き違えるツキハだった。

 

 しかし、教授はそんな事はお構いなしに話を続けていく。

 

「ドンガサイト? 動画サイトだよって、それはどうでもいいか。そうだ、えーと、アレあったかなぁ……」

 

 そう言うと教授はキッチンの方に行き、ゴソゴソと何かを探し回り、目当てのモノを持ってリビングに戻って来た。

 

「これこれ」

 

 そう言って教授がツキハに見せたモノは、金属製の直径三十センチほどのボウルだった。

 

「ほえ? それでなにすんの?」

 

 ツキハは意味わからないといった風に、教授に尋ねる。

 

 すると教授は、手近(てぢか)にあったインク壺にボウルを被せた。

 

「このインク壺が〝魔法の指輪(デモンズリング)〟とするね」

「ふむふむ」

「でだ、ここに迷惑なヤツが魔法通話をかけて来たとする」

「ほうほう」

「したら、こうだ!」

 

 そう言うと教授は、両手に持った銀のフォークで、逆さまになったボウルの底を、思い切り叩き始めた。

 

 ゴガガガガアアアアアアッ!!

 

「ふにゃ!」

 

 あまりの騒音に、猫耳を両手で押さえるツキハ。

 

 そして、ボウルの底を叩く手を止めると。

 

「これ、向こう側では凄まじい騒音になっていてね。二度と迷惑電話をかけて来ないって事になるんだよぉ。面白いでしょ、これ?」

「おおおおお!」

 

 目を大きく見開き、感動した声を上げるツキハ。

 

「あ、でも。これやる相手は、この世界では気を付けた、方が……って、もういないし」

 

 教授が一つだけ、この世界でやるのは気を付けた方がいいと忠告をしようとしたが、既にツキハは教授の家から去った後だった。

 

「あー、これ、間違いなくやるね……。まあ、いっかぁ。怒られるのはツキハ様だしぃ」

 

 呑気(のんき)に教授はそう言うと、何か食べに行くかぁと独り()ちて、家を後にした。

 

 

 

 そして、その日の深夜。

 

 ギィから呼び出しを告げる呼び出し音が、〝魔法の指輪(デモンズリング)〟から小さく鳴り響く。

 

『何や? うっとおしい事この上ないで、ギィ』

『何の用よ、この赤毛野郎』

『いつにも増して辛辣だな、馬鹿共が』

 

 いつものやり取りをする三人。

 

 ツキハはすかさず〝魔法の指輪(デモンズリング)〟を外し、その上に金属製のボウルを被せる。

 

「何してるんや、それ?」

「見とけ、目にモノを聞かせてやるんだよぉ~」

 

 それを見たコハクが(いぶか)し気な目をツキハに向けるが、当の本人は両手にフォークを持ち、クスクスと悪い笑みを漏らしながら気にもかけない。

 

 しかしそこへ、想定外の者が魔法通信に割り込んで来た。

 

『ねえ、ギィ。あの()達、呼び出しに応じないのなら――』

 

 そこまでヴェルザードが言いかけた時――

 

「喰らえ!」

 

 ゴガガガガアアアアアアンッ!!

 

 ガガガガガガガガガガガガァッ!!!

 

 けたたましい金属音が、〝魔法の指輪(デモンズリング)〟から鳴り響いていった。

 

 …………

 

 ……

 

 一頻(ひとしき)り叩き終えたツキハは、満足気な顔を浮かべ言い放つ。

 

「ウハハハハ。見たか日頃の恨み。これに懲りたらもう、二度と呼び出すんじゃねえぞぉ――ッ! ウヒャヒャヒャ」

 

 両手を腰に当て高笑いするツキハ。

 

 そして、その横で誰かと魔法通話をしているコハク。

 

『うちと違いますえ、ヴェルザード姐さん。へぇ、へぇ、そうや……ツキハがやったんどす。へぇ……そうやってんけど……へぇ、そうどす……すんまへん。ほな、ツキハに伝えとくさかい、これで失礼しますえ』

 

 そこで魔法通話が終わった。

 

「なあ、ツキハ。あんさん、何やったかわかってるんか?」

「ん? 呼び出しがうるさいギィに天誅を喰らわしたんだよ。ハーッハハッ。コハク、喜べ。もう呼び出しはないぞ、金輪際な!」

 

 迷惑魔法通話を退(しりぞ)けたと喜ぶツキハだが――

 そこに無情なコハクの言葉が、ツキハの耳にぶっ刺さる。

 

「はあぁ……喜んでるところスマンけどな。あんさんのやったアレ――ヴェルザード姐さんに、モロに届いてたで」

「へっ! 何で?」

「そんなん、うちが知るかいな」

 

 溜息交じりにコハクが告げ、それを聞いたツキハは完全に固まる。

 

「とにかく、今からすぐに来なはれとの事や。()よ行きや」 

 

 次にコハクが告げた時には――

 

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 黒猫の姿になり、大きく目を見開きコハクを見上げていた。

 

「何してますねん。黒猫になったかて、許してもらわへんのはわかってますやろ。アホな事やってからに。また、妙な事を教授にでも聞いたんやろ? ほんま、しょうもない事やらかして。明日も忙しいから、うちはもう寝るで、ほなな」

 

 そう言ってコハクは、トントンと二階の自分の部屋に上がり、ピシャリと入り口の(ふすま)を閉めてしまった。

 

 後に残るは、黒猫のまま固まった、ツキハだけ。

 

「あたし、生きて、帰れるのかな……?」

 

 その後のツキハが、ヴェルザードからどんな〝O・S・I・O・K・I〟をもらったのかは――

 

 

 誰も、知らない……

 

 

 





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