忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
リムルは組合本部を出たところで、仮面を外した。
そんなリムルに、旅をする冒険者が背負うディパックみたいなものを背負うユウキが話しかけて来た。
事前にこの事は手紙で知らせておいたので、準備は済ませておいたのであろう。
結構な大きさなので、数日は滞在する気なのは確実であった。
「じゃあ、あの子達も祭りに連れて行くつもりなんだね?」
「ああ。ヒナタとも和解したから、今のところ俺達に敵対している勢力はないしね。ちょっとした問題はあるかもだけど、安全面に関しては万全を期して、俺の国の警備とルヴナンの警備の二重態勢を敷いているよ」
「オッケー、そういう事なら許可するよ。アイツ等も最近は大人しく勉強しているようだし、たまには息抜きがてら、御褒美があってもいいだろうね」
笑顔で
子供達にはまだこの事は知らせておらず、完全にサプライズである。
リムル的には本当に許可が出るかはわからず、情況によっては断念せざるを得ない場合も考慮していたのだ。
これは、先に言っておいてやっぱり駄目でしたと悲しませるよりは良いだろうと、リムルなりの配慮でもあった。
暫く歩くと、見慣れた後者の姿がリムルの目に入って来た。
イングラシアが誇る、組合員育成期間、自由学園である。
門番に声をかけると、直ぐに取り次いでくれて、案内の者がやって来た。
ここの理事長であるユウキが一緒なので、対応が早かったのだ。
そしてリムルは、教頭に挨拶をしてから、教室に向かった。
「いよーっす。元気だったか、お前達――」
と、声をかけ終わる前に弾丸のような勢いで、アリスがリムルの腹目掛け突進して来た。
「もう! 先生、来るのが遅い!!」
顔は嬉しそうなのに、どこか不満を交えて言う。
「全くそうですよ。ちょくちょく遊びに来てくれる約束だったじゃないですか!」
「ほんとそうだぜ。ゲイルの言う通りだ。俺達の事なんて忘れちゃったのかと、心配してたんだぜ?」
「でも、来てくれて嬉しいです。先生!」
ゲイル、ケンヤ、リョウタの三人が、文句を言いつつも嬉しそうに言いながらリムルの
そこへ最後の一人クロエが。
「おかえりなさい、先生!」
満面の笑みでリムルに飛びついた。
「フフッ。相変わらずの人気だね。ちょっと羨ましいよ」
そんな子供達を見て、ユウキが笑い言う。
ユウキに気付いた子供達は、より笑顔を大きくして、ユウキに挨拶をする。
そしてリムルが重大な事を、子供達に告げた。
「今から、君達五人を俺の国に招待しようと思っていてね、明日からお祭りが開催されるんだよ。別に生きたくないってなら――」
「なにー! 急げ、直ぐに準備をするぞ!」
「わかったよ、剣ちゃん」
「うわーーーん!? そう言う大事な事は、もっと早く言ってよーーーっ!?」
「そうですよリムル先生! 突然来てそんな事を言い出すなんて、びっくりです!?」
「えっとね、私は楽しみ!!」
ケンヤ、リョウタ、ゲイル、アリス、クロエは、リムルの言葉が終わるのを待たずに、一目散に自分の部屋目掛け駈け出して行った。
「おいお前達、持っていくのは着替えだけでいいぞ! って、もう行ってしまったか」
リムルは、後ろ姿にそう声をかけたのだが返って来る返事はなく、子供達は大騒ぎをしながら嵐の如く去っていったのだった。
授業を担当していた教師は、驚いたようにその様子を眺めていて、子供達が去った後にやおら溜息を吐きつつ、口を開く。
「いやはや、驚きです。私に対しては、こんなに懐いてはくれないのですが……」
「アハハハ、君はよくやってくれているよ。今では多少マシになったけども、あの子達の面倒を見られる教師は中々いないからねえ。本当にそこは頭が痛いところだよ」
「左様ですな。実力を示さなければ従ってはくれない、それが自然と言えばそうなのでしょう。全くもってお恥ずかしい話なのですが、気を抜くと私でも負けそうになりますからね……。あの子達の実力は本物ですよ。ところで――」
そう話す教師に、リムルは見覚えがなかった。
リムルがいなくなった後の、後任の教師だったのだ。
「あ、申し遅れました。以前にあの子達の教師をしていた、リムルと言います。いきなりの来訪で、授業を邪魔してスイマセン」
「いえいえ。そうですか、やはり貴方がリムル先生でしたか。子供達の口からその名を聞いて、もしやと思っておりました。私の名はクラウス。貴方の後任として、この学園に雇われた者です。授業についてはお気になさらずに。理事長より事前に、今日から暫く休みになるかも知れないと聞いておりましたので」
クラウスはそう言って、渋い笑みをリムルに見せた。
ユウキがクラウスについて説明をし、元A⁻ランクの冒険者であり年齢は五十手前で、そろそろ引退を考えているらしいと言った。
それを聞いたリムルは驚き、Aランク相当の者でも手こずるなんて、相当じゃないかと言った。
それに対してクラウスは、「貴方に鍛えられたと、自慢していましたよ」と答え、ユウキも「油断したら冗談抜きで、僕だって負けちまうかも知れないほどだよ」と、付け加えた。
ユウキまでこう言ってるのだから、子供達の強さは本物だろうとリムルは思った。
そんな風にリムルが感慨に耽っていると、クラウスが意を決したようにリムルとユウキに向き直った。
「ユウキ殿、お願いがあります」
「ん? 何かな?」
「リムル殿にも聞いて頂きたい。このままでは近いうちに、私ではあの子達に勝てなくなってしまうでしょう。間違いなく。それは技術以前の問題であり、それで満足してしまうとあの子達の為にはなりません。あの子達には、壁となる大人が必要だと思うのです」
「それは、どういう意味だい?」
「何、
真剣な表情で答えるクラウス。
(なるほど。クラウスさんは、かなり親身に子供達の事を考えてくれているんだね。ラミリスに協力をしてもらい、子供達は上位精霊をその身に宿している。その力で〝異世界人〟として界を渡った際に得た
リムルは軽く十万倍の『思考加速』をかけながら、クラウスの意見に対して考えていた。
(そうなるとだ、余剰エネルギーを戦う力に回せるわけで、<精霊魔法>だって簡単に扱えるようになるんだよなぁ。それこそシズさんのように、優秀な
リムルはそこまで考えると、ある問題に行きつく。
そう、相手を倒す事、
どんなに強くなっても、戦う術を得たとしても、相手が魔物であれ悪人であれ、殺さねばならない戦いが必ず訪れる事である。
ましてやそれが――初めての殺しだとしたら。
戦った結果、命を奪ってしまった事実に、精神が耐えられるのか?
リムルとしては、それを解決するには一つ問題があったのだ。
(そうだな、戦う術に関しては、クラウスさんの言うように優秀な師を探してやるべきなんだろうな。そして、もう一つクラウスさんが言った事、か。多分、そういう事は、アイツらが一番適任だろうけども……恐らくアイツらのその教えは、諸刃の剣並みに危険な気がする。でも、シャルフューズに住む傭兵というか忍びの訓練を受けている子供達は、多分、その訓練を受けているだろうな。一度、ツキハとコハクにその事を相談して考えてみるか。とりあえずは、一つの懸念を
そう結論を出したリムルは、『思考加速』を解除して口を開いた。
「それならさあ、俺の国でも学校を作る予定なんだ。Bランク相当のヤツなら結構いるし、俺達の〝指南役〟でもあるハクロウって爺さんが、教官役を務めてくれる。剣技だけなら俺より強いからアイツ等にも教える事は出来ると思う。それとクラウスさんが言った二つ目の事だけど、それに関しても当てがある。まあこれは、相手がどう答えてくれるかわからないんだけどね――」
「凄いじゃないか! それなら、リムルさんのところで預かってくれないかい?」
「ああ、そうだな。ただな、アイツ等が人間社会での常識を学ぶのが難しくなりそうでさ」
リムルはユウキの意見に同意しながらも、敢えて、やんわりと否定するような言葉を言った。
人間社会の常識なんて、子供同士の付き合いの中で学ぶ点が多いのだ。
その機会を奪ってしまうと、コミュニケーション能力に欠けたまま成長していくのではないかと心配を抱くリムルだった、以前ならば――
これに関しては、既に解決していたといっても過言でもなかった。
「ああ、魔物ばかりで、人間の子供がいないからか」
「そうですね、それは問題かも知れません……」
二人とも、リムルの危惧している点に思い至ったのだった。
これは、リムルが意図してそういう方向に行くように誘導したのである。
何故ならば、魔国に学校を作る計画に到った時に、シャルフューズの子供達を課外授業の一環として交流させる事を考えていたからだ。
シャルフューズには人間の子供もいるが、魔物とのハーフや亜人とのハーフもいれば、魔物の子供もいる。
そして、シャルフューズでは人間社会の常識と魔物社会での常識が上手く融合されていたのだ。
これは、人間社会や魔物社会に諜報員とし潜入する為に必要不可欠な事だとし、両方の常識を学ばせるといった、ツキハとコハクの考えであったのだ。
リムルの国にも、これからどんどんと冒険者や商人が増えて来るだろう。
そして、彼等の子息も学校に通う事になるだろうが、だがそれは、まだまだ数年は先の話になる。
だからリムルは、既にそれを実践しているシャルフューズの子供達の交流を望んだのだ。
この事を聞いた領主ノルベルト・フォン・リッケンバッカ公爵は快く承諾し、ツキハとコハクもこれに了承したのである。
傭兵公国シャルフューズの存在はいまだに機密事項であり、明かせないからこそユウキとクラウスに誤認情報をワザと与えたリムルだった。
「まあ、転移魔法もある事だし、最初はさこちらから通うって手もあるし、週に何度か預かるって手もある。それよりもまず第一に、子供達の意見も聞いて、どうしても俺の国で学びたいというのなら、そうした環境を整える事も辞さない。でもな、アイツ等にはそれだけじゃなくて、精霊についてもっと詳しく知ってもらった方がいいと思うんだよ」
子供達の命を守る為に、その身に精霊を宿させている。
その力を正しく使いこなそうとするならば、精霊について詳しく知る必要があるとリムルは考えたのだ。
そしてそれは、自分では教えてやれそうにはないと、自覚していた。
リムルのこの世界での知識は体感で覚えたもの。
仮に、
教授に至っては、恐らく却下される事はわかっているリムル。
一度、魔法知識を教えて、魔法術者を増やす事は出来ないかと、リムルは教授に問うた事があった。
返って来た答えは――
それでは経験が足りないから、同じ知識を持つ相手と戦ったら、経験の差で負けると教授は言ったのだ。単純に攻撃魔法を覚えて使えても、本来その過程にある覚えていくまでの魔法の応用や、情況によって使い分けるという
なまじ『
だから、地道にコツコツと魔法の術式を覚えていった者に対してのアドバンテージは、限りなく低いものになるのは目に見えている。
『
だからこそ、自分で知って使いこなさなければならない。
そこで必要になってくるのは、その道の達人であり、師なのだ。
そうするとリムルが思い出すのは、ヒナタや
精霊魔法と剣技を融合させたような、特殊な戦闘方法。
あの域にまで達する為には、それこそ地道な努力と精霊についての深い知識が必要であり、重ねていく経験が重要になっていく。
であるなら、それを出来る人物は……。
「精霊と言えば、
「うーん、俺もそれを考えたんだけどさ、ぶっちゃけヒナタって怖いじゃん?」
「あ、うん。まあね……」
「子供達から舐められる事はないだろうけど、逆に、凄い厳しくやり過ぎてしまうんじゃないかなって心配なんだよね……」
「そうだね……そう言われると、否定出来ないよね」
そう言って、リムルとユウキは顔を見合わせて、一つ溜息を吐いた。
とりあえず、この件は保留にしたリムル。
荷物を持った子供達の姿が見える。
せっかくのお祭りである。
楽しいひと時を過ごすのに、難しい話をしていても始まらないとリムルは考えた。
(まあ、あれだ。剣技のとかの指導はハクロウにまかせるとして、その後の事は、追い追い考えるとしよう。精霊についての座学は、ラミリスと教授にお願いしてもいいかもな。普通に教えるのなら教授も引き受けてくれるだろう。で、問題はアレなんだけど、やはりアレは、ツキハとコハクに相談するしかないな)
いつものようにそう考えたリムルは、サッと気持ちを切り替えて、アッサリと悩むのを
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