忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。164話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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164話 〝勇者〟マサユキ一行来訪

 

 

 

 リムル達はイングラシア王国の門を出て、暫く人目のない場所に進んでいく。

 

 そしてリムルは、辺りに人がいない事を確かめると、〝転移門〟を開いた。

 

 これは魔法ではないので、魔法陣が無くても発動出来るのだ。

 ユウキはそれを見て溜息を一つ吐き、何とも言えないような視線をリムルに送る。

 

 しかし、子供達は慣れたものだった。

 

「ほんともう先生にはこんな便利な力があるんだからさ、もっと沢山会いに来てくれよ!」

 

 と、不満を顔に表しながらケンヤが文句を言う。

 

 これはもっともな話なので、リムルは悪い悪いと謝りをいれる。

 

 だが実際、あれからリムルには色々な事が起きた。

 そんな暇はなかったし、子供達の安全の保障もなかったからだが、それを言って子供達を不安にさせる事を良しとしなかったリムルでもある。

 

 そんな訳でリムルは誤魔化しつつも、今後はもっと会いに行くからと、子供達と約束をした。

 

 こうして魔国連邦(テンペスト)に着いたリムルは、ユウキと子供達を自慢の旅館に案内する。

 

 ここは、各国の王侯貴族が滞在する区画とは別の、プライベートエリアにある幹部用施設及び公式ではないが、ルヴナン関係者の施設も併設されている区画である。

 

 リムルは、ユウキが部屋に向かうのを見送ってから、子供達に向き直った。

 

「悪いけど、俺にはまだまだ仕事が残っているんだ。だから、お前達と会えるのは夜だけになりそうなんだ」

「「「「「えー――ッ!?」」」」」

 

 子供達から大ブーイングが起こる。

 

「静かに!」

 

 そんな子供達をリムルは、懐から取り出したペンダントで黙らせた。

 

「俺からの提案だけど。これを使ってゲームをしようと思うんだ――」

 

 リムルがそう言うなり、子供達が黙り目の色が変わった。

 不満の色が完全に消え去り、興味津々何が起こるの? という様子で、リムルの言葉を待つ子供達である。

 

 それを確かめたリムルは、説明を始めていく。

 

「これはね、明日からのお祭りで出される露店の、フリーパスチケットとなっている。でだ、コレを持っているだけで、どの店でも自由に飲み食い出来る訳だ。そして、どのイベント会場にも出入り出来るようになる。あ、そうそう、ギャンブル会場だけは、未成年者は出入り禁止だから気を付けるように。それとだ、金額の上限値がコレには設定されている。金額の上限は銀貨百枚分だ。これを使い切ったら、ゲームオーバー。その時点で部屋に戻り、罰としての宿題が待っているからな。お前達がちゃんと勉強していたならば、十分に三日間を楽しめるだろう。どうだやるか?」

 

 リムルは最初から、祭り期間中は子供達の面倒をほぼみられないのはわかっていたので、対策を考えていたのだ。

 

 祭りと言えば、お小遣い。

 

 そして、子供達に取って自由行動が何よりの楽しみだろう。  

 

 この街中ならば、ソウエイの配下達とルヴナン眷属達の目が光っているし、全員が個別に自由行動を取ったとしても、密かに見守ってくれる手筈(てはず)になっている。

 

 なので、子供達に何の気兼ねもなく楽しんでもらえるという寸法であった。

 

 金額としては破格の銀貨百枚だが、露店の出し物は銀貨一枚もしないものが大半なので、三日で使い切るのは難しいだろう。

 

 ゲームとは名ばかりで、単なる口実であり、リムルからの御褒美なのだった。

 

「やるわ!」

「珍しいものが沢山ありそうだし、楽しみだね剣ちゃん!」

「ああっ、楽しみだぜ!」

「先生、ありがとうございます」

「えっとね、先生にも何かプレゼントを買うね!」

 

 子供達はリムルの案に乗ってきた。

 明日からの祭りを楽しむ気になったようだ。

 

 リムルは子供達にペンダントを手渡していき、一人に一人に優しく頷き返す。

 

 そしてリムルはふと、ラミリスがこの街に住んでいる事を教えようかと思ったが、それは()めておいた。

 

 どの道、祭りが終わった後で合わせる予定だし慌てなくても良いと、思うリムルだった。

 

 後は、旅館の女中が面倒を見てくれる事になっている。

 

「それじゃあお前達、何か用事があったら、この宿の女中さんにいいなさい。ないとは思うけど、どうしても俺と連絡をしたい時は、そのペンダントを握りしめて念じればいい。メッセージの魔法が発動するから」

「「「「「わかった!」」」」」

 

 リムルの言葉に、元気のいい返事を返す子供達。

 

 そうして、子供達は明日はどうするか? で、ワイワイと話を始めていった。

 

 リムルは、そんな子供達を見ながら、邪魔にならない様そっと部屋から出て行くのだった。

 

 

 これで、リムルのすべき用事は全て終わった。

 

 前夜祭までは少し時間があるので、夜に備えて自室で一休みしようしたリムルだったが……。

 

 自室に戻ったと同時に、ある来訪者の報告が上がってきた。

 

「――リムル様、〝勇者〟マサユキ一行が、街の外に到着したようです」

 

 音も無く現れたソウエイがリムルの前に(ひざまず)き、そう報告をする。

 

(勇者ねぇ。さてさて、どんな野郎なのやら)

 

 リムルはそんな事を考えつつ、ソウエイに警備の任務に戻るよう伝えると、マサユキを一行を出迎えに向かう。

 

 大型の荷馬車に、〝奴隷商会オルトロス〟に囚われていて、〝勇者〟マサユキに救出された数名のエルフが見えた。

 

 これは、ルヴナンからの情報と一致したので、リムルはどこか安心する。

 

 そして、その馬車とは別の小型の(ほろ)馬車に、金髪の少年が乗っていて、御者台には座っているが、手綱を引くのはモヒカン頭の屈曲な体をした男だった。

 

(あの金髪の少年が、〝勇者〟マサユキかな? 日本人の面影はあるけど、どこか線が細くて異国風の顔立ちにも見えるな。あれか? ジャニ系というのか? 切れ長の目はくっきりとした二重に、少し童顔っぽいか、な。見た目には強そうではないけど、ツキハが言っていたな。集団操作系の能力(スキル)を持ってるらしいから、気を付けろと……。うーむ、間違いなく〝異世界人〟だけど、微弱ながら『英雄覇気』を放ってるな。うん、これは、油断しないようにしよう)

 

 リムルは気を引き締めて、マサユキへと視線を向けた。

 

 すると一行は、出迎えたリムルに気付き、ゆっくりとリムルの前まで来て、そして止まった。

 

「貴様が魔王リムルか? わざわざ俺達を出迎えてくれるとはな」

「マサユキ様は偉大なる勇者。魔王とて無視出来ぬのは当然でしょう」

「ふふふ、マサユキ君どうします? この場で雌雄を決しますか?」

 

 いきなりの言いたい放題のマサユキの仲間である。

 

(おいおい、エルフ達を助けてくれたのは感謝だが、ここまで言われる筋合いはないぞ)

 

 リムルがそんな事を思っていると、ツキハから『思念伝達』が飛んで来た。

 

『ねえ。人知れずに、()る?』

 

 と、〝お始末(暗殺)〟宣言をして来たのだ

 

『え? いや、それは無しだ』

『じゃあ、仲間だけでもコッソリ始末する?』

『ちょ、ちょっと待て。お前はどこをどうすれば、その発想にいきつくんだよ!』

『えぇー、それあたしに言う? ま、半分冗談だから気にすんな』

『はあ、もうお前と来たら……。アイツさ、そんなにヤバいのか?』

『今のところは問題ないよ。でも――』

『でも?』

『あの少年がもしもだよ? 何かのきっかけで覚醒したら、その時は相当厄介な相手にはなるだろうねぇ』

『そうか……』

 

 ツキハの言葉がどことなく殺気を漂わせた感じに聞こえたリムル。

 

(ツキハとかコハクのこういう時の勘て、何かある時が多いんだよな。でも今は、せっかくヒナタ達とも和解して、無害で有益な魔王だと喧伝(けんでん)している最中だし、その努力を今更無駄にするのは無しだ。でも、ツキハの言葉も頭の片隅には残しておかないとな) 

 

 とりあえずここは、我慢だと決めたリムルであった。

 

 ツキハに『思念伝達』で『とりあえずは様子見をしよう』と言い、それにツキハも頷き、『空間迷彩』をかけてこの場に潜み警戒するからと言い残した。

 

 その時にツキハは、『空間迷彩』で隠した姿をリムルにだけ見えるように調整して、気配を偽り隠しマサユキ一行の後ろに回る。

 

「いやいや、手厳しいね勇者の御一行は。俺の民となったエルフ達を救ってくれた事に感謝し、この街の滞在を許可するよ。何なら滞在用の屋敷も用意するから、好きなだけいてくれても構わない。だけどさ、ここで雌雄を決するなんて気はないからな?」

 

 周囲には商人達に冒険者や旅人などの目があるので、リムルはなるべく下手に出る事にした。

 

 しかし、それに対する反応は(かんば)しくない。

 

「ハハッ、やはり魔王はマサユキさんを恐れているようだぜ」

 

 御者をしていたモヒカン頭の男が、猛烈に笑いながらリムルを見下ように吠える。

 

 リムルにはその時、微かに見えるツキハの顔の笑みが深まったように見えた。

 

(おい、お前黙れよ! ヤバいって、いきなり死んでも知らねえぞ!)

 

 リムルの心の声が炸裂する。

 

「我々人類との友好を望むとの事ですが、どこまで信用出来るものやら。ファルムス王国の滅亡を画策したのは、魔王である貴方だと噂がある。聖人ヒナタは上手く騙せたかも知れませんが、マサユキ君を同じように考えてもらっては困ります」

 

 聞く耳を持たぬとはこの事。

 

 とうとう、ツキハが〝妖刀時雨(しぐれ)〟を取り出し、にこやかに鯉口(こいくち)を切っているのがリムルに見えた。

 

(何してるのツキハさん? 仕舞って! それ、仕舞って!!)

 

 リムル、心の悲鳴。

 

(どうあっても、俺を悪者に仕立て上げたいと見えるな。しかしどこか、違和感というか疑問があるような……。そうだ、勇者本人が無言を貫いている点だ。んー、何か本人が言おうとしてるより先に、仲間達が先に発言してるか、これ。何か、仲間というより従者という感じだね)

 

 マサユキ本人を見ると、どこか困惑しているような感じを受けたリムル。

 

「フンッ! 邪悪討つべし、です。マサユキ様、さっさとあの魔王を倒して、この地に平和を――」

 

(いや、だからね? この地は平和なんですよ。うん――ってツキハさん! 何(やいば)を抜いちゃってるんですか!! 仕舞って、早く仕舞いなさい、その物騒なもん!)

 

 ニコニコとしながらツキハは、抜いた時雨の刃を上にして右肩に載せ、ニィーッと口端を上げる。

 

 流石に魔物、現魔王であるリムルに対しての暴言はいき過ぎとみて、斬る気満々のご様子。

 今この場にソウエイがいなかったのは、僥倖(ぎょうこう)であると言えよう。

 

 もしもいたのならば、二人揃って、斬ろう! と言いかねない状況であったのだから。

 

 周囲にいる商人達や冒険者達は困惑気味である。

 

(どうしよう……。このまま放置は不味い気がする。かといって、この場で戦う訳にもいかないし……既にツキハが刀を抜いてるんで、確実に死人が出るのは避けられない。あぁーもう! どうすればこの場を丸く収められるんだ?) 

 

 リムルがそう悩んでいると、そこに救いの手が舞い降りた。

 

「何をやっているんだい? 君達」

 

 着替えを済ませたユウキが、騒ぎを聞きつけてやって来たのだ。

 

「あ、ユウキさん!」

 

 その時初めて、マサユキが声を上げた。

 

 だが、従者達の反応は冷めたものだった。

 

「おう、これはこれはユウキさん。組合の総帥ともあろうお人が、わざわざ魔王の視察ですかい?」

「違うよ、ジンライ。君達、リムルさんは本当に、僕達との友好を求めているんだぜ? その証拠に、君達はまだ生きているじゃないか」

 

(へえ、あの大男がジンライというのか)

 

 リムルは、大男の名前を知った。

 

 ルヴナンからはマサユキの特徴などは知らされていたが、仲間達の詳細までは聞かされてはいなかった。

 

 これはリムルが、とりあえずこの情報を、今は買うまでも無いと判断したからである。

 しかし、ある程度までの情報をルヴナンは、リムルに流していたのだ。

 

 ユウキはジンライに、リムルがヒナタと引き分けたほどの強さだと話して、そしてマサユキ達にも、悪い魔王ではないと説明をした。

 

 それでも納得をしない三人の従者。

 

「どういう意味ですか? その説明では、マサユキ君が聖人ヒナタより弱いと聞こえますけど?」

「舐めないでもらいたい。魔王如き、マサユキ様の敵ではない。いくら総帥といえども、マサユキ様を侮辱するのは許さない!!」

「おう、ユウキさんよ。バーニィやジウの言う通り、マサユキさんを馬鹿にするのは許さんぜ? ヒナタがどれだけ強いのか知らんが、そこの魔王と引き分けた程度の腕ってこった。ならばよう、次は真打の登場ってこったろ? マサユキさんがよう、そこの魔王を軽く捻ってくれるさ!」

 

 当の本人であるマサユキは終始無言だが、そんな過激な従者の反応を見て、困ったような表情を浮かべていた。

 

 そして、ツキハの笑みが更に深まったのを見たリムルは、一瞬だけ鋭い殺気を感じ取った。

 

(え? 何だ今一瞬だけ感じた殺気、は、どこからだ?)

 

 リムルは『万能感知』で周囲を見渡して見た。

 

 すると、リムルの左後ろの数十メートル先に二匹の魔猫がこちらを見ていた。

 一匹は真っ白な長毛の大きな魔猫で、もう一匹は、茶トラの魔猫である。

 

(はい!? アイツ、ロモコとロロロオ呼んでるじゃねえかあ!! いつの間に呼んだんだよ。マジに()る気なのか? アカン、これは非常に不味い。コハク、コハクは何で来てないんだよ!)

 

 唯一のストッパーであるコハクがいない。

 リムルは焦りながらも『思念伝達』をコハクに飛ばすが、何故か応答がなかった。

 

(ふあ!? 繋がらねえ! どこ行ったんだよコハクのヤツは!)

 

 そうコハクは今、夜に向けて、とある超大物に会いに出かけていたのだ。

 

 そしてユウキも、まあまあとジンライを(なだ)めていたその時――

 

 ツキハの『思念伝達』が、ユウキに飛ばされて来た。

 

『よお、総帥。元気だったかぁ』

『な!? これはこれは、番外魔王ツキハじゃないですか。もしかして、今ここの近くにいるとか?』

『いるぞぉ。この馬鹿大男の後ろにな。くひっ』

 

 『空間迷彩』を解除したツキハが、ジンライの後ろに立ち、真っ直ぐに伸ばした時雨の切っ先を背中に触れるか触れないかのところで、ニヤニヤしながら止めていたのだ。

 

 姿は見せても、気配を偽り隠しているので、周りにいる者全てが、ツキハの存在に気付いてはいなかったのだ。

 

『なあ、コイツさぁ、()っちゃっても、いいよな?』

『はああぁ!? ち、ちょ、ちょーーっと待ってぇッ!!』

 

 ニヤニヤした笑みを突如消して、スーッと鋭い目付きになったツキハを見て、慌てて待ったをかけたユウキ。

 

 ツキハが『思考加速』をかけた『思念伝達』を送って来ていたので、考える時間はあったが、それを表情には出さずに平然と構える事に(つと)めるユウキだった。

 

 ユウキはツキハの今の言動が、冗談ではないのをよく知っている。

 ()るという言葉を吐いた今、選択肢は二つ。

 

 全力で止めるか、傍観するである。

 

 そして、ユウキの取った行動は……。

 

 

『番外魔王ツキハ。本当に殺すのは、待ってくれないか? 僕がこの場を何とか丸く収めるから、頼むよ、僕に任せてくれないかな?』

『ふーん。出来るの?』

『ああ、任せてくれ、出来るさ!』

『そう。なら任せるよ。でも、これ以上リムルに対する舐めた真似をしたら、()るからね。後、ヒナタはあたしが認めた剣士だ。次ヒナタを侮辱したら、問答無用で首を飛ばす!』

『ああ、わかった。約束しよう、番外魔王ツキハ!』

 

 ユウキがそう返事をすると、今まで見えていたツキハの姿が、もう消えていた。

 

 しかしユウキは、(確実に近くにいるな)と思う。

 そう、言い様のない不気味な気配が、ユウキの首筋を撫でていたから……。

 

 そしてユウキは、ジンライ達を(なだ)めにかかる。

 

「なあ、落ち着けって。何度も言うけど、リムルさんは僕達と敵対はしていない。戦う意味がないんだ」

「しかしよう、そいつは魔王なんだぜ? しかも、番外魔王ともつるんでやがる。いつ悪事を働くかわかったもんじゃねえや。西方聖教会まで日和(ひよ)った今、マサユキさんが勇者の力を示しておくのが大事なんじゃねーのかい?」

「いや、だからさ――」

 

(それ以上は()めろって! 魔王リムルや番外魔王などを挑発するのは()めてくれないかッ!! マジに死ぬぞ、お前ら!!)

 

 ユウキは内心、ジンライを殴り飛ばして黙らせたい気分に襲われるが、そこをグッと我慢をして説得を続ける。

 

 何んとかこの場を収める妙案ないかと思考を巡らせるも、中々それに思い当たらない。

 

 ユウキが焦る中、リムルが先にそれに思い当たる。

 

「わかった。じゃあさ、君達に提案がある。明日からのお祭りで、武闘大会を開催する予定なんだ。それに出場して見事優勝したならば、君達からの挑戦を受けようじゃないか! 君達の強さを証明出来るし、文句はないだろう?」

 

 挑戦は受ける。しかしその前に、マサユキ達にも武闘大会に参加してもらい、そうすれば彼等の手の内もわかるかも知れないし、自分が戦うまでもないのではないかと考えたリムルであった。

 

「そうだね。その武闘大会で戦うのもありなんじゃないかな?」 

 

 直ぐさまに、ユウキが援護の言葉を送る。

 

(ナイスだ、リムルさん! これで何とか丸く収まりそうだね)

 

 ホッと胸を撫でおろすユウキだった。

 

 

「ほう? 公衆の面前で恥をかきたいってか?」

「マサユキ君、どうします?」

「その提案を受けるべき。マサユキ様の名を一気に広める為にも、守るべき民草の前で正義を示すとしましょう!」

「あ、うん。そうだね……」

 

 やる気に燃える従者をよそに、マサユキは困ったように視線を彷徨(さまよ)わせる。

 

(大丈夫かコイツ? まさかとは思うけど、ただのハッタリ小僧じゃないだろうな……) 

 

 どうにも煮え切らないマサユキを見て、リムルはふとそんな事を考えた。

 

 だがしかしマサユキは、覚悟を決めたようだった。

 

「仕方ない。その提案を受けますよ」

 

 それを聞いたリムルは、、俺の考え過ぎだったか? と考えを改めた。

 

 マサユキは少し思案の後、リムルの提案を受け入れたのだ。

 

 こうしてマサユキ達は、いくつか明日の武闘大会の事についてリムルに尋ねてその後は、リムルに教えられた宿に向かう為にその場を去って行った。

 

 そして同時に、ツキハもそこからいつの間にか消えていた。

 

 

 その場に残ったリムルとユウキは、やれやれといった顔を見合わせて、苦笑いを浮かべ合う。

 

「リムルさん、まさか本気でマサユキ君と戦ったりしないよね?」

「うーん、どうだろう? それ以前にさ、アイツ優勝出来ると思う?」

「優勝ねぇ……。それこそ僕も知りたいところだよ。イングラシア王国で開催されている武闘大会では、マサユキ君が連覇してるんだよ。実際、彼が魔物との戦いで負けたいう話も聞いた事がないし、その実力は、本当のところ未知数なんだよね……(どうやら番外魔王ツキハは去ってくれたか)」

 

 ユウキはそう言って、小さく溜息を吐く。

 

 その顏には、番外魔王ツキハが大人しく去ってくれた安堵が現れていた。

 武闘大会の事は、とりあえずこの場は収まったので良しとしたユウキであった。

 

「ま、なるようになるさ。逆にさ、我が国の武闘大会に勇者が参加してくれて(はく)が付いたと、前向きに考えるとするよ」

 

 確かに面倒な事だとリムルは考えたが、魔王達との会談やヒナタとの決闘に比べれば、そこまで重く考える必要はないと思った。

 

 後で対策を考える必要はあるが、リムルは夜に備えて、さっさと気持ちを切り替えたのだった。

 

 

 

 

 ★★ 猫と風精人(ハイエルフ) ★★

 

 

 夕闇がジュラの大森林を包む頃。

 

 

 そこへ、夕闇の空を裂き、ジュラの大森林に巨大な影を落とし込みながら、優雅に飛び進む巨大な物体。

 

 それは、刻々と魔国連邦(テンペスト)に近付きつつあった。

 

 これは、魔導王朝サリオンが誇る、飛竜船であり、その飛竜船より更に巨大なサリオンの守護竜王が飛竜船を抱え飛んでいた。

 

 

 そして、飛竜船の中にある皇帝の私室に、ある魔物が来訪していたのだ。

 

「ねえ、コハクちゃん。貴女のもたらした情報を見ていると、本当に面白い魔王よねぇ」

「せやろ? エル姐さん。これが生まれて三年余りの魔物とは思えへんでっしゃろ」

「しかも、アレを配下にしているとは、ねぇ。本当にアレは、大丈夫なのかしら?」

「問題あらへんで。アレはリムルにめっちゃ入れ込んでるさかい、今のところは大丈夫やろね」

「そう」

 

 エルメシアの私室で、繊細な装飾が凝らされた丸いテーブルを挟み、エルメシアとコハクが、これから訪れる魔国連邦(テンペスト)での護衛などを打ち合わせながら、お茶を楽しんでいた。

 

 護衛といっても、あくまでも魔法士団であるメイガスがその主力を(にな)う。

 

 コハクとツキハは、言わば影である。

 

 誰にも知られず気取られず、影に徹し、エルメシア個人を守る、影の守護者。

 

 この二人を出し抜けるのは、八星魔王(オクタグラム)クラスか、この世界最強の〝竜種〟くらいなので、ある意味現時点で最強の護衛ではあるのだが……。

 

 コハクとツキハと同じく闇に(しのぶ)モノ、正体不明でありながらそれを出来る者が、この世界にもう一人存在する。

 

 東の帝国の、影の者。

 

 その影は、今だにコハクとツキハに、正体を明かしてはいない。

 

 

 護衛の最終打ち合わせも終え、エルメシアとコハクは魔国連邦(テンペスト)に到着するまで、談笑を続けていった。

 

「そろそろ、魔国連邦(テンペスト)に着くかしらねぇ」

「せやねぇ。一時(二時間)はかからしまへんやろから、半時(一時間)と少々くらいやおまへんか?」

「そう。ふふ、ツキハちゃんが病み付きになるほどの料理とお酒が、楽しみだわねぇ」

「ふふふ。楽しみにしてなはれ。ほんまに、美味いさかい、びっくりしますで」

 

 二人して柔らかく笑い合い、コクリと飲み干したティーカップをソーサにカチャリと置く。

 

 皇帝エルメシア・エル・リュ・サリオン。

 

 古来から極悪非道と呼ばれる、番外魔王コハク、番外魔王ツキハと、禁断の契約を結んだ〝風精人(ハイエルフ)〟。

 

 皇帝エルメシアが望むものと、は?

 

 〝異世界人〟がもたらす知識に、技術?

 

 それとも……。

 

 

 だがしかし、一つだけ確かな事がある。

 

 

 スライムの魔人であり、魔王でもあるリムルが、これから起こそうとする事その全てに興味津々であり、何よりも、面白そうだと胸をワクワクさせて観察する事への楽しみ。

 

 そして、それがこの世界にどんな影響を及ぼすのか……?

 

 予想もつかない出来事が起こるであろう未来に――

 

 エルメシアの興味は尽きないので、あった。

 

 

 

 コハクちゃん 護衛はいつも通り よしなに

 

 

 へえ 任せなはれ エル姐さん

 

 

 それよりも ツキハちゃん遅いわねぇ

 

 

 もう少ししたら 来る()うてましたで

 

 

 そう でも久しぶりに その術を見たわね 進化してから 更に洗練されたモノになったとか ちょっと怖いわよ コハクちゃん 

 

 

 エル姐さんが怖いとか 何()うてますねん これ メリットも大きいんやけど デメリットもあるさかいな

 

 

 そうは言っても 十分に脅威だわよ 本当に貴女達ときたら 進化してからは 更に厄介さが増したわよねぇ……

 

 

 何をいまさらやで エル姐さん ふふふ

 

 

 そうだったわね うふふふ

 

 

 ほな うちは(・・・)いくさかい 後はこっちにな

 

 

 ええ では あちらとこちらで 

 

 

 

 そう言って、コハクは青白い魔素粒子を巻き上げ、『空間転移』していった。

 

 そして入れ替わるように、その場に新たな魔素粒子が巻き起こり、ツキハが現れた。

 

 

 漆黒の闇を切り裂きながら進む、守護竜王に(いだ)かれた飛竜船。

 

 遠くに見える魔国連邦(テンペスト)の街の明かりを目指して、優雅に突き進む。

 

 

 

 





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