忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。167話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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167話 〝最強の馬鹿〟なのだ

 

 

 騒然とする会場。

 

 そこへ、シオンが足早にリムルのところにやって来た。

 

「リムル様。ようやくお出でなさいましたね」

「ああ、来たようだな。遅れていたから心配したけど――」

「あれじゃね。遊び惚けてたのがバレて説教喰らってたとか?」

「「え?」」

 

 シオンに頷き返したと同時に、ツキハが不穏な事を口走る。

 リムルは迷宮の事がバレたのか? と思い、声を上げ、シオンは意味がわからず声を出す。

 

 ヨウムは面識があるので、それが誰か気付いたようだった。

 

「ああ、ミリムさんか。今日はめかし込んでるみたいだな」

 

 一度痛い目に合って以降、ヨウムはミリムに苦手意識を持っている、が。

 

 リムルもあの時の事を思い浮かべて、(魔王を相手に〝さん〟付けで名前を呼んだりとか出来ないと思うんだよ。ある意味凄いヤツだわ)と、内心そう思う。

 

「――なるほど、魔王達のお出ましか」

 

 ガゼルもミリム達を鋭く観察していて、ヨウムの一言でその正体を看破する。

 

 他にもガゼル同様に気付いた者が、大勢いた。

 

 それもそのはず。

 

 案内役として、ベニマル、ディアブロ、ゲルド、ガビルといった、リムル配下の幹部連中が四人も揃っていたのだから。

 

 流石のガゼルも、ミリムの一行を見て緊張を(あら)わにした。

 

 

 先頭に立つ、ミリム。

 

 その両脇に二人の従者が並ぶ。

 

 リムルの視線が、ミリム一行に(そそ)がれる。

 

禿頭(とくとう)の神官服の男――ベニマルが認めるほどの戦士であり、ツキハも褒めていたミッドレイという人物だな。で、この飄々(ひょうひょう)とした神官服の男――コイツがガビルと戦ったったというヘルメスって人か。コハクが言っていたな、見た目に騙されたらあかんで、と。コイツも、恐らく強い。後に続くのが、二人の元魔王であり、〝獅子王(ビーストマスター)〟カリオンと、〝天空女王(スカイクイーン)〟フレイ。

カリオンは相変わらず威風堂々だな。フレイさんは、扇情的なスカイブルーのドレスを身に纏い、とんでもなく色気を振りまいてらっしゃる)

 

 ミリム一行を見ながらリムルは、そんな事を考えていた。

 

 両者ともに元魔王だけあって、流石の貫禄である。

 

 カリオンの後ろには、三獣士が続く。

 そして、フレイの後ろに続くのは、〝双翼〟と呼ばれる金髪と銀髪の美しい女性。

 

 これが、ミリムを新王と戴く、超巨大勢力の支配者達だ。

 

 客人達の誰もが緊張を隠せない中、畳の間で三人だけ悠然と酒を楽しんでいる者がいた――

 皇帝エルメシアとその両横に座る、黒の守護者(ブラック・ガーディアン)の二人である。

 

 それで、真向かいに座るエラルドはいうと、やはり緊張の色は隠せないようであった。

 

 数ある客人の中で、この三人は別角なのであろう。

 

 

「それじゃあ、ちょっと俺も行ってくるわ」

 

 リムルは席を立つとそう言い残し、ミリム達を出迎えに行ったのだった。

 

 

 ミリムはリムルを見るなり、満面の笑みを見せ――

 

「ふふふ、ようやくこの日が来たのだ! 今日はミッドレイを唸らせるような、素晴らしい料理を期待しているぞ!」

 

 大きな声で、そういった。

 

「ああ、それは任せておけ。それよりもお前、怒られなかったのか?」

 

 と請け負ってからリムルは、ミリムに小声で聞いてみた。

 

 地下迷宮に入り浸って、フレイの目から逃れまくっていたミリム。

 一度は帰ったものの再び舞い戻って来て、一昨日までずっとこの街にいて、やっと帰ったかと思ったら昨日までツキハとコハクの家に無理やり転がり込んでいたのだ。

 

 そんなミリムの行動に、リムルもツキハもフレイにバレるのではと心配をしていたのだ。

 ハッキリ言えば、巻き込まれないかと心配していたのである。

 

「だ、大丈夫なのだ。ワタシも支配者としての自覚が出来たので、領土を守っていたのだと、フレイに力説して信じてもらったのだ」

 

 ミリムはフレイに納得をしてもらったと、小声でリムルに答えた。

 

 リムルとしてはそれを信じてやりたいが、ミリムが冷や汗を浮かべて目を泳がせている様子を見ると、そうもいかなかったのだ。

 

 そして、リムルから少し離れたところに立つツキハが、ジト目でミリムを見ていた。

 ミリムはその視線に気付くも、敢えて気付かない振りをする。

 

 フレイも、中々に勘が鋭い。

 

 ミリムが守っていたのは彼女の領土ではなく、リムルが割り当てた迷宮の階層である。

 

 もしもそれがバレたら、関係のないリムルまで怒られかねないし、ミリムの古き友人であるツキハも巻き込まれる可能性は大なのだ。

 

 だがしかし、リムルとツキハは思った――

 

 もしもの場合はミリムを切り捨ててでも、無関係であるという立場を死守しようと、リムルとツキハは無言でかたく頷き合うのであった。

 

 

「今日はお招き頂き、感謝しますわ。予定より遅れた事、深くお詫びします」

 

 ミリムとの会話が終わるのを待って、フレイがリムルに挨拶の言葉を述べた。

 

 そして続けてリムルと、少し離れたところにいるツキハを見て、探るように言う。

 ツキハに関しては、ミリムが口を滑らせないかと近くに来たのが(あだ)になる。

 

「私共の主となったミリム様が、今朝方まで行方不明でしたの。それで少し、礼服を合わせるのに時間を取られてしまいまして――」

「あ、あはは、そうだったんですね。いやいや、こちらとしては気にしていませんので、今日から数日の間、ゆっくりと楽しんで下さい(おい―っ、ツキハ、尻尾を振るんじゃねえ! バレるぞ、それ!)」

 

 見透かすようなその瞳から視線を逸らし、誤魔化すように挨拶を返しながら『万能感知』でツキハを見て、心の声を爆発させるリムル。

 

 本来のスライム状態ならば、動揺してもそれが表に現れる事はない。

 しかし今は人の姿を取っているので、視線の動きから本音がダダ漏れになる恐れがあるあった。

 

 勘が鋭い者を相手にするならば、決して目を合わせては駄目なのだと悟るリムル。

 

 かたやツキハは視線は合わせてはいないが、尻尾だけはワサワサと左右に動かしていたのだ。

 本来の忍びの〝お役目(お仕事)〟から外れると、途端に、残念猫娘になるツキハなのであった。

 

「――そうですわね。リムル様には新たな都市の建造まで甘えてしまっていますのに、このような場に招待までして頂くなんて、私、とても感謝しておりますのよ?」  

 

 微笑みながらフレイにそう言われて、リムルはついつい気が緩んでしまった。

 

 そしてあろう事か、ナチュラルに問題発言を繰り出してしまう。

 

「いやいや、今宵の料理もお口に合えばいいのですが。そうだ、苦手な食材とかありませんか? 鳥料理もあるのですが、問題は――」

 

 とそこまで口にしたところで、ようやくそれが失言だと気づいたリムル。

 

「鳥、ですか……」

 

 その場に、凍り付くような緊張感が漂う。

 

(鳥って、ああああああああぁッ! やっちまったか、俺ぇ!!)

 

 しまった――と思ったが、時すでに遅し。

 

「あ――」

「リムル様は、私が鳥風情と同じだと(おっしゃ)りたいのかしら?」

「え、ええっと、そんなつもりでは――」

 

 笑顔のままのフレイ。

 

 殺気立ち、リムルを睨む〝双翼〟の二人。

 

 〝口は(わざわい)の元〟というが、今のリムルはまさにそれであった。

 

(ああああ、どうするよ、これ? どうするんだよぉ――ッ、俺!)

 

 リムルが困ったぞ、と頭を悩ませているその時。

 

「ぶふっ、ぶわっはっはっは! スゲー、スゲーなリムルさんは。やっぱりお前は凄いヤツだぜ。まさかフレイを鳥呼ばわりするとは、こりゃあ傑作だな」

 

 まるで空気を読まず、カリオンが爆笑したのである。

 

 そしてこういう時に、空気を読まないヤツが、もう一人。

 

「ぷはぁっ、うひゃひゃひゃ―ッ。フレイを鳥ってぇ、流石にそれド直球過ぎるんじゃないリムル。あれか、フレイだけに、フライドチキンってか? わはははは」

「お!? ツキハ、上手いこというじゃねえか。うわははは、あれだな、流石は年の功ってやつか?」

「うっせえカリオン! 年の功は余計だっつーの」

 

 カリオンに続きツキハが爆笑して、二人の笑い声が盛大に、会場に響き渡っていた。

 

「うむ。ワタシにも真似が出来ないのだ。で、やっぱりツキハは、〝最強の馬鹿〟なのだ」

 

 ミリムまでそんな風に感心する始末。

 

(やめろ、俺をキラキラした目で見るんじゃないミリム)

 

「何が可笑(おか)しいのかしら? カリオン? それにツキハとミリムも」

 

 フレイ、御立腹の様子。

 

(うん、これはどう考えても俺が悪い)

 

「いや、失礼。今のは失言でした。もしかしたら鳥料理が苦手なのではと、要らぬ気を回してしまいました」

 

 こういう場合は、素直に謝罪をするに限ると判断したリムル。

 変に意地を張ると、余計に揉める原因にもないりかねないのだ。

 

 だからリムルは、皆の前であるのも気にせずに頭を下げたのだった。

 

 するとフレイは、驚いたようにリムルを見る。

 

「フフッ、流石はリムル様。私の見込み通りの人物のようですわね。私を侮辱するつもりはないと気付いておりましたが、貴方の反応を少し試させてもらったのです。でも、これで良くわかりましたわ。ミリム様は、貴方を見て成長なされているのだ、と。もっとも、そのキッカケを作った本人が、アソコにいるのですけど」

 

 そう言ってフレイは、今度こそ本当に穏やかな笑みを見せた。

 

 ミリムが暴君だったのは、昔の話。

 

 ツキハとコハクと出会い、そしてリムルと出会った。

 

 ツキハ、コハクと遊ぶ中、千年以上の月日が流れ、ミリムの心情に変化をもたらし――

 そこにリムルと出会い、更なる心の成長をもたらしたのだろう。

 

 余談だが、クレイマンより先に、ミリムにリムルの存在を教えたのはツキハであり、後にクレイマンとの(たくら)みの中でミリムがリムルのところへ出向いたのが始まりでもあったのだ。

 

 今はこれでも、かなり人の話に耳を傾けるようにはなったようである。

 

 これはリムルのところに行き出して顕著に現れ始め、その原因はリムルにあると考え、敢えて試した行動であった。

 

 そしてどうやら、リムルの態度をミリムへの手本とさせるつもりだったようなのだ

 

 これに関しては、ツキハとコハクは手本にはならない。

 むしろ、この二人は、ミリムの暴走を止める防波堤のような関係だと考えていた。

 

 事実、暴走が過ぎると二人が怒り、暫くは遊んでくれなくなるので、自然に過度な暴走行為を慎むようになっていたミリムだった。これに関しては、もろに暴走の被害を二人が受けるので、ある意味仕方のない事だともいえる。

 

 古い付き合いだからこそ、遠慮のないつき合いが出来る。そんなミリムにツキハとコハク。

 ミリムの本当の目的は二人を監視する事なのだが、ギィの思惑すらも飛び越えた関係を築くのは、ミリムならではと、いったところかも知れない。

 

(そうか。俺の行動をミリムが真似る以上、フレイからすれば俺を試したくなるのも当然か。ミリムの悪い手本となるなら、俺との付き合いを制限するつもりだったんだろうか? まあ、直ぐに頭を下げたのは正解だった。いやいや、ちょっとフレイの事見直したぞ。怖いだけのお姉さんかと思っていたけど、ちゃんとミリムの事考えてくれてたんだな。でだ、悪い手本はというと……)

 

「ところで、カーリーオーン―ッ? それに、ツーキーハ―ッ? 何が可笑しいのかしら? 私にもわかるように、ハッキリと説明して下さる?」

 

 大木が裂けるようなメキッと音がするほどの圧力が、カリオンの頭部に加えられた。

 電光石火の(ごと)く振り向いたフレイが、そのしなやかな右手でカリオンの頭部を鷲掴(わしづか)みにしたのだ。

 

 そして、ミリムに向けてフレイは、笑い言う。

 

「ミーリーム―ッ?」

「わ、わかったのだ!」

 

 慌ててそう返事をしたミリムは、タタッとツキハに駆け寄るとムンズとツキハの襟首(えりくび)(つか)み、フレイに向かって勢い良く放り投げた。

 

「はうあ!?」

 

 ベギッと音が鳴るほどの力で、ツキハの頭部を左手でキャッチしたフレイ。

 

 筋力ならば、カリオンが上回る。ツキハは未知数。

 しかしながら握力だけは、フレイの方がカリオンより遥かに凌駕していたのだ。

 ちなみに、これに関してもツキハは未知数である。

 

「ちょ、ちょっと待って! 痛ッ、イテテテテ、痛いって、マジで!!」

「ああーッ! 刺さってる、刺さってるって! やめ、やめ、アダダダダダ―ッ!!」

 

 痛さのあまり、叫ぶカリオンにツキハ。

 

 指先から肘までを硬質化したフレイ。

 

 その指は鋼鉄よりも硬い爪刃(そうじん)と化し、一回り大きくなってカリオンとツキハの頭部に食い込んでいた。

 

「そりゃあ、痛かろう」

 

 フレイの爪から逃れようとジタバタする二人を見て、ポソリと呟くリムル。

 

「ヤバイ、これ以上はヤバイって、マジでシャレになんねえぞ! 悪かった、俺様が悪かったから、許してくれって!!」

「ごめ、ごめんって! カリオンが先に言ったから悪いんだよ! あたしは釣られただけだって! 勘弁してなのよぉーッ!!」

「テメエ、何言ってんだ! お前は、俺様より酷いこと言ったじゃねえかあ!!」

「やっかましーわっ! 先に鳥呼ばわりしたのはアンタじゃんよッ!!」

 

 ベギギッ!

 

「「ア、アダダダダダァッ!!」」

 

 二人して罪のなすり付け合いをしていると、フレイが更に爪の圧力を増していく。

 

 そして、自分達の主であるカリオンが悲鳴を上げているのに、三獣士は動こうとしない。

 フォビオだけがカリオンを心配してソワソワしているが、アルビスもスフィアも呆れたように眺めるのみである。

 

 コハクに至っては、ジタバタ暴れるツキハの小袖の(すそ)が乱れて、生足が見え隠れするシチュエーションに満面の笑みを浮かべ上げ、「アホやな」と笑い捨てる。

 

 それを見ていたリムルは。

 

(まあ、何のかんのいって、カリオンには余裕がありそうだし、ツキハのヤツも同様だな。俺と違って反省もしていないようだし、どうみても自業自得だよなぁ)

 

と、(いまし)めを込めてそう思うリムルであった。

 

 

「ミリム、見たか? 悪い事をしたら謝る、これが正しい選択だからな?」

「あれか、ツキハみたいに、ふんぞり返って謝っては駄目なのだな?」

「そう、駄目だ」

「うむ、わかったのだ」

 

 ミリムもリムルが言わんとした事を、きちんと理解したみたいである。

 

「ちょっと、おい! おいって! 暢気(のんき)な事を言ってないで、俺様を助けろって!!」

「いや、カリオンなどほっとけ! あたしを助けて! 幼気(いたいけ)なニャンコ娘が虐待されているのよ!」

「はああッ!? どの口が言うんだ、この太古から生きている老獪(ろうかい)アホ猫があッ!!」

「テメエ! ぶっ殺すぞ、カリオン!! あたしはな、永遠の十七歳の、ニャンコちゃんだ!!」

 

 とまあ、こんな具合に馬鹿な(ののし)り合いを繰り広げる、カリオンとツキハ。

 

 そして、必死で爪から逃れようとするカリオンとツキハを反面教師として、リムルとミリムは頷き合った。

 

「おい、無視すんなって。イ、痛ッ、イダダダダ――」

「き、聞けよ、助け、ダ、アダダダダ――」

 

 だんだん聞こえなくなる、カリオンとツキハの声。

 

 

 リムルとミリムは、君の犠牲は忘れないと思いつつ、フレイの怒りが鎮まるのを待つのだった。

 

 

 さて、こんなハプニングの合間にも宴は進んでいく。

 

 ミリム達も畳の間の方へと向かい、皆がそれぞれの丸いテーブルへと座って行った。

 

「じゃあ、あたしは部外者だから行くよ」

 

 そう言って、ミリム達から離れようとする、フレイから解放されたツキハ。

 

 すると、ミリムがツキハの小袖の(たもと)を掴み、無言で引き留める。

 

「え? 何してんの、ミリム?」

 

 (いぶか)しげにミリムに聞くツキハだが、ミリムはツキハを見て、ある方向にいる者も見た。

 

「どこ見てんの……!?」

 

 そう、ツキハは気付いた――ミリムが見ていたのは、皇帝エルメシアの両隣に座る、黒の守護者(ブラック・ガーディアン)だと。

 

 交互にツキハと黒の守護者(ブラック・ガーディアン)を見るミリム。

 

 そして。

 

「なあ、ツキハ、あれは、ムググッ――」

 

 咄嗟にミリムの口を押え小脇に抱えると、ツキハは(すそ)が乱れるのもお構いなしの猛ダッシュでその場から離れて行った。

 

 リムル達は、また二人で遊んでるとしか思っていなくて、とりあえず料理が運ばれて来るのを待つのだった。

 

「ミリム、今何を思った?」

 

 リムル達から離れ誰もいないテーブルまで来て、ミリムを畳に座らせると『空間遮断結界』で自分とミリムを包み、真剣な表情で問うツキハ。

 

 これで周りには、ツキハ達の声は一切聞こえない。

 

「うむ。あれは、お前達が使う忍魔術の幻遁(げんとん)影分身、『月影』だな? 久しぶりに見たのだ」

「マジか、何でアレを見抜けるのよ……。そうだよ、リムル達でさえ気付かないのに、何でアンタはこうも勘が超鋭いんかなぁ。アンタの勘の良さはさ、マジで神がかってるわよ……」

 

 あっけらかんと答えるミリムに、短い溜息を吐きつつ項垂(うなだ)れるツキハ。

 

「ん? 友達を見間違えるなど、ワタシはしないぞ?」

「はいはい。アンタの無自覚なそういうところは、ほんと、怖いわ」

「そういうツキハも、大概だと思うぞ?」

「そう?」

「そうなのだ」

 

 二人は顔を見合わせてそう言うと、何故かクスクスと笑い出してしまう。

 

「でね、その事だけど――」

「わかっているのだ。秘密の仕事だな?」

「そう。これは、ルヴナンの極秘任務なんだよ」

「うむ、絶対にバラさないのだ!」

「うん、そうしてくれると助かる」

 

 素直にツキハのお願いを聞くミリム。

 

(本当に、ツキハとコハクは気付いてはいないのだな。ワタシが感じたアレは――分身体ではなく、『並列存在』ではないか? まだまだ制度は甘いのだが、〝意識の分割化〟を完全に使いこなせていないのか? 嫌な予感がするのだ。もしかして、アレ(・・)が目覚めかけているのでは……?)

 

 にこやかに話すミリムは、それとは裏腹に、ギィから聞いていたある懸念を思い浮かべた。

 

 この『並列存在』とは、後に、凶悪(きわ)まりない権能だとわかる。

 そう――東の帝国に存在する〝竜種〟によって、それは証明される事になるのだから……。

 

 皇帝エルメシアを守る黒の守護者(ブラック・ガーディアン)は、幻遁影分身で生み出した、もう一人のツキハとコハクだったのだ。

 

 

 ツキハの秘密のお仕事を、誰にも言わないと固く約束したミリムは、ツキハに一緒に料理を食べようと言い、強引にツキハの手を引っ張って皆のところへと戻って行った。

 

 

 リムル達が陣取った席では、カリオンが愚痴をかましていた。

 

「酷いぜ、リムルさん。あれだけ助けくれって頼んだのによ。ミリムはツキハと離れたところで、何かコソコソ話してるし」 

 

 そう文句を言うのは、同じくフレイから解放されたカリオン。

 

「無事だったんだし、文句を言うな!」

「そうそう。生きてんだから、いいじゃん」

 

 戻って来たミリムとツキハが、カリオンの後ろから言い放つ。

 

「そうだよ。フレイさんだって本気じゃなかっただから、あの程度ならどうって事ないだろ?」

 

 カリオンがピンピンしているのを見てリムルは、心配せずにそう言った。

 ところが、思ったよりもヤバイという事実をカリオンが話す。

 

「そうでもないぜ? フレイの爪で頭を掴まれた瞬間から、能力(スキル)が使えなくなっちまった。お前もそうだろ、ツキハ?」

「だね。ありゃあ、ビックリしたわ」

 

 カリオンとツキハは腕を組みながら、うんうんと頷く。

 

「多分だが、あれがフレイの特殊能力だろうな。それを俺様に使ってくれるなんて、こりゃあ愛ってヤツに間違いねーぜ」

「いや、それはない。あたしも頭を掴まれてたんだぞ」

 

 カリオンのトンデモ発言に、即否定の言葉を投げつけるツキハ。

 

「うっせーッ! お前はフレイに怒られてただけだ!」

「はいはい、妄想大きなニャンコ王は、黙ろうねぇ」

「何だとー! テメエ、表に出ろや! 今日こそ、勝負をつけてやるぜ!」

「良いよぉ~。ボッコボコに、してやんよ!」

 

 リムルはそんな不毛な言い合いを見ながら(それ、ツキハが正解だから)と思うも、口には出さなかった。

 

「また始まった。良く飽きないわよねえ、この二人……」

 

 完全に呆れたフレイが、そう呟く。

 

 フレイが言うには、顔を合わせる度に最後には、こんな馬鹿な言い合いから始まり、手合わせと称した喧嘩が始まると、頬に手を当て困った顔で話した。

 

 カリオンにしてみれば、昔から中々勝負をしてくれないツキハに対して、ワザと暴言を吐き挑発をするといった行為をしていた。当然ツキハもわかっていて、その挑発に乗っていたのだ。

 

 これがいつしか、お約束のように繰り広げられる事になったのであった。

 

 そして、本当に表に出て行きそうになったカリオンとツキハ。

 すかさずミリムの鉄拳制裁が、それを止める。

 

 二人して涙目で頭を抱えている中。

 

 

「さあ、追加の料理が出来ましたよ」

 

 と、爽やかな声でシュナが、様々な料理を運んで来たのであった。

 

 

 





 この作品を読んで頂きありがとうございます!

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