忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。十七話です








17話 Echo(エコー

 

 

 あれから、三日経った深夜。

 

 

 

 もの凄い勢いで街道を飛ばす馬車が、一台。

 

 その傍らを二匹の〝忍魔猫〟が『空間迷彩』で付き従い、その馬車を魂の回廊から通じる『猫騙し』の能力で存在を隠蔽し、隠密行動で護衛していた。

 女一人男二人が馬車に乗っていたが、〝忍魔猫〟の存在には全く気付いてはいなかった。

 

 

 中央広場のリムルは、三日間ずっとこの場にいた。

 

 そのリムルは片膝を付き、シオンの顔に残ってる血の跡を指でそっとなぞり、血の跡を消していく。

 

 この広場に横たわっている、全ての魔物達に残っている血の跡を綺麗に消していき。

 最後にシオンの所に来て、体に残る血の跡を綺麗に消していた。

 

 シオンの綺麗な一本角は、全体の三分の一程を残して折れていた。

 その折れた部分にそっと手を当て、しばらくして立ち上がり、夜空を見上げる。

 

 雲一つない満月の光が、リムルにはやけに眩しく感じていた。

 

 もう、お前の陽気な声は、聞けないんだな――

 いつものように、馬鹿やってさ、クソ不味い料理を作ってくれよ 

 

 お前がいないと……調子狂うんだよ――

 もう、お前は……いないんだ、な……。

 

 ここに眠る皆は、俺が守らなければいけなかったんだ――

 人間が言う悪しき魔物では、ないんだ。

 

 感情を持たない魔物じゃない――

 皆家族であったり、友人であったり繋がりを持つ者なんだ。

 

 人間と同じ感情を持つんだよ――

 泣いたり、笑ったり、怒ったり、悲しんだり、するんだよ魔物であっても。

 

 俺の家族同然に大切な仲間――

 また皆で、楽しく暮らしたい……。

 

 

 でも、それは叶わぬ望みなんだよな。

 

 一番近くにいて――

 今は……一番遠い……俺の仲間達……なあ、シオン。

 

 ――死んだ者が、生き返る事はないんだから。

 

 自問自答しながら、リムルは夜空を見上げたまま……。

 

 理不尽に殺された仲間の為に自分が何をすべきか、何を背負わなければいけないのか。

 自分がすべき〝覚悟〟とは何か? それを静かに考えていた。

 

 その時。

 

《告。周囲を覆う複合結界及び大魔法:魔法不能領域の『解析鑑定』終了致しました。複合結界の解除は困難ですが、大魔法は解除可能です。実行しますか? Yes/No》

 

『いや、まだ実行しなくていい』

 

 『大賢者』に実行させていた『解析鑑定』終了の報告を受けたリムルは、大魔法解除の実行を保留した。

 

 それと同時に先程から『粘鋼糸』を通じてソウエイから、『思念伝達』が届いていたのに気付く。

 

『スマン、気付かなかった』

『――ッ!! 御無事でしたか、安堵致しました』

 

 ソウエイの心の底から安堵した声を聞き、リムルはこのままでは皆に心配を掛けてしまうと悟り、頭の中を切り替えていく。

 

 ソウエイの報告では、街の四方に陣が張られており、そこに中隊規模の騎士が配備されていると。

 その騎士達が守る魔法装置が、結界内の魔物の弱体化を引き起こしている原因だと聞く。

 

 そして、ソウエイ達の戦力では一角を落とすのも難しいと、聞かされ。

 更に、転移陣も確認されたと言い、応援を呼ばれる可能性も報告する。

 

『わかった。ご苦労だったな、お前達も休め』

『しかし――』

『いいんだ。休め』

『――御意』

 

 有無を言わさない命令で、ソウエイ達を休ませるリムル。

 ここで無理をしてソウエイ達までも失うのは、もう真っ平ごめんだとリムルは思う。

 

 リムルは現状を整理しながら、結界の事を考えていた。

 

 大魔法は解除しても今は意味が無いので、むしろこの弱体化を引き起こしている結界をどうにかしたいと考えるも、複合結界と言うだけに厄介な性質を持ってそうだなと判断し、今はとりあえず放置して、もう一つの検索結果を『大賢者』に問う。

 

《告。検索結果――該当なし。完全なる〝死者の蘇生〟に関する魔法は検出されませんでした》

 

(そうだよな……そんな都合のいい魔法なんて、簡単に見つかるわけないか。当然だよな……でも、無駄だとわかってても、悪あがきだと言われても――諦める事は出来ない……)

 

 シオンは、目を覚まさない。

 ゴブゾウや、他の者達も同様に。

 

 寝ているわけではないから――

 

 死んでいるのだから。

 

 それでもリムルは能力(スキル)を総動員して、何かしらの手段、蘇生魔法の手掛かりがないか、探していた。

 

 シオンを含め、ここに眠る魔物達の身体は、リムルの魔力で保護されていた。

 腐る事が無いように。

 

 魔素に還元されて――

 

 消えてしまわないように。

 

 

 どんなに検索しても、〝蘇生魔法〟に関する手掛かりすら、見つからない……。 

 

 そうか……そうだよな……。

 

 リムルは、いつまでも嘆いていても仕方が無いと、ある行動に移る。

 それは、ここに眠るもの皆を自分の中で眠りにつかそう、いつか眠りから覚める事を祈って、と。

 

 そうして皆を吸収しようと、した時――

 

 リムルの『魔力感知』が、接近して来る三名の者の気配を察知する。

 

 リムルに近づく者――

 それは、冒険者のカバル達三人組だった。

 

 三人はリムルからもらっていた馬車で、昼夜問わずに駆け付けたのだ。

 

「旦那、すまない! 遅くなった」

「リムルの旦那。その、あの、なんて言ったらいいでやんすか……」

 

 リムルはもう少し待ってくれ、直ぐに立ち直るからと、言おうとした時に。

 

 エレンの言葉で、その言葉を飲み込んだ。

 

「あのねぇ……リムルさん……。可能性は低いん――ううん、殆んど無いに等しいんだけど。死者が蘇生したという御伽噺(おとぎばなし)が、いくつかあるのよぉ――」

 

 その言葉を聞いた瞬間、リムルの中で何かがカチリと音を立て心と思考の乖離が嵌った。

 

「その御伽噺、詳しく聞かせてくれるよな?」

 

 リムルはエレンに振り向き、真剣な眼差しで見据える。

 エレンは頷き、一つの御伽噺を話し始める。

 

 ………………

 …………

 ……

 

 とある少女とペットの竜の物語――。

 

 ある事がきっかけで、ペットの竜を殺された少女。

 唯一の友達であった竜の死に嘆き、怒りと共に手を出した国家を消滅させた少女。

 

 十数万の国民諸共に。

 

 そして、少女は魔王へと進化した。

 その時に奇跡が、起きた。

 

 少女と繋がっていた竜は、少女の進化に伴い、死して尚――

 進化したのだ。

 

 しかし、奇跡はそこで終わりだった。

 

 死と同時に魂を失っていた竜は、意思の無い邪悪な混沌竜(カオスドラゴン)として蘇生してしまった。

 

 混沌竜(カオスドラゴン)、少女の命令には忠実だが、それ以外の者全てには、破滅をもたらす邪悪な竜。

 

 怒りから覚め、魔王となった少女は、嘆きつつペットであり唯一の友達であった混沌竜(カオスドラゴン)を、自ら封印した、

 

 物語は、少女が竜を封印したところで、終わっていた。

 

 エレンの話は――

 御伽噺でありながら、やけに具体的なものだった。

 

 リムルは思考を巡らせる。

 

(魔王への――進化か……。そうだな、魔物達は意味不明な進化を遂げる時がある。名前を付けただけで、大騒ぎだったな。もしかしたら、可能性はあるんじゃないか? 俺が魔王になれば……。少女の竜が、進化して生き返ったように。しかし、魂の無い意思無き魔物になられても、困るな……)

 

 リムルはぶつぶつと独りごとのように呟き。

 魂がまだ残ってるのかと、考えた時――。

 

(いや、待てよ。今、この街を覆っている複合結界は、魔物の出入りを許さない。ならば、魂も拡散せずに――結界内部に留まってる可能性が、あるんじゃないか?)

 

 その考えに『大賢者』が答える。

 

《解。個体名:シオン及び、その他の魔物達の魂の存在確率は――三・一四%です。しかし、〝番外魔王〟が施した結界補強により、この数値より下回る事は無いと、判断します》

『円周率かよって、そうじゃないな。逆だ、三%も確率があるんだ。死から蘇生出来る可能性が三%もある、と考えるべきだな。それにしても、結界補強か……なんであいつらは、わざわざそんな事したんだ? 知ってたのか、シオン達の魂がまだ拡散せずに――ここに留まっているのを……まさか、な』

 

 〝番外魔王〟のやったことに対して思案を重ねるも、今一つ答えが見つからなかった。

 

 希望は見えた。

 リムルは魔王になるにはと、思考を巡らせる。

 

《解。〝魔王種〟への進化に必要な条件は満たしています。〝真なる魔王〟へと進化するのに必要な条件(タネノハツガ)は、人間一万名以上の生贄(ヨウブン)が必要です》

 

(一万以上の人間か……。魔王……なってやるさ。人間? ちょうど今こっちに向かってる、軍隊がいるな……) 

 

 ………………

 …………

 ……

 

(そうか、あいつらが言った――〝覚悟〟とは、これなんだな。()られたから()りかえす。その行為には、代償がいる。人間一万以上の生贄(ヨウブン)、か……あの軍隊の奴らにも、帰るべき場所があり、守るべき家族、友がいる……)

 

 リムルは静かに一度目を閉じ、様々な思いを巡らせていく。

 そして、カッと目を見開き――

 

(しかし――俺はその〝業〟を全て背負う。俺には俺の守るべき者達がいる。その為には、この〝業〟は背負わなければいけないし、生きている限り忘れてはいけないんだ――)

 

 人間であった三上悟の頃の自分。

 もし三上悟のままだったら……この行いは、到底受け入れられないだろう。

 

 死んで魔物に転生し、それでも人間と仲良くしたいと思った。

 しかし、リムルが思った以上にそれは難しく、またそれを成し遂げようとする為には、それ相応の〝覚悟〟がいるのだった。

 

 魔物になり、自分なりに色々な〝覚悟〟をしたはずなのに……。

 

 それは、命を奪い、命を奪われる、〝覚悟〟

 その〝覚悟〟なくしては、この世界では生きられない。

 

 〝業〟を背負い、大事なものを守る、それには――

 確固たる意志が必要なのだ。

 

 リムルは、改めて魔物として生きる〝覚悟〟と、大事なものを守る為に負う代償を知った。

 

(いいさ、この〝業〟を背負う〝覚悟〟は、出来た。人間に恐れられようとも。それでも、俺は前に進もう。ここからが本当の始まりだな……)

 

 苦悩も悔恨も嘆くのも、もう終わりだとリムルは、迷いを捨てた。

 どんなことが起きようとも前を向き、進もうと決意する。

 

 そこで、ふと我に返る。

 

「エレン、教えてくれてありがとう。でも、いいのか? 俺に――魔王になれって言ったのと同じ事だぞ?」

 

 そう言ってリムルはエレンを見る。

 

 エレンはうつむき、無言となるもすぐに意を決したように、顔を上げる。

 

「私はねぇ、魔導王朝サリオンの出身なのよぉ」

 

 エレンは言いながら自分の両耳に両手を当てた。

 ポワワッと淡い光が輝くと、エルフ特有の尖った耳に変わった。

 魔法で、人間に擬態していたのだ、

 

「ほんとはねぇ、自由な冒険者に憧れてサリオンを、出たんだぁ。でもね、もういいの。シオンちゃんを助けたいのは一緒だし。ファルムス王国も西方聖教会も、許せないもの。魔物だから悪しき者、そんな考えは、私は嫌い。この手法を貴方に教えた事で、もう取り返しの付かない事は理解してるの。でも、ね……どうしてもこのままじゃ、駄目だと思ったんだぁ……」

 

 エレンもまた、〝覚悟〟を決めた目でリムルを見た。

 

 エレンの名はエリューンと言う、魔導王朝の貴族だった。

 王都の学園で学び、冒険者に憧れ、国を出たと。

 

 エレンの告白に、カバルは無言で首を振り、ギドは目を瞑り天を仰ぐ。

 

「しゃーねぇ。お嬢様がそう言うのなら、護衛として異論はありませんよ」

「姉さん、いや――エレン様。よろしいのですね?」

 

 二人もまた、〝覚悟〟を決めた目でエレンを見る。

 

 カバルとギド、この二人もまた魔導王朝の者であり、護衛としてエレンと一緒に国を出て来たのだ。

 リムルはこの三人が、仲間と言う枠を超えて固い絆で結ばれてるように見えた。

 

「多分ね、リムルさんが魔王になったら、私が情報を漏らしたことが筒抜けになる……ってか、もうバレちゃったかなぁ(あらぁ、あの子いたんだぁ)」

 

 エレンの視線の先には、屋根の上で毛づくろいする、イチコが映っていた。

 〝番外魔王〟の秘密、エレンはその秘密を知る、数少ない一人であったのだ。

 

 最後の所を呟くようにポソリと言った言葉に、リムルが「え?」っと聞き返すも「ううん、何でもないの」と躱し、話を続けていく。

 

「それでね、多分国へ連れ戻されることになると思う。だから、ね。それまではここで、精一杯手伝いたいのょ。私は、最後まで結末を、見届けたいの――」

 

 残り少ない自由な時間を、ここで過ごしたいと、エレンは言った。

 真剣な目でリムルを見る三人組。

 

 このままエレン達をこの国に置いておくと、魔導王朝サリオンとも事を構える事になるかも知れないと、リムルは考えた。

 

 しかし、エレン達が連行されるのは、無視出来ない。

 そんな思いの中、リムルは。

 

「そうだな、それについては後で考えよう。これ以上敵を増やすのは、裂けたいしな……」

「そう? でもぉ、シオンちゃんが助かるかどうか、最後まで見届けてもいいでしょう?」

「そうだな、わかった。エレンのくれた情報だ、最後まで見届けてくれて構わないよ。だけどな、俺が魔王に成れたとしても、その時に人格が変わってお前達を襲っても――身の安全の保障は出来ないけど、いいのか?」

「う~ん……。それは嫌だけど、しゃーなしだよねぇ。私はリムルさんを、信じるよ!」

「お、おいおい!? 巻き添え確定かよ? 本当にしゃーなしだよ」

「仕方ありませんよ。エレン様は、毎回こんなんですって……」

 

 溜息をつきつつも、反対はしない、カバルとギド。

 なんのかんの言って二人は、エレンに忠実であり絶大な信頼を置いていた。

 

 リムルの方針は決まった。

 

 魔王になり、死んだ皆を生き返らせる事。

 

 そこでリムルは、シオン達の魂の拡散防止の為、『解析鑑定』で習得済の大魔法を改変し、より強固に街を覆った。

 それと同時にコハクが掛けた補強術式が、待ってたかのように解除されていった。

 

 まるで、役目を終えたかのように。

 

 そんなリムルを余所目に、エレン、カバル、ギドの三人は、やいのやいのと言い合いを始めていく。

 

 その声が、リムルの耳に、頭の中に……。

 心地よく反射し、それは柔らかな反響音となる。

 

 Echo(エコー)、生きていた頃の皆の声が様々な声となり時間差で、リムルを包んでいく。 

 

 そこへ。

 

 記憶の中にあるシオンの声が、心へと響いてくる。

 

 

 リムル様!

 

 リムル様、ここにおられたのですか?

 

 リムル様は、私がお守りするのです!

 

 リムル様の秘書、シオンです!

 

 リムル様、リムル様、リムル様

 

 

 待ってろ、シオン、ゴブゾウ、みんな

 

 必ず、俺が生き返らせてやるからな

 

 

 




 十七話を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新も、よろしくお願いします!





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