忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

170 / 239

 お待たせしました。170話です


 ツキハ

【挿絵表示】


 コハク

【挿絵表示】



 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


【挿絵表示】



 ※〝打刀〟
【挿絵表示】






170話 テンペスト開国際!!

 

 

 本日は快晴。

 

 テンペスト開国祭、本番当日の午前九時を迎えた朝である。

 

 魔国連邦(テンペスト)の首都、リムル。

 リムルの名を冠した都市の、行政機関が集中する北区。

 

 その中央にある議事堂のバルコニーにて、眼下に集まる人々を見下ろすリムルがいた。

 

 議事堂に続く大通り。

 

 ドーン。魔力式音花火の号砲が街中に響き渡った。

 

 続いてすぐに、もう一発打ち上げられると、ドン、ドン、ドン、ドン、ドンと連続の音が五回炸裂した。

 

 開国際の開催を知らせる音花火、五段雷(ごだんらい)である。

 

 音花火が街中に木霊(こだま)する中、街を縦横に走るこの大通りは、溢れんばかりの人々で埋め尽くされていた。

 

 元魔物――今は亜人と呼ぶべきリムルの民達。

 

 そして、ジュラの大森林各地から集まった魔人達。

 

 近隣諸国から集まった商人や、その護衛の冒険者達。

 お祭り騒ぎを聞きつけ、やって来た農民達。

 

 それは十万を超える、多種多様な種族の坩堝(るつぼ)

 

 人と魔が、争わずに共存する国家。

 

 リムルは、その夢を成し得たという実感に、今包まれていた。

 心地よい風が、リムルの頬を撫で長い髪を優しく揺らす。

 

 リムルは椅子から立ち上がると、魔力式の拡声器(マイク)を手に持った。

 

 この魔力式マイクは、拾った音を空間振動術式を用い、各魔力式スピーカーに魔法通信の応用で出力する仕組みである。なので、リムルが持つマイクの先端には、直径十五センチの赤い魔法陣が表示されている。

 

 この拡声器と魔力式スピーカーは、リムルが考案し、教授が作成した物であった。

 

「諸君。俺、いや、余がリムルです、である……」

 

(です、であるって何だあ、もう……。あー、もういい、やめやめ、面倒くさい)

 

 リムルは、やはり自分には堅苦しい演説は荷が重すぎると思い、いつもの自分で演説をする事にした。

 

「俺が魔王リムルだ、宜しく。ええ、本日は、我が国の招きに応じてくれて嬉しく思う。初めて俺を見る者いるだろうが、どうか緊張しないで欲しい。魔王となったのは本当だが、俺は人類と敵対をするつもりはない。俺は、人と魔物が争うよりも、手を取り合い協力する方が、より良い未来が待っていると信じるからだ」

 

 リムルは演説をしつつ、眼下に集まっている人々の反応を窺うと、誰もが真剣に、リムルの言葉に耳を傾けていた。

 

 そしてリムルは、手ごたえを感じつつ、演説を続ける。

 

「あなた方の中には、俺が魔王だからと、警戒し恐れる者もいるだろう。それは当然の事であろうけど、素直に感じた事を信じて欲しい。俺は貴方達に、俺の考えを押し付ける意志は、全くない。俺を、信じるも信じないのも、貴方達の自由だ。俺の信用は貴方達に対して、まだまだ少ない。だからこそ、これからの付き合い方の積み重ねで、それを勝ち得たいと、思っている」

 

 そう、信用は積み重ねである。リムルはそう考えて、結論は急がないと言ったのだ。

 

 続いてリムルは、支配者階級である王侯貴族の方々に向けて、本心を伝える。

 

「ここに集まった貴族の方々、国に戻ったら、ここで見たままを嘘偽りなく伝えて欲しい。今既に、我が国と友誼(ゆうぎ)を結んでくれた国もある。我が国を信じられなくとも、そうした国々がある事実が信用に足るのではないだろうか? 俺が魔物(スライム)であり、魔王だからと、偏見を持つのは、どうか()めて欲しい」

 

(まあこれも、個人としてではなく国の判断になるだろうな。この場にいる者達が、どう感じたかは問題ではないのだろうけど……。それでも、少しは意味があると信じよう)

 

 そう思ったリムルは、ファルムス王国事変の再来を防ぐ意味で、一つ釘を刺しにいく。

 

「ここで一つ、ハッキリ言っておく。俺としては、手を取り合わないならば戦争とか、そういうつもりは断じてない。ただし、俺達が魔物だからと不平等を押し付けてきたり、討伐という名目で戦争を仕掛けて来るようなら、こちらも一切容赦はしない。我が国は周知の通り、傭兵商会ルヴナンと契約を交わしている。これはもし、他国が攻めて来た時に、迅速に動ける傭兵戦力がその攻めて来た戦力に対応する為であり、我が国の本隊が動くまでの時間稼ぎを目的としている。今日ここに来ている貴族の方々などには、傭兵商会ルヴナンと契約をしている国や大きな村の方々もいるでしょうし、古来より伝承などで伝えられ、その恐怖と凄まじさを知る者は多いでしょう。ですが俺は、傭兵商会ルヴナンを我が国の防衛に使えど、貴方達に対してその牙を、絶対に向けさせない、理不尽な事が起こらない限り。俺はもう、あの悲劇を起こさせたくはないし、起こさせない。その為の抑止力が、傭兵商会ルヴナンなのです。だからこそ、先日滅んだファルムス王国の一件を見てもらっても、理解して頂けると思う」

 

 この言葉もまた、リムルの思うままである。

 

 傭兵商会ルヴナンの名を出し、完全に脅しと受け取られるかもしれないが、これがリムルの正直な気持ちだった。

 

 そうリムルは、本音では戦争が嫌いではあるが、仕掛けられたら躊躇(ちゅうちょ)はしないと、覚悟を決めている。

 

 支配者が迷いを見せると、そのとばっちりを受けるのは戦う(すべ)のない一般市民なのだから。

 

 だからこそリムルは、支配階級の者達に向けて、この言葉を送ったのだ。

 

 そもそも国家の役割とは、国民の生命と財産を守る為にある。

 リムルを頼って集まった魔物達や、移住者達。

 そうした者達を守るのが、リムルの一番重要な仕事なのだ。

 

 武力のない世界は理想的ではあるが、それは実現不可能な夢物語。

 

 武力を捨てた途端に、武力を持つ者に喰われてしまう。

 そんな世界で生き残るには、武力を持つしかないのが現状である。

 

 だから、いかなる状況になろうとも対応出来るように備える事、それこそが国家に求められる最低条件なのだから。

 

 そして、最後に。

 

「ここに集まった、商人や冒険者に農民といった、それぞれの国や村に住む普通の人である皆さん、俺はあなた方に手を出さないと誓う。まあ、犯罪者は別としてだが、現在我が国では、人手が足りない。仕事は多くあるので、職を探している者がいれば、移住を検討してみて欲しい。人が多く集まる場所には、新たなチャンスも生まれるだろう。基本的に我が国は、自由な発想を保証するものである。発言の自由は認めるし、職業選択の自由も認めるものである」

 

 ここでリムルは言葉を区切り、眼下に集まった人々をゆっくりと見渡す。

 

 人々は皆、沈黙をしたままリムルの言葉を待つ。

 

「ただし、その発言や行動には責任が伴うけどね。それを踏まえた上で我が国に興味を持ってくれたなら、今言った俺の言葉を是非とも検討してみてくれ。今後も我が国では、様々な催しを開催する予定だ。その第一弾として企画したのが、今日から始まるテンペスト開国祭である。それでは、是非とも楽しんでいってくれ!!」

 

 これで、リムルの演説は終わった。

 

 リムルの演説を聞こうと集まった人々から歓声が上がり、盛大な拍手が鳴り響いていた。

 

 リムルは本心を伝えた、自分なりの考え方で。

 

 それが、功を成すのか仇と化すのかは、わからない。

 リムルの言葉を信じる者もいれば、疑う者がいるのも事実。

 

 しかし、魔物であり、魔王であるリムルがこの本心を伝えたのは、ここ、テンペスト開国祭に来た人々に、今までにない衝撃を与えたのも事実である。

 

 古来、魔王に属する者が、このような言葉を人間に対して、言った事などないのだから。

 

 後は、これがどのような結果をもたらすのかは、歴史が証明してくれるだろう。

 

 

 こうして、リムルの演説を開始の合図として、テンペスト開国祭が幕を開けたのだった。

 

 

 リムルは演説を終え、一階のホールへと下りた。

 

 そこには、服を着替えた子供達の姿があった。

 

「ちょっと先生、この国の王様だったのかよ」

 

(あらら、言ってなかったっけ?)

 

「知らなかったのかケンヤ? 俺の偉大さに気付いたのなら、今からでも遅くはないぞ。敬ってくれてもいいのだよ?」

「何で――」

「はーい! 私は先生を敬う!!」

 

 リムルがケンヤをからかおうとした矢先、アリスがそう言ってリムルに抱きついて来た。

 

 すると―― 

 

「私も――っ!!」

 

 続いてクロエまでリムルに、しがみ付いて来た。

 

 リムルは笑ってアリスとクロエの頭を優しく撫でながら、事案にならない程度に二人をそっと引き剥がした。

 

「それにしても、驚きました。昨日の時点で、もしかしてとは思っていたんですけどね……」

 

 そう言ったのはゲイル。

 リョウタもそれに、うんうんと頷いていた。

 

「まあまあ。王様になったのは、お前達と別れた後だったしな。だからさ、忙しいと言っただろう?」

「そ、そりゃあ……王様になったんなら、忙しかったのは納得出来るけどよ……」

 

 ケンヤは、どこか不満そうに言うけども、それでもリムルの事情は子供ながらに考え理解したようであった。

 

「それじゃあ先生、これからもあまり会えないんですか?」 

「うーん、暇な時は会いに行くさ。こう見えて俺はな、お飾りみたいなもんだ。だから、あまり心配すんな」

「ちぇっ、何だよそれ? 偉いのか偉くないのか、ハッキリして欲しいぜ全く……あ、そうだ――」

 

 そんなふうに文句を言うケンヤが、何かを思い出したように曇った顔を輝かせた。

 

「ねえねえ先生。番外魔王って、ここに住んでるんだよな?」

「ああ、住んでるぞ。それがどうしたんだ?」

「俺、番外魔王ツキハって人と戦ってみたい!」

「はい?」

 

 いきなりケンヤから、ツキハと戦ってみたいと言われ、リムルは思わず変な声を出す。

 そして、ケンヤに理由を聞いてみた。

 

「えーとな。何で番外魔王ツキハと、戦ってみたいんだ?」

「え? 決まってるじゃねーか、もの凄く強い剣術使いなんだろ? 俺さ、一度いいから手合わせをしたいんだよ、先生」

「私も、番外魔王コハクさんと、お手合わせをしてみたいかな」

「え?」

 

 ケンヤに続きアリスまでも、そんな事を言い出してしまう。

 

「えーとね、先生。私も一度、番外魔王の二人に会ってみたい」 

 

 クロエまで、ツキハとコハクに会ってみたいと言い出してしまった。

 更に、ゲイル、リョウタまでも同じ事を言い出す始末。

 

 しまいには、五人でワアワアと騒ぎだし、誰が先に番外魔王と戦うかを決めようと騒ぎだす。

 

 とりあえずリムルは、子供達を落ち着かせて、何で番外魔王と戦ってみたいのか、理由を問うてみた。

 

 理由を聞く内に、どうやら学校にある歴史書や史実書で番外魔王の事を知り、その番外魔王が魔国連邦(テンペスト)に住んでると知るや、最初は会ってみたいから、戦ってみたいになったらしい。

 

 番外魔王の悪逆非道な行いは、史実書に記されているのだが、「先生の国に住んでるんだから、大丈夫なんじゃないか?」と、ケンヤが言い出して、こうなったのである。

 

 リムルとしては、子供達にあまり良い影響を与えないだろなと考え、やんわりと、多分アイツ等忙しいから無理だろうなと言うが、何で? 何でだよ? とケンヤがリムルに詰め寄り、えっと、会うだけでも駄目なの? とクロエがリムルの服の裾を掴み言い、アリスは無言でリムルの顔を見つめ、ゲイルにリョウタも、番外魔王が暇な時でも駄目なのですか? リムルに言い寄る。

 

 そして子供達の抗議に、リムルあえなく敗北。

 

「わかった、わかったから。でも、お祭りが終わって、アイツ等に暇な時があったらな。それでいいか?」

「「「「「はーい!」」」」」

 

 途端に子供達の良い返事が返ってきた。

 

 まあ実際は、ツキハに到っては大抵暇というか、遊んでいる。コハクにしても大体は同じである。

 これは、とりあえずの言い訳であったのだ。

 

 こうして気を取り直したリムルは、子供達に祭りでの注意事項を告げる。

 

「いいかお前等、祭りの時は気分が高揚する。そしてだ、ついつい羽目を外しやすくなる。浮かれたり調子に乗ったりして、誰かと喧嘩したりするんじゃないぞ?」

「「「「「はい!!」」」」」

 

「ははっ、元気いいな。ちゃんとハンカチ、ペンダントは持ったか?」

「「「「「勿論っ!!」」」」」

 

 元気いっぱいの子供達である。

 

(返事だけはいいんだけどね、コイツ等も。しかし、誰かに付き添いを頼めたらいいんだけど、俺の部下達はには用事があるしなぁ。ディアブロは審判役で円形闘技場(コロッセオ)に向かったし、ハクロウはモミジとデートだし、ベニマルは俺の護衛。ツキハはヴェルドラと鉄板焼きの屋台だし、コハクはコハクで何か用事があると言ってたし、シュナは喫茶店を開いているハズ。シオンも用事があるとかで、朝から姿を見せていないが、うーん大丈夫なのか? そこはかとなく不安なんだけど、そこは大丈夫だと信じたい。ソウエイは、ルヴナンと合同での警備。何かあったら、すぐに知らせてくれるだろう。子供達の周辺は、シャルフューズの小さい子供がいる親が、子供連れでそれとなく見てくれる手筈になっている。あそこの市民って、老若男女から子供まで戦えるらしいから、何かさ、どこかの戦闘民族か! って言いたいね。まあ、傭兵を引退した者とか、現役の傭兵達が住んでるからそれも当然なんだけど……家族揃ってルヴナンの傭兵とか、何の冗談だよと言いたい。恐らく〝忍びの里〟を、この世界に合した形で再現したんだろうけど、その発想が怖いわ、ほんと……。仮に、あのシャルフューズの町に軍隊が攻め入ったら、いきなり全住民が傭兵に早変わりするとか、兵士にとったら悪夢だよなぁ……)

 

 リムルが要らぬ心配から、要らぬ考えに突入した時―― 

 

「どうしたの? 何か困り事でもあるのかしら?」

 

 そこへ、リムルに声をかけて来た者がいた。ヒナタである。

 

 私服姿のヒナタが、レイピアを左腰に下げて立っていた。

 

 着ている至福は、濃い紺色のノースリーブワンピース。

 見えそうで見えない脇と胸元、それに何ともいえない色気を感じさせ、更に、帯剣用のベルトがヒナタの腰の細さを強調し、そんなヒナタにリムルの目が釘付けになった。

 

(ほおぉ……眼福、眼福)

 

 そんなリムルに、ヒナタがチラリと冷たい視線を送り、リムルはゴホンと咳払いをして誤魔化す。

 

「ちょっと、先生!!」

「その人、誰」

 

 そんなリムルに、アリスとクロエがさも不機嫌そうに聞いてきた。

 

「この人はヒナタと言って、俺と引き分けたくらい強い人だよ」

「えーーっ!? こんなオバ――」

 

 ――刹那、剣閃が走る。

 

 言ってはいけない言葉を言いかけたケンヤの喉元に、いつ抜いたのかわからぬ速度でレイピアの剣先が、ピタリと突き付けられていた。

 

 剣先と皮膚との間は一ミリ弱、ケンヤが少し動いただけでズブリと喉に刺さる距離である。

 

「今、何を言おうとしたのかしら?」

「え、えっとですね、綺麗なお姉さんって、僕……」

 

 ケンヤは、ガクガクと震え涙目になりながら、何とか言葉を振り絞った。

 

 リョウタ、ゲイルも、ヒナタに一瞥(いちべつ)されただけで、その身が(すく)んでしまい、ケンヤを助けに行けなかった。

 

(そりゃあ、まあ、あれだ、俺だってヒナタは怖い。アイツ等の反応は当然だろうよ) 

 

 ケンヤ、リョウタ、ゲイルの三人を見て、しみじみそう思うリムル。

 

「ケンヤ、失礼な事を言うなよ? その人もシズさんの弟子だったんだぞ。言ってみればユウキと同様、お前達の先輩に当たるんだぞ」

 

 そんなリムルの言葉に、ケンヤは早く言って欲しかったという目で、リムルを見る。

 

「シズさんの弟子……って、まさか!?」 

「前に言っていた、たった一ヶ月でシズ先生より強くなったという……」

「ルベリオスの聖騎士団長、坂口日向(ヒナタ・サカグチ)さん!?」

「凄い!! でも、本当に本物なの……?」

「ちょっと……そいう大事な事は、先に言っておいてよ……」

 

 ケンヤがビックリした口調で言い、クロエが呟くように口に出し、リョウタが驚いたように声を上げ、アリスが目を大きく見開き言って、ゲイルが仕方なさそうに言った。

 

 チンッ。跳ねるような金属音が響き、ヒナタが流れるような神速で剣を(さや)に収めていた。

 

 はあーっと大きな溜息を吐き、その場に崩れ落ちるケンヤ。

 腰が抜けたのか、立ち上がれずにいた。

 

「漏らすかと思ったぜ――」

 

 少し顔を青褪(あおざ)めさせたケンヤが言うと。

 

「汚いわねえ」

 

 それに、アリスが毒づく。

 

「でも、今のはケンヤが悪いと思う」

 

 クロエの正論が放たれ、ぐうの音も出ないケンヤ。

 

 それからは、ゲイルに「本当にヒナタさんと、引き分けたんですか?」などと聞かれるも、リムルはそれに対して、正直に「負けそうになって逃げたから、間違いなく引き分けだよ」と、言った。

 

 すると、「逃げたのって、先生ですよね?」そう言い、リムルがせっかく〝誰が〟とは言わなかったのに、そこを突っ込まれるも、涼しい顔で「想像に任せるさ」と言って、格好良く決めるリムル。

 

 子供達はまだまだ話を聞きたそうにしていたが、それをヒナタが遮る。

 

「それで、貴方は何を困っていたのかしら?」

 

 そう問われたリムルは、子供達の面倒を誰かに見てもらおうと思っていたと、ヒナタに話す。

 

「いやあ、コイツ等が今から街に行くんだけど、これだけの人込みだろ? 一応の監視はいるんだけどぉ、誰かに引率を頼みたくてさ?」

 

 リムルは小首を傾げながら、精一杯可愛くいってみた。

 ツキハの悪い影響がここにも……。

 

「ふーん。いいわよ、私が引き受けても。それと、ツキハの真似はやめなさい。似合わないわよ」

「ほっとけ! だからさぁ、誰かいい人がいないかっ、て……えっ?」

 

(今何て、ってか、いいって言った? ヒナタ、貴女が子供達の引率です、か? いやいや、冗談にしては笑えませんよ……?)

 

 まさかの人物からの承諾の返事に、リムルの思考は一瞬固まる。

 

「何よ、私じゃ不満って言うのかしら?」

「いや、そんな事はありませんとも、決して――」

 

 リムルの考えを一瞬で察知し、冷ややかな言葉を浴びせられるリムル。

 

(睨まれた、怖い。ケンヤ、よくぞ漏らさなかった。よく耐えたな、誉めてやろう。俺は……誰か褒めて?)

 

 完全に思考がツキハ化するリムル。

 

「それで、貴方達は嫌とは言わないわね?」

 

 有無を言わさない、ヒナタの一言。

 

「はい、勿の論です!」

「剣ちゃん……」

「是非ともお願いします!」

「ゲイル君まで、もう……。それじゃあ、僕も」

 

 男子二名、ケンヤとゲイルは速攻で陥落し、リョウタもヒナタの同行に、アッサリ同意した。

 

「憧れのヒナタお姉様に会えるなんて! 私、とても嬉しいです!」

 

 目を輝かせて両手を胸の前に組み、はしゃぎ言う。 

 

「お姉ちゃん、いい人! シズ先生と同じ感じがするね!!」

 

 ヒナタに抱きつき、そう言って笑うクロエ。

 

 子供達に懐かれてしまい、少し戸惑ってる様子を見せるヒナタ。

 しかし口元には、小さな笑みを浮かべていた。

 

(へえ、あんな笑みも見せるんだ)

 

 普段は滅多に見せないだろうその笑みに、リムルは意外そうに思った。

 

「それじゃあ、行くわよ。焼きそばや焼きもろこし、しかも、お好み焼きにたこ焼きもあるみたいね。最初は、屋台巡りから始めましょう」

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

(おお、見事な統率力。流石は聖騎士団長ヒナタ。これなら、子供達の事をヒナタに任せておけば安心だな)

 

 そう安堵したリムルに、ヒナタがそっと(ささや)きかけてきた。

 

「子供達の面倒は引き受けるけど、貴方にはルミナス様を任せるわね」

「はい?」

 

 昨晩は見かけなかったルミナス。

 ツキハとコハク、特にツキハがいるから、てっきり来ないものと思っていたリムルだったのだ。

 

「えーっと、ツキハがいるからさ、ってか参加してくれる気になったのか?」

「貴方が誘ったのでしょう? ああ、ツキハの事なら大丈夫よ。ルミナス様は、ルヴナンの大口顧客の一人となったから。嬉々として、メイド服を用意していたわよ?」

「えっ、そうなの? アレってさ、ツキハから簡単に聞いていたけど、超絶ボッタクリお値段って聞いたぞ?」

「ええ。『ツキハの魂胆など、お見通しじゃ!』ってな具合に、二つ返事で了承したのよ」

「あぁ、まあ、それは何とも……」

 

 ルミナスの依頼を受けたくないツキハが、絶対に受けないだろう値段設定を、ルミナスがアッサリ受けた事に、リムルは複雑な気持ちで言葉を(にご)す。

 

(という事は、ツキハはメイド服姿のルミナスを、弄る事が出来ないってっか? いやあ、アイツ、絶対に弄る方法を探し出して来そうなんだが……)

 

 いきなり喧嘩にならないのか? と、一抹の不安を覚えるリムルであった。

 

 そんなルミナスは、魔国連邦(テンペスト)に滞在する事になる聖騎士(ホーリーナイト)達――

 アルノーとバッカスのお供に扮して、今回の祭りに参加すると、ヒナタが説明する。

 

 ツキハと鉢合わせしても、コハクがきつく言い含めているので、問題ない事だ、と。

 ついでにシュナが、にこやかに「騒ぎはいけませんよ?」と、釘を刺しているらしい。

 

 今日は世話係として、王侯貴族の集団と行動を共にするとの事。

 聖騎士とは、一応は貴族に相当するとヒナタが言った。

 

 なので、今日リムルが案内する事になる集団に交ざっても、何の問題もない訳である。

 

(ほんと、ちゃっかりとしているというか、何と言うか……。昨晩は、この国に新設した教会に宿泊をしたと思いきや、ツキハとコハクの自宅に宿泊していたとはねぇ。全く気付かなかったよ。まあ、あそこなら眷属がいるし、徹底した警備態勢が敷かれているからバレる心配はないんだけどねえ。しかしだね、仮にも、聖騎士団長が番外魔王の棲家に泊まるとか、如何なものなのかと、言いたいんだけど。それだけ完璧に正体やら何やらを、隠しているんだろう、この日の為に……ヒナタも徹底してるよなぁ) 

 

 リムルは、ヒナタがここ最近ツキハ達の自宅に度々訪れているのを、つい最近知ったばかりだったのだ。

 

 因みに、ヒナタがルヴナン敷地に『転移陣』を設置しようとして、コハクから盛大にお叱りを受けた事は、リムルは知らない。

 

 

「それじゃあ、頼んだわよ」

 

 それだけ言い残し、ヒナタは子供達を連れて祭りの会場、屋台が立ち並ぶ通りへと行ってしまい、何か複雑な表情でそれを見送るリムルであった。。

 

 

(あれだ、これじゃあ、俺の方が気苦労が多い気がするわ……)

 

 

 ウキウキなヒナタとは対照に、今回もまた、ヒナタにしてやられたという感じの、リムルだったのだ。

 

 

 

 





 この作品を読んで頂き、ありがとうございます!

 次回の更新も、よろしくお願いします!


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。