忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。172話です


 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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172話 Dancing flamenco(ダンシング フラメンコ)

 

 

 闇に包まれた舞台が、再び明るくなる。

 

 しかし、舞台の後方は暗いままであった。

 

 リムルから見て、舞台右側に少しこじんまりとした椅子が置かれ、そしてその前には、小さい踏み台のようなものが置かれていた。

 

 シオンが暗がりからギターを受け取ると、その椅子に座り、右足を踏み台に載せ、右太腿(ふともも)の上にギターを載せ構える。

 

 シュナはシオンから少し離れた左側に立つ。

 

(え? 今度はシオンがクラシックギター? ……いや違う、あれ、フラメンコギターじゃ……)

 

 『解析鑑定』でギターを見たリムルは、ギターに使われている木材の厚さがクラシックギターより薄いのを見て、人であった頃の知識でそう判断したのだった。

 

 このフラメンコギターは、恐らく〝異世界人〟がもたらしたものだろう。

 

 フラメンコでは、ギターのボディを叩きながら弾くというゴルペ奏法という特徴的な奏法がある。

 歯切れの良いハッキリとした音を出す為に、フラメンコギターに使われている木材の厚さがクラシックギターより薄いのであった。

 

(アンコールでフラメンコを演奏するのか? なら、踊るのはシュナ?)

 

 リムルがそんな事を考えていると。

 

 シオンがジャララランとギターをかき鳴らす。

 

 それに合わせて、シュナが手拍子を打ち始める。

 

 パン、パパパン、パンッパンッ、パパンッと、シオンのギターに合わせて、タイトにリズムを刻む。

 

(踊るのはシュナじゃないのか。じゃあ、誰だろう?)

 

 来賓客達はまたも聞いた事もない音楽に、呆気(あっけ)に取られていた。

 

 リムルが誰が躍るんだとワクワクしていると――

 

 カッカッ、タタン、タンッタンタンッ、カッカカッタタンッと、硬い木を打ち鳴らすかのようなタップ音が会場に響き渡る。

 

 シオンとシュナの中央前に、天井から下りて来た光がそこを照らし出す。

 

 リズミカルに床を打ち鳴らす足が見えてきた。

 その足には黒色の〝サパトス〟という爪先(つまさき)とヒールの(かかと)に幾つもの釘を打ち込んだフラメンコシューズを履いていて、軽快に床を打ち鳴らす。

 

(足だけ?)

 

 リムルが不思議そうに言うと、次に見えたのはフリルが付いた真紅のスカート部分が、リズムに合わせて大きく波打つよう広がり舞う。

 

 そしてそこからは、段々と上に向かって躍る人物の姿がタップのリズムに合わせて(あら)わになっていった。

 

(あれ、『空間迷彩』じゃないか? なら、眷属か……?)

 

 リムルがそれに気付き、躍る人物に視線を向けた。

 

 全身が現れ、シオンのギターとシュナの手拍子に合わせてタップを刻み、黒い短毛の尻尾をリズムに合わせて左右に激しく振りながら踊る少女。

 

(え、コハク!?)

 

 そう、フラメンコを躍る人物は、真紅のワンピースタイプのフラメンコドレスを着たコハクだったのだ。

 胸元は肩口まで大きく開き、長袖の袖口にはスカートと同じくフリルが付いていた。

 

 シオンのギターが激しくリズムを刻む。

 

 ジャジャ、ジャンジャジャンジャッ  

 

 それに合わせ、シュナの手拍子とコハクのタップがリズムを合わせ刻んでいく。

 

 パンパン、パンッパッパンパンッ

 

 カッカッ、タンッタンッタンタンッ

 

 コハクはスカートの真ん中あたりを両手で掴むと、それを膝まで持ち上げ、タップを刻みながら左右にタイトに振る。

 

 フリルが付いたスカートは大きく広がり、コハクの太腿(ふともも)が露わになる。

 

 タタンッタタンッ、タタン、タタッタンッタタタンッ

 

 スカートを掴んでいた右手を離し、左手だけでリズムに合わせてスカートを振り、

 右手を上に上げ、妖しくくねらせ、尻尾も合わせてくねらせるコハク。

 

(コハクがフラメンコを踊るなんて、あまりにも意外過ぎて流石にビックリだわ。どう見ても三味線とかだろうよ、イメージ的には……。あ! そう言えば、半月前にシュナにシャルフューズまでお使いを頼んだ時、帰って来たシュナが、とても良い踊りを見たと言っていたっけな。多分あれ、コハクがフラメンコを踊っていたのを見たんだろうな。〝異世界人〟がコハクに教えたんだろうけど、それにしても、見事なもんだよ三人とも。いつの間に練習したんだよ、まったく。しかし、あの踊ってるのが番外魔王コハクと知ったら、来賓客達は腰を抜かすどころか、パニックだろうな……)

 

 リムルは、タップを刻み踊るコハクを見ながら、そう思い、そしてチラリとルミナスを見ると、食い入るようにコハクの踊りを見ていた。

 

 来賓客達も、盛り上がるシオンのギターが激しく刻むリズムに、耳を釘付けにされ、シュナの手拍子が心を掴み、コハクのタップを刻む踊りがそれをらを纏めて鷲掴みにする。

 

 ギター演奏は佳境に入り、かき鳴らされるリズムが最高潮に達し、手拍子も激しさを増す。

 

 コハクは後ろを向き、またもスカートを両手で持ち、リズムに合わせてスカートを激しく左右に振り、尻尾もそれに合わせ左右にタイトに振られる。

 

 そして――

 

 ――ジャガジャンッ!

 

 ――パパパンッ!

 

 ――タタタンッ!

 

 三つの音色が同時に合わせ響き止まると、フラメンコの終わりを告げた。

 

 コハクは、背を向けたまま両手を上に上げたまま交差させ、背を()()らせたまま踊りを終えていた。

 

 

 静寂が会場を支配していき……

 

 

 パチパチと拍手がまばらに聞こえると、やがてそれは、次々と起こる拍手と合わさり大きなうねりとなる。

 

 ワーッという歓声と鳴りやまぬ拍手。

 

 またも皆が立ち上がり盛大な拍手を、コハク、シオン、シュナに送る。

 

 三人が舞台袖に並び立ち、深くお辞儀をし、これで本当に公演は終わったのであった。

 

 来賓客達も、誰もが満足そうな笑顔を浮かべていた。

 

 ルミナスがポツリと「アヤツに、あんな特技があったとはな。忌々しいが、見事な踊りだったわ」と、苦々しく言うも、その表情には正直な称賛が表れていた。

 

 音楽――芸術は、様々な垣根を取り払う。

 

 その光景を見たリムルは、皆が素晴らしいと感じられるものが確かに存在するのだと、今だけはそう信じたいと思うのだった。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 公演は、大成功。

 

 それからリムルは、来賓客達を案内して回り、ちょうどお昼になったので昼食会となった。

 

 迎賓館ホールにて、用意された昼食を食べながら、来賓の者達が話題の花を咲かすのは、先程の公演についてである。

 

「本当に、素晴らしかったですわ」

「いやはや、全くその通り」

「あれは、何て言うか、目を閉じて聞き惚れましたぞ!」

「わしもじゃ。耳に残るあの音色、奏者が人であれ魔物であれ、それに何の違いがあるというのか!――」

「そうであるな。あの最後の踊りなど、何という妖艶なる踊りよ!」

「左様。良いものは、良い。それが全てですな」

 

 と、このようにべた褒めである。

 

 チラッと横で聞くリムルは、心の中でニンマリと笑みを浮かべていた。

 

「あ、あのう……リムル陛下。もう一度、あの演奏と踊りを拝見したく思うのですが、そのような機会はどうすれば得られるのでしょうか?」

 

 またこのように、リムルに直接聞いて来る者まで出るほどある。

 

「祭りの三日間は、毎日定時に開催していますよ。後、最後の踊りはサプライズみたいなもので、残念ながら今日限りのものです」

 

 とりあえずリムルは、そう答えた。

 恐らく、コハクは飛び入り参加みたいなもので、開催期間中にはもう出る事はないだろうと、判断しての返答であった。

 

 その聞いた者は、踊りは今日限定と知って顔を曇らせたが、公演は祭りの開催期間中は聞けると知り、パッと明るい表情を浮かべる。 

 

 そして、公演会場を出る時にルミナスとすれ違った際、「なかなか良い演奏と踊りであったぞ。思ったより楽しめたわ」と、リムルにしか聞こえない声でそう言われたのだった。

 

 人を褒める事など滅多になさそうな、ルミナス直々の賛辞である。

 コハクが踊りで出演していながらもこれであれば、大絶賛と考えてもいいのだろう。

 

 そんな周囲の反応に、リムルの隣に座るベニマルも鼻高々といった様子だった。

 

「しかし、シオンは意外だったよ。後、コハクもだけど」

「そうでしょうね。ですが、ああ見えてシオンは、昔からリズム感は優れているのです。あのフルートといった楽器も、シオンとの相性が抜群だったみたいですね。何せ、横笛が得意なヤツでしたから。シュナの場合も、元々歌うのが大好きなヤツでしたし不思議ではありませんよ。コハク様は、シュナがシャルフューズに出向いた時に、たまたま子供達の前で踊ってるのを見たと言ってましたね。その時は、ツキハ様がギターというものを弾いていたみたいですけど」

「へえー、そりゃ二重にビックリだ。ツキハが楽器をねぇ、想像つかないんだけどな」

「そうですか? 武芸に秀でた者は、得てしてリズム感に優れていると思いますよ」

「ほう。要は、リズミカルな攻撃か……変調なリズムで攻撃、時には遅く、時には早く、更にリズムを崩した虚の攻撃等々(などなど)ねえ。確かに、言われてみればそうかもなぁ」

 

 ベニマルからすれば、結構すんなりと受け入れられる話だったようだ。

 

 シュナとシオンの二人が、歌が上手いのは知っていたベニマル。

 言われてみればリムルも、たまに二人が楽しそうに歌っているのを、聞いた覚えがあるのを思い出した。

 

(ふむ……知っているようで、俺もまだまだ皆の事を知らないよな)

 

「それよりも、よくコハク様をあの舞台に引っ張り出したもんですよ、シュナのヤツは」

「そうだよなあ。俺達なら、『ほな、出演料を頂くどすえ』とか言われるよな、間違いなく」

「ですね……」

 

 と、そう答えるリムルであった。

 

 

 そんな感じで昼食会も終わり、午後からは技術発表会である。

 

 午前の興奮が冷めやらぬといった来賓客達を案内し、リグルドに付いて行くリムルなのであった。

 

 先程の歌劇場を通り過ぎて、今度は博物館へと向かうリムル達と来賓客の方々。

 ここの歴史資料室が今回の目的地である。

 

 建物の入り口で、ガビルとベスタ―に出迎えられ、二人に案内されて建物の中に入った。

 

「こちらのケースの中に入っているのが、リムル様が最初に作った回復薬となります。ヒポクテ草から不純物を除いた、完全抽出液です。その抽出率は何と九十九%を誇り、蘇生薬(エリクサー)には及ばぬものの、完全回復薬(フルポーション)に匹敵する薬効であると申せましょう――」 

 

 という感じにベスタ―の解説を聞きながら、館内を進む。

 

 やがて、館内中央に設けられた、発表会の小さなステージがある場所へと辿り着いた。

 

 ここから、ガビルとベスタ―から驚くべき発表があるのだが――

 リムルは、ここで失敗の一つに気付く。

 

 ベスタ―の説明は丁寧でわかりやすいのだが、知識のない者に取っては、少々退屈なものだったようだ。

 そのせいか、退屈そうに同伴の者や隣にいる者同士で別の話を小声で始めてしまう者まで、出始めてしまう。

 

(あぁ、これは失敗したなぁ。順番が逆なら、多少は興味を持って聞いてもらえたかも。あの公演は、インパクトが多き過ぎたからなあ。あれだ、考えてみれば、来賓には王侯貴族が多かったんだわ。成果には興味があっても、それが出来る過程は、どうでもいいというのが主流なんだろう)

 

 そう後悔するリムルであった。

 

 ベスタ―もそれに気付いたのか、小さく苦笑いを浮かべたようだった。

 

 

 さてさて、ガビルとベスタ―は、この停滞した低気圧のような場の空気をどう覆すのか?

 

 ベスタ―はガビルと目配せを交わし、来賓の方々を見渡した。

 

 





 この作品を読んで頂き、有難う御座います。

 次回の更新も、宜しくお願いします。

 
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