忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。173話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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173話 〝魔 素〟 と 〝突然変異〟

 

 

 どこか興味なそうな来賓達を前に、ベスタ―が口を開いた。

 

「やれやれ、やはり皆様には小難しい話は退屈な御様子。それでは趣向を変えまして、ここで一つ、皆様が良く知る回復薬について、ある病気には毒となるのは何故か? それを説明致しましょう」

 

 そう言ってベスタ―はガビルに目で合図をし、頷くガビル。

 

「ではここで一つ、回復薬(ポーション)では唯一治せないモノについて、少しだけ語りましょう」

 

 回復薬では治せないモノ、この言葉に来賓達は耳を傾け始める。

 

「回復薬には、下位回復薬(ローポーション)上位回復薬(ハイポーション)完全回復薬(フルポーション)の三つがあります。特に、完全回復薬(フルポーション)の効果は凄まじいものがあり、欠損した部位まで再生できるのは、皆様ご存じのはず。だがしかし、この完全回復薬(フルポーション)を以てしても、治せないモノがあるのです。いや、完全回復薬(フルポーション)を使用する事で、その者を死に至らしめるという副作用が生じる事を、とある〝人物(教授)〟が発見したのです」

 

 ガビルは来賓達を見渡して、ここで言葉の区切りをつける。

 

 そう、この世界では、王侯貴族達が大金を支払って完全回復薬(フルポーション)を手に入れ、原因不明の病気を治そうと試みて、何故か完全回復薬(フルポーション)を使ったにも関わらず、死に至らしめるという事が度々起こっていたのだ。

 

 来賓達は皆が静かに、ガビルの次の説明を待っていた。

 

完全回復薬(フルポーション)とは、部位欠損も再生し、あらゆる大怪我も瞬時に治癒します。では、何故、あるモノに付いては治癒出来ないのか? それは、人であれ魔物であれ、〝物質体(マテリアル・ボディー)〟を構成している細胞というモノが存在しています。この細胞というモノが稀にですが、悪性の細胞へと変貌し、体を蝕む悪性腫瘍というモノになるのです。これは細胞の一部であるのですが、完全回復薬(フルポーション)を使用する事により、傷を治癒する為に細胞の急速な活性化を促す結果、良性であれ悪性であれ、等しく細胞の活性化を促してしまうのです」

 

 ここまでガビルが言うと、流石の来賓達も察しがついた。

 ガビルが言う、完全回復薬(フルポーション)は、体の中の良いモノも悪いモノも、等しく活性化させるのだと。

 

「故に、完全回復薬(フルポーション)を使用したにも関わらず、死という悲劇に見舞われるのです。この悪性腫瘍が体内に存在する限り、残念ながら完全回復薬(フルポーション)では治癒できないのが現実なのです。だがしかし!――」 

 

 ガビルは力強く声を発すると。

 

「我等は、とある〝人物(教授)〟から、あるモノを譲り受けたのです」

 

 そこでガビルは、一つの小瓶を取り出し、目の前のテーブルに置く。

 小瓶には、薄い赤色の液体が満たされていた。

  

「この薄赤色のポーションこそ、異常細胞だけを治癒するポーション。言うなれば、マイナスポーションと呼ぶべきでしょうか。正常な細胞には何ら効果を表さず、異常増殖した悪性細胞にのみ治癒を施すモノなのです――」

 

 ここで、おおーと来賓達からどよめきが起こる。

 

 そう、リムルの元いた世界では、癌細胞と呼ばれるものだったのだ。

 

 この世界では、魔法の発達により、物理的な医療はあまり発展していない。

 応急処置で、大きな切り傷などは縫う事はあっても、最終的には治癒魔法か回復薬(ポーション)での治療となるからだ。

 

 魔法と回復薬(ポーション)での治療が主な為、『解析鑑定』でこの病巣を発見しても手術は出来ない。

 

 そしてこの癌細胞の治療には、高度な魔法が必要となる。

 それこそ、神聖魔法の頂点、蘇生魔法に匹敵するレベルが要求されるのだ。

 

 リムルはイングラシア王国滞在中に、ひょんな事から同僚の教師の知人である貴族の奥方を治療した事があった。

 

 この時は、〝暴食之王(ベルゼビュート)〟で病巣だけを喰らい、その後に傷の治療をする為に完全回復薬(フルポーション)を用いて癌細胞の治癒に成功している。 

 

 この話を何となく教授に話したみたところ、教授はこの問題を限定的だが、回復薬(ポーション)で治療しているとリムルに明かしたのだ。

 

 ルヴナンでも、稀に戦場で完全回復薬(フルポーション)を使用する際は、この異常細胞を持つか持たないかを『解析鑑定』で解析して、異常細胞が見つかった者には、回復薬を使わずに、回復魔法で傷の治療を行うように指示していた。

 

 それをコハクから聞いた教授は、回復薬(ポーション)が傷の治癒をする際に細胞を活性化させている事に気付いたのだ。

 

 そこで教授は、良性細胞も悪性細胞も等しく活性化させる回復薬(ポーション)の効能を、悪性細胞だけを狙い撃ちにする効能だけを持つ回復薬(ポーション)が出来ないかと試行錯誤を繰り返し研究してる内に、〝魔素〟が深く関わるこの世界では、物質の変化に魔素が不可欠であると結論を出す。その代表例が、魔鉱石である。

 

 高濃度の魔素に晒された鉄鉱石が魔鉱石に変質するならば、ヒポクテ草から抽出した回復薬(ポーション)を、更に魔素に晒せば更なる変質が怒るのではないかと、そう推測した教授だった。

 

 そして、ヒポクテ草から抽出した回復薬(ポーション)からではなく、その(しぼ)りカスを更に細かく()り潰し、そこから絞り出した抽出液を、魔素に晒してみたのだが……。

 

 結果は、粗悪品の回復薬(ポーション)にしか変質しなかった。

 

 ここで教授は発想の転換をして、ツキハとコハクの妖気(オーラ)に目を付けた。

 

 試しに二人の漏れ出る妖気(オーラ)をこの抽出液に当ててみたところ、突然変異みたいに抽出液が変質したのだ。

 

 この時は、かなり危険な猛毒性を持つ、Bランク程度の魔物なら簡単に殺せる魔毒に変質したのだった。

 

 そこから試行錯誤を重ね、ツキハとコハクの漏れ出る妖気(オーラ)を五十対五十で試したところ、悪性細胞だけを治癒する回復薬(ポーション)が精製されたのだ。

 

 だがしかし、この〝突然変異〟は確率が偏っていて、低品位回復薬百本を妖気(オーラ)に当てても、精々、二、三本しか突然変異を起こさなかった。悪くすれば、全部が猛毒性の魔毒に変質する始末。

 

 しかも、ツキハとコハクの妖気(オーラ)だけが、この〝突然変異〟を起こせるのだった。

 正確に言えば、二人が体内で作り出す〝特殊な魔素粒子〟なのだが、妖気(オーラ)にもこれは含まれている為、それが可能だったのである。

 

 だから、このマイナスポーションは、ルヴナンでも門外不出の品であったのだが……。 

 

 作れる本数も限定的で、そもそもツキハとコハクの妖気(オーラ)がないと突然変異を起こせないので、今回、〝魔素〟といテーマを取り扱うガビルとベスタ―に協力した形だったのだ。 

 

 ただし、ルヴナン製とは決して口外しない。教授の事も素性を明かさないとの条件付きだった。

 

「――そう、このマイナスポーションがあれば、完全回復薬(フルポーション)による悪性細胞の活性化を防げるのです」

 

 これを聞いた王侯貴族達が目を輝かせ、皆がこぞってそのマイナスポーションはこの国で買えるのかとガビルに尋ねるが、ガビルゆっくりと首を横に振り、皆の問いに答える。

 

「その問いには、残念でありますが、否と答えるしかないのです。何故ならば――」

 

 皆がそのような回復薬(ポーション)を、この国で独占するのかと声を大にして言うも、ガビルはその声を次の言葉で制す。

 

「このマイナスポーションは、偶然の産物なのです!」

 

 ガビルはマイナスポーションの小瓶を掲げ、力強く答えた。

 

 偶然の産物? 皆が首を傾げる中、ガビルは説明を続けていく。

 

「これは、ある実験から偶然に生まれた抽出液で、その過程には、ある特殊な妖気(オーラ)が必要なのです」

 

 これを聞いた貴族の一人から、「ほら見ろ、やっぱり独占する気だ」と呟くような声がした。

 

 しかしガビルは、これを予見したかのように一瞬、口端に笑みを薄く浮かべると。

 

「この特殊な妖気(オーラ)は、魔王リムル様の妖気(オーラ)では無理なのです。独占はおろか、作る事さえ不可能なのです……」

 

 ガックリと肩を落として答えるガビルの顔には、本当に残念な気持ちが表れていた。

 ベスタ―も同じく、凄く残念そうな表情を浮かべていた。

 

 この二人、半分は演技だが、後の半分は、現在の自分達ではこのマイナスポーションを作り出せない事に、本当に残念そうだったのだ。

 

「ふむ。ならば、どこぞの魔王辺りが創り出したの、か……」

「魔王ですらも、偶然にしか作り出せないとか、さもありなん」

「リムル陛下にも作れないモノがあるのだな。人も魔物も、万能ではない……」

 

 ガビルの様子を見て、来賓達は口々に諦めの言葉を連ねていった。

 

 来賓の反応を見てガビルは、本命の言葉を告げる。

 

「さてさて、皆様方。先程、〝魔素〟で変質と申しましたが、その例を、今から一つ実験しましょう」

 

 場の空気を換えるべく、ベスタ―が準備を始め、一本の折れた剣を取り出した。

 

「さあ、皆様方。回復薬でこの折れた剣が直せるか、誰かお答え頂けるでしょうか?」

 

 ガビルがそう問うと、馬鹿にしたような声が上がる。

 

「直るわけがない! ヒポクテ草の薬効は、生物にしか適用されぬ!!」

 

 魔法使い風に見えるその男は、何処かの国の宮廷魔術師なのだろう。

 それなりの知識は持ち合わせているらしく、ただの物質には効果がないと言い切った。

 

「ふふふ、言われる通りですな。少なくとも、こちらの下位回復薬(ローポーション)上位回復薬(ハイポーション)では、どのようなやり方をしようとも折れた剣に効果はありません」

 

 ガビルはそう言って頷いた。

 

(当たり前だろう。そんなもの、実験するまでもなく答えはわかる。あのマイナスポーションを持ち出して、何がしたかったんだ? ガビルだけならともかく、ベスタ―まで何のつもりで――?)

 

 二人の意図がどうにも掴めず、頭の中で疑問を浮かべるリムル。

 

「では、どこまでなら適用されるのか? これに関しては、どうでしょう?」 

 

 この質問には、流石に馬鹿にしているのかと答える来賓達。

 怒号とも取れる声も上がり、喧々囂々(けんけんごうごう)と文句が出始める。

 

 先程のマイナスポーションといい、期待していただけに、その反動も凄まじい。

 

(うーん。これは、ある意味仕方がない。それにしても、回復薬の適用範囲ねぇ……。当然だが、人や魔物、動物、植物、その全てに効果がある。じゃあ、その違いはどこだ? うーん……生きているかどうか、か……いや、違うな……。多分……意思があるかどうかだ)

 

《告。植物にも意思があります。意思とは、〝魂〟に根ざすもの。〝魔素〟を構成する霊子の塊である〝魂〟の在る無しが、その違いであると推測します》

 

 リムルが一人思案していると、その疑問に〝智慧之王(ラファエル)〟が補足する。

 

(そうだな。植物には意思がある。明確な自我はなくとも、生きようとする意思が感じられる。しかし、剣には〝魂〟なんてない。ゆえに、意志も存在しない。ただの物質だから、それは当然、って――待てよ?)

 

 そこでふと、リムルは違和感を覚えた。

 

(確かカイジンが、剣にも意思が宿るとかどうとか言って……そうだ、ツキハの持つ〝妖刀・時雨(しぐれ)〟は、最初は残留思念のようなものが残っていて、何千年も使う内に、明確ではないけれど、時雨には意思が宿っていると言っていたっけ……だから、力無きものが手にする事を、拒むとか……まさか!?)

 

「フフフッ、そうです。我輩も、それを知りたいと思いました。知りたいと思う事、それこそが、新たなる発見への入り口となるのです」

「左様です。そんな馬鹿な実験は止めなさいと、私も内心で馬鹿にしつつ止めたのですよ。ですが、愚かなのは私の方でした。常識に囚われ過ぎて、研究者としての初心を忘れておったようです。マイナスポーションをもたらした、〝とある人物〟も言っていました。飽くなき探求心、尽きることのない好奇心、それを失わなければ、必ず道が開ける、と。柔軟な発想こそが、研究者に取って、必要不可欠なものである、と、私は確信しました」

 

 ベスタ―が微笑み浮かべて、完全回復薬(フルポーション)を折れた剣に振りかけた。

 

 するとあろう事か、少しだけではあるが確かに、剣が反応を見せたのである。

 

「「「「「――ッ!?」」」」」

「これが、答えです。完全なる再生には至らぬものの、折れた剣は確かに修復の兆しを見せました」

「あ、有り得ぬ」

「ば、馬鹿な……」

「信じられん。回復薬に、そのような使い方があるなどと……」

 

 来賓一同は驚きを隠せず、言葉を失ってしまう。

 

 自分達の常識が今覆されたのだから、無理もない事だろう。

 

 実際リムルも驚いていたのである。

 

(マジかよ……。俺が予想もしない事を実験していたとは……。しかも、教授の開発した偶然の産物である、マイナスポーションまで持ち出してこれとは、ねぇ。まあ、アレに関しては、俺の妖気(オーラ)では突然変異を起こせなかったし、根本を秘匿すれば問題はなかったが、これに繋げる布石にするとは、いやはや、予想の斜め上をいってくれたよ)

 

 と、余計に驚かされたリムルであった。

 

 リムルは今回の発表に関しては、ほとんど報告を受けてなかったので、本当にびっくりさせられたのだ。

 

「このように、効果が現われるのは、一定以上の成長を見せた武具に限るようです。そして、〝魔鋼〟製の武器であるのが最低条件で、所有者が長く愛用していないと反応しませんでした」

 

(そうか、意思が宿ってないと効果は出ない訳だ)

 

 ガビルの説明を聞き、リムルは内心で納得をする。

 

「――何故、そんな事を知りたいと思ったのだ?」 

 

 ガゼルが重々しく口を開き、ガビルに問うた。

 

「簡単な話です。我輩には、野に生える草木に意思があるとは思えませんでした。しかし実験の結果、回復薬の効果がある事が判明したのです。何よりも、我輩が知りたいと思ったからです。マイナスポーションを生み出した人物のように、我輩は思い考えました。そして、我輩はふと、樹妖精(ドライアド)の存在を思い出したのです。今は意思弱き草木であろうと、長い年月を生き抜けば、強力な魔物へと進化するのではないか、と。しかし、それには条件が必要なのではあるまいか、と考えた訳です」

 

 ここまでの説明で、半数以上の者達が興味を示した。

 

(うーん。これ、このまま続けさせて良いものか……)

 

 このガビルの発表は、普通に考えて、秘匿すべき研究結果に相当すると、リムルは考えていた。

 ちょっと目端が利く者ならば、これに反応するのは当然である。

 

 リムルの脳裏にそんな考えが()ぎったが――

 

(いや、せっかくの二人の技術発表だから、ここで水を差すのは駄目だ)

 

 と、その考えを振り払い、そのまま皆と一緒に説明を受ける。

 

「回復薬に反応を示すのは、魔素と馴染のあるものばかり。魔素を全く含まぬものは、一切の反応を示さなかった……。これは、マイナスポーションでも、同じ結果だと聞かされています。これが意味する事は、意思とは魔素に宿る――或いは、大きな関連性があるのでは、という事でした」

「そう。そうしたデータをガビル殿に示され、私も考えを改めました。そこで、〝とある人物〟が呟いた言葉を思い出したのです。『この世界の根源を成す、魔素とは何なのか?』という、疑問の言葉を」

 

 魔素――それは、この世界特有の物質の一つ。

 

 酸素と同じようにどこにでも存在し、色々と不思議な力を発揮する源であり、意思の力である程度自由に動かせるもの……。

 

「ここに、とある植物のサンプルが御座います。場所を移し、これを拡大した図をお見せしましょう」

 

 ベスタ―に促され、リムル達は場所を移動する。

 

 そこは、ゆったりとした大きな部屋で、椅子が並べられていた。

 雰囲気としては、視聴覚室である。

 

 試作型の映写機が置かれていて、正面の壁にはスクリーン代わりの真っ白い布が張られていた。

 

 来賓が席に着いたのを確認したガビルが、映写機を操作した。

 映写機の核には魔力水晶球が使われ、光魔法の刻印を組み込んだ装置であり、カラー画像を映し出せる優れものである。

 

 部屋の照明が薄暗くなり、白い布に画像が浮かび上がった。

 

「それでは、この画像をご覧下さい。これが先ほど述べた、植物の組織画です。そしてもう一枚、これはそこらに生えている植物の組織図――」

 

 拡大された組織図が、並べて映し出された。

 

 とある植物ともったいぶって説明していたが、はてさてベスタ―の狙いは何なのか。

 

「――同じものではないのか? ワシには違いがわからんが……」

「うーむ、私もだ。どこが違うのか、まるでわからん」

「左様。同じものにしか、見えぬではないか」

 

 来賓達が同じような声を上げ、誰もがその声に賛同する。

 

 

 では、正解は? というと。

 

 

「それでは、拡大してみましょう」

「どうですかな、同じものにしか見えないのではありませんか?」

 

 ベスタ―とガビルは、人の悪そうな笑みを浮かべ、そう言った。

 

 そして、ネタばらしが始まる。

 

「この一枚目の植物の名は、ヒポクテ草。そして、二枚目の方は、そこらで採取した、ただの雑草です。どうです、同じように見えますか?」

 

 ベスタ―がそう言うと、知っている者は慌てたように応えた。

 

「ふむ、同じではないな。よく見れば、違いは明白であったわ!」

「そうですな。ベスタ―殿も人が悪い。そのような画像だけでは、どこが違うのかわかりにくいですぞ!」

 

 来賓達はそう口々に、言い募る。

 

 

 ヒポクテ草――この世界では希少な植物。

 

 リムルがヴェルドラの封印されていた洞窟で喰ったのもヒポクテ草であり、それを体内で精製し、回復薬を作ったのが、完全回復薬(フルポーション)であり、回復薬の原材料となる事でも有名な植物。

 

 それを、そこらで採取した雑草と同じ組織図とは、思わないのが普通の反応だろう。

 

 しかし、リムルを含めた一部の者は、ベスタ―の言葉に動揺していた。

 ガゼルなどは、顔を青褪めさせていたのだ。

 

 ヒポクテ草が雑草と同じ組織図、という事は――

 両者が同一のものとなる証拠。

 

 となると、希少な薬草とは、何ぞや? という話になり、世の中の常識が根底から覆される事に……。

 

 人の悪い笑顔を浮かべたまま、ベスタ―は両手を広げて皆の注目を集めた。

 

「静粛に、皆様、静粛にお願いします」

 

 来賓の方々を落ち着かせるように声を上げ、鎮まるのを待つベスタ―とガビル。

 

 そして、皆が静かになったのを見計らい、次々と画像を映し出していった。

 

「皆様のご存じの通り、ヒポクテ草の汁を搾り出して、魔素と融合させる事で、回復薬となります。この融合率の高さが抽出液の性質によって異なるのは、周知の事実で御座いましょう。これを我々は、まあ詳しくは申せませんが、九十九%の純度を誇る抽出に成功しております。こうして作られるのが完全回復薬(フルポーション)という訳ですな」

 

 ベスタ―は、様々な画像を見せつつも、根底の技術は隠したままで、回復薬の成り立ちを説明していく。

 

「続いてヒポクテ草の葉の部分に注目を。これはすり潰して魔素と融合させる事で、傷口を塞ぐ軟膏が作り出せます。これはまあ、ちょっとした傷などには効果はあるものの、劇的な効果はありません。抽出した搾りカスなのですから、当然でありましょうな。マイナスポーションも先ほど説明した通り、この搾りカスを使用しております」

 

 スクリーンに映し出される葉っぱの画像。

 

 マイナスポーションと軟膏の製法は基本は同じみたいなものだが、ここでどう繋がるのか、リムルを含め来賓達もベスタ―の意図がわからなかった。

 

「さて、では皆さん。この画像を御覧下さい」

 

 洞窟で栽培していたヒポクテ草と、普通の雑草。

 

 見た目は全然違い、同じ組織図でもない。

 

 ところが、枚数を重ねる内に、ヒポクテ草の方に変化が生じて来たのだ。

 

「お気付きですかな? 我輩はそれに気付いたのは、マイナスポーションの製法を聞いてからでした。我輩、リムル様に命じられてヒポクテ草の栽培に携わっているのですが、ふと、マイナスポーションの製法で使われた搾りカスに目が向いたのです。軟膏も搾りカスから作られるので、マイナスポーションとは、如何(いか)なる変質を遂げたのだろうと、思いまして、その搾りカスを眺めておったのですが――」

 

 そこでガビルは気付いたのだ。

 

 その葉の形状が、育てているヒポクテ草と違っている事に。

 ガビルは驚愕し、詳しく記録を取る事にしたのだという。

 

 それが、先程から見せられている画像だったのだ。

 

「――結論から申しましょう。ヒポクテ草という植物は、厳密に言えば、存在しません。全ては高密度の〝魔素〟によって、〝突然変異〟した植物――」

「そう!! 魔素の濃度が高い場所に生息するのではなく、魔素の濃度が高いから、そこで〝突然変異〟した植物、それこそがヒポクテ草の正体だったのです!!」

 

 ガビルの説明に、興奮したベスタ―の言葉が重なり響く。

 

(おお! ヒポクテ草が元は雑草だって!? そりゃあベスタ―も興奮もするだろうよ。そうか、〝魔素〟による〝突然変異〟。これに結び付けたかったんだな、ガビルのヤツ)

 

 リムルも、コレにはビックリである。

 

 それを聞いた者達も、凄い騒ぎになっていた。

 

「このような、このような場所で発表するような内容ではありませんぞ、ベスタ―殿ぉ!? もっと相応しい場所で……それこそ学会なりに至急連絡を取って、正しき手順で発表すべきでしょう!!」

 

 もはや、大混乱といっていいほどの、騒然たる状況であった。

 

 最初から興味を持って話を聞いていた者達は、それ以上の衝撃を受けていた。

 

 皆の、想像の遥か斜め上に突き抜けた技術発表。

 

 それこそ「このような場所で発表するような――」という発言からも、彼等の驚愕ぶりが手に取るようにわかるというもの。

 

 ガゼルも余りの驚愕ぶりに目を()いていた。

 

 皇帝エルメシアとはいうと、豪華な扇子を広げ口元を隠し、エラルド公爵と何かヒソヒソと言い合っていた。

 そして、扇子で隠した皇帝エルメシアの口端が、薄く笑いを浮かべていた……。

 

 

(ほんと、今まで気にはしていなかったけど、考えてみれば当然だろう。ヴェルドラが封印された場所に最初からヒポクテ草が群生していたとは思えないし。突然変異――植物の進化と考えれば、それも納得ができる) 

 

《告。魔素を全て抽出液として採取された事で、元の姿、雑草へと戻ったものと推測します》

『だろうな。干からびた搾りカス状態なのだから、その組織図が雑草と同じになるのは自明の理という訳だ。なるほどな。それでガビルは、剣も回復薬で直るのではと、考えたのか』

 

 リムルの考えに、智慧之王(ラファエル)が賛同する。

 

 ガビルは雑草などがヒポクテ草に変化したように、鉱物が魔鉱石に変化したならば、その魔鉱石から精製された〝魔鋼〟が使用された武器ならば、回復薬の効果があるのではないかと考え、試したのだ。

 

 そして試した結果が、先程見せられた実験へと繋がるのだ。

 

「〝とある人物〟が抱いた、『魔素とは何なのか?』という疑問については、私もそれを聞いた後、同様にその疑問を抱きました。だがしかし、未だにその答えを〝とある人物〟も私も持ち合わせてはおりません。魔物や魔人も、魔素の影響を受けている。これは、歴然とした事実であります。では、亜人はどうなのか? 体内から全ての魔素を取り除いたら、果たして人へと戻るのか? そうした疑問は尽きませんが、それらを検証するのは困難を極めるでしょう」

「それでも我輩達は、今後とも研究を続ける所存である。大いなる知恵が集うこの地にて、その答えを求め続ける事を約束し、今回の技術発表を終えようと思う」

「御静聴――」

「「ありがとうございました」」

 

 息ピッタリに、技術発表会を締めくくるガビルとベスタ―。

 それは、初めてとはいえない程に堂々とした姿だった。

 

 技術発表会の内容は、投げぱっなしだが、実に興味が魅かれる内容だった。

 最初は大半の者が興味を示さなかったのだが、今ではその話で盛り上がり、貴族達が意見を交換し合う。

 

 大きな発見を広めつつも、肝心な部分は全て隠してある。

 

 そして何よりも重要なのは、発表の内容だけでは技術を真似される恐れがないという事、これに尽きる。

 

 魔素で植物が変化する――素晴らしい情報ではあるが、それを他国で真似をするのは困難であるからだ。

 実験は出来るだろうが、ヒポクテ草の量産などは不可能であろう。

 

 それが可能なのは、魔国と、傭兵公国シャルフューズだけである。

 

 魔国連邦(テンペスト)の優位は揺るがず。

 

 それに加え、この地で実験を続けるという意味が重要なのだ。

 

 大いなる知恵が集うこの地――ガゼルはこう発言した。

 

 そう、ガビルの言う通り、この地にはますます多くの学者が集う事になるだろう。

 

 魔素が豊富なこの地では、それこそ自由に実験がし放題なのだから。

 

 

 リムルの、来賓の方々に、この地へ関心を持ってもらう事――

 その目的は十分に果たせただろう事は、間違いない。

 

 

 リムルは素直に、この二人に惜しみない称賛を送ろうと思ったのだった。

 

 そして教授が、マイナスポーションという秘匿技術をこの二人に明かしてくれた事に、感謝の念を抱いたのであった。

 

 

 





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