忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。174話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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174話 ルミナス&ギメイとギメコ

 

 

 技術発表会の後は、自由時間となっていた。

 

 

 サロンで寛ぐ者に、お忍びで屋台に出向く者。

 温泉を堪能する者や、遊戯施設を見学し楽しむ者。

 

 リムルは、来賓ごとに案内を付けて、彼等が望むままに行動してもらっていた。

 

 そんな風に思い思いに寛ぐ貴族達を見回すリムル。

 

 するとそこへ、アルノーとバッカスが緊張した顔でリムルのところへやって来た。 

 

 そして、小声で「ちょっと話したい事がある」と、リムルに向かって告げたのである。

 

 

 その様子から、重要な内容だと察したリムルは、ベニマルとシオンを引き連れて、二人に案内されるまま迎賓館の一室へと向かう。

 

 そこに付いたリムルは、二人に促されるまま扉を開け入ると、いたのはルミナスだった。

 

 椅子に座り足を組む、メイド姿のルミナス。

 白い足に黒いガーターストッキングを履くその姿は、何ともいえないエロさが漂っているのを感じたリムル。

 

(ぉおお……。めっちゃ似合ってるじゃねえか、そのメイド服。それ、趣味なのか? 趣味なのか?)

 

 思わず心の中で、同じ言葉を繰り返すリムルであった。

 

 そんなルミナスの背後に直立不動で立つ、アルノーとバッカス。

 主従逆転したかのようなその光景は、どこかシュールでいて、シックリくるものがあった。

 

 恐らく、ルミナスの放つ覇気のせいなのだろう。

 

「さて、貴様達とは不可侵条約を締結しておるわけだが……足りぬな」

 

 開口一番、ルミナスはリムルに向かってそう言った。

 リムルが何かを言う間もない、それどころか椅子にすらまだ座っていないにも関わらずの言葉だった。

 

(やれやれ。性急な性格だと、ツキハとコハクから聞かされていたけど、これほどとはね。まあ、俺もそう感じてはいたんだけどね)

 

 リムルは呆れつつ、進められてもいないが椅子に座り、ルミナスに問い返す。

 

「で、足りないって、何がだ?」

「何がではないわ。そんなもの、決まっておろう。交流が、じゃ! 相互に干渉しないという条約では、互いの交流が出来ぬであろう?」

「え、いや、そんな事はないと思うよ……?」

 

 リムルは、ルミナスの言いたい事は何かと考えつつ、状況整理をする。

 軽く『思考加速』をかけつつ、思案に(ふけ)ていく。

 

 

(足りないって……これ以上の事はあるかどうかだが……。不可侵条約は正常に機能しているし、西方聖教会も神聖法皇国ルベリオスに含まれているから、西側諸国での俺達の立場も向上しているハズ。これは大変ありがたい話だし、問題はないんだけども、交流と考えるならば、確かに国交がないに等しい。何しろ、両国の距離が離れすぎてるからなぁ……)

 

 どうにも足りないモノが思いつかないリムル。

 

(うーん……国家としての貿易はなし。流通関係は、商人と国家の力関係に委ねられる市場原理に任せているからなぁ。まあ、何も取引が行われていないというと、それは違うし。ミョルマイルに頼んで行商人を頼んでいるし、ガットエランテにも協力を(あお)いでいる。うーむ……)

 

 そう、リムルは向こうからやって来るのを待つのではなく、こちらから動く、を、していたのだ。

 

 当然市場調査もしている。

 

 神聖法皇国ルベリオスの特産品。

 

 リムルが仕入れた情報には、神聖法皇国ルベリオスは農業大国であり、上質の麦を中心とした穀物などを大量に産出し、西側職への輸出も行っていたのだ。

 

 麦は、シャルフューズと自国の農業協同拡大計画があるので、そうは必要とはしないのだが、ルベリオスで生産するジャガイモや豆類の(たぐい)は、サンプルを調べてみたら、かなり上質で味も良好だった。

 

 しかし、魔国に輸入したいと考えるも距離の問題もあり、国家としての取引を持ち掛ける前に、その問題を解決しようと考えていたリムルだったのだ。

 

 というのが現状で、今のリムルに思いつく事はなかった。

 

 リムルが『思考加速』を解除したその時。

 

「察しの悪いヤツめ。それとも、(わらわ)()らしておるのか?」

「え? いやいや、そんなつもりはないって(ちょーッ! コハクが、こうなったルミナスに、下手に言い訳をかますと、えらい事になるって言ってた気がする……。いや、間違いなく、ヤバイ……)」

 

 リムルが慌てて否定し、脳内で焦りまくっていると、ルミナスがイライラしたように溜息を一つ()いた。

 

「交流といえば、文化であろう? 正直、貴様達を見縊(みくび)っていたわ。我がルベリオスが保護しておる人間共は、芸術関係の才能に乏しいのじゃ。故に、そこまで期待しておらなんだが、先程の演奏は見事であった。アヤツ(コハク)だけは、認めたくはないが、あの踊りも情熱的で見事と、言うしかない。今日一日で、(わらわ)は認識を改めたぞ。特に、貴様達に対してな」

 

(おおっと、べた褒めされちゃったよ。しかし、コハクの踊りも褒めるけども、どこか割り切れないものが滲み出ているな。あれは仕方ないか、何せ、ヴェルドラとツキハとコハクで、ルミナスの都を破壊したんだから、割り切れというのが無理な話だと思うわ)

 

 ルミナスの言いたい事を理解したリムル。

 

 そう、ルミナスは文化の交流を要求していたのだ。

 

 ルミナスも楽団を抱えていて、その者達との交流を通じて互いを高め合いたいとう話なのだろう。

 

吸血鬼族(ヴァンパイア)にも、芸術に通じる者がいる。古き音楽を継承しつつ新たな創作に励んではおるのだが、最近はマンネリでな。そこで思ったのだ。貴様達との交流は、良き刺激となるだろうと、思うてな」

「それはいいな! こちらとしては、願ってもない話だよ」

 

 リムルとしては断る理由がないので、その申し出に快諾する。

 今後の両国関係を苦慮しても、良い影響があると判断しての事だった。

 

「うむ。それではそのように、話を進めるとしよう」

 

 満足そうにルミナスが頷く。

 

 そして、そのタイミングで、老齢の執事ギュンターがルミナスとリムルの前に紅茶を差し出す。

 リムルの背後に立つベニマルとシオンにも、召使達が飲み物を用意していた。

 

 この遅い対応は、ルミナスが性急に話を始めたせいで、彼等の給仕が間に合わなかっただけだったのだ。

 

 そんな給仕達を、冷たく一瞥するルミナス。そこには絶対的な上下関係があると思ったリムルだが――

 

「良かったな、これでお前達もアレを楽しめるぞ」

 

 と、ルミナスが尊大に給仕達に声をかけたのだ。

 

 声をかけられた給仕達は、「ありがとう存じます」とか「楽しみです!」などと、嬉しそうに答えていた。

 その声はとても弾んでいて、本心からのものであるのは間違いなかった。

 

(ふーん。ルミナスへの敬意は感じるのみで、恐怖の感情は、抱いてないようだな。ん? あの給仕達って……) 

 

 リムルは給仕達を見てそう感じてよく見ると、全員が吸血鬼族(ヴァンパイア)だったのだ。

 

 妖気(オーラ)を完全に遮断し、人と区別できぬほどに力を制御する技量は、恐らく上位個体なのだろうとリムルは判断した。

 

(ここにいる数名だけでも、一国を落とす事が出来るんじゃないか? そんな者が給仕をしている現実は、世の不条理を感じるというか、いや、うん、これシャルフューズにも当てはまるかも知れない。こっちはちょっとした国が落とせるだろうけど、あっちは、攻め入った者達が、いきなり豹変した住人達に殺される光景しか浮かばないものな。ってかさ、何で俺の周りは、こんなのがゴロゴロいるんだ? 何で?)

 

 と、リムルは世の不条理について考えるも、そもそも自分の周りは、どうしてこうなんだと自答してしまう。

 

「それでギュンターよ、夜想宮廷(ナイトガーデン)に戻ったら、手続きを頼むぞ」

「御意」

 

 ルミナスはギュンターの返答を聞くと、紅茶を一口優雅に飲み、そして。

 

「そうそう、あの技術発表も中々面白かった。魔素の影響を分析しようなどと、面白う事を思い付くものよ。それに、〝とある人物〟というのが気になるが、その者は、この国の者なのか?」

「いや、違う。俺も詳しい事は聞かされてないんだよ」

「ふむ。そうか」

 

 ルミナスに〝とある人物〟の事を聞かれ、リムルは咄嗟(とっさ)に否定した。

 そんなリムルの表情を読み取るかのように一瞥(いちべつ)すると、ルミナスはそれ以上の追及をしてはこなかった。

 

(ヤバッ、何気に教授の事を聞いて来たよ。思わず否定したけど、危ない危ない……)

 

「まあ、良い。それよりも、(わらわ)の配下にも研究好きの変わり者がいる故、その者達をここへ派遣しようと思うのだが、良いか?」

 

 リムルが教授の事を追及されず内心ホッとしていると、どこか機嫌良さそうにルミナスがそう言ってきた。

 

 そんなルミナスにリムルは、詳しく話を聞いてみた。

 

 すると、ルミナスが言うには、表に住む人間達の文明度は低いままだが、地下にある本国ではかなりの技術レベルを有していると説明するルミナス。

 

「意外だな、もっと堂々としているんだと思っていたんだけど……」

(わらわ)は面倒事が好かぬ。あまり目立つと、あの忌々しいトカゲ(ヴェルドラ)ネコ共(ツキハとコハク)に見つかる恐れがあった故にな。それに、天使共に邪魔されるのも気に喰わぬ。あの者共を一掃するまでは、大事な研究は地下で行わせていたのじゃ」

 

 自慢そうに言うルミナス。

 

 何でも、魔王達の中でも最も国力に富んでいるのがルミナスなのだ、と。

 

(国力ねえ……。うーん、ツキハとコハクの迷宮領地の事を知ったら、また話がややこしくなりそうだよな。いや、多分、間違いなく荒れるわ、ルミナスが……)

 

 それを聞いたリムルは、シャルフューズの事は決してルミナスには明かさない方が良いと、いつまで隠し通せるかはわからないが、当面は秘密にしようと心に決めたのだった。

 

 吸血鬼族(ヴァンパイア)は、人間と異なり、耳長族(エルフ)を超える長い寿命と不死性をもつ。

 しかも、上位個体になると食事すら必要とせず、人間の生命生気(ライフエナジー)を僅かに奪うだけで生命維持が可能なのだ。

 

 しかし、そんな彼等にも弱点がある。

 

 吸血鬼族(ヴァンパイア)が夜の支配者と呼ばれる理由の一つ。

 夜には絶大な力を発揮するが、太陽光を浴びると消滅してしまうのだ。

 

 リムルの元いた世界では、空想の産物だったのだが、弱点は同じである。

 これを知った時にリムルは、自分が元いた世界では空想でしかない吸血鬼族(ヴァンパイア)の弱点が、この世界に実在する吸血鬼族(ヴァンパイア)と同じである事に、少なからずとも驚いたのである。

 

 そう、異世界ならではの、別の属性と弱点があると思っていたからだ。

 

 リムルはこの時、ひょっとして、自分の元いた世界とこの世界は、何らかの接点があるのではないか、と考えたが、余りにも突拍子もない考えだったので、頭の隅に放り込んでいたのだった。

 

 そんな重大な弱点があっても尚、危険な存在が吸血鬼族(ヴァンパイア)なのだ。

 

 だがしかし、上位種族のなかでも力のある個体――

 ルミナス配下の中でも貴族階級に属する者達の中には、太陽光という弱点を克服した者がいる。

 

 それは、〝超克者〟と呼ばれ、夜だろうが昼だろうがどのような場所でも活動可能。

 数は少ないそうだが、弱点のない吸血鬼族(ヴァンパイア)など、人類にとっては悪夢であろう。

 

 (ちな)みに、この場にいる給仕達も〝超克者〟だった。

 ルイやギュンターほどではないにしろ、厄災級(カラミティ)に相当する実力だ。

 

 ルミナスに仕えていながら給仕は趣味で、今回は護衛の役割も担っていたのである。

 

 そう、言ってみれば〝超克者〟とは、弱点が無くなり暇を持て余した者達ともいえた。

 

 そんな彼等だからこそ、趣味で色々なモノを好き勝手に作っている者いるらしい。

 

 競うようにゲテモノを作り、ルミナスの寵愛(ちょうあい)を求めて()まないのだ、と。

 

「正直言って、うっとうしいのじゃ。もっとマシなモノを開発せよと命じてはおるが、固定観念に囚われ過ぎておるのか、アヤツ等は進歩というものを知らぬ。貴様に預ける故、少し教育をしてやって欲しいのじゃ。それに、〝とある人物〟がいてくれれば、(なお)いいのじゃがのう」

「うーん、それは構わないけど……。それと、言っとくけど〝とある人物〟に関しては、俺は知らないぞ」

 

(まず、本人達を見ないと、トラブルになりそうで少し心配だ。〝超克者〟って支配階級だよな。そんな者達が俺の国で研究となると、どんな問題があるか予想もつかないな。それにしても、ルミナスのヤツ、〝とある人物〟が俺の国と関りがあるのを見抜いてるんじゃないか? さりげなく〝とある人物〟の事を持ち出して来るし、ほんと、長命な女性は怖いよ、まったく……)

 

 そんなリムルの迷いを見抜いたのか、ルミナスから更なる提案がなされる。

 

「無論、褒賞は用意するぞ? 貴様に一つ、技を授けようではないか」

「え、技?」

「そうじゃ。〝信仰と恩寵(おんちょう)の秘奥〟を、そなたに授けてやるぞ?」

 

(何、それ凄そう! 酔えるようになる技術とかよりも、ヤバイモノに感じるぞ)

 

「それって、どういう?」

「何、簡単なものじゃ。貴様を信じる者が、貴様の力の一部を行使出来るようになる。という技じゃよ」

 

 ニンマリと邪悪に(わら)って、ルミナスがリムルに告げる。

 

(おいおい、そんなヤバそうな技を、大勢のいる前で――)

 

《告。個体名:ルミナスによって、この場は『空間断絶』されております》

 

 リムルの焦りを遮るように、智慧之王(ラファエル)から指摘されたリムル。

 

 ルミナスとリムルのいる空間は、完全に周りとは遮断されていたのだ。

 自然な動作で能力(スキル)を行使するのは、流石は最強たる魔王の一角と言わざるを得ない。

 

 これで二人の声は、周りには聞こえないのである。

 

「それを俺に教える見返りとして、俺の国でお前のとこの研究者を受け入れる、それでいいのか?」

「そうじゃ。もっとも、楽団の交流だけでも(わらわ)は満足なのじゃ。これは言ってみれば、貴様への礼じゃ」

「わかった。その提案を受け入れよう」

「ふふっ、契約成立じゃな」

 

 こうして、リムルはルミナスからの提案を受け入れたのだった。

 

 

 〝信仰と恩寵(おんちょう)の秘奥〟とは、簡単に言えば<神聖魔法>の原理そのものである。

 

 リムルの〝名〟を媒体として、術者が魔法を行使可能になるという秘術だったのだ。

 

 ヒナタや聖騎士達は、ルミナスの名の下に<神聖魔法>を行使しているという訳なのだ。

 それはつまり、ルミナスの力の一端を借り受けているという事になる。

 

 今回リムルがその原理を教わった事で、リムルの配下達にも<神聖魔法>の使い手が増えそうである。

 これに自力で辿り着いたシュナは、ある意味、魔法に関しては天才的なモノを持っているのだろう。

 〝忍魔術〟、<神聖魔法>と独自解釈で覚え、そして最初から使えている妖術、コハクがリムルの配下の中でもシュナに関しては、油断のならない魔物と警戒するのは、無理もないかも知れない……。

 

(なるほどなぁ……。コハクが<神聖魔法>を行使できたのは、この原理だったのかあ。アイツに聞いた時は、今度機会があれば教えてくれるという事だったけど、これは意外な報酬じゃないか! 多分、絶対にこの情報を売り付けてきただろうな。間違いなく『ほな、これだけもらいましょかぁ』とか、言ってな)

 

 この思ったよりも大きな報酬に、リムルも思わず驚いたものだが、ルミナスはルミナスで、ちゃんとした計算の上での交渉だったようだ。

 

「俺としては嬉しいが、本当に良かったのか?」

「構わんよ。どうせ貴様なら、数年もせずに自力で真理を悟ったであろうしな。まあ、その前にコハクのヤツが貴様に、この情報を高値で売り付けるじゃろうて。だから、問題はない。情報とは、価値が高い内に利用するものぞ? ふふっ」

 

《……》

 

(なるほどな。コハクに対する、意趣返しみたいなものか。あの時の貸し一つは、一つ。これとは、別のものという事ね。やっぱり魔王は魔王だな。くくっ。それにしても先生(ラファエル)の悔しそうな様子からするに、数年もかからずに実用化が可能だったのだろうね。それも、コハクにも教えてもらわずに。確かに、〝魔素〟とは何かという研究や、ヒナタとの戦いで得た〝霊子〟の情報。これを組み合わせて突き詰めていくと、真理は自ずと見えて来るというもの。俺には無理だが、先生(ラファエル)には可能だろうね) 

 

 と、そう考えるリムル。

 

 そして、ルミナスはそれを見抜き、リムルに恩を売る形と、コハクに意趣返しをするという事で暴露しただけだったのだ。

 

 (のち)に、コハクが猛烈に悔しがったのは言うまでもない。

 

 

「そうか。まあそれでも、感謝するよルミナス」

(わらわ)としては、約束さえ守ってくれれば良い」

 

(ふう……コハクとはまた別のプレッシャーがあるな。この世界の強者(つわもの)との取引は、なかなかに骨が折れる。俺もまだまだ、だな)

 

 そう思いつつ、リムルはルミナスと握手を交わした。

 

 こうして、魔国の楽団は夜想宮廷(ナイトガーデン)に招待してもらえる事になったのだ。

 そして、その代わりに、ルミナス配下の〝超克者〟、上位貴族達を、魔国の研究員として迎える事になったのだった。

 

 ルミナスが『空間断絶』を解除した後も、何事もなかったかのようにその場は落ち着いていた。

 

 それからは、ルミナスと共にお茶を楽しみ、音楽交流についての話題で盛り上がった……。

 

 そして最後に。

 

「ところでリムルよ。貴様が招いた来賓共の中に、少し不快な気配を纏う者共がおったが、気付いておるのだろうな?」

 

 まるで口調を変えず、何でもない事のようにルミナスがそう言った。

 

(……一瞬何の話かと思ったけど、やはりな、気のせいではなかったという事か。という事は、勿論ツキハとコハクは気付いているだろうから、既に眷属の誰かを動かしているんだろうな。だが、もう一つの気配は何だ? 微かに見え隠れする気配というより、他の気配に紛れ込ませている? まるでアイツ等みたいに気配を操る、何か、か) 

 

 リムルは、ルミナスからの忠告と受け取り、次の言葉を返す。 

 

「ああ、二人(・・)と、 それと、もう一つ、不確かな〝何か〟、かな?」

「ふむ。腑抜けて油断しておらぬのなら、それで良い。アヤツ等(ツキハとコハク)も気付いておるだろうから、八星魔王(オクタグラム)の名を(おとし)めぬよう、せいぜい心掛けるが良かろう」

 

 ルミナスのこの言葉が会談終了の合図となり、リムルはその場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 ★★ギメイとギメコの鉄板焼き屋台★★

 

 

 首都リムルの中央通りに位置する大通りの両側に、様々な屋台が立ち並び、大勢の賑わいを見せていた。

 

 来賓達もお忍びでこの屋台通りにやって来て、従者に言い付けて屋台の食べ物を買って楽しんでいた。

 

 どの屋台も盛況で、リムル一押しのファーストフード屋台も人の列を生み出していて、屋台の店主も客の注文を捌くのでてんやわんやである。

 

 ヒナタも子供達を引き連れて、好みの屋台を網羅すべく、屋台巡りに(いそ)しむ。

 

 そこで一際目を引く屋台があった。

 

 周りには客で溢れかえっている屋台。

 

 屋台の看板には、〝ギメイとギメコの鉄板焼き〟と書かれていた。

 

 屋台の中では、一人の優男風の男が、丸い物体を鉄で出来た串で器用にひっくり返しながら、次々と焼いていた。

 

 着ている服は、白の無地Tシャツに黒のアウトドアタイプのクォーターパンツで、魔獣の皮のサンダルを履いていた。

 

 この男は、ヴェルドラこと、ギメイである。

 

 ギメイは、焼き上がった丸い物体を竹の皮に八個入れて手伝いの男に手渡し、受け取った男がソースを振りかけカツオブシを(まぶ)してから客に渡し代金を受け取る。客のお好みでマヨネーズもかけていた。

 

 この焼き上がった物体は、タコ焼き用の鉄板で作ったタコ焼きである。

 タコは、北側の海までツキハとサンコが獲りにいった、食用にもなるタコであった。

 

 ちなみに代金は、銅貨三十八枚である。

 

 そして、その隣で同じく、魔人の猫娘少女が三人、忙しそうに動いていた。

 

 一人はギメコこと、ツキハであり、後の二人は、ニコとサンコである。

 この二人は、ツキハの手伝いで駆り出されていたのだった。

 とりあえずニコとサンコには偽名はなく、ツキハの妹という設定になっている。

 

 そして、何故ギメイとギメコになったかは、単純に屋台で実名を出すと、ツキハはもとよりヴェルドラは確実にパニックが起こる事は間違いなしという事で、リムルにより〝本名出し禁止〟と、きつく言われていたのである。

 

 そこでツキハが、偽名はどうするとヴェルドラに尋ねたら、そのままで良いではないかとヴェルドラが言って、ヴェルドラはギメイと名乗る事になり、ツキハは別の名を考えると言った矢先、ヴェルドラがギメコで良かろうと言ったのに対して、「そんなアホな名を名乗れるか!」と返すも、「〝ギメイとギメコ〟、良い響きではないか、これに決めたぞ、ワハハハハ」と、ツキハの抵抗空しく決まったのだった。

 

 三人が着ている服は、白のTシャツにデニム生地のショートパンツに、ヴェルドラと同じの魔獣の皮のサンダルを履いていた。

 

 そして、三人のTシャツの表には、異世界の言葉の日本語で何か文字が書かれていた。

 

 ギメコことツキハのTシャツには、〝忘れんじゃねえよ〟と。

 サンコのTシャツには、〝猫にお説教〟と。

 ニコのTシャツには、〝猫の耳にお小言〟と、書かれていた。

 

 どれも意味不明ではあるが、異世界の言葉なので誰にも読めない。

 ただし、異世界人の日本人には読めてはしまうが、そこは問題にはしていないのだろう。

 

 ギメコの鉄板焼きには鉄板に薄く線が引いてあり、縦五つ、横六つの、碁盤の目のように区切られており、計三十個の焼き物が作れるようになっていた。

 

 ギメコはオリーブオイルを鉄板にダーッと垂らし、それを刷毛(はけ)でまんべんなく鉄板に広げていき、その後に水で()いた小麦粉の汁が入った注ぎ口のついた手桶で、線が描かれている鉄板に落としながら広めていった。

 

 それが終わると、刻んだキャベツが入った大きな桶を左脇に抱え、右手で山盛りのキャベツを縦に五つ、横に六つと並べ置く。

 

 次に、ソースで(あらかじ)め焼いたヤキソバを同じくキャベツの上に載せていき、ヤキソバを載せ終えると、全体に天かすを振りまき、続いて厚めの羊豚(ヨウトン)のスライスした肉を二枚づつヤキソバの上に置いていった。

 

 そして、また小麦粉の汁を一枚づつに振りかけ、全部に振りかけ終えると、両手に大きな鉄板焼き用のコテを持つ。

 

 そこで、左手に持ったコテの先を鉄板に対して並行に置き、右手に持ったコテは、左手のコテの先に合わせて斜めに置いて、一気に縦に切れ目を入れていき、それを五つ引く。続いて同じ要領で今度は横に切れ目を入れていき、それを四つに区切るように切れ目を入れる。

 

 今度は、これを一枚ずつひっくり返し、焼いてるモノを全てを覆うように簡単な『結界』を張り巡らせ、押すように蒸し焼きみたいにする。これで計三十個のモノが出来る寸法だ。

 

 ほどよく焼き上がると、一枚ずつ半分に折りロール状にして、隣の空いたスペースに一枚ずつ置いていった。

 全部が置き終わると、今度は先ほどまで焼いていたスペースを使い、毒抜きしたケガモ(鶏鴨)の卵を割り投げ置き、目玉焼きを作る。

 

 権能『重力操作』を使って、ふわりと置き並べられた卵は、綺麗な円形を保っていた。

 サンコが、ギメコの置いた出来上がったモノに、刷毛(ハケ)で表面にソースを塗っていく。

 そして、焼き上がってであろうほんの少し半熟さを保った目玉焼きを、ギメコがその上に載せていった。

 更にその上一枚ずつにカツオブシを載せていき、瓶に入ったソースを逆さまに持ち、線を引くように全部に振りかけていった。瓶の栓にはコルクが使われていて、一つの穴が開けれていた。

 

 最後に、竹筒に入ったマヨネーズを、水鉄砲の要領で押し出し、三つの線を引くようにマヨネーズをかけていった。

 

 これで完成である。

 

 そう、ギメコの作っていたのは、リムルが元いた世界の日本の広島で食べられていたお好み焼きを、屋台用にアレンジしたものだったのだ。

 

 ギメコの隣では、妹役のサンコが、出来上がったモノを客に売っていた。

 ニコはギメコの後ろで、物凄い早さでキャベツを千切りにしていた。

 

 次から次へと売れる、タコ焼きとお好み焼き。

 

「ぬおおおおお! 作っても作っても追い付かぬぞ、ギメコォ――ッ!」

「その名を叫ぶな、ギメイ――ッ! こっちも同じだわッ!」

 

 忙しなくタコ焼きとお好み焼き作る、ギメイとギメコ。

 

 作り続ける事三時間、ようやく人だかりも落ち着いてきたところに、あるお客が来訪する。

 

「そこの貴女、そのお好み焼きというものを一つ、頂けるかしら」

 

 サンコに声をかけて来たのは、長めの金髪で十歳くらいの貴族の娘風の服を着ていた少女だった。 

 

「にゃあ? 一つでいいのかにゃ?」

「ええ、その通りよ」

「ちょっと待つにゃよ」

 

 ちょうど出来上がって来たお好み焼きにカツオブシを振りかけ、ソースとマヨネーズをかけると、竹の皮の包みにお好み焼きを包んで、その少女に手渡すサンコ。

 

「はいどうぞにゃあ、お代金は銅貨四十枚にゃ」

「あら、安いわね。では、これで」

 

 その少女は銅貨四十枚をサンコに渡した。

 

 ちなみに、この世界の現状での国家的概算貨幣価値は、リムルの元いた世界の日本の円に換算すると――

 

 銅貨一枚・(約十円)

 

 銀貨一枚・(約千円・銅貨百枚)

 

 金貨一枚・(約十万円・銀貨百枚)

 

 星金貨一枚・(約一千万円・金貨千枚)

 

 と、概ねこのような感じである。

 

 

「ちょうど頂くにゃ。じゃあ、これどうぞにゃあ」

 

 サンコが、出来立てのお好み焼きを渡す。

 

「ありがとう」

 

 そう言うと、少女はお好み焼きを手に持って、その場から去っていった。

 

 立ち去る少女の後姿を目で追いながらサンコは、ツキハに『思念伝達』で話しかける。

 

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『にゃあツキハ様。あの子供、シルトロッゾ王国の来賓にゃよ。あの一族の娘にゃ』

『そうだねえ、ロッゾ一族の者だね。まさか孫娘を代表で寄越すとは、喰えない(ジジイ)だわ』

 

 両手に持ったコテを、カキンカキンと合わせ打ちながら、めんどくさそうに言うギメコ。

 

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『手っ取り早く、ぶっ殺すにゃ?』

『それは駄目。一応来賓として招かれてるから、何かあったらリムルの責任になる。だから、絶対に手を出すんじゃねえぞぉ』

 

 お好み焼き作る手を止めずに、サンコに釘を刺すツキハ。

 

『にゃあ、でも、もの凄く不穏な気配をだしてるにゃよ』

『まあ、ここで何かをするつもりはないよ。事を起こすべく手札が、ここにはないからね、一枚(・・)しか』

『ならぁ、私が監視しようかしらぁ』

 

 いきなりキャベツを切る手を止め、ニコがどこか楽しそうに言った。

 

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『ニコ、アンタはもっと駄目。いいから、大人しくキャベツを切ってな』

『ええー、もう、飽きたんだけどぉ。そろそろ、お肉を切りたいかしらぁ』

『何の肉を切るのよ、アンタは! とにかく、二人とも手を出さない、いいね?』

『にゃーい』

『はぁーい』

 

 とりあえず、ニコとサンコの暴走を止めたギメコことツキハ。

 

 先ほどの少女は、屋台から離れたベンチに座り、人の流れを観察していた。

 

(ふーん。中々に反映してるんじゃないかしら。魔物のくせに、生意気だわ。御爺様に言われて来てみたけれど、予想以上の発展ぶりだわね。それに、この国に入国したガットエランテの動きが、通常通りの動きしか見せてはいない。グレーはグレーなんだけど、黒に近いグレーなのは間違いないのよ……。でも、荷馬車も行商人達が止めている敷地に置いてあるし、傭兵商会ルヴナンとの接点も見えては、こない……。やっぱり、考え過ぎなのかしら……それとも……)

 

 この少女は、マリアベル・ロッゾ。

 

 招待された来賓客として、シルトロッゾ王国の代表の一人として魔国連邦(テンペスト)に訪れていたのだ。

 

 敵情視察を兼ねての来訪だった。

 魔国に来てからは、見るもの全てが新鮮であり、どこか懐かしさを覚えるものもあった。

 

 マリアベル・ロッゾは、〝異世界転生人〟である。

 元はヨーロッパ諸国で経済を牛耳るほどの影響力を持つ人物であったのだ。

 

 ロッゾ一族の希望、〝強欲〟のマリアベル。

 

 そして、この世界の経済支配を、企む者。

 

 今、何を思い、何を成そうとしているのか、それは、遠からずわかるであろう。

 

 暫くして、マリアベルは自分の泊まる高級旅館へと、人込みの中に紛れ帰って行った。 

 

 

 一方、忙しさのピークが過ぎたのを確認したギメコが、サンコとニコに、休憩してきなと言う。

 

「にゃあ! ニコお姉、りんご飴を買いに行くにゃ!」

「サンコちゃ~ん。その前に、ケガモ(鶏鴨)のモモ肉の山賊焼きを買いに行くのよぉ~」

 

 二人は、喜び勇んで他の屋台目掛けて駆けて行き、好きなものを買い漁りだす

 

 するとそこへ、子供を五人引き連れた女性が現れた。

 

「お好み焼きを六枚、もらえるかしら?」

 

 そう声をかけて来たのは、ヒナタだった。

 

「あいよ」

 

 注文を受けてギメコは、手際よくお好み焼きを焼き始める。

 

 

「うおー、お好み焼きだぜ、お好み焼き! まさか、この世界でまた食えるとはな、タコ焼きもそうだけど。これも美味しそうだな!」

 

 ケンヤがタコ焼きをパクつきながら、声を上げる。

 

「もう、ケンヤったら、食べながら喋らない。ほんと、行儀が悪いんだから」

 

 アリスが呆れたようにケンヤに言い放つ。

 

「でも、本当に美味しそうな匂いだね、剣ちゃん」

「そうだろ!」

 

 リョウタがアリスの声をよそに、ケンヤに同意する。

 

「何か不思議な匂いだね。でも、香ばしくていい匂い」

 

 焼き上がったお好み焼きから漂って来る匂いに、ゲイルがゴクリと喉を鳴らす。

 

「……」

 

 皆がワアワアと何か言い合ってる中、クロエだけは、ギメコことツキハをじっと、見つめていた。

 

「はい、出来たよぉ」

 

 焼き上がったお好み焼きにソースとマヨネーズをかけて竹の皮に包むと、子供達から先に手渡していくギメコ。

 

 最後にヒナタに手渡すと、ヒナタが子供達に聞こえないように小声でギメコに話しかける。

 

「ねえ、ギメコって、偽名の事よね?」

「うん、そうだよ」

「ギメイにギメコって、安直というか、何か――」

「皆まで言うな。仕方ないじゃん、ヴェルドラがこの呼び名を気にいったんだもの。あたしは、イヤだと言ったんだからね?」

「はいはい。そういう事にしておくわ。ふふっ」

「うっせえ」

 

 からかうようにヒナタはクスリと笑い、「じゃあね」と言い(きびす)を返し、子供達に向かって、あそこのベンチで食べようかと提案すると、子供達はそれに笑顔で頷き、ヒナタと共にベンチへと向かって行った。 

 

「なんだろね、まるでどこかの先生みたいだわ」

 

 コテを使って鉄板の焦げを()ぎ落としながら、ポソリと言った。

 

 そして、さきほどから自分を見つめる者に声をかける。

 

「ん、追加でお好み焼きが欲しいの?」

「……」

「えーと、あたしの顔に、何かついてる?」

 

 声をかけても、何も言わずにニコニコと、ツキハを見つめ続けるクロエ。

 

(これ、あたしが番外魔王だと、バレてる? まさかね、『猫騙し』を見抜けるはずないし。一体、何者だ、この子?)

 

 訝し気にクロエを見るツキハだが、クロエはそんな事は気にもせずに、無邪気な笑顔見せていた。

 

 そして、唐突に――

 

「間違いない……やっと、やっと会えた(・・・)

「え?」

 

 そう言ったクロエは、笑顔から安堵の顔を浮かべた。

 

 ツキハが、(ほう)けたような声を漏らすと、ベンチの方からアリスが「クロエ、早くこっちに来なさいよー」と、大声でクロエを呼ぶ。

 

「はーい」

 

 アリスに返事を返すと、クロエはツキハに向かってペコリとお辞儀をして、アリス達がいるベンチに駆けて行った。 

 

(えーと、どこかで会ったっけあの子と……いや、あんな子供は知らんし……どこで会ったんよ、ってか、絶対に知らんぞ、あたしは……うん、まったく記憶にないわ)

 

 コテをカチンカチンと、打ち鳴らしながら首を傾げるツキハであった。

 

 

 クロエ・オベール。 

 

 この少女が何故、ツキハの権能『猫騙し』を突破できたのかは不明である。

 いや、そもそも何故どこかであったような口ぶりだったのか?

 

 今は何もわからない。

 

 何かしら番外魔王と因縁を持つ少女なのか?

 

 リムルを慕い、番外魔王を知る? クロエ・オベール。

 

 どこか、波乱を呼びそうな予感を感じさせる少女……。

 

 

 しかし今は、楽しい楽しいお祭りの時間の中。

 

 それらが、不穏なモノ全てを包み込み、穏やかな時間へと導いていく。 

 

 

 楽しいお祭り騒ぎは、まだまだ続いていくのである。

 

 





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