忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。175話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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175話 またか!! 度重なる会議にツキハ激怒?

 

 

 突発的に発生したルミナスとの会談。

 

 問題もなく無事に会談終えた頃には、夕食会の時間となっていた。

 

 

 リムルは何故か、同じ円卓にてヒナタとユウキと共に夕食を食べていた。

 なりゆきでこうなったのだが、リムルは気にもしていない様子で、二人から今日の感想など聞きながら夕食を楽しむ。

 

「いやあ、本気で素晴らしい演奏だったよ。特に、最後のフラメンコなんて、この世界で見られるとはおもわなかったよ。踊っていた女性は獣人なのかな?」

 

 ツキハの権能『猫騙し』で正体を隠していたコハクを、獣人と認識していたユウキ。

 

 ちなみに、屋台でのツキハはヒナタにだけ『猫騙し』をかけていなかった。

 だから、ツキハの正体を見破ったクロエに驚いていたのだ。

 

「うん、そうだよ」

 

 ユウキの問いにリムルは、そうだと答える。

 

「そうなんだ。それよりもさあ、ヒナタも屋台巡りなんてせずに、一緒に来れば良かったのに」

(うる)いわね。私は好きにしていたのだから、別にいいでしょう?」

 

 ヒナタはそう言い訳しながら、あのタコ焼きは意外にフワトロで美味しかったし、お好み焼きもボリュームたっぷりでとか呟いていた。

 

 そんなヒナタが、それにしても〝ギメイとギメコ〟って――

 とか言い出したので、リムルは思わず視線を()らしてしまう。

 

「そうは言ってもさ、あれは本当に聞く価値があるんだって。あの曲は僕も知っていたけど、あのアレンジは圧巻の一言だったんだぜ?」

 

(ナイスだ、ユウキ)

 

 ユウキがタクト質の演奏をべた褒めしたもので、ヒナタの意識がそちらに向いたのだ。

 

「そう、わかったわよ。そこまで言うのなら、明日にでも子供達を連れて聞きに行ってみるわよ」

 

 と、満更でもなそうに答えるヒナタだった、が。

 

「それよりも、魔素とは何か、という研究の方こそ気になるわね。私はほら、回復薬が効かない体質だし、それは体内で魔素を分解してしまうからなのよ。実は、〝回復薬〟にも、効くものと効かないものがあるよのね……」 

 

 どうやらヒナタは、自分にも効果がある回復薬はないものかと、自分なりに色々と研究をしていたらしい。

 

 魔法無効化と言えば聞こえはいいが、それはそれで不便な事も多いのだろう。

 

「確かにさあ、今まであんまり考えた事はなかったかな? 僕だって、魔素の影響は受けているんだろうし――」

「そうね。界を渡った時点で、大量のエネルギーを取り込んでいるはず。それが能力(スキル)となって顕現する者もいれば、貴方のように無能力者もいるのよね。でも、何らかの影響は受けているんでしょう。実際、貴方はこちらに来てから、まるで成長していない――」

「ちょっと、そういう言い方は、止めてくれるかな? 確かに身体の成長は止まっているけどさ、これでも僕だって色々と頑張っているんだぜ?」

「わかっているわよ。相変わらず、直ぐにむきになるわね貴方。ちょっとからかっただけじゃない」

 

 と、ピクリとも笑わず言うものだから、言われた方からは冗談には聞こえないのである。

 

「まあ、いいけどさ。それにしても、リムルさんも面白い着眼点で研究をさせているんだね?」

「いや? あれはアイツ等が、自主的に研究していた内容だよ。だって俺も、今日初めて内容を知ったくらいだし」

「へっ? じゃあ、〝とある人物〟という者も、彼等が見つけてきたという事なのかな?」

「うん、そういう事だな。俺は、その人物の事は何も知らないよ(何気に教授の事を聞いて来るし。何でそんなに教授の事を気にするんだよ、まったく……)」

「本当に? 貴方が命じて研究させていたんじゃないの? しかも、内容も知らずに、各国の重鎮を集めた前で発表させてた訳?」

 

 ユウキとヒナタが、呆れたようにリムルを見る。

 

「あ、このスープ美味しいね」 

 

 そう言いながら現実逃避をしつつ、リムルは言い訳を考える、が……。

 

「だって、しょうがないだろう? 俺は自主性を大事にしたいと思っているんだよ!!」

 

 即座にいい言い訳を考えを思いつくはずもなく、力技で言いくるめる事にした。

 

 しかし、リムルの言葉は通じず、二人から同時にジト目で見つめられてしまう。

 

「う……うん。ちょっとは反省はしている。忙しさにかまけて、内容を確認する事を(おこた)ってた……」

 

 すると二人は――

 

「リムルさんって、凄いよホント」

「ええ、まったくね。たまに貴方が、本気で大物だと思えるわ」

 

(それ、絶対に褒めてないよな。まあ俺も、ちょっと迂闊だったと思ったもの……)

 

 とこんな具合に、ユウキとヒナタから指摘を受けるリムルだったのだ。

 

 そんな感じで夕食会は進み、やがて話題は世間話へと移っていった。

 

 こうして、(おおむ)ね好評の内に開国祭初日の幕は閉じようとしていた。

 

 

 好調な出だしにリムルは手応えを感じ、今回の開国祭の成功を信じて疑わなかった。

 

 

 だが、しかし――

 

 この後直ぐに、リムルはそれが甘い考えだった事を知る事になるのであった。

 

 

 

 ◆◆◆ 報告会という名の会議 ◆◆◆

 

 

 定例報告会の為、皆が会議室に集まった。

 

 例にもれず、ツキハとコハクにも参加をお願いしたのだが、コハクは「仕方ありまへんな」とそれを承諾するも、ツキハは事前に察知して逃亡。

 

 しかし、魔国からは出てはいないだろうと予測し、シュナがツキハを探しに行き、酒場にいたところを確保。

 この間に続き、またも会議に出ろとの要請に激怒するツキハ。

 

 会議室に連行されたツキハは、リムルを見るなり機関銃の如く文句を言い捲る。

 

「この間もやったじゃん! いい加減にしなよ! あたしの楽しい夜の時間を返せ! 出るのはコハクだけでいいじゃん! あんまりあたしを会議に連れ出すと、爆破すんぞ会議室を!!」

 

 言いたい放題のツキハに、皆は一言も口を挟まず傍観し、リムルも苦笑いを浮かべていた。

 そう、ここで何か一言でも返したなら、更に倍返しで文句が返って来る事を、みんな熟知していたのだ。

 

 とりあえず、ツキハの怒りが収まるのを待つしかないリムル達であった。

 

 こういう時のコハクも、何一つツキハにお小言を言わない。

 この状態のツキハを刺激したら、本当に会議室を爆破しかねないと、長年に渡る付き合いから知っているから。

 

 するとそこへ、ツキハを連行してから姿が見えなかったシュナが、リリナと共にワゴンを押しながらお茶を運んできた。

 

 皆の前にお茶を置きながら、完全にキレちらかしてるツキハの前に皿をコトリと置く。

 皿の上には、細長い指を思わせる硬いものが山盛りに載せられていた。

 

「ツキハ様。この会議はあまり長くならないので、ご辛抱を。それと、お酒はご遠慮下さいませ。その代わりに、このフィンガービスケットを召し上がって下さいね」

 

 ニコリと微笑みながらお酒は駄目ですよと、やんわりと釘を刺すシュナ。

 

「え、うん……」

 

 ツキハは酒樽君を取り出そうとした手を止め、皿に盛られたフィンガービスケットを一つ手に取り、口に放り込んだ。

 

 カリッ ポリポリッポリ

 

「うま……」

 

 そう呟くと、ツキハはシュナが置いたお茶を飲み、フィンガービスケットに手を伸ばす。

 

 またも食べ物でツキハの怒りを沈めたシュナ。

 

 それを見たベニマルが、流石は俺の妹というように深く頷いていた。

 

 

 そうすると、後、遅れているのはミョルマイルだけ。

 

 時刻は二十一時を少し過ぎた辺り。

 夕食会が終わって直ぐの時間帯である。

 

 リムルは、早めに報告会を済ませようと、会議を始める前に、シュナとシオンの演奏を褒め、ガビルの発表会についても労いと称賛を送った。

 

 コハクの踊りについても称賛を送ると、コハクは「へぇ」とだけ返すも、その表情はどこか恥ずかしそうであった。

 

(へえー。コハクってあんな顔をもするんだ……って、う、何か(にら)まれた。あんまり見るなってか?)

 

 リムルがコハクをしげしげと見ていると、軽く睨まれたのであった。

 

 そして、リグルドからの報告から始まり、リグルが街の警備の様子を報告した。

 

 ディアブロからは、武闘大会の予選結果の報告を受ける。 

 どうやら、六名の本戦出場が決まったようだった。

 

 続いてソウエイからの報告は、子供達の様子だった。

 

 シャルフューズの住人の親子が付かず離れずヒナタと子供達の周囲に散らばっていて、自分達はその全体を監視していたと告げる。

 

 一見したら普通の親子にしか見えず、まさか子供達の護衛とは誰も思わないだろうとも付け加える。

 

(そうだよなぁ。シャルフューズの子供達って、小さい頃から戦闘訓練を積んできてるんだから、ある意味。異世界〝忍び〟の集団なんだよな、あそこって) 

 

 リムルがそんな事を思っていると、ソウエイからヒナタがかなり買い食いしていたとも告げられた。

 

(ヒナタさん……。貴女は保護者としてどうなんですかね?)

 

 と、内心突っ込まずにはいられないリムル。

 

 こんな感じで、談話と報告を交えながら報告会は進んでいく――

 

 そこへ、青褪(あおざ)めた顔でふらふらとしながら、遅れたミョルマイルが会議室へと入って来た。

 その様子は、何か問題が発生したと思わざる得ない様子だった。

 

「ど、どうもお待たせ致しました」

 

 普段は心臓に毛が生えているのではというくらいふてぶてしいミョルマイルが、今は動揺が隠せないのであったのだ。

 

 シュナがミョルマイルに冷たいお茶を差し出すと、ミョルマイルはそれを一気に飲み干し、深い息を吐き出す。

 

 ミョルマイルが一息をつくのを待って、リムルが問い(ただ)した。

 

「申し訳ありません。大問題が発生しました。実はですな――」

 

 お金がない、とミョルマイルが切り出した。

 

 小売りの商人達が支払いを求めて殺到してきて、その対応に追われているのだという。

 

 それを聞いたリムルは――

 

(いやいやいや、そんなハズはないだろう。クレイマンの居城には結構な調度品が飾ってあったし、それらを全部回収してある。それにディアブロが、ファルムス王国から賠償金として星金貨千五百枚を徴収しているし。それを崩せば、今回の祭りを百回やったとしてもお釣りが来るだろう。なら、何故……?)

 

 そう考えたリムルは、困り顔のミョルマイルに疑問をぶつけてみた。

 

「それがですな、予算の問題ではないのです。魔王クレイマンの遺産は、通貨としては使えません。何故なら、現在の世界共通通貨ではないからです。古代王国の金貨は美術品としての価値は高く、東の帝国では出回ってはいるのですが……」

 

 そう、そのまま通貨として使用出来る国はあるが、正式の通貨としては認められていないのだと言う。

 換金すればいい話であるが、商人達はそれは納得しなかったのだと。

 ちゃんとした通貨であるドワーフ金貨、ドワーフ王国で発行された金貨での支払いを求めて来たのだ。

 

「最初は問題なく、金貨での支払いに応じておったのですが、途中でおかしいと気付いたのです。ですが、その時は後の祭りでした――」 

 

 国庫に金貨がなくなった時点で、ミョルマイルは自分の私財から支払いを行ったと。

 しかしそれにも限りがある、そこで懇意にしている商人達に事情説明を求めたのだという。

 

 すると、驚くべき事実が明らかになった、と。

 

 何と、馴染の店主達が新たに取引するようになった小売商達が、共通通貨での支払いしか認めないと言い出したそうだ。

 

 こういう時普通ならば、現金ではなく証文による支払いも行われる。

 

 利子という概念が薄いこの世界では、一般的に行われる手法であり、互いに損はない取引方法の一つなのだが……。

 

 残念ながら魔国連邦(テンペスト)は建国されて日が浅く、国としての信用がない。

 

 現金での支払いを求められれば、それに応じるしかないのが現状なのだ。

 

 ミョルマイルも、この点は十分に理解していた。

 だからこそ入念に予算管理を行っていて、取引相手も厳選していたのだ。

 

 しかし、保有するドワーフ金貨の少なさにもっと気を配るべきであった。

 

 ミョルマイルの誤算。

 

 ミョルマイルの計算では、もっと大口の取引が絡むとの読みだった。

 だが意外にも、大口の取引が少なかったのだ。

 大口の取引が多ければ、星金貨を崩す事も出来たであろう。

 そのお釣りで十分に支払いが出来たハズだったのだ。

 

 そうでなくとも、長年の付き合いの大店(おおだな)の店主達だから、多少の融通は利くという甘い考えがあったのも否めない。

 

 最悪、証文や古代金貨の支払いに応じてくれると考えてもいた。

 

 ところが小売商達の方が納得をせず、懇意にしている商人達までもが困った状態になっていたのだ。

 

「あー、これ。銭の(いくさ)を仕掛けられてるんじゃないの」

 

 我関せずとひたすらフィンガービスケットを食べていたツキハが、いつの間にか食べる手を止め、ボソリと呟いた。

 

 リムルが、え? というような顔でツキハを見る。

 

「せやねぇ。ファルムス王国から賠償金として星金貨をふんだくったのは周知の事実やさかい。保有するドワーフ金貨の少なさ、そこをつかれたんやろな」

 

 コハクがツキハの言葉に、自分の言葉を付け加えた。

 

 ミリム並みの勘の良さの、ツキハとコハク。

 ミョルマイルが話した内容から、何かを読み取ったのだろう。

 

「なるほど、確かに。それはどう考えても、何者かの意図を感じますね」  

 

 リムルの背後に立っているディアブロがそう言った。

 

 そして――

 

「ワシも、そう思います。まさかこのような方法で、妨害工作を仕掛けてくるとは……」

 

 ツキハ、コハク、ディアブロの言葉に頷くミョルマイル。

 

(そうか、ミョルマイルもこれが、何者かの工作と思っているのか。けど、一体誰だ? その裏で糸を引いてる黒幕は……。ツキハの口ぶりからは、多分その誰かを特定出来ていない……?)

 

「すみません、ミョルマイル殿。何も気づかず、そのような心労をおかけしておったとは――」

 

 リグルドが責任を感じたように、(うな)る。

 

(いや、リグルドはリグルドで、来賓対応に追われていた。それなのに責任を感じるあたり、ミョルマイル一人の問題ではないと感じているんだな。うん、これはミョルマイルの責任ではない。武力での侵攻もあれば、経済での侵攻もあると想定しなかった、俺の責任だ。コハクの言った金貨の保有量かぁ……その誰かは、経済戦争に()けているヤツと、いう事か) 

 

 リムルは、ミョルマイルの意見と、ツキハ、コハク、ディアブロの言った事を頭の中で纏めながら、次の疑問を述べた。

 

「これって誰かが、俺達の信用をなくそうとしている、って事だよな?」

「はい、その通りでしょう。西方諸国評議会が定める国際ルールでは、金品への支払いはドワーフ王国で製造された金貨で行う、とされております。国ごとの独自ルールは御座いますが、今回の小売商共の要求は西側諸国では正当なもの……」

 

 そう、自由組合に所属している商人ならば、こちらの事情も酌んでもらえるだろう。

 

 だがしかし、今回問題を起こしているのは、評議会に所属する正規の商人達だったのだ。

 彼等は各々の国家に所属する者であり、国際ルールに従って行動しているという建前がある。

 

 ならば、魔国独自のルールがあると説明しても、簡単には納得はしないだろう。

 

 むしろ――全員が共謀して、ワザと問題行動を起こしているとも考えられる。

 

 だとすれば、強硬な手段に訴えるのは、逆効果。

 

 相手の思う壺に(はま)るのは、愚の骨頂なのだ。

 

「こちらのルールを押し付ければ、評議会からの反発を招きかねないか?」

「はい。既に評議会に所属しておるならともかく、これから加入しようとするお考えがあるならば、かなり不味い事になりそうですな。傭兵公国シャルフューズみたいに、反発上等、文句があるならかかってこいや、というようならば話も簡単なのですが、おっと、言葉が過ぎました。失礼致しました、皆様方」

 

 つい心情を吐露してしまったミョルマイルが、慌てて謝罪を入れる。

 

 頭を下げつつ、ツキハとコハクを見ると、ツキハは相変わらずフィンガービスケットを食べていて、コハクは優雅にお茶を飲んでいた。

 

 ベニマル以下幹部達も、ミョルマイルの発言には何も気にしてはいない様子だった。

 

(ミョルマイルも相当疲れているな、精神的に。うん、その気持ちはわかるよ。スマン、丸投げして……でも、信じているからな、ミョルマイル)

 

 リムルも、自分の信念に基づいて行動してくれているミョルマイルを親身に心配するのだった。

 

 ここまで来ると、リムルの信用を落とすのが目的なのは、明白だった、が。

 別の目的も含まれているのではと、リムルは考えた。

 

(信用を落とすだけなら簡単だ。でだ、そこから先の目的は何だ? これは、俺達に国際ルールを守る意思があるのか、それを見極めようとする意図も感じられる)

 

「仕掛け人は、評議会の者かな?」

「そうでしょうな。多岐に亘る商人に、コツコツと根回しをするように小売商を紛れ込ませる手口。敵が何者かはわかりませんが、間違いなく大物ですぞ。多少の被害が出る事も恐れぬ、採算度外視の手段です。その目的が、この国の評判を地に落とすだけとは、ワシには到底思えませんわい。これは本当に、厄介ですな……」

 

 ミョルマイルは小国とはいえ、裏世界に名の知れた人物ではある。

 

 しかし、西側諸国全域に至っては、商人同士の会話の中でしか情報を持ってはいない。

 そんなミョルマイルだが、最近では西側諸国全域の経済状況にも明るくなっていた。

 

 ミョルマイルは、ガットエランテの隊長リアナとの会談を、コハクの口利きで度々設けてもらっていたのだ。

 

 その会談という雑談の中で、さりげなく各国の経済情報を聞き出し、自分なりの解釈を築いていた。

 リアナは、さり気なく各国の経済情報をある程度流して、ミョルマイルから取引に対する好条件を引き出していたのだ。

 

 これが商人同士の持ちつ持たれつという関係であり、そこから双方が利益を見出すのである。

 

 その得た情報からミョルマイルは、正体が探れぬほどの相手であり、厄介極まりないと推測したのであった。

 

 そこへ、思い付いたように一人の発言が聞こえた。

 

「なるほど。こちらのルールを押し付ける訳にはいかないのですね?」

 

 シオンの言葉にリムルは頷く。

 

「ああ。なかなか賢くなったな、シオン。こちらのルールを押し付けると、西側諸国では仲間と認めてもらえなくなる可能性がある。人間達とも仲良くしたいと考えている俺達にとって、それは何よりも避けねばならぬ事態な訳だ」

「ですが、リムル様の構想では、サリオン、ブルムンド、ドワルゴン、ファルムス――じゃなくて、ファルメナス、そして魔王ミリム様の魔王領に、ツキハ様とコハク様の傭兵公国シャルフューズ。これらの国々で共栄圏を築き上げるのですよね? その中心にテンペストを置く以上、我々を無視する方が損失が大きくなるのでは? サンコが以前言ってました。自分達がこの国に住み着いたから、大国といえども簡単に手出しが出来なくなった、と。その時に、じゃあ、ここを攻めるなら、どんな手を打って来るかと、サンコが問うてきたのですが……!? なるほど、これが武力無き(いくさ)であり、形態戦争なのですね」

「違う。経済戦争だ(ふあッ? コイツ、本当にシオンか!?)」

 

 流石のリムルもビックリである。

 いつものシオンとは、似ても似つかぬその思考。

 

 偽物なんじゃないかと疑うほどに、リムルの考えを正しく理解していたのだ。 

 

 しかも、いつもツキハからあの子基本バカだからと言われているサンコが、これを予見するかのような発言をシオンにしていた事にも驚いたのだ。

 

 そんなリムルの驚いた顔を察してか、シオンは当たり前のように告げる。

 

「リムル様。まさか、本当にサンコや他の眷属達が、ツキハ様やコハク様の言われるように、本当の馬鹿だとは思ってはいませんよね?」

「え、いや、思っていないが(はい、すみません。日常生活で迷惑ばかりかけるサンコ達を、コイツ等バカなんじゃね? と思っていました。ただの、脳筋戦闘種族じゃないかと……)」

「普段の行動が馬鹿なだけであって、ツキハ様とコハク様の言葉遊びみたいなものなのです。馬鹿を(よそ)いいつつ、常に周囲を窺っている、油断も隙もならない方達なのですよ。でも、私達には一人(ディアブロ)を除いて、絶対的に足りない何かを、気付かせてくれる存在でもあるのです。それに、私にとってサンコはもう、かけがえのない友なのですから。普段は本当に馬鹿で、それでいて、一緒にいて楽しい人ですよサンコは」

 

 シオンのその言葉にベニマルも深く頷き、ソウエイもやリグルド達も同じく頷いていった。

 大なり小なり、眷属達と関わった者達は、同じ考えであったのだろう。

 

(え、みんな気付いていたの? 俺だけ気付いてなかったのかよ……)

 

 リムル、完全に騙されていた事実に気付く。

 

 だがしかし、普段の行いの馬鹿さ加減も事実。

 そう勘違いさせる何か、素の行動と演技の範疇を超えた何かは、見事と言わざるを得ないのだろう。

 

「クフフフフ、流石は第一秘書シオン殿です。あの眷属達の行動に惑わされずに、よく観察したものです」

「最初は、サンコとの会話も脱線ばかりで、本当に馬鹿なんじゃないかと思いましたね。でも、付き合う内に、その本質がチラリと見えて来たのですよ、微かにね。でも、やる事が素で馬鹿なのですから、始末に負えません。ふふっ」

「上出来です。それに気付かずに、数多の命があの者達に狩られていった事か。馬鹿は馬鹿を(よそ)えない。まあ、基本馬鹿だとは思いますけどね、(あるじ)と一緒で。クフフフフ」

 

 さりげなくツキハとコハクを、ディスるディアブロ。

 

「ディアブロ、表出るか?」

「そっ首、落としてやりますえ」

 

 ニコニコと、目が笑ってない笑みで吐き捨てるツキハとコハク。

 

「ほらね。安い挑発にも意気揚々と乗って来る。これに騙された者の末路は、何と憐れな事か。クフフフフ」

 

 どこか嬉しそうに笑うディアブロ。

 

「おっと、話が逸れてしまいましたね。申し訳ありません、リムル様」

「お、おう」

 

 どこか置いてきぼりを喰らっていたリムルが、慌てて返事を返す。

 

「シオン。話を戻しますが、貴女の推測は正しい」

「だろう? だったら何故、我々の邪魔をしようとするのだ? 無視が出来ないのならば、協力して心証を良くする方が得策ではないか?」

「人というのは、実に不思議な生き物です。協力しなければ生きていけぬ癖に、仲間内で上下関係を決めたがる。だから、二つ以上の集団が隣接した場合、どちらが上に立つかでまた揉めるのです。弱くて憐れな者達。全くもって愚かで、度し難い生き物です。自らの権益を損なう事を非常に恐れているのでしょう。そして今回の場合は――」

 

 ここでベニマルが口を挟んで来る。

 

「ふむ。リムル様が築く共栄圏が、評議会の立場を脅かすと心配しているのか……。ますます、サンコが以前シオンに言った事が現実になったと、いう事だな?」

「正解です」

 

 ベニマルの発言を聞いてリムル以下幹部達にも理解が広がり、憤る者も出始める。

 

「実に滑稽。自らの分を弁えず、リムル様の慈愛を受け入れぬ愚かな支配層など、滅ぼしてしまえばいいでしょう。ねえ、ツキハ。コハクもそう思いませんか」

 

 楽しそうに(わら)いながら、過激発言を飛ばすディアブロ。

 

「いや、あたしらのお得意様まで、殺すんじゃねえぞぉディアブロ。雑魚なら好きにしなよ」

「せやで。殺さず寿命の尽きるまで、搾り取るんやさかい、勝手に殺されたらかないまへんわ」

 

 二人とも一部賛同するも、自分達の金づるまで殺されたら(かな)わないと釘を刺す。

 

 そこへ。

 

「フフッ、第二秘書もそう思うか?」

 

 にこやかに頷くシオンがいた。

 

「そういうのは却下で(何でこういう時は、息ピッタリなんだよお前達)」

 

 リムルから即釘を刺され、残念そうな二人。

 

「何にせよ、放置は出来ません。その商人達の過去の雇い先を、もう一度調べ直してみましょうか? ツキハ様、コハク様、情報を探る過程でそちらの方とぶつかるかも知れません。宜しいでしょうか?」

「いいよ。皆に言っておくから、好きにやりな。でも、やるなら、急いでも慌てずに正確にね」

「かましまへんで。せやけど、うっとこの邪魔はアカンで? まあ、(せい)いては事を仕損じるという事は、覚えておきなはれ」

「承知しております」

 

 ソウエイの要請に二人は承諾するも、それにリムルが待ったをかける。

 

「待て、ソウエイ。それも大事だが、今は軽率に動かないのが正解のハズ。この問題を乗り切った時、その時こそ徹底的に敵を洗い出そう。それよりもミョルマイル、その支払い期限は何時(いつ)だ? どうにか出来そうなのか?」

「はい。彼等も祭りを楽しんでくれているようで、この開国祭が終わる翌日まで待つ、との事です。ワシの知人達も掛け合ってくれたのですが、残念な事に彼等からはそれだけの期日しか、譲歩を引出せませんでした」

「ふむ。祭りが終わった翌日……今日が初日だから、猶予は後二日。三日後が支払い日、か」

「今現在、ワシの知人達も金策に走ってくれています、多少こちらが損を(こうむ)ろうとも、古代王国の金貨とドワーフ金貨の交換を、と。ですが、流石に直ぐに動かせる金貨が用意出来るかどうかは……」

 

 そう言ったミョルマイルは、下を向いたまま会議室のテーブルの上に置いた両手をグッと握りしめた。

 

(厳しい、か。まあ、そりゃそうだろう。しかしなあ、大量の金貨を運搬するだけでもえらい手間だ。うーん……そうだ! ルヴナンから仕入れた金塊があったわ。あれで偽造金貨を造ればどうだろう? 俺の『解析鑑定』の複写(コピー)なら、ドワーフ王国の技術力でも見抜けない本物そっくりの偽造金貨が造れるのでは!?)

《解。不可能です。ドワーフ金貨には、個々に刻印魔法が施してあります。通し番号による徹底した管理が行われているので、偽造は直ぐに見抜かれるでしょう》

(あ、そうなのか……)

 

 いっその事、偽造金貨を造ればと考えつくも、それは〝智慧之王(ラファエル)〟から、あっさりダメ出しをされるリムル。

 

 リムルは『胃袋』から金貨を一枚取り出し眺めてみると、確かに数字が刻まれていた。

 

(どうするかな……。あ! アイツ等に融資をしてもらうとかは、駄目だろうか?) 

 

 と、今度はそんな事を思い付くリムルである。

 

 そして、下座に座るツキハとコハクを見ると。

 

「ん? 金を貸してと、言わはる顔してるどすな」

「え? いや、うん――」

「ええけど、高いで」

「高い?」

「トイチなら貸したるで」

「は!? 十日に一割って、どこかの高利貸しかよ!」

 

 コハクの利子を付けて貸すとの言葉に、幹部達がザワリとする。

 

 そこへコハクが、追撃するように言葉を続ける。

 

「リムル。アンタのところは、うっとこの情報料や契約料支払いも一部現物支給やないか。流石に国庫が爆発するんやないか?」

「あ、まあ、うん」

「やめときなはれ。いくら契約主であろうと、これはこれ、あれはあれ、やねん。利息は、びた一文まかりまへん。だから、最後まで足掻(あが)きなはれ。アンタは、そこのミョルマイルを信じて任したんやろ?」

 

 コハクはそう言うと、ミョルマイルを見て直ぐにリムルに視線を戻す。

 

(そうだな。コハクの言う通りだ。安直に資金の融資を受けて、国の財政を傾けては、魔国の王として失格だな) 

 

 リムルは思い直すと、コハクの顔を真っ直ぐに見た。

 

「お前の言う通りだ。今の事は忘れてくれ」

「へぇ。でもな、そうは()うても――〝捨てる神があれば拾う神あり(・・・・・・・・・・・・・)〟という言葉をアンタは知ってるやろ?」

「ああ。知っている。それは、俺が元いた日本のことわざだからな」

「ほな、そういう事や」

「え、どういう意味?」

 

 コハクは含み笑いを浮かべたままそれ以上は何も言わず、澄ました顔でお茶を一口飲み、ツキハが食べているフィンガービスケットに手を伸ばす。

 

 そして、リムルの後ろに立つディアブロも同じような笑みを浮かべていた。

 コハクがリムルを非難するような言葉を投げつけても、ディアブロは一言も口を挟まなかった。

 

 何故なら、コハクの意図がわかったからである。

 

 コハクの意図とは―― 

 それは、リムル、ひいては魔国とそれに連なる者達の成長を見守る事である。

 

 何故コハクが善なる事をしようとするのか――

 それは、リムル率いる魔国連邦(テンペスト)から得る利益の為なのだ。

 

 ある意味、住み着いてからは早い段階から利益獲得と、諸々の〝権利〟を獲得する為にツキハとコハクは動いている。

 ツキハは既に外食産業や酒造に手を出し、コハクも様々な事を目論んでいて、コレには、あの〝御仁〟もガッツリ絡んでいる。

 

 魔国連邦(テンペスト)が、経済圏の中心になるのは最早(もはや)確定事項。

 

 それにいち早く目を付けた二人の目的はただ一つ――

 

 魔国連邦(テンペスト)の発展に乗っかり銭を稼ぐ事、これに尽きるのであった。

 そして、その助言を二人にしたのが、何を隠そう教授である。

 

 だから、この世界に来てそう年月が経っていないリムルの成長を、一歩引いたところから見守っているのだ――

 自分達と、率いるルヴナン、それに連なる全ての組織の利益の為に。

 

 それを見抜いているディアブロだから、口を挟まなかったのである。

 

 ツキハとコハク、この二人はリムルにとって〝劇薬〟である。

 しかし、使い方を間違えなければ、良薬にもなる、と、ディアブロはそう考えていたのだ。 

 

 そして、ディアブロもまた、リムルの成長を楽しく、いや(うやうや)しく観察する一人なのだから。

 

「うーん……多少の損をしようとも現物、そうだな、金塊で支払うというのはどうだ?」

 

「いけませんぞ」

「それはダメ」

「アカン」

 

 速攻でミョルマイルと、ツキハとコハクの言葉が同時に重なり響き、更に。

 

「リムル様。利に聡い商人にならば、その提案に頷くでしょうな。ですが、ツキハ様コハク様と同じく、その案には絶対に反対しますぞ!」

「そう。それ、いちばんやっちやダメなやつ」

「せや。それな、一番の悪手やで」

 

 良い案だと思ったリムルは、三人に猛反対されて理由を聞いてみた。

 

 ミョルマイルは二人を見ると、ツキとコハクは軽く頷いた。

 

「リムル様。それをやると、足元を見られるからですわい。今後、各国との取引する度に、今回の件が参考となりましょう。無理難題を吹っかければ、損をしてでも取り繕う国であると、相手からそう認識されてしまいます。そうなれば、不平等な取引を仕掛けられ、対等な相手であるとは見做(みな)されません。傭兵商会ルヴナンが、何故、人間を相手に対等に商売が出来るのか、それが答えでもありますわい。まあ、口では美辞麗句を並べ立ててくれるでしょうがね……」

 

 ミョルマイルは苦笑いをしつつ、リムル達にもわかるように説明をしてくれた。

 商人相手に弱みを見せると、とことんまでしゃぶり尽くされる、と。

 

「後二日、それだけの時間で、何とか金貨を搔き集めてみます。この祭りで、参加者の財布の紐も緩んでおるようですし、頑張って攻勢を仕掛けて見せますぞ!」

「頼む」

 

 ミョルマイルは決意も新たに、力強くリムルに告げた。

 

(とりあえず、解決策はない。安易にツキハとコハクに頼るのも駄目だ。これは、俺達が片付けないといけない問題だからな。もうここまで来たら、開き直りの心境だ。相手のルール? まだこっちは評議会には入っていないんだよ。絶対に相手のルールを厳守しないと駄目というのは、ないからな。ここは俺の国、魔国連邦(テンペスト)だ! こうなりゃ傭兵商会ルヴナン並みに、こちらのルールを押し通してもいい。そりゃあ相手のルールを守れれば、それに越したことはないだろうけども。どっちにしろ、相手に損をさせなければいい。対等な条件を、一方的に突き付けてやるまでさ)

 

 と、完全に開き直るリムルであったのだ。

 

「まっ、気にし過ぎてもしょうがない。最悪、俺達のルールに従ってもらうだけだ。難しく考えず、やれるだけの事をやってくれ!」

「了解ですわい」

 

 この言葉で肩の荷が下りたのか、ミョルマイルの表情が少し明るくなった。

 

「って事で、今日は解散! お疲れ!!」 

「やった!!」

 

 リムルがそう宣言した事で、今晩の定例報告会は終了となり、ツキハが喜びの声を上げた。

 

(問題の先送りだけど、まあ、いいだろう。心配し過ぎるのも、良くない。ミョルマイルも心労が重なっているみたいだし、ここは――) 

 

 そう思うとリムルは。

 

「それじゃあ行こうか、ミョルマイル君。それに、君達も」

 

 声をかけられた男性陣に否やはない。

 ベニマルやゴブタなどは、最初から浴衣だったので、遊ぶ気満々だったのだ。

 

 そして、ツキハとコハクにも声をかけるつもりが、既に二人はどこかへと消えていた。

 

(相変わらず、()や)

 

 どこか可笑しくて、フッと口端に笑いを浮かべるリムル。

 

 こうして、リムル達は夜の街へと繰り出していったのだった。

 

 

 ちなみに――

 

 ギメイことヴェルドラとツキハの〝鉄板焼き屋〟で、銀髪の少女が店主と猫娘の少女を交え言い争いをしている光景をリムルは目にした。

 

(あッ……。ツキハ、屋台に戻って来ていたのか。しかしアイツ、屋台やりながら定例報告会を察知したのかよ。もう、勘が良いとかの問題じゃなくね? 君子危うきに近寄らず〟――そう、これさえ守っていれば、かなりの危険や問題を回避出来るのだ)

 

 当然リムルは、華麗にその場をやり過ごし、ミョルマイル達と夜を楽しく満喫したのであった。

 

 

 





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