忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。177話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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177話 ランガちゃん?

 

 

 八名の選手の紹介が終わったら、次はリムルが選手を前に挨拶を行う。

 

 リムルは慌てる事なく優雅に立ち上がると、『空間支配』にて貴賓席から舞台へと〝転移門〟を繋げる。

 

 シオンを従えて〝転移門〟を潜り抜けると、うおぉーーっ!!と地響きのような人々の割れるような歓声が沸き起こる。

 

 リムルはそれに、軽く右手を上げ答えた。

 

 ソーカから魔力式マイクを受け取り、選手達に向き直ると――

 

『さて、諸君。今日の試合を勝ち抜き、明日の決勝で勝利すれば、我が国での栄光を授けよう』

 

 この言葉に、一人を除いて力強く頷く選手達。

 

 そして今度は、一人一人に話しかけるリムル。

 

『勇者マサユキよ――君が優勝すれば、俺への挑戦権を授けよう――』

 

(ま、約束したからな) 

 

 この言葉にマサユキは、少しも嬉しそうな顔をしなかった。

 むしろ、どこか困ったような笑みを浮かべていた。

 

(ふむ。やっぱり、か。何となくだが、俺との戦いを望んではないように思える)

 

 そう思いリムルは視線を次の者に移す。

 すかさずソーカが、ジンライにマイクを渡す。

 

 ジンライに声をかけると、ジンライは『俺は優勝はしない。俺の代わりにマサユキさんがアンタを倒してくれるだろうぜ!!」と言葉を返した。

 

(ああ、なるほど。ジンライはマサユキと当たったら、勝ちを譲る気なんだな)

 

 ジンライの意図を感じ取ったリムルは、次にガイに声をかけた。

 

 ソーカからマイクを受け取ったガイが口を開く。 

 

『おい、魔王よ。俺の方が、そこの〝勇者〟よりも強い!! 俺が優勝したら、俺とも勝負するんだろうな?』

 

(はい? 突然そんな事を言われましても……)

 

 いきなりの言葉にリムルは、何と返したものかと内心戸惑っていると、そこへ救いの言葉が飛び込んで来た。

 

「リムル様に対し、無礼ですよ。そこまで言うのなら、貴方が優勝したら私が相手をしましょう。もしも勝てたなら、その時は私からもリムル様にお願いして差し上げます」

 

 審判役として舞台に控えていたディアブロが、氷のように冷え切った笑みを浮かべて、ガイに向けてそう言った。

 

(おお、ナイスだディアブロ。うん、もう面倒だし、ディアブロにこの件は任してしまおう)

 

『今回は、〝勇者〟との約束がある。だが、他にも俺との戦いを望む者がいるならば、先ずは〝四天王〟を倒して、その力を証明して見せるがいい。その時は、俺への挑戦を認めようじゃないか!』

 

(そうそう、これだ、これ。便利だね、〝四天王〟って。こういう使い方もアリなんだわ。そういえばツキハも、ルヴナン支店の方に、剣の腕に覚えのある者が勝負を挑みに来るのがウザいから、イチコ、サンコにニコ、イチオを倒したら、勝負を受けてやると言うと言っていたのを、思い出したよ。うん、一つ勉強になった)

 

 ここでようやくソーカが、ガイにマイクを渡した。

 

『フッ、上手く逃げたものだ。まあいい。〝勇者〟も、そこの悪魔も、更にこの街に住む悪辣な〝番外魔王〟、そして〝魔王〟も、――この俺の前にひれ伏すと知れ!!』

 

(うわあぁ……何だろう、この勘違いしたような残念な男は。お前、今夜死ぬかも知れんぞ。観客達に混じって見に来てる眷属達から表情が抜け落ちて、〝絶対殺すぞお前〟って顔になってるんだが……。後で、コハクに釘を打ってもらっておかないとな。マジに消されかねん。それに、ディアブロがぶち切れそうだし、コイツとの会話は、さっさと終わらした方がいいな)

 

『〝流麗なる剣闘士〟ガイよ、お前が優勝したら特別に俺への挑戦を認めてやる。それでいいな?』

 

 リムルの言葉に、『いいだろう。その言葉、忘れるなよ』と、仰々(ぎょうぎょう)しく頷くガイ。

 

(どうせ優勝は無理なんだし、安請け合いしても問題あるまい。ほんと、眷属達を出さなくて良かった。確実に舞台上で、なぶり殺しに合う可能性大だわ。はあ、次だ次)

 

 そしてリムルは、ゴズ―ルとメズールに視線を移した。

 

 リムルの視線を受けて、ゴズ―ルとメズールは跪く。

 

『お前達には、期待している。この大会でたとえ勝てなかったとしても、迷宮の支配者となる自覚を持って、決して無駄な戦いをするなよ?』

 

 この、脅しとも取れるリムルの言葉だが、観客の前で逃げ惑う迷宮の主など論外。

 ようするにリムルは、無様な戦いをするなよと、言いたいのである。

 

『御意!! リムル陛下の顔に泥を塗らぬよう、頂いた〝ゴズ―ル〟の名に賭けて、全力をもって戦う事をここに誓いましょう!!』

『同じく。御身の栄光を汚さぬよう、我等もこの国の一員として恥じぬ戦いをお見せする事を、この〝メズール〟がお約束致しますぞ!!』

『うむ。両者の健闘を祈る』

 

(うんうん。ちょっと堅苦しいけど、いい戦いの覚悟だね。さて、次はあの人か)

 

 内心、ぶっちぎりで優勝しそうなんだよなと思いながら、リムルは言葉を述べる。

 

『えーと、獅子覆面(ライオンマスク)さん。とりあえず、無茶はしないで下さいね。では、次の――』

『――おいおい、俺に対して適当過ぎないか?』

 

 リムルが、即次に移ろうとするも、獅子覆面(ライオンマスク)が大きく両手を広げながら、オーバーに言葉を返す。

 

『そんな事はないです。それじゃあ、そういう事で!』

 

 とそれに、にこやかに返すリムルであった。

 

 実際、中の人に何を言っても無駄な気がしたリムルは、本当に無茶だけはしないでねといった意味を込めての言葉だった。

 

(まあ、下手にゴブタとかに当たると最悪なんだよねぇ。実力差があり過ぎるからな。クジに細工をしてもいいんだけど、それがバレたら今後の信用を失うから、ここはクジ運に任せよう) 

 

 そう思いながら次に移るリムル。

 

『ゴブタ君! よくぞここまで残ったね!』

『え、いや、あのう、自分は特別出場――』

『うん。君ならきっと、優勝出来ると信じているぞ!!』

『だから、あの――』

『君の健闘を、心から祈る!!』

 

 ゴブタの発言を華麗に聞き流し、激励の言葉を送るリムルであった。

 

(良し。これでゴブタも後には退けない。ゴブタなりに精一杯、優勝を目指して頑張ってくれるだろう。さてと、残るはゲルドのみ)

 

『ゲルド、お前は強い。その武威を、この大会で存分に発揮してくれ!』

『承知!!』

 

 期待を込めてリムルは、ゲルドに言う。

 

 ゴブタの、自分の時とはかなり違うっすよね――という愚痴をまたも華麗にスルーして、ゲルドへの挨拶を済ませたリムル。

 

 これで選手の紹介が終わり、続いて対戦相手の選定である。

 

 トーナメント方式なので、今日だけで六試合。

 明日の決勝戦を残し、準決勝までを決定する流れである。

 

 三位決定戦は行われないので、明日は決勝戦とエキシビジョンマッチだけなのだ。

 

 ソーカが、長さ二十センチほどの細長い棒八本を握って来た。

 それぞれの棒の先端には、赤、白、青、黄色と色が塗られており、先端部分五センチほどは握られていて見えない。

 

 そして、同じ色を引いた者同士が対戦相手となる。

 

 マサユキからクジの棒を引いていき、ゲルドまで引き終えると、対戦相手が決定した。

 

 結果は―― 

 

 第一試合 ゴズ―ルVSメズール

 

 第二試合 〝勇者〟マサユキVS〝狂狼〟ジンライ

 

 第三試合 〝流麗なる剣闘士〟ガイVSゴブタ

 

 第四試合 ゲルドVS獅子覆面(ライオンマスク)

 

 と、このような組み合わせとなった。

 

 第一試合の勝者と第二試合の勝者が、決勝戦に出る試合を行い、明日の決勝戦に出る選手が決まる。

 同じく、第三試合の勝者と第四試合の勝者が決勝戦に出る試合を行い、勝った者が決勝戦進出者となる。

 

 これで、二名の決勝戦進出者が、明日の決勝戦を戦うのだ。

 

(……マサユキめ、びっくりするくらい幸運なヤツだよ。それに比べてゲルドは、不運過ぎる。いきなり獅子覆面(ライオンマスク)とかよ。うーん……何かおかしい。運命が操作されてるような気がするのは、気のせいか? ゴズとメズは次の戦いに余力を残すような戦いはしないだろう。マサユキと戦う時は、疲労困憊である可能性が高い。それに、第三試合と第四試合を制した者が、優勝決定戦に残る訳で……。そうすると、ゴブタとゲルドがかち合い、マサユキの試金石として機能しない。それに、あちらの組には獅子覆面(ライオンマスク)がいるしなぁ……)

 

 とこんな具合に、愚痴るリムルであった。

 

 

 そんな中、第一試合が開始される。

 

 試合のない選手は舞台から出て、選手控え室に移動した。

 

 舞台中央に残るは、ゴズ―ルとメズール。

 

 両者激しい睨み合いの中、罵り合う。

 

「おう、メズールよ。こんなまどろこっしい事なんか抜いて、最初っから、俺達で決着をつけるべきだったな。まあいい、長い因縁も今日で終わりだ、覚悟しな」

「フンッ。馬鹿を言うな、ゴズ―ル。魔王リムル陛下の前で下で栄光の〝四天王〟の一角を担うのは、この俺、メズール様よ! 貴様如き、敵ではないわ! 迷宮にでも引っ込んで、隠居して大人しく暮らすがいいさ」

「抜かせ! 貴様などが、覇者たる〝四天王〟に相応しいものかよ!!」

「ほざけ、ゴズーーーール!!」

「斧の(さび)にしてくれるわ、メズーーーール!!」

 

 そして、ソーカの開始の合図を待たずに、唐突に二人の戦いが始まった。

 

 お互いに近接格闘型であり、ゴズ―ルが盾と斧、メズールが盾と槍を構えて、激しい戦いを繰り広げた。

 

 一歩も退かない両者の大斧と槍がぶつかり、ガギンッと火花を散らす。

 

 ゴズ―ルの叩きつけるような渾身の一撃を盾で受け止め、凄まじい雄叫びと供に押し返すメズール。

 体勢が崩れたゴズ―ルに、槍の一撃を見舞うメズール。

 

 しかしゴズ―ルは、素早くバックステップでそれを(かわ)す。

 

 盾同士がぶつかり、お互いに弾け合い、後ろに飛び去る二人。

 メズールの高速の槍の突きを盾で受け流し、大斧の横回転を繰り出し一回転するゴズ―ル。

 

 一撃をもらったら、即終了といった攻撃が連続で繰り出される迫力に観客達は沸き立ち、壮絶な魔物同士の戦いに、すっかり魅入られていた。 

 

 何しろ、魔物のAランク同士の戦いなど、一般客や貴族であっても、一生見る事が出来ないのが普通なのだ。

 

 そう、Aランクの魔物など、冒険者でもそうそう相手には出来ないのだから。

 上位の魔物を相手に出来るなど、一部の騎士や上位ランクの冒険者くらいである。

 

 試合が始まってから二十分は近く経過した辺りで、勝負は唐突に幕引きとなった。 

 

「これで終わりだ!!」

 

 大斧を力一杯メズールに向かって投げるゴズ―ル。

 超高速で縦回転をしながら、大斧がメズールを襲う。

 

「ぬおぉ――ッ!」

 

 その一撃は岩をも砕く威力を秘めており、メズールが受け止めた盾ごと左腕を粉砕した。

 

 ひしゃげた盾と共に宙に舞うメズールの左腕。

 

 しかし、メズールは不敵に(わら)う。

 左腕は、敢えて犠牲にしたのだった。

 

 メズールの狙い通り、ゴズ―ルに僅かな(すき)が生じたのだ。

 

 好機とばかりに一瞬の内に、間合いを詰めるメズール。

 

 メズールが回避するものと思っていたゴズ―ルの反応は鈍い。

 

「これで終わりだ!! くたばれ、馬超連槍(ばちょうれんそう)ッ!!」

 

 槍の間合いに潜り込んでからの、回避不能の連続刺突(ラッシュ)――

 

「うがあああ―ッ」

 

 ゴズ―ルに回避出来る(すべ)もなく、容姿のない槍の刺突は、ゴズ―ルの身体に幾つもの大穴を穿(うが)つ。

 

 左腕を犠牲にして、勝利を掴むメズールの作戦。

 

 これで勝負がついたと思われた、その時――

 

「甘いわー! 雷撃角(ライトニングホーン)――ッ!!」

 

 ゴズ―ルの雄叫びが上がる。

 頭の(ツノ)で、メズールに頭突きを仕掛けたのだ。

 

 ゴズ―ルの角は雷光を(まと)い、角が倍以上に伸びていて、その凶悪な角がメズールの右腕と右目に突き刺さる。

 

「うおお――ッ! 吠えろ雷撃ッ!!」 

 

 バリバリッと、メズールの身体を細い稲妻(いなづま)のような電撃が走り包む。

 

 勝負の行方は、ゴズ―ルに軍配が上がった。

 

 ガシャリと槍を手落すメズール。

 

 角で刺された個所は雷撃によって焼け爛れ(ただ)、内部で暴れ回った雷撃は、メズールの肺や心臓までも焼いていたのだ。

 

 ゆっくりと角を引き抜くゴズ―ル。

 角先からは、ツーと血が(したた)り落ちる。

 

 メズールの巨体が舞台床にドサッと両膝をつくと、そのまま前のめりに倒れ伏す。

 全身から白い煙を立ち昇らせながら口から大量の吐血をするも、ギリギリまだ生きていた。 

 

 メズールは進化の際、エクストラスキル『自己再生』を獲得している。

 しかしそれでも、治癒が追い付くより雷撃が暴れ回る方が早い。

 だから、かろうじて焼かれた心臓と肺を再生するだけで手一杯だったのだ

 

 対するゴズ―ルには、エクストラスキル『超速再生』がある。

 胸や腹に空いた大穴も、みるみるうちに塞がっていた。

 

 この再生スピードが、勝負の明暗を分けた形になったのである。

 

 これにより、即死級の大怪我も、エクストラスキル『超速再生』の前には問題にはならない。

 

 メズールの失われた左腕に焼かれた右腕に右目も、『自己再生』による再生が始まっていた。

 

 ここで、ソーカの勝利を告げる声が上がる。

 

「第一試合の勝者、ゴ~ズ~ル~ッ!!」

 

 観客達の歓声が、ワアーッと闘技場内に響き渡る。

 その見事な戦いに、誰もが虜になっていた。

 

 まずは、一人目の勝者が決まった。

 

(うん、どちらも素晴らしい戦いだった。良い出だしだな)

 

 初戦を飾るには相応しい戦いだった事に、リムルも大いに満足していた。

 

 

 第二試合。

 

 〝勇者〟マサユキと、〝狂狼〟のジンライ。

 

 これは予定通りにマサユキの不戦勝となった。

 

 舞台中央で、ガッシリと握手を交わす二人。

 

 それを見て、観客達から大きな歓声と拍手が送られた。

 

(解せぬ。何故握手するだけで、観客達はあんなに大喜びするんだろう? 見に来ている眷属達は、うん、何かしらけた顔で見ているな。で、観客の方はというと、うーむ、「流石はマサユキ様だ」とか叫ぶヤツ等がいるわ。意味がわからん……。何だろうね、あの理解出来ない人気ぶりは。まあいいや、考えるのも面倒になるわ……)

 

 もうマサユキに対しては、考える事を放り投げるリムルであった。

 

 

 第三試合。

 

 〝流麗なる剣闘士〟ガイとゴブタ。

 

 ガイの武具は希少級で統一され、ガイが一流の冒険者であることが(うかが)えた。

 

 かたやゴブタの装備は、特質級(ユニーク)の逸品で揃えられている。

 

(実力ではゴブタの方が()が悪いが、強さの統計で見れば、結構面白い試合になりそうだ)

 

 リムルは二人を見ながら、そう分析をした。

 

『それでは両者、始めっ!!』 

 

 ソーカの合図が響き、試合が始まった。

 

「ハッ!!」

 

 短く息を吐き、ガイが踏み込んだ。

 

 鋭い剣撃が走る。

 

 ガギュンッ! しかしその一撃は、ゴブタの胸当てに(はば)まれた。

 

「何ッ!? 雑魚の分際で、不相応な鎧を――ッ!?」

「ヒ、ヒエェッ!! 速すぎるっすよ――ッ!?」

 

 開始の合図と同時だったので、ゴブタは小太刀を抜く暇もなかった。

 

 今の攻撃はガルム作の鎧によって凌いだが、次はないだろう。

 ガイが自分の腕前を過信していたから命拾いをしただけであり、次は急所か関節を狙ってくるのは明白だからだ。

 

「フッ。ならば、これでどうだ?」

 

 舞うように流れるような斬撃が、ゴブタを襲う。

 

「ワッ、オワワッ、や、や、ヤバイっすよーーッ!」

 

 何とか回避するゴブタだが、余力などあろうはずもなく泣きそうな顔になっていた。

 

(んん? あの顔……場外負けを狙っているなゴブタのヤツ。早々に勝つのを諦め、自分の身を守る事だけを考えたか。まあ、それで正解は正解なんだけど、もうちょっとこう、頑張って欲しい気がするんだよねぇ)

 

 せっかくいい勝負になるかと期待したリムルだが、どうにもゴブタの反応は残念だったのだ。

 

 しかし、これで勝負がつくかと思われたが――

 なかなか勝負がつく気配がない。

 

 何故なら、さり気なく場外を狙うゴブタを、ガイが追い回して邪魔をしていたからである。

 

「おいおい。アイツ、ゴブタを(なぶ)りものにするつもりか?」

「まったく、性格が悪い男のようですね。ゴブタもゴブタですが、あの男の振る舞いは不愉快です」

 

 シオンもリムルと同意見だった。

 

「ハハハッ! 何なんだお前は、無様に逃げ回る雑魚が!!」

 

 ガイの戦闘スタイルは、バスタードソードを片手で用い、時には両手、また片手と変則的で、しかも手甲を付けた手でも殴りつけるといった変則スタイルであり、その動きは読みにくい。

 

 正統派の剣術をハクロウから学んでいるゴブタからしたら、かなりやり(にく)い相手であろう。

 だがそれでも、ゴブタは致命傷を受けてはいなかった。

 

 下手をすると、既に決着がついていてもおかしくはない。

 

 しかし、こういう変則攻撃を得意とする集団が魔国にはいる、そう、ルヴナンの傭兵であり忍びが。

 

 ゴブタもここ最近は、ハクロウの指示でルヴナンの〝仕込(忍び訓練生)み〟の子供達の訓練に参加したりして、眷属達にかなりしごかれたりしていたのだ。

 

「ゴブタはよく見ていますね。相手の剣筋も見えているようだし、何よりもルヴナンの訓練に参加していたのが大きいのでしょうね。じゃないと、ああも変則的な攻撃を(かわ)しながら、長く逃げ回る事も出来なかったでしょう」

 

 シオンはそう言ってゴブタを褒める。

 

「ほっほっほっ。ゴブタをあそこに行かせて正解でしたのう」

 

 ハクロウもそれに満足そうに頷く。

 

(うんうん。俺もそう思う。なら、もっとやる気にさせてやるか)

 

 リムルも二人の言葉を聞きながら賛同し、そして――

 

「よーし、いいぞゴブタ! 気合いだ。根性を見せて、そいつに勝って見せろ! そしたら小遣いアップだ! それにな――もしも優勝出来たら、お前が欲しがっていた新型の釣竿と、魔力式自動巻取りリールを教授に作ってもらうよう頼んでやるぞ!!」

 

 リムルの、報酬という激励がゴブタに飛んだ。

 

「ぴゃっ! マジっすか!? それなら、奥の手を見せるっすよ!!」

 

(へっ? 奥の手があるのなら、さっさとソレを使えっての……) 

 

 リムルの声援を受けて、やる気になったゴブタ。

 

「ギャハハハハ、雑魚が粋がってるんじゃねーよ! 最強であるこの俺に、無能な雑魚が勝てるわけあるか!!」

 

 ガイは嘲笑(あざわら)いながらゴブタを追い回し、まるで警戒をしていなかった。

 完全に雑魚扱いしていて、何をしても勝てるという油断、自分の力の過信――

 

 これがガイの敗因となる。

 

「召喚ッ!! さあ、やって来るっす!!」

 

 そう、ゴブタは〝狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)〟の隊長である。

 当然だが、星狼族(スターウルフ)を召喚出来るのだ。

 

 更にゴブタには、星狼族(スターウルフ)との『同一化』という切り札がある。

 

 今ではAランクに相当する魔素量(エネルギー)になり、ハクロウに鍛えられた剣技に、ルヴナンでの訓練に参加して身に着けたトリッキーな動きも合わさるのだから、ガイ程度にならば十分に対抗できる寸法だ。

 

(ほんと、やれば出来るじゃん)

 

 リムルは見ていて、最初からそうしろよと思った。

 

(まあ、これでゴブタも本気で――って、はい?)

 

「へッ?」

 

 間の抜けた声を出したゴブタの目が点になる。

 

「チッ、召喚術か。だが、黒牙狼(ブラックファング)如き、俺の敵では――」

 

 ガイの言葉はそこで止まり、グエッと変な声を上げ吹き飛びながら舞台床に倒れ、そのままま十数メートルを横滑りして止まった。

 

 ゴブタが召喚した黒い狼が、凄まじい速度でガイ目掛けて体当たりしたのだ。

 

 ガイは勘違いしていた、ゴブタが召喚したのは黒牙狼(ブラックファング)とかいうCかDランク程度の魔物ではなかった。

 

 今もワサワサと尻尾を振りながらガイの顔を舐めている黒い狼――

 

 それはどう見てもランガであった。

 

「ランガちゃん……何やってんの?」

「チッ、その手がありましたか。流石はランガ、策士ですね……」

「いやシオン、それ違うだろ。そうじゃないだろう?」

 

 思わずシオンに突っ込みを入れるリムル。

 

 ゴブタも驚いているので、意図した事ではないのが見て取れた。

 これは、ランガの独断で、ゴブタの召喚に割り込んだ結果なのだろう。

 

(うーむ、俺の影の中で大人しく寝ていると思えば、まさか、こんな事を企んでいたなんて……)

 

 てっきり参加は諦めていたものばかりと思っていたリムル。

 

 ガイに駆け寄ったソーカが、ディアブロに振り向いた。

 

『ガイ選手の意識を奪う、見事な一撃でした。勝負アリ、ですね』

 

 審判役のディアブロは、当たり前の顔をして今の攻撃は有効である事を示した。

 今は小型サイズの狼になっているが、その正体はランガだと見抜いている。

 

(あぁー、ランガとディアブロは仲が良かったんだよなぁ。うーむ……)

 

『勝者、ゴ~ブ~タァ~ッ!!』

 

 ソーカの勝利宣言が会場に響き渡る。

 それを聞いた観客達からは、拍手喝采が巻き起こった。

 

 誰も異を唱えないので、この召喚は反則と認められなかったのだ。

 

「え、マジっすか……」

 

 とゴブタの呟きは、大歓声に掻き消され、誰にも聞き(とが)められなかった。

 

「でもなぁ、いいのかなアレ?」

「召喚術はルールでも認められておりましたし、問題はないかと愚考しますぞ」

 

 リムルの呟きに、リグルドが問題ないと発言をする。

 

(あーあ、ランガが参戦しちゃったか。うーん……ちょっと複雑な気分だわ。やっぱりなぁ、反則じゃないの? 第四試合の勝者にゴブタが勝てる可能性はゼロだったんだけど、これで勝負の行方はわからなくなった。マサユキの実力を試すという当初の目的からは、この展開は喜ぶべきなんだけ、ど……。あーもう、よし! 気にするのは止めよう)

 

 リムルは開き直りの精神で、このまま押し通す事にしたのだった。

 

 

 そして、第四試合が始まろうとしていた。

 

 

 





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