忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。178話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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178話 ハッタリ? それとも……?

 

 

 第四試合。

 

 決勝進出決定戦、注目の一戦である。

 

「クックックッ、久しぶりに思い切り戦えそうだな、おい!」

 

 嬉しそうに声を上げる獅子覆面(ライオンマスク)

 

「あのツキハ様とも幾度も戦ったという、偉大な武人に相手を願えるとは、思わぬ僥倖(ぎょうこう)。胸を借りるつもりで、全力で挑ませてもらいましょう」

 

 そう言うとゲルドは、兜と上半身の鎧を脱ぎ去り、上半身白のタンクトップの身軽な姿になり、拳を構えた。

 

「ほう、素手の勝負を望むのかい? いいぜ、俺様は徒手空拳も得意だし、番外魔王ツキハとガチで勝負した事もあるんだぜ」

 

 ゲルドに応じて、獅子覆面(ライオンマスク)も構えを取る。

 

『おおーッと。何と獅子覆面(ライオンマスク)は、あの番外魔王ツキハ様と戦っていたとは――ッ! あの覆面に隠された素顔は、一体誰なんだーーーーッ!?』

 

 ソーカが二人の言葉を聞いて、即座に言葉を繋げる。

 

(ほんと、ノリノリだねソーカのヤツ。もうコレ、正体をバラしてないか? ククッ)

 

 ソーカの言葉に思わず苦笑いを浮かべるリムル。

 

 

 交差する拳と拳。

 

 その拳圧で凄まじい衝撃波が生じ、舞台の上を旋風が荒れ狂う。

 

 ゲルドは足技は使わず、投げと拳打だけで戦っている。

 自身の体格を(いか)かした、すり足気味の安定した歩法でバランスを保ち、どのような攻撃を受けても揺るぎもしない。

 

 ゲルドの構えは、俗にいうピーカブースタイルである。

 両拳を口元に構え、そこからジャブとストレートを放つ。

 

 ゲルドがそれをすると、まさに鉄壁の防御といったところであろう。

 

 それでいて、牽制のジャブでさえ、大砲の如き威力を秘めていた。

 下半身は無駄な動きは一切せずどっしりと構え、しかし、体重移動は素早く、そして全身で生み出した運動エネルギーを拳に乗せて放つ。

 

 脅威なのは拳だけではなく、近距離からのショルダーアタックもあるし、組まれると(おぼろ)流柔術の投げもある。

 

 イメージとしては、重戦車といえよう。

 

 

 それに対して獅子覆面(ライオンマスク)は、何でもありのオールラウンダーである。

 

 タッタッとリズミカルに足を動かし、ゲルドとの間合いを計る獅子覆面(ライオンマスク)

 

 攻撃手段は、多彩。

 

 ゲルドと比べても体格は劣らず、力で押し負ける事もない、が。

 

 そもそもこの世界では、見た目よりも魔素量(エネルギー)の方が重要なので、ゲルドよりも獅子覆面(ライオンマスク)の方が強いくらいである。

 

 例に挙げれば、ミリムにツキハ、それにコハクとルミナスいった小柄な体格の魔物が、驚異的な強さを誇るのが何よりの証拠なのだ。

 

 両者、激しい攻防の嵐。

 

 拮抗(きっこう)する力と力。

 

 しかし、それでも獅子覆面(ライオンマスク)が攻め切れぬ辺り、ゲルドの防御が如何に優れているかの証明になるのだろう。

 

 ズムッ! 岩をも砕きそうな前蹴りが、ゲルドの胸に炸裂する。

 

 それを丹田(たんでん)妖気(オーラ)を集中し、耐えるゲルド。

 

 崩れたところを狙うつもりだった獅子覆面(ライオンマスク)は、ならばとばかりに四方八方からストレートやフックに正拳突き、更に、回し蹴りや(かかと)落としなどを、残像を残すような速さで繰り出していく。

 

 この連続攻撃の数々だが、守りに徹するゲルドの防御を突き崩す事が出来なかった。

 

「ハンッ、楽しいな、オイッ!! この俺様の攻撃を、そよ風のように受けるかよ……ククッ。ツキハとは別の楽しさがあるなっ!!」

 

 獅子覆面(ライオンマスク)、楽しさのあまり、自分から正体をバラすスタイルである。

 戦い終わった後の、ミリムの説教が恐ろしい事になるだろう。

 

「フフフッ、文句を言いたいのは俺の方です。大雑把に見えるその攻撃、されど、全く反撃に転じる隙がない。その一つ一つが、洗練されている。正直、この攻防で反撃するツキハ様を想像すると、恐ろしいものがありますな――」

 

 その声に悔しさを(にじ)ませながら、ゲルドが応じた。

 今は耐えてはいるが、このままではジリ貧だと感じていたのだ。

 

 流石は獅子覆面(ライオンマスク)、その実力は本物であり、その底は未だに見えない……。

 

 急に左手をへそ下辺りに下げて、ゆらゆらと揺らす獅子覆面(ライオンマスク)

 ゲルドの射程外から、それは突然来る。

 

 パンッ! パパンッ! 空気を裂く乾いた音が鳴り響く。

 

 腕をしならせ、下から打ち抜くようなパンチ。

 

「ヌッ、グヌッ。この、パンチは――」 

 

 獅子覆面(ライオンマスク)の打ち出したパンチ、いやジャブは、フリッカージャブである。

 

 ジャブではあるが、その一撃一撃は、まさに必殺の威力を秘めていた。

 

 ゲルドの鉄壁の防御を貫く衝撃。 

 その衝撃でゲルドの身体は、少しずつ後ろへとずり下がっていた。

 

「ただの牽制のパンチが、これ程とは……。まるで、ツキハ様か、コハク様の拳打のようだ……」

 

 ガードしながら突き抜ける衝撃に、驚愕の声を上げるゲルド。

 

 

 二人の戦いに、会場は大いに盛り上がっていた。

 

「す、スゲーーーーー!!」

「何だよ、おいおいおい。アレは、何なんだよ、オイィッ!!」

「アレが、魔物同士の戦いなの、か!? 凄すぎる……」

 

 売店で買ったフランクフルトソーセージを片手に叫ぶ者。

 木で作られた大きなコップでビールを飲んで顔を真っ赤にしつつ、興奮して絶叫する者。

 席から立ち上がり、そしてストンと腰を落として呆然とする者。

 

 観客達にも二人の凄さが伝わったのか、怒号のような歓声があちこちから上がっていた。

 

 渋い玄人肌のゲルドと、見る者を惹きつける覇気(オーラ)を放つ獅子覆面(ライオンマスク)

 

 激しい攻防が繰り広げられるが、勝負はどちらにも傾かない。

 

 獅子覆面(ライオンマスク)の右ジャブ三連からの左アッパーの、コンビネーションパンチがゲルドに襲い来る。

 ゲルドは上体を後ろに()らしながら左アッパーを(かわ)し、流れるように迎撃の左フックを見舞う。

 

 ゲルドの鼻先を掠めるように一瞬で上に通り抜ける獅子覆面(ライオンマスク)の左拳。

 間髪入れずにゲルドの左拳が獅子覆面(ライオンマスク)の右顔面に襲い来る、が。

 

 獅子覆面(ライオンマスク)はそれを予測していたのか、右横に身体を傾けて(かわ)し、がら空きのゲルドの左顔面に右ストレートを(はな)とうとする――

 

「なっ! それは!?」

 

 獅子覆面(ライオンマスク)の左側に、ゲルドは自分の左足を(また)ぐように踏み置いた。  

 そして、獅子覆面(ライオンマスク)に背を向けた形になったゲルドの上半身が勢い良く沈み込んだ瞬間――

 

 獅子覆面(ライオンマスク)の視界にゲルドの背中が覆い尽くすように迫る。

 

 ズバンッ!! 重々しい激音が会場内に響き渡った。

 

 咄嗟(とっさ)に両腕をクロスさせそれを防ぐ 獅子覆面(ライオンマスク)

 

 獅子覆面(ライオンマスク)は左足を前に、右足を後ろに引いた形でゲルドの技を防御したが、その威力は獅子覆面(ライオンマスク)を、二十数メートルも吹き飛ばしたのだった。

 

 ズザザザーッと舞台床を滑り飛びながら、引いた右足の(かかと)が舞台端の僅か二センチのところで止まった。

 

「フッ、フハハハハ! お前、その技は番外魔王の技だろ?」

 

 クロスさせた両腕の内側から、不敵に笑い言う獅子覆面(ライオンマスク)

 ゲルドは追撃せずに、この技で仕留めきれなかった事で無言の笑みを、浮かべ返す。

 

 そうこの技は、ツキハとコハク達が使う体術の技の一つである背中の体当たり技、〝天牙影千流(てんがえいせんりゅう) 柔術・打技(だぎ) 崩山靠(ほうざんこう)〟である。

 

 ゲルドは、幾度かツキハとコハクに手合わせを申し込んで、相手をしてもらった事がある。

 その時に、この技で何度も倒されていて、身体がこの技を覚えてしまったのだ。

 教えてもらったのではなく、体感で覚えてしまう当たり、ゲルドの実力の高さが窺えるところであった。

 

 それを切り札に、獅子覆面(ライオンマスク)に放ったのである。

 

 意表を突く事には成功したが、獅子覆面(ライオンマスク)も幾度もこの技を喰らっていたので、対処出来たのであった。

 

 獅子覆面(ライオンマスク)は、左肩を右手で抑え、左腕を回しながら首をコキコキといわせ、ゆっくりと舞台中央にいるゲルドのところへと戻って来た。

 

 その余裕ある姿に(まど)わされず、油断なく待ち構えるゲルド。

 

 そして――

 再び始まる、激しい攻防。

 

「俺様を相手にして、よくぞここまで持ちこたえて、挙句その技とはな、褒めてやる」

「フッ、フフッ、こ、光栄です。偉大なる貴方から、そのような言葉を頂けるとは――」

 

 ゲルドの拳打のラッシュを余裕で(さば)獅子覆面(ライオンマスク)

 

「世辞は、よせ。それよりも、一つ聞くぞ?」

「――何なりと」

「お前は何故、能力(スキル)を使わない?」

「知れた事です。それは貴方が、本来の姿を見せぬからですな」

「ふはっ、ふはははは! この俺様を偉大と言いながら、本気で勝ちを狙っていたか。おもしれえな、お前。本気の姿を見せる訳にはいかねーが。本気の技は見せてやろう! この技を受けて耐え、返し技を仕掛けて者は、〝アイツ(ツキハ)〟しかいねえ。もし、耐えれたら、誇ってもいいぜ」

 

 攻防の最中(さなか)、交わされた会話。

 

 一般客に聞こえてはいないが、リムルはディアブロの耳を通し、〝魂の回廊〟経由で全て聞き取っていた。

 

(ほう。ゲルドが能力(スキル)を使わなかったのを、俺も不思議に思っていたんだけど、それが理由かぁ。あの獅子覆面(ライオンマスク)と同じ条件での勝利を望んでいたとは、中々に武人らしくていいじゃないか)

 

 獅子覆面(ライオンマスク)――いや、カリオンは、『獣身化』する事で本来の戦闘能力を発揮する。

 だから、今の姿は仮初(かりそめ)のものであり、全力とは言い難いのだ。

 

 ちなみにツキハは、その『獣身化』したカリオンに一度も負けてはいない、というより、カリオンが本気を見せると、暫くは相手をして、〝じゃあ今日はここまでね〟と言い、逃げていたのだ。

 

 ツキハは、本気の姿を強者に対してはほんの少ししか見せない。

 これは、相手にそれを見せると、次は対策をされるかも知れないといった警戒心が根底にあり、見せる時は〝仕留める(コロス)〟時だけだが、一部例外が存在する。

 

 あの、テンペストの命運を賭けたヴェルドラとの決闘の時も、ツキハは持てる力の半分を使ったまでに過ぎなかった。

 

 だから、二人の本気の姿を知っている者は、例外中の例外の人物だけ。

 ヴェルドラとギィ、それにミリムとルミナス、ダグリュール、皇帝エルメシア、最後に原初の六人だけ。

 

 後は、ツキハとコハクの本気の姿を見た者は、全て死んでいる。

 

 いつ何時敵対するかも知れない、だから、用心には用心を重ねるというものであったのだが、唯一これに、〝ヴェルドラは含まれない〟、次点でミリムと皇帝エルメシアだけであろう、今現在は。 

 

 (なお)、現在のラミリスは戦闘能力皆無なので除く。

 

 それに戦闘経験の差と、長い年月をかけて技量を磨いて来たツキハの強さを求めるものが、カリオンと根本的に違うのもあるのだろう。

 

 自由を貫く為だからこその、己の〝技量を磨く〟が、ツキハとコハクの心情。

 そこには、矜持(きょうじ)も信念もない、思考は臨機応変に影のように自在に形を変え、あらゆる事を取り込み、己の(かて)とする。

 

 それが、この世界で忍びであり続ける二人の姿なのだ。

 

 そしてゲルドもまた、この二人と手合わせをしてからは、無意識に強さに対する考え方が変わっていき始めていた。

 二人が口にする、〝技量を磨け〟を自分なりに解釈して、工事の合間に鍛錬を積んでいたのである。

 

 そう、カリオンが本来の姿ではないのを知っていたからこそ、自分もユニークスキル『守護者(マモルモノ)』と『美食者(ミタスモノ)』を使わずに、その身一つで戦っていたのだ――

 

 己の修練の為に。

 

 まあ、獅子覆面(ライオンマスク)にしてみれば、この衆人環視の中で本気の姿を見せたくないというのが理由なのだが。

 

 何故なら、とある人物の伝言(メッセージ)で、そんな事を言われていたのだから。

 

 そしてカリオンは、正体がバレぬよう本気の技を見せるつもりなのだ。

 

「いくぜ?」

「応ッ!!」

 

 獅子覆面(ライオンマスク)は、左足を前に出し、右足を少し後ろに引く。

 左手を軽く開いたま指先を上に立て小指の方をゲルドに向け、右拳を腰だめに添えた左半身の構えを取る。

 

 獅子覆面(ライオンマスク)の全身から金色の妖気(オーラ)が一瞬だけ立ち昇り、右拳に集束した。

 

 口端にフッと薄い笑みを浮かべたカリオンは一気に舞台床を蹴り、残像を残し消えた。

 

 一瞬で間合いを詰められゲルドは両腕でそれを防御するが―― 

 威力は絶大だった。

 

 ゲルドの両腕がまるで爆発したように弾かれ、身体の中央が露わになる。

 

「ヌグッ!」

 

 そのがら空きの中央にある急所の一つ、水月にカリオンの右拳が吸い込まれるようにめり込む。

 右拳に集められた妖気が炸裂し、その衝撃はゲルドの全身へと、物理的な破壊エネルギーと化して全身を駆け巡った。

 

(こ、これは、あのお二人とも、違う、しょ、衝撃……。体内で妖気を集中しても、お、追い付か、ぬ……)

 

 遠ざかる意識を無理やり引き留め、ゲルドはギリギリで耐えた――

 

「お、お見事――どうやらこのオレも、ここまでの、よう、です」

 

 そう言うなり、ゲルドは一歩を踏み出そうとしてよろめいた。 

 

 しかし膝は屈せず、ヨロヨロと場外へと進もうとするとそこへ、ディアブロが横に来てゲルドを支え、ソーカに視線を送る。 

 

『勝負ありッ!! 獅子覆面(ライオンマスク)選手の勝――利ですッ!!』

 

 高らかに勝利宣言を告げるソーカ。

 

 続き、大歓声と、万雷の拍手。

 

 二人の名勝負に、惜しみない称賛が降り注ぐ。

 

 カリオンが舞台から去るゲルドの前に立ち、声をかける。

 

獅子咆拳(ししほうけん)って技だ。〝アイツ(ツキハ)〟に勝つ為に改良を重ねた、モノだ。誇っていいぜ、ゲルド。この俺様の奥義の一つを受けて、その命を保つだけじゃなく、まだ立って歩けるんだからな」

「フッ、フフフ……貴方とは、いずれ本気で戦ってみたいものです」

「ああ、俺様も同感だ。こんなに楽しい喧嘩は、アイツ以来だったぜ」

 

 死力を尽くし戦った者同士、認めあったからこそ出る言葉。

 

「そうだ。ついでにもう一つ聞きたいが、いいか?」 

「何なりと」

「お前、本気のアイツと戦った事はあるか?」

「いえ、まだありません」

「そうか。なら覚えとくといい。アイツの本気は、こんなものじゃねえぞ。苛烈(かれつ)で容赦ねえからな」

「ありがとうございます。覚えておきます」

 

 そうゲルドが答えると、カリオンは横に立ち位置を変え、ゲルドの退場を見送る。

 

 退場するゲルドに、観客達の惜しみない拍手が送られ、歓声が鳴り止まない。

 

 

 これで四試合全てが終わったので、一旦休憩時間となった。

 

 昼を挟み、午後から二回戦の始まり。

 

 一回戦を勝ち抜いた者同士が戦うのだが、疲労の残り具合が勝敗を左右するかもしれない。

 闘技大会運営から回復薬を与えられているので、肉体的な怪我は完治している。

 だが、どれだけ魔素量(エネルギー)が残っているかは、見た目では判断出来ないのだ。 

 

 午前の勝負の興奮冷めやらぬ中、本日の第五戦。

 

 舞台中央――決勝進出を賭けて、〝勇者〟マサユキとゴズ―ルが相対する。

 

(さて、この戦いの見所は、マサユキの実力が本物かどうか、だな。でもなぁ、俺の目には、マサユキの足が小刻みに震えているように見えるんだが。武者震いってヤツなのだろうか? それに、首筋を伝う汗も凄くね? 本当にヒナタと、同格の強さを持つのだろうか? 一度、ツキハに聞いてみたら、腹を抱えて笑い転げてたんだけど……) 

 

 リムルが舞台中央に立つマサユキ見て観察をしながら、そんな事を誰にも聞こえない声で呟く。

 

 すると、ゴズ―ルがソーカから魔力式マイクを受け取り、口を開いた。 

 

『リムル陛下に喧嘩を売った〝勇者〟ってのは、アンタだな? 身の程を知らないってのは、滑稽(こっけい)(あわ)れだな?』

 

 それは、マサユキへの挑発だった。

 

 しかしマサユキは、ニヒルな笑みを浮かべ――いや、口元を引き()らせて――それを聞き流し、ソーカに向かって手を差し出す。

 

 その要求に応え、予備のマイクをマサユキに手渡すソーカ。

 

『フッ、君の戦いぶり、見事だったよ――』

『お、おうよ』

 

(へえ。挑発には乗らず、相手を褒めるか。ふうむ、思った以上に冷静だな)

 

『――だけど、それだけに残念だね』

『残念、だと? 一体何が残念だと言うのだ?』

 

 戦いを仕掛けるでもなく、語り始めるマサユキ。

 

(うーむ、一体何を言い出すつもりなんだろう?)

 

 マサユキの行動に、疑問を浮かべるリムル。

 

 そしてマサユキは、言葉巧みにゴズ―ルに語り出す。

 

 今のゴズ―ルでは、戦っても嬉しくないと。

 疲弊した体力と魔力では、自分には勝てないと、告げる。

 

 それに反論するゴズ―ルだが、四天王の件を出され、迷宮の主になるのを嫌って〝四天王〟を目指したんだろう? と言われる。

 

『馬鹿なっ! メズールと俺に指示された地下迷宮(ダンジョン)五十階層の主の座も、名誉ある役目に決まっておるわっ!! 俺達はただ、それでも高みを目指してみたくなっただけの事……』

『そうなのか? うーん、だけどさ、残念ながら僕の目から見ても、さっきのゲルドって人の方が、〝四天王〟に相応しい強さに見えたんだけど――?』

『ヌッ、グヌヌヌヌ……』

 

(相手を褒めてからのディスり。何を考えてるんだ? まさか――?)

 

 リムルに嫌な予感が走る。

 

『今の君と戦っても、僕が勝つだろう。だが、全力の君とだったら、勝負の行方はわからないだろうね。迷宮という、君に有利な環境だったら尚更だ。僕はね、今ここで君との決着をつけるのは、とても勿体ないと思ったんだよ』

『ヌウ――ッ!?』

 

(おいおい、本当に戦う気がないんじゃあ……!?)

 

『僕も、ここの地下迷宮(ダンジョン)に挑む気でいる。これは、魔王との戦いは関係なく、ね。それで、勝負はその時、万全の状態の君が迎え撃つというのは、どうだろう? (頼むーッ。この提案に乗ってくれーーっ!)』

 

(間違いないわ、コレ。マサユキは余裕の態度を見せているけども、俺にはゴズ―ル相手にビビってるようにしか見えん。あれだ、口八丁手八丁でゴズ―ルを丸め込む気だな。ゴブタとゲルドには、マサユキの実力を試すように伝えていたんだけど、ゴズ―ルには、何も言ってない。あー、これ、ひょっとすると――)

 

 リムル、嫌な予感的中。

 

『グ、グワーーーッハッハッハ! その心意気、確かに感じ入ったぞ。確かに、今の俺には余力がほとんど残っていない。よくぞ見抜いたな。メズールとの勝負は、紙一重での勝利だったものでな。良かろう。貴様の言葉を信じ、俺は迷宮にて待つとしよう!!』

 

(やっぱりかあぁーーーッ!? ゴズ―ルのヤツ、マサユキの提案を受け入れやがった。こんな事なら、眷属達を一人くらい出しても良かったかも。アイツ等なら、笑顔でマサユキの提案を蹴るからな。マジ、失敗したなぁ……)

 

 リムル、内心で後悔する事しきりであった。

 

 吹っ切れたような顔で、マサユキと握手を交わすゴズ―ル。

 

 すると不思議な事に、会場内からは大歓声が上がる。

 

 普通なら、戦わずに舞台を去る者へは罵詈雑言が飛び交うハズなのだ。

 

 マサユキの器の大きさを褒める声や、それを見抜いたゴズ―ルを称える声、そんな声援が円形闘技場(コロッセオ)を埋め尽くしたのだ。

 

(解せぬ。本気で意味がわからない。どう見てもハッタリなのに、観客には素晴らしい行動だと認識されているようだし……。やはりマサユキには、何らかのカリスマがあると見るべき――いや、待てよ? これって、ツキハの使う能力(スキル)? に似てないか。そう考えるなら、俺まで騙されている可能性がある。もしかして、全部演技だとか?)

 

 ますます意味がわからず、あらゆる事を考えてしまうリムル。

 

(俺の目を警戒して、その実力を隠す為にゴズ―ルとの戦いを避けたのだとすれば、一応の辻褄(つじつま)は合う、か。だとすれば、油断は禁物なんだが。今のところツキハとコハクがそこまで警戒していないのも、気にかかると言えば、気にかかるよ、な。しかし、まあいい、次の試合はゴブタとカリオン――獅子覆面(ライオンマスク)だし、どちらが勝つかなど考えるまでもない。元魔王相手に、勇者を名乗る少年がどこまで戦えるのか。うん。そう考えると、この展開も悪くはないな)

 

 リムルはそんな風に思考を切り替え、歓声を受けながら舞台を去るマサユキを見送ったのだった。

 

 

 そして、本日の最終戦が始まろうとしていた。

 

 





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