忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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お待たせしました。180話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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180話 Emperor of Midnight(真夜中の皇帝)・前編

 

 

 試合が終わった後の晩餐会。

 

 

 リムルのテーブルには、子供達とヒナタが同席していた。

 

 その隣には、ミリムとカリオン、フレイにミッドレイ達が座る。 

 

 子供達は料理を食べながら、今日の試合の感想を楽しく言い合っていた。

 また、周りにいる来賓達も、その話で持ち切りだった。

 

 そして、明日の決勝と、エキシビジョンマッチは誰かについて、熱く語り合う貴族達。

 

 特にイングラシア王国から来た貴族達は、自国の武闘大会よりエキサイトした試合に未だ興奮冷めやらずで、会話が尽きる事がない。

 

 それを聞きながらリムルは。

 

(うんうん。なかなかに評判がいいじゃないか。まあ、あんな試合は他所では無理だろう。でも、イングラシア王国にある地下闘技場はある意味、俺のところの武闘大会に近いものがあるんだけどな。貴族はあんな場末の闘技場などには行かないし、行くとしたら、よっぽどの武闘大会マニアのヤツだけだろうよ。だから、俺のところの武闘大会は、新鮮に見えただろう。フッフッフッ)

 

 料理に舌鼓を打ちつつ、満足そうに呟くリムル。それに気付いた子供達が、「リムル先生、何独り言言ってるの?」と言い、リムルは「あ、え? 何でもないよ」と誤魔化しつつ、グラスに入ったワインを飲み干す。

 

 そして隣のテーブルにいるミリムが、リムルに対して、明日はワタシも行くのだと、ニコニコと告げる。

 

「お? 迷宮の方の準備はいいのか?」

「完璧なのだ。それに明日はツキハがルヴナンの方でどうしても外せない用事があるから、一緒に遊べないと言っていたのだ。だから明日は、ワタシもリムル達と行動を共にするのだぞ!」

「あら。なら私も決勝も見たいし、エキシビジョンマッチというのも気になるからお供しようかしら?」

「俺様はパスだ。部下共から、誘われてるんだよ。決勝に出られなかったのは残念だが、ツキハに上手い料理が食える店も教えてもらったし、明日はゆっくりとこの街を見て回るとするぜ」

 

(ミリムも明日は観戦か。ツキハは、恐らく支店に顔を出すんだろう。あそこも凄い忙しくなってるみたいだし。カリオンは三獣士と一緒か。フレイがミリムのお目付け役になるのか。今日の試合も楽しんでいたみたいだし、決勝もだが、意外にエキシビジョンマッチも気にしてるご様子。まあ、明日もフレイが来てくれるなら、ミリムの暴走は大丈夫だな)

 

 という感じで、(にぎ)やかに会話が弾んでいた。

 

 そして、リムルが皆の会話に傾けていたら―― 

 

「それで、あのマサユキって子と戦う事になったら、貴方はどうするつもりなのかしら?」

 

 と、急に話を振って来たヒナタ。

 

(おう。いきなり核心を突いてきたね) 

 

「まあ、アレだ。そりゃあ、戦うしかないだろう?」

「えーー、リムル先生がマサユキ様と? 先生も強いけど、マサユキ様の方が強いと思うな」

「ええ、そんな事ないよ? 先生の方が強いと思う!」

 

 リムルとヒナタの会話を聞いていた子供達が、リムルとマサユキのどっちが強いかで喧嘩を始めてしまう。

 

 アリスとケンヤはマサユキ派、クロエとリョウタにゲイルはリムル派である。

 

 リムルが、俺の方が一人多い、勝ったなとほくそ()んだ瞬間。

 

「まあいいわ。正直言って、あのマサユキ君、私にも強さが読めなかったのよ。〝ある人(ツキハ)〟にも聞いてみたのだけれど、今のところはそう大して問題ないというような事、言っていたはいたのだけども。警戒すべきなのは、間違いないわよ?」

 

 ヒナタはそうリムルに、忠告をする。

 

 どうやらヒナタの能力(スキル)にも絡む話らしく、ヒナタは多くは語らなかったが、ツキハに聞いた事と、自分でマサユキを探った結果は――

 

 ヒナタでも判断が難しい相手だったと、吐露(とろ)するヒナタ。

 

「でも、そうね。十中八九、私なら勝てると思うけど――」

 

 と、リムルを挑発するようにそう言って笑ったヒナタ。

 

(グヌヌヌ。これは、言い返すべきか?)

 

 リムルが、そう口を開きかけた時――

 

「確かに。ヒナタお姉ちゃんなら、誰にも負けないと思う」

「うん。悔しいけど、ヒナタお姉ちゃんは凄い」

「ヒナタさんに勝てるヤツなんていないと思うぜ? 番外魔王も瞬殺かもな」

「うん。僕もそう思う……」

「間違いないだろうね。あの獅子覆面(ライオンマスク)さんだって、ヒナタさんの敵じゃないよ」

 

 何と、子供達が満場一致で、マサユキよりもヒナタが強いと言い出したのだ。

 若干二名程、恐ろしい事を口走った者がいたが、その本人達がいなくて幸いである。

 

 まず間違いなくこの二名は、それなら、今からヒナタと勝負をしようなどと言い出す事は、想像に(かた)くない。

 

 リムル、本気で悔しいと思った瞬間である。

 

「ま、まあマサユキもさ、誰かと違ってこっちの話を聞く気はあるみたいだし、そこまで心配する事はないと思うんだ」

 

 なので、つい嫌みをほんの少し紛れ込ませて、ヒナタに言うと――

 

「――どういう意味かしら?」

 

 その一言に反応したヒナタの雰囲気が、一瞬でピリリとした空気を(まと)う。

 

 思いっ切り地雷を踏んだリムル。

 

(はうっ。ヤバッ……)

 

 まだまだツキハみたいに、笑顔で地雷を踏み抜く事は出来ないリムルであった。

 

「あ、はい。何でもないです。気にしないで」

「喧嘩なら買うわよ?」

 

(ふあっ! 短気過ぎますよ、ヒナタさん!? 俺はね、ツキハみたいに喜んで、よし売った! とは言えない。です。別に怖くはないんです、よ? 俺は、ほら、平和主義だから、ね? ヒナタさん、そんな、怖い眼で見ないで下さい……)

 

 ヒナタに軽く(にら)まれ、内心焦りまくり、声なき声でツキハみたいに疑問形で言い訳をする。

 

 このヒナタの怒りを収めるには、どうすべきか、リムルの出した答えは――

 デザートのカスタードプリンを差し出す事で、許してもらったのだ。

 

 余計な一言を言ったばかりに、楽しみにしていたデザートを失ったリムルだった。

 

「でも、貴方の言う通り、マサユキ君には話が通じるみたいね。ユウキも保護者だと言っていたし、最悪、私からも説得してみるわ。あ、〝あの二人(ツキハとコハク)〟には、絶対に手を出さないように、釘を刺しておいてね。下手すると、祭りが終わった後に、消される可能性があるかもだから」

「はい? あーうん。わかった」

「まあでも、明日の試合は、マサユキ君が負けるかもね。あくまでも、もしかしての話だけど」

「うーん、それは否定はしないけど。でもなぁ、ゴブタだからなあ……。アイツさ、いつも肝心な時に失敗をするんだよ――」

 

 どうにも不安が(ぬぐ)えないリムル。

 

(普通にやれば実力は高いんだよ。あのルヴナンの訓練にもついていけるくらいだし。突然何かを(ひら)いて、でも、やっぱり失敗する……。それがゴブタというヤツなんだ。今回もまた、決勝の場で何か仕出かしたり――)

 

《…………》

 

(ん? 何か一瞬、智慧之王(ラファエル)さんが何かを言いかけたよう、な? うーむ……俺の気のせいか? まあ、いいや。どうせ大したことないんだろう)

 

 とりあえず智慧之王(ラファエル)の事は置いておき、マサユキの事を考えるが、リムルにはどうしてもマサユキが脅威とは思えなかった。

 

「私が思うに、あのゴブタって子も、なかなか見所があると思うわよ?」

「いや、俺もゴブタのセンスは認めているんだよ。でもなあ、やっぱりゴブタだし……」

「まあ明日になればわかるでしょ。決勝試合、楽しみにさせてもらうわよ。エキシビジョンマッチも気になるし」

 

 そう言ってヒナタはこの話を打ち切り、そして、楽しそうな子供達を引き連れて、夜店へと出かけて行ったのである。

 

 後に残ったリムルも席を立ち、ミリム達にまた明日と告げて、その場を去った。

 

 

 

 〝夜も()けて、酒場街ではまだまだ人の賑わいが途切れない頃〟

 

 リムルは、ベニマルとシオン、そしてディアブロを連れて応接室に向かう。

 そこには既に、ミョルマイルが緊張した様子で待っていた。

 

 応対したのはシュナで、リムル達に気付き、すぐに飲み物を用意する。

 

「ガゼル様は、もう間もなくお()でになるそうです」

 

 そうシュナが言うと同時に、部屋の扉を開けてガゼルが入って来た。

 浴衣に下駄と言ったラフな服装のガゼル。

 

「待たせたか?」

「いや、俺も来たばかりだ」

 

 そう言葉を交わすリムルとガゼル。

 

 そして挨拶もそこそこに、リムル達は席に着いた。

 

「結論から言うぞ。朝早くに連絡を取り、我が国の余剰分を集めさせたが、集まったのは千五百枚と少しだった。民から集める訳にもいかぬから、明日の朝までに用意出来るのは、これが限界であろうな」

 

 国で流通している金貨なら、この比ではないだろう。

 しかし、ドワーフ王国の経済に影響を与えぬように提供できる金貨としては、これが精一杯なのだとガゼルは言った。

 

 これは、リムルが星金貨と交換してくれと頼んだ結果、ガゼルが協力してくれたのである。

 

「悪いな。思ったより多くて助かるよ」

「ふむ。明日の朝には天馬(ペガサス)の天空便で運ばせるので、夕方には届くであろうな」

 

 千五百枚ともなると、結構な重量になる。

 リムルは自分が『空間支配』で取りに行った方が、安全だと考えた。

 そもそも、自分が頼んだ事なのでそれが筋だろうと。

 

「こっちからお願いした事だし、俺が取りに行くよ」

「……そうか、貴様には『空間移動』があるのだったな。確かにその方が間違いが起きぬであろう。わかった、連絡しておく。それはいいとして、本題だ。商人達への支払いは、これで足りるのか?」

「うーん、それは……」

 

 そう、リムルの計算では、僅かに足りなかったのだ。

 

 今回の開国祭は第一回目という事もあり、予算に糸目を付けずに開催した。

 その為、必要となる予算も想定を上回り、金貨三千枚以上となっていたのだ。

 

 これは、リムルの世界の価値で言えば三億円相当になる。

 

 この世界での経済規模で言えば、恐ろしいまでの浪費であった。

 

 リムルの国の国庫には、それなりの金があった。

 

 星金貨は千五百枚。

 これを金貨に崩せば、十五万枚に相当する。

 

 それで、金貨の千や二千枚程度なら、惜しげもなく使用してもいいだろうと考えたのが理由だったのだ。

 

 だから、お金が無い訳ではないので、両替が出来れば支払いは問題はない。

 しかし今回は、運が悪い事に小売りばかりが相手だったので、それが出来なかった。

 

 となると、国庫から金貨を集める必要がある。

 

 だがしかし、多種多様な銀貨は多く集まっていたが、肝心の金貨は、様々な権利などでツキハやコハクから支払ってもらった金貨は、開国祭の準備金であっさりと吹き飛んでいた。

 

 残るドワーフ金貨は、僅か百枚足らずしか残っていなかったのだ。

 

 ここで一つ、疑問が残る。何故リムルは、あの時ルヴナンに融資ではなく、両替を依頼しなかったのかという事になるのだ、が――

 

 これは、直ぐに現れる〝人物〟から、その理由が明かされる事になる。

 

 

 リムルの個人所持金は、金貨三百枚。

 ミョルマイルが搔き集めた金貨、千枚と少し。

 

 合計、千四百枚程度である。

 

 ガゼルが用立ててくれた分も合わせても、三千枚に届かなかった。

 

「足りぬのか?」

「あ、うん。どんぶり勘定だけど、後数百枚は欲しいね」

「そんないい加減な予算割で、よくもこのような催しを……」

「思い付きだったからね。期間も短かったし、仕方ないよね?」

「番外魔王ツキハみたいに首を傾げ言うな……どこから叱るべきかもわからん」

 

 ガゼルは盛大に溜息を付き、呆れたようにリムルを見る。

 

(いや、だってさ……皆もノリノリだったし。反対意見も出なかったし、と、言い訳したいけど……。絶対にガゼルの怒りが天元突破するよな)

 

 そこへガゼルが、リムルに素朴な疑問をぶつける。

 

「それよりもリムルよ、お前は何故ルヴナンに両替を――」

「――え?」

 

 リムルが、不用意な発言は控えるようにしながら何とか言い訳を考えていると、いきなりルヴナンの事を言われて、言葉に詰まると――

 

 そこへカラカラと、浴衣下駄の音が響き。

 

「――ならば、その足りぬ分は、私が用意しても宜しくてよ?」

 

 突然、リムル達の会話に割り込んだ者がいた。

 

 誰かと思いリムルが見ると、エラルドと〝黒の守護者(ブラックガーディアン)〟の二人を伴った、魔導王朝サリオンの皇帝、エルメシアだった。

 

 浴衣に茶羽織を着て、黒の浴衣下駄を履いていた。

 春の暖かい季節といえども、まだ深夜には肌寒く、エルメシアは浴衣の上から茶羽織を着ていたのだ。

 エラルドもエルメシアと同じ格好であった。

 

 そして、〝黒の守護者(ブラックガーディアン)〟の二人は、黒色のフード付きの外套(がいとう)を着ていて、フードは目深(まぶか)に被り、顔は見えなかった。

 

 ディアブロだけが〝黒の守護者(ブラックガーディアン)〟の二人を見て、微かにピクンと眉を動かす。

 

 リムルはどうすべきか一瞬迷ったが、流石に皇帝を立たせたままにする訳にもいかず、席を(すす)める事にした。

 

 そして、エルメシアはリムルに促されるままま、対面にある豪華な長椅子に腰を下ろす。

 隣にはエラルドが座り、〝黒の守護者(ブラックガーディアン)〟の二人は、エルメシアの背後に立つ。

 

 隣に座っていたガゼルが、エルメシアの顔を見るなり嫌そうな表情を見せた。

 それは一瞬だけだったのだが、リムルが気にするには十分だった。

 

 リムルは少し用心をしつつ、エラルドに問い掛けた。

 

(そう言えば、何か知っていたような素振りだったようなエラルドさん。あの時、確か……)

 

 リムルは前夜祭の時の酒の席で、エラルドが(こぼ)した言葉を思い出す。

 

「あれ、エラルドさん……何故、皇帝まで?」

「いやあ、それがですねリムル殿、私が陛下に相談しましたところ、快く協力を申し出たいと――」

 

 エラルドの説明に、ニコニコ顔のエルメシア。

 

 かたやエラルド本人は、苦々しげな表情である。

 

(ああ、これはアレだわ。ピンッと来たね。無理やり言わされてるな。こういう時は、触らぬ神に何とやらだ) 

 

 それを察したリムルであった。

 

「ああ、いや、その問題はこちらで――」

「ふーん。今さっきまで、お金が足りないと嘆いていなかった? 私はただ、今後の両国の友好を見据えて、協力を申し出たまでですわよ?」

 

 そう言ったエルメシアは笑顔だが、目が笑ってはいなかった。

 

(うん、これはヤバイ。絶対に面倒な事になると、俺の直感が(ささや)いている)

 

「いや、ですから、そのですね……」

 

 リムルは自分の直感を信じ、断る方向で話を進める事にした。

 

 だがしかし――

 

「諦めろ。その女は、一度言い出したら最後まで退()かぬだろうよ。それに、その女を敵に回す方が、商人共を纏めて相手するよりも厄介だ。その証拠に、〝黒の守護者(ブラックガーディアン)〟まで連れて来ておるしな。ここは素直に、協力してもらった方が良かろうよ」

 

 エラルドと同様に苦々しい表情で、ガゼルは吐き捨てるように言った。

 

 この偉大なる英雄王ガゼルでさえも、エルメシア皇帝を苦手としているようだった。

 

「あらあ、ガゼル坊。貴方は私の味方をしてくれるのねえ? 嬉しいわあ!」

 

 白々しくも、嬉しそうに笑うエルメシア。

 

 ガゼルを坊や扱いするところからも、二人の関係性が垣間見えるところであった。

 

「その呼び方は()めてもらおうか。それよりも、貴殿の狙いは何だ?」

「もう、相変わらず堅苦しいわねえ。貴方のお祖父さんは、自由奔放(ほんぽう)な方だったのに」

 

 リムルがガゼルを見ると、どこか仕方なそうに、簡単にエルメシアと出会った経緯を話しだす。

 

 ガゼルは確かに奔放な性格だが、普段は厳格な王を演じている。

 その理由こそ、苦労した父の背中を見て育ったからだ、と。

 

 先代がまだ現役だった頃、ガゼルは最後の自由を満喫したのだそうだ。

 その頃に、エラルドやエルメシアと出会ったのだという。

 ハクロウに指示したのも、その頃だと。

 

 ツキハとコハクは、祖父の頃からの付き合いで、赤ちゃんの頃からガゼルを知っている、と。

 自由奔放な祖父が、ルヴナンが売る情報を買っているのを知ったのは、少年になった頃だとも言う。

 

 祖父と、ツキハ、コハクは、かなり良好な関係だったと、ガゼルは言った。

 

 そして……。

 

「祖父がそういう方だったから、先代の父が苦労したのだ。そんな事よりも、さっさと――」

 

 ガゼルがそう言いかけた時。

 

「ガー坊は、ほんとせっかちだよねえ」

「せやねえ、ほんとガー坊は変わりまへんなぁ」

「「なっ!?」」

 

 どこかで聞いた声がエルメシアの背後から聞こえ、ガゼルとリムルが声を上げると、一瞬でその部屋全体を異空間が包み上げる。

 

(な? これは……)

 

 リムルにとっては、見知った感覚であった。

 

 幻遁(げんとん)、『幻想領域』を、〝黒の守護者(ブラックガーディアン)〟の一人が発動したのだ。

 

 異空間に隔離された応接室。

 

 そして、エルメシアの背後に立つ〝黒の守護者(ブラックガーディアン)〟に向かって指をさしながら、ガゼルは。

 

「お、お、お(ぬし)ら、番外魔王なのか!?」

 

 と、目を大きく見開きながら叫んでしまう。

 

「あーもう、ツキハちゃんにコハクちゃん。打ち合わせ通りにしてもらわないと、駄目でしょう。せっかく私が正体をバラすはずだったのにい」

「ごめんて」

「すんまへんな」

「はい!? ちゃん? 打ち合わせ?」

 

 今度はリムルが〝黒の守護者(ブラックガーディアン)〟を見ながら、変な声を上げる。

 

 ガゼルは既に目が点になっていて、エラルドは終始苦笑いを浮かべていた。

 

「良いわよぉ。姿を見せちゃいなさいなあ」

 

 エルメシアの指示に、ツキハとコハクは外套(がいとう)()や着替えの魔法で消し去ると、その姿を現した。

 

 着ている物は、エルメシアと同様に浴衣と茶羽織、それに浴衣下駄である。

 リムルが座る椅子を用意するも、コハクが「今は、お役目中やから、気遣いはいらへんで」と、やんわり断ると、エルメシアが「普段はアレなのに、仕事となると真面目なのよねえ」と、クスクスと笑い(こぼ)す。

 

 そんな二人を見たディアブロの笑みが深まり、少しだけ挑発的な気を二人に向ける。

 ツキハとコハクはそれに気付くと、どこか意味ありげな笑みを返す。

 

「……〝黒の守護者(ブラックガーディアン)〟の正体がこの二人とは、全くもって最悪である、な。見わけも付かぬ分身体を使うとは……。というか、何故俺もいるのに正体を明かしたのだ?」

「ふふふ。さあ、何故でしょうねえ」

 

 含み笑いをしつつ、ガゼルを見るエルメシア。

 

 ガゼルとリムルを見詰めながら、エルメシアはゆっくりと口を開く。

 

「何故? そうねえ、()ずは、リムル殿に真実を明かそうと、私は思ったのよぉ。ガゼル坊は、まあ、ついでかしら?」

「はあ!? ついでとは、な……。これをついでと言えるのは、老獪(ろいかい)ク――いや、貴殿くらいだ」

 

 ついでと言われ、ムッとしたガゼルはある言葉を言いかけたが、エルメシアの目が細められたのを見て、慌てて言い直した。

 

「もうリムル殿は気付いてるのはなくて? 私が千年以上前から、ルヴナンと契約をしていた事を」

「ええ。ルヴナンと契約した時に、最上級特別顧客の事は聞かされましたから」

「もしかして、建国当時から関わっておるのではないか?」

 

 リムルの言葉を聞き、ガゼルが重く静かな声でエルメシアに問う。

 

「そうよ。魔導王朝サリオンを(おこ)してから、暫くしてツキハちゃんとコハクちゃんに接触を計って、私と、個人契約を交わしてもらったのよお。期限なしの契約を、ね」

 

 そう言うとエルメシアは、薄い笑いを口元に浮かべる。

 

(あー、これ、俺のところの内情は把握されてるな、確実に。しかしまさか、魔導王朝サリオンと、いや、エルメシア陛下個人との契約とはな。無期限の契約を結ぶ時のツキハの反応はこれだったのか。ははっ、流石にこれは読めないわ……)

 

 それからは、如何にルヴナンの情報収集能力が驚異なのかを説明し、それを活用する事で、国益にする事を考え、国の資金は一切使わずに、エルメシア個人の資金で契約金を支払っていると。

 

(おいおい。個人の資産であれを払っているって……ちょっとした国家並みの個人資産を持ってるんじゃないか?)

 

 リムルはそれを聞いて、エルメシアに思わず聞いてしまった。

 

「失礼かと思いますけど、陛下の個人資産は、あ、いえ、失礼――」

「ふふっ。気になるわよねえ。あの()達の支払いを個人資産で(まかな)っているのだから」

「あ、いや、はい……」

「思えば、もう、千年以上もツキハちゃんとコハクちゃんとやって来てるものねえ。まあでも、契約する前からそれ相応の資産は持っていたわよお。それに今は、ルヴナンと合同で色々商売もやっているしぃ。あ、そうそう、ガットエランテは、私がオーナーなのよぉ」

「え? 陛下がガットエランテのオーナーだったんですか!?」

 

 まさかのガットエランテが、ルヴナン経営ではあるが、影のオーナーがエルメシアだと聞いて驚くリムル。

 

「そうよお。ガットエランテの発案はコハクちゃん。それに資金を出したのが私――」

「ぬうっ。それを言うかこの女は……。これは話していいものなのか、駄目なのか、判断に困る……」

 

 エルメシアとリムルのやり取りを聞いて、ガゼルはこの件を側近達に話すべきか、自分の胸に秘匿すべきか迷ってしまう。

 

 ガットエランテは表は普通の行商隊だが、裏の顔も持っている。

 

 そのオーナーが魔導王朝サリオンの皇帝だと暴露(ばくろ)されたら、とんでもないスキャンダルになるのは目に見えているからだ。

 

 番外魔王とここまで密接に関係しているとは、流石のガゼルも想像すらしていなかったのだ。

 

 既に後戻りも、聞かなかった事にするのも不可能。 

 エルメシアと番外魔王二人の意図が全く見えず、次なる言葉が出てこないガゼルであった。

 

 それを察してか、ホワリとした笑みを浮かべながら、エルメシアがガゼルに言う。

 

「貴方もそう身構えなくてもよくてよ。リムル殿の兄弟子でもある貴方が、ここ、魔国連邦(テンペスト)に深く関わってるじゃない。それに、ツキハちゃんとコハクちゃんがここに住み着いてしまったから、こちらとしては、()む無しなところがあるのよお。遅かれ早かれ、リムル殿には明かそうと考えていたの。その方が、私としても色々動きやすくなるもの。だから、三人で話し合って、もう一緒に明かしちゃいましょうとなったのよねえ」

「それはわかった。で、真意は(なん)なのだ?」

 

 ガゼルの言葉を聞いたエルメシアは、スッと足を組み、浴衣の裾から白い脚が覗く。

 

 リムルはそれに一瞬ドキッとするも、他の者に気づかれないよう、そっと視線を()らす。

 

 そして、エルメシアが妖艶(ようえん)なる瞳でガゼルを見つめ、得も知れぬ雰囲気を纏い、それに答える。

 

「ルヴナンが闇に動く時――その一端(いったん)には私も関わってるかも知れないって、事よ。この意味、貴方なら容易に想像できるわよ、ね?」

「うむ……(俺の国の今を把握しておる、か。完全にリムルに肩入れするには、今少し根回しが足りぬからな。しかし、性悪(しょうわる)猫共と組んでおるなど、厄介を通り越して、最早(もはや)俺の想像を遥か斜め上を超えておるぞ)」

 

 エルメシアにニコニコとそう言われてガゼルは、難しい顔を浮かべて押し黙る。

 

 エルメシアの言った意味とは――

 

 簡単に言えば、お互いに西方評議会には属してはいないが、武装国家ドワルゴンは産業などで、西方諸国とは深い繋がりを持つ。代表的なモノが、西方諸国に向けた貨幣鋳造を唯一任された国家である。

 

 更に、ドワルゴンは山の中に国家を築いている為、食料の自給率が極めて低いのも要因なのだ。

 

 もし、他国から食料の輸出を止められたら、かなりの痛手になるのは目に見えている。

 

 しかしこの要因も、魔国連邦(テンペスト)との貿易により、解消しつつはあるのだが……。

 

 なので今、いざ魔国連邦(テンペスト)と西方諸国が争いに発展した場合、迅速には動けないのが容易に想像出来る。それが国家として、リムルの国の後ろ盾としても、同盟国だとしても。

 

 かたや、魔導王朝サリオンの場合は西側諸国とは、ほぼ何もしがらみがない。

 

 仮に、そう仮定として、そのような争いが勃発した場合、迅速に魔国連邦(テンペスト)に加勢出来るのが、魔導王朝サリオンという事になるのだ。

 

 実質、大国である武装国家ドワルゴンが魔国連邦(テンペスト)についたのを、西方評議会は警戒しており、そのような噂をチラホラと聞くようになっていたのも事実。

 

 現時点では、あちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たず、という事が起こり得るのは十分に想定できる。

 

 魔国連邦(テンペスト)(くみ)するものの、まだ完全に西方評議会、いや西方諸国とのしがらみが甲斐性はされていない。

 

 ドワルゴンの工業製品の輸出が止められたら、困るのは西方諸国。

 だからこそ今ガゼルは、自分の思いと民の生活と安全を確保する為に、奔走(ほんそう)しているのも事実。

 

 ならば、その準備期間を円滑に行えるように、その間にもし事が起これば、魔導王朝サリオンが矢面に立ちましょうと言ってる訳である。

 

 そして、サリオンが行動を起こすとならば、その裏では、ツキハとコハクが(ひき)いる傭兵商会ルヴナンが暗躍する事になるのだ、と。

 

 エルメシアの真意とは、魔国連邦に(くみ)する事こそが目的であり、そこから先の事も当然見据えていたのである。

 

 エルメシアと、ツキハとコハク。

 

 この三人は、千年以上も前から西方諸国の裏、いや、最も深い闇に密かに潜って来ていた。

 

 表の顔は魔導王朝サリオンの皇帝ではあるが、ツキハとコハクのお陰で外の世界の、もっとも深い闇を知る事が出来た。

 

 一国で独立した国家を営むならば、内情は元より、外の世界の内情にも明るくてはならない。

 

 特に、暗黒社会の、深淵なる闇を覗くならば。

 

 善では真の闇を覗く事は出来ない。

 そう、悪は悪を知る、こういう事である。

 

 そう考えたエルメシアは、国を(おこ)してから()ぐに、傭兵商会ルヴナンの事を徹底的に調べ上げたのだ。

 

 そのルヴナンに関する情報収集は、母であるシルビアが(にな)っていた。 

 

 シルビアは微かに残るルヴナンの痕跡を追い、時には素性を隠して、臨時の傭兵として雇われた事もある。

 この時、魔導王朝サリオンの徹底した情報工作により、シルビアの素性はバレなかった。 

 

 何より、生粋の自由人であるシルビアがよもや、魔導王朝サリオンの〝重要秘匿人物〟だとは、誰も思わないだろう。

 

 後に、ツキハとコハクは、魔導王朝サリオン皇帝の素顔の情報を得ていた。

 

 で、あの〝出会い〟があったのだ。

 

 そして、そんな自由人であるシルビアだからこそ、ツキハとコハクの本性を僅かだが垣間見る事が出来た。

 

 ツキハとコハクの望むモノは、何よりも〝自由〟で、あると。

 

 〝何者にも縛られない、己の力だけで生きていく。その為には強くあらねばならない〟

 

 この言葉は、あるルヴナンの傭兵から聞いた言葉であり、それを言っていたのが傭兵商会ルヴナンを率いる番外魔王であると聞かされていた。

 

 この理念は、ある意味、どこにも属さないで一国であろうとする、魔導王朝サリオンの理念に近いものがあったのだ。

 

 そう、話は至極(しごく)単純だった。

 

 世界征服などには興味がない。

 だから、自分達が自由に生きる領域を犯すんじゃないよ、と。

 

 で、その為の銭稼ぎの場であるのが、傭兵商会ルヴナンである、と。

 

 その事を、シルビアの推察ながらも聞いたエルメシアは、決断した――

 魔導王朝サリオンをより盤石なモノにするには、敢えて火中の栗を拾いに行こう、と。

 

 話の通じない悪であるなら、姑息な事を企む悪であるなら、この世界に仇名す悪ならば、エルメシアはシルビアと二人で、傭兵商会ルヴナンを完全に潰そうと考えていた――番外魔王共々に。

 

 放っておけば、いずれ、魔導王朝サリオンにも厄災を運んで来かねないから。

 

 しかし、そうならなかった事の結果が、今である。

 

 ハイリスクハイリターン。

 

 これが普通の皇帝ならば、絶対に関わろうとはしないし、避けて通るであろう。

 

 それをしない柔軟な思考の持ち主のエルメシアに、自由人であるシルビアだからこそ――

 番外魔王ツキハと番外魔王コハクを取り込もうとなどの発想に、行き着くのかもしれない。

 

 

(そういう事、か)

 

 何も語らずともガゼルは、エルメシアの真意を読み取った。故に腹正しい気持ちにもなった。

 

 最初にリムルと知己(ちき)を得たのは自分であると、自負しているし、それは間違いない

 

 ガゼルの先見の目が、現在なのだから。

 

 そこを横から、いきなり入り込んで来たのが気に喰わなかったのもある。

 現在のドワルゴンの状況も、エルメシアに筒抜けだと知ると、感情論では済まない自分がいたのだ。

 

 同じ師に指示する弟弟子であるリムルの一番は、自分であると。

 魔国に何かあれば、真っ先に駆け付ける者は、自分だと思う、ガゼルであった。

 

 しかし、エルメシアの真意にも一理ある事は、ガゼルも否定は出来ない。

 

 だからこそ――

 

「ふん。どこぞの性悪(しょうわる)猫みたいであるな」

「あらあ、そんなつもりは、ないのだけどぉ?」

「で、あるか……」

 

 ガゼルの言葉にコロコロと笑い返すエルメシアに、最後はわかったというような言葉で、ガゼルは返す。

 

 こうして語らずとも、ガゼルはエルメシアの真意に決着をつけた。

 

(ガゼルのイライラした様子をエルメシア殿は、見抜いていたか。人の顔色を読む事など、王侯貴族にとっては朝飯前。だからこそ、生き馬の目を抜くような、苛烈(かれつ)な化かし合いが行われる訳だが……。それにしても、あの短い時間の中でどう思惑を読み取ったんだろ? 後で聞いて、いや、また勉強が足りぬとか言って、叱られそうだな、やめておこう。まあ、俺からすれば師匠と呼べるガゼルでさえ、このエルメシア殿からすれば赤子同前なんだろう。ほんと、長命な種族は――怖いわ……)

 

 ガゼルとエルメシアを見ながら、心の内で溜息を付くリムルであった。

 

 そこへ、シュナがタイミングを見計らい、皆に果実酒を配っていった。

 

 ツキハとコハクには、背の高い小さな丸いテーブルを二人の間に置き、そこに果実酒が入ったグラスを置く。

 

 その果実酒をグッと一息に呑んだガゼルとエラルド。

 二人は視線を交わし、同時に深い溜息を吐いた。

 

 この二人も仲が悪いようでいて、息ピッタリである。

 エルメシアの前では子供扱いされるという点で、似た者同士なのかも知れない。

 

 当然、経験の浅いリムルなどでは、交渉事でエルメシアに勝てるハズもないだろうし、ガゼルが諦めろと言う訳である。

 

 何しろ、あの番外魔王と対等な交渉が出来る人物なのだから。

 

「あら、美味しいわね、このお酒。本当に、ツキハちゃんとコハクちゃんに聞いていた通りよねえ」

「でしょ」

「せやろ」

「恐縮です」

 

 シュナの出した果実酒がお気に召したのか、エルメシアは綻ぶように笑い、シュナは嬉しそうに微笑んだ。

 

 一口飲むごとに味わいが変わる、シュナ秘蔵の一品である果実酒。

 ツキハもお気にいりの一品であった。

 

 とりあえず、場が落ち着いたところで、ガゼルが仕切り直すように口を開く。

 

「さて、もう良かろう。貴重な時間を、貴殿の気まぐれで潰されてはかなわぬ」

 

 再度のガゼルの催促で、ようやくエルメシアも本題に移って行った。

 

 

 





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