忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。181話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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181話 Emperor of Midnight(真夜中の皇帝)・後編

 

 

 真夜中の会談に乱入した、皇帝エルメシア。

 

 連れ立ってきたのはエラルドと、黒の守護者(ブラックガーディアン)と呼ばれる皇帝個人が有する最強の護衛だったのだ。

 

 その正体は、番外魔王であるツキハとコハクだった。

 

 そして、エルメシアはようやく本題を話し出す。

 

 

「そうねえ。貴方に協力するに当たって、私からの要求は一つよ。このようなお祭り騒ぎをするなら、是非とも誘って欲しいのよ。ツキハちゃんとコハクちゃんから聞いていた時はね、それはそれは楽しそうに言うのよお。もう、何かこう疎外感というかぁ、あれよねえ。二人が(うらや)まし――コホン、まあそれは置いといて」

 

 つい本音が駄々洩れになるエルメシア。

 

 一つ(せき)払いをして誤魔化し、話を戻す。

 

「だから、次回からは私も誘って欲しいのよお。それならば、喜んで両替に協力して差し上げますわ」

 

 もう体裁など(つくろ)う事も無く、こんな面白い事を、ツキハとコハクにだけ関わらせて、私に内緒で企むのが許せない――と、エルメシアは言い放った。

 

 内緒という部分はツキハとコハクから報告されていたので、完全に言いがかりではあるが、それはそれ、これはこれ、なのである。

 

 頭を抱え、天を仰ぐエラルド。

 苦虫を嚙み潰したようなガゼル。

 腹を抱えながら、笑いを押し殺すツキハ。

 しようもな、という顔で澄まし顏を浮かべるコハク。

 

「喜んで」 

 

 と、アッサリ答えるリムル。

 

 リムルの返事を聞いて、満足そうな笑顔のエルメシア。

 

 お祭り騒ぎが好きなら、そういう企画に参加したいという申し出なら、リムルとしては願ったり叶ったりであったのだ。

 

 リムルの頭の片隅にチラリと、これなら開催資金に困る事は今後なくならないか? という、腹黒い考えが(よぎ)ったのは、言うまでもない。

 

 すると、コハクがにこやかにリムルに向かって、口だけを動かし――

(良かったどすな)と、言った。

 

 そして、リムルの後ろの〝何もない空間〟を見つめて、クスリと笑う。

 

(はい!? なになに、俺の後ろに何かある? そもそも俺の考えが読めるのか? もしかして、顔に出て、た?)

 

 内心焦りながら、目を泳がせるリムルであった。

 

 それに気付いたエルメシアが、口に手を当てクスクスと笑う。

 

「ねえ、リムル殿。王族は民の奴隷ではないのよ? 王族が自由に生きる方が、民も嬉しい。私も嬉しい。皆が幸せになると思うのよ! あ、でもね、ツキハちゃんみたいに、めちゃくちゃに生きるという意味ではなくてよ?」

「おい、エル(ねえ)。何であたしを引き合いに出すのよ。依頼料値上すんぞ?」

「ほ~ん。いいわよお。やってみなさいな。どうなるか、わかっているわよ、ねえ?」

「はうっ」

 

 ツキハがエルメシアの右肩に左手を置いて言い放つも、そっとその手に自分の手を重ね、穏やかに、されど有無を言わさない覇気を持ってツキハに返すエルメシア。

 

(ええ? 何、あの穏やかな迫力は、怖えぇ。マジ怖いわ、皇帝エルメシア。あのツキハを黙らせるなんて、どんだけよ。しかしなぁ、皇帝を(ねえ)さん呼びとか、いいのかこれ? でもエルメシア殿もちゃん付けで呼んでるし……。ほんと、どんな関係なんだよ、あの三人は……)

 

 リムルは、恐らくエルメシアの後ろで、尻尾の毛をボワッと逆立ててるであろうツキハを見ながら、そんな事を思う。

 

 そして――

 

「確かに、一理ある。俺も同じ考えですね。協力者の存在は頼もしいですし、これからも宜しくお願いします」

 

 リムルは笑顔で手を差し出し、エルメシアと握手を交わす。

 

 こうしてリムルは、エルメシアと手を組んだ。

 

 リムルとミョルマイルにツキハとコハクに加え、エルメシアが新たに仲間となった。

 

 〝悪巧み三人衆と番外二〟の結成の瞬間である。

 この〝番外二〟とはツキハとコハクの事であり、この二人は悪巧みという範疇からも外れる者であり、こう呼ばれる事となるのであった。

 

 この意味は――後に判明する。

 

「今ここには私のポケットマネーだけしかなくて、確か金貨も千枚くらいしかないわねえ。もっと必要なら、って。そうね、ツキハちゃんとコハクちゃんも出しなさい――」

「――やだ」

「――いやおす」

「もう、困った()達よねえ。相変わらずの、星金貨嫌いで」

「え?」

 

 その催促を即拒否るツキハとコハクに、短い溜息を付きながらわざとらしい困り顔をするエルメシア。

 

 そして、その後に出たエルメシアの言葉に、疑問を浮かべるリムル。

 

「ねえ、リムル殿。ちょっと聞いてもいいかしら?」

「あ、はい。どうぞ」

「貴方、資金の事でツキハちゃんとコハクちゃんに、話をする機会はあったでしょう?」

「はい。ありました」

「何でそこで、両替の話を切り出さなかったのかしら。あそこの資金は、下手な大国より膨大なんだけど」

「エル姐、なにうっとこの台所事情をバラすんや。やめておくれやす」

「まあまあ、今更でしょう。バレて困る事なんてないでしょうに」

 

 コハクの文句に大袈裟に頬に手を当てながら、エルメシアはワザと神妙そうに言葉を(つら)ねていく。

 

「アレ、やったのね。本当に困った()よねえ、ツキハちゃんったら」

「はい!? 話が見えないんですけど?」

 

《……》

 

 エルメシアからやられたと聞きリムルは、何をやられたのか? 皆目見当がつかないリムルだが、智慧之王(ラファエル)は何かに気付いた。

 

 ミョルマイルも同じく、何が何やらといった顔でエルメシアを見ていた。

 

(チッ。私とした事が、こんな単純な手に(はま)るとは、やはり馬鹿は何するか読めませんね)

 

 同時にディアブロは、それに気付く。

 

 ツキハがエルメシアに何か言おうとしたが、それを、「ツキハちゃん」と一言だけ名前を呼び、ツキハの文句を制してしまう。

 

 そしてエルメシアが、ツキハが何をしたのかネタバラしをした。

 

「思考誘導というか、精神操作とかそんな大それた事ではないのよお。ちょっとした、注意を()らすような感じかしら」

「えーと、具体的には、精神操作の(たぐい)ではないと?」

「そうねえ。例えば、話し合いの場で、資金繰りの話が出て、星金貨を両替という話題をこっちに振らせないように、キーワードとなる言葉でそれを誘導するのよお。もしかしてリムル殿は、コハクちゃんから何か言われたかしら?」

「え? あー、確か……金を貸してという顔をしてると、言われたような」

「やっぱり。それ、忍魔術を行使する時に使う言霊(ことだま)の応用なのよ」

言霊(ことだま)って、呪文詠唱みたいなアレですよね?」

「そうよお。ツキハちゃん達が使うのは、ちょっと特殊なんだけど。言葉には、魔力が宿っているらしいの。そうね、異世界人の表現で言えば、霊力かしら。その力で術を行使したりするのだけど、その応用で、言葉を聞いた相手にも影響をもたらす事が出来るらしいのよ。要は、発した言葉通りの結果をもたらすと、いう事なの。例えば、お金を借りたそうな顔をしている、とかかしら」

「あぁ……深層意識に働きかけるとか、そういう事ですね?」

「そうよお。流石報告通りに、柔軟な思考で理解が早いわねえ」

 

 ニコニコとツキハとコハクに遠慮しないで、話を続けるエルメシア。

 当の二人は苦虫を嚙み潰したような顔でそれを聞いていた。

 

「でも、これはね、相手の精神が無防備か、別の何かに注力している時にだけ、効果を表すの。だから、リムル殿は両替という思考を、お金を借りるという方向にすり替えられた、と、いう事かしらね。要するに、騙し、隠し偽る、ツキハちゃんとコハクちゃんの常套手段である、隠形術の変形であり、無意識の隙間に言霊(ことだま)で呼びかけると、いったところかしらねえ。これね、相手にとっては害がない分、気付きにくいのよお。ただし、一度気付くと、二度と騙しが効かないのだけど。心が警戒するからね。で、貴方、ツキハちゃんを怒らせるような事でもしたの?――」

「え、えと、俺達の会議にですね、強制的に参加させたんですけど」

「あらあら、それは駄目よぉ。ツキハちゃんをそんな場に参加させたら、会議室を破壊されかねないわよお。昔からああいう場は大っ嫌いな困った()なのよ。でも、星金貨の両替を嫌がったのも事実だけども」」

「はあ……(何となく、そう思っていたよ。アイツの幼少期の話をコハクから聞いていたからな。何で星金貨の両替を嫌ったんだろう?)」

 

 エルメシアの言葉から、皇帝自身も何か被害を被った事を察したリムル。

 

「あぁ、えーと、なあツキハ。そんなに会議とか嫌いなのか?」

「嫌い。めんどくさい、ウザい」

「そこまでかよ。まあ、今度からは一応伺いを立てるから、それでいいだろう?」

「それならいい。でも、次あたしの楽しみを邪魔したら、会議室を吹き飛ばすからね」

「わかったよ。でもな、お前もルヴナンの責任者の一人だろ。コハクみたいにもう少し、会議とかに慣れた方が――」

「やだ。そういう事はコハクの仕事だよ。あたしは、戦うのが担当だし」

 

 あっけらかんと言い放つツキハ。

 

 それにコハクが、やれやれといった顔で言葉を付け加える。

 

「リムル、諦めなはれ。ツキハは、今も昔もこんな子やし。どもなりまへんで」

「何言ってんの、コハクは頭を使ってあたしを後ろから支える。あたしは前で戦って、アンタを支える。〝忍び〟の頃からそうして来たじゃん。〝魔物〟になっても変わらないし、変えるつもりもないよ」

 

 ある部分を強調し、さも当たり前のように言うツキハに、リムルも苦笑いを返すしかなかった。

 コハクだけはどこか懐かしそうな表情を一瞬だけ浮かべ笑いながら、しょうもな、と言った。

 

 そこへ――

 

「ちょっと待て」

 

 と、いきなりガゼルが会話に割り込んで来た。

 

 ある言葉が盛大に引っ掛かり、口を挟まずにはいられなかったのだ。

 

「魔物になった、とはどういう意味なのだ。番外魔王はこの世界で生まれた魔物ではないのか!?」

 

 語気を少し荒め追求するガゼル。

 

 するとエルメシアが、さもそれが何かしら? というようにガゼルに告げる。

 

「あらあ、知らなかったの貴方。もう言っちゃったものはどうしようもないしぃ。どうする? ツキハちゃん、コハクちゃん」

「いいよ、ガー坊もリムルの最大の協力者であるからね」

「せやね。かましまへんで」

 

 そう言いながら、ニヤリと薄い笑みを口端に浮かべる三人。

 

「ツキハちゃんとコハクちゃんはね、異世界転生者なのよお。リムル殿がいた時代より昔の世界からのね。〝忍び〟という、魔人にも似た普通の人間より強い力を持った人種だったらしいのよ。で、その忍びがいた世界で死んで、二人揃ってこの世界に転生したみたいなのよ。ねえ、二人一緒に死んで、二人揃ってこの世界に転生なんて、本当に面白いでしょう。ふふふ」

「なっ!? ……」

 

 あっけらかんと説明するエルメシア。

 

 かたやガゼルは、バシッと額に手を当てると。

 

「ここで番外魔王の秘密を明かすか、やりおったな。リムル、お前はこれを知っておったのだろう」

「ああ。ヴェルドラとツキハの決闘前に二人から聞いていた」

「なるほど、な。何故今までそんな重要な事を黙っていたのだと、説教したいが、今は置いておこう。番外魔王がお前と同じ転生者だとは、悪夢より(たち)が悪いわ! 全く、側近達にどう報告すればいいのやらだ……」

 

 古来より悪名を轟かせ、傍若無人(ぼうじゃくぶじん)の限りを尽くして来た番外魔王の二人。

 それが実は、リムルがいた時代より古い世界からの転生者であると聞かされたガゼル。

 

 この時、死んだ世界より更に五千年も遡って転生したと知ったガゼルは、更に頭を抱える事になる。

 

 後、リムルのいた異世界の日本とは別の日本からの転生者というのは伏せられていた。

 

 番外魔王の率いるルヴナンから情報を買っているとはいえ、この事実は人類にとって何をもたらすのかなどと、想像するのも頭が痛いガゼルであった。

 

(フッ。ここに来てこの話。とうとう表舞台に這い出て来るか、番外魔王ツキハ、番外魔王コハク。そして、あの大妖(オンナ)もこれに絡んでくるとなると、暗部の報告にある通り、番外魔王の二人が魔国で広げている商売にも間違いなく関わっているのだろうよ、あの大妖(オンナ)は。リムルがあの三大妖から無理難題を押し付けられるぬ様、俺が目を光らせておかねばな。しかし、アヤツ等が転生者でリムルと同じ元人間だったとは……。どうすればあんな性悪(しょうわる)猫になるのだ? うむ、わからぬ。もうなるようにしかならぬな。今は、あの三人の行動に注力するしかなかろうよ。しかし、この為に番外魔王コハクは、この場を結界で隔離したのだな。いかにもだが、初めから俺に明かす算段をしていたのだろう。全く食えない御方だ、あの大妖(オンナ)は……)

 

 と、いきなりの素性証に、どこか諦めの境地に至るガゼルである。

 

 とりあえず場の雰囲気が落ち着きを見せ始めた。 

 

 

 それを確認したリムルは、今回の一番気になる事を二人に聞いた。

 

「ところで。何で星金貨の両替を嫌がったんだ――」

「そんなのわかり切った事だよ」

「はい?」

「いざ使おうとすると、凄く面倒だよね、星金貨」

「せやねえ。あんなもの持っていても、王侯貴族のコレクションにしかならへんで」

「あー、確かに。それは否定出来ないな」

「両替しようとすると、両替屋や商人共は手数料を要求するし。そりゃあガー坊ならそんなもの取らないだろうけど。一般的にはね――」

「だったら、俺の両替も手数料取ればいいのでは?」

 

 リムルがツキハの言葉に反論すると。

 

「いや、だから言ったよね? あたしが使おうとすると、両替が発生するじゃん? 大体支払いに星金貨などを出そうとすれば、明らかに嫌な顔をするんだよ、商人共はさ。だから、アンタから手数料とっても同じ事よ、って、あーもう。ねえ、リムル」

「え、はい」

「いい? よく聞いて」

「お、おう」

「すぐに使えない星金貨は、あたしからしたら、ただの異物みたいなもん。古代金貨なら、地域限定だけど一応流通があるし、まだマシ。以上、終わり!」

 

 リムルを指差しながら、最後は手でバッテンを作り言うツキハ。

 

 流石のリムルもこれには堪え切れずに、声を出して笑ってしまう。

 

「ハハ、ハハハッ。いや悪い悪い。そんな単純な理由だとは、な。なあ、星金貨が嫌なら、現物支給でって事でも、良かったんじゃないか。お前達って、俺の国の生産品の現物支給は嫌いじゃないだろう?」

「それはそうやけど。ねえ?――」

「あー、うん、それはねえ?」

 

 リムルがいつもの現物支給の事を持ち出すと、二人はどこか口を濁した口調で顔を見合わせる。

 

 そして、ツキハが小声でゴニョゴニョと、(いや、それはそれで、そっちが大変じゃん? それにエル姐が、私がやるからかとか、釘を刺して来るしぃ)とか(つぶや)く。

 

 それにリムルが首を傾げていると――

 

《告。個体名:ツキハとコハクの言いたい事は、もし、現物支給で金貨千枚分とすると、こちら側の他国への輸出が滞る事を懸念しての発言だと推測します。現在、確固たる生産体制を構築してる最中に、このようなイレギュラーな受注が発生すると、そちらに注力を注がないといけません。また、納品を遅らせる事も可能ですが、それは政治的に今後の取引にも影響が出かねない案件だと、考えたのでしょう。ハッキリ言えば、自分達の我儘で主様(マスター)に〝気を使わせたくなかった〟のではと推測します》

『なるほどねえ。アイツ等が、俺に気を使ってくれたのか。ちょっと意外かも。結構やりたい放題してるんだけどね、特にツキハが。ククッ。ところで、先生。では、とは?』

《解。個体名:コハクが、あの時に言った言葉。〝捨てる神あれば拾う神がいる〟、この言葉の意味する〝拾う神〟とは、個体名:エルメシアを指すものであると――》

 

 智慧之王(ラファエル)が指摘した言葉に察しが付くリムル。

 

『んん……ああああー! それでかあ。前夜祭の時のエラルド公の何か知ってるような態度。そして、コハクが言ったその言葉。なるほどなるほど。あの時点でエルメシア殿がこの案件に首を突っ込んでくるのは、確定事項だった訳だ。星金貨の両替は勘弁、でも、俺が困るからこの情報をエルメシア殿に流したと、いう事かぁ』

 

 ここで、全てに合点がいったリムルであった。

 

 ツキハとコハクが星金貨両替を嫌がったのは本当だが、この件をエルメシアに報告。

 この時の〝拾う神〟は、エルメシアにこの件を投げるつもりの発言であったのだ。

 そしてコハクの思惑通り、エルメシアがこれに介入するのを決めて、それも兼ねてこういう回りくどい事をやったのだと。

 

(本当にガゼルの言う通りの人だな、エルメシア陛下は。あのツキハとコハクをちゃん呼ばわりする事とか、有無を言わせない迫力で黙らせるとか、こりゃあ、こっちも気を引き締めないと根こそぎ喰われかねないかも?)

 

 と、そんな事を思うリムルであった。

 

「でもね、ツキハちゃんがやったそれは、ただの悪戯(いたずら)みたいなものだから、そんなに気にする事はないかしら。やられたらそれはそれで不愉快ではあるものの、カラクリがわかれば対処は簡単だから――」

「クフフッ。しかし、やってくれましたね、二人共。あの場にリムル様もおられて、しかも幹部の方達と貴女達二人だけという状況。あの場の雰囲気を利用して、思考の先行きを紛らわせるとは、勉強になりましたよ。あのような場での貴女達の言葉には、今後、一言半句(いちごんはんく)漏らさず注意をしないとなりませんね。リムル様に対して、姑息な手を使われないように。それに、これは戦いでは使えませんね。緊迫した状態では、言霊(ことだま)()らしの効力は限りなく薄れるでしょうから。ワザワザそれを使わなくとも、幾らでも相手の注意を逸らす手は持ってますからね、ツキハとコハクは。クフフフフ」

 

 エルメシアがそう言うと、ディアブロがツキハとコハクを軽く睨みながら言い放った。

 

 それに対して二人が挑発的な笑みを返し一触即発になりかけたが、リムルが「ディアブロ」と名を呼び、エルメシアがツキハとコハクに「駄目よ」と諭し、張りつめかけた空気が一瞬で払われたのだった。

 

 それからエルメシアは、〝がま口財布〟である魔法の財布を取り出した。

 

(あ? ツキハとコハクが持つ財布と、お揃いの財布じゃないか?)

 

 それを見たリムルは、見覚えのある財布を思い出す。

 

「ねえリムル殿。もっと必要なら用意して持ってこさせるけど?」

「いや、当面はそれだけで十分です。それでは、星金貨十枚と交換してもらえますか?――」

「あ、そうそう。ツキハちゃんとコハクちゃんも千枚くらいなら今持ってるでしょう? 今回は見せ金も必要だから、出しなさい」

「はあ!?」

「なんでやねん!」

「出しなさい」

「あう……」

「へぇ……」

 

 一気に嫌そうな顔になるツキハとコハク。

 しかしエルメシアは、ニコニコと有無を言わせない。

 

(ああ何だ。俺も平然と答えたけど、この人、一体何を考えているんだろう? 平然として金貨千枚を持ち歩くとか、それにツキハとコハクに対して有無を言わせないあのもの言い。感覚がバグってるとしか思えない。マジもんの金持(セレブ)ちみたいだしってか、あの二人もどんだけ個人資産を持ってるんだよと言いたいわ。ほんと、ガゼルが言うように敵に回さなくて正解だ。何せ、あの二人と古いつき合いの最上位特別契約主でもあるからなぁ)

 

 二人にそんな嫌な顔をしない、と軽く説教をするエルメシア。

 

 そして――

 

「もう、しょうがない()達ねえ。大丈夫よ、貴女達の星金貨は、私が両替してあげるから――」

「ほんと!? それなら出すよ」

「そんな事なら、仕方ありまへんな。よろしおす」

 

 エルメシアが二人の両替を引き受けると言うや、途端に晴れやかな笑顔になるツキハとコハクである。

 

「それじゃあ、リムル殿。約束、ちゃんと守ってね」

「勿論ですとも!」

 

 エルメシアにそう言われ、リムルは笑顔で頷いた。

 

 そしてこの場で両替してもらえ、予想以上の金貨が合計にして、五千枚も集まったのだ。

 

 リムルはこれで問題が片付いたと安堵した。

 

 そんなリムルにディアブロが「良かったですね」と言いながら、用意したお茶を注いでいく。

 ガゼルやエルメシアとエラルドにもお茶を注いで回る。

 

 そして、ツキハとコハクのところに来ると、暫し無言で軽く睨み合い、二人にもお茶を注いだ。

 

(うーん。何だろうな、あの三人の関係というか、仲の悪いというか喧嘩仲間というか、よくわからん関係だ。付き合いが古いといえば、ディアブロとあの二人もそうなんだよな。ディアブロからチラッと聞いた話では、何度も殺し合いをして来たとか何とか。まあ俺から見たら、戦闘民族過ぎるわ。特にツキハとディアブロは、ね。エルメシア殿にしろガゼルにしろディアブロも、俺の知らないツキハとコハクを知ってる訳だ……)

 

 リムルはホクホクとしてお茶を(すす)りながら、そんな三人を少し羨ましく思う。

 

 そこへ。

 

「これで、ルールも守れないのかと、リムル様を笑いものにしようとした何者かの計画も失敗ですね」

 

 ベニマルも不敵な笑みを浮かべて言った。

 

 だがしかし、そんなリムル達に、エルメシアとツキハとコハクが思わせぶりな事を言い出した。

 

「うーん。多分、金貨の用意が間に合わなくても、協力を申し出る人物がいたと思うわよお?」

「だね」

「せやね」

 

 エルメシアが口にした事に、ツキハとコハクが即頷いた。

 

「ん、どういう意味?」

 

 リムルは意味がわからず、素直に問う。 

 

「相手を従いたい場合、恐怖や威圧といった強硬的な手段を取るよりも、恩を売る方が何倍も簡単で、成功率も高いって話。この()達もよく使う手だしねえ」

 

 そう言ってエルメシアは微笑み、その笑みは、間違いなく支配者のそれだった。

 

 そしてその言葉に、ディアブロがピクリと反応した。

 

「なるほど。頼まれてもいないのに、仲裁に入ろうとする者が現れる、と?」

「そうねえ、そうなるかも知れないわねえ。でもお、そんな人が現れても、その人も誰かの操り人形なんだろうな、って思うわよねえ」

「クフフフ、面白い考察です。いや、あの二人が後ろに付いている事を(かんが)みれば、あながち、と私の推察は置いておきましょう。しかし、自分達で問題を起こしておきながら、恩を売り付けて融通を利かせようとする。それは確かに、ありそうな策略ですね。ですが――」

「金貨の現物がなくても、証文があれば問題はないでしょうねえ。この国には信用がないのだと各国の重鎮に見せ付けつつ、自分には信用があるのだと、貴方達に恩が売れるわねえ」

「クフフフ、なるほど。欲深い。実に人間らしい考えです。元人間であるあの二人ならば、その裏の考えなどお見通しだと、いえ、支配者である皇帝ならば、そのくらい看破するなど容易い、ですか。勉強になりましたよ」

 

(え、えっと、つまり? 恩着せがましく小売商達の説得を行い、俺達に取り入ろうとする者が現れるかもねって話? でだ、その人物も誰かの差し金で、何時でも切り捨てられる小物だ、と? うーん、俺達がその誰かを信用したら取り入って、疑われたらその策は即破棄する訳かな。これ、エルメシア殿の言う通りにってか、どこまで掴んでいるんだこの人は……。いや、それも今更か。そもそもアイツ等が付いているんだから。まあ、俺のところもそうなんだけど、情報に関しては無暗に売らねえからなぁ。ソウエイの暗部の育成には一役買ってもらってはいる訳なんだけどね。どの道、ディアブロもその可能性が高いと思ったんだろう。ゾッとするような笑みを浮かべて考え込んでいるし)

 

 エルメシアとディアブロの会話を聞きながらリムルは、自分なりの考察を思い浮かべる。 

 

「俺にはそんな面倒な話はよくわからんが、そんな事を企むヤツに心当たりはあるのか? その、西側諸国を纏める評議会のメンバーの中に、俺達を試そうとするヤツが紛れているのか?」

 

 と、いきなりベニマルが問う。

 

 その乱雑な口調に気を悪くするでもなく、エルメシアは笑った。

 

「私もそこまで知らないわよ? だって、我が王朝(サリオン)は、評議会には加盟していないもの。それに、それ以上は、高くつくわよお?」

 

 そう言いながら後ろにいる二人を指差し、続けて言葉を繋ぐ。

 

「でもお、そこの彼なら、何か知っているんじゃないかしら?」

 

 と、エルメシアが見つめる先には、先ほどから何かを一心に考え込んでいるミョルマイルがいた。

 

「え、ワシですか!?」

 

 突然指名されて動揺するミョルマイル。

 

 だが、直ぐに平静を取り戻し、悩むように口を開く。

 

「噂なら、聞いた事が御座います。西側諸国を牛耳る陰の委員会が存在する、と。評議会の構成メンバーの、上位支配者達だそうですが……眉唾と思っていました。が、しかし、ガットエランテのリアナ殿と幾度か話す機会がありまして、それもあながち眉唾とは思えなくもないと、いった考えに到りました」

「あらあ、リアナちゃんと仲良くなったのお? あの子はいい子でしょう、これからも宜しくねえ」

「え、はい、いや、その、はい……」

 

 ホワホワと笑いながら言うエルメシアに、ミョルマイルはどう返答していいものか妙にキョどってしまう。

 

 しかしそこはミョルマイル、コホンと軽く咳をして「大変失礼致しました」と言い、話を続ける

 

「それで、評議会のメンバーは、各国の代表です。王侯貴族が出自であり、その身分は保証されていますからな」

 

 ミョルマイルが言うには、商人の間で長年流れる噂があると。

 

 権力の中枢に位置する支配者階級が存在する、と。

 

 陰謀論レベルの噂話であり、ミョルマイルも信じてはいなかったが、ガットエランテのリアナと会話を交わす内に、その考えを改めざる得ない、そう思わされたと言った。

 

 これは、ミョルマイルがリアナから聞いた話の内容から、考察し、纏め、自分なりの答えを導き出した結果である。断片的な情報からこの結論に至ったミョルマイルの、商人としての洞察力の高さが(うかが)えるところでもあった。

 

「――もしも、怪しい人物が仲裁を申し出たならば、ルヴナンの手を(わずら)わせなくとも――俺がその者の身辺を調査し、背後関係を丸裸にしてみせましょう」

 

 リムルの隣に(ひざまず)き、ソウエイがそう言った。

 

(う、いたのに気付かなかった……んん? あ! そうか、だからコハクのヤツ、俺の後ろを見て笑っていたのか。なるほどな、最初からいた訳だ。じゃないと、いくらソウエイでもコハクの結界領域を突破出来ないものな)

 

 内心で驚くも、コハクが何もない空間を見て笑ったのも納得がいき、鷹揚(おうよう)に頷くリムル。

 

「驚いたわ。あの()達の眷属みたいに、気配を感じさせないのね。でも、少し違うみたいねえ」

「だから、申したのです。ルヴナンの報告書を読む限り、ここの者共は異常ですから、いくら〝黒の守護者(ブラックガーディアン)〟をお連れになっても、生身で訪問するのは危険です、と――」

「でもお、あの()達以外に、こんな面白い体験出来るなんて、貴重よねえ。それに番外魔王二人を連れ立ってる私に手出しを出来る者が、おいそれといる訳ないしねえ。ツキハちゃんと仲良くしている〝暴風竜〟ヴェルドラだって、ツキハちゃんがお願いすれば私を守ってくれるかも知れないわよ?」

「陛下、それは飛躍し過ぎです!――」

「いいよぉ。お手当を弾んでくれるなら、お願いしてあげるけど?――」

「ちょっ、ツキハ殿! 陛下を甘やかさないで下さい」

「でさ、いくら出す?」

「そうねえ――」

「陛下ッ! ツキハ殿も冗談は()めて下さい!」

「金貨三百枚はどう?」

「安すぎ。エル姐、あの最強〝竜種〟ヴェルドラなんだぞ。最低でも二千枚はもらわないと、ダメ。ヴェルドラに、いっぱいお小遣いあげたいから」

「ちょっと陛下もツキハ殿も、今は――」

「エラルド、貴方、少し(うる)くてよ。じゃあ、金貨八百枚」

「だからぁ、それ安すぎだって言ってんじゃん。それとエラルド公、少し黙ってくれる? 今商談中だから」

「はいっ!?」

 

 冗談なのか本気なのか、エルメシアとツキハは本当に臨時の護衛をヴェルドラに頼む商談を始めてしまう。

 

 ガゼルはもう好きにしろと言わんばかりに、お前も大変だなという目でエラルドを見ていた。

 

(ツキハさん、ヴェルドラを甘やかすのは、()めて下さい。でも、ああ、何だろうな、この会話のやり取り。本当にこの人皇帝なのかと疑いたくなるよ。しかしだなぁ、本当にタメ口じゃん、皇帝と。まあ、あれだな、皇帝その人の度量の大きさというか、深さというか、よくあの二人と千年以上も付き合えるものだな。しかし、エラルド公は、ほんと苦労人だね。まあ、あの三人を相手にすればそれも無理ないか。ククッ)

 

 リムルは、エルメシアにエラルド、ツキハのやり取りを見て、内心笑いを漏らす。

 

 暫くそんな会話を繰り広げていると、「冗談はさておき」と、エルメシアはリムルに向き直る。

 

 その(かたわ)ら、どっと疲れた顔のエラルドが、ディアブロが注ぎ直したお茶をごくりと一口飲んだ。

 

「ところでリムル殿、一つ質問をしてもいいかしら?」

「はい、何でしょう?」

(ちん)は、その方等と盟約を結ぼうと考えておる。じゃがその前に、貴殿の考えを聞いておきたい――」

 

 一気にエルメシアの雰囲気が変わった。

 

 さっき一瞬だけ見せた支配者の顔を隠しもせず、真っ直ぐにリムルだけを見ていた。

 

気圧(けお)されそうな重圧じゃないか。じょ、冗談じゃない、ガゼルの比ではない。これは――『英雄覇気』だ) 

 

 ビリビリと圧し潰されるような感覚に、リムルは内心声を上げる。

 

「うかがいましょう」

 

 そしてリムルも、『魔王覇気』で対抗する。

 

 睨み合い、(がん)の付け合い飛ばし合いの、両者。

 

(流石ツキハとコハクを相手に、対等に渡り合ってるだけはある。尋常じゃねえ、この『英雄覇気』は――)

 

 それでもリムルは、真っ向から受けて立つつもりで、目を()らさずにエルメシアを見た。

 

「貴殿は、そこの悪魔をどう処するつもりだ? その危険極まりない、原初を――」

 

(はい、原初? 何だそれ、エルメシア殿の言葉の意味がわからないが、悪魔だからディアブロの事かな? 確かに強いけども、そんなに危険というほどでもないんだけど……)

 

「ああ、いや、別に? どうもこうも、ディアブロは気持ちよく働いてくれてるし、何か問題あります?」

「……聞き方を変えましょう。その悪魔が暴走したなら、貴殿はどう責任を取るつもりじゃ?」

 

(はい? 暴走ですか……。うん、暴走しそうだよねえ。そうか、ディアブロの事は二人から聞いていたのか。そうだよねえ、アイツ等は俺よりディアブロの事知ってるもんなあ、逆も(しか)りだけど。でもなあ、それはディアブロ一人の話ではないんだ、これが。言いたくはないが、ウチにはシオンという問題児も控えているんだ。更に友人のサンコもルヴナンの問題児でねえ、コイツ等混ぜたら絶対に駄目なパターンなんだよ。時既に遅しなんだけど……)

 

 何とも皮肉な事に、リムルの周りには何故か、問題児が寄って来るのであった。

 

「そりゃあ、暴走する前に止めますよ。被害を出さないようにするには、それしかないでしょう?」

 

 リムルの言葉を聞いて、ディアブロが嬉しそうにしていた。

 

 それを見たリムルは。

 

(いや、君も当事者だからね。そんなに嬉しそうにされても、困るんですけど……)

 

 と、困惑気味に心の内で呟く。

 

 だがしかし、困惑したのはリムルだけではなかった。

 

「は? えっと、ちょっと待って? 思わず素に戻っちゃったけど、君がその悪魔を止めるの? 責任を持って?」

「はい。暴走しがちなのは確かですが、最近は俺の言いたい事を理解してくれるようになったんです。それに、以前に比べるとかなり大人しくなったんですよ」

 

 リムルは自信を(もっ)てそう答えた。

 

「ちょっとお、聞いたエラルドちゃん? 魔王リムルって、エラルドちゃんやツキハちゃんコハクちゃんから聞いていた以上に大物だわねえ!」

「だから言ったじゃん。天然だって」

「ほんまになぁ、思考が今一読めん人やさかい」

 

 苦々しい顔を更に(ゆが)める公爵に、相反対してニコニコと答える番外魔王の二人。

 

(ツキハ、俺を天然呼ばわりとは、後でキッチリ話そう。しかし、エラルド公も大変だねえ、そんな自由奔放な(あるじ)に仕えて。しかもあの二人も同時に相手にしないといけないとは、ね)

 

 リムルはそんなエラルド公爵を、内心で慰める。

 

「もう良かろう、エルメシア殿。リムルがこう言うのだ、俺もそれを支持しよう。何かあったその時は、このガゼル・ドワルゴもリムルの力になると約束しよう」

 

 ガゼルも力強くリムルの言葉を後押しした。

 

 そんなリムル達を、エルメシアは楽しげに眺める。

 

 そして――

 

「その方の考えは理解した。もしも貴殿が人類の敵に回るなら、その時は朕が全力を持って止めて見せよう。番外魔王も(しか)り、この二人が暴走するならば、朕の全てを賭けて止めようぞ。このまま好ましい関係を維持し、両国の絆が深まる事を願おう。エラルド――」

「ハッ!!」

「朕も、魔導王朝サリオンとジュラ・テンペスト連邦国の、正式なる盟友関係を認めるものとしよう。そして、傭兵公国シャルフューズとの国交を、秘密裏に結ぶことも許可する――」

「なっ!? 傭兵公国だ、と……?」

 

 最後の一撃を喰らったガゼルは、大きく目を見開き、固まった。

 

(あちゃあ、そこまでバラすのね。こりゃあ、ガゼルの説教と全てを包み隠さず話せと迫られるのは、確定じゃないか……。頼むから、そんな重大な事を俺に内緒で企むのはやめて欲しい、本当にやめて……)

 

 固まるガゼルを放ってエルメシアは告げる。

 

「後の手続きは、良きに計らえ」

「ハハアーッ!!」

 

(おおう。威厳たっぷりに、エラルド公に雑用を命じている。俺も見習わねばなるまい)

 

「それじゃあ、何かあったら私かガゼルちゃんに相談して、決して暴走しないようにね? ああ、そうそう。間違ってもツキハちゃんには相談しては駄目よ。この()、止まるという事を知らないのよねえ。確実に暴走するわね。やむを得ずするなら、コハクちゃんに相談しなさい。必ず私に報告が入るから――」

「なあエル姐。何でイチイチあたしを引き合いに出すのよ」

「ちょっと黙りなさい、ツキハちゃん」

「あ゛あ゛?」

「黙りなさい」

「あうっ……」

 

(解せぬ。ディアブロが暴走した時の話じゃなかったっけ? 何時の間に俺の話題になったのやら。しかも、サラッとツキハを引き合いに出すし。俺が暴走するなど……失礼な話だよ、まったく) 

 

「あのねえ、こう見えても俺は、思慮深い性格なんですけど? 俺が暴走するみたいな言い方は――」

「リムルよ、思いつきで開国祭を開催したのは、一体誰だったかな?」

 

(うっ、フリーズから帰還したか。何か、ガゼルの視線が痛い。えーと、そう、誰かと問われれば、間違いなく俺だ)

 

「えっと、ミョルマイル君だったよね?」

「違いますよ、リムル様!!」

 

(流石に、ウンとは頷いてはくれないか……)

 

「わかったよ、わかりました。今度からは、ちゃんと相談しますよ」

「そうねえ、お願いするわね」

「本来、他国の王にこんな事を言うのは筋違いなんだがな。お前の場合は別だ。悪く思うなよ?」

 

 あまり口(うるさ)く言うのは内政干渉になる、とガゼルは言う。

 

 要は、リムルの発想はこの世界では受け入れ難いものが多いのも事実である。

 

 だから事前に相談して欲しいとの事で、良い悪いに関係なくガゼル達にとっては必要な事だったのだ。

 

 そしてそれは、リムルにとって悪い話ではなかった。

 

 天使族(エンジェル)による文明破壊に備える上でも、両国の協力を取り付けられたのは、リムルにとって僥倖(ぎょうこう)だったといえよう。

 

 そして、傭兵商会ルヴナンがいる。

 

 何しろ、天使族(エンジェル)の襲撃の際は、魔導王朝サリオン皇帝エルメシアとの契約の為、秘密裏に最前線で戦って来た、番外魔王ツキハと番外魔王コハクがいるのだから。

 

 金貨の問題も解決し、難しい話は終わった。

 

 これでお開きにしようとリムルが思っていると、エルメシアがまだ話があると言い出した。

 

 真顔でリムルを真っ直ぐに見て、どこか少し必死な感じを受けるリムル。

 

「ええと、まだ何か問題が?」

「いえいえ、問題という訳じゃないのよ?」

 

 小首を傾げ言うエルメシア。

 

(貴女はツキハかッ!?)

 

 と、心の内で一人突っ込みを入れるリムル。

 

「えとね、これは私からのお願いなのだけど……吉田氏を紹介して欲しいのよ!」

「ちょっと陛下、何を言っておられるのですか!? どさくさに紛れて、ずうずうしいですぞ!!」

「だってえ、ツキハちゃんにお願いしたら、「知らん。場所は教えるから、自分で行け」と言われたしい。コハクちゃんに至っては、「そんなん知らんで。子供やないのやから、紹介とか言わんと、直接行きなはれ」とツッパネられたのよお。だから、仕方ないでしょう?」

「はあ? いつの間に二人にも頼んでいたんですかッ!? ってか、度々二人に無理を言って買って来てもらっているから、そんな事を言われるんですよ!」

 

(おいおい。どんな無理難題かと思えば、そんな事か。エラルド公が慌てているけども、そんな大層な事じゃないだろうに。吉田さんはシュナの頼みでこの国に来てもらって、料理の腕を振るってもらっているが、祭りの終わった後の予定は聞いていない。俺としてはこの国に残って欲しいとは思っているけど、それを決めるのは吉田さんだからな。まあ、紹介するくらいなら問題はないだろう)

 

「そのくらい、お安い御用ですよ。でも、吉田さんに何かを強制したりはしないで下さいね?」

 

 そう言ってリムルは快諾した。

 

「勿論よお!」

 

 満面の笑みで返事を返すエルメシア。

 

 とそこへ、まだ何かあるのかエルメシアが、コハクに尋ねた。

 

「そうだ、コハクちゃん」

「なんどす?」

「リアナちゃんは、この国に滞在しているのよね?」

「へぇ。暫く滞在する()うてましたで」

「そう」

 

 そう言うと、エルメシアの笑みが妖しく深まりを見せ、それを見たコハクも口端をニイッと軽く上げた。

 

(あ、これ、悪い顔だ。隣のエラルド公の顔が、またかという表情になってる)

 

「ならちょうどいいわ。ちょっとね――」

 

 そう言いながらエルメシアは席から立ち部屋の片隅に行くと、コハクと小声でコソコソと何かを話し始める。

 

(あー、また内緒で何か企んでやがるよ。ほんと、マジ勘弁、ん? ――)

 

 と、リムルが思った時、エルメシアがリムルに向かって手招きをした。

 

 何事かと思いエルメシアの傍に行くリムル。

 

「でね、この子を使って――」

「ほう。そんな手で――」

 

 エルメシアの説明を聞き、リムルは「ミョルマイル君、ちょっと」と呼び寄せ、四人でコソコソと何かを話し始めた。

 

 やがて、リムルがディアブロ以下全員を呼び寄せ、ガゼルまでも加わる。

 

 ツキハだけ帰ろうとすると、リムルが「シオン」と呼ぶと。

 

「さあさあツキハ様、もう少しのご辛抱ですよ」

 

 と、ツキハの両肩をガッチリ押さえ、皆のところに連れて来た。

 

 今回はエルメシアの手前、大人しくするツキハである。

 

 別に声を大きくしてもいいハズだが、何故か皆の声はヒソヒソ声だった。

 

「向こうが仕掛けて来たらと、言う事だな」

「そうね、リムル殿。ツキハちゃん。リアナちゃんの〝(ヘルバ)〟は来てるのかしら?」

「うん、来てるよ。特にリアナの〝子飼いのヤツ等〟がね」

「そう。これは面白くなるわねえ」

「草? 何だそれは?」

「まあまあ、それは事が起こってからやで、リムル」

「お、おう」

 

 〝(ヘルバ)〟という言葉に疑問を感じ問うも、コハクに後のお楽しみと言われ、とりあえずその通りにするリムル。

 

 こうして、真夜中に開催された〝超大国による三巨頭会談〟は深夜遅くまで続き、終わりを迎えた。

 

 リムル達が最後に何を話したかは定かではないが、未だ正体不明の妨害者にとっては、良くない事が起こるのは間違いないだろう。

 

 この件に関しては、金貨の両替以外関わる事のないガゼルがポツリと呟いた――

 

 「これをやられたら、たまらんな」という一言に、尽きるかも知れない。

 

 

 

 そして、三日目の朝が来る。

 

 

 





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