忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。182話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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182話 マサユキ、華麗なる脱出

 

 

 開国祭、三日目の朝がやって来た。

 

 

 リムルはドワーフ王国に出向き、用意された金貨と星金貨を換金した。

 

 これで資金の問題は解決したので、後は、仕掛け人の反応を窺うだけである。

 

 

 そして、決勝の時間になったので、リムルは円形闘技場(コロッセオ)へと向う。

 

 今日は決勝とエキシビジョンマッチがあるので、昨日以上の熱気に会場は包まれていた。

 

 どちらが勝つかの予想で盛り上がり、賭け事も行われていた。

 

 これにはミョルマイルも胴元として加わっており、リムルもどれだけ利益が出るかなと、楽しみに見ていた。

 

(ふっふっふっ。賭け事の必勝法――それは、運営側になればいいのだ!)

 

 悪い顔で笑みを浮かべるリムルである。

 

(俺は小遣い稼ぎにゴブタに全財産賭けた……これはね、絶対に大穴狙いなどでは、ないよ? うん、ないんだから、ね?)

 

 もはや、アンタは誰だと言われかねないくらいに、内心で暴走するリムル。

 

(そう、決して――ツキハやコハクみたいな金持ち(セレブ)になりたいとか、倍率に目が(くら)んで、大金を投じた訳では、ないよ? うん、断じて、ない!)

 

 リムルが内心暴走にも似た本音と言い訳を繰り広げてる間に、決勝戦が始まろうとしていた。

 

 会場内のざわめきが、大波のように大気を揺さぶる。

 

 

『サァ――――――ッ、待ちに待ったこの日、ついに決勝が始まろうとしております!! 本日、勝者の栄光を手にするのは、果たしてどちらの選手なのか! 〝閃光〟のマサユキか、あるいは、〝四天王〟候補として台頭した小さな闘士ゴブタなのか!?』

 

 ソーカのアナウンスは、今日も絶好調である。

 

 さり気なくゴブタを上げまくりながら退路を断ち、かなり鬼畜な追い込みぶりであった。

 それを本人が自覚しているかどうかは不明である。

 

 審判のディアブロが手を上げ、会場内は静まり返った。

 

(何だろう? 女性観客の中に、ウットリとしている者がいるんですけど……。そりゃあ、黒の執事服を着こなし、どこか陰りのあるイケメンではあるけど、も、も! 女性の皆様方、ソイツ悪魔なんですけど、あ・く・ま、ですよ? いや、どうでもいいか……)

 

 考えたら負けた気分になるので、スルーする事にしたリムル。

 

 静まり返った会場内に、ソーカの両選手を紹介するアナウンスが響き渡る。

 

 

 そんな中、マサユキは焦っていた。

 

 昨日、ゴズールとメズールの試合を見て、その勝者が次の対戦相手になると知った時――

 

(ハッハハハ……オワタ。あ、あんな化け物と戦ったら、プチッと殺されてまう)と、一気に青褪(あおざめ)めていた。

 

 何とか口八丁で上手く丸め込み、ゴズールに試合を放棄させる事に成功したマサユキ。

 

 しかし、その喜びの束の間、その後の試合を見て絶望した。

 

(勝てる訳ないじゃん!! 何だよ、この国の武闘大会には、化け物しか参加していないのかよ!?)

 

 そう毒づきまくるのも無理はないだろう。

 

 そして無情にも、決勝の時は迫る。

 

 マサユキは何度もトイレに行き、出すモノは出し尽くしていた。

 万が一にもチビって漏らさぬよう、万全を期す。

 

(アアアア、うん、ああ? うん、どうしよう? どうしたら、この場から生きて戻れるんだ!?)

 

 目の前に立つのは、ホブゴブリンの戦士ゴブタ。

 

(ジウはゴブリンなら楽勝だと、言っていたけど……)

 

 どう見ても、マサユキにはそう見えなかった。

 

(ホブゴブリン? 嘘つけよ! ゴブリンって最弱の魔物だろ? あの魔猫とタメを張るくらい。それがどうやったら、あんなに恰好良く進化するって言うんだ!?)

 

『さーて、皆様! 遂に第一回テンペスト武闘大会の決勝戦が始まろうとしております!! 一方の雄は、魔王リムル陛下直下、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)の若き隊長ゴブタ選手! そしてぇッ! それに対するは、西方諸国の英雄、閃光の〝勇者〟マサユキ選手です!! さてさて、二人は一体どのような戦いを()せてくれるのか――ッ!? さあ、両者が中央にて睨みあっております。皆様お待ちかねの試合開始まで――』

 

 アナウンスが終われば試合開始である。

 

(やばい、やばい! 本格的に時間がない。どうするんだよ、これえッ!)

 

 先程から、何とかこの試合の打開策を思案するも、一切の打つ手が思いつかないマサユキ。

 

 もっと余裕があれば、アナウンスのお姉さんの着ている黒のベストの背中にあるちょうど左右の肩甲骨(けんこうこつ)に当たる部分に、縦長のスリットが二本入っているのは(なん)で? とか、脇の部分が大きく開いてるなあとかなど、興味が尽きないところではあるが、マサユキにはそれどころではなかったのだ。

 

 とりあえず急ぎでマサユキは、自分の力を思い出す。

 

 ユニークスキル『英雄覇道(エラバレシモノ)』という、良くわからない能力(スキル)を。

 

 不親切な声が脳内に響き、そんな感じの能力名を教えてくれていた。

 

 最近分かった事だが、この能力(スキル)には様々な効果があるらしい、と。

 皆が都合よく解釈し、マサユキを英雄と()めるのも、この能力(スキル)のお陰という事もわかっていた。

 

 逆に言えば、それを自分の意志で止める事が出来ないから、今の現状があるのだ。

 

(――そうだよ。昨日のゴズールって魔物にも、僕の力は通用したんだ。だったら、今度も無事に試合を乗り切りさえすれば……)

 

 周囲が勝手に勘違いする能力(スキル)――という認識のマサユキは、今回もそれに賭ける事にした。

 

 そう思うと、偶然にもゴブタと視線がバッチリとぶつかったのだ。

 

 良く見てみると、相手もどこか落ち着かないようにソワソワしていたのである。

 

(あれ? これって、いけるんじゃ……?)

 

 そう、イングラシア王国の武闘大会でも、対戦相手はこのように落ち着かない様子を見せていた。

 

 そして、何故か自滅していっていたのだ。

 

 マサユキは、もしかして今回も、と、思ったら、足の震えがおさまった。

 

(あ、これ、今回も、何もしなくても勝てるかも)

 

 ほんの少しだけ余裕が生まれたマサユキ。

 

 

 だがしかし――

 

 その考えが甘かった事を、この後直ぐに思い知る事になるのであった……。

 

 

 『それでは、始め――ッ!!』

 

 ソーカの合図が高らかに飛び、試合が始まった。

 

「うおおぉーーー、やるっすよ!」

 

 と、リムルの予想を裏切り、威勢よく自ら突っ込んでいくゴブタ。

 

それほどゴブタにとって、釣竿といエサはかなり魅力的だったのだろう。

 

 (ただ)し、〝四天王〟という地位には興味がない模様。

 

 真剣な顔付でマサユキに向かっていき、スライディングするように真横をすり抜ける。

 

 そして、昨日のカリオン戦と同じく、場外ギリギリの位置を狙った。

 

 

 マサユキを警戒しまくるゴブタに対し、マサユキの方はまるで動じる様子が見られない。

 ゆっくりとゴブタの方へと振り向き、フッとニヒルな笑みを浮かべる。

 

『おーーーッと、やはり、顔面偏差値が高い方が強いのかぁッ!? これは、何とも、いや失礼! ゴブタ選手のトリッキーな動きをまるで無視して、マサユキ選手が余裕を見せ付けているぞ――ッ!!』

 

 心を抉るようなソーカのアナウンス。

 

 これを聞いて、ゴブタだけではなく顔に自信のない者達まで涙し、ゴブタへと向けてあらん限りの声で声援を送る。

 

「へ、へへっ、予想通りっ、すよ……。その反応、オイラが何をしても無駄って、事なんすね? 今の自分の実力で、何処(どこ)までやれるか試したかったっすけど……まるで歯が立たないと、言いたいっすか。それじゃあ、特と見るっすよ。この、新たに得た究極の力を――ッ!!」

 

(はあ? あの野郎……やっぱり何か仕出かすつもりだ。しかし、絶対それで失敗するんだよ、アイツ。もう今からでは止めようがないけど、ぶっつけ本番は()めて欲しいよなぁ)

 

 リムルがゴブタを見て、そんな事を思うと――

 

《告。昨夜、個体名:ゴブタが、ユニークスキル『魔狼召喚(オレニチカラヲ)』を獲得しております。個体名:ランガが強制割り込みをかけたのが原因と推測されますが、エクストラスキル『同一化』も統合されており、召喚した魔狼(ランガ)との『同一化』も行えるようになった模様――》

 

(はい? ゴブタがユニークスキル『魔狼召喚(オレニチカラヲ)』を獲得して、ランガと合体出来るようになったと、そういう意味かな? どうしてこうなった……? あ、そう言えば、昨晩智慧之王(ラファエル)さんが何か言いかけたような、ないよう、な気がするけど、まさかこの事か!?)

 

《そのような事実は――》

『そのような事実はって、(なん)なんですかね?』

《…………》

 

(あぁ、これ、智慧之王(ラファエル)さんが言いよどむという事は、何かあったと見るべきだな。大体、ゴブタが凄い力にいきなり目覚めるとか、流石にご都合主義過ぎる。あれだ、ゴブタの能力(スキル)獲得に手助けをした可能性が有り得るという話だよな)

 

 リムルの疑問に、沈黙で答える智慧之王(ラファエル)

 

(まあ、いいけども。俺には嘘は言わないけど、本当の事も答えないつもりだな。無理やり答えさせてもいいけど、まあ、そこまでする必要もない、か。これはこれで、都合の良い展開だし、今は様子見だな)

 

「いくっすよ! 〝魔狼合一(ヘンシン)〟――ッ!!」

 

 ゴブタの後ろの空間に、ぐにゃりと(ひず)みが生じ、ランガが呼び出された。

 

 そして、ランガの身体の中心の空間が大きく渦巻き、ゴブタを覆うように包み上げ『同一化』が行われる。

 

 淡く光る魔素粒子の渦が弾け、(まばゆ)い光の中にあるその姿は――

 どこにもゴブタ要素は残っていない。

 

 一言で言えば、直立したランガの姿だった。

 

(お、めちゃくちゃ恰好いいじゃねーか! ちくしょう、ゴブタの癖に変身だとおッー!?)

 

 と、どこか悔しがるリムルであったのだ。

 

「う、うわあーーー(なん)なのだ、アレ! ツキハも見に来れば良かったのに、これはかっこいい、もの凄く恰好良いのだっ!!」

 

 リムルの隣で大ハシャギするミリム。

 

『こ、これは!? ゴブタ選手が、異業の姿へと変身したのでしょうか……?』 

 

 若干困惑気味(ぎみ)のソーカのアナウンス。

 

 そこへ――

 

『そうですね。召喚獣の力をその身に宿す、とても希少な能力(スキル)です』

 

 と、すかさず審判であるディアブロのフォローが入る。

 

『という事は、昨日の召喚獣の力を自分のモノとして扱える訳ですね?』

『ええ、その通りです。かなり制御が難しいのですが、さて、これは見ものでしょうね』

『これは凄い! 制御が難しいとの事ですが、これは、一旦(いったん)置いておきましょう! とにかく、凄い事が起きているようです!!』

 

 実況しているソーカも興奮して、その声は上擦り、何かサラッと大事な事を、意図的に? スルーしてしまう。

 

 ディアブロはというと、非常に冷静で、ソーカの疑問に淡々と答えていた。

 

「うーむ、ゴブタのヤツ、ランガの力を自由に引き出せるって事か? ゴブタの癖にやるじゃん」

 

 と、リムルが呟いていると。

 

「ええ、凄いですね。ランガは主導権をゴブタに預けているようですが、これは思っている以上に上手い組み合わせかも」

「でも、ゴブタですよ?」

「ホッホッホ。ゴブタはあれでもワシの弟子。身体能力で劣りながらも、格上の魔人と戦った経験も御座います。ランガ殿の力を使いこなせるならば、予想もつかぬ成長を見せてくれるやも――」

 

 一緒に観戦していた幹部達も、思い思いの感想を口にする。

 

 リムルが横に座るミリムに目をやると、ミリムは両手の拳を握りしめ、椅子から身を乗り出すように、これから始まるであろうゴブタの攻撃に胸を躍らせていた。 

 

(よっぽど、アレが気に入ったんだな。ツキハもここにいれば、絶対ミリムと同じようになっていただろうよ)

 

 

 そして、観衆が固唾(かたず)を飲んで見守る中。

 

 

「へへっ、次は自分の番っすよ!」

 

(いやいや、さっきもお前の番で、マサユキ君はまだ何もしていないよ?)

 

 と、リムルの無常なる心の声の突っ込みが入る。

 

 そこへ、ゴブタが立っている位置にブワッと大気が渦巻くと、ゴブタの姿が一瞬で、消えた。

 

 一般人には消えたように見えていたが、リムルには見えていた。

 

『ゴ、ゴブタ選手が消えたッ!? 一体何処(どこ)へ! ――』

 

 わざとらしくソーカが、絶叫する。

 

(ソーカなら見えているだろうに、なかなかの演技だな。ククッ)

 

 内心笑いを抑え切れないリムル。

 

 そして、そんなソーカの視線の先では。

 

 ドッゴォオオオオオン!!

 

 という轟音(ごうおん)が響き、小さな地響きと爆発を起こした。

 

 爆発の位置は、観客席の真下の壁面。

 

 しかも丁度、リムル達がいる貴賓席の真下だったのだ。

 

 そう、リムルにはハッキリと見えていたのである。

 

 ――ゴブタが恰好良く宣言し、マサユキに向かって突進した。

 だがしかし、止まる気配もなく、そのままマサユキの側面を駆け抜けていき。

 盛大に壁に突っ込むまでの一部始終を――

 

(だからぶっつけ本番は不安だったんだよ。こうなる事はわかり切っていたからなぁ……)

 

 かなりの高確率でやらかすと思っていた、リムルであった。

 

『おおっと、ゴブタ選手、起き上がってきませんねえ。大丈夫なのでしょうか?』

 

 ゴブタは盛大に壁に激突し、完全に気を失っていた。

 

 というより、舞台から飛び出した時点で、ゴブタの負けは確定的である。

 

 そう、ゴブタは、ランガの力をまるで制御出来ていなかった。

 

 簡単に言えば、〝走ろうとしてから、止まる〟という思考を、自分の元の身体能力を基準に意識してしまったのだ。

 

 ゴブタの一秒とランガの一秒では、見えている世界がまるで違うのである。

 

 つまりは、止まろうと意識する前に壁に激突してしまった――と、いう事である。

 

 いまだに起き上がらないゴブタだが、物理ダメージで動けないのではなく、一瞬で眼前に迫った壁にビックリして気絶していただけだった。

 

 

「……」

 

 絶句するリムル。

 

「あの馬鹿……」

 

 天を仰ぐベニマル。

 

「ゴブタらしいですね」

 

 クスリと笑うシオン。

 

「――」

 

 無言で額に青筋を浮かべる、ハクロウ。

 

「ふーん。あれがお父様のお弟子さんなんだ」

 

 ハクロウの怒りに容赦なく燃料を投下するモミジ。

 

 何とも言えない空気が漂う会場内。

 

 観客達も何が起きたのか理解出来ないという雰囲気だった。

 

 そんな中、理解出来ないこの状況に、それなりの答えを出そうとする者が、ポツリと呟く。

 

「空気投げなの、か?」

 

 静まり返る会場内に、その言葉はよく響いた。

 

 すると。

 

「そ、そうだな。それしかあるまい」

「流石だ。流石はマサユキ様だ!」

「う、うおおおお、スゲエ、スゲエぜ!」

「まるで何してるか見えなかったぞ。凄すぎるな!!」

 

 あっという間に伝染する、マサユキ称賛の言葉の嵐。

 

 そして、あたかもそれが真実であるかのように、会場内に大歓声が(とどろ)く。

 

 ソーカとディアブロの審議を待たずに、会場はマサユキ優勝の熱気に包まれた。

 

 

 しかし、リムルの隣で怒りに震える人物が一人。

 

 

「あ、アイツ……ワタシを舐めてるのか? もの凄く恰好良かったのに、あの様は(なん)なのだ?」

 

 せっかく恰好良く変身したのに、その結果がこれでは、ミリムが期待した分より大きな怒りの反動が、ゴブタの身に降り注ぐのは明らかだった。

 

「ま、まあまあ。ちょっとアレだったが、アイツはアイツなりに、あれでも頑張ってくれていたんだよ」

 

 流石にミリムの怒りがゴブタに向かわないよう、リムルがそれとなく擁護する。

 

 しかし。

 

「リムルよ、貴様がそうやって甘やかすのは、あの者の為にはならぬぞ!」

「そうですぞリムル様。ゴブタの事を、ワシも少々甘やかしておったようです。これからは、もっと厳しく接さねばなりますまい」

 

 ミリムの言葉に同意するハクロウ。

 

(え? 俺はともかく、ハクロウがゴブタを甘やかしていたなんて、初耳なんですけど?)

 

 リムルがそう思った矢先(やさき)

 

「良し! ワタシが鍛えてやるのだ。リムルよ、ワタシにゴブタを預けてくれ。何なら、ツキハとコハクも呼ぼう。そうすれば、きっと素晴らしい戦士に育ててやるのだぞ!!」

 

 キラキラした目でリムルを見るミリム。

 

(ああ、これ、レアモンスターゲットだぜ、的な感じで言ってるな。ツキハとコハクも呼ぶ? いやいやいや、ミリムさん、それ、非常にヤバくないか? まあでも、ルヴナンの〝仕込み〟の子供達と訓練したりしてるから今更感はあるんだけど……うーん、どう返事をしても良いのやら……。あ、そうだ――)

 

 ここでリムルは、ある事を思い出した。

 

「俺からも頼みがあるんだが、それを聞いてくれるなら検討しよう」

「いいぞ。言ってみるのだ」

「あのさあ、クレイマンの居城に遺跡があったんだよ。勝手に探索するのは不味(まず)いと思った。それに、過去を知る為の貴重な資料になりそうだから、そのまま手を付けていないんだ。その遺跡の調査をしたいんだけど、その許可が欲しい」

「ふむ。何でワタシに聞くのだ?」

「え? だって、あそこは――」

 

 リムルがあそこはお前の領地だろうと言いかけた時。

 

「ミリム、あの地は、今は誰が管理しているのだったかしら?」

 

 リムルが言うより先に、フレイが静か声でミリムに問うた。

 

「そ、そうだったのだ。あの地は、ワタシの領地だったな。う、うむ。勿論、覚えていたのだぞ!」

 

 フレイの声を聞くなり、ミリムの背筋がシャキンと伸びた。

 そして慌てたように、そう答える。

 

「じゃあ、それで――」

「勿論オッケーなのだ!」

 

 ミリムはあっさりとリムルに許可を出した。

 

(ゴブタには悪いが、マサユキの情報を何一つ引き出せずに自爆したのだから、このくらいはいいだろう。何しろミリムに鍛えてもらって、ツキハ、コハクも加わってくれるかも知れないんだ。この際、もう一つ上を目指してもらおう、ゴブタには)

 

 躊躇(ちゅうちょ)なくゴブタを差し出す事にしたリムルであった。

 

「それでリムルよ、調査とやらに行く時は、ワタシも一緒に誘ってくれるのだろうな? 後、ツキハも連れて行っても良いか? コハクは、こういうのには興味がないから無理なのだ」

「うーん、まあ状況次第だね。後な、自由組合の専門家にも声をかけてあるんだ。問題ないようなら、お前も一緒に来るといいよ。ってか、ツキハも来るの確定で大丈夫なのか?」

「うむ。こういう面白い事には喜んで来るから、問題はないのだ。これは、楽しみだな!」

「お、おう。でも結構地味だし、そんなに面白くないかもよ?」

 

 試合の判定結果が出るまでの間、リムルはミリムとそんな会話をして待っていた。

 

 時間にして数分。

 

 

 そして、何故か状況に置き去りにされているマサユキの数分間は……。

 

 

 ゴブタが変身して叫んだ瞬間。

 

(はいぃーッ!? ちょっと待って! 何だよそれ? そんなの聞いてない!?)

 

 マサユキにとって、これは、盛大に想定外であった。

 

 だがしかし、流石に素人同然のマサユキにも、相手がただならぬ強さであるのを読み取った。

 

(おいィ!? あんなデカイ爪で抉られたら、こんな屁みたいな装備なんて、一撃でスクラップじゃん。ってか、間違いなく即死するよね? ね!? こんな事なら、あの時重いからって理由で全身鎧(フルアーマー)を断るんじゃなかった……)

 

 と、思いつつも、魔鋼製の全身鎧(フルアーマー)でも意味はないんじゃないかと、現実逃避気味に考える。

 

 そこへ、ゴブタが「へへ、次は自分の番っすよ!」と叫んだ。

 

(はあ!? ちょッ――)

 

 マサユキの返事を待たずに行動に移ったゴブタ。

 

 ちょっと待って、棄権するから――と、叫びかけていたマサユキ。

 

 もう、プライドなど二の次、命大事のマサユキである。

 

 しかし、そんなマサユキを置き去りにして事態は動く。

 

 「棄権」すると宣言するよりも早く、ゴブタの自爆である。

 

(え?)

 

 マサユキは反応すら出来ずに、ただ茫然と突っ立っていただけ。

 

 爆風に乗って飛んで来た石壁の破片が、チクリとマサユキの頬を(かす)め飛ぶ。

 

 ツーっと流れる一筋の細い血筋と軽い痛みが、これが現実だとマサユキに教える。

 

(う、嘘だろ……。あんなの避けられる訳ないじゃん。これ、僕の言葉が通じるとか通じないとか依然の話だよね。どうするんだよ、これ……)

 

 このままだと、ゴブタ失格で自分が勝利するだろう事に、本当にそれいいのかと、内心で自問自答するマサユキ。

 

(魔王への挑戦権? 冗談じゃない。そんなの間違いなく、自殺行為じゃん!)

 

 そう、マサユキは馬鹿ではない。

 

 このまま優勝したら、確実に魔王リムルと戦う事になる。

 それが何を意味するのか、マサユキはちゃんと理解していたのだ。

 

 今目の前を駆け抜けた黒い狼や、昨日獅子覆面(ライオンマスク)と戦った猪人族(ハイオーク)のゲルド、そんな魔人を従えているのが魔王リムルであり、そんな相手に喧嘩を売ったら、無事で済むはずがない。

 

(間違いなく、死んでしまうわ!!)

 

 自身の能力(スキル)が通用するしないではなく、住む世界が違うといえるレベルで話にならないのだ。

 

 ここで敗退しよう――それがいいと、ここは命大事で行こうと、マサユキは決断した。

 

 空気投げ? とか、騒いでる観客を本当にやめろと叫びたい気持ちを押し殺し、早くこの状況を変えないと自分の勝ちが確定してしまうと考えるマサユキ。

 

 今までの人生の中で、これ以上はないというくらい頭を働かせ、このまま無事に自分が負けた事にするにはと、急ぎ思案する……。

 

 そして、ようやくソーカとディアブロの協議が終わり、ソーカのアナウンスが会場に飛び響いた。

 

『判定結果が出ました! 未だに意識が戻らぬゴブタ選手が心配ではありますが、この試合の勝者は――』

 

(あ!? 不味(まず)い――)

 

 間に合えと願いつつ、マサユキは行動に出る。

 

「――待て」

 

 内心は大慌て、しかし余裕のあるように見せかけ、ソーカを手で制す。

 

『えっと……?』

 

 無言で差し出すマサユキの手に、察しのいいソーカがすかさず予備のマイクを渡す。

 

『この勝負、僕の負けかな?』

 

 震えそうになる声を抑えつつ、マサユキはそう告げた。

 

 それにソーカが、不思議そうに問い返す。

 

『ええと、ですがマサユキ様、今のはどう見ても、明らかにゴブタ選手の自爆なのですが……?』

『そうかもしれない。でもね、彼の攻撃を僕は見切れなかったのさ。そんな未熟な僕には、到底魔王の相手など務まらないだろう。まだまだ魔王に挑戦するなど、時期尚早(じきしょうそう)だと、そう思ったんだよ――』

 

 舌を噛まないようにゆっくりと、噴き出る汗を気合で誤魔化しながら、どう考えても無理目な言い訳に当然であるかのように説得力を込めてマサユキは言い放つ。

 

 そしてそれ以上は何も言わず、後ろも振り返らずにその場を後にするマサユキ。

 

 これ以上何か聞かれても答えようがないので、何も言わずに去る事を決意したのだ。

 

(よし、これでいい。僕の力は効果を発揮してるんだから、後は黙ってても観客の皆さんが、色々想像して勝手に解釈してくれるだろう。それよりも今は、一刻も早くこの場から逃げるのが一番だよ……)

 

 足を動かすのにこれほど集中したのは、マサユキにとって生まれて初めての経験であった。

 一歩一歩と、確実に、優雅に足を踏み出し歩く。

 

 絶対に急いではならない、はやる気持ちを抑えつつ、静かに歩み()くマサユキ。

 

 

 こうしてマサユキは、生涯最大の危機から、華麗なる脱出を果たしたのだった。

 

 

 





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