忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました、185話です。

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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 ※作中使用の特殊フォントは、〝ライム酒様〟作成の特殊フォントを使用させて頂いています。 
 特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますので、ご了承ください。








185話 やっぱり、底抜けの馬鹿なのだ…… 

 

 

 ――エキシビジョンマッチが始まる二時間前。

 

 円形闘技場(コロッセオ)の周辺には、今回のエキシビジョンマッチを賭けにする賭博人達が、幾人も並び、客を大声で招いていた。

 

 この賭博人達は、開国祭運営に正式に()け行為をする許可を申請し、許可をもらった者達であり、それ以外の者が賭博行為を行った場合は、当然テンペストの警備隊に捕まる事になる。

 

 観客達が群がり、どの賭博人達も幾人もの部下を使いながら、観客達の賭けの申し込みに大忙しであった

 

 そこに、一風変わった賭博人が一人いた。

 

 周りには、猫耳に尻尾を持った魔人達が群がっていたのだ。

 

「さあさあ、賭けの倍率は、コハク様が二倍、ツキハ様も二倍よ。引き分けは、何と、五倍よぉ~♪」

 

 綺麗な白髪をした美青年が、周りにいる者達に呼びかけていた。

 

 そう、この美青年は、番外魔王が眷属の一人、ロロロオである。

 周りにいる者達も、皆眷属だった。

 

 三百人近くもの眷属達が集まり、一層怪しい雰囲気を(かも)し出すロロロオ達であった。

 

 しかし、まだ誰も賭けてはいなかった。

 まるで、何かを待つように沈黙をしていたのだ。

 

 それから、待つ事一時間半……。

 

 そこへ、タタタッと、ロロロオのところに駆け寄って来る少女が、一人。

 

「まにあったにゃー。ロロロオ、まだ締め切ってないかにゃ?」 

「ええ、まだ大丈夫よぉ。開始までまだ三十分あるし」

 

 やって来たのは、サンコであった。

 

「ねえ、サンコ。どちらに賭けるのかしら?」

 

 ロロロオがにこやかにそう問うと。

 

「決まってるにゃ! ツキハ様に、全財産、金貨三百八十七枚いくにゃっ!!」

 

 そう言うと、ロロロオの前にあるテーブルに、全財産が入った皮袋をドスンと置いた。

 

「そう。本当にツキハ様で良いのね? 一度決めたら、取り消しや変更は出来ないわよ?」

「にゃっ! ツキハ様にゃ―――ッ!!」

 

 サンコの後ろにいる眷属達の目が、キラーンと輝く。

 

「はい、サンコはツキハ様ね」

 

 ロロロオは再度確認を取りながら、ツキハと書いてある、名刺サイズの小さな木札をサンコに手渡した。

 

 すると、一斉に眷属達が誰に賭けるか決めたようで、ロロロオに金貨を渡していった。

 

「ロロロオ、俺はコハク様に、金貨三十枚だ!」

「ねえねえ、私も金貨十枚をコハク様に賭けるわ」

「あー、俺も金貨百枚を、コハク様だわ」

「そうだねえ、僕も金貨二百枚をコハク様に」

「ワシもコハク様に、金貨五十枚賭けよう」

「エロ猫様に金貨五枚」

 

 などと、サンコとは逆のコハクに残る皆が賭けたのだった。

 

「ふにゃ! テメエら、誰もツキハ様に賭ける者がいにゃいとは、この薄情者どもがぁーー!!」

 

 ツキハに賭けた者が、自分以外いない事に憤慨(ふんがい)するサンコ。

 

「知らんし」

「猫は自由。何物にも縛られないもの」

「アンタはアンタ。アタシはアタシ」

「馬鹿は黙って、ツキハ様に賭けてればいいじゃん」

 

 等々(とうとう)、アンタなに言ってんの? という目で眷属達が吐き捨てる。

 

 何故こういう事になったのか、それは簡単で、サンコは賭け事に超絶弱いのである。

 だから、サンコが賭けたモノとは反対に賭ければ、勝てるのであった。

 まるで、確率の神様から見捨てられたように、ガチで弱いのである。

 

 なので、いつも眷属同士の賭け事には、サンコは絶好のカモであったのだ。

 

 そして、ほぼ皆が賭け終わった時――

 

「――ねえ、ロロロオ。アンタは誰に賭けるのさ」

 

 そう一人の眷属の女性が問うた。

 

「ワタシ? そうねぇ……引き分けかしら」

「「「「「えっ!?」」」」」

 

 他の眷属が驚きの声を上げる。

 

 コハクとツキハの手合わせと称した闘いは、大抵勝ち負けがハッキリとついていたからだ。

 だから、滅多に引き分けがないのである。

 

 二人の勝敗の付け方は、(きわ)めて単純。

 

 ある程度闘って、どちらかが今日はここまでと、自分の負けを宣言するだけ。

 

 そう、本気であるが(ゆえ)、線引きがキッチリしているのだ。

 

 勝敗的にはコハクが勝ち越している。

 これは寝技に持ち込まれたツキハがすぐに負けを宣言するので、如何(いか)にコハクの寝技がツキハにとって、面倒で至極厄介なものであるか物語っていよう。

 

「ロモコ。貴女はどちらにするの?」

「そうですねぇ……どうしようかなぁ……うーん……ツキハ様は、ちょっと不安かなぁ……コハク様、にしようかな、あ、でもぉ……やっぱり、私も引き分けに、金貨三枚で」

「「「「「おいッ!?」」」」」

 

 ロモコも引き分けに賭けた事で、ロモコ班の皆が声を上げた。

 

「何してるのロモコ。貴女はツキハ様に賭けないとダメでしょ?」

「ロモコ。お前は負けに賭けるのが常識だろう。何してるんだ!?」

「やめてよね、ロロロオに乗っかるとか。アンタがそちらに賭けると不穏な気がするから、ツキハ様に賭けなさい」

「うむ。お前はサンコと一緒に負けるのが正しき姿なのだぞ」

 

 と、相変わらず好き勝手に文句を吐き散らかす、ロモコ班の面々。

 

 しかし。

 

「うるさいわねぇ、今月ピンチだから必死なのよ! アンタら、あんまりグダグダ抜かすと、消し炭にするわよ?」

「「「「「はうっ!?」」」」」

 

 優柔不断モードから一気にお役目(オシゴト)モードに切り替わったロモコに、ロモコ班の者達は黙らせられれた。

 

「はいはい。ロモコもそう(おこ)らないの。これで皆が賭け終わったので、締めきるわね。さあさあ、会場に行くわよぉ~♪」

 

 ロロロオがパンパンと手を叩きながら、皆に会場に行くよう(うなが)す。

 

 こうして眷属達は、(あるじ)を賭け事の対象にしてエキシビジョンマッチ観戦に行くのであった――

 

 

 

 

 ツキハが舞台(はし)まで殴り飛ばされ、ソーカが舞台端まで駆け寄ると。

 

 舞台の(へり)に、何か黒い物体が引っ掛けられているのを見つける。 

 

 それは、ツキハの尻尾の先であった。

 

『おおぉーーーーッと! このエキシビジョンマッチに場外負けはありませんが、何と尻尾の先を舞台縁に引っ掛けて、場外落ちを防いでいたあッ!』

「「「「「ウオオォーーーー!」」」」」

 

 場内の大型魔力式スクリーンにツキハの姿が映し出され、尻尾の先を引っ掛けたまま身体を横にしてぶら下がっているのを見た観客達は大きく歓声を上げる。

 

 そして、「よっ」という掛け声とともに尻尾を使い舞台へ跳ね上がったツキハ。

 

「あぁ~いてえな、思い切り打ちやがってぇ」

 

 鋭い目付きになったツキハがめんどくさそうに吐き捨てる。

 

 それを聞いたリムルが、ふと疑問を(つぶや)く。

 

「え? ツキハって痛覚無効を持ってないのか?」

 

 その疑問にミリムが答えた。

 

「もっておるぞ。ツキハもコハクもな」

「ええ!? 何でそれで痛いんだよ」

「それはな。あの二人が痛みを危険察知に利用しているからなのだ」

 

 普段のミリムとは違い、滅多に見せない真面目な顔付でリムルに答えるミリム。

 

「なあ、ミリム。その理由を聞いてもいいか?」

「うむ。ワタシ達はリムルも含めて、他の魔物もそうなのだが、ある一定数の痛みを感じると『痛覚無効』というものを獲得する場合がある。進化の過程や、己を鍛えている時などな」

「ああ、その感覚はわかる。ゴブタが、シオンの初期の料理を食わせまくられて、『毒耐性』を獲得したから」

「それでだ。この『痛覚無効』は、諸刃の剣だとツキハとコハクは言っていたのだ」

「諸刃の剣?」

「あの二人の憑依体は、自分で作り出してるのは知っておるだろう?」

「ああ。それは聞いてる」

「『痛覚無効』で痛みを消していると、ほんの些細(ささい)な攻撃を受けても普通は気にもしないのだが、あの二人は違う考えなのだ。もし、その小さな攻撃が、ある大きな攻撃に繋がる布石だとしたら? もし、大ダメージを引き起こす前兆だとしたら? リムルは、こう考えた事はあるか? もし、行動に支障を(きた)す、些細(ささい)な傷に気が付かなかったら? その傷が、気付かずに再生を阻害しうる攻撃だとしたら? これらを、ツキハとコハクは想定して戦うのだと、言っていたのだ」

「うーん……。流石(さすが)にそこまで考えた事はないな。だってさ、その為に『魔力感知』や『万能感知』あるんだから、問題はなくないか?」

 

 リムルは闘っている二人を見ながら、ミリムにそう答えた。

 

 ミリムもツキハとコハクの闘いに目を向けたまま、普段の天真爛漫さが消え失せたように、淡々と言葉を繋ぐ。

 

「そうだな。この世界に生きる者であれば、普通はそう考えるだろう。しかし、ツキハとコハクは違う。あの二人の戦い方に関する思考基準は、異常なのだ。ワタシ達が考えつかないような事も、組み込んで来る。有利性を()えて捨ててでも、それを取り入れるのだ。そのもっともな例が、ツキハとコハクは恐怖を克服するのではなく、飼い()らしているのだ。これは、ルヴナンの傭兵(忍び)教育にも取り入れてるらしい。恐怖を克服してしまうと、戦いの最中に生じる致命的な危険を察知出来ないと、言っていた。恐怖に呑まれる事なく、飼い()らせ、と。怖いといった感覚を、使いこなせと、な」

「凄いな。そこまでして強くなろうとしているのか……」

 

 ツキハとコハクは舞台中央で激しい攻防を繰り広げており、あ互いに吹き飛ばしたり吹き飛ばされたりしていて、観客達の興奮と驚きを誘っていた。

 

 しかし、その闘いを見るミリムの目は、真剣そのものだった。

 

「なあ、ツキハとコハクって、何を想定してそんなに強くなろうとしてるんだろうな。まあ、自由に生きる為とは聞いてはいたけれど……」

「ツキハとコハクが想定しているのは、常に格上との戦いなのだ。あの二人が真に本気を出せば、現在では冗談ではなく強いのだが、ツキハとコハクは自分達が強いとは思っていない。まるで、何かを探す……違うな、強さの情報? を集めているような、どこかワタシ達と違う概念(がいねん)で生きているような感じを――」

「え? ミリム、それってお前の勘なのか?」

「ん、そうだな。ワタシ達とは、どこか違う印象を感じただけなのだ、が。それが何かは、流石に説明できる理由を持ってはいないのだ(ギィも、ツキハとコハクの正体については詳しくは言わなかった。ただ、異世界からの転生者であり、その経緯について簡単に説明を受けただけだった。そして、あの二人の中に未だに眠り続けている、あの力……。ギィがもっとも危険視する、モノ……。アレが覚醒するのだけは、阻止しろと頼まれてたが。ギィは、あの二人に関してまだ何かを隠しているのは間違いないのだ。アレは――)」

 

 ――〝世界、いや、この星そのものを壊すモノに、ワタシは感じる……〟――

 

 

 ミリムの、つい口にした(つぶや)き。 

 

 この呟きは、何故かリムルの耳にだけ届いた。

 

「え? 今なんて言ってんだ、ミリム」

「……何でもないのだ」

「いや、世界が壊れるとか――」

「リムル。気にしなくていいのだ。聞き間違いをしたのではないか?」

「そうか。ならいいんだけど。(何か隠している? さっき見せた表情はよっぽどな気がしたんだけどなぁ……)」

 

 どこか思いつめたような表情を浮かべ言うミリムに、それ以上聞くのを()めたリムル。

 普段は見ない表情に心配を覚えるリムルだが、そのミリムは既にツキハとコハクの闘いに目を移していたので、リムルも二人の闘いに目を戻す。

 

 

 ガッ、ガガッ、ツキハとコハクの拳が交差し、コハクの姿がツキハの視界から消える。

 

 ズドッ! 鈍く重い音が響き、ツキハが十メートルほど蹴り飛ばされた。

 

 コハクの海老(えび)蹴りである。

 

「あーいたあぁぁ」

 

 蹴り飛ばされたツキハが空中で猫のように身をひるがえし、ガシッと()つん(ばい)いで地面に着地した。

 

「なんや、場外には落ちひんかったかぁ」

 

 コハクがニコニコと言い放つ。

 

『おおーーーーっと! あの地面に()せた低い位置からの後ろ蹴り、海老蹴(えびげ)りがツキハ様に炸裂したあああッ! あれはいきなり視界から消える、番外魔王得意の蹴りだあッ!!』

「「「「「うおおおおおッ!」」」」」

 

 ソーカがすかさず簡単な技の解説を入れ、観客達の歓声が大きく上がる。

 

「あ~もう、めんどくさい。魔物本来の戦い方をしようか、コハク」

「せやねえ。こんな人間くさい戦い方は、寝むとうてかなしまへんなぁ、ツキハ」

 

 お互いにフッと薄く切れるような笑みを浮かべ言う。

 

『なんとぉ!? 魔物である本来の戦い方宣言がでたあ――ッ! これは、番外魔王本来の戦い方の片鱗(へんりん)が今日初めて、観衆の眼前で繰り広げられるのかあぁッ!!』

 

 ソーカのアナウンスに、観客達が固唾を飲んで二人を見守る。

 

 ツキハとコハクは、十メートルほどの距離を保ったまま対峙する。

 

 すると、いきなりツキハの両目が凄まじい輝きを発し始め、それが臨界に達すると。

 

「喰らえ、魔力ビーーーームッ!」

 

 両目がビカアッと光り、紅色の光線が両目から発射された。

 

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「はあ!? なにその馬鹿げた魔素量(エネルギー)を含んだ光線はっ!」

「うおお! (なん)なのだアレは、カッコいいではないかっ!」

 

 リムルがあまりの威力に驚きの声を思わず上げてしまい、ミリムが喰い付く。

 

 コハクを貫かんと襲う魔力光線。

 

 言霊(ことだま)が宙を走る。

 

 すべてをきょぜつせよ

(すべてをきょぜつせよ)

 

幻巳反鏡(ゲンシハンキョウ)

 

 コハクが発射と同時に(つぶや)く。

 

 右手を前に出し、その手の前には一枚の呪符が漂っていた。

 コハクお得意の、忍魔術・呪符式結界、幻巳反鏡(ゲンシハンキョウ)である。

 

 ギャンッ! 呪符結界に当たった魔力光線が弾かれて、周囲をうねるように跳ねまわり。

 

 更に、リムルの闘技舞台四方に張った結界にも弾かれて、闘技舞台を縦横無尽に暴れ回る。

 

 ディアブロは、自分に向かって来た魔力光線を軽く手を振り弾き返す。

 

 そして、ソーカのところにうねるように魔力光線が来ると。

 

『おおーーーっと! 私のところにもトバッチリが来たあっ!!』

 

 そう叫んだ時には、着ているベストの背中のスリットから龍翼(りゅうよく)二対(につい)出し空中に避難していた。

 

 暴れ回った魔力光線は、やがて威力が減退し消滅する。

 

 それを確認したディアブロが指をパチンと鳴らすと、南側、リムル達が座る貴賓席の壁の真ん中から、長方形の物体がせり出して来た。

 

 それは、闘技舞台での闘いが激化した時の為に(もう)けられていた、特設アナウンス席だった。

 

 すかさずソーカがその席に座る。

 席には二十四インチの大きさの魔力式スクリーンが備え付けられていた。

 

 ディアブロはそのまま闘技舞台に留まり、右肩に浮かせた小さな水晶球で、全魔力式スクリーンに映像を送る。

 

『さてさて、失礼しまして、舞台上が少し危険になって来たので、この席より実況をお送りしたいと思います。なお、ディアブロ殿は皆様により緊迫した映像を送る為に、見届け人として闘技舞台に残ります! さあ、ツキハ様の追撃は来るの、か? おやおやぁ!?』

 

 そうソーカがアナウンスをしていると、ツキハの様子が何やらおかしくなっていた。

 

 両目から白く細い煙が上がり、両目を手で押さえ、両膝を地面につくツキハ。

 

 やがて、そのまま倒れ込むと。

 

 …………

 

 ……

 

 

「うきゃあああああああッ! 目がああああああ! 目がああああぁ――ッ!!」

 

 両目を押さえたまま、舞台上を激しく転げ回るツキハ。

 

 そう、大出力の魔力光線を目から発射すれば、網膜ごと目が焼き付くのは当たり前なのだ。

 

 目の保護をキッチリしていればそれも問題ないのだが、ほぼ思い付きでやった行為(ゆえ)、この惨状である。

 

 それを見た観客達の目が一斉に点になり、ソーカもアナウンスに困ってしまう。

 

『えーっと、何が起きたんでしょうか? 両目から煙が出てるみたいですけどぉ。目が焼けたのかな?』

 

 思わず素に戻るソーカであった。

 

「フンッ。(たわ)けめ」

 

 ルミナスが呆れたように言い捨てる。

 

「……」

 

 ヒナタは無言であるが、どう見ても呆れている様子。

 

「あらまあ。何してるのかしら?」

 

 コロコロと笑い言う、エルメシア。

 

「なにしてるにゃーーっ! アチシの全財産がかかってるにゃよぉー。ツキハ様、真面目にやるにゃーー!! アホやってる場合じゃないにゃっ!!!」

 

 必死な猫、サンコ。暴言吐きまくり。

 

「「「「「あー、いつものツキハ様で安心だわ」」」」」

 

 賭けに参加した眷属一同の声。

 

「相変わらずよねえ、ツキハ様ったら」

「ほんと、やらかしますよねぇ」

 

 ロロロオとロモコの、どこか諦めたような声。

 

「まあ、あれだけの大出力の魔力光線を、(なん)の対策も無しに目から撃てば、そうなるよなぁ……」

 

 リムルも半分呆れたように言う。

 

 そして、ミリムは。

 

「ツキハのヤツめ。思い付きでやったな、あの技。目の保護を忘れるとか、やっぱり、底抜けの馬鹿なのだ……」

 

 と、ジト目で言い、「せっかくカッコいい技だったのに、後で説教するのだ」と、付け加える。

 

 

 ひとしきり転げ回ったツキハは、やおらムクリと立ち上がると。

 

「あー、びっくりした……漫画のマネをするもんじゃないわね。失敗失敗」

 

 と、両目の修復をしながら呑気(のんき)に言い放つ。

 

 会場の大スクリーンに映し出されているツキハに、観客達は皆こう思った。

 

 いや、びっくりしたのはこっちだから、と。

 

「ほんま、しょうもな」

 

 コハクは、やれやれといったような感じで言う。

 

 

 再び十メートルほどの間隔を開けて、対峙(たいじ)するツキハとコハク。

 

 そして――

 

「「雷遁(らいとん)」」

 

 二人が同時に言霊(ことだま)を発し印を七つ結び、ピッと二本指を立てた右手を真横に切る。

 

きりはしれ いかずちのやいば らいそう

 ((斬り走れ、(いかずち)(やいば)  雷爪(ライソウ)))

 

 技名を口にすると、ツキハとコハクの両手の指の先から、蒼白い十センチくらいのガスバーナーにも似た爪が、シューッと音を立て伸びて来た。

 

「さあ、やろうか、コハク」

「へえ、やりますか、ツキハ」

 

 そう言った瞬間、ツキハとコハクの姿が残像を残したまま消えた。

 

 観客達は完全に二人の姿を見失い、闘技場内に視線を走らせる。

 

 舞台上、東の方で、バチッバチチチッと、何かがぶつかる放電現象が起こり、バチイッと何かがぶつかる音が弾け、両手雷爪(ライソウ)をぶつけ合わせたまま、二人の姿が現れた。

 

『凄いッ! 光る爪での攻撃に、お互いが一歩も譲らない―ッ! あの光る爪は、見るからにヤバイ匂いが漂いまくっている――ッ!!』

 

 ソーカの興奮気味(ぎみ)のアナウンス。

 

 姿が消えるほどの超高速攻撃に、観客達は度肝を抜かれ声も上げずに番外魔王である二人の闘いに、目を奪われていく。 

 

 

 





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