忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。188話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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 ※作中使用の特殊フォントは、〝ライム酒様〟作成の特殊フォントを使用させて頂いています。 
 特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますので、ご了承ください。






188話 エキシビジョンマッチ決着

 

 

 コハクの放ったのは、技? 魔法? の正体とは。

 

 ツキハに向けて放つ数秒前の出来事に戻ってみよう。

 

 

「傷? うちの顔に、傷……」

 

 そう呟いた瞬間にコハクは、『思考加速』百万倍をかけた。

 

(雷遁、魔素粒子活性化。魔素粒子から魔電粒子生成……成功。魔電粒子の変換を開始……超魔電粒子の生成……成功。超魔電粒子と精神波融合……サイコプラズマ生成……成功)

 

 コハクもまたツキハと同様に、自分の体内で生成される魔電粒子を、超魔導粒子に変換した。

 

 そして、教授から以前聞いたある生物の特徴を思い出す。

 

(そういえば、以前教授からおもろい生物の話を聞きましたなぁ。なんやったやろか……せや、水中で衝撃波みたいなもん放つ海老(えび)やったな。あれをどうにかできますやろか……うん、いけますな。水遁で空気中の水分を集めて、指の周りに疑似水中の領域を発生させて……。確か、その海老が放つ物が、なんやったやろか……あれ、あれ、ぷ、ぷら……あれや、プラズマ衝撃波やったな。それのエネルギーにサイコプラズマを利用しましょかぁ。物理体(マテリアル・ボディー)精神体(スピリチュアル・ボディー)星幽体(アストラル・ボディー)も、もろともにぶち抜く技? いや、魔法やな。ふふっ、ふふふふ。覚悟しいや。これで、みな、いてまうでぇ) 

 

 そして、心底怖気(おぞけ)が来るような殺意に溢れた目でツキハを睨むと、スーッと右腕を前に伸ばし、右手をツキハに向けた。

 

 右手を軽く握る形にすると、親指と中指を、百万分の一秒ほどもかからずに指を閉じるようにスナップする。

 

 パチン! ただの指のスナップ音は、凄まじい大音量で闘技場内に響き渡り、観客達は皆驚くと同時に耳を両手で(ふさ)いだ。

 

 その瞬間、不可視の凄まじい衝撃波の塊がツキハに襲いかかった。

 

 キュドンッ! 重低音を響かせながらツキハの腰から上の右半身が一瞬にして消し飛ばされた。

 

 

「へ? なに、が……」

 

 バシュウーーッと大量の空気が漏れるような音とともに、鮮血にも似た赤い魔素粒子が消し飛ばされた部分から吹き上がる。

 

 ツキハは(なん)の攻撃を受けたのかわからず、身体を左に傾かせながら(つぶ)く。 

 

「忍魔術。せやなぁ、〝結界貫通術式・鉄砲海老(てっぽうえび)〟とでも名付けましょうかぁ。別名、プラズマインパクトでもいいどすなぁ」

 

 そんなツキハを見ながら、口元に不気味な笑みを浮かべ言うコハク。

 

「て、てっぽう、えび?」 

 

 ツキハがそう言うと、キュドンッ、キュドンッと立て続けに二発ぶち込まれ、ツキハの上半身が完全に消し飛ばされてしまった。

 

 腰から下の下半身だけを残し、完全に意識が飛びその場に立ち尽くすツキハ。

 

 光も(なに)もないプラズマ衝撃波に、観客達は何が起こったか分からず、ただパチンと鳴る轟音に両耳を塞ぎ、下半身だけになったツキハを見て言い様のない恐怖を覚えていた。

 

 そして、ツキハを貫通破壊したプラズマ衝撃波は、後方のリムルの張った結界、『絶対防御』に当たり闘技舞台全体を大きく振動させ揺らした。

 

「はああ? えーと、テッポウエビって、何だっけ?」

 

《解。体長の半分を占める大きなハサミを持つエビがハサミ開き、百万分の一秒もかからず閉じる事で衝撃波を生み出し、瞬間的に六千度の熱が発生しハサミ周辺の1.27センチの水分が蒸発して、対象に当たれば爆弾のような衝撃をもたらす攻撃です》

 

 リムルの疑問に『智慧之王(ラファエル)』が答えた。

 

『ああ、あれかあ。得物を狩る為にハサミで衝撃波を出すエビだったな』

()

『でもさあ、あれって海の中で出来るモノだよな?』

《告。恐らく自身の右手に疑似水中の領域を発生させ、それで個体名:ツキハに撃ち込んだのでしょう。ちなみに、そのプラズマ衝撃波の温度は、推定でも一万度は超えているものと推測します》

『ふあ? またかよ、だから俺の結界が悲鳴を上げてる訳ね。『絶対防御』って……』

《告。問題ありません。既に対処済です。個体名:ミリムの結界に同調させ、『絶対防御』を重ね合わせてプラズマ衝撃波の衝撃緩和を行っています》

『あ、そう。ならいいんだけど……(まあ、俺が使いこなせていないって事かもな……)』

 

 リムルは、『絶対防御』と名の付く自分の結界が貫通されかけて若干気落ち仕掛けるも、まだこの結界を完全に使いこなせていないのだろうと気持ちを切り替えていった。

 

 しかし、恐るべきはツキハとコハクの発想であろう。 

 

 どんな結界も絶対ではないという考え。

 絶対的な結界ならば、それを上回る絶対的な力で打ち破れば良いという、至極単純な思考。

 この思考こそが、この世界の魔物とは一線を画すところなのかも知れない。

 

 そう、事は単純なのだ。

 

 相手が持つ結界を貫通出来れば、後は己が持つ力で勝負出来るのだから。

 

 これは、ツキハとコハクが(おのれ)に課した制限された戦いの中で、行き着いた答えの一つである。

 

 そして、それを別の形で体現している者が、もう一人。

 

(ククククッ。非常に興味深いですね。あの二人と出会って以来幾度も戦って来ましたが、そういう発想を持っているのは薄々感じてはいました。ククッ、とうとうそれに辿り着きましたか。いや、そのきっかけを完全なものにしたのは、あの女、二人が教授と呼ぶ、リュウコ・アヤセの存在でしょうね。あの女が持つ異世界の科学知識。それが飛躍的に、ツキハとコハクの技や魔法の新たなる発展を促したのは間違いないでしょう。やはり、貴女達二人は、面白い。いずれ、真の本気の勝負をしてみたいものです。ククッ、ククク、ウクククククッ)

 

 実況席に座りながら見ていたディアブロは、心の内で歓喜の声を上げる。

 

 ディアブロもまた、己に制限を課し、悪魔界で永き時の中を勝ち続けていたのだから。

 

 ただただ、〝己の技量を磨く〟為に。

 

 

『おおおおっとぉ! ツキハ様の上半身が跡形もなく吹っ飛んでいるゥ――――ッ!! これはあ、勝負あったかあぁーッ!!』

 

 ここで、ようやく我に返ったソーカが、叫ぶように実況する。

 

 腰から下の下半身だけのツキハは、急に荒れ狂う真っ赤な魔素粒子を竜巻のようにその場に立ち昇らせる。 

 

『なんとおぉーっ!! まだツキハ様は沈黙はしていなかったあぁっ!?』

 

 ソーカが魔力式マイクを握りしめ、絶叫する。

 

 荒れ狂う魔素粒子の中に完全に下半身も消え失せ、ツキハは魔素粒子の中に意識を張り巡らせ、一瞬で元の憑依体(ひょういたい)を構築した。

 

 それを見逃さずコハクは、再び〝鉄砲海老(プラズマインパクト)〟を撃ち放つ。

 

 パチン! 轟音が轟く。

 

 ドズンッ! ツキハの体が霧のように魔素粒子となり、すり抜けたプラズマ衝撃波はリムルの結界に激突して、ズズンッと重低音を響かせ闘技舞台を激しく震動させた。

 

 パンと拍手の乾いた音が響き、言霊(ことだま)(とな)えられた。

 

 きりにかくせ

 (霧に隠せ)

 

 〝忍魔術 霧創霧隠(むそうきりがく)レ・幻創燐(げんそうりん)

 

 虚空に響くツキハの言葉。

 

 ツキハは魔素粒子で自分の分身体を創り出し、それを囮にして、周辺に漂う赤い魔素粒子の中に己を溶け込ませて隠れ、精神体のまま移動していたのだ。 

 

「チィッ。分身体と漂う魔素粒子の中に自分を紛れ込ませたんか! やってくれましたなぁ、ツキハ」

 

 忌々し気に言葉を吐き捨て、パチン、パチンと、ツキハの気配がした場所と、次々と現れる分身体にプラズマ衝撃波を撃ち込んでいくコハク。

 

「どこや? どこにいてはるんか? それどすか? 違いましたな。その分身体も囮どすなぁ。優しくシバイたるさかい、はよ、出てきやぁ、ツ・キ・ハ。うふっ、うふふふ、あははははははッ!」

 

(おうおう、怒ってる怒ってる。ほんと、顔に傷付けられたらマジもんにキレるからなぁ、コハクって。元はと言えば、これが原因で死んで転生したようなもんだしねぇ。かといって、このままにしていたら、確実にこの闘技場自体を跡形もなく破壊しかねないもんなぁ。さて、どうしようかね、ほんと……) 

 

 キレ散らかしてるコハクにツキハは、どうやって怒りを鎮めるか思案していた。

 

 そして、そのツキハはどこに隠れているかというと。

 

 精神体(スピリチュアル・ボディー)のまま極小の光の玉となり、コハクの背中に張り付いて、権能『猫騙し』をフル回転させつつ潜んでいたのだ。

 

『リ、リムル』

『ん、どうしたミリム?』

 

 コハクのキレた姿を見てミリムが、どこか落ち着かないような言葉をかけてきた。

 

『コハクがキレたのだ』

『ああ。何となくわかるよ。ルミナスとエルメシア殿の表情がどこか(けわ)しくなってるからな』

『それでな、リムル。ワタシは地下迷宮でやり残した事があるのを、思い出したのだ。だからちょっと、様子を見に行って――』

『いやだなあミリム。そんな事なら、このエキシビジョンマッチが終わった後で俺も手伝うから、心配しないでもいいよ』

『え? いや、それがだな――』

『行ってもいいけど、もうハチミツは無しな』

『!? そ、それは……いやだ、それは、絶対イヤなのだ!! でも、あのコハクはヤバいのだ!』

 

 ミリムが『思念伝達』で話しかけ、あからさまにこの場から逃げようと画策して来たのを、即座に阻止するリムル。

 

 ミリムは、ハチミツを人質に取られ反論する言葉が見つからず、あの怒ったコハクが危険だと吐露(とろ)してしまう。

 

『なあ、ミリム。お前の慌てようからも、今のコハクがヤバいのはわかるよ』

『う、うむ。本当に怒ったコハクは、ヤバいのだぞ?』

『そうか。本当にヤバくなったら、俺があの二人を止めに入る。だから、この闘技場にいる観客達を、お前の結界で全力で守ってくれないか? 頼んだぞ、一番の友達のミリム!』

 

 リムルはハッキリとミリムにそう言い、ミリムもまたリムルに一番の友達と言われ気を良くしてしまい、そのお願いを聞き入れた。

 

『うむ。わかったのだ。任せるのだリムル! でも、気を付けるのだぞ。あの状態のコハクは、一切の手加減がないのだ』

『ああ、ありがとうミリム』

 

 こうして、いざとなった時の対処の準備が出来たリムル。

 

 コハクは左胸と左腕を完全修復して、両手を四方八方に動かし、プラズマ衝撃波は乱射していた。

 

 一方、コハクの背中に張り付いてるツキハは。 

 

(あれかねぇ、やっぱ、思い切りぶっ飛ばして目を覚まさせるしかないよねぇ? もたもたしてると、『追跡神(ゴッドストーカー)』使われたが最後、一瞬でバレるからなぁ、あたしの潜伏場所。仕方ない、もう一個の新技でぶっ飛ばそうかね。頭に血が(のぼ)ってる今しかチャンスがないし)

 

 そう内心で言いながらツキハは『思考加速』百万倍で技の準備を始める。

 

(身体を構築した瞬間に右手拳に、全精神波(サイコウェーブ)を集中。でえ、超魔導粒子を爆裂衝撃波に変換してえ……成功。続いて右肘に爆裂衝撃波撃ちだし骨を形成……成功。第一弾は起爆剤として精神波を打ち込み、第二弾で精神波に爆発衝撃波を合わせて結界ごとぶち抜く。さあて、いこうかあ)

 

コハクの後ろに姿を一瞬で現し、腰を落とし構え、右手を大きく後ろに引いたと同時に右肘から、長さ三十センチの円錐(えんすい)状の先端が鋭利に尖った白い骨のようなモノが飛び出して来て、見る見るうちにユラユラと熱気を放ちながら真っ赤になり、シューッと蒸気の抜けるような音を上げる。

 

 それに気付いたコハクは。

 

「そこにいたんかぁ、ツ~キ~ハ~」

 

 ぐるりと後ろを向き、両手をツキハの頭に合わせ、指を鳴らす動作に入る。

 

 しかし、既に『思考加速』百万倍で準備を終えていたツキハは、刹那の差で技を叩き込んだ。

 

「あたしの勝ちだ、コハク」

 

 そう言うや、ツキハの右拳がコハクの腹部にめり込んだ。

 

「零距離絶技、爆裂徹甲拳(ピァッシング・サイコ・エクスプロージョン)神流(カンナ)

 

 技名と共にズンッという地響きのような激音が響き、精神波(サイコウェーブ)がコハクに打ち込まれた。 

 

 が、しかし。

 

「あまいでぇツキハ~」

 

 コハクはそれを予測していたかのように、ツキハの拳が当たる部分に精神波(サイコウェーブ)と重力波を合わせた複合結界を展開していたのだ。

 

 ギュワァーッと拳が当たってる部分の空間が()じれ、体内に侵入し渦を巻くツキハの精神波を呑み込んでいこうとする。

 

「うちの、勝ちや」

 

 ニヤリと薄い笑みを浮かべると、両指をスナップさせようとした瞬間――

 

「あまいのは、アンタだ」

「はあ?」

 

 ツキハが同じく薄い笑みを浮かべ言い放った。

 

 そして――

 

穿(うが)て!」

 

 そう叫ぶと、右肘から突き出していた円錐状の鋭利な骨が一瞬で右腕内部に戻った。

 

 ドオォーーンッ!! けたたましい轟音が鳴り響き、コハクの身体は後方に吹き飛んだ。

 

 身体は、首だけと腰下の下半身だけになって闘技舞台の結界に激突し、その衝撃でバッと真っ赤な魔素粒子になって飛び散り霧散した。

 

 ツキハの放った技、爆裂徹甲拳(ピァッシング・サイコ・エクスプロージョン)神流(カンナ)は、精神波を打ち込んだ後に、右肘から突き出した骨のようなものが杭打機のような原理で、爆発衝撃波を一点集中で撃ち込み、その撃ち込んだ体内で渦を巻く精神波と混合し、体内で爆発、衝撃波を放つ技。

 

 この破壊エネルギーは螺旋運動で、対象が張った結界ごとぶち抜く技であり、零距離で放つ絶技である。

 

《あれは……主様(マスター)のいた世界の物理攻撃。モンロー/ノイマン効果を応用した打撃技。あの肘から出た円錐形の骨みたいなものは、恐らく、スリバチ状になった内部で魔力みたいなモノ? が爆発を起こして、その爆発の衝撃波が円錐中心軸に向かって集中し、中心軸に沿って方向を変え、スリバチの上方に向かって超高速の魔素粒子? のジェット噴流が作られる現象なのでしょう。そして、正体不明のエネルギージェット噴流が目標物に当たると、展開された結界ごと貫通し深い穿孔がうがたれる。しかもそれを螺旋状に放つという超高度な制御が必要となる、技――あの肘から出た骨は、紛れもなく疑似的HEAT弾。これは徹甲拳ではなく、魔力ジェット噴流拳と呼称した方が正しいでしょう、が。結界を貫通しその対象すらも貫くという事から名付けたのであれば、それもありなのでしょう》

 

 智慧の王(ラファエル)は、ツキハの技を見ただけで、その仕組みを解析してしまう。

 

 だがしかし、それに使われたエネルギーの正体だけは解析出来なかった。

 

 

『出たあああああぁっ! ツキハ様の絶技ともいえる拳打あぁーーーッ!! コハク様が木っ端微塵に吹き飛んでしまったあっ! 今度こそ勝負がついたのかあ!?』

 

 身を乗り出しながら実況するソーカ。

 

 そこへ。

 

「うちが、なんもしてないと思てはるんか? ツキハ」

 

 不意にコハクの声が、ツキハの両耳に飛び込んで来た。

 

「え?」

 

 ツキハが間の抜けたようね声を出し、目をぐりぐりと動かすと――

 

 千切れた手首が頭の右横と、胸の真ん中に浮いていた。

 

「ちっ、手首だけになって回避したのかよ」 

「ふふっ。ほんま、ギリギリどしたけどな」

 

 そう言うとコハクは、パチパチンと指を連続で鳴らし、ツキハの体を粉々に粉砕した。

 

 そして、プラズマ衝撃波を撃ち終わった手首は闘技舞台床に落ちて、魔素粒子となり霧散した。

 

『えーと。これは、両者倒れたのでしょう、か? 引き分け?』

 

 どこか素の状態で言ってしまうソーカであった。

 

 

 …………

 

 ……

 

 

 沈黙の空間が訪れ、誰もがこれで本当に終わったのか? と思ったその時。

 

 舞台中央に、魔素粒子が渦を巻きながら二つに分かれた。

 

 やがてそれは人の姿を形どり、憑依体を再構築した猫耳と尻尾を持ったツキハとコハクがそこに具現化した。

 

『なんとなんとぉ。お二人が復活してきましたあー。終わりがあるのでしょうかこの闘いに、さてさて、試合続行で、す?』

 

 ソーカが実況しながら、試合続行を宣言しようとすると、ツキハとコハクが何やら言い合いを始めてしまっていた。

 

 

「ほんとなにすんのよ、このド変態!」

「なんやてえ。あんさんこそなにしてくれますんや。うちの顔に傷を付けてからに!」

「傷? ほんのちょこっと付いただけでうるさいわ! この、エロ猫!」

「はあああ!? うっすい胸してはる子供は、黙ってなはれ!」

「なんだとオォー――ッ! 言っちゃいけない言葉を吐いたな、たれ乳コハクーーーーっ!!」

「あ゛? 誰がたれてるやて?」

「アンタだよ、コ・ハ・ク」

 

 一気に不穏な空気が、険悪を通り越して、最悪なモノへと変化する。

 

「ねえ、コハク」

「なんや」

「アンタがさあ、四つん這いになって下を向いたら、どうなるかわかってる?」

「はあ?」

「ちちが落ちるんだよ、たれるんじゃなくて、オ・チ・ル。うひゃひゃひゃ」

 

 ツキハは、自分の胸の前に両手を添えて、前後にポヨーンと何回も突き出す。

 

 そしてそれを想像したコハクは、怒髪天を突くがごとく右手をツキハに向け、頭を狙うと、パチンと、指を鳴らした。

 

 再び轟音が響き渡り、観客達は慌てて耳を塞いだ。

 

 ツキハはそれを首を横に傾けて(かわ)した。

 

「ようも言ってくれはりましたな、ひんぬーアホ猫が」

 

 目を吊り上げて激怒したコハクが吐き捨てるように言う。

 

「あ゛あ゛? ひんぬーたあ、誰のことよ!」

「あんたや」

 

 ツキハも目を吊り上げながら激怒する。

 

「あたしのはな、美乳というのよ。いいか、よく聞け落とされ乳のエロ猫。あたしは、び・に・ゅ・う・だ!」

「なにが美乳やねん。微妙の微やろ。微、乳、の、ツ・キ・ハ」

 

 袂の袖口を口に当て、クスクスと笑い言うコハク。

 

 その様を巨大スクリーンで見ていた観客達は、誰もが皆、ポカーンとした表情になっていた。

 

 あの人類の敵と言われ恐れられた番外魔王が、胸の事で口喧嘩を始めたのだから。

 

『え、えーと。胸? 今度は、胸の大きさで勝負なのでしょうか――』

「違うわッ!!」

『ひゃい!』

 

 ソーカが戸惑うようにアナウンスすると、ツキハが目を吊り上げたまま大声でソーカに怒るように返して来て、ソーカの声が裏返った。

 

「もういいわ。テメエ、ぶっ殺す!」

「やってみなはれ。そっ首、涅槃(ねはん)の彼方に送り込んでやりますえ」

 

 ツキハがまたもや口に光球を作り出し、荒暴咆口(フィアスブラスター)の発射態勢に入る。

 

 コハクも自分の手の平の上に、黒い重力球を作り出し、核撃魔法・重力崩壊(グラビティコラプス)を放とうと準備する。

 

 二人の身体から、蒼白い魔素粒子が少しづつ漏れ出して来ていた。

 

 一触即発。

 

 流石にこれだけの破壊エネルギーがぶつかり合うと、円形闘技場(コロッセオ)だけじゃなく、テンペスト事態に被害が及ぶかもしれない。

 

 もはや、躊躇(ちゅうちょ)なく動く時が来たと判断したリムルが動く。

 

「ミリム、後は頼む。二人を止めて来る」 

「うむ、了解したのだ。でも、二人の身体はもう――」

 

 ミリムが何かを言いかけたが、リムルは既に『空間転移』でツキハとコハクの間に割り入った。

 

 そう、ミリムは二人の身体に起こっている現象を知っていたのだ。

 

「あらあ、もうその時期なのかしらねえ。フフッ」

 

 観客席にいるロロロオがポツリと呟いた。

 

 その呟きに眷属達が一斉にロロロオ見て、言った。

 

「「「「「あんた、気付いていたな!?」」」」」

 

 憎々し気に吐き捨てた眷属達。

 

「にゃあぁぁ……」

 

 そしてサンコは、絶句したまま固まっていた。

 

 

「双方、それまで!!」

 

 左右に両手を広げ、ツキハとコハクを止めに入った。

 

 リムルの行為に、今まで無言で観戦していた観客達がワリとざわめく。

 

 

「リムル。そこどいて。今からあのエロ猫を焼き尽くすから」

「リムル。今からそのアホ猫を、涅槃の彼方に叩き込むんやから、そこどきや」

 

 二人はリムルの制止も聞かずに、攻撃をしようとする。

 

「これ以上の闘いは、流石に闘技場並びに街に被害が起きかねない。魔王リムルとして、この闘い、ここまでにする!!」

 

 高らかに闘いの終わりを宣言するリムル。

 

「「「「「おおおぉ」」」」」

 

 激怒状態の番外魔王に臆する事もなく割り込んだリムルに、観客達は歓声を上げた。

 

 しかし、ツキハとコハクは闘いを()めようとはしなかった。

 

「とにかく、そこどいて、リムル」

「せやせや。はよどきや」

 

 そう言ってツキハとコハクは手でどけというようにピッピッと振ると、いきなりふたりの手が崩れるように魔素粒子となり霧散した。

 

(え?)

 

 リムルそれに驚き声を出しかけたリムルは、威厳を崩さぬように声を押し殺し、平静を保った。

 

 すると、コハクが『空間遮断』の結界を闘技舞台に張った。

 

「あらあ、限界が来ちゃったかぁ。ここまでだわ、コハク」

「せやねえ、もうそんな時期になってたんやねぇ」

 

 残念そうに呟く。

 

 そしてリムルが、何事かと二人に尋ねた。

 

「えーと。お前達に何が起こったんだ?」

「う~ん、簡単に言えば、憑依体に限界が来た感じかな」

「憑依体? お前達の今の身体だよな?」

「せやで。うちらは精神生命体やけど、自分で憑依体を作れると前に教えたどすやろ」

「ああ、覚えてる」

「で、その憑依体を作り変える時期が来たんどす」

「作り変える? 何で? 一回作れば壊れてもまた作ればいいいだけじゃないのか?」

 

 作り変えると言われ、リムルは疑問が頭の中に浮かび、二人に問うた。

 

「普通はそうなんだけど、あたしとコハクの憑依体は、いつも限界まで酷使するから、ある一定期間を過ぎると、再度最適解をして作り直すんだよ」

「最適解ねえ。理屈はわかる。でも、なんかさあ、身体だけが別の進化してるような、不思議な感じだよなぁ、それ」

「あー、うん。それ、ミリムも言っていたよ」

「ほう。ミリムがねえ。あ! それで俺が出る前に何か言いかけたのか。なるほどねえ。でさ、どれぐらいの周期なんだ?」

「せやねえ。大体数百年おきやろか?」

「そだね。大体そんくらいかな。ちょうど前に作り直してから五、六百年経ってるし」

「へーえ。結構長いんだな、作り変えの周期って。まあ、お前達って割と変わった魔物だから、そうあっても不思議ではないかもな」

「変わった魔物とか言うな。アンタも大概(たいがい)じゃん」

「あ、そう?」

「自覚ないのは困りもんやな。あんさんも相当変わってる魔物やで」

「いやああ、俺って、意外に普通だと思うよ――」

 「「それはない」」

 

 リムルの言葉に即座に否定を返すツキハとコハク。

 

 観客達はそんな声無しの映像を、今まさに魔王リムルが番外魔王の二人を説得しているものだと思い見ていた。

 

「おいおい、魔王リムル様って、あの番外魔王の二人にも平然と立ち向かうって、無謀を通り過ぎてるだろ」

「ふむ。やはりあの噂は本当だったのだな。暴風竜ヴェルドラと番外魔王の二人を説得して、ファルムス王国との戦いを平定した、と」

「魔王リムル陛下……人類との共存を望むとの言葉は、真実の言葉だったんだな」

「あの恐ろしい番外魔王の二人を止めるなんて、凄いな、魔王リムル様は……」

 

 と、口々に意見を言い合う観客達であった。

 

 

 が、しかし。

 

 

 実際は――

 

「最適解して作り直しかぁ。それって、直ぐに出きるんだろ?」

「そうだねぇ、約二、三年くらい?」

 

 リムルの問いに、小首を(かし)げて返すツキハ。

 

「ええ? そんなにかかるの?」

「せやで。じっくり調整をしつつ、何度も試しに作っては壊しを繰り返すんや。たかが二、三年やで、こんなん早い方やろ?」

「いやいやいや。最適解を行う情報は揃ってるんだし、そんなもん、チョチョイのチョイでやれるだろう?」

「まあ、理屈はそうなんだけどぉ、やっぱり限界ギリギリまで酷使しても、耐えられような体が欲しいじゃん? だから、徹底的に調整して作り直すんだよ」

 

 こう聞いたリムルは、どこまで強さを求めるんだろうと感心するも、もっと効率よくやれるだろう思う、が。

 

(あぁ、これ、寿命のない者の感覚だわ。アイツらにとっては、二、三年なんて(まばた)きするにも等しい時間間隔なんだろうな。ヴェルドラも前に、それに近い事を言っていた気がするわ)

 

 時間感覚の認識の違いに納得したリムルは、次の質問をぶつけてみた。

 

「それはわかった。でだ、お前達がいない間は、誰がルヴナンを取り仕切るんだ?」

「あたしとコハクの代わりは、イチコがやるよ。その補佐にはノルベルト公だね」

「ふーん、そうなのか。でも、二、三年かあ、ちょっと長いよな」

「まあ、そう心配せんでもよろし。うちらにとっては毎度の事やし。うちらの眷属達も協力するさかい、なんも問題はあらへんで」

「そうは言ってもなぁ……。こういう時に限って問題が起きたりするんだよなあ、困った事に……」

「その困った時にあたしとコハクの憑依体が万全じゃないと、それこそ大変じゃん。アンタも十分強いんだからさ、そう言わない。それに、ヴェルドラがいるじゃん。あと、ディアブロも」

「せやで。これはうちとツキハにとっては大事な事やねん。辛抱してんか、リムル」

「うん、まあ、仕方ないよな。お前達の事に俺が口を出すのもアレだし、わかった。待とう、三年くらい」

「うん、ありがとリムル。後の事はイチコとノルベルト公と上手くやってね。すぐだよ、三年なんて」

 

 リムルがそう納得して、話が(まと)まったと思ったところに――

 

《告。主様(マスター)。その件について、打開策があると進言致します》

『え? 打開策があるの?』

()。祭りが終わった後に、それについてお話しがあります》

『ほう。わかったよ、先生。祭りが終わった後に聞かせてくれ』

《了》

 

 なんと、ツキハとコハクの憑依体の事で『智慧之王(ラファエル)』が解決できる案があるとリムルに言い、リムルは祭りが終わった後にそれを聞き、ツキハとコハクに伝える事にした。

 

 そしてとりあえずは、二人の勝負の決着を付けなければならないと、話を切り出していった。

 

「そうそう、お前達さ、エキシビジョンマッチの決着はどうするよ?」

「あーうん、もうめんどくさいから、引き分けでいいよ」

「せやなぁ。気も削がれたし、うちもそれでいいどすえ」

「そうか。じゃあ、どういう形に宣言しようか?」

「え? 任せるわコハク」

「もう、いっつもこれやからツキハは。仕方ありませんな。じゃあ、こうしましょかリムル――」

 

 と、コハクとリムルがどういう風に決着を付けるか話し合い、話が纏まると、コハクが『空間遮断』を解除した。

 

 

「番外魔王ツキハ、番外魔王コハク。これ以上の力の行使は認めない。エキシビジョンマッチの枠を超えていると、俺は判断する」 

「ほう。魔王リムル、どうしても止めるの?」

「うちらとやり合うなんて、ええ度胸してはるなぁ」

 

 ソーカも流石に実況を入れる事が出来ず、事の成り行きを見守るしかなかった。

 ディアブロは、何故か嬉しそうにそれを見ていた。

 

「いい加減に頭を冷やせ、二人とも! これ以上やったら確実に観客達に被害が及ぶだろう。俺はそれを、許さない!!」

 

 そうリムルが啖呵(たんか)を切ると、ツキハとコハクは――

 

「わかったよ、魔王リムル。ここはアンタの国だ。その意志に従おう」

「あんさんと本気でやり合うんは、骨が折れるさかい、ここは引きますえ」

 

 と、リムルの顔を立てるように言い、お互いに戦意を収めた。

 

「このエキシビジョンマッチの勝負は、俺こと、魔王リムルが、引き分けと宣言する!」

 

 威厳ある声で堂々と言い放ったリムルは、二人のところへと向かうと、にこやかに二人と握手を交わした。

 

 そして、貴賓席の方から、パチパチと拍手が鳴り響く。

 

 最初に拍手をしたのはエルメシア、それに続いてルミナスが拍手をし、ミリムも満面の笑みで力一杯手を叩き合わせる。後はガゼルにエラルドが続き、貴賓席にいる全員から拍手が起こる。

 

 それは観客達にも広がり、うおおおおっという歓声と共に、爆音のような拍手が会場内に轟き包み込む。

 

 今日ここに来た観客達は幸運であろう。

 

 何故なら、人の短い一生の中で、魔王クラスの本気の戦いなど見る機会は、無いに等しいのだから。

 

 魔王クラスの恐ろしさを見た者は、生涯この目にした戦いを忘れる事はないだろう。

 

 そして、魔王リムルの真の姿を見た者は、この国の素晴らしさにきっと気付くだろう。

 

 

 ここに、ツキハとコハクのエキシビジョンマッチが終了した。

 

 結果的には最後両者口喧嘩からの憑依体限界発生で引き分けとなったが、リムルは二人の技や独自固有魔法の発展具合に舌を巻く結果になった。

 

 しかし、ミョルマイルの思惑通りにリムルの偉大さの演出と、番外魔王二人による、魔王の恐怖の演出は大成功に終わったのも事実。

 

 闘技大会も盛況に終わり、エキシビジョンマッチも別の意味で大成功と言える。

 

 そして後は、祭り最終のイベント、地下迷宮(ダンジョン)のお披露目を残すのみ。

 

 

 エキシビジョンマッチが以外にも三十分とちょっとで終了したので、二時までを休憩にして、最終イベントの開始である。

 

 

 

 観客達が休憩の合間に屋台や闘技場内の売店に向かう中、眷属達もブツブツ文句を漏らしながら闘技場を後にしていく。

 

「くそおっ! ロロロオとロモコの二人勝ちかよ! ついてねえ!」

「ほんとよねぇ、ねえロモコ。貴女、夜にお酒(おご)りなさいよ」

「いやですぅ。絶対にいやですぅ」

「ロモコ、夜七時に、あの居酒屋に集合な」

「いやですぅ。一人で行きやがれですぅ」

「「「「「じゃあ、待ってるから」」」」」

「いくかあ、ぼけぇですぅ!」

 

 相変わらずのロモコ班の面々である。

 

 ロロロオはというと、さっさと闘技場から消えていた。

 

 

 

 そして、一人、賭けの木の札を握りしめ、尻尾をプルプルと震わせている、猫娘が、ひと~り。

 

「にゃ、にゃあ、はにゃあああああああああッ! スカンピンになったにゃああああーーッ! どうしてこうなったにゃよオォーーーッ!!」

 

 

 サンコの嘆く叫び声が、虚しく闘技場に木霊する。

 

 

 

 

 

 





 今回もこの作品を読んで頂き、本当にありがとうございます!

 次回の更新も、宜しくお願いします!



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