忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
リムルが覚悟を決めた深夜。
イングラシア王国にある地下酒場で、人間に『変化』したツキハとコハクが四角いテーブルに座り酒を飲みながら、イチコを通して一部始終見ていた。
コハクはツキハの隣に座り、甲斐甲斐しく空になったツキハの木で作られた樽型ウッドジョッキにワインを注いでいく。
ツキハは注がれたワインを半分程飲み干し、ウッドジョッキをテーブルにコンと音を立て置く。
テーブルの真ん中には真横にして、妖刀・時雨が置かれていた。
ほっと軽く息を吐く動作をして、話の続きを始める。
会話はいつもの如く、他人には他愛も無い話しにしか聞こえない様、暗号変換していた。
「そうか、覚悟を決めたみたいだねえ。やっぱりあいつ、ただの魔物ではなかったね」
「せやねぇ。どうやら甘い考えは、捨てたみたいおすな」
「うーん、どうだろうね? 案外捨てては無いかもよ?」
「せやろか? まあ、どっちでもいいおすえ。覚悟を決めたんなら、もう――あの国は手強くなりますなぁ」
「だねぇ。しかし、エレンがあの御伽噺を教えるとはねぇ。よっぽどリムルって魔物を、気に入ってるみたいだね」
「ほんまですなぁ。とりあえずエル姐さんには、報告しておかなあきまへんな」
「ああ、
「ふふっ。あの転移陣作るのは、難儀しましたんえ。それよりも……はぁー、エラルドが血相変えて飛んで来るやろな~」
「それね。ほんと、超が付く親バカだものねぇ、エラルドは。めんどくさ」
ツキハとコハクの、情報収集の秘密を知る者。
一人はエルメシア皇帝。
後に二人増え。
二人目、エルメシアから一番の信頼を受けている、エラルド公爵。
最後に、何故かエラルドの娘、エリューンこと、エレン。
この三人だけが、現在秘密を知る者であった。
因みにカバルとギドは、〝番外魔王〟の眷属が裏で護衛しているのは聞かされており。
エレンがツキハ、コハクと懇意にしているのも知っているが、それだけである。
エレンは国を出て冒険者になってから、ずっと秘密裏に〝忍魔猫〟が二匹交代でその行動を追っていた。
冒険者になったエレンを心配し、エルメシアがツキハとコハクに、別件で護衛を頼んでいた。
表立っての護衛はカバルとギド、裏の護衛が〝忍魔猫〟だったのだ。
ある騒動で、〝忍魔猫〟が護衛してるのがエレンにバレて、エレンがエルメシアに問い詰めたところ、〝番外魔王〟ツキハとコハクの眷属だと告げて、最重要国家機密を知ることになったのだが……。
その時のツキハとコハクの激怒っぷりは、想像に難くない。
結局は報酬のつり上げと、エレンの人柄の良さにツキハとコハクは渋々納得し、今に到るのだ。
余談だが、エルメシアとエレンはお互いにちゃん付けで呼び合う程、仲が良かったりもする。
コハクが空になったワインボトルを掲げ、給仕の女性に新しいワインボトルを頼んでいると。
コハクとツキハが座ってるテーブルの真正面に、屈強な男が二人立つ。
一人は大剣を自身の前にドンと突き立て、もう一人の男は二本持ったロングソードを同じように自身の前に突き立てる。
「よお。姉ちゃん達。よくこの酒場で見るよな、俺達と組まないか? 俺達はBランクの冒険者だ。どうだ?」
大剣使いの男が言うも、ツキハはチラッと一瞥しただけで、興味無さそうにつまみのソーセージをフォークに刺して食べていく。
大剣の男が何か言おうとしたのをロングソード二刀流の男が止め、口を開く。
「まあまあ、そう邪険にしなさんな。なんか新しく出来た魔物の国で、ひと騒動有るらしいんだ。でだ、その魔物の国へ行って、魔物を退治して報奨金を頂こうと人を集めててな。もう二十人はいるんだが、お前らも、一つ乗らないか?」
「あそこどすか? やめときなはれ、あんさんらではものの数分もしない内に、皆殺しにされますえ」
「言ってくれるな。だがな、俺と大剣使いの男が持ってる剣は、
自信満々に言ったロングソード二刀流の男に、ツキハが呆れたように吐き捨てる。
「はぁ~、めんどくさ、失せな」
見た目はまだ十代にしか見えないツキハの言葉に、二人の男は額に青筋を浮かべ、床に突き立てた剣を抜こうとした刹那――
ジッキイィィーーン 硬い金属が断ち切られた様な音が酒場に響き渡った。
いつ抜いたかもわからぬ、神速の抜刀。
テーブルに置かれていた妖刀・時雨を、男達が瞬きをする間もなく、座ったまま真横に抜き放つ。
左手には鞘を持ち、右手は刃を真横に薙いだまま止まっていた。
ゴドン ゴドドン 時雨に断ち切られた大剣とロングソードの刃が床に転がり落ち、鈍い音を立てる。
明らかに自分達の剣より細い剣が、
チンッと軽やかな金属音が鳴り、ツキハは刃を鞘に納めると。
〝失せろ〟というように、右手をピッピッと振る。
それでも動かない男二人を、後ろにいた二十人の内の三人が、呆けている男二人を引っ張っていく。
男二人を引っ張りながら、一人が「あいつらは、やめておけ。俺達より遥かに稼いでいる。こんなチンケな稼ぎなどには、目もくれんよ」と言いながら、他の男達にも「いくぞ」と声を掛け、その集団は酒場を後にする。
何事も無かったように給仕の女性が新しいワインボトルを持って来て、テーブルに置いていく。
「あいつら、皆斬ってこようか?」
少し不機嫌そうにツキハが言い放ち、コハクがやんわりと
「やめとき。あんなん斬っても、一銭にもならしまへん。それより、このワイン中々に美味しいどすえ。さあさあ、飲みなはれ」
「あ、うん。そうだね、飲もうか」
コハクがツキハと自分のウッドジョッキになみなみと注ぎ、二人はコンと軽くウッドジョッキを合わせ、ワインを飲んでいく。
波乱の夜が明け、朝が来る。
早朝の
幹部と関係者一同が会議室に、集まっていた。
エレンがリムルに話した御伽噺の事を、説明し。
ヨウムはファルムス王国の、新国王になると皆に告げた。
ミュウランもまた、皆に自分の素性を明かし、今後ヨウムと共に
様々な経緯が話される中。
リムルは、自分に関する重大な事を皆に、告げる。
「皆、聞いてくれ。俺は、元人間なんだ。異世界で死んで、この世界に――〝転生〟したんだ」
ざわめきが起こるも、誰も口を狭間なかった。
「そう、こちらで〝異世界人〟と呼ばれてる者と、同じ世界の人間なんだ。向こうで死んで、こっちに生まれ変わったんだ――スライムとしてな。最初は孤独で不安だった、が。そんな俺にも、仲間が出来た。お前達だ。俺が人間と仲良くしたい……その望みが、進化したお前達を、人間に近い姿にしたのかも知れない」
そこで話を区切り、皆を見るリムル。
誰もが真剣に、リムルの話に耳を傾けていた。
「俺が〝人間とは、むやみに争わない〟と言うルールを作ったのも、人間が好きだと言ったのも、元が人間だっからだ。そのルールの為にお前達が傷つくのは、俺の望みではなかったんだ……。俺は魔物だけど、心は人間だと思ってた……だから、人と交流したいと思い、人間の街に長居してしまった。子供達を救って、もっと早く帰還していれば……俺は……」
そこでリムルは言葉に詰まってしまう。
何を言っても言い訳にしかならない、そんな気がしてリムルは言葉が出なかった。
すると。
「いいえ、それは違います」
はっきりとリムルの言葉を否定する言葉が、飛び込んでくる。
それは、シュナの言葉だった。
シュナは優しい瞳でリムルを真っすぐに見て、柔らかく静かな言葉で述べる。
「私達には、いつでもリムル様が守ってくださるのだと言う、甘えがあったのです。その結果が、今回の惨劇なのです」
シュナの言葉に続くように、ベニマルが続く。
「先に妹に言われるとはな、兄として情けない限りだ。俺もそれは、今回痛感しました。リムル様との『思念伝達』が途切れた時、常に感じていた万能感が消え……凄まじい不安が俺を襲ったのです。俺達、いや、俺の油断が、今回の惨事の原因だと――悟りました」
「待って欲しいベニマルさん。それを言うなら、警備責任者である俺の失態こそ、今回の惨劇を招いた原因だろう!」
ベニマルの言葉をリグルドが遮って来た。
それを合図に、各人が今回の件に責任を感じていたのか、皆が自分の失態だと口にし始める
それを見たリムルが慌てて止めに入る。
「待ってくれ、皆。自分の考えで、油断したのは俺だ。元人間だからと、自分の思いを優先した結果が――この様なんだ。全ては俺の、責任なんだ……済まなかった」
リムルの言葉に、しんと皆が押し黙った。
静寂の間が襲い、それを破るかのようにハクロウが真剣な顔付で、発言する。
「リムル様が自分の思いを優先するのは、何も問題は御座いませんぞ。むしろ、ベニマル様や、シュナ様が申した通り、今回の件は――ワシ等全員の油断ですじゃ。そして、ワシ等の弱さがこの惨劇を招いたのです。国を預かるワシ等が、あのような不埒な者共に好き放題にやられたのは、ワシ等の怠慢であろう。違うか、皆の者?」
ハクロウの言葉にピリッとした空気がその場に満たされ、同時に全員が頷きそれに同意した。
リムルはまさかこのような反応が返ってくるとは、露ほども思わず。
「あぁー、いや、元人間の主なんて――嫌じゃないのか?」
と、口にしてしまう。
それに。
「え? 何でですか? リムル様は、リムル様っすよね?」
「私の主はリムル様だけです。前世がどうのと言われましても、関係ないかと」
「そんな事……ちょっと、俺達には難しいです」
「だな。ハッキリわかるのは、俺達の主がリムル様と、言う事だけだ」
リムルの杞憂など、皆の言葉が取り払っていく。
最後にリグルドが取り纏めるように、言う。
「リムル様。皆の気持ちは、同じですぞ。そのような事を気にする者など、ただの一人もおりませぬ。もっと、御自由になさってください。我等はそれに、付いて行くだけですぞ!」
ちょっと猛進過ぎるリグルドの言葉だが、リムルはその力強い言葉にゆっくりと頷く。
(ああ、やっぱりここが、俺の家なんだな……。家族同然の仲間達、嬉しいな……俺には、皆がいるんだ)
人や魔物という垣根を乗り越えれば、きっと――
通じ合う心で分かり合えると。
リムルはリグルド達を見ながら、それを確信に変える。
そんなリムルを見ていたカイジンが、核心的な発言をした。
「リムルの旦那、聞きたいんだが。今後の人間への対応は、どうするんだ?」
場が静寂に包まれる中、リムルは自分の考えを話し始める。
「そうだな、結論を言う前に、俺の考えを述べよう。俺が元いた世界の考え方に、『性善説』とか『性悪説』などがあるんだ。人間は本来良きものなんだが、成長する過程で悪行を学ぶという性善説。本来は利己的な悪であるが、学習により善行を学ぶ、性悪説。要するにだ、人は善にも悪にもなれるし、なってしまうんだ。楽な方へと流れやすいのが、人間なんだよ。その道が悪に偏れば、悪しき者になってしまうんだ。俺達を一方的に敵視して、自己の利益だけに走るファルムス王国のように、な……」
リムルはここで一息を付き、直ぐに話を再開する。
「――だがな、それで人間全部が悪と決めるのは間違いなんだ。だからさ、俺は人と魔物が判り合える環境を作りたいと、思っている。共に助け合う良き隣人に、なれるんじゃないだろうか? 俺はその可能性を、信じたいんだ」
リムルが皆を見回しながら力説する様を、その場にいる者達は頷き、時には驚きの声を漏らしながら、真剣な眼差しで聞いていた。いつもは難しい話しになると、居眠りをしていたゴブタでさえも。
「だがな、それはあくまでも、今後の希望としての話だ。人を無条件に信じて、今回のような件を引き起こすのは、本末転倒なんだ。だから、俺の結論は――今の段階で人間と手を結ぶのは、時期尚早と考えた。そこで重要なのは、俺達の存在を誇示し、認めさせることなんだよ。ドワルゴンやブルムンド王国みたいに、善良な国家を相手にしていたので、国という悪しき側面を完全に失念していた……。俺が魔王となり、武力を用いた交渉では不利と悟らせるんだ。敵対するより、共存する方が得と思わせられたら、
そう言いリムルは、長い話を締めくくった。
「それはまた、甘い理想論だな。魔王になろうって者が言う、考えでは無いな。だが、嫌いじゃない――」
カイジンが頷きながら、言葉を返して来た。
「いいじゃないですか、理想論でも。私は、リムル様ならそういう理想的な世界を――創れると思います」
シュナがほわりとした微笑で、すかさず返してくる。
そして――
そこにいる皆が、それぞれの考えを述べて賛同し、人も魔物も無い、垣根を越えたものが確かに、そこに芽生えた。
ここからリムルの理想とする、国創りが始まっていくのである。
そして、一番の不確定要素〝番外魔王〟に関しては、リムルはおそらく今はこないと話し。
来るならば、俺が魔王になった時だと言い、皆もそれに賛同した。
〝番外魔王〟の悪評は人間に対してだけ広まっており、魔物に対してはそうでもなかったのだ。
但し、気まぐれ自由魔であるのは周知の事実であり、警戒は怠らない様にとの事で、〝番外魔王〟に関しての話は終わった。
それから短い休憩を挟み、迫る軍事侵攻に対しての作戦会議を行う。
「それで、敵軍の詳細はわかるか?」
リムルの問いにベニマルが答えた、
「はい。ソウエイが調べた内容によると、ファルムス王国の騎士団一万名、傭兵団六千名に魔法使いが千名加わっています。それに神殿騎士団と呼ばれる二軍が三千名の、計二万名の戦力になります」
ベニマルの説明にゲルドが。
「どういう分担でいきますか?」
と、勢い込んで聞いてきた。
それにベニマルは。
「そうだな……正面は俺の部隊が受け持つ方が、いいだろう」
ベニマルも、ハクロウが指導して来た
リグルやゴブタも、
今回の件で激怒しているのは、リムルだけではなかったのだ
しかし――。
「スマン。連合軍本隊は――俺一人で、始末して来る」
「――どういう意味ですか?」
ベニマルが代表で問うた。
「俺が魔王になるには、一万名の生贄で足りるらしいんだ。多分だが、人間の魂を得て、〝真なる魔王〟へと、進化するんだと思う。侵攻して来る愚か者が二万名もいるんだから、
「――了解です。今回は、リムル様に託します!」
そう頷くベニマルに、リムルが頷き返す。
「それで、お前達に任せたい仕事がある。現在、この街の四方に結界を発生させる装置がある。それを守護するのは、中隊規模の騎士達だ。これらの部隊を同時に、殲滅してほしい」
リムルの言葉が終わらない内に、皆が作戦参加を口にし始めるが。
「慌てるな、人選はもう決めてある。まず、東方をベニマル。西方を、ハクロウ、リグル、ゴブタ、ゲルド。南方を、ガビルとその配下。北方を、ソウエイ達だ。そして、ランガ」
「ここに、主!」
「お前は予備戦力として、俺の影の中で待機だ。敵には転移魔法陣があるので、援軍が来る前に叩く! 万が一援軍を呼ばれたなら、即座にランガを呼べ。いいな!」
「「「「「「はい!」」」」」」
リムルの言葉に皆が、威勢よく答える。
名前を呼ばれた者達が、戦場に向かう為次々と会議室を後にする。
そこへ、リムルがベニマルを呼び止めた。
「ベニマル、お前は百名近い騎士を相手に、一人で向かう事になる。お前に不安はないが、危なくなったら――」
「リムル様。その心配は無用です――」
「今回は、手加減は一切必要ない。持てる力全てで、殲滅しろ」
「フッ、ならば――勝利は間違い御座いません」
ベニマルは軽く一礼すると、己の戦場へ向かうべく、会議室から出て行った。
それを見届けるとリムルは、もう一つの大事な事をシュナに告げる。
「――さて、シュナ」
「はい、リムル様」
「今言った通りベニマル達に、この弱体化を引き起こしている結界を、解除してもらう。だがこの結界こそが、シオン達の魂をここに留めている可能性がたかい。俺の言ってる事が、わかるな?」
「はい。代りの結界を、私共で用意するのですね?」
「その通りだ、出来るか?」
「言われるまでも御座いません。ぜひその役目、私にお任せを!」
シュナが力強く答えると、ミュウランの言葉が続いた。
「その役目、是非とも私に手伝わせて欲しい!」
ミュウランがそう申し出る。
「はい。よろしくお願いしますね、ミュウラン」
シュナとミュウランが協力して、リムルの張った大魔法の維持と補強を行うべく、術式の構築に入る。
ここに
東方面――
魔法装置設置場所。
ベニマルは正面から、堂々と歩いてきた。
それに一人の神殿騎士団が気付く。
「前方より接近する者あり! 総員戦闘準備!!」
対魔物に特化した戦闘力を持つ、騎士団。
個人でB⁺ランクに相当する騎士達、百名。
それ等が、慌ただしく戦闘態勢に入る。
だが、騎士達は知る。
凄まじい、怒りと殺意を。
荒ぶるではなく、静かに
シャリッと、音を鳴り響かせ太刀を抜く。
悪いな、俺の八つ当たりに付き合ってもらうぜ
十九話を読んで頂きありがとうございますー!
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