忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。191話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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191話 地下迷宮のお披露目・攻略中編

 

 

 挑戦者も出揃い、リムルは早速地下迷宮(ダンジョン)の開放を開始する事にした。

 

 

 時間も押し迫り、攻略は各パーティの同時攻略となる。

 

 迷宮内の案内役としては、樹妖精(ドライアド)が打って付けであった。

 魔法通信者(カメラマン)としての役目も兼任しつつ、各パーティに随行する事となっている。

 

 樹妖精(ドライアド)は、トレイニーの姉妹であるトライアとドリス以外にも、数は少ないが存在していた。

 

 まだ若い個体で戦闘経験もないが、魔力だけは高いのでラミリスの影響下に入った今、迷宮管理者として適任なのだ。

 

『さあ、地下迷宮開放のお時間がやってまいりました! それでは、こちらの四名を紹介します。この四名は迷宮の管理者です。普段は付き添いませんが、今回は皆様の攻略情報を伝達する役目として、各パーティに一名が付き添う形になります。今回の為に迷宮内には魔力式映像通信装置が設置されていますが、全箇所とはいかなかったので、余すことなく攻略情報をお伝えする為に、このような処置を取ったのです。この四名の右肩上に浮かんでいる魔法映像通信装置が、それです』

 

 四名の右肩上に、ちょうど手のひらサイズの小さい長方形の魔木と金属で作られた箱が浮かび、中には魔法映像通信水晶球が仕込まれていた。形状的には、リムルの元いた世界のハンディカメラを模したような形である。

 

 そして、ソーカが名を呼ぶと、一人一人が挨拶をした。

 

 アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ。

 

 これは、リムルが名が無いと不便だなと言い、付けた名だった。

 とはいっても、魔素量(エネルギー)の消費はない。

 樹妖精(ドライアド)は上位の魔物なので、自分自身の魔素量(エネルギー)を消費してもらったのだ。

 

 そもそも、彼女達はラミリスの配下となっているので、リムルは名前を考えるのに協力しただけである。 

 

 名前を考えた時にツキハが、「もしかして、適当?」と言った時、リムルが「お前には言われたくないわ!」と、返したのは言うまでもない。

 

 ちなみに、姉妹は皆似通(にかよ)った顔をしているので、視覚情報だけでは見分けるのが困難なのだ。

 

 魔物は大体が、魔力や妖気(オーラ)の波形や波長などで個体を見分けられる。

 しかし、これが人間に出来るかと言われたら、難しいところ。

 

 これを魔物は、無意識に感知して見分けているのだ。

 

『何か困った事があれば、遠慮なく彼女達に相談して下さいね~!! それでは、迷宮のルールを説明しまーす! ()ずは皆様に、これをお渡ししましょう!』

 

 ソーカがそう言い、いくつかのアイテムを掲げて見せた。

 

 それと同時に、アルファ達が同じアイテムを配って回る。

 

『されでは、このアイテムですが、この迷宮に入る際に売り出す予定のアイテムなのです。さて、皆様のお手元にも、届きましたでしょうか?』

 

 ソーカのアナウンスに合わせて、各種アイテムがスクリーンに映し出される。

 

 映し出されたアイテムは、上位回復薬(ハイポーション)が十個。

 完全回復薬(フルポーション)が一つ。

 そして〝復活の腕輪〟と、帰還の呼子笛(よびこぶえ)となる。

 

 今回は迷宮のお披露目なので、当然無料での配布なのだ。

 

 更に、念の為に随行するアルファ達にも、予備のアイテムを持たせてある。

 

 不測の事態には、十分に備えてあった。

 

 しかし、迷宮はかなりの広さなので、一階層すらクリア出来ない可能性も高い。

 直線距離にしても、優に二キロは超えていた。

 しかも、迷路になっているのだから、踏破距離は更に伸びるであろう。 

 

 制限時間は三時間、観客が楽しむ程度には充分過ぎる時間である。

 

 そして、当然ながら他にも報酬は用意されていて、お土産としてそれなりの性能の武具などが出る宝箱が用意されていたのだ。 

 

 正式開放では、二階層以下から設置する予定。

 今回はお披露目なので、大サービスなのである。 

 

 それで最後に、一番重要な事項の説明に入った。

 

『それでは、こちらのアイテムを御覧下さい。このアイテムは〝復活の腕輪〟と言うんですけど。我が国の迷宮に入る時にはですね、是非とも購入して頂きたいアイテムとなっております。その効果はなんと――死からの復活なのです!!』

 

 ソーカがそう言った途端、会場内にどよめきが起こる。

 

 そんな馬鹿な、あり得ないなどと言う声が、あちこちから聞こえて来た。

 

 そして。

 

『さて、これから言う事は、大変大切な事なので、落ち着いてよ~く聞いて下さいね? このアイテムが効果を発揮するのは、我が国の〝地下迷宮〟だけと、なっております!! 〝地下迷宮〟から外に出たら、全く効果はありません!! 大切な事なので、二度言います! こ・れ・は、我が国の、〝地下迷宮〟内でしか、効果はありません!! いいですか、外部では全く効果がないのだという事を御理解下さるよう、伏して、伏してお願い申し上げますね!!!』

 

 そう、これが一番大事な事なのである。

 

 勘違いで外で使われて、ありゃ失敗失敗では、済まされないのだから。

 

 下手をすれば、国の責任として損害賠償問題にも発展する事にもなり兼ねない。

 悲しいかな、異世界であろうとこの世界であろうと、悪質なクレーマーという人種が存在する。

 

 そのクレーマーに利用されない為にも、この告知は徹底して行わなければならないのだ。

 

 間違っても迷宮外でも利用出来ると考えないようにと、繰り返し説明をする。

 

 正式開放では、迷宮に入場する際、一人一人迷宮内のルールを書した入場誓約書なるものに、魔力ペンでサインをしてもらう事になっている。

 

 これは二枚あり、一枚が迷宮運営が預かり、もう一枚が入場者が保管となる。

 

 特にこの〝復活の腕輪〟に関しては、その注意事項が赤字で大きく最初に記載されている。

 更に、この誓約書にはリムルの妖気(オーラ)が微量ながらも混ぜ込まれており、偽造など到底不可能な代物(しろもの)になっていたのだ。

 

 ここまで徹底しないと、必ず一部の馬鹿や不届き者が出て来るものである。

 

 徹底的に穴を潰し、後は、自己責任でやってもらう。

 

 何でもかんでもサービス側の責任にされるのは、真っ平御免なのだ。

 

 だから、正式開放された暁には、入場する際には必ず誓約書にサインする事が、どんな者であろうと義務付けられている。

 

 なので、入場の際迷宮内に入る許可証と、その誓約書を持たない者は、違反として罰則の対象にもなるルールが設けられている。

 

 それでもクレームを付けるお馬鹿な悪質者には、闇夜からルヴナンの眷属が、こんばんはと、する事になるだろう。

 

 全ての裏事情と、関係する人物の情報を(たずさ)えて……。

 

 

『――と言う事ですので、絶対に、いいですか? 絶対に外では使用しないで下さいね! お姉さんとの約束です(・・・・・・・・・・)!!』

 

 ソーカは念入りに、誰にでも理解出来るように説明を行った。

 

(おおう、お姉さんとのって、それを言うかソーカのヤツ。あー、あれだ、何か俺が作ったマンガの影響があちこちに見られるのは気のせいだろう、か? うんうん、気のせい気のせい)

 

《……》

 

 ソーカのアナウンスを聞いてどこか妙な気分に(おちい)り、何故か『智慧之王』が釈然(しゃくぜん)としない? そのようなモノを示す。

 

 これで残る懸案事項は、誰かに実際に死亡体験をしてもらう事。

 

 〝復活の腕輪〟はラミリスが改良を加え、死亡判定時の痛みや苦痛をキャンセル出来るようになっている。

 その上、死亡してからも地上に転送されるまでに十秒ほどの余裕があり、その間に適正な手法を取れば蘇生出来るように配慮されていた。

 

 もっとも、神の奇跡:死者蘇生(リザレクション)のような高位魔法を扱えるものなど、ほとんどいないだろう。

 

 ちなみに、通常完全回復薬(フルポーション)では、魂の蘇生は出来ない。

 それは、死んだと同時に魂は肉体から離れ拡散し、冥界へと(いざな)われるからだ。

 

 だが、迷宮内では魂が肉体へ留まったままなので、肉体を完全回復薬(フルポーション)で修復出来たなら復活が可能だったりする。

 

 だからそれを迷宮内ですると、外の世界で盛大な勘違いを起こしかねないので。

 正規の手続きで復活しなければ、十秒経過と同時に肉体は地上へと転送される仕組みなのだ。

 

 まさにマサユキが指摘したように、リアル感覚でゲームのように迷宮攻略に臨めるのだ。

 

 しかし、若干四名ほどがリアル重視に偏っているので、全体の難易度が超激ムズにならないよう、バランスを取るべく自分がしっかりと手綱(たづな)を握らなければと、固く心に誓うリムルであった。

 

 

 全ての説明が終わった。

 

 後は誰かに、実際に〝復活の腕輪〟を使用してもらわなければならない。

 

『それでは、実際に体験してみたい方は――?』

 

 ソーカが挑戦者達に、明るく問い掛ける。

 

(いやあ、いるわけないだろう。しかし、ソーカって、思った以上に神経が太いみたいだね。誰の影響を受けたんだろうか?)

 

 などと、素朴な疑問をソーカに向けてみたりするリムル。

 

「ふん、迷宮内では死なない、だと? 面白い冗談を言うぜ。そんな戯言(ざれごと)を信じて死ぬなんざ、真っ平ゴメンだな!」

 

 スキンヘッドの大男バッソンがそう言うと、他の者も当然だとばかりに(うなづ)いていた。

 

「フッ、ならば話は簡単ではないか。そこのお前、お前が手本を見せろ」

 

 〝流麗なる剣闘士〟ガイがそう言い、ミョルマイルを指差した。

 

(ふむ。自分ではなく、他人で試す。まあ、当然の要求だろうけど。ただ、その尊大(そんだい)な言い方は何とかならないものかね)

 

 あまりにも不躾なもの言いに眉を(ひそ)めるリムル。

 

 と、そこへ。

 

「ねえ、リムル。アイツがこの国を出たらさ、闇夜にサクッと、()る?」

 

 ツキハがニッコリ(さわ)やかに言った。

 

「「よし、許可する!」」

「しねえよ! ってか、シオンにディアブロ、俺の声を真似するんじゃない! まったくもう、お前らと来たら――」

 

 またもシオンがリムルの声真似をし、それにディアブロも乗っかって、リムルがブツブツと文句を言いながら、軽く三人を説教した。

 

 そんな中。

 

『ワシですかな? その提案ももっともですし、宜しいでしょう』

 

 指名されたミョルマイルは、予想していたのか動じる様子は微塵もなかった。

 

 それもそのはず、既に実際に体験済だったのである。

 

 シオン配下の〝紫克衆(ヨミガエリ)〟と、ルヴナンの眷属が何度か実験に付き合ってくれたのだ。

 

 しかも、その中には一人意外な人物が混じっていた。

 

 どこで聞き付けたのか、教授が実験に参加したいと言って来たのだった。

 

 教授は、「臨死体験!? 出来るの? ラミリス様の〝復活の腕輪〟かあ、やる! 私やる! いいよね? ね!?」と、意気揚々と実験に参加して来たのだ。

 

 ちなみに教授は、計十回も死んで復活したらしい――様々な死に方で。

 

 その時のラミリスの一言が、「怖いわよねえ。マッドサイ――な、何でもないのよさ。オホッ、オホホホ」と、何かを言いかけて誤魔化していた。

 

 そう、それを聞いた教授が、ニコニコとラミリスを見ていたのだ。

 

 

 なので、一度体験した身としては、そこに恐怖はなかったのである。

 

 ミョルマイルは堂々とした態度で、腕輪を嵌めて迷宮内に足を踏み入れた。

 

 そして、他の挑戦者達も中に入って行く。

 

『それでは、こちらのミョルマイルに、実際に攻撃してみましょう――』

 

 と、片手で剣を抜き、ソーカが自分が攻撃をするつもりで剣を構えると――

 

 それ(さえぎ)るように、ガイが素早く動く。

 

「騙されるものかよ! キエイッ!!」

 

 そう叫ぶなり、剣を一閃。

 

 ミョルマイルの右片腕が、血飛沫(ちしぶき)を上げながら宙に舞う。

 

『――貴方、ちょっと!!』

 

 ソーカが慌てて止めようとするも、既に手遅れだった。

 

『うぎゃあ!』

 

 ミョルマイルの叫び声が会場内に木霊(こだま)し、流れ出る血を止めようと腕の傷口を押さえる。

 

 痛みの軽減効果でショック死などはしないが、それでも自分の腕を切り落とされて気分がいいハズもないだろう。

 

「ハハハハハッ! そらそらそら、ワハハハハッ! そろそろ、トドメをくれてやろうか!!」

 

 直ぐには死なないよう、致命傷を避けるように剣で斬りつけるガイ。

 

「あの野郎、ミョルマイルを(もてあそ)びやがって……」

 

 思わず漏れ出たリムルの声。

 

 貴賓室にいるリムルの幹部達の雰囲気が一変した。

 

 特にシオンは、仁王立ちで腕を組み、完全に目を吊り上がらせていた。

 

 ディアブロもまた、その笑みを、より深いものへと変えていく。

 

 そしてそこへ。

 

「リムル。ロモコ達なら、いつでも動けるで?」

 

 と、コハクが冷え切るような笑みで、静かに言葉を投げかけて来た。

 これは、いつでも一切の痕跡も証拠も死体も残さずに始末するというコハクの、暗殺依頼をいつでも寄越せという意思表示である。

 

 ブチキレかけていたリムルが口を開こうとした時、あるモノを見て、「うん、それ保留」とだけ言い、コハクは「さよか」とだけ返した。

 

 

 そう、リムルが見たモノは、口元に笑みを浮かべているミョルマイルの顔だった。

 

 ミョルマイルは斬りつけられながらも、この事態を宣伝に利用すべく、敢えてされるがままでいたのが見て取れたのだ。

 

 それを見た途端、スッと冷静になったリムル。 

 

 と同時に、ガイの剣閃が走り、ミョルマイルの首を()ねた。

 

 地面に落ちゴロリと転がるミョルマイルの首は、パッと身体と一緒に光の粒子となりその場から消滅した。

 

 

 そして何事もなかったかの如く、地上部分である舞台中央の仮設入り口の横へ出現したのである。

 

 

 ミョルマイルが身に着けていた衣類も、全て光の粒子に変換再構成され、本人と同様に復活した。

 

 

 その様子は、アルファ達が持つ、魔法映像通信装置に記録され、その情報が巨大スクリーンの映像装置に転送され映し出される。

 

『皆様方、ほれこのように、ワシは五体満足ですぞ!』

 

 まるで何事もなかったように両手を軽く回し、にこやかに立つミョルマイル。

 切断された腕も元通りである。

 

 これ以上はない、パフォーマンスであった。

 

『おおおおっ――ッ!!』

 

 凄まじい大歓声が、観客達から上がる。

 狙いは大成功であると、言えよう。

 

 これは皮肉にも、ガイの過剰なまでの攻撃が、かえって皆を信じさせる結果となったのだ。

 

 これでも疑いを持つ者は、実際にその効果を自身で試してもらうしかない。

 

 〝復活の腕輪〟は、あくまでも保険なので、死ななければいいだけの話。

 

 だから後は、迷宮に挑戦した冒険者の口から広がるのを待てばいいのである。

 

 そしてその目論見は、ミョルマイルのお陰で達成出来たといえよう。

 

 

 ◆◆◆

 

 

『さあ、地下迷宮(ダンジョン)の探索が開始されました! これより先には、未知の世界が広がっております。さてさて、勇気ある冒険者を待ち受けるのは、果たして――』

 

 早速ソーカが、実況を開始していた。

 

 巨大スクリーンには、各パーティの様子が映し出される。

 

 その映像を観客達は、ザワザワとしながらも静かに見守っていた。

 

 

 ()ず目に付いたのは、バッソンのパーティだ。

 

 理路整然とした、石造り風に仕立てられた壁の一階層の道を進むバッソン達。

 道の幅は五メートル、天井までの高さは十メートル以上はあった。

 

 見たところ、誰一人として壁にマーキングをしたり、地図を用意しようとしていない。

 それどころか、談笑しながら堂々と通路を歩いていたのだ。

 

「チッ、何だこれは、同じような道が続きやがって! はあっ!? またか、四つ角ばかりじゃねーか!」

「旦那、ここ、さっきも通った道じゃないですか?」

「バッソン、不味いぞ! この迷宮とやら、思った以上に広い……」

 

 バッソンパーティ、早速迷ってしまう。

 

(だから、最初に広いって説明したじゃん。多分、円形闘技場(コロッセオ)の地下にある人造物だと聞けば、勘違いもするかもなぁ)

 

 リムルはジト目になりながら、内心そう呟く。

 

 

 そんなバッソン達の仲間の一人が、悲劇に見舞われる。

 

 先頭を歩いていた者が、突如として右足だけが落とし穴に()ってしまい、膝上まで穴に落ちていたのだ。

 

「ぎゃああああっ!」

 

 絶叫が響き渡る。

 

 ゴメスが駆け寄り、仲間を引き上げようとすると。

 

「やめっ! やめろ、足があ、足があああああーーーーッ!!」

 

 悲鳴を上げ、助け上げられるのを拒む仲間。

 

『お、おおーーーーっと!? これは、落とし穴でしょうか?』

 

 ソーカの実況が飛ぶ。

 

 そこへ。

 

「どうした!?」

 

 バッソンがいそいで駆け寄り、落とし穴に嵌った仲間の足を見ると。

 

(なん)だ、この、罠は……」

 

 そう言い、絶句した。

 

 四方四十センチの落とし穴に落ちた仲間の右足は膝までずっぽりと嵌り、足を引き抜こうとしても、下斜めに向いた無数の剣山にも似た、直径一センチほどの魔木で作った丸い(くい)が足を刺し貫き返しになっていて、それを拒んでいたのだ。

 

 巨大スクリーンに映し出されたそれを見て、観客達から「えげつなぁー」と声が上がる。

 

(はあ? 一階層からあんな罠なんてあったか? 俺、仕掛けた覚えないんだけど。 しかもアレ、なんちゅうエグさなんだよ……)

 

 リムルもドン引きするほどであり、罠に関して疑問に思う。

 

「ラミリス――」

「え、なに、うん。何でありましょうか?」

「――いや、俺が設定した階層なんだけどさ、まさかとは思うけど、勝手に(いじ)ったりしていないよな?」

 

 リムルはニッコリ笑顔で、ラミリスが怯えないよう、さりとて逃げられないようにラミリスの身体を優しく鷲掴みにして、その疑問をラミリスに投げかけた。

 

「じ、実はでありますね、我々は迷宮の完成度を高めたいと思いまして、その、あの……」

 

 ラミリスが愛想笑いを浮かべながら、リムルに申告する。

 

 リムルが問いつめると、かなりの数の落とし穴を設置しまくったと白状した。

 

「バカヤロウ!」

 

 流石のリムルもラミリスに怒鳴り、それを聞いたツキハ壱の尻尾がビクンと跳ねる。

 

「あのねえ、広い階層には落とし穴なんて不要なんだよ。迷わせて体力を奪うのが目的なんだから。しかも一階層からあの落とし穴って。しかもアレ、何気(なにげ)にエゲツないし、流石にしょっぱなから初見殺し過ぎるんだよ」

「で、でもでも、下層にはもっと凶悪な落とし穴があったじゃん? 主にリムルとツキハが考えたヤツだけど。でね、リムルが設置し忘れたのかな~って思ってさ、親切心なんだよホント? だからね、ツキハが嬉々として落とし穴を設置したであります」

 

 ラミリスがツキハの名前を出した途端、「ミギャッ」と猫の泣く声が聞こえて来た。

 

 ツキハ壱が黒魔猫形態に変幻(へんげ)して、この場から逃げようとしたところを、電光石火の如くコハクに首根っこを掴まれ捕獲されたのだ。

 

 コハクの左手にプラーンとぶら下がり、プラプラと揺れる黒魔猫、ツキハ壱。

 

(う~ん……。ラミリス、ヴェルドラ、ツキハ、ミリム、この四人に任せていたら、そんな無茶な罠を仕掛けるとは思っていた、主にツキハが。ツキハの罠っていうか、落とし穴は、中々にエゲツないんだよなぁ。何か、人間の忍だった頃の忍びの里に、侵入者防止の罠を作って遊んでいたと言っていたものな。まったく、どういう思考してるんだと、俺は言いたい、よ。だから最初の方だけ自分の手で仕上げたというのに……)

 

 リムルがそう思っていると。

 

 バッソン達が、落とし穴に嵌った仲間をどうやって助けるか残りの者がその場に集まったその時――

 

 ガシャッ ザグッ!

 

 何かが動く金属音が響くと、落とし穴の周囲三メートル四方に、地面から縦横に整然と並んだ槍が飛び出して来て、バッソン達を纏めて串刺しにした。

 

「「あっ」」

 

 それを見たリムルとラミリスは、小さく声を上げる。

 

 ポヒューッと全員が光の粒子となり、と地上へと戻って行った。

 

 ツキハの仕掛けた落とし穴は、落とし穴が囮で、助けようと集まった仲間を一網打尽にする罠だったのだ。

 

 バッソンパーティ、敢え無く全滅。

 

 魔猫のまま口に前足を当て、ニャニャッと喜ぶツキハ壱であった。

 

 

 とりあえずバッソン達は全滅したので、また迷宮に再突入するだろうから、そこでリムルは別のパーティにも目を向けてみる。

 

 

 エレン一行。

 

 カバルがリーダーなのだが、今はエレンが取り仕切っていた。

 

 エレン達は、基本方向音痴である。

 だからリムルは、一階層の突破も難しいだろうと、そう考えていた。

 

 だがしかし、リムルの予想は半分当たって半分は間違いだった。

 

 エレン達は落とし穴に嵌る事もなく、慎重に攻略を進めていた。

 

 しかも驚きな事に、紙に知り得た情報を書き込むという、迷宮攻略のお手本を遵守(じゅんしゅ)していたのだ。

 

「おっ? エレン達は真面目だな。ツキハが仕掛けた罠にも引っかかっていないし、俺の罠も回避してるじゃないか。珍しく慎重に進んでるなぁ。まあ、ツキハの罠に嵌ったら、エラルド公爵が激怒というか、ツキハに恐ろしいペナルティを掛けかけないかもな。で、ツキハも逆ギレして、収拾が付かなくなる未来が見える……。ん? っていうか、もう三つ目の宝箱ゲットかぁ。うーん、でも(なに)か、えらく順調すぎないか?」

「――エヘヘ」

「――ニャア」

 

(何だ? 何かオカシイ、ぞ? んんんん? 何であんなに順調なんだ。今さ、あの二人、誤魔化すように笑わなかった、か?)

 

 リムル、何か不審な事をラミリスとツキハ壱に感じる。

 

「……おい、ラミリス」

「な、何でありましょうか?」

「俺はお前を信用している。そして、ツキハ壱、お前の事もな。お前達なら、俺に隠し事はしないよな?」

「も、勿論だよリムル。ね、ねえツキハ」

「ニャアァ」

 

 しどろもどろになりながら答えるラミリス。

 あくまで猫に徹するツキハ。

 

 そこでリムルは、ラミリスに真相を問い(ただ)す事にした。

 

「じゃあ聞くけど。お前もしかして、エレン達に何か言った?」

 

 スクリーンで見る限りには、どこも怪しい点はなかったのだが、普段のエレン達の行動を知ってるが故に、リムルにはどうにも怪しく見えていたのだ。

 

 リムルが設置した宝箱は、、当たり前だがハズレの比率が高い。

 

 それなのに、エレン達は三回連続で宝箱をゲットしていた。

 

 だからリムルは、そこに怪しい匂いをプンプンと感じ取っていたのだ。

 

「おい、正直に白状しな」

「じ、実はでありますね……」

 

(またそれかよ)

 

「何をしたんだ?」

「あ、はい――」

 

 そこでラミリスは、ぐるっと視線をツキハ壱に向けると。

 

 ツキハ壱は、コハクの膝の上でゴロゴロと喉を鳴らしていた。

 

 しかし、この喉ゴロゴロは、決して機嫌が良い訳ではないのだ。

 

 猫は一般的に、この世界でも異世界に存在する猫も機嫌が良い時や嬉しい時に喉を鳴らす。

 だが一方で、不機嫌な時や何か嫌な事があって落ち着かない時に、気分を落ち着かせる為に喉をゴロゴロと鳴らしたりもするのだ。 

 

 よって今の魔猫形態のツキハ壱は、コハクに捕獲されたまま、強制的に膝上で抱っこされているので、超絶不機嫌なのだ。そうは言っても、本当に逃げたかったら人型に戻ればいい話なのだが、コハクに「逃げたら、今晩裸抱き枕の刑やでぇ」と脅されていて、それもままならない黒魔猫のツキハ壱だった。

 

(なっ!? 魔猫になったまま何してんのよさ! ズルい、ツキハぁーーーーッ!!)

 

 そうとも知らず、心の内で雄叫びを上げるラミリス。

 

 そして、ラミリスは観念して。

 

「え、えとですね。エレンちゃん達がアタシ達に差し入れを持ってきてくれまして、そこで和やかに話が弾んだであります! それからツキハは、年代物のワインをエレンちゃんから貰ったであります!」

「ニャッ!? ――」

 

 ………………。

 

 聞けば聞くほど、リムルにとって頭の痛い話であった。

 

 ラミリス達が迷宮作製を頑張っているところに、エレンが大量のケーキと、かなり年代物のワインを何本か差し入れてくれたのだと。

 

(吉田さんが試作作成したケーキだもの。そりゃあ美味しいだろうさ。年代物のワイン? さぞかし美味かっただろう。しかし、年代物のワインかぁ、マジ美味かったろうな……)

 

 リムル、もはや内心で呆れ果てていくも、ちょっぴり本音が漏れる。

 

 で、そうしてる内に樹妖精達(ドライアド)とも仲良くなったエレンは、一人一人から少しずつ、迷宮に関する情報を聞き出していったのだという。

 

 ラミリスも途中でそれに気付いたが、そこはケーキの魔力には(あらが)えなかったと言い、ツキハに関しては、流石に自分の仕掛けた凶悪な罠にエレンが()るのは、躊躇(ちゅうちょ)したのではないかと、激怒したエラルド公爵より、怒ったエル(ねえ)が怖いと言っていたと、少しだけフォローを入れる……。

 

「だって仕方ないじゃん! アタシだけじゃなく、師匠もツキハもミリムも問題ないって言ってたもん!!」

 

 とうとう逆切れして、ラミリスは自分の正当性を主張し始めてしまう。

 

 完全な買収行為に、腐敗とはこうも早くも進むのかと、リムルは呆れてしまうが、ふと、ちょっと待てよと思う。

 

(うーむ、よくよく考えてみれば、その手口に一番詳しい者がこんな簡単に引っかかるものかねぇ……。いや、ツキハは知っててこの買収を受けたな、間違いない。アイツ、年代物のワインを見て、それを飲みたさに乗った、と。まあ、アイツが仕掛けた罠はアレだからなぁ。でも、不正はいけない、いけない、が……っていうか、そんなもんを上階層に仕掛けんな、という事にもなる。はあーっ……祭りの日の開放だから、設定も甘めにしてはあるし。所詮は一階層だ。本当に役立つアイテムは、この階層には置いてないからな。とにかく、祭りが終わったらアイツ()と、しっかり〝お話し〟をせねばなるまい)

 

 色々と思うところがあるリムルだが、とりあえずは祭りが終わってからだと、気分を切り替えた。

 

 

『カバルパーティは、先ほどから上手く宝箱を探し出していますね』

『そうですな。リムル陛下から聞いた話では、小部屋などには宝箱が設置されている場合があるそうです。中には罠もあるので、注意が必要との事でしたぞ。もっとも、通路にあのような凶悪な罠があるとは、ワシも思ってもいませんでしたな』

『そうなんですよね~! 流石にあの罠はビックリしましたねえ。あの罠を考えたのは、絶対リムル様ではないですね! あの落とし穴を考えたのは、一体誰なんでしょうか? ……と、話が()れてしまいましたね。それで話を戻しますけども、あの中には貴重なアイテムなんかも入っていたりするんでしょうか?』

『深い階層では、そういう品もあるようですな。えーと、そう言えば――』

 

 ここでミョルマイルは、リムルから渡されていたメモを見ながら宝箱の説明に入る。

 

 先ず、宝箱の種類は、銅、銀、金の、三種類が存在すると。

 

 罠があるのは、銅のみ。

 

 従って、一階層に出現するのは銅の宝箱のみ。

 

 銅の宝箱には、最高でも特上級(スペシャル)しか入っておらず、大半はポーションや銀貨などの便利用品しかない。

 

 他には、クロベエの弟子が打った失敗作である、一般級(ノーマル)の武具のみ。

 

 そう、上階層ではそんなに良い武具やアイテムは出ないのだ。

 

 と、説明を続けるミョルマイル。

 

『ほおー、そうなんですかあ。やはり金色の宝箱が狙い目なんですかね?』

『そうですな。えーと、金色の宝箱の出現場所ですが、十の倍数階層のボス部屋と、なっておりますな』

『それはどういう意味なんでしょうか?』

『はい。皆様もご存じの通り、この地下迷宮(ダンジョン)は、五十階層の守護者としてゴズール殿が就任しました。それと同様に、四十、三十、二十、十という十の倍数階層には、階層守護者(ボスモンスター)が階段前の部屋を守っておるのです。そんな難敵を倒せた者にこそ、金箱は相応しいでしょう。しかも、その中身からは何と、希少級(レア)の武具も出現するらしいですぞ!』

 

 ミョルマイルは、リムルのメモを読みながら自分なりの味付けをして力説する。

 

 宣伝目的なのでこういう時は遠慮はいらないと、リムルの談である。

 

 まるで深夜番組の通販の宣伝で良く目にする、胡散臭い言葉。

 清々しいまでの欲望を刺激する、文句の数々。

 

 その効果は絶大であったようで、希少級(レア)の武具という言葉に会場は大きくどよめいていた。

 

『確かに、ゴズールさんの強さは皆様が目にした通りですね。あの強者が挑戦者を待ち受けるとは、何ともスリルと冒険に満ちた迷宮ですね! 我こそは豪傑と自負する強者(つわもの)の方は、是非とも挑んでもらいたいものです!』

『それともう一つ。今御覧になっておられる通り、一つ一つの階層はとても広く、しかも下の階層に行けば行くほど罠や徘徊するモンスターも過激さを増します。それ故に、攻略には何日もかかるのを覚悟してもらいたいとの事ですな』

 

 と、そんな感じにソーカの問いかけに答えるミョルマイルであった。

 

 そんな訳で、一階層に出現する宝箱は、銅のみである。

 

 

 そしてリムルはというと――

 

「二人に聞く。宝箱の中身までは弄ってないだろうな?」

「それは大丈夫であります! ね、ツキハ!」

「ニャアアッ!」

 

(ならば良し。しかしツキハ壱は、いつまで猫やってんだよ。最近都合が悪くなると、小首を(かし)げて誤魔化すどころか、魔猫化しやがりますよ。まったくもう、だ。まあエレン達は、あれくらいなら祭りの期間中だし、な――)

 

 リムルは、魔猫化したままニャアとしか言わないツキハに半ば呆れながらも、エレン達のズルは気にはなるものの、そのくらいなら報酬として渡しても良いだろうと考えた。

 

(色々と反則過ぎるけど、今回はおめこぼしするとしよう)

 

 ここでエレン達の事は良いとして、次にリムルが意識を向けた先は――

 

(俺が情報を流したマサユキ達は……)

 

 

『おおーーーっと、これは凄い。何と、何とぉ、マサユキパーティはもう四階層目に突入したァ――ッ!! 流石は〝閃光〟と呼ばれるだけあって、凄まじい速度で各階層を攻略していますね』

 

(はああっ!? 何でだよ? まだ開始して三十分少々だぞ。何でもう四階層にいるんだよ!? )

 

 そう、マサユキ達は狙ったように直下の階層にダイレクトに繋がる落とし穴を探し踏み抜き、楽々と下層へと向かっていたのだ。

 

 観客達の歓声が上がる。

 

『マ~サッユキ、マ~~サッユキ――ッ!!』

 

(あ、はい。何だか、もうね……)

 

 バッソン達が罠に嵌った時は笑い驚きの声を上げていた観客達も、マサユキの場合は称賛の声に変わっていた。

 

 理不尽極まりないが、それがマサユキの力である。

 

(今頃マサユキは多分、もらった情報が当てにならないと怒っているんだろうな……。でもね、いやホントにスマン、それ俺のせいじゃないんだ、けど……。その凶悪な罠はね、ツキハ壱、ってかツキハが仕掛けたんだよ。うん、あれだ、何を言ってもいい訳にしかなるまい。後でしっかり〝お話し〟をツキハにしておくから、勘弁な……)

 

 不確定要素の塊となった渡した地図に心許ないだろうが、頑張ってくれと祈るしかないリムルであった。

 

 

 そんな思いをよそに、マサユキ達の快進撃は続く。

 

 

 

 





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