忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。192話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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192話 地下迷宮のお披露目・攻略後編

 

 

 各パーティの活躍や全滅に沸く会場。

 

 

 マサユキ達の快進撃が続く中、リムルは最後の一人、ガイに目を向けてみる。

 

 

 ガイは、その高い身体能力を活かして迷宮内を疾走していた。

 

 ガイの随伴にはデルタが付いており、ガイの速さに遅れないよう飛翔して追随する。

 

 デルタは半精神生命体なので、迷宮内の草木を目印にして『転移』出来るのだが、それをやると、その間だけ画像が途切れる事となる為、空中を飛んで追いかけていたのだ。

 

 ガイは、異常なスピードで迷宮を駆け抜けて()く。

 

 それはまるで、魔法か何かで位置情報を把握しているかのようだった。

 

 

(それにしても、早過ぎじゃないか?)

 

 リムルがそれを訝しげに見ていると。

 

《解。元素魔法:地図作成(オートマッピング)の効果です》

 

 そう『智慧之王(ラファエル)』がリムルに答えて来た。

 

(なるほど。地図がなくとも、そういう方法があったな。以前に『大賢者』が行ってくれたような、脳内に位置情報を表示する魔法だったか。剣だけではなく、魔法も使えるとはねえ。ゴブタとの試合の時は実力を発揮出来なかったと、いう事なんだろうな。まあ、あれじゃ仕方ないんだけどねえ……)

 

 と、そんなガイを見ながらフューズから聞いたガイの事を思い出す。

 

 フューズが言うには、冒険者の中でも数少ないAランク冒険者だとの事。

 

(Aランク冒険者、納得の動きだわ、あれは) 

 

 今現在ガイは、二階層目を移動中であるが、もう間もなく三階層へと続く階段へと辿り着く。

 

 この勢いだと、後二時間強で五階層へと辿り着く事となる。

 

 リムルの予想よりかなり速いペースであった。

 

(しかし、あれって気になるよなぁ。あのガイの尋常じゃない目の輝き……それに、口元を大きく(ゆが)めて、目を血走らせているあの姿は、(なん)なんだ……)

 

 説明がきかないガイの行動に、内心で疑問を抱くリムル。

 

 三階層に到着したガイは、そのスピードを落とさずに進む。

 しかし、二階層とは違い小部屋は無視せずに宝箱の有無を確認し始めていた。

 

(うーむ……三階層では宝箱を探している……? いや違うな。あれはどうみても、そこに宝箱があるといった確信で部屋の扉を開けている。それも、狙ったように銀箱ばかり……あの行動には迷いがない) 

 

「アイツ……一体どういう方法で?」

 

 思わずぼやきが口をついて出るリムル。

 

《……》

 

 『智慧之王(ラファエル)』からも回答の言葉はなかったので、恐らく推測が付かなかったとみえる。

 

 そこへ。

 

「何だか、あのガイってヤツ、すっごい欲望に染まっている感じだね。まるで、お金の匂いを嗅ぎつけたツキハみたいな?」

「うっさい!」

 

 ラミリスが漠然とした感じでそう言うと、いつの間にか魔猫から猫種魔人の姿に戻ったツキハ壱が、二人掛けソファーの左の肘掛けに左腕をつき、頬杖(ほおづえ)の状態で言い放つ。

 

「あれさぁ、欲望という、(なに)か……う~ん、欲望に支配、? いや、別の何かの匂いがプンプン漂ってるわ。あの男、完全に欲望に喰われているよ」

 

 いつものどこかめんどくさそうな口調で言う、ツキハ壱。

 

 それにリムルが。

 

「なあ、それって、どういう意味なんだ?」

「リムル。ツキハはな、能力(スキル)や魔法ではなく、自分で感じた感覚を匂いと言うんやで。どんなに隠しても、ツキハはそれを〝嗅ぎ当てる〟んよ。まあ、勘みたいなもんやけどな。絶対とは言わんけども、かなりの確率で〝嗅ぎ当てる〟で。例えば、殺気や殺意を隠した暗殺者などやな。殺気は相手に向けるもんや、そして殺意は、内に秘めたるものや。よく()うやろ、アイツは血の匂いがするとか。あれは本当に血の匂いがするんやなくて、人などをぎょうさん殺した者などは、身に纏う雰囲気が違うんや」

 

 そう言いながらコハクは、『空間収納』から〝酒樽君〟を取り出すと、中の酒を美味しそうに一口飲む。

 

 そして、話を続けて行く。

 

「でな、それを匂いというもんに置き換えて表現しているんやで。それにな、剣などは人や魔物を斬り過ぎると、本当に血で刃が(くも)るし匂いもする。年月が経てば匂いはせえへんけど、刃についた血曇(ちくも)りは残りるんや。まあぶっちゃけ、その感覚は人それぞれなんやけども」

「へえ~、そういう解釈もあるんだなあ。それに、日本刀などの古刀などには、大昔に大勢斬った時についた血が、血曇りになって残ってるらしいな。そう言えば、三人も斬ったら血脂(ちあぶら)で切れなくなるんだっけ?」

「それは違うで、リムル。斬る時の刃筋さえ間違わなかったら、何人でも斬れるで」

「え? それ本当?」

「せや。元々刀は油を塗って保管するやろ。だからな、血脂がいくらつこうが、達人が斬れば刃筋が正確やから、問題はないんやで。ツキハも人間の忍びの頃は、戦場(いくさば)で何人も斬ったどすえ。まああれやな、人を斬るんは、戦場(いくさば)では鎧を着てる者もいるさかい、その時に硬い部分に当たって刃こぼれしたり、服の上からでも懐とかに硬いものを入れたりしてて、それに当たって刃こぼれしたりすれば、徐々に切れ味は落ちますけどな。うちもそうやったんやで。ちなみに、人を斬った後はちゃんと手入れをせなアカン。血の塩気で、一晩で赤錆(あかさび)()に浮くさかい」

 

 と話ながら、コハクはツキハの太ももを撫でようとして、ツキハの尻尾で手を(はた)かれていた。

 

 リムルは敢えてそれをスルーして、コハクの話に耳を傾ける。

 

「でもな、こっちの世界の剣、特質級(ユニーク)伝説級(レジェンド)等は、その(たぐい)に入らへんねん。どんなものを斬ろうが刃こぼれ一つせん剣もあるし、その刃こぼれさえも、自己修復する剣もあるさかいに。現に、ツキハの妖刀時雨(しぐれ)は、何を斬ろうが刃こぼれどころか、刀身に傷一つ付きまへんからな。あるとすれば、雑多な妖気(オーラ)や魂の残滓(ざんし)の汚れと言うか、それが血曇(ちくも)りとなるくらいやろか」

「ほおお。何か実際に戦場で人を斬った者が言うと、妙に説得力があるなぁ、と、スマンスマン。途中から話を()らしてしまったな」

「かまへんで。うちも、余計な事言い過ぎてしもたねん」

 

 リムルの問いにツキハ壱の代わりにコハクが答える。

 途中、話が脱線しかけるも、リムルがそれに謝罪しコハクが笑顔で返す。

 

「でも、やっぱりアイツ、どこか普通とは違うよな……」

 

 それにリムルが小さく呟くも、ツキハ壱はガイを見たまま、小さくニヤリと怖気(おぞけ)が来るような笑みを浮かべていた。

 

 そんなガイの攻略は、貧欲に進んでいった。

 

 

 やがて、迷宮開放から二時間が経過する。

 

 

 そして、バッソン達がようやく隠し部屋を発見した。

 

「バッソンさん! えーと、ここにも部屋がありましたぜ?」

「チッ、また罠じゃねーのか?」

 

 疑わしそうにバッソンが吐き捨てる。

 

 今まで彼等は、ツキハの仕掛けた落とし穴や、リムルの仕掛けた麻痺毒や睡眠ガス入りの宝箱に散々痛めつけられていたのだ。

 

 それ故に、隠し部屋や宝箱などを見ると、懐疑心の塊になっていた、いや成らざるを得なかったとも言える。

 

 特にツキハの仕掛けた落とし穴の一つは、一見みると普通の石畳だが、通路真ん中に横二メートル縦三メートルの、落とし穴に偽装されている石畳に見せた(ふた)は、百八十度回転式になっており。

 

 そこに獲物が落ちると、(ふた)が半回転してまた通路の石畳となるようになっていた。

 

 深さ五メートルで落ちた先には長さ二メートル、太さ一センチの剣山の山が待ち受けていて、串刺しの即死コースである。

 

 この落とし穴が最悪なのは、落とし穴の(ふた)が一瞬でひっくり返り、再び通路に偽装するところであり。もし落ちた者を見ていなければ、また次の者が落ちるといった仕組みだからである。

 

 更に、胸辺りまで落ちる真四角の落とし穴は、落とし穴の真ん中に半分に割れる落とし(ふた)があり、その半分割れ落ちる蓋の両端には、対になる六本の先端が鋭利な魔木の丸い(くい)が付けられていて、蓋が半分に落ちた同時にその杭が落ちた者の腰辺りを左右から挟み込むように貫く仕組みなのだ。

 

 どれもこれも、ツキハが人間の忍びの頃に、里に侵入しようとする者共を確実に仕留める為に仕掛けていた罠であり、他にも里の者が考案したえげつない罠の数々があるが、これはその中の一つに過ぎない。

 

 これを最上階層に仕掛けたものだから、リムルから散々説教される事になるのは仕方のない事である。

 

「なあ、ラミリス。あの部屋の宝箱はなんだったっけ? このままじゃあ、ちゃんとした宣伝にならないし、ちょっとアイツ等が可哀そうに思えて来たわ。そろそろ何か良いアイテムを引いて欲しいところなんだが……」

「だ、大丈夫。でも、あの挑戦者は酷すぎよね。あと、ツキハの罠も」

「うっさい。アンタもこの落とし穴最高じゃんって、喜んでたよね? 言ったよね?」

「ラミリス」

「うっ……ま、まあ。あれよ、あれ、今はそれを置いといて。でね、アタシが言うのも何だけど、ここまで無鉄砲なのは想定外だったわよ。でもね、あの部屋には、魔物一匹と銀箱があるのよさ。中身までは覚えてないけど、今度こそ当たりで間違いなし!」

「そうか。なら大丈夫だ」

 

 バッソン達があまりにもハズレを連発するものなので、リムルとしては流石に申し訳ない気分になり、このままではリピーターにもなってくれそうにもない雰囲気だったので、つい出た言葉だった。

 

 

「うおっ! やはり罠だぜ、魔物がいやがった!」

「チッ、一旦引くか?」

「無理だバッソン。アイツ、俺達を獲物として補足しちまってらあ!」

巨大熊(ジャイアントベア)かよ! 確かに、逃げるのはきつそうだ……」

 

 一気に緊張が走るバッソンパーティの面々。

 

(んん? 魔物が一匹いただけで、そんなに焦るか? あの魔物って、せいぜいCランクなんだけど? バッソン達って、Bランク相当のパーティだよな。あの魔物なら、余裕で倒せるだろ。そんなに焦る必要があるのかな)

 

 リムルは、警戒するバッソン達を見て、そんな事をふと思う。

 

 そして、バッソン達は六名は戦う覚悟を決めた。

 

「いいか、お前等。俺が囮になるから、その隙を狙え!」

 

 バッソンはリーダーらしく前衛として、部屋に飛び込むなり、大声で吠えて巨大熊(ジャイアントベア)の注意を自分に向けた。

 

 戦闘開始。

 

 バッソンは前に出て、巨大熊(ジャイアントベア)の攻撃を受ける。

 盾で巨大熊(ジャイアントベア)の爪を受け止め、ブロードソードを振るう。

 

 バッソンの装備は、使い古された硬革鎧(ハードレザーアーマー)である。

 

 全身は覆っておらず、腕や脇腹などは防護されてはいない。

 

 もしそこに爪の攻撃が当たる、もしくは(かす)れば致命傷は(まぬが)れないだろう。

 

『おおっと、バッソンパーティは魔物と戦闘を開始するようです! 相手は、巨大熊(ジャイアントベア)でしょうか? 油断は出来ませんね。あの巨大な爪を振るう一撃は、容易(たやす)く人の命を奪う、即死級の攻撃といいます――』

 

 ソーカの説明を聞いたリムルは、自分の思い違いに気が付いた。

 

(ああ、そうだ。これは、ゲームじゃないんだ。ゲームみたいなリアルな実戦だった。迷宮内では、死なないというだけの。あれでもバッソン達は、プロの冒険者だ。Cランクの魔物だろうと、油断していたら死ぬという事を知っている。利益にならない魔物討伐など避けるのは当然なんだ。ツキハとコハクが、前に言っていたな。格下だろうと格上だろうと、そこに区別はない。敵となれば、全力で()りにいく、と。油断をしたら、そこにあるのは、死だと、も……。死なないから大丈夫と言っても、それが浸透するまで時間がかかりそうかも。う~ん……これは、この迷宮の宣伝を見直す必要があるかも知れないな……)

 

 リムルがそんな事を考えていると、バッソン達の戦闘が終了していた。

 

『たった今、巨大熊(ジャイアントベア)との死闘に幕が下りました! バッソンパーティの勝利です! とても見事な戦いぶりでしたね!』

『その通りですな。冒険者のセオリー通り深追いはせず、確実に仕留める。ベテランらしい戦いぶりでしたわい』

 

 ソーカとミョルマイルが、バッソン達の戦いを称える。

 

 そしてバッソン達は、宝箱へと近づいて行った。

 

(おいおい、そんな不用心に近づいていいのかよ。まあ、その宝箱には罠は仕掛けてはないんだけど。もっと、注意しようよ)

 

 罠にさんざんやられて来たバッソン達なのに、魔物に勝った喜びが注意を()いだのかはわからないが、躊躇なく宝箱に近づくのを見てリムルは何ともいえない気分で思った。

 

 

 宝箱を開けるバッソンの仲間の一人。

 

 して、その中身は?

 

 ……

 

「お、おおおおっ!! バッソンさん、剣だ! しかも、グレートソードですぜ!!」

 

(良し。上手く当たりを引いてくれたな)

 

 リムル安堵の言葉を心の内で漏らす。

 

 当たりにも色々あった。

 高級なポーションから始まり、古代金貨に質の良い武具などがあり、二階層からは超低確率で希少級(レア)も出る設定だった。

 

 そして、まさにバッソン達が引き当てたのが、希少級(レア)の剣である。

 

 グレートソードを仲間がバッソンに手渡すと、それを軽くブンブンと振り回すバッソン。

 

「おおッ! これは良いな。自重軽減の魔法が付与されているのか? 適度な重さで良く手に馴染(なじ)むじゃねえか。この剣、至高の逸品だぜ!!」

 

 バッソンが手に入れたグレートソード。

 それは、クロベエの弟子が打った一品で、かろうじて希少級(レア)に相当する一品だ。

 自重軽減は、教授が組んだ術式の刻印魔法が(ほどこ)されていただけである。

 

 それでもバッソンにとっては、名剣扱いになるようだ。

 

 ガイもそうなのだが、Aランクの上位者といえども、希少級(レア)の装備を揃えるのは困難なのだ。

 何しろ、希少級(レア)の武具でさえ、金貨十数枚の価値があるのだから。

 

 だから熟練の冒険者といえど、使い慣れた武具を手入れし、大切に使うのだ。

 日々の生活の(かて)と武具の修理などに、自由組合の依頼で得た報酬は消えていくのだから。

 

 普通の武具なら(まかな)えるが、希少級(レア)などの武具は、それこそAランク級の魔物の討伐依頼を何件か繰り返して、やっと一つ買えるかといったところなのだ。

 

 冒険者にとっては、まさに命と引き換えといっても過言ではないだろう。

 

 だから以前ツキハが、傭兵家業の男の特質級(ユニーク)の剣を妖刀時雨(しぐれ)で両断した時に、男が激昂したのはそういう訳である。

 

 ならば、その希少級(レア)の武具が出たと、この迷宮の事実が世界に広まればどうなるか?

 

 それは容易に想像がつくというものである。

 

 そして、何よりも稼ぎになるのが、魔物からドロップする〝魔晶石〟。

 これを、自由組合に納めれば、かなりのお金になるのだ。

 

 勿論、魔物の部類の魔獣の毛皮や爪に牙、骨といった部位も、素材として自由組合が買い取ってくれるのである。しかし、これに関しては魔獣の解体技術が必要で、それ専門の冒険者の随伴が必要となる。 

 

 素人が解体すると、素材に傷が付いたり、乱雑な解体で素材の価値が著しく低下するからだ。

 

「こいついい。これなら黒字間違いなし、思った以上に稼げそうだな!」

「ああ、確かにな。この迷宮が一般開放されたなら、是非とも通わせてもらうとしようや!」

「バッソン。巨大熊(ジャイアントベア)の解体はどうする?」

「今回は、解体屋を連れて来てはいない。素材は諦めるしかないな」

「そうだな。次は解体専門の冒険者も連れて来るとしようぜ」

「ああ、そうしよう。良し、皆行くぞ!」

「「「「「オオッ!!」」」」」

 

 こうして、バッソン達の攻略は続く。

 

 

 かたや、エレン達の攻略は――

 

 順調過ぎるほどに一階層の宝箱を漁っていた。

 

 だが、ここに来て急に動きが変化する。

 

「そろそろいいわねぇ?」

「ホントにに行くんですかい?」

「あのう……俺の意見は……?」

「ないわよぉ。それじゃあ行くわよぉ! 目指せ大物――ッ!!」

 

 哀れ、カバルの意見は無視され、エレンパーティは下層を目指し始めた。

 残り一時間弱、最後の勝負に出たエレンである。

 

 今まで一階層で粘っていたのは、ポーション類を集めるのが目的だったようだ。

 

 そうそれは、まるで何かを狙っているかの如く。

 

『おっと、カバルパーティに動きがあった模様です。何やら丁寧な攻略から一転、これは、一気に下層を目指すようですね』

『そうですなあ。これは、より良い宝箱を狙っての作戦とみるべきでしょうかな?』

『先ほどのバッソンパーティのように、銀箱から希少級(レア)が出るのを狙ってでしょうか?』

『うーむ、それは狙って出せるものではないですぞ。ガイ殿など、かれこれ二十個以上の銀箱を開けておりますが、未だに希少級(レア)はゼロですぞ』

『なるほどぉ。ならば、確実に希少級(レア)を狙うなら、金箱しかないと?』

『左様。ですが、金箱の出現位置は定位置にあるボスの部屋か、もしくは……』

『もしかして、他にもあるんですか?』

『うーん……領域の主(エリアボス)という、ランダムで出現するボスもいるみたいですな。そういう魔物が守る部屋にも金箱が出現する場合もあるようです』

 

 そんなソーカとミョルマイルの会話を聞いていたリムルは、エレンの目的に気付く。

 

「おい、ラミリス」

「え、はい」

「お前が流した情報には、領域の主(エリアボス)の出現位置も含まれているのか?」

「え、えっとですね……」

 

 ラミリスはグリグリと視線を泳がせつつ、ツキハ壱をみると――

 

「あたしは、ワイン、ケーキと引き換えに、あたしの仕掛けた罠の位置と対処法だけを教えただけだから。それ以外は知らない」

「あぁ、え、とぉ……」

 

 ツキハ壱はサラリと答え、ラミリスの視線が更に泳ぎまくる。

 

 実際、ツキハ壱の言った事は本当であり、だからラミリスもそれ以上言えなかった。

 

「で、どうなんだ? ラミリス」

「――ッ!? はい、含まれていたような気がするであります!!」

 

(何てこった……)

 

 流石のリムルも頭を抱える。

 

(やってくれたよな、ホント……。うーん、そうだな、ここは前向きに考えてみよう。遊びで置いていた領域の主(エリアボス)が役に立ったと考えるんだ。これは、大きな宣伝になる。うんうん、間違いない。でだ、俺が設置した部屋の位置は確か、五階層だったな。まだ誰にも倒されてはいないから、今ならそのままのハズだ……)

 

 そうリムルが考えた時、エレン達は真下の階層に落ちる落とし穴を利用して、既に五階層に到達していた。

 

 道中、手に入れたポーション類の宣伝を、「おお、凄いなこの回復薬の効き目は。今まで俺達が使ってたモノより効果が高いな」「ねえ、凄いわよねぇ」「確かに。品質が違うでやんすね」などと、やっていた。

 

 そして―――

 

「旦那、姉さん。この角の先に隠し部屋がありますぜ。そこで休憩しましょうや」

 

 観客達が巨大スクリーンを見入る中、ギドがその部屋の扉を開けると。 

 

「うお! ジャイアントバットでやす!!」

 

 扉を開け部屋に入った瞬間、体長三十センチ、羽を広げると百八十センチにもなる吸血蝙蝠(ジャイアントバット)が、数十匹になる数で天井付近を飛んでいたのだ。部屋の広さは約二十畳ほどで、天井までの高さは四メートルはあった。

 

「慌てないでギドぉ。カバルお願いねぇ!」

「う……血を吸われるの、嫌なんだけど?」

 

 一応カバルが抵抗を試みるも、むなしく戦闘は開始された。

 

 覚悟を決め楯鱗の盾(スケイルシールド)を構え、そのまま盾に身を隠し吸血蝙蝠(ジャイアントバット)の攻撃を一身に受け続ける。

 

 そして、カバルが注意を引き付けている間に、エレンの魔法が炸裂する。 

 

「いっくわよぉーー!! 水氷大魔散弾(アイシクルショット)ーーーーッ!!」

 

 エレンお得意の水属性の氷魔法である。

 

 鉛筆程の両先端が鋭利に尖った、無数の氷の(つぶて)

 

 一見すると小さい氷の礫だが、その威力は絶大だった。

 エレンは以前と違い、今では対象に対して、氷の(つぶて)の大きさをある程度自在に変えれるまでの腕前となっていたのだ、威力はそのままに。

 

 エレンの頭上に浮遊していた氷の(つぶて)が一斉に吸血蝙蝠(ジャイアントバット)に向かって、容赦なく降り注ぐ。

 

 二十畳程の部屋ではどこにも逃げ場はなく、樹妖精(ドリュアケーン)の杖で増幅された魔力で放つエレンの魔法の前に、吸血蝙蝠(ジャイアントバット)達は一網打尽にされたのだった。

 

『素晴らしい戦いでしたね』

『ええ、流石は熟練の冒険者パーティですな。余裕ある戦いでした。ん? おっと、ギド殿が罠の(たぐい)を確認しつつ宝箱を開けるようですぞ?』

『なんとなんとッ!! 金箱ではないですか! 本当に、希少級(レア)が出るのでしょうか!?』

 

 緊張した感を出しつつ、ミョルマイルとソーカの実況が飛ぶ。

 

 それを静かに見守る観客達。

 

 キイッと(きし)む音を立て、宝箱が開けられた。 

 

「剣、でやすね……」

「ああ、残念ッ。魔法使い用の防具が欲しかったのにぃ」

「剣だと!? やったぜ、俺の頑張りを天が見ていてくれたんですね!」

 

 つまらなさそうなギド、どこか舌打ちをしそうなエレン、さっきまでのやる気のなさが吹き飛んだカバル。

 

 とまあ、三者三様の反応である。

 

『おおッ。なんと、本当に武器が出ましたね!』

『いやあ、そりゃそうでしょう。金箱にハズレなし、というのが魔王リムル様の伝言ですし、当然でありますな』

 

 と、場を盛り上げるソーカとミョルマイル。

 

『あ、たった今宝箱から出た剣の情報が来ました。えーと、これは……この金箱から出た剣は、暴風の長剣(テンペストソード)と言うらしいです。そしてそして、なんとこの剣は希少級(レア)ではなく、特質級(ユニーク)に匹敵する武具とのことですッ!! 凄い! これは凄いです―ッ!!』 

 

 興奮気味に実況するソーカ。

 

「「「「「おおおおおお―ッ!!」」」」」

 

 その実況に、一瞬にして会場内がどよめき、歓声があちこちから上がる。

 

 この剣、暴風大妖渦(カリュブディス)楯鱗(じゅんりん)をクロベエが鍛えた業物(わざもの)

 匹敵ではなく、間違いなく特質級(ユニーク)代物(しろもの)だった。

 

 今回だけヴェルドラが大当たりを出易く設定していた為、エレン達は一%の確率で最高の品を引き当てたようである。

 

 そしてエレン達は、目的を達成した途端さっさと帰還の準備を始めたかと思うと、帰還の呼子笛(よびこぶえ)を吹き、地上へと戻って行った。 

 

 

 一方、マサユキとガイはと言うと。

 

 両者は競い合うかのように、下層を目指していた。

 

 だが、その差は歴然だった。 

 

 マサユキ達の方が圧倒的に速く、二時間が経過した時点でなんと、地下九階層に到達していたのだ。

 

「早過ぎだろ、アイツ等……」

「まあ、よっぽど幸運に恵まれてるんだろうね。あの少年がさ」

「ホント、まさか下層に繋がる落とし穴が、あんなふうに利用されるなんて思わなかったのよさ……」

「だなぁ。マサユキの場合、狙って利用しているんじゃないだろうしな」

 

 リムルとツキハ壱にラミリスがそんな会話をしている間に、マサユキ達は九階層の攻略を進め、残り五十分を残して十階層へと辿り着いたのであった。

 

(まさか、三時間もかからずに、ここまで来るなんてなぁ……)

 

 最早、呆れる他ないリムルである。

 

 そして遂に、マサユキ達は最奥の部屋へ到達した。

 

 地下十一階層へ繋がる階段は、この広間のボスを倒すと出現する。

 

 

 その階層守護者(ボスモンスター)とは、難易度Bランクの大きな蜘蛛(ブラックスパイダー)

 

 人より大きいその姿は、見た者に凄まじい嫌悪感と恐怖を――

 

「でりゃあッ!!」

 

 ジンライの気合一閃、ブラックスパイダーは頭を蹴り潰され倒された。

 

 剣や斧も扱えるが、格闘戦がもっとも得意なジンライのキックが炸裂したのだ。

 

 こうしてマサユキ達はキッチリと金箱を回収し、希少級(レア)相当の短剣をゲットした。

 

 

(やっぱり早過ぎわ。ショートカットにもなる落とし穴は()めだな)

 

 これを見たリムルは、下層に繋がる落とし穴は撤去すると、心に誓ったのである。

 

 こうしてマサユキ達は帰還の呼子笛(よびこぶえ)で、地上へと帰還したのだった。

 

 

 そして、マサユキ達が広間から消えると同時に、閉まっていたいた扉が再び開いた。

 

 

『マサユキ殿達が帰還して来ましたが、今度はガイ殿がボスに挑戦するようですな』 

『そうですね。ここまで一人で攻略して来たのは、確かに見事です。落とし穴や他の罠に嵌ることなく駆け抜けていましたね』

『ええ、あの速度では、落とし穴が開く前に駆け抜けておりましたな。思わぬ攻略法ですが、普通の者には真似出来ませんぞ』

 

 ミョルマイルの言葉に、冒険者風の男達が同意するように頷いていた。

 ソロならともかく、パーティでは尚更無理だろう。

 

 素行はどうあれ、ガイはこれでも一応はAランクの階級に恥じない冒険者である。

 こんな浅い階層では苦戦する事はないのであろう。

 

 どういう手段をもってしてか、銀箱で荒稼ぎをしていたのだ。

 

「チッ、クソ勇者に先を越されたか。まあいい。そこの魔物、さっさとボスを復活させろ!」

 

 完全に上から目線の発言をするガイ。

 

 

 ツキハ壱はもう飽きたのか大あくびをして、「こりねえヤツ」とだけ吐き捨てた。

 

 コハクに至っては、いつツキハ壱の太ももを撫でようか、虎視眈々と狙い目を輝かせていたのである。

 

 リムルはガイにカチンと来たが、ツキハ壱とコハクの態度を見て一気に冷静な自分に引き戻された。

 

(あーあ、あの二人、完全に興味をなくしたみたいだな。流石に身の程を知らなさ過ぎだものな。いったい今まで、どういう冒険者活動をして来たんだろうね。あんまりデルタを舐めない方がいいんだけども。俺、知らねえぞ、本当に……)

 

 リムルはあんな無礼なヤツでも、ほんの少しだけガイの身を案じる。

 

『それでミョルマイルさん。こういう場合、どうなるのでしょう?』

『ふむ。リムル様が言っていたのですが、ボスは三十分程度で復活するそうですな』

『なるほどなるほど。それは当然、金の宝箱もでしょうか?』

『そう聞いておりますな。そうしなければ、ボスの奪い合いが起きるのではと、リムル様は心配しておられたそうです』

「ほうほう。となると、ガイ氏は時間切れとなりそうですねぇ」

『そうですな。時間も残り僅かですし、今回の挑戦はここまででしょうな』

 

 予定の三時間まで、残すところ十五分あまり。

 

 そのガイは時間切れと説明され、激昂(げきこう)してしまう。

 

「ふざけるな! この俺様に指図する気か!? 貴様ら魔物が無能なのは理解したが、この俺がそれに合わせる理由はない! さっさとボスを復活させやがれ!!」

 

 ガイは欲望に喰われたかのように目を血走らせて、勝手な自前論をぶちまける。

 

 何を言われても平然と聞き流していたデルタだったが、次にガイが吐いた言葉で表情が一変した。

 

「フンッ!! 無能の(あるじ)が無能を呼び寄せる。正に、無能の連鎖じゃないか! 貴様等魔物風情(ふぜい)が決めたルールなど、この俺様が守る必要など、断じてないのだッ!!」

 

 この国において、絶対に言ってはいけない言葉を平然と吐き散らすガイ。

 

「なんやねんアレ、しょうもない子やなぁ」

「ホント、アホの子じゃん」

 

 心底呆れたように言う、コハクとツキハ壱。

 

「あ、それ言っちゃうんだ。迷宮管理者の前で、堂々とルール無視宣言に侮辱行為も追加とか、どうしようもないなアイツ……」

 

 同じくリムルも呆れ果て、深く溜息を吐いた。

 

 ラミリスは、「アタシのデルタちゃんに何てことを言うだあ―ッ!」と怒り、リムルの肩の上でシュッシュッとシャドーボクシングをする。

 

 

 ガイが何を叫んだところで、ルールが変わる訳でもない。

 

 だがしかし、それで迷宮管理者が見逃すかどうかというと、それは――

 

「貴方の発言は、我等が定める規定に明確に違反しております。今()ぐに謝罪をするならば不問と致しますが、しかし、これ以上の暴言は見過ごす事は出来ません」

「何だと? 魔物風情の案内人如きが偉そうに。笑わせるな!!」

 

 ガイに対し、淡々と告げるデルタ。

 

 そんなデルタを挑発するように、馬鹿にした笑いを飛ばすガイ。

 

 デルタの目がスッと細められると。

 

「明確なルール違反を確認。これより、刑を執行します」

「フンッ、刑だと? どこまで俺を笑わせるんだ? お前如きがこの俺を――」

 

 その瞬間、地面から伸びて来た(つる)が一瞬でガイを縛り上げた。

 

 デルタはそれを、視線にガイを捉えたままノーモーションで行ったのだから、ガイに避ける(いとま)も与えなかったのである。

 

「――ッ!?」

 

 そして、デルタが冷徹に淡々とガイに告げる。

 

「〝復活の腕輪〟の痛覚遮断機能を解除しました。謝罪する気になりましたか?」

「何ッ? え、ギャアアアアアッーーーーッ!」

 

 ガイの絶叫が、魔力式スピーカーを通じて会場内に響き渡る。

 

 ガイを縛り上げる(つる)からは、無数の小さな棘が飛び出し、鎧の隙間などから身体を刺し貫いていたのだ。しかも、神経の集まる一番敏感な部分を重点的に。

 

 その痛みは激痛を通り越し、痛みを超えた何かだった。

 ガイは脂汗を全身から吹き出しながらも、Aランク冒険者という身体能力でギリギリ意識を保つ。

 

 デルタは、精霊魔法:蔓棘束縛(ソーンバインド)を無詠唱ノーモーションで発動させていたのである。

 

「く、クソ、クソがあッ! こ、この程度で、ウギャ、この俺に、アガァッ、勝ったつもりか?」

「最終警告。謝罪する気はありませんか?」

「舐めるなあッ!! この程度の魔法など――」

 

 シュパン! 空気を斬り裂くような音が走る。

 

 ガイの叫びは途中で、あっけなく掻き消された。

 

 問答無用でデルタがその繊手(せんしゅ)で、ガイの首を刎ねたのだ。

 

 ガイにとって、デルタはあまりにも相手が悪過ぎた。

 確かにガイはAランク級ではあるが、デルタは樹妖精(ドライアド)である。

 戦闘経験などなくとも、種族本能だけで災害級(ハザード)を超える強さなのだ。

 今後経験を積めば、トレイニー達と同様に災厄級(カラミティ)へと至るのは間違いないだろう。

 

 ガイ如きが勝てる相手では、なかったのだ。

 

 武闘大会でも予選を勝ち抜いたガイが優し気なデルタに一瞬で殺されたのを見て、観客達に動揺が走る。

 

 〝流麗なる剣闘士〟と異名を持つガイが、抵抗も出来なかったというのを目の辺りにすれば、驚くなという方が無茶であろう。

 

 そんな空気を察したのか、ミョルマイルが穏やかな声で解説を始めた。 

 

『ああ、このような残念な事が起こってしまいましたが、迷宮管理者の言葉は、この迷宮内でのルールであります。ルールを無視すれば、先程のように迷宮管理者から鉄槌が下される事となりますな』

『こ、怖いですね。それで、ガイ氏はどうなったのでしょう?』

『死んでもいないし、どうもなっておりませんぞ。今回の迷宮内で獲得したアイテムを、全部没収されただけです。ただし、〝復活の腕輪〟の痛覚遮断機能が解除されておったようですので、かなりの痛みを体験しておられるでしょうな』

 

 実際、罰則といっても大したものはない。

 

 迷宮内で得た物全てが無かった事にされるだけ。

 

 余りにも悪質な場合は、迷宮への立ち入り禁止措置を取り、何らかの処分を下す事は考えられている。

 

『あっ! ガイ氏が外へと帰ってきましたが、ミョルマイルさんと違って気絶してますね』

 

 ガイは首を刎ねられると同時に光の粒子へと変わり、地上にて復活した、気絶したままで。

 

 迷宮内で激痛の中死んだそのショックから回復するには、ガイといえども多少の時間はかかるだろう。

 

 そして、ミョルマイルは穏やかな表情を崩さずに、観客達に語り掛けるように説明を続けていった。

 

『ルールを守っておれば、〝復活の腕輪〟の安全装置は万全なのです。ですが、ガイ殿はルールを無視しようとしましたからな。それは必要な事なのです。何故なら、〝復活の腕輪〟があるからどなたでも迷宮に挑戦出来ますし、死という突発的な事故にも対処出来るのです。しかしながら、このようにルールを無視して、もし不良の事故が起これば、大問題に発展するのは間違いないでしょう。だからこそ我が国は、この迷宮に関して厳格なルールを設けたのです』

 

 ミョルマイルはそこで言葉を止めて、ゆっくりと身体を回しながら、会場を見渡す。

 

 迷宮のルールに関してはまだ詳細は決められていないが、そこは敢えて伏せて、既に出来てるといったふうに言うミョルマイル。

 

 そう、観客達が不安に思わないように。

 

『例を上げればですな、この迷宮には、冒険者同士の争いが御法度とか、迷宮管理者の助言には従う等々、細かな規定が御座います。正式な迷宮の開放の暁には、ルールブックが配布される予定ですし、字を読めない方々には、案内人が説明する手筈(てはず)になっております。だから、今回のガイ殿のような目に遭わぬ為にも、正しい作法を守ってもらいたいものです』

 

 そう言い終えるとミョルマイルは、ソーカに視線を送る。

 

『はい。このような結果となって、ガイ氏には少し残念だったかも知れません。でもでも、本番では少し待てばボーナスも復活するとの事! 冒険者同士で争ったりするのもルール違反となるようですし、きちんと順番を守って、正しく迷宮の攻略を進めてもらいたいものですね!! でも、正しい迷宮攻略って何? という質問は、受付ませんよ?』

 

 朗らかに解説するソーカ。

 最後の方では少しお道化(どけ)たように言って、観客達の笑いを誘っていた。

 

 ガイが倒されて気まずい雰囲気が会場内に漂っていたが、ミョルマイルとソーカの解説により観客達もいつしか落ち着きを取り戻していた。

 

 そうしてる内にガイが意識を取り戻し、自分の身に何が起きたかを思い出して驚愕し、悔しがっていた。

 

 

 そして、最後のパーティであるバッソン達が地上へと戻って来た。

 

 最後に入った部屋で、一体のスケルトンが弓を構えて待ち伏せており、そのスケルトンにいきなりパーティメンバー二人が倒される。

 

 それでもゴメスが援護魔法を唱え、残るメンバーがスケルトンに戦いを挑む。

 

 死闘だった……。

 

 たった一体のBランクの魔物スケルトンは、強かったのだ。

 

 バッソン達は奮闘の末スケルトンを倒したが、バッソンも右目に矢を受け負傷してしまい、そこで時間切れとなる。

 

「それでは皆様、そろそろ帰還の時間となりました」

「なっ!? テメ―!!――」

 

 アルファがそう告げ、残るメンバー全員の〝帰還の呼子笛(よびこぶえ)〟を強制発動させた。

 

 バッソンが文句を言う暇もなく、全員が光の粒子となり、地上へと戻された。

 

 無事地上へ戻ったバッソン達は、死んで先に戻ったメンバーと再会する。

 

「あ、バッソンさん。俺、マジで生き返ったみたいですわ」

「お、お前……」

 

 バッソンは先程の怒りも忘れ、安堵の表情を浮かべた。

 

「すげーーっ!! 本当に生き返ったのか!?」

「ええ、俺ももう駄目だと思ったんですが、思ったよりも痛みもなくて、無事に復活出来たぜ?」

「オイオイ、それが本当なら大変な事だぜ? 復活の魔法の使い手は数少ないってのに、この腕輪があれば問題なしかよ!?」

「ああ、そうだな。けどな、それはここの迷宮の中だけだ。それを勘違いするなと、あの魔物の姉ちゃんも言ってただろ」

「確かに。それでも、これは凄い事だぜ!」

 

 そんな会話を交わしつつ、死に戻りした仲間の無事を確かめ歓喜し合うバッソン達。

 

「畜生、俺の右目は……」

 

 矢を抜き、応急処置をするバッソンにゴメスが――

 

「じゃあ、コレを使ってみるか?」

 

 と、腰に下げたポーチからポーションを取り出し、バッソンの右目に振りかけてみた。

 

 ……

 

 シューッと音を立て、瞬く間に矢に射貫かれた右目が再生していった。

 

「お、おおッ! コイツは凄い。身体が資本の俺達にとって、これだけの環境は願ってもないってもんだ」

「マジでか!? じゃあ次からはもっと、ガンガンいけるな!!」

 

 この会話を聞いてリムルは。

 

(いやいや、お前達って最初からガンガン行ってたよな? 罠の警戒は全然しなかったし、むしろツキハの罠にガンガンかかりまくってたじゃないか。本格的に罠が凶悪化する階層では通用しないよ)

 

 と、一人内心で突っ込みを入れる。

 

(ま、でも、これで地下迷宮(ダンジョン)の事は、観客達にわかってもらえただろう)

 

 何はともあれ、観客達の反応は上々で、この地下迷宮(ダンジョン)の安全性は十分に理解してもらえただろうと、リムルは考えた。

 

 今回の地下迷宮(ダンジョン)の宣伝は、大成功といってもいいだろう。

 

 

 舞台の上に、挑戦者達が並んだ。

 

 リムルが舞台へと出向き、そんな彼等の前に立ち、魔力式マイクをソーカから受け取り最後の挨拶を行う。

 

『どうだったかな? 楽しんでもらえただろうか? この地下迷宮(ダンジョン)は、もう間もなくしたら正式に開放する予定だ。安全性は、魔王リムルの名において保障するので、興味をもったならば是非とも挑戦してくれ。そして見事に地下百階層を制覇した者には何と――裏ボスに挑戦する権利が発生する』

 

 ここでワザと言葉を区切るリムル。

 

 裏ボスと聞いて、観客達がどよめく。

 

「何だ裏ボスって?」

「なんだなんだ、百階層のボスを倒しても、更にボスがいるってのか!?」

「スゲー。この迷宮は壮大だな……」

 

 などと、観客達が次々に言い合う。

 

『そして、その裏ボスさえも倒して、真に地下迷宮(ダンジョン)を制覇した者には、莫大な報酬とこの俺に挑戦出来る権利を授けてやろう! 無論、百階層のボスを倒してそこで終える事も出来る。しかし俺は、真に地下迷宮(ダンジョン)を制覇する者を待ってるぞ!!』 

 

 マイクを手にリムルは、そう締めくくった。

 

 観客達からは、『うおおお――ッ!』と盛大な歓声が上がり、拍手が鳴りやまなかった。

 

 

 こうして、地下迷宮(ダンジョン)のお披露目も無事に終了したのである。

 

 

 ――と、そこで終われば綺麗だったのだが……。

 

『リムルよ、どうなっておるのだ? 挑戦者共がなかなか来ぬが、何時まで待てばいいのだ?』

『だからさっきから、今日は来ないって言ってんじゃん、ってか当分来ないってヴェルドラ』

 

 人の話を聞いてなかったのが丸わかりな、お馬鹿な迷宮の王(ヴェルドラ)から『思念伝達』が届き、その理由を説明しているツキハ弐の『思念伝達』が割り込んで来た。

 

『はあ!? なんども言っただろうが! いいか、ヴェルドラ。ツキハ弐が言ってる通り、最下層まで来るような挑戦者は、当分来ないんだよ!!』

『な、何ィ!? リムル、ツキハよ、話が違うではないかっ!!』

『違わないし! さっきから説明してるよね、ヴェルドラ』

『違わねーよ、馬鹿野郎! ちゃんと人の話は聞けってーの!』

 

 と、暫く言い合いは続くのだった。

 

(いたよな、祭りの日にはしゃぎ過ぎて怒られる子供って……)

 

 こういう事で子供が叱られる、よくある話である。

 

 なのでこの際だと、リムルはツキハ弐と一緒に、ヴェルドラが反省するまで懇々と叱り続けたのだった。

 

 

 





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