忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。193話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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193話 嫌ですよ、めんどくさい

 

 

 開国祭の最終夜。

 

 

 今日が最後だとばかりに、魔国主催で盛大な夜会が催された。

 

 シュナや吉田氏が腕をふるい、これでもかと贅を尽くした料理が提供されていく。

 

 これも全て、この国に良い印象を持ってもらう為であった。

 ここ三日間で打ち解けたのか、談笑を交わす貴族達の姿も多数見かけられた。

 

 初日の夜とは違い、和やかな夜会となっていた。

 

 迷宮内でも、ヴェルドラやラミリスにツキハとコハク、そしてミリム。

 その他、カリオンやフレイやミッドレイに三獣士などが勢ぞろいして、楽しい夜を過ごしていた。

 トレイニー達や耳長族(エルフ)達が張り切って御馳走を用意していたので、豪勢なパーティーとなっていたのだ。

 

 リムルもデザートを手土産にして後から参加する予定で、街中を歩きながら地下迷宮の入口へと向かっていた。

 

 その為にコハクから、二時間ほど効果がある『認識阻害』の効果がある呪符を一枚作ってもらい、それをポケットに入れていたので、リムルが街中を歩いていても誰もリムルだとは気付かずにいたのだ。

 

 

 そして、街の方では。

 

 

 訪れた商人、冒険者、旅人、近隣の農民達、そして街の住人達が、和気あいあいと酒や料理を楽しんでいた。

 

 全ての料理を出す店や屋台が無料で開放され、今宵(こよい)は飲めや歌えやの大騒ぎとなっていた。

 

 この夜に、店と屋台にかかった費用は、全て魔国が持つと店主達に通達されていたのだ。

 

 ちなみに、表向きは魔王リムルが、夜にかかった費用の全額負担を宣言した形になっていた。

 

 が、その実は、傭兵商会ルヴナンがその全費用を、開国祭の御祝儀として魔国に献上していたのである。

 

 音楽が流れ、音頭に合わせて歌う者達が出来て、そんな楽しい時間で街は溢れかえってしまう。

 

 既に警戒心が薄れたのか、魔物だとか人間だとか関係なく、楽しそうに互いに手を取り、踊り、歌い合う。

 

 ここにリムルの理想が、静かに芽生え始めていく。

 

 リムルはこの光景を目にして、どこか不思議な気分に襲われてしまう。

 

(ああ……明日からまた、それぞれの仕事がまっているんだな。それを思うと憂鬱なんだけど、同時にまた頑張ろうと、やる気が湧いて来る。皆もそうなんだろうか……? これって、幸せというものなの? 多分そうだろう、な。あ、眷属達も混じっているじゃないか、ククッ。え? アレってサンコか? 子供達に囲まれて何やってるんだろう? でも、凄く楽しそうに笑っているな、魔物の子供達に、人間の子供達。ホント、楽しそうだ)

 

 リムルは楽しそうに踊り歌う者達を見て、この平和が長く続くようにと、願わずにはいられなかった。

 

 そうして、楽しい楽しい夜は……ゆっくりと()けていく――

 

 

 ***

 

 

 大盛況の内に、祭りは無事に終わった。

 

 今日は朝から、帰国の途につく者達で街道は混雑を(きわ)めていた。

 

 

 そして本日は、金貨の支払期日である――

 

 百名を超える商人達は大会議室に集められていて、ガヤガヤと何やら言い争う声が……。

 

 中ではミョルマイルとリグルドが説明を行っているが、そろそろ皇帝エルメシアの企んだ策が始まるのと、リムルの出番が刻々と近づいていた。

 

 リムルは、ここが正念場だと気合を入れて現地に向かう。

 

 大会議室に到着したリムルは扉の前で立ち止まると、中から揉める声が聞こえて来た。

 

 

「ですから先ほどから申しておる通り、支払いは必ず行いますので、落ち着いてお待ち下さい!」

「おいおい、そんな事を言って、俺達を騙すつもりか?」

「祭りが終わるまで待ってやったんだ。さあ、出すモノをさっさと出してもらおうか!」

「待て待て。お主らの言い分もわかる、わかるが、こちらの顔も立ててはくれぬか?」

「そうだとも。我が友ミョルマイルに、お主達を紹介した我等の顔を潰すつもりか?」

「いえ、滅相もない。そういう訳じゃないんです、旦那様方。俺達としては、これからの仕入れもあるし、生活もある。だから、代金はキチンと支払ってもらわにゃあ困るんで――」

「だから、待てと言っておる。この国は逃げも隠れもせんし、ドワーフ金貨以外の支払いなら用意出来ると言っておるのだ。ここは我等を助けると思って、それで納得をしてくれぬか?」

「ああ? そんなの信用ならねーな! そう言って踏み倒すつもりじゃないだろうな!?」

「そうだそうだ! さあ支払いをしてもらおうじゃないか! ――」

 

 ミョルマイルの友人である大店(おおだな)の商人達が、小売商達を(なだ)めていた。 

 

(しかし、やたら焚きつけるヤツ等がいるな。それにしても、ミョルマイルの友人は商人としての筋を通してるだけかも知れないけど、俺としては嬉しい限りだ。ミョルマイルの見る目は、ホント確かだよ)

 

 必死に小売商達を説得する大店の商人達を、頼もしく思うリムル。 

 

 するとそこへ――

 

「まあまあ皆の者、少し落ち着いたらどうかね? このワタシ、ガストン国王の代理たるミューゼがついておるのだ、如何(いか)に魔の国者でもその方達への支払いは踏み倒しはすまい。のう、ミョルマイルとやら。相違ないな?」

 

(お! さあて、本命が来たか。今朝コハクが、二日前から何人かの商人が小売商達に、支払いについての話をして回っていたと教えてくれた。そして、その一人を辿って行ったら一人の大物貴族にぶち当たったと。それがアイツ、ミューゼ公爵。ほんと、この二日間でどうやって調べたんだと、言いたいよ俺は。アイツ等もそんな暇なかったはずだし、眷属達もな。一体誰なんだ、ルヴナンに情報を持って来るヤツは……。しかし、ガストン国王の代理とはな。イングラシア王国に隣接する商業国家、ガストン国王の貴族。これを聞いて、ソウエイも独自に動いているらしい……)

 

 流石にリムルも、傭兵商会ルヴナンに情報を持って来る人物が、誰なのかと真剣に思い始めてしまう。

 

 しかしそれが、野良(のら)魔猫やペットとして飼われている魔猫とは夢にも思わないだろう。

 

 現在中央都市リムルには、百数十匹の魔猫が住み着いている。

 

 そして、この商人達の話し声に聞き耳を立てていたのが、中央都市リムルに分散して住み着いてる野良魔猫達なのだ。

 

 

 始まる前からミューゼ公爵は、策を仕掛けたつもりが策に(はま)りつつあったのだ……。

 

 

「はっ、ミューゼ公爵様! その通りで御座います。ですが――」

 

 さっと手でミョルマイルの言葉を止める、ミューゼ公爵。

 

「ふむ。ならば早々に、この者達を安心させてやって欲しい。西方諸国評議会(カウンシル・オブ。ウェスト)の定める国際法に(のっと)って、速やかなる支払いをして、ね」

 

 ミューゼ公爵は大貴族でありながら、威厳を保ちながら紳士的に交渉をしていた。

 しかし、ミョルマイルの言葉を途中で遮る事などは、やはり、貴族ならではといったところであろう。

 

 ミョルマイルは魔国の要人ではあるが、今の時点では爵位も地位もリムルは与えてはいなかった。

 

 リムルの代理としての仮初(かりそめ)の権限を有しているものの、いわば食客(しょっかく)に近い立場である。

 

 大臣職のリグルドがついているのに、そのミョルマイルの名をミューゼ公爵は覚えていて、更にその名を呼び自ら対応しているなど、これは最上級の扱いであると言える。

 

 普通貴族が平民の名を覚えるなど、マズない。

 例え覚えていたとしても、知らないフリをするのが通例だと、ミョルマイルの談である。

 

 なので、今一番驚いているのはミョルマイル本人だろう。

 

「お、お待ち下さいませ、ミューゼ公爵様。最初の契約時には、慣例通りの支払い方法で良いとなっておりました。慣例というのは申すまでもなく――」

「――ミョルマイルよ、そんな些末(さまつ)な事など、ワタシの知った事ではないのだよ。良いかミョルマイル。商人にとっても、国と国との付き合いに()いても、信用というものが一番大事なのだ。信用とは、お互いが約束を守って、初めて生まれるものだ。のう、そうであろう?」

(おっしゃ)る通りで御座います。ですが――ッ!?」

「黙りたまえ、ミョルマイル! この者達は、貴殿達を信用して取引を行った。その信用を踏みにじるつもりなどないのであろう?」

 

(来た。貴族がよく使う、権威を振りかざしてからのゴリ押しで、目一杯引き絞った手綱(たづな)を少しだけ緩め、譲歩するかと見せかけての、(から)め手。エルメシア殿が指摘した通りの展開になったな。さて、大貴族とやらのお手並みを拝見しよう)

 

 もはやここまで来ると、答えのわかった試験みたいなもの。

 ミューゼ公爵の言葉を聞きながら、口元に冷淡な笑みを浮かべるリムル。

 

「勿論で御座います。ですが当方にも事情が御座いまして――」

「フフッ、なるほどなるほど、そういう事か。ミョルマイルよ、その方の悩みの解決法だが、幸いにしてワタシに心当たりがるのだ。そこのリグルド殿も同伴で構わぬ故、少し個別で話をせぬか?」

「ど、どういう意味で御座いましょうか?」

 

 そうミューゼ公爵が切り出して来たところへ――

 

「あのう、話の腰を折って申し訳ないんですけどもぉ」

 

 と、商人達の集まる集団の後ろ辺りから、涼やかな声と共にニュッと細く綺麗な手が上がる。

 

「誰だ!? 無礼であるぞ!」

 

 いきなり会話に割り込まれ、ミューゼが語気を少し荒めた。

 

 すると、フードを目深(まぶか)に被った女性が、「ちょっとすいませんねぇ。通して頂けますか」と、人の波を掻き分け前に出て来た。

 

「貴様、ワタシの大事な話を(さえぎ)るとは、無礼千万なるぞ!」

「まあまあ、ミューゼ公爵殿、そう怒らずとも、お久しぶりですね。一年ぶりでしょうか?」

 

 ミューゼの怒りにも全く怯まずに、その女性はコロコロとした口調で返し、フードをパサリと上げる。

 

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「なッ!? き、貴殿は、行商隊ガットエランテの隊長、リアナ殿。何故このような場所、に?」

「あら、いやですよミューゼ公爵殿。私共も行商隊であれば、商売の為にこの国に訪れるのは必然で御座いましょう。観光で来た訳ではありませんよ? フフッ」

 

 ミューゼの問いに、微笑みながら返すリアナ。

 

 そして、ガットエランテの存在は知れど、ここにいる商人達は行商隊を率いる隊長の素顔は誰も見た事はなかったのだ。

 

「おい、あれ、エルフじゃないか」

「エルフがガットエランテを取り仕切っている? これは驚きだ」

「ガットエランテの荷馬車が来ていたと聞いていたが、まさかその隊長の素顔を拝めるとは……」

 

 などと、ヒソヒソ声で話す商人達。

 

 普段、リアナが素顔を晒すのは、上得意の国王クラスや貴族の前だけなのである。

 その素顔をこのような場所で晒したのだから、商人達が驚くのは無理はない。

 

「まあ良い。リアナ殿も支払いの一件で、ここに来たのであろう?」

「はい、その通りですわ、ミューゼ公爵殿」

「ならば話が早い――」

「はい?」

 

 ミューゼの言葉に対して、きょとんした表情で小首を(かし)げるリアナ。

 

(うへぇー。ミューゼ公爵を殿呼ばわりかよ。リアナ殿ってどんな商売をしてるんだ? あのミューゼが、殿呼ばわりで怒らないとはね。まあ、あの人、元メイガスの魔導士で貴族令嬢らしいし。紹介された時に、どことなく気品が漂ってたんだよなぁ。しかも、美人というか、めっちゃ可愛いし♪ まさに、エルフのお姉さん! って感じだよね。うん、良い、エルフのお姉さんって、いいな♪)

 

 と、エルメシアから聞いた事を思い出しながら、『万能感知』で中の様子を探りつつ何か別の事を考え始めるリムル。

 

 であったが、そんなリムルの思いを感じ取ったのか、後ろに控えるシオンの機嫌がみるみるうちに悪くなって来たのを、リムルは察知してしまう。

 

(うおッ! やべえー、シオンのヤツ、俺の心が読めるのか!? 何で俺の周りの女性って、こんな人ばかりなの? 誰か教えて? 何で……? って、いかんいかん、集中集中……)

 

 とりあえず今は、事の進展を待つ事にしたリムルであった。

 

 そして――

 

「皆まで言わぬとも、わかっているであろう? ワタシが今から魔の国と行う支払いの交渉の場に、是非とも立ち会ってもらいたのだよ。(いにしえ)から続く行商隊の隊長の貴殿がいてくれれば、魔の国とて誤魔化しは効きますまい。さあ、参りましょうぞ、リアナ殿」

 

 これ幸いと言わんばかりに有無を言わさない強引な言葉で、更なる(から)め手を画策しようとリアナを巻き込もうとするミューゼ公爵。

 

 そして、ミューゼ公爵はリアナの手を取ろうと右手を差し出す。

 

 が、しかし。

 

「嫌ですよ、めんどくさい」

「「「「「ええええっ!? ……」」」」」

 

 その場にいる商人達も大貴族であるミューゼ公爵に対して、リアナがそんな口をきいたものだから、皆驚き絶句してしまう。

 

 国内に限ってだが、今までミューゼ公爵の要請に否を唱えた者はいなかった、王族以外は。

 

 だからミューゼ公爵は、リアナの返した言葉に耳を疑い、もう一度聞き返す。

 

「リアナ殿、今、(なん)と?」

「めんどくさい、と、申しましたのだけど?」

「――ッ!?」

 

 ツキハみたく小首を(かし)げ、(なん)で? という表情をぶちかますリアナ。

 

 商人達はこれは一大事だと、皆が凄まじい緊張に包まれてしまう。

 

 そう、一般的に平民が貴族に対して無礼な口をきけば大問題に発展する。

 これは、下手をすれば、手打ちにされても仕方のない所業(しょぎょう)なのだ。

 

 だがしかし、これはあくまでも魔国外の話であり、魔国内では適応されないが、一歩魔国を出たならば、この侮辱に対し報復される可能性もあるという事を商人達は知っているので、この反応なのだろう。

 

 

(あ、これ、エルフ版ツキハだ……)

 

 リアナの声を聞きながら、ツキハとリアナを重ねるリムル。

 

 声からしても、明らかにめんどくさそうな雰囲気が思いっ切り漂っていたのだ。

 

 ツキハみたいに。

 

 普通の貴族ならとっくにブチキレ案件なのだが、ミューゼ公爵は平静を保ちながら若干ひきつり気味の笑みを浮かべていた。

 

 今ここで怒りを(あら)わにしたら、下手をするとせっかくの策がご破算になりかねない。

 

 ここは何とか、ミョルマイルとリグルドを連れて個別の話をしなければと、そして、目の前のリアナをどう説得するか、それだけに頭をフル回転させるミューゼ公爵であった。

 

 

(エルメシア殿は『好きにやってもいいわよぉ。でも、やり過ぎは駄目よ?』とだけしか、リアナ殿に言わなかったな。細かい指示もなくただそれだけを、言っただけ。これは見ものだな。(いにしえ)の行商隊の隊長と、大貴族の駆け引きか。というか、これ駆け引きになるのか? まずリアナ殿を攻略しないと、ミョルマイルとリグルドとの話し合いのテーブルにつけなくなった訳だし。ただの商人なら身分で黙らせられるのだろうけど、どうやらリアナ殿はそうもいかないみたいだ。それにしても、あの時言った〝(ヘルバ)〟が気になるな……)

 

 ミューゼ公爵は、簡単に魔の国の者など手玉に取れるといった思惑がズレ始め、内心焦りを滲ませていく。

 

 そしてリアナはめんどくさそうな表情で口元を手で隠し、小さく欠伸(あくび)を漏らす。 

 

 

 





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