忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。194話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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194話 ミューゼ と リアナ

 

 

 策を仕掛けようとしたミューゼ公爵。

 

 

 それに対して、突然割り込んで来たリアナ・アルクセール。

 

 

 この二人のちょっとした、言葉の攻防が今始まる。

 

 顏には出さないが、若干困惑気味のミューゼ公爵、そこは曲がりなりにも海千山千渡って来た者としては、引くに引けないモノがあった。

 

 

「リアナ殿。(いささか)か、このような我侭は困りますぞ。皆が支払いに困っておるのです。ここは、同じ商人として協力をですな――」

「はて? 困っている? それに協力とは、おかしな事を申しますね。ミューゼ公爵殿は」

 

 リアナは、ミューゼ公爵の言葉に、不思議そうな顔を浮かべて返す。

 

「おかしな事とは?」

「魔国側ですが、ドワーフ金貨以外の支払いを提示しておりますし、その契約書には最初に慣例としての支払いも、良いとの事項も盛り込まれていたではありませんか?」

「うむ、確かに。しかしだ、リアナ殿。商人達がドワーフ金貨での支払いを要求しては駄目だとも、記載されてはおらぬ。であるからして、これは商人達の正当な権利の主張であるのですぞ」

 

(あぁ、そう来たかぁ。だから、慣例にならった支払いをと、お願いしてるんだけなんだけども。これ、平行線になる予感?)

 

 リムルは、ミューゼ公爵の言葉を聞いて、この会話が長引くのかと考えた、が――。

 

「そうですね。契約書にその事が記載されていないのは、私も承知しております。では、そのドワーフ金貨が足りないので、支払いの代替え案を提示するのも、魔国側の正当な権利の主張では御座いませんか?」

「それもしかり。ですがリアナ殿。そのドワーフ金貨を、支払い分用意出来なかったのは、魔の国の落ち度ではありませぬか? それを(かんが)みても、商人達の要求は当然ではありませんか」

「確かに。ですが、無いものを出せと言われても、それは無理で御座いましょう。だから魔国側は、代替え案を提示しているではないですか」

「だからだ、ワタシはそれに関して良い案を持ち合わせていると、言っておるのだ。しかしリアナ殿は、何故にワタシとミョルマイルとの交渉に、割り込んで来たのだ? ワタシは、商人が主張する権利を守ろうとしておるだけなのだ。西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウエスト)のルールに(のっと)ってな」

 

 そう言うとミューゼ公爵は、ニヤリとほくそ笑みリアナを見る。

 

 しかしリアナは、困ったわねえというような仕草で頬に手を当て首を(かし)げると。

 

「ルール、ルールとおっしゃいますけど。ここは、貴方が言うように魔の国、魔国連邦(テンペスト)ですよ。未だ西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウエスト)に加盟しておりませんし、そのルールはここ魔国には適応出来ません。しかしながら、それでもミョルマイル殿は真摯に対応なさっておるではないですか。先ほど言いましたよね、信用はお互いが約束を守ってこそ、信用が生まれるのだと。では、その慣例にならっての支払いも良いと契約に記された事を守らないのは、信用にはならないですよ、ね? ミューゼ公爵殿とあろう御方が、信用という概念を取り違えるなんてないですよ、ね?」

「フンッ、それは論点ずらしですぞリアナ殿。ワタシは、貴殿が何故ワタシとミョルマイルの交渉を、邪魔をしたのかと聞いておるのだ!?」

 

 流石のミューゼ公爵も、のらりくらりと言い募るリアナに語気を少し荒め言う。

 

「邪魔? 邪魔はしておりませんよ。私がいつミューゼ公爵殿の邪魔をしたのでしょう?」

「今まさにしておるではないか! このような振る舞いをワタシにしても、良いのかな? ガットエランテとの取引を永久に停止し、今後我が国、ガストン国王の出入りを禁止にする事も出来るのだぞ? それで良いのだな?」

 

 ここに来てミューゼ公爵は切ってはいけないカードを、リアナに対して切ってしまった。

 

 そして、このやり取りを密かに一部始終記録している者がいたのに、ミューゼ公爵以下商人達も気付きはしなかった。

 

「構いませんよ。出禁でも何でもなさって下さいませ」

「何とッ!? 宜しい、ならば――」

「ああ、そうそう。ミューゼ公爵殿は知らないかと存じますが、私は、面倒な手続きなどなく国王陛下に直に謁見出来る権利を頂いておりますの。我()ガットエランテは、貴方が生まれる前から王家とは懇意にしております故に。それに、そちらとの商売が出来なくなったとしても、こちらは全く困りませんから。どうぞ、御随意(ごずいい)に」

「――ッ!?」

 

 そう言ってその権利の証である、王家の紋章が刻まれたペンダント式のメダルをミューゼ公爵に見せるリアナ。

 

 目の前に出された王家の紋章のメダルをまじまじと観察するミューゼ公爵。

 やがて、それが本物であるとわかり、流石に言葉に詰まってしまう。

 

「本物の、王家の紋章とは……」

 

 これが意味する事は、ミューゼ公爵一人の意見でガットエランテを出禁にしようとすれば、必ず先に、その(むね)を国王に通さないといけないからだ。

 

 そしてリアナは王家の紋章のメダルを懐に仕舞うと、言葉を続けていく。

 

「どうされました、ミューゼ公爵殿? 私は構いませんよと、申しましたけど?」 

「あ、いや、その件はまたゆっくり話そうではないか。のう、リアナ殿」

「ええ、構いませんよ。それで、先ほど問われた件ですが、私はミョルマイル殿と支払いの交渉したくて、手を上げただけです」

「ミョルマイルと、支払いの交渉だと?」

「ええ、そうです。だって、先にミューゼ公爵殿がミョルマイル殿とリグルド殿との交渉を始めてしまったら、長引くのは必然でしょう?」

「え、まあ、そうなるな」

「私共も忙しい身。めんどくさい事はさっさと終わらせたいに、決まってるじゃないですか。フフッ」

「め、めんどくさいとは、(いささ)か言葉過ぎるのではないですかな、リアナ殿」

「これは申し訳ございません、ミューゼ公爵殿。どうにも根が正直なもので。謝罪致しますわ」

「うむ。ならば、早々と支払いの交渉を済ませば良い」

 

 釈然としない表情を浮かべながらもミューゼ公爵はそう言うと、リアナの前から後ろに下がり、商人達の前に立つ。

 

 それを見届けるとリアナは、ミョルマイルがいる横に長い長方形のテーブルの前へと歩み寄る。

 

 ミョルマイルはしっかりとリアナを見据え、言葉を待ち、リグルドとミョルマイルの友人である大店(おおだな)の商人達もそれを見守る。

 

 そして、ミューゼ公爵の後ろにいる商人達も、固唾を飲んでそれを見ていた。

 

「申し訳ないですね、ミョルマイル殿。割り込んで来てしまって」

「いえいえ、お気になさらんで下さいリアナ殿。それで、支払いはドワーフ金貨以外の何を望まれるのですかな?」

「そうねぇ。現物支給は可能なのですよね?」

「ええ、可能ですぞ」

 

 それを確認してリアナは、懐から一枚の紙を取り出してテーブルの上に置いた。

 

 ミョルマイルはそれを手に取って、そこに書かれた現物支給に関する品々を一品ごと確認していく。

 

 ……

 

「代金分の品々を確認しましたが、ここに記されている品々は全て対応出来ますぞ」

「まあ、それは良かった。この国の特産品はどれもこれも一級品ばかり、代金分以上の利益が出ますもの。こちらとしては、願ったり叶ったりですわ」

「いやあ、お褒めの言葉感謝いたしますぞ」

「フフッ、事実を言ったまでですわよ」

 

 リアナとミョルマイルはお互いに笑顔で交わし、和やかな雰囲気を(かも)し出す。

 

「では、こちらとしても無理をきいてもらって、これだけで済ますわけにはいきませぬな」

「あらあら、何かサービズでもあるのかしら?」

「この指定されている品の一つ、地獄蛾(ヘルモス)の絹織物の反物(たんもの)ですが、これを後十(たん)ほどお付けしましょう。それとブランデーの酒樽(さかだる)についても、後十樽程追加しますぞ」

「ミョルマイル殿、本当によろしいのですか?」

「ええ、構いませぬとも。〝損して得を取れ〟と、リムル様のお言葉を(たまわ)っております(ゆえ)

「まあ、何と豪儀(ごうぎ)な御方なのでしょう、リムル陛下は。感謝致しますわ、ミョルマイル殿」

 

 リアナは満面の笑みで、皆に聞こえるように歓喜の声を上げる。

 

 この地獄蛾(ヘルモス)の絹織物は、貴婦人方にとても高く売れる一品で、これで作ったドレスなどは貴婦人達が先を争って手に入れたがる程である。ブランデーに至っては、言うまでもないだろう。

 

 これで、完全に魔国側が支払う額の総額を上回った結果に上機嫌になり、(やりましたわ)と、誰にも気付かれないよう思わず小さくガッポーズをしてしまうリアナ。

 

 この交渉のやり取りは完全にアドリブであり、打ち合わせにはない。

 それ(ゆえ)の、リアナの小さいガッツポーズだったのだ。

 

 最後にリアナは。

 

「良い、(あきな)いでした。これからの商売も、御贔屓(ごひいき)にして頂けたら幸いですわ」

 

 と、手を差し出し――

 

 ミョルマイルも。

 

「こちらの事情を汲み取って頂き感謝します、リアナ殿。こちらこそ、宜しくお願いしますぞ」

 

 と、差し出された手を握り、二人は握手を交わす。

 

(現物支給だと……。魔の国の特産物にそんな魅力があるものか。一時的なものに過ぎぬ。今はただ、魔の国の特産物が珍しいだけではないか) 

 

 そんな自分解釈をするミューゼ公爵だが、時代は既に、魔国連邦(テンペスト)を中心に回り始めようとしているのに気付きはしなかったのだ。

 

 そしてリアナは、リグルドに大店の商人達とも握手を交わすと、ミューゼ公爵の方に向き直り。

 

「それでは、ミューゼ公爵殿。ごきげんよう」

「う、うむ」

 

 と、軽い挨拶をし、ミューゼ公爵は一言だけ返す。

 

 そしてリアナは、微笑みながら後ろにいる商人達に目を向けると。

 

 リアナの得も知れぬ雰囲気に()されたのか、商人達の集団がサーッと波が分かれるように左右に動き、真ん中に道が出来た。

 

 そこを優雅に歩き、リアナは大会議室から退室して行った。

 

 完全に水を差されたミューゼ公爵は、気分を切り替えるかのようにゴホンとワザとらしく咳を一つして、再びミョルマイルとリグルドとの個別の相談をしようと口を開きかけた時――

 

「あのー、ちょっといいかミョルマイル殿。俺も現物支給でお願いしたいんだが」

 

 不意に、一人の小売商が手を上げて来た。

 この小売商、四十代半ばの普通の男であり、身体は意外にもがっしりとしていた。

 

 すると。

 

「あ、(わし)は、古代金貨での支払いをお願いする。あれは好事家(こうずか)に高値で売れるでな」

「私は、全て地獄蛾(ヘルモス)の絹織物で頼みたい」

「俺は酒だ! この国の特産品であるブランデーの酒樽で頼む!」

 

 と、一人が手を上げたら次々と十数人の小売商達が手を上げて来たのだ。

 

「貴様等! 何を勝手な事をしておるのだ!」

 

 リアナとは違って、一介の小売商が自分の意を組まない事に怒りを表したミューゼ公爵。

 

「お言葉ですが、公爵様。こんなチャンスを見逃したとあっては、商人を名乗れませんぜ」

「何を言っておるのだ、貴様は!?」

 

 公爵の怒りにも怯まずに、その小売商の男は言葉を続ける。

 

「私は別に、支払いの方法はどちらでも良かったんでさあ。何か、ドワーフ金貨での支払いを魔国側に求めようという話を、確か、あ、いたいた、そこにいる商人に持ちか掛けられましたんでさ。しかしですね、この国の特産品、それも現物支給で支払うという魅力には、敵いませんぜ」

 

 小売商の男は一人の商人を指差し、指を指された商人はバツの悪そうにそっぽを向く。

 

「貴様は、皆が一丸となってドワーフ金貨での支払いを求めるという事に対して、異を唱えるのか!?」

「滅相もない。しかし、お言葉ですが公爵様。私は、それを求める為にここに来た訳では御座いません。あっしはね、支払いをしてもらう為に、今、ここにいるんでさあ」

「ならば――」

「見ましたかい、公爵様」

 

 そう言いながら小売商の男は、ミューゼ公爵の前に出て来た。

 

「んん、何をだ?」

「ガットエランテの隊長、リアナ殿の帰る時の表情」

「それがどうしたと、言うのだ?」

 

 小売商の男が言った言葉の意味がわからず、思わず聞き返すミューゼ公爵。

 

「あの顔、見事に超が付くホクホク顔だったじゃありませんか。あれは、商売人として想定以上の利益が出た時の顔ですぜ」

 

 そして、後ろを振り返り。

 

「なあ、アンタらもあの顔の意味がわかるよな、商人なら」

 

 と、後ろにいる商人達に問い掛けた。

 

 それに答えるように、「確かに」とか「あれは、相当利益が出た時の顔だ」など、小さくボソボソと漏れて来る声。

 

「と、いう事で、申し訳ありませんが、魔国側の条件を受け入れる事にするんで。勘弁して下さいますか、公爵様」

 

 と、深々と頭を下げる小売商の男。

 

 そこまで言われると、自国ではない故に強硬手段に出る訳にもいかず、黙ってそれを見るしかなかったミューゼ公爵。

 

下賤(げせん)の者が。ワタシに逆らった罪、それは重いと知る事になるぞ。覚悟しておれ)

 

 ミューゼ公爵は、この反抗した代償は後々(のちのち)に思い知らせてやれば良いと、今は見逃す事にしたのであった。

 

 そして、滞りなく現物支給や古代金貨での支払いが済むと、皆リアナみたいにホクホク顔で大会議室を(あと)にした。

 

 最後に、ミューゼ公爵と話していた小売商の男が帰る際に扉の前で立ち止まり、残る商人達に背を向けたまま、ポソリと呟くように言った。

 

「そういやアンタら、この国にアレがいるのを忘れているんじゃないですかい。あんまり、欲をかくとアレが、出てきますぜ。俺は願い下げだ、アレに出くわすのは、な」

 

 そう言い残して、小売商の男は去って行った。

 

 すると、残された商人の一人が何かを思い出したように呟いた、「ルヴナン」と。

 

 それを聞いた商人達の顔から一気に血の気が引いていく。

 

 ミューゼ公爵だけは(フンッ。忌々しい傭兵商会ルヴナンか。アレが出て来ればこちらにとって好都合)と、心の内で吐き捨てる。

 

 リムルはこの会話を聞きながら、ある事を思い出す。

 

(あ、これ、あれだ。戦国時代だかに忍びが隠密行動を取ってる様を草と呼んでいたと、ネットでみた記憶がある。情報収集や、草むらに隠れて待ち伏せするのを呼称したとあったような気がする。後、情報収集の為に各地に住み着き、その地の住人として目立たずに情報収集するのもだったかな。あの十数人の商人達が〝(ヘルバ)〟なんだ、リアナ殿子飼いの。だとすれば、あの商人達は各地に住み着いているんだろうな、情報収集の為に。あの商人達扉が閉まってから、俺達を見て(かしこ)まったように御辞儀をしていったからな。リアナ殿はホント、凄いホクホク顔だったな。しかし、完全に出鼻を(くじ)かれたなミューゼ公爵は)

 

 ようやく〝(ヘルバ)〟について合点がいったリムルは、そろそろこんな茶番は終わらせるかと、行動に移る事にした。

 

「行くか」

 

 と、リムルが静かに言うと、ベニマル以下後ろに控えている幹部がコクリと頷いた。

 

 そんな事も露知らず、懲りもせずミョルマイルに声をかけるミューゼ公爵。

 

「ミョルマイル。少し想定外の邪魔が入ったが、先程の件、個別で話そうではないか。ささ、リグルド殿も一緒に」

「個別とはどういう事でしょう?」

 

 ミョルマイルもワザとらしく演技を続け、幾度となく修羅場を(くぐ)り抜けて来た強心臓は伊達ではなかった。

 

 

 そして、ディアブロがガチャリと大きく扉を開け放つ。

 

「それには及びませんよ」

 

 そう言いつつリムルが扉を(くぐ)って、大会議室に入って来た。

 

 リムルに続いてベニマル、そしてシオン。 

 最後にディアブロが大会議室に入り、静かに扉を閉めた。

 

「待たせたか? それにしても、騒がしいぞ」

 

 そう言うとベニマルが、商人達を一瞥(いちべつ)した。

 

 ザワリとする商人達。

 

 リムルが姿を見せた事に驚いた商人達だが、ベニマルの言葉に顔を青褪(あおざ)める。

 商人達はてっきり、リグルドとミョルマイル達に任せて、リムルは姿は見せないだろうとでも思っていたのだろう。

 

 それがいきなり、幹部を伴ってやって来たのだから、どう対応していいのかわからないと、完全に戸惑っていたのだ。

 

「リムル様のお成りである。頭を下げよ」

 

 リグルドが商人達をギロリと(にら)み言い、半数は慌てて(ひざまず)き頭を下げるも、残る半数は跪くも頭を下げずにリムルを見るだけで、様子を窺っていた。

 

(まあ、貴族への対応も教育されていない小売商では、こんなものだろう)

 

 跪いた商人達を見ながらそう思うと、慌ててミューゼ公爵が跪くのをリムルは制止すべく声を上げる。

 

「堅苦しくしなくていいよ、リグルド」

 

 リムルは笑顔でそう言って部屋を見渡し、リグルドはリムルの言葉に了承の意を示すべくその場で静かに控えた。

 

(ふーん。これ、商人だけではなく、変装した記者の姿がチラホラ見えるな。なるほど、金貨を支払えぬと商人達に泣きつく姿か、暴力にものを言わせて黙らせる姿か、もしくは、傭兵商会ルヴナンの親玉番外魔王を伴って来るか。こちらがどのような対応を取っても、それを面白おかしく記事にする予定だったんだろう) 

 

 リムルは内心笑いが込み上げるのを堪えつつ、変装した記者を見ていた。

 

(でもなあ、それはコチラに筒抜けだったんだよな。事前に、親切な記者からディアブロへとタレコミがあった訳だ。〝あの時の記者〟達から。『クフフフフ、なかなか殊勝(しゅしょう)な心がけですね』とかディアブロは褒めていたけど、記者達の笑顔って、どこか恐怖に引き()っていたんだよなぁ。あの時何があったかは知らないけど、余程怖い目にあったんだろう。絶対にディアブロには逆らいたくはない、敵対など(もっ)ての(ほか)という強い意志が感じられたほどだった。そういえば、ディアブロの周りを何か探すように視線を動かしていたけど、何を探していたんだろう? うーん、わからん……)

 

 そう、この変装した記者の中の一人がリアナとミューゼ公爵のやり取りを、一文一句(いちもんいっく)逃さず記録していた記者だったのだ。

 

 そして、記者達が捜していたのはイチコであり、あの元ファルムス王国の新王エドマリスが率いる軍の陣地にいた記者がこの記者達だったのである。

 

 ディアブロの心が凍りつくような笑みと、イチコの怖気(おぞけ)が来るような笑いが、記者達の心の奥深くまで恐怖を刻み付けていたのだ。 

 

 リムルは、記者達がタレコミに来た時ディアブロの周りに視線を()わしていたのを少し気にしながらも、ミューゼ公爵の方に視線を移す。

 

「これはこれは、魔王リムル陛下。御機嫌麗しいようで、重畳(ちょうじょう)で御座います。御挨拶が遅れまして、誠に申し訳御座いません」

 

 リムルを見て一瞬動揺したが直ぐに冷静さを取り戻し、貴族らしく優雅に一礼し、この場を代表して挨拶をしたミューゼ公爵。

 

「ん? ガストン王国の、ミューゼ公爵殿か。何故ここに? 貴殿に用事はなかったように思うが?」

 

 リムルもにこやかに、練習しておいた貴族や王族に対する対応をキッチリやってのける。

 

「実はですな、今回初めてこの国と取引をした者共がおりまして、自分達の正当な権利を(ないがし)ろにされた、と、ワタシに泣きついてまいったのです。我が国の民を守るのも貴族としての務めでして、失礼だとは思い申したが、こうして仲裁に参った次第です。しかし、一部の商人は、そちらの提案を呑んで納得を成されたようですが、大半の者共はそれを納得しないので御座います」

 

(どこが我が国の民だよ、白々しい。ソウエイ達が既に調べ上げているんだよ。そこにいる商人達の中に、ガストン王国の商人はたった十七名しかいない事をな。で、その十七名が他の小売商を(そそのか)していた、と。腹の中真っ黒なんだろうな、コイツ。まあでも、ツキハとコハクの真っ黒黒ネコには勝てないわな。かくいう俺も負けてはいないが、でも俺の場合は、透明なスライムなので綺麗な透明なのだ)

 

「それはそれは。しかし、不思議ですね。そこにいるミョルマイルは、我が国の予算で十分足りると言っていた。それなのに、支払いが滞るとは、何故そういう事になったのかな?」

「ハッ、それはですね、この者達がドワーフ金貨による支払いしか認めないと――」

 

 ミョルマイルも打ち合わせ通りに巧みに演技を続け、リムルの質問に恐縮したように説明しようとする。

 

 が、それをミューゼ公爵が(さえぎ)ってしまう。

 

「それは当然の話ではないか。ミョルマイルよ、お主もブルムンド王国に所属する正規の商人であったのなら、商業に関する国際法くらい熟知しておろう! 自由組合のような杜撰(ずさん)な者共と違い、この者共が信ずるはドワーフ金貨のみなのだ」

 

 声を荒げるでもなくミューゼ公爵はそう言って、この場に残った商人達の肩を持つ。

 

(おうおう。リアル殿がいなくなった途端強気に出て来たな。リアナ殿を巻き込もうとした当たり、余程厄介な存在だったんだろうな、ミューゼ公爵にとっては。しかし、あくまでも自分は第三者という立場を崩さないように、振る舞い。そして、折を見て、俺に恩を売るべく取り成すつもりだったんだろう。これ、一見すると公平に見えるけど、その実は、自分達のルールを問答無用で押し付けてるようにしか見えないんだよね。まったく、こういうところは異世界だろうとこの世界であろうと、変わりはしないんだな)

 

 リムルはどこか達観した気分になり、次なる段階に移ろうと、ディアブロをチラリと見た。

 

 ディアブロは心得たもので、笑顔でリムルに頷き返す。

 

 これで、全ての準備が整った。

 

「なるほど、そうでしたか。この部屋に各国の記者が集まっているという話を聞いて、何事かと思ったのですが、そんな些細(ささい)な話だったのですね」

「ですからリムル様、今回の対応も俺に任せてくれれば……」

 

 威圧するようなベニマルの様子に、商人達の中に必要以上に怯える者がいた。

 それは、あちらの計画通りに、脅して来たと思っているようだ。

 ミューゼ公爵の手駒の、商人達が。

 

 しかし。

 

「まあまあ、ベニマル。話を聞いてみれば、商人さん達が心配するのもわからなくもないさ」

 

 そういってリムルがベニマルを宥めた事で、その商人達が意外そうな顔を見せた。

 上手く行きかけたところで水を差されたような、そんな様子だったのだ。

 

「ですが、リムル様。俺は疑問に思うのですが、ドワーフ金貨じゃなくとも古代金貨ならある。それが駄目なら、我が国の特産品を、代金分だけ仕入れてもいいいと思うのですよ。現に、ガットエランテの隊長殿や、それに続いた幾人かの商人達は、とても満足した顔で帰って行きました。では、残った商人達は、どこが不服なのか?」

「俺もそう思うが、商人達にもそれぞれ事情があるのだろうさ」

 

 そんなやり取りの中、リムルはミューゼ公爵の反応を見る。

 

 どうやらミューゼ公爵も、話を切り出す機を窺っているようだった。

 

 当初の計画通りに商人達を取り(まと)め、リムルに恩を売る為に。

 

「それで、どうでしょう? ここは我が国を信頼して、ベニマル様が申されておるように、証書、もしくは現物による支払いに応じてはもらえませんか?」

 

 ここで一気に終わらせるべく、ミョルマイルが口火を切った。

 

 これに相手が頷いてくれれば、それで丸く収まり、穏便に話を終わらせる事が出来る。

 

 だが、もしもこの提案を断れば。

 リムルがこの取引場にいた上で、その顏を潰すと言うのなら。

 

 目先の利益に飛び付き、ミューゼ公爵の思惑(おもわく)に加担するのなら。

 

 その時は、リムルも覚悟を決めるだろう。

 

「そ、そんなの信用出来ねーです!」

「そ、そうだ、です」

「あのガットエランテの隊長だって、もしかしてですが、(まが)い物を掴ませられてるかも知れないと思うと、怖いのです」

 

(あ、それ、俺の前で言うんだ。アイツ、ああ、ミューゼ公爵の手駒か)

 

「そう、ここが魔物の国だからこそ、ドワーフ金貨という安心の通貨でお支払いを求めたいのです。そんな我等の心情を理解して、どうか、どうか寛大な対応をお願いしたく、存じます――」

 

 場慣れしていない商人だけでなく、貴族相手の対応を身に着けた者もいた。

 しかし、その言葉は一方的なものでしかなく、リムルは(いきどお)りを感じずにはいられなかった。

 

(……こちらへの配慮など、微塵も感じられないな。本当に、残念だよ)

 

 リムルの思いは完全に踏みにじられ、ここに残る商人達に最後のチャンスを与えたつもりだったのだ。

 

 

 そして、商人達の声を聞きながらミューゼ公爵は時が来たと、人知れずほくそ笑む。

 

 





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