忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

195 / 239


 お待たせしました。195話です

 ツキハ

【挿絵表示】


 コハク

【挿絵表示】



 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


【挿絵表示】



 ※〝打刀〟
【挿絵表示】






195話 破 綻 と 失 脚

 

 

 ミューゼ公爵は、ようやくこの時が来たと思った。

 

 思わぬ邪魔が入ったが手駒である工作員が上手く動いたと確信し、残る商人達もミューゼ公爵の指示に従って動いていたのだ。

 

 それも、考えてみれば当然である。

 

 ミューゼは、ガストン王国の公爵である。 

 

 まだ三十五歳と若いが、()のロッゾ一族に連なる者。

 

 ほんの一握りの上流階級に位置する、西側諸国の支配者の一人なのだ。

 

 そんな彼の命令に背ける者など、ほとんどいないのが現実である。

 

 しかしリアナは、そのミューゼ公爵の要請もしくは命令を無視出来る数少ない一人であった。

 

 (いにしえ)から続く行商隊、表は勿論、裏は深いところまでガッツリくい込んでいて、更に行商隊のボスである者の実態が全く掴めない事から、下手に手出しが出来ないという事でもあった。

 

 勿論、買収も脅しも効かない。

 過去に、歴代の隊長の暗殺計画もあったが、そのどれもが(ことごと)く失敗している。

 

 そして、子飼いの商人達もガットエランテに連なる者達なので、如何(いか)なる妨害も恐れないのである。

 

 だから、普通の商人達は魔国内であれど、ミューゼ公爵の命令は効かざるを得なかったのだ。

 

 一介の小売商など、ミューゼ公爵の一言で如何様にも出来るのだから。

 

 

 今回の計画、それはロッゾ一族の長老からの勅命であった。

 

 〝魔王リムルに恩を売り、信用を勝ち得よ〟と、ミューゼ公爵は命じられていたのだ。

 

 しかも、これを達成した暁には、五大老への昇進が約束されていたのだ。

 

 五大老――この世の頂点。

 

 ミューゼ公爵はこれを聞いて、歓喜した。

 

 夢にまで見た五大老の地位。

 自分の全ての力を駆使して、何としてもこの命令を遂行すると誓ったのである。

 

 利に聡い商人達に将来を約束し、各国の記者を巻き込む事で身の安全を担保して、ミューゼ自ら魔王リムルと対峙する計画。

 

 この仕事だけは一人でやらなければならなかった。 

 他の誰にも任せる事は、出来なかったからだ。

 

 リムルは生まれて間もない身でありながら、短期で魔王まで上り詰めた魔物。

 残忍で冷酷と噂される魔王クレイマンすら(ほふ)った。

 

 二万の兵を殲滅し、あの〝暴風竜〟と通じるという噂から、あまつさえ番外魔王率いる〝傭兵商会ルヴナン〟と契約を交わし、その番外魔王を自国に住まわせるという、恐るべき魔王。

 

 そんな番外魔王が住む国の王である魔王リムルと直接会うのは恐ろしかった、いや、出来るならば一生直接には会いたくはなかっただろう。

 

 だがしかし、得られる栄光と(はかり)にかければ、そんな恐怖など簡単に捻じ伏せる事が出来たミューゼ。

 

 そんなミューゼもまた、利に聡い男だったのだ。

 

 だからこそ五大老の地位という(えさ)をぶら下げられ、利用されたのだ。

 その事に本人は、気付いてはいない。

 

 ミューゼとロッゾ一族の長老にとって、皇帝エルメシアがリムルと懇意になった事と、傭兵商会ルヴナンの傘下組織であるガットエランテが魔国にいたのが誤算だったのだ。

 

 しかし、そんな事を予測できるはずもなく、非常に巡り合わせが悪かったというか、運が悪かったと言った方がいいのかも知れない。

 

 そして、こんな場まで魔王が幹部を伴って姿を見せたのは、ミューゼにとって意外だった。

 

 ミューゼの思惑とは別にリアナという想定外の事も起こったが、本来ならミョルマイルをやり込め、魔王への取次ぎを願う予定だったので、これはこれでミューゼにとっては好都合でもあったのだ。

 

 この場には記者がいるし、この階の下のホールにも大勢の記者が詰めかけてもいた。

 

 ならば、仕込みは上々、そうミューゼは考えたのだ。

 

 商人達が魔王の提案を突っぱねた時点で、ミューゼの計画は成功も同然である。

 

 後は商人達を宥め、この場を取り仕切るだけで魔王が感謝するはずだった。

 

 

 ミューゼは計画の成功を確信し、穏やかな表情を浮かべながら口を開く――

 

「どうでしょう、リムル陛下。もしもお困りの事がありましたら、このワタシ、ミューゼめに相談してはもらえませぬか? これも何かの縁ですし、ワタシも陛下のお役に立てればと――」

 

 予想通りのセリフでそう申し出て来たミューゼ。

 

 そんなミューゼ公爵を、リムルの後ろにいる幹部達が冷たく鋭い視線で見ていた。 

 

 ミューゼはその視線に気付いたのか、顏に焦りの色を(にじ)ませる。

 何かおかしいと感じたのだろうが、もうとっくにミューゼの計画は破綻していたのだ。

 

 リムルはミューゼに引導を渡すが如く、言葉を告げる。

 

「せっかくですが、その必要はない。入れ」

 

 リムルの命令に従い、ゲルドが部屋に入って来た。

 

 その手には直径八十センチはある銀製の丸い盆を持ち、その上には五千枚もの金貨が山積みにされていた。

 

 金貨の山を崩さないようにゲルドは、長テーブルの上に静かに盆を置き、その金貨の重みでテーブルがギシリと音を立てる。

 

「なっ!?」

「あれ、全部金貨なのか?」

「まさか……」

「あれ、が、全部……」

 

 ざわめく大会議室内。

 

 山積みにされた金貨を見た途端、ミューゼ公爵は目に見えて焦り始めた。

 ここに来てようやく、自分の計画が破綻した事に気付いたのだ。

 

「支払い、でしたな。宜しい。ドワーフ金貨にて、支払いに応じましょう」

 

 そうリグルドが宣言すると、室内が水を打ったように静まり返ってしまう。

 

「お、お待ちを、お待ち下さいリムル陛下!?」

 

 慌て声を上げるミューゼ公爵。

 

「何か?」

 

 それに冷たく返すリムル。

 

 しかし、ミューゼ公爵は必死な形相でリムルに問い掛けて来た。

 

「こ、これは全てドワーフ金貨なのですか? 贋金(がんきん)は完全なルール違反ですぞ!?」

 

(うーん、贋金(がんきん)って。それ、俺に言っちゃうんだ。その言動は大失態だと思うよ、ミューゼ君)

 

 ミューゼ公爵の失言に、流石に呆れ返るリムル。

 

「リムル様に対し、無礼ですよ」

 

 そう言って、ディアブロが前に出る。

 

 ベニマルとゲルドも怒りの形相を浮かべ、シオンはリムルの後ろで不穏な気配を漂わせ始めていた。

 

(ああ~あ。こうなるから、迂闊(うかつ)な事は言わないで欲しいものだわ。これがツキハなら、眷属達が『ツキハ様ならやりかねない』や『いつもの事じゃん』とか言って笑い飛ばすんだろうけど、うちの配下はこういうところは許さないんだよ。だから、宥めるの大変だからもう少し言動に気を付けようね、ミューゼ君) 

 

 幹部達の様子を察知したリムルは、やれやれといった気分になる。

 

「し、失言でした。ですが、これは本当に本物の金貨でしょうか――」

「疑われるのならば、鑑定して頂いても結構ですよ」

「――!?」

 

 リムルが笑顔でそう返すと、ミューゼ公爵は言葉も発せられずたじろいでしまう。

 

 そこへ。

 

「魔王陛下。突然の会話への割り込み謝罪致します。私の発言をお許し頂けますでしょうか?」

「うむ、許す」

 

(ほう、早速出て来たな)

 

「それでは、私の重宝している魔道具にて調べさせてもらいたいのですが、御許可を頂きたく存じ上げます」

「ああ、構わぬ」

 

(さあて、これ全部本物なんだけど、どういう顔をするか見ものだ) 

 

 ミューゼ公爵の工作員の申し出に、笑顔で了承するリムル。

 

 それを聞いて工作員は、腰に下げた大きめのポーチから鑑定用の魔道具を取り出し、金貨を無作為(むさくい)に手に取り一枚一枚念入りに鑑定を始める。

 

 ……

 

 商人達が不安な表情でそれを見つめる中、扉の外から。

 

「リムル様、記者の方々が、交渉の様子を記事にしたいと申しております。如何(いかが)致しましょう?」

 

 鑑定を始めた同時にリムルから『思念伝達』を受けたシュナが、声をかけて来たのだ。

 

 外にいる記者達は、ディアブロの要請で集まった記者達。

 そして、中にいる変装した記者の一人も、ディアブロの差し金である。

 

 リムルがタイミングを指示したら、乱入してもらう手筈(てはず)になっていたのだ。

 

「それならば、丁度いいではないか。金貨の真贋(しんがん)を鑑定するなら、記者の皆さんにも立ち会ってもらえ」 

 

 シュナに応えて、代わりにベニマルがそう言うと、予定通りに記者達がゾロゾロと大会議室に入って来た。

 

 記者達が鑑定を見守る中、やがて。 

 

「ほ、本物です――ッ!!」

 

 驚愕して叫ぶ工作員。

 

「確かに。これはまた見事な金貨ですな。かなり古い年代のものも御座いますね。これは市場には出回っていなかったのでしょう」

「ほうほう、これはこれは。こちらは比較的新しいものというか、現在一番流通している金貨ですかな」

 

 物知り顔の記者の二人が、そんなふうに金貨を評した。

 

(古いもの、多分だがエルメシア殿に交換してもらった金貨だろう。あの人、もの凄く溜め込んでるみたいだし。新しい金貨は、ツキハとコハクのヤツだろうな。アイツらは、あちこちに融資というか、金の使いどころを熟知している(ふし)があるんだよなぁ、特にコハクが。これも、千年以上も生きて来た(あかし)ってヤツかもな。それにツキハは、裏で何やってるかわからんし。ホント、(しの)びって(なん)なんだよと、言いたいよ。ククッ) 

 

 リムルはそう思いながら、心の内でクスリと笑う。

 

 記者達まで鑑定した事で、工作員に出来る事は何もなくなった。

 ポケットに忍ばせた鴈金を本物の金貨とすり替えようとしても出来なくなり、記者達の行動は有効に作用していたのだ。

 

 だがしかし、もしそんな事をしようもなら、影から監視しているソウエイが黙ってはいないだろう。

 

 そう、ミューゼ公爵は、完全に詰んだのである。

 

「さて、もう宜しいかな? 商人の方々も代金の心配をしていたようだし、さっさと支払いを済ませてあげなさい」 

 

 リムルが威厳たっぷりにそう言うと。

 

「「ハハッ!」」

 

 と、リグルドとミョルマイルが頷いた。

 

 そして二人は、書類を確認しながら商人達への支払いが開始された。

 

 …………

 

 何事もなく、記者達の監視の下で支払いは滞りなく済まされていく。

 

 ……

 

「どうやら、貴方が最後のようですな」

 

 そう、ミョルマイルが告げる。

 

 これにて、今開国祭の取引が無事に終了したのであった。

 

「ハ、ハハハ、流石はリムル陛下ですね。まさかこれほどのドワーフ金貨を、一体どのようにして集めたのやら……!? まさか、あの忌まわしき〝傭兵商会ルヴナン〟に融資を要請したのではありませんでしょうな?」

「まさか。契約はすれど、そこまではしてくれませんよ。仮に、融資をしてもらったとしましょう。如何様(いかよう)な対価を要求されるかわかったものではありませんし、建国したばかりの我が国にとって、それはあまりにもリスクが高過ぎる。その辺りは、そちらの方が良くご存じでは?」

「あ、うむ、確かに……。アヤツ()が、損得勘定無しに動く事はないでしょう、な」

 

 引き攣ったような笑顔でルヴナンの名を出してはみるも、あっさりとリムルに否定され、しかもそれを自分に振られて返す言葉もないミューゼ公爵であった。

 

 予定とは違う流れに戸惑う商人達。

 

 そんな中、工作員が悪びれもなく声を上げる。

 

「魔王陛下。私共しましては、国際法を守って頂けるのなら文句は御座いません。これからも御贔屓にして下さればと――」

「ああ、それは遠慮させてもらおう」

 

 にべもなく告げるリムル。

 

 その言葉に商人達は、信じられないといった顔でリムルを見る。

 

 リムルの配下である幹部達も、同様であった。

 

「そ、それはどういう……意味で?」

「君達との取引はこれで終わった。それだけであり、次はない、という事だよ」

 

 至極当たり前の顔をして、そう宣言するリムル。

 驚いた顔をする幹部達。

 

 だが、ディアブロだけは違った。

 楽しそうに笑っていたのだ。

 

(ホント、コイツだけは俺の考えはお見通しいう感じで困ったもんだよ)

 

 ディアブロを見て、どこか諦め顔のリムルであった。

 

 

「あまりにもそれは、仰っている意味がわかりかねます……」

「ど、どういうつもりだ? 金さえ払ってもらえるなら俺達もアンタ達を信じられるんだが?」

「私共が小売りだからと下に見ておられるのか? 行商なくして、国同士の付き合いもままならぬのですぞ!?」

 

 ようやく理解が追い付いたのか、商人達が口々に叫び始めた。

 

「お前達、この国の王であらせられるリムル様に対し、無礼が過ぎますよ?」

 

 静かに怒りを燃やし目を鋭利に細めたシオンがそう言うと、流石に行き過ぎたと思ったのか商人達は押し黙った。

 

「あのさあ、化かし合いは面倒なんでハッキリ言うけど、さっきまでお前達は我が国が〝信用〟出来ないと騒いでいたよな? 信用ってのはさ、互いが信じる事で成り立つもので、一方が相手の言い分を全て聞くようなものではないと、俺は思う。でさ、ミョルマイルは何度も、何度も、誠心誠意コチラを信用して欲しいと君達に頼んだよな?」

「そ、それは……」

「ですが、ここ、は……魔の……」

「まあ、君達の考えはわかるよ? 俺達は魔物だし、コチラが西側諸国と付き合いたいと言っても、果たして人間の定めたルールを守るのかわからない。ましてや、ルール無用の傭兵商会ルヴナンに番外魔王の二人が我が国に居ついた訳だ。その、強大なる力を振りかざすのではないかって思う気持ちはわかるよ」

「その通りなのです! ですから――」

「でもさ、だからこそコチラも妥協して、我が国の特産物との物々交換や古代金貨での支払いを提示しただろう? そこには、踏み倒すつもりも逃げるつもりもない。しかしだ、その全てを蹴ったのはお前達であり、それを受けてくれたのはガットエランテの隊長と十数人の小売商達だけだ」

「――ッ!!」

「う……」

 

 ミョルマイルは必死で交渉し、何度も何度も頭を下げた。

 その全てを拒絶したのが、今ここに残る商人達である。

 

 リムルがそれを許す事は、ないだろう。

 

「お前達が信用出来る相手としか取引したくないように、俺達もまた、信用出来る相手としか取引をしたくはないんだよ。リアナ殿の行動を軽視した、お前達の判断の誤りだよ。先見の目が、なさ過ぎる。そんな相手と、お前達は取引をしたいか? それが答えだ。よってお前達が、我が国で商売をする事を一切認めない。入国するのは禁止にしないけど、商業許可が下りるとは思わぬ事だ」

 

 リムルの宣告に、商人達は事の重大さをようやく理解した。

 

 この、今後発展する事が見込まれる新天地にて、自分達の居場所が完全になくなったのだ、と。

 

 そして、それを聞いていたミューゼ公爵の顔が一瞬で青褪めていき、計画の破綻を悟る。

 

「そ、そんな横暴が許されるものか!! この者達は、国際法に基づく正当な権利を主張したまでなのだぞ!!」

 

 たまりかねたミューゼ公爵が叫んだ。

 魔国との取引がご破算になるのを、困るかのように。

 

 魔国連邦(テンペスト)は、経済圏の中心になるべく動き出してしまった。

 もうそれを、止める術がないかの如く革新の針は進むのみ。

 

 だからこそミューゼ公爵は、こんな手段を取るべきではなかった。

 先行してリムルと(よしみ)を通じたいと思うのならば、尚の事。

 

 出世欲に駆られた時こそ、冷静になるべきだったのだ。

 

 リムルは、〝あの一見〟以来、敵には容赦しなくなったのだから。

 

「権利ね、勘違いしているようだから訂正しておくけど、我が国は西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウエスト)に加入していない。知っているだろう? まあ、加入したいとは考えているけども、出来なかったら出来なかったで、それは別に構わないんだ」

「なっ――ッ!?」

「だってさ、この地が巨大経済圏の中心になるのは確定事項だからね。何故ならば、俺がそうしたいと思っているからだ」

「何を馬鹿な!? 個人の意思で、そんな傲慢な事が――」

「傲慢じゃないさ。皆が一丸となって、目標に向かって頑張ってくれている。そして、様々な協力者も出来た。ならば必然、結果は付いてくるものなんだよ。俺はな、その手助けをしているに過ぎない」

 

 そうハッキリとミューゼ公爵に言い放つ、リムル。

 

 実際リムルは、自分が欲しいものを優先させて実現させているだけであったりもする。

 傲慢と言われても仕方のない事だが、それが後々に世界の発展に繋がれば良いと考えればこそ、敢えてミューゼ公爵に堂々と言い返したのであった。

 

西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウエスト)とも、対等な関係を築きたいと思っているよ。でもな、俺達の頭を押さえ付けようとするのなら、そんなのは真っ平御免なんだ。無理をしてまで付き合わなくとも、自由組合を通せば済む話。それにお前達は、ガットエランテの規模を、俺達より知っているハズだ。あの規模に勝てる行商隊は、いるのか? いるのならば、教えてくれ」

「「「「「……」」」」」

 

 リムルの言葉に、反論の言葉もない商人達。

 

「と、いう事だ。理解してくれたかな」

 

 反論なら聞こうと、リムルは商人達を見回す。

 

 しかし皆(うつむ)いたまま、リムルを見ようとしなかった。

 

 ここまでくれば、もう慌てる必要はない。

 後はゆっくりと自国を磨いて、その重要性を高めていけばいいだけ。

 そうすれば、必ず信用してくれる国家が現れる。

 

 それは既に、リムルの中では確信へと至っている考えだった。

 

「わ、わかりました。それではワタシが、評議会との橋渡し役を担いましょう。どうやら悲しい誤解が生じたようですが、ワタシはリムル陛下の役に立ちたいと願っておるのです。ガットエランテより、お役に立って見せましょう」

 

(うーん、頑張るね、ミューゼ公爵も。もう仕方ないか、ここまで言うつもりはなかったのに)

 

 リムルは性懲りもなく諦めの悪いミューゼに対して、トドメの一撃を喰らわす。

 

「うーん、ミューゼ殿には仲介を頼めないな。だって君、何の思惑があったかは知らないけど、それが破綻して、おまけにもう失脚するだろ?」

「は?」

 

 キョトンとした顔で、何を言われたか理解出来ない様子のミューゼ。

 

 リムルは、どうせもう終わった話なので、ここまで来たら皆説明してやるのが優しさだろうと、説明を始めていった。

 

「ここにいる記者の皆さんは、それぞれの国に戻ったら記事を書く事になる。我が国が開催した開国祭の裏側で、商人達との支払いを巡る攻防があったのだ、と。そこには勿論、リアナ殿との会話も含まれるだろうね。それは、君が一番知ってる事じゃないかな?」

「……」

「それで事実関係を明確にして、後は、面白おかしく記事にするだろうな」

「…………」

 

 ミューゼ公爵は、目まぐるしく頭を回転させているようだった。

 

 何故魔王リムルが、リアナとのやり取りを知っているのか、自分の手配した記者の中に裏切り者がいたのかと、考えるも、それを口に出す事は流石に出来なかったミューゼ公爵。

 

 実際は、『万能感知』で全て見られ聞かれていたのだから、どうしようもないのである。

 

 そして、その先を想像してか、ミューゼ公爵の顔色が一気に悪くなっていた。

 

(あーあ、だから言いたくはなかったのに)

 

「我が国のお願いを突っぱねて、ドワーフ金貨での支払いしか応じぬ商人達。そんな商人達を取り纏める大貴族。そして、それに従わずにこちらのお願いを聞いてくれた行商隊の隊長を取り込もうとした、不可解な言動。さて、その記事を読んだ者達は、どんな感想を抱くと思う?」

「そ、それは……」

 

(まあ、仕組んだのはディアブロなんだけどね。記者団を集めて、情報をつまびらかに公開すれば、それだけで我が国の正当性は証明される。そして、商人達の裏に陰謀めいたものを感じ取れるだろう、と。更に、ガットエランテの隊長の行動の後に続かなかった者がそうであると、も。俺もその意見に賛同したんだ)

 

 項垂(うなだ)れているミューゼ公爵を見て、策士、策に溺れたなと、リムルは思った。

 

(情報は正しく使ってこそ、意味がある。コハクの言葉だったな。捏造(ねつぞう)されてアレコレ言いふらされるよりも、こういう時は、先に正しくありのままを伝えるのが望ましいんだよな。それもこれも、ガゼルやエルメシア殿、コハクにツキハから意見を聞けたお陰で、思い付いた作戦なんだけどね)

 

 リムルは、一人では多分()められていたのかもなと、内心、苦笑いを浮かべる。

 こういう時の仲間は、本当にありがたいと心底思ったのだった。

 

(ディアブロも、「まだまだ勉強が足りませんでした」と、ガゼルとエルメシア殿に感謝していたものな。何故かコハクとツキハには、「伊達に元人間だった訳ではないのですね」と、何か皮肉たっぷりに言っていたけど。それがディアブロなりの感謝の言葉だったんだろう。その証拠に、あの二人がディアブロに喰ってかからなかったからな。今回は、かなりあの人達の世話になったと思う。特に、ガットエランテがルヴナンの傘下組織だと聞いた時は、思わず吹き出したものなぁ。今度、ちゃんとお礼しないとな、あの四人に)

 

「そういう訳だ。残念だが、君の出番はない。そして、君が舐めていたミョルマイルには、この俺が全幅(ぜんぷく)の信頼を置いている。何せ、我が国の財務を任せているほどでね。それに、あのルヴナンと対等に取引が出来る、数少ない我が国の一人でもあるんだ。君よりよっぽど役に立っているぞ」

「くっ――ッ!?」

 

 リムルの言葉に対して、屈辱に顔を(ゆが)めるミューゼ公爵。

 

 ルヴナンと対等な取引が出来ると、魔王リムルから直接言われたミョルマイル。

 それを聞いた商人達は、絶望の表情を浮かべ言葉を失う。

 

 で、対照的なのは、思ったより楽しそうな記者の姿だった。

 高価な、映像記録用の魔法道具(マジックアイテム)を持つ者もおり、軟式ボールくらいの大きさの記録用水晶球を手の平に載せ、この様子の映像を記録していた。

 

 ミューゼ公爵は、自分の保身の為に記者を呼んだようだが、逆にそれが命取りになったのだ。

 

 そして、リムルは最後の言葉をミョルマイルに告げる。

 

「後は任せるぞ」

「お任せ下され、リムル陛下」

 

 リムルは去り際に、恭しく畏まるミョルマイルの肩を叩き、「頼んだよ、ミョルマイル君」と、(ささや)く。

 

 幹部達もリムルの後に続き、大会議室から出ていった。

 

 ミョルマイルは苦笑いを心の内で浮かべ、それを表情に出す事はない。

 

 そのまま商人らしい計算高い目でミューゼ公爵を見やり、残る商人達を見回す。

 

 此度の武闘大会の手際にこの支払いの件を、見事にやり切ったミョルマイルの姿は、幹部達の心に留まった事だろう。

 

(これで、ミョルマイルに財務統括部門を任せても、誰からも文句は出ないだろう。うんうん、着実に国政を成す事が出来る重鎮が、ここに一人誕生した訳だ。また一歩、俺の夢に近付いたな)

 

 リムルは廊下を歩きながら、満足した表情で窓の外に目を向け、晴天の空に流れる雲に思いを寄せた。

 

 

「それでは皆様方、滞りなく無事に取引が終了しました。どうぞ、お引き取りを――」

 

 扉の向こう側から、ミョルマイルの重々しい声が響いて来た。

 

 

 そしてこの声が、事実上の取引終了宣言となったのだった。

 

 

 





 この作品を読んで頂き、ありがとうございます!

 次回の更新もよろしくお願いします!


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。