忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。196話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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196話 恒例の反省会 え、ツキハが参加してる!?

 

 

 ミューゼ公爵とそれに加担した商人達を完全にやり込めた、リムル達。 

 

 しかし、リムル達にはまだ問題が残されていた。

 

 

 そう、恒例の反省会である。

 

 

 応接用ではない迎賓館敷地内にある庭園に、丸天井を幾本もの石柱に支えられた屋外会議室があった。

 そこには壁などはなく石柱と丸天井だけで、広い庭園を見渡せるように造られていた。

 

 ここは、庭の景色を見ながら軽い討論や談議をする場所としてリムルが造らせていたのだ。

 円形状に並べられた椅子に、飲み物やちょっとした食べ物を置けるよう、椅子一つに付き小さな丸テーブルが備えられていた。

 

 今回の反省会は、晴天で綺麗な庭園が望めるので、ここを利用する事にしたリムルである。。

 

 当然迎賓館敷地内は関係者以外立ち入り禁止となっていて、ゴブタやリグルの警備部隊が周辺と迎賓館敷地内の警備を担当していた。

 

 そして、暇な番外魔王眷属達が、忍魔猫へ変幻(へんげ)してそれに協力をしていたのだ。

 迎賓館の屋根の上には、数匹の忍魔猫が周辺を警戒していた。

 

 

 来客として、ガゼルとエルメシア、ヨウム一行、フューズ、それに、ユウキとヒナタにマサユキまで参加している。

 

 それと他にも、珍しい客人が数名。

 リムルの呼びかけに応じて、集まってくれていた。

 

 後は、リムルの配下であり幹部達。

 

 最後に、番外魔王コハクと、番外魔王ツキハが参加していた。

 

 ツキハは、シュナから今回の反省会への参加を要請され、あくまでも予定がなければ参加をと、お願いしたのだが、驚く事に今回は二つ返事で参加を承諾して来たのだ。

 

 そうその時、〝とある事〟を聞いたからツキハは了承したのである。。

 

 コハクに関しては、リムルが事前に要請して、それを承諾していた。

 

 こうして、大人数の反省会となったのだ。

 

 ただし、ミリムを筆頭とした魔王勢は呼んでいない。

 

 あまりに人数が増えすぎても、様々な意見で収拾がつかなくなる場合があるので敢えてミリム勢の方は呼ばなかったリムル。

 

 そんな中で、リムルが気にするのはヴェルドラの事。

 

 ツキハの隣に座るヴェルドラが何やら()ねているようで、ツキハが(なだ)めていたのだ。

 

(あれ、何か言い出すつもりじゃないだろうな。ツキハが「当分無理だって」とか言ってるし。どうせ挑戦者はいつ来るのだ? とか、の愚痴だろうけど……)

 

 リムルは後から面倒臭い事にならなければいいなと、思うばかりであった。

 

 

「えー、()ずは皆様、今回はお疲れ様でした!」

 

 リムルの(ねぎら)いの言葉から、反省会開始の合図となる。

 

 そして、最初に口を開いたのは、何とベニマルだった。

 

「しかし、意外でしたよ。あの商人達まで、リムル様が断罪するなんて思わなかったですよ」

 

 幹部の大半は金貨を支払って終わりだと思っていたらしく、大半の幹部がそれに(うなづ)く。

 

 そんなリムル達の会話を聞いていたガゼルが興味を示し、「何をどうしたのだと?」と、リムルに問い掛けて来た。

 

 リムルが事の顛末を語り説明すると、「思い切った真似をする……」と、半ば呆れたように返す。

 

 それに対してエルメシアは。

 

「ウフフフ、私はそれで正解だと思うわよお。やられたら、やり返す。当然、その先の事まで考えての事よねえ?」

 

 と、にこやかに話しに割り込んで来た。

 

 流石の洞察力で、リムルの考えを見抜いたエルメシア。

 

 それに対し、ベニマルが「どういう事ですか、リムル様?」と、問うて来たので、リムルは自分の考えを口にした。

 

「あの時に言った通りさ。俺は、西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウエスト)の風下に立つつもりはない。ただし出来るならばだが、対等な関係で仲良くしたいとは考えている」

「それは存じ上げておりますぞ。ですから、我々もある程度の我慢が必要だと考えておりました」

「うん、その通りだリグルド。でもな、あのミューゼ公爵は、大貴族であっても使い走りなんだよ。相手のルールを守って上で、俺がミューゼを拒絶した。となると、今度は上役が出て来ざるを得なくなるのさ」

「せやねえ。そうするのが一番手っ取り早いさかい、その手が最善どすな。(なに)しろ、首輪をつけ損ねたんやから。フフッ」

 

 ここでサラリと、コハクが相手の意図を看破したような発言する。

 

 このコハクの言葉に理解を得たリグルドが、更にリムルに問うて来た。

 

「――つまり、もう一度、交渉の場が設けられると?」

「そう。その時点で相手が失態を犯した後だし、コチラが有利に交渉を進める事が出来ると思うよ?」

「なるほど……」

「向こうはさ、俺達と明確には敵対したくはない、と考えていると思う。だからこそ、コハクが言ったように首輪を付けて取り込みたかったんだろうし、それが失敗した今、俺達を対等な相手であると認めざるを得なくなった訳だ。そうなると――」

「経済戦争を仕掛けるか、再度交渉をするか、か。経済戦争を仕掛けるには、互いに準備不足よな。両者共に、相手の存在がなくとも経済圏が成立するであろう故に。しかしだ、この世界最大規模の行商隊、ガットエランテとの繋がりが出来たこの国は、もはや楽観視は出来ぬ存在になっておるであろう。今回の場合、交渉を終えたら、それで終わり。この事を(かんが)みれば、どう転んでも、リムル達の方が圧倒的に有利だろうな」

 

 リムルの言葉をガゼルが引き継ぎ、説明を補足する。

 

「まあ、経済戦争を仕掛けられた場合は、西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウエスト)の定める国際法とやらに関係なく、独自に各国の取り込みを開始できる。それは戦争ではなく、経済侵略に近いかもな」

「クフフフフ、私にお任せ下さい。さすれば、西側諸国を丸ごと全て、リムル様の手に献上して御覧入れましょう!」

 

(いや、要らねーし。俺・は・ね、そういうのは、求めてないの! 流石の俺もドン引きだよ、まったくもう)

 

「お前ねぇ、そんな事をされても、後が面倒なだけだろうが!」

「こ、これは失礼しました」

「茶坊主が。貴様は出しゃばらず、リムル様にお茶のお代わりでも差し上げてればいい!! ついでに、ツキハ様のお茶のお代わりも入れて差し上げろ!!」

「言うようになったねぇ、シオンは。ククッ」

 

 落ち込むディアブロに、シオンの追撃。

 それにクスクスと笑うツキハ。

 

(うーーむ。シオンにもドン引きだけど、まあ、今は良しとしよう、しかし、仲が良いのか悪いのか、ツキハとは違う関係だよなぁ、シオンとディアブロって)

 

 そんな事をチラリと思う、リムルであった。

 

「今のディアブロの提案は、時間を掛ければ実現可能だとは思う。だけどな、それをする意味は、今のところ全くない。争いが多発するようなら考えはするけど、その争いに千年以上関わって来た傭兵商会ルヴナンが、番外魔王の二人が、未だにそれを望まないのは何故か? と考えたんだ。それは、俺の考えと同じではと、思ったんだ。ようは、面倒臭い、余計な苦労を背負い込む必要はない、と。だから、友好関係を築くなら、そんな面倒な真似をしたくはないというのが本音だよ。まあ、ぶっちゃけ、番外魔王の二人は、世界を征服しても面白くないといったところだろうけど。銭を稼ぐのが面白くなくなるってな。でも、何が面白くなくなるかは、俺にはわからないぞ?」

 

 リムルの言葉に皆が納得をし、最後に笑いを誘う。

 

「そうねえ、確かに相手は交渉する他ないわねえ。でも、相手にも少し同情しちゃうわあ。輸出入による経済制裁も通じず、軍事的圧力などかけようとしたらそれこそ、真っ先に傭兵商会ルヴナンが出て来るんだもの。ホント、厄介なところと傭兵契約を結んでくれたものよねえ。これでは、良い条件を引き出そうとするのは困難だものねえ」 

 

 などと、(うそぶ)くエルメシア。

 

(それ、魔導王朝サリオンも、同じですよね? 二千年近く前から傭兵商会ルヴナンと、個人契約をしていたのは、どなたでしょうか?)

 

 エルメシアに対して、内心で一人突っ込みを入れるリムル。

 

(でも、これで相手の出方は制限されたんだよなぁ)

 

 と、エルメシアの指摘も的確ではあると納得はしてるリムルである。

 

「なるほど、その点は理解出来ました。それで、商人達への厳しい対応にも、何かお考えが――?」

 

 先ほどまで会話を聞きながら考え込んでいたゲルドが、質問をして来た。

 

 ゲルドとしては、支払いも無事終わったので、そこまで厳しくする必要はなかったのではと、考えていた。

 何故そこまでするのか、全員が工作員ではなかったし、ミューゼ公爵に弱みを握られていた者もいただろうし、そんな者達も全て纏めて断罪したのが、皆にとっても一番意外な点だったのだろう。

 

 当然ながら、それには理由がある。

 

 リムルがニヤリと笑い、ミョルマイルに視線を向ける。

 

 それを察し、満面の笑みでミョルマイルが口を開いた。

 

「フッフッフッ、それに付きましては、私が御説明致しましょう。何、それは至極(しごく)簡単な話なのですよ、皆様。エルメシア皇帝陛下が仰った通り、やられた事をやり返しただけなのです」

「どういう事だ、ミョルマイル?」

「やられた事をやり返した、ですと?」

「ふむ、オレにはそれだけではわからんな……」

 

(ベニマル、リグルド、ゲルドも、その説明だけでは今一つ理解出来なかったようだな。まあ、あれだけで理解は普通難しいんだから仕方ない。ディアブロは理解してるみたいだな。静かにお茶を()れている。けども、少し元気がない? さっきの事まだ引き()ってるのかね。悪魔のくせに、メンタルが弱すぎるのではなかろうか? あ、ツキハのところにお茶を淹れにいった、あ、舌打ちをしながら淹れてるし。元気戻った? けど、珍しいな、ツキハのヤツがディアブロをあまり揶揄(からか)わないって、初めて見た気がする。今回大人しく参加して来たし、何か意図があって来たと、か……いや、ないない。多分暇だったから来たんだろう) 

 

 そんな事を考えるも、ミョルマイルの説明に耳を傾ける。 

 

「リムル様は、ワシに後を任すと仰いました。つまり、あの行き場をなくした商人達に恩を売り、ワシの手足とせよという意味なのですよ」

 

(凄いな、ミョルマイルは。伝わるだろうとは思っていたけど、見事に俺の意図を理解してくれたらしい。恐らく、リアナ殿の〝(ヘルバ)〟にも、気付いてるだろう。本当に、ミョルマイルをこの国に誘って良かったよ) 

 

 ――相手を従えたい場合、恐怖や威圧、暴力的な手段を取るよりも、恩を売る方がもっとも簡単で成功率も高い――

 

 それを言ったのがエルメシアでありコハクなのだが、リムルはそれを忠実に実行したまでである。

 

「なるほどな、流石はリムル様だ」

「そうでしたか、オレも納得です」

「それで、ミョルマイル殿。商人共の取り込みは、成功しそうですかな?」

 

 理解したベニマル、ゲルドが頷き、同じく理解したリグルドが更に質問を投げかける。

 

「フッフッフッ、それは抜かりなく。ワシが口を利いて取り成してやると申して、商人共に恩を売ってやりましたわい。リムル様が脅しておったお陰で、(こと)(ほか)簡単に話が進みましたぞ!」

 

 途端に悪い顔になったミョルマイルが、嬉しそうに報告をした。

 

 そんなこんなで皆がこの話題には納得をし、次の話題へと移っていったのだ。 

 

 

 ***

 

 

 次の話題、というより本題に当たるだろう。

 

「商人達については、今言った通りだ。ここ数日頭を悩ましていた問題も、ミョルマイル君がバッチリ処理してくれた。でだ、今回の開国祭について感じた点の意見を出し合いたいと思う。思った事は何でもいい、どしどし意見を述べてくれ!」 

 

 そうリムルが言った途端、ガゼルが(せき)払いしてから口を挟んで来たのだ。

 

「リムルよ、同盟国の王として言っておきたい事がある。昨夜もお前の暴走について意見したと思うが、今回も同じよ。アレはどういうつもりだ?」

「え、アレ? アレってぇ、何だろう?」

 

 リムルは何の話かわからないといった表情で聞き返すが、ガゼルは不機嫌そうな表情を崩さずに話を続ける。

 

「自覚なし、か。だからお前からは目を離せぬのだ!! ベスタ―よ、映写機を開発したのはお前とガビル殿だと言っておったな? それを応用して、遠方の情報までも映し出せるようにしたというのも、お前達の発案か?」

「ガゼル王よ、そ、それはですね……」

 

 しまったと、と言う顔のベスタ―。

 

 研究に没頭するあまり、ガゼル王への報告を忘れていたのが露見してしまったのだ。

 

「ガゼル王よ、それは違います。我輩とベスタ―殿と開発したのはその通りなのですが、魔王クレイマンの遺産たる映像記録用の魔法道具(マジックアイテム)と映写機を組み合わせる案を下さったのは、何を隠そうリムル陛下でありますれば!」

 

 ここで、空気を読まない事で定評のあるガビルが、アッサリとそう奏上した。

 

 気まずそうなベスタ―と、困った顔のリムル。

 

「――やはりそうであったか。これを公開する前に、せめて一言、相談が欲しかったぞ」

 

 疲れたようなガゼルが、そう苦言を呈して来た。

 

 リムル達にとっては便利なモノという価値しかないが、これが西側諸国の王侯貴族達にとっては話が違ってくると言いたいガゼルだったのだ。

 

「これは利用の幅が広過ぎて、何と言うか迷うほどだな。少なくとも、あの場でアレの利用価値を見出せなかった者などおるまいて。それにだ、ポーションについての発表の時に出た、〝とある人物〟とは誰なのだ? これに関しても、目ざとい国家が動きかねんぞ」

 

 そう、苦々しく言うガゼル。

 

 教授の事を持ち出され、流石には内心で焦るリムルだが、それを表に出す事はなかった。

 

「あんな魔法道具(マジックアイテム)が出来てしまっては、戦争の概念も変わっちまうだろうな。それに、〝とある人物〟だが、あの発想といい、紛れもなく天才だろうよ」

 

 ガゼルの共であるバーンがそう言うと、ドルフも「軍事転用が容易に出来る」と、同意するように頷いた。

 

 そしてここで、またも〝とある人物〟に関して、ユウキが切り込んで来た。

 

「本当に誰なんだろうね、その〝とある人物〟って。本当に、この国の関係者じゃないのかい?」

 

 ズバリ皆のいる前で、そうリムルに問い掛けて来たユウキ。

 

 それに対してリムルは――

 

「つい先日も聞いて来た事だよな。同じ返答で済まないが、俺の国の関係者ではないし、俺は知らないんだ」

 

 前に聞かれた時と同じように、ハッキリと返す。

 

「では、ベスタ―殿だったかな? その人とはどうやって知り合ったんだい?」

 

 今度は、質問の先をベスタ―に切り替えて聞いて来たユウキ。

 

「はっきり申しまして、数ヶ月前にふらりと現れた旅人なのです。この国に着く四日目に持っていた食料も金も尽きてたらしく、水だけは街道にある水飲み場で確保出来たらしいのですが、しかし、食べ物はなく激しい空腹状態でふらふらとしていたのを警備部隊の者が見つけ保護したのですよ。その時にたまたま居合わせたガビル殿が、その〝とある人物〟と話しましてな――」

「なるほど。では、ガビル殿はどういった経緯(いきさつ)で、その人と話したのかな?」

「我輩は、警備部隊の詰所に出来上がったポーションを納品しに、部下と出向いていたのだ。そして、あまりにも空腹そうだったから、持っていた干し肉を分けてあげたのが、始まりであった、な。リムル様にも、来訪者には悪人でない限り、優しく接せよと言われておった故にな。そこからだが、色んな話をする内に、魔導科学と精霊工学の探求をしていると言っておったな」

「へえー、魔導科学と精霊工学の探求かあ。もしかして、『召喚者』か『転移者』だったりするのかな?」

「うむ。確か、あれは、そう、『転移者』といっておった。十年以上前に、この世界に異世界から飛ばされて来たとか、何とか」

「そうなんだ。そんな『転移者』がいたなんて、驚きだなあ」

 

 ユウキの質問にベスタ―はスラスラと答え、ガビルは時折何かを思い出すように頭を捻りながら、それに答えた。

 

(ふーん。リムルさんはアノ時と同じ答えか。ベスタ―殿に、ガビル殿は、嘘を言ってるようには見えない、か。やっぱり、転移して来て誰にも知られずにこの世界に馴染んだと、か? いやいや有り得ないだろ、異世界人なら目立つし、この世界に異世界人と知られずに潜伏するなんて、可能なのか? ……もしや!?) 

 

 ユウキの疑念は深まり、ある事を思い出し、それをぶつけて来た。

 

「ちょっと、番外魔王コハク殿に、聞きたいんだけど。宜しいかな?」

「ええで」

 

 ユウキの問いに、澄まし顔で応えるコハク。 

 

「傭兵商会ルヴナンでは、元『召喚者』や『転移者』を傭兵として受け入れてるという噂があるんだけど、本当かい?」

「そやで」

 

 誤魔化しもせずに、アッサリと答えるコハク。

 

「じゃあ、その中にベスタ―殿とガビル殿が言った人物は、いたりして?」

「ハッキリ言うておきますけどな、うっとこは基本、戦える者(・・・・)しか雇わへん。戦えん者は、傭兵として戦場に出せへんさかい」

 

 さもありなんといった顔で返すコハク。

 

 この時、ツキハの『言霊逸(ことだまそ)ラシ』が発動した。

 

「ああ確かに、そうだね。もし、そんな人物がいたら、傭兵商会ルヴナンの武力が近代的なモノになってるかも知れないしね。貴女達の長い歴史の中で、未だにそんな噂すら流れて来ない。やっぱり、本当にどこにも属さない『転移者』なんだろう」

 

 そう、ツキハがこの反省会に来たのは、この為である。

 

 シュナから、リムルが教授の正体を気にしている者がいると言っていたと、聞いたからだ。

 

 それがユウキと聞くや、「行くよ」と了承したのだった。

 

 完全に無防備だったユウキの思考に、〝戦える者〟とコハクが言霊(ことだま)に乗せ、それにツキハが『言霊逸(ことだまそ)ラシ』をかけたのである。

 

 まんまとその事だけを()らされたユウキは、〝戦える者〟しか傭兵商会ルヴナンにはいないという事に、思考を持っていかれたのだ。

 

(まあ、そうだよねえ。あの番外魔王の二人がそんな人物を遊ばせる訳ないし、利用しないというのも有り得ない。これは、こっちから捜しに出た方がいいだろうね。あの二人に、見つかる前に) 

 

「ところで、その〝とある人物〟はまだこの国にいるのかな?」

「ひと月前に、ふらりとまた旅に出られたのです。何も言わずに……」

 

 ベスタ―が、どこか残念そうに言った。

 

「名前とかは聞いたのですか、ベスタ―殿? それと、性別はどちらでしょう?」

「女性の方で、年齢は四十代(なか)ばくらいでしょうか。名前は〝ノーバディ〟と名乗っておりました」

「ノーバディ、誰もいない、か。わかりました。自由組合でも、その〝とある人物〟を捜してみましょう。差し支えなかったら、他に、身体的特徴とか、どういった顔をしてるとか教えてもらえますか?」

「申し訳ない。名前と性別、年齢以外は、秘密にしてくれとの事でしたので――」

「ああ、そうでしたか。まあ、異世界人なので名前だけでも捜せるでしょう。無理を言いました」

「いえいえ、御力になれず、すみませんでした」

 

 こうしてユウキは、その疑念を捜すという方向に思考を切り替え、魔国と傭兵商会ルヴナンとは関係ないと結論付けたのであった。

 

 ベスタ―とガビルは、もしもの時の為に、いくつか口裏合わせを相談し合っていたのである。 

 

 特にガビルは、秘密を隠す時の仕草や言動などを、ベスタ―からみっちり教え込まれていたのだ。

 

 元ドワルゴンの大臣であるベスタ―の教えは優秀であった。

 ツキハの『言霊逸(ことだまそ)ラシ』があったとはいえ、見事にガビルは演じ切り、ユウキを騙し通したのだから。

 

 ここで、〝とある人物〟に関しての質問は終わった。

 

 それで最初の軍事転用の話に戻り、、如何にこれが軍事的に革新的なモノになるのかという事を、ガゼルが説明する。

 

 ()ず一つ目――安全な場所から軍に指示出来るという利点。

 

 ()いで二つ目――軍のお偉方が危険を冒さずとも、強硬偵察部隊が敵情視察を行い、速やかに軍本体に反映させる事も可能。

 

 三つ目――個対個の〝魔法通話〟に比べて、その情報量は圧倒的に多く、全員が同じ情報を共有出来るようになり、命令伝達の精度が飛躍的に向上するとの事。

 

 リムル達が気軽に公開してしまった技術は、この世界においては超文明となり得る可能性を示していたのだ。

 

 だから教授がその懸念性を見抜き、リムルにゆっくりと技術革命をやろうと進言したのである。

 

 こういった映像技術にしろ、この世界には過度な技術なのだと、ガゼルは重く静かな声で言った。

 

 が、しかし、教授もまた、矛盾と好奇心の塊であり、見えぬところでとんでもないものを開発していたりするので、リムルにとっては、ガゼルにはまだ絶対バレては駄目な存在でもあった。

 

 もしバレたら、それこそ説教だけでは済まないカミナリが落ちるのは目に見えているだろう。

 だが、いつかは言わないといけないのだ、が……。

 

 最後にガゼルは、リムルにもっと慎重になれと(さと)したのであった。

 

「ま、まあさ、これを扱うにはかなりの魔素量(エネルギー)が必要だし、使用者の魔力が高くないと駄目だしね。伝達距離や情報量も、使用者の力量に左右されるんだし、そんな簡単に広まらないと思うよ?」

 

 とりあえず、そう言ってツキハみたいに小首を(かし)げて誤魔化すリムル。

 

 実はそうした不具合も、教授の考案開発した魔素(エネルギー)の集積システムにより、改善されつつあったのだ。 

 

(流石にこの場では言えないよなあ。せっかく教授の存在を逸らす事が出来たのに、またぶり返しそうだからな。次はもう精神の隙がなくなるから、ツキハの『言霊逸(ことだまそ)ラシ』が効かないだろうから。仕方ない、後でコッソリと、ガゼルに相談するか。教授の存在も兼ねて。あぁ、火が付いたように怒るだろうなぁ……)

 

 リムル、怒られる覚悟を決めたのであった。 

 

「ともかく、軍事に転用出来そうなものは、軽々しく公開せぬように。それを娯楽に用いようなどと考えるのは、お前くらいのものであろうよ……」

 

 と、呆れたように言うガゼル。

 

 これに関しては、異世界人の転生者であるリムルのいた世界では、ハンディカメラや動画などを配信するカメラが娯楽用にあったのだから仕方ないともいえるし、リムルはその感覚でこれを利用しただけに過ぎなかったのだ。

 

 それがこの世界では、リアル情報伝達の魔道具(マジックアイテム)として軍事転用出来るものに早変わりする、これが異文化との接触による弊害とも言えるかもしれない。

 

 因みにリムルの元いた世界では、衛星軌道にある軍事偵察衛星なるものがある。

 この映像記録装置より、遥かに高性能で衛星軌道上から、地上の細かい映像を記録する事が出来る、軍事兵器の一つ。

 

 もしこれがこの世界に実現したならば、それこそ急速な軍事革命が起きる事は避けられないだろう。

 

 そんな危険性を(はら)んだ、魔国連邦(テンペスト)でもあった。 

 

 だがしかし、それを体現するかのような国家が存在する事は、リムルはまだ知らない……。

 

 

 ガゼルの小言も終わり、これでこの話題は終わったと思ったら、今度はエルメシアが口を挟んで来たのだった。

 

 

 





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