忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。199話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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199話 ヒナタの提案――隊長格の受難

 

 

 反省会にて、ついにヴェルドラが席を立ち発言して来た。

 

 その内容とは――

 

「リムルよ、我はいつまで待てば良いのだ?」

 

 と、何やら不満を口にして来たのであった。

 

(いつまで、と言われてもねぇ?)

 

 ツキハの説得も無理だったかと、若干諦め顔のリムルだが。

 

「何がだ?」

「迷宮だ! 決まっておるだろう。我がずっと楽しみにしておったのに、誰も地下百階層まで攻めて来なかったではないか!!」

 

(さっきあれだけツキハと一緒に叱ったのに、まるで反省していないよね? 今もずっとツキハが説明していたのにも関わらずにも、だ。本当に、困ったヤツだよ、ヴェルドラって。下手に言い返すと、大暴れしかねないし。さて、どうやって(なだ)めたもんかねぇ……)

 

 とりあえず、ヴェルドラに合せつつ言い聞かせようと考えるリムルであった。

 

「まあ、それについては俺も思うところがある」

「そうであろう? やはり頼もしいな。それで、今後はどうするつもりなのだ?」

 

(うーん、どう、と言われてもねぇ。少なくとも、冒険者の強さによって、住み分けしないと始まらないだろうね)

 

 リムルは色々と考えながら、思考を巡らせる。

 

「うん、あのままじゃ駄目だろうね。あれでも冒険者としては中級以上、マシな部類の挑戦者だったんだよ――」

「マシって……」

「失礼な話でやんす……」

「でもぉ、否定は出来ないのよねぇ……」

 

 リムルに言われてションボリする、エレン達三人組。

 

 そこへ。

 

「まあまあ、僕なんて歩いてるだけなのに、何故か地下十階層まで到着してしまってさ。気が付いたら仲間達がボスを討伐してしまってたんだよ……」

 

 マサユキがエレン達を慰める言葉を言うも、リムルはそれ嫌みになりかねないぞと思うが、エレンに関してはへこたれていないというか、本人達も問題ないような雰囲気だったので、リムルも放置しても良さそうだなと考える。

 

「――って事で、当分は出番はないものと思って欲しい」

「何ィ!? それでは、我やツキハ、ラミリスに、ミリムの頑張りはどうなるのだ!?」

 

(そこに俺も加えて欲しいんだけど? まあいいか)

 

「安心しろ。今回の迷宮のお披露目で、各国への宣伝は成功だと言える」

「ほう?」

「ミョルマイル君、説明してあげてくれたまえ!」

 

 リムルの合図で、ミョルマイルがスクッと立ち上がり、自信満々の顔でヴェルドラに説明を始める。

 

「今回の迷宮内部の映像を公開した事で、各国は興味を持ちました。あの宝箱から、希少級(レア)が出たのが大きな宣伝となったのです」

「我のお陰という事か……」

「アレを見た各国の貴族連中は、こぞってお抱えの冒険者達を派遣してくるものと推測しておるのです!」 

「おお!!」

 

 ミョルマイルの発言に、ヴェルドラは歓喜の声を上げる。

 

 そして、ミョルマイルの説明は続いていく。

 

 貴族は冒険者や腕の立つ傭兵なんかを、用心棒として雇っている者が多い。

 つまり、そういう者達がこの迷宮から財宝が出ると知れば、多くの冒険者や傭兵などを派遣して富を得ようとするだろう、と。

 

 事実、これは秘匿情報だが、人間のルヴナンの傭兵で素性を隠し貴族の用心棒に付いてる者が、既に雇い主の貴族から迷宮派遣の要請を受けたと、ルヴナン本店に知らせが入っていると、ミョルマイルは聞かされていたのだ。

 

 この事はリムル以外知らないし、この場ではミョルマイルは言わなかった。

 

 また、雇用主のいない冒険者や、あちこちを渡り歩く傭兵なども、一獲千金を夢見て迷宮を訪れるだろうとも。

 

 あのガイを見てもわかる通り、希少級(レア)というのはそれだけ入手困難なのだ。

 それが特質級(ユニーク)ともなれば、血眼(ちまなこ)になって手に入れようとするのは間違いないだろう。

 

 更にもう一つ、ここでは言わないが、ミョルマイルはもっとあくどい事を企んでいた。

 

 それは、アタリを引くサクラである。

 射幸心を煽る手口だ。

 

 皆の目に留まるように価値あるアイテムを入手させて、競争心を抱かせるのである。

 このサクラは番外魔王眷属達に既に通達済みで、手の空いてる者が要請があった時にこのサクラをやる事になっていた。

 

 何故眷属なのか、それはサクラの存在を認識させない為である。

 ツキハとコハクの眷属達は、常時『猫騙し』の恩恵を受けれるからだ。

 

 そんな小細工を(ろう)しつつ、冒険者や傭兵に貴族達を虜にする作戦だった。

 

 ミョルマイルには、更に腹案があった。

 

「それだけでは御座いません。賞金制度――というものを設けようと考えております。地下百階層――地下迷宮お披露目の時にリムル様が仰いました、この迷宮を制覇した者への莫大な報酬。これを大々的に宣伝すれば、多くの貴族が冒険者や傭兵などを支援し、この地に送り込んで来ると考えております」

 

 そう言ってミョルマイルは、ニヤリと笑った。

 

 ミョルマイルは、貴族が出資者(スポンサー)となり、冒険者や傭兵などを送り込んで来ると考えていたのだ。

 

 自分のお抱えの冒険者や傭兵達が活躍すると、貴族としての面目も立つし、自慢が出来る。

 更に、大きな利益が得られる可能性が高いとくれば尚更(なおさら)だろう。

 

 貴族が動くには十分な理由だと、ミョルマイルは言う。

 

 そして、そのスポンサーになる貴族達には、この国でゆっくりしてもらい、様々な娯楽を堪能してもらうつもりだとも言った。

 

「それでですな。地下迷宮のお披露目の時に使用した映像装置を使いまして、迷宮攻略の様子を放映致します。食事や酒を楽しみながら迷宮攻略の観賞をと。こういう事で御座います」 

 

 そう言うとミョルマイルは、皆をゆっくりと見回した。

 

(スポンサーかあ。この案を聞いた時は、本当にミョルマイルを見直したね。先の先まで見通してるなんて、生粋の商人だわミョルマイルって)

 

 ミョルマイルの説明を聞きながらリムルは、これを聞いた時の事を思い出していた。

 

 そしてもう一つ、リムルはミョルマイルと何度も何度も議論を重ね、更に教授の意見も聞き、自由組合に協力を依頼するという計画を立てていたのだ。

 

 既にヴェルドラはミョルマイルの勢いに()されたのか今は大人しく、ツキハと小声で何やら話していた。

 

 これをチャンスとばかりに、ミョルマイルは発言を続けていく。

 

「自由組合の総帥のユウキ・カグラザカ殿、実は貴方様にお願いというか、提案が御座います」

「提案? 何かな?」

「今説明した通り、迷宮攻略に賞金を懸ける予定です。それをですな、自由組合の管理で行ってもらいたいのですよ」

「ほお、何故だい?」

「宣伝効果というのが第一の理由ですな。各国に支部がある組合であれば、広く速やかな宣伝が期待出来ますので」

「なるほど、もっともな意見だね。それで、他の理由は何かな?」

「はい。挑戦者を管理するのに、冒険者カードを利用したいと考えたのです」

「なるほど、ね。良く思い付くものだよ、全く……」

 

 ユウキは感心したのか呆れたのか、深々と溜息(ためいき)を付いて考え込んでしまう。

 

 そこへミョルマイルが、矢継ぎ早に意見を言って来る。

 

「ですが、これには自由組合にとっても利点が御座いますぞ」

「ん?」

「リムル陛下の命令によって、ジュラの大森林の魔物は管理されております。ジュラの大森林に接する長大な国境線を、今後は我が国が管理する事になるでしょう。そうなれば――」

「なるほど、魔物の討伐の仕事も減るって訳かい? それによって起こる弊害は、考えてあるのかな?」

「はい。それに関しては、過度の管理は行いませぬ。大森林の生態系を壊す原因になると、リムル陛下はお考えです。街道沿いの魔物は、利用する人々の為に結界で守られておりますが、それ以外は極力今まで通りで行こうと。しかし、一部の危険な魔物だけは既に大森林の奥地へと移動させております――」

「ふーん、意外だねえ。もっと、徹底した魔物の管理をすると思ったんだけど」

「ええ、それも考慮したのですが。近隣周辺の村々などに聞き取り調査を行った際、魔物である魔獣を狩り、その素材で生計を立てている村も多数存在し、農業と合わせて狩を行っている村も御座います」

「うん、その村などからも自由組合は、魔獣の素材を買い取っているからね」

「はい、その通りです。その魔物が大森林の奥地に生息地を移せば、死活問題になりますからな。奥は、B、Aランクの魔獣が多数生息してる故、狩の危険性が増しますからな。それにもう一つ、討伐依頼が減れば、冒険者の生活にも直結します。それでリムル陛下は、お考えになったのです――」

 

 ここでミョルマイルはユウキを真っ直ぐ見据えると、一呼吸間を置き再び口を開く。

 

「それは、冒険者の質の低下です。いくら迷宮がリアルに近いと言っても、死ぬ事はない、限りなくリアルに近い疑似的空間なのです。これに慣れてしまうと、現実での魔物との戦いに支障が出かねない。だから、迷宮攻略は冒険者の訓練の場、更に初心者である冒険者育成の場と、リムル陛下は捉えておるのです」

「ふーん、そこまで考えているんだね。それで、最初に言った利点とは?――」

「それは、通常の魔物討伐にて得る、〝魔晶石〟や毛皮や牙、爪などの、魔物の素材に加えて、迷宮攻略で得た同様の素材も定期的に仕入れられるようになると、いう事です」

「――ッ!?」

「そうなれば、組合の収益も増えるのでは?」

「確かに。一気に収益が増すのは間違いないね」

「それにですな、冒険者などを恒久的に地下迷宮攻略に縛り付けるのは流石にやり過ぎだとは思っております。しかし、我が国もこれを一大事業の一つと捉えております故に、自由組合の正規の依頼を定期的に一定数こなした者が地下迷宮に入れると。初心者の冒険者に至っては、組合の許可で入れると。このようにすれば、互いに軋轢が生じる事もなく、冒険者の質の低下も防げるのではと、考えております」

「なるほど。それで、冒険者カードを利用するという発想に到ったんだね」

「はい。宣伝と、諸々の管理をと。それに、冒険者の職を奪うのが目的では御座いません。我が国の迷宮がそれの替わりになるのは確かですが。これも共存という事です、商いの」

「ふむ……」

 

 これでミョルマイルはの意見は全て出尽くした。

 

 果たして、ユウキの反応は? 

 

(まいったなぁ、冒険者の質の低下とか。そこまで考えてたのか、あのスライムは。僕としては、この地下迷宮に溺れてくれた方が都合が良いんだけどね。出来れば平和ボケしてもらった方が、世界征服がやりやすくなるんだけど。コイツ等、何か先を見越してないか……? いや、考え過ぎか……それとも、番外魔王の二人からの入れ知恵の線もありか。どちらにしても、油断ならないスライムだよ)

 

「リムルさんがそこまで考えていたとは、驚きです。ミョルマイルさんと言いましたね、その提案を検討してみたいと思います。恐らく受理されて、今後この街に新たな支部を用意する事になると思いますので、建物の提供をお願いしてもいいですか?」

「勿論だとも。人員の手配が決まったら、ゆっくりと打ち合わせをしようじゃないか」

「全く、敵わないなリムルさんには……」

 

 そう言ってユウキは苦笑いを浮かべた。 

 

 これにて、リムルとミョルマイルの案が採用される事となったのだった。

 

 

 ***

 

 

 リムルはヴェルドラに向き直り、告げる。

 

「いいか、この案が採用されたので、今後はもっと冒険者などが増えるだろう」

「ふむふむ」

「一年やそこらでは厳しいが、二、三年もすると、そこそこの腕前の者が増えるんじゃないか。流石に十年はかからないと思うよ」

「ほう? 理由があるのか?」

「そりゃあ、簡単な理屈だよ。死ぬ危険の少ない迷宮で、自分の技量を磨けるのだからね。強くならない方が不思議ってものさ。そうだろう?」

「なるほどな。流石はリムルだ、楽しみだな!」

「もう、だから言ったじゃん。少しの間待てばいいって」

「お、うむ、そうだったな。そう怒るでない、ツキハよ」

「いいよいいよ。どうせあたしの言う事なんか、リムルの言う事より軽いんだ。もう知らない、ヴェルドラなんか――」

「ぬおッ!? いや、違うのだ。あれはな、お前のいう事を軽視した訳ではなく――」

「じゃあなによ?」

「えとな、あれだ、そう、現実味がないというか、漠然としておっただろう? お目の説明は」

「もういい」

「ち、ちょっと待て。我の説明をな――」

 

 リムルの言った事に納得を示したヴェルドラに対し、あんなに説明したのにとツキハが()ねてしまい、猫耳を伏せてプイッとヴェルドラに背を向けてしまう。

 

 あたふたとツキハに言い訳をするヴェルドラ。

 今のヴェルドラの正体に薄々気付いている皆の目が点になってしまう。 

 

 しかしユウキだけは違った。

 

(はあ、マジかよ。伝承や史実で伝えられた事なんだけど、それを目の当たりにすると、何とも言えないものがあるな。本当にあの〝暴風竜〟と懇意とは信じられないよ、全く。これは、〝番外魔王〟の二人と正面切って戦うのはリスクが高過ぎるかな。ホント、何なんだよコイツ()は……)

 

 そう思ったユウキは、心の内で溜息をつくばかりであった。

 

 かたやリムルはというと。 

 

(よしよし、何とか納得をしてくれたようで何より。あ、でも、ツキハが()ねてしまったのは、俺のせいじゃないからね。ヴェルドラ君、君が責任もって(なだ)めなさい)

 

 と、そんな事を思っているところへ、ヒナタが手を上げて発言を求めて来た。

 

「ちょっといいかしら?」

「何かな?」

 

 そう言われて、リムルは少し身構えてしまう。

 一度ついた苦手意識は、なかなか抜けないものなのだ。

 

「お願いというか、提案があるのよ」

 

 ミョルマイルは、冷や汗を流してヒナタから目を()らしていた。

 

「……聞きますよ」

「ありがとう。では、失礼して――」

 

 ヒナタが発言した内容とは。

 

 冒険者が迷宮外での活動に対しての危機意識の低下についてだった。

 いくら冒険者などの質が上がっても、この危機意識の低下をヒナタは恐れていたのである。

 

 さきほどミョルマイルが説明した内容だけでは、不十分だと言って来たのだ。

 

 いくら外の活動も併用していても、迷宮内で死なない事に慣れてしまい、外での油断に繋がるのではないかと。

 ヒナタが言うには、迷宮内では死なないという事が問題らしい。

 現実と虚構の区別がつかなくなる恐れがあると、ヒナタは言った。

 

「うーん、それはさっきもミョルマイル君が言ったけど、ちゃんと迷宮内と外での活動を区別してだね。後は、きちんと注意喚起していくしかないと、考えてるんだけど……」

「冒険者の質の向上ね。それは理解出来るわ。でもね、それが致命的なものになる恐れがある。質が上がったとしても、危機意識の低下は生死に関わる問題だもの、そう簡単には見逃せないわね」

「いや、でもさあ?」

「駄目よ」

「いやいや、ヒナタさん?」

「――でも、こちらの提案を受け入れてくれるなら、貴方の方針を認めても良いと思っているの」

「何でしょう、聞きますよ?」

 

 ここでヒナタの機嫌を損ねるのはマズいと考えたリムルは、かなり下手に出た対応をするが、それは杞憂というものだった。

 

「フフフッ、貴方って本当――何でもないわ。そこまで身構えなくても、提案というのは双方に利益があるものよ」

「え?」

「迷宮攻略は大いに結構。地力が身に付くだけではなく、魔物に対する有効な戦い方も編み出されると思うの。でも、死への意識が低下するという不安もある。そこで、西方聖教会から神霊術師(プリースト)を派遣したいと思うの」

神霊術師(プリースト)ですって!? 馬鹿なっ、気は確かですか聖騎士団長ヒナタ殿!?」

 

 叫んだのはフューズであった。

 

 他の者も驚いていたので、リムルは理由を聞いてみたところ。

 

 神霊術師(プリースト)とは、信仰系の回復魔法の使い手であり、西方聖教会が秘匿する<神聖魔法>を習得した、数少ない司祭級以上の者達だと。

 

 司祭級以上ともなれば、部位欠損すら癒す〝神の奇跡〟を操れるのだとも。

 

「ええ、気は確かだし本気よ。言われた通り秘匿技術ではあるのだけれど、このままでは彼等も成長しないのよ。天才と呼べるような才能があっても、神の奇跡:死者蘇生(リザレクション)へと至れる者は少ない。そんな事では、古き時代から継承された知識を埋もれさせてしまうもの。戦乱の時代ならともかく、平和な時代では技術の継承が難しいのよ」

 

(うーん。要するに、蘇生対象がいないから技術が廃れるって話だろうか? まあ、死ぬ危険性のない俺達の迷宮を利用して、神霊術師(プリースト)達の技量を底上げする、か。これ、裏を返せば俺達にとっても願ってもない話じゃないか。回復魔法の使い手が増えるだけで、迷宮外での作戦行動時の安全率も高まるというものだ。ルミナスから教えてもらった〝信仰と恩寵(おんちょう)の秘奥〟を完全なものとする為にも、実際に行使している情報を解析する方が手っ取り速い)

 

 リムルはヒナタの提案をそう解釈した。

 

 そして――

 

「こちらこそ、宜しくお願いするよ」

「フフッ、貴方ならそう言ってくれると思っていたわ」

 

 驚く者達を尻目に、リムルとヒナタは互いの案に同意した。

 

 こうして、迷宮内への神霊術師(プリースト)派遣が決定したのである。

 

 

 これで終わったと思われたが、ヒナタの提案はまだあったのだ。

 

 

「それと、話は変わるのだけど、聖騎士(ホーリーナイト)達の修行の一環として、迷宮を攻略したいわね」

「はあ?」

「そちらのヴェルドラ殿――って、失礼、ギメイだったかしら。屋台でタコ焼きを焼いていたわよね?」

「なッ!? わ、我は、決してギメイではないぞ。ギメコと勘違いしたのではないか?」

「はあっ!? その名で呼ぶなギメイ!!」

「ぬおッ! ギメイではない、我はヴェルドラであるぞ!」

「「あッ……」」

 

 積極的にあの時の正体をバラしていくヴェルドラとツキハ。

 

「……いや、あの時屋台にいたのはわかっていたんだけど。まあ、いいのだけど」

 

 どこか呆れたように呟くヒナタ。

 

(あぁ、あれね。元々が店を出す条件として本人とバレないというのが条件だったんだ。元から住む街の住人には知れ渡っていたし、ヒナタも既にヴェルドラを知っていた。だから、店員にはバレないように偽名を名乗るように言ったんだけど……それがギメイとギメコだった訳だ。〝ギメイとギメコの鉄板焼き〟という屋台が大繁盛だったという噂が俺の耳にも聞こえていたんだよ。まあ、今更な話なんだけども)

 

「でさ、聖騎士(ホーリーナイト)達の修行について詳しい話が聞きたいんですけど?」

 

 ここでリムルは、ヒナタの話題を元に戻す。

 

 すると、ヒナタには異論はなかったようで、話は再開された。

 

「私の見立てでは、聖騎士(ホーリーナイト)に成り立ての者ではゴズールには勝てないわね。それで、五人から六人のパーティで迷宮攻略をさせたいの。実戦訓練にもんなるし、神霊術師(プリースト)の育成にも繋がるわ。上級者なら直ぐにでも五十階層を突破出来ると思うのよ」

「ほう? 我は構わぬ。というか、望むところよ!!」

「そして、それには隊長格も参加させようと思っているわ」

「「!?」」

 

 ヒナタの発言は、その場にいる者を驚かせるには十分であった。

 

「本気ですか、ヒナタ様!?」

「自分達も、迷宮攻略に参加するのでありますか?」

 

 魔国に最初に滞在する事になっているアルノーとバッカスが、真っ先にヒナタへと食ついた。

 

「当たり前でしょ? 死ぬ恐れのない、最高の修行場じゃない。中腹の五十階層にあの強さの者がいるのなら、それ以下の階層ではもっと強い者が守っているという事なのよ。貴方達でも勝てないのじゃないかしら?」

 

 それに、うむむと(うなづ)くヴェルドラに、いつしか機嫌の直ったツキハも一緒に頷いていた。

 

 対してアルノーとバッカスは、不満一杯の様子で反論した。

 

「いやいや、それはないですよヒナタ様。俺達は最強の聖騎士団(クルセイダーズ)――しかも、〝魔王〟と対になる〝聖人〟なんですよ?」 

「その通りです。魔王配下の幹部ならともかく、迷宮の魔物如きには――」

「ならば、力を持って証明して見せなさい。百階層を攻略してね」

 

 アルノーとバッカスの意見は、ヒナタの正論の前に粉砕された。

 

 そう、ヒナタの言う通り地下百階層を突破して制覇すれば、自分達の正しさを証明出来るのだ。

 反論など許さない、単純にして明快な真理。

 

 だがしかし、悲しい事に――

 

「って、ちょっと待って下さいよ!? まさか、その地下百階層を守っているのって……」

「クックックッ、クアーーーッハッハッハ! 本当は秘密なのだが、コッソリと教えてやろう。何を隠そうこの我、〝暴風竜〟ヴェルドラであるぞ!! そして、裏ボスが〝番外魔王〟ツキハである!!」

 

 とんでもなく嬉しそうなヴェルドラ。

 

 ツキハはというと、黒魔猫に変幻(ヘンゲ)してヴェルドラの頭の上に駆け上がると。

 

「何であたしの事までバラすの。無自覚に何でも言っちゃダメって、いつも言ってるでしょうがあ!」

 

 と言いながら、ヴェルドラの鼻頭を前足でペシペシと叩いていた。

 

「わ、わかったから、鼻を叩くのは()めよ、ツキハ!」

 

 (はた)から見ると、単なるじゃれ合いにしか見えないが、対するアルノーとバッカスの顔は絶望で顔を真っ青にしていた。

 

 

 百階層のボス、〝暴風竜〟ヴェルドラ。

 

 運よく百階層のボスを倒したとしても、更に裏ボスである〝番外魔王〟ツキハがいる。

 

 

 この世界最強である〝竜種〟に人類が勝てるはずもなく、勇者以外は(あらが)う事すら出来ないだろう。

 そして、現魔王ですら手こずる〝番外魔王〟。

 

 この二人を相手にしろなど、絶望を通り越した何かである。

 

 

 アルノーとバッカスの二人は顔見合わせ、深く溜息を付き、〝暴風竜〟と〝番外魔王〟に一瞬ですり潰される自分達の未来を思い浮かべる他なかった。

 

 

 そんな事でヒナタの提案は隊長格の受難となった訳だが、リムルはこれを受け入れたのだった。

 

 

 

 





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