忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。二十話です







20話 へのへのもへじ

 

 

 蹂躙(じゅうりん)

 

 そう呼ぶに等しい一方的な、戦い。

 

 漆黒の炎を(まと)いし太刀。

 

 ベニマルが、その太刀を振るうたびに、騎士団員は鎧ごと容易く斬り捨てられていく。

 

 騎士団員の悲鳴が上がり、黒炎の中に咲く紅蓮の花の様に鮮血を飛び散らせ、大地は騎士団員の血で紅く染まっていった。

 

「き、聞いてない、ぞ。こんな化け物……あり、え……な、い……」

 

 最後の一人の騎士隊長が、哀れな嘆きを残し、黒炎の中に呑み込まれ、骨も残さず燃え尽きて行った。

 

 ベニマルは敵集団の中を舞う様に動き、三十秒にも満たない時間で全滅させた。 

 そして、無造作に魔法装置を一刀両断する。

 

「任務完了。さて、情けなくも困ってる奴等はいねーだろうな?」

 

 そう呟くも、まあそんな者はいないだろうと、ベニマルは残り方面の様子を窺うのだった。

 

 

 そんなベニマルを、刺すような視線で見ている影が、一つ。

 

 

 南方面――魔法装置設置場所。

 

 ガビル率いるドラゴニュート達が吐いた各種属性のブレス(吐 息)が、上空から一斉に降り注いだ。

 

 完全な上空からの奇襲に、騎士団員の三割が無残にも倒れていく。

 

「奇襲! 奇襲! 上空からの攻撃に備え対空防御陣形を取り、魔法衝撃に備えよ!!」

 

 

 騎士体長の声が響き渡り、各騎士団員が防御陣形を築いていくが。

 それより早く第二波のブレスが降り注ぎ、騎士団員は混乱していった。

 

「クソがああああ!! こいつ等、蜥蜴人族じゃないぞ。この攻撃力に、まして空を飛ぶなんて、リザードマンにはないぞ!」

「慌てるな! こいつ等はドラゴニュートだ。希少種族だが、我等が勝てぬ相手ではないぞ!」

「とにかく皆落ち着け、陣形を崩すな!」

 

 そこは訓練された神殿騎士団員達、三度目の攻撃が来る前に落ち着きを取り戻すも、既に彼等の半数以上は倒れ、残った者も無傷の者は一人もいなかった。

 

「クソ! 本部に連絡して、すぐに救援を呼ぶのだ!!」

 

 騎士隊長の命令にで、魔法通信を行おうとした騎士の前に、ガビルが舞い降りた。

 

「させぬわ、フンッ!」

 

 槍の一閃。

 

 その一突きは騎士の心臓を的確に穿ち、息の根を止めた。

 

 更に左から来た騎士の槍を、三又になった矛先の間で巻き込み、そのまま上に弾き飛ばす。

 

 そしてガビルは、自身の槍を左右に高速で回し、その騎士に背を向けると槍の回転を止め、柄の石突の方で騎士の胸を付いた。

 

 バガンッと重々しい音を立て、鎧の胸の中心がボコりとへこみ、騎士は後方に吹き飛び絶命する。

 

「おのれ、貴様ぁ!」

 

 騎士隊長が叫び、矛を交えた。

 

「グワハハハハ! 隊長殿とお見受け致す。吾輩の〝名はガビル〟。見知りおく必要はない。冥途の土産に、するがよい!」

「なに!? 名前持ちの魔物(ネームドモンスター)か! ふん、相手にとって不足なし!」

 

 騎士隊長が槍の三連突きを放つ。

 

 それを、ガビルは事もなく弾き瞬時に接敵すると、槍を縦に返しながら石突の部分で股間を打つ。

 

「おっがああぁぁ……」

 

 金的を撃たれた騎士隊長は、呻き内股気味になりながら股間を押さえる。

 

 ガビルはヤレヤレといった風に首を横に振り、そのまま槍の矛先で騎士隊長の顔面を張り飛ばす。

 

 ゴギャッ、骨の砕ける音が鳴り、首が反対方向に捻じれたまま右真横に吹き飛びながら、地面をバウンドして転げ止まり、その命を終えた。

 

「グワハハハハ! 吾輩の勝利である!!」

 

 この時点で戦いの趨勢(すうせい)は決し、指揮官を失った神殿騎士達は総崩れとなり、壊滅した。

 

 

 

 北方面――魔法装置設置場所。

 

 『影移動』で音も無く忍び寄る、ソウエイ達。

 

 トスッ、という草を踏みしめるような鈍い音が響き。

 

 ソウエイが斬った騎士隊長の首が、落ちた音だった。

 

 それを合図に戦闘が開始されたのだが――

 あっという間に勝敗は決したのだ。

 

「ソウエイ様。思ったよりこの者達は、弱かったです。申し訳御座いません」

「ソーカ、お前の謝罪などに意味はない。最終決断を下したのは、俺だ。それに、ここかと思ったが、リムル様の読み通り、西、だな」

「ハッ! その通りかと」

 

 ソウエイは辺りを見渡す。

 ソーカが「終わったようです」と、冷徹な声で任務完了を告げる。

 

 ソウエイは出陣前のハクロウを思い出していた。

 

 鬼気迫るその姿は、ソウエイですら前に立つのが自分でなくてよかったと、口元にふっと笑みを浮かべた。

 

 

 最後の魔法装置設置場所。

 

 西方――

 

 

 ショウゴ達が通り掛かる商人や冒険者達を、皆殺しにしても良いと命じられて、その者達が通り掛かるのを待ち受けていたが、一向に来ないその者達に業を煮やしていた。

 

 そして、その様子を高い大木の上から見ている、影がここにも一つ。

 

「チッ、一向に来やがらねえな。商人共と護衛の冒険者達は、あの街と心中するつもりなのか!?」

 

 イライラを募らせながらショウゴが吐き捨てる。

 

 そこへ。

 

「前方より敵影! その数――四名!?」

 

 伝令からの報告が飛ぶ。

 

 その声と同時に騎士達は身体強化の魔法を唱え、迎撃態勢を取る。

 

 こうして西方面も、戦闘が開始された。

 

 先陣を切ったのはゴブタだった。

 

「派手に、いくっすよ!!」 

 

 ゴブタは騎乗している星狼族(スターウルフ)を大きく跳躍させ、その背を蹴り更に大きく跳ね上がる。

 

 そのまま身を捻りながら一回転し、鞘の鞘尻を眼下の偉そうにしている騎士の頭に向け、狙いを付けると、鞘型電磁砲(ケースキャノン)を撃ち放った。

 

 バシュッ、くぐもった音を立て、音速を越えた直径一センチの弾丸が騎士の頭を貫いた。

 

 パグッ、右上側頭から入った弾丸はそのまま左下側頭部へと抜けていき、抜けた側の顔半分を吹き飛ばした。

 

「よし、命中っすよ!」

「ようやったゴブタよ。後は奴等に掴まらぬよう、上手く攪乱せよ」

「了解っす!」

 

 ハクロウが即指示を出し、ゴブタとリグルは騎士達の真っただ中に飛び込み、攪乱していく。

 

 そんなハクロウ達の前に黒髪の男が、割って入る。

 

「ひゃあっはははははは!! いいねえ、やるじゃねーか、魔物風情の癖に。俺が相手してやるぜ!」

 

 辺りに漂う血の匂いに、ショウゴは酔いしれ、歪な笑みを浮かべゴブタ目掛け走りだす。

 

「来たっすか。でも、お前の相手はオイラじゃないっすよ」

 

 ゴブタは言うや、ババっと連続バク転でゲルドの所まで引いた。

 

「安心するがいいぞ、ゴブタ殿。オレがあの者に鉄槌を下してやる」

「へへ。ゴブタでいいっすよ、ゲルドさん」

「うむ。了解した、ゴブタよ。後は任せるがいい!」

 

 そう言いながら楯鱗(じゅんりん)の盾を構え、ショウゴと対峙する。

 

 

 ハクロウはキョウヤと斬り合っていた。

 

「へえー爺さん死ななかったんだ。せっかく助かったのに、逃げないの?」

「フォッホッホッ。なに、ワシは負けず嫌いでな。本気も見せておらぬのに、若造が天狗になっておるのは、ちと不愉快じゃし、のう」

「――へえ。それ、ボクの事じゃないだろう?」

 

 刹那――

 

 キイッーーン、済んだ甲高い金属音が鳴り響いた。

 

 キョウヤが何気なく会話をしながら、いきなりハクロウを斬り付けたが。

 それを呼んでいたハクロウは、容易くそれを防ぎ、仕込み刀を逆手抜刀したまま眼前で、シイィッーーと音立てながら鞘に刃を納めていく。

 

「短気じゃな。まあ、それもよかろう。これから、お主に剣の真髄をみせてやろうか、のう」

 

 ハクロウが逆手握りのまま、再び鯉口を切ると――

 キョウヤの背筋に凄まじい、殺気と凍るような寒気が走り、一歩後ろに後ずさった。

 

 ハクロウの鬼気に気圧されたが、キョウヤはそれを認めたくない為、激しく憤る。

 

「笑わせるぜ! この僕の剣に手も足も出なかった、ジジイが!」

「ふむ。剣ではなく、その力にじゃな。リムル様が言うておったが、その力は〝空間属性〟らしいのう。それで、ワシにも受ける事が出来なかった訳じゃが。タネがわかれば、対処は可能じゃぞ?」

「そうかい。なら正々堂々と、剣の勝負をしようじゃないの」

「よかろう」

 

 キョウヤは正眼の構えを取り、その目には邪悪な光が宿り、口元は嫌らしく薄い笑みを浮かべる。

 

 ハクロウは、眼前に構えた仕込み刀の柄に、右手をそっと逆手で添え、構えた仕込み刀をスーッと胸元まで下ろしていった。

 

「じゃあ、いくよ」

 

 正眼から上段に剣を振り上げ、間合いにはまだ遠いのにそのまま振り下ろした。

 しかし、キョウヤの狙いは別にあった。

 

 剣の刀身そのものが外れ、ハクロウに向かって射出された。

 

 刀身は無数の見えぬ破片に変化し、その一つ一つが必殺の殺傷力を伴いハクロウへ襲い掛かる。

 

 キョウヤの持つ剣は、『切断者(キリサクモノ)』によって生み出された、疑似刀剣だったのだ

 

「ひゃっはっはははは! 死ねよ、ジジイ!!」

 

 腹を抱えて笑うキョウヤの耳に、何かが弾かれる連続音だけが飛び込む。

 同時に底冷えがするような声が、響いた。

 

 ギャキキキイィン!

 

「ふむ。つまらぬのう。それが主の手じゃったか。少し、主を買い被っていたようじゃ」

 

 胸元に仕込み刀を構えたまま、興覚めした声で、ハクロウが呟く。

 

「嘘だろ!? 何をした? ジジイ!」

 

 そこには無傷のハクロウが立っており、いつ仕込み刀を抜いたかさえもわからず驚愕の声を上げるキョウヤ。

 

「ふむ、そうか。主には、見えなんだか。所詮は二流以下と、言ったところじゃのう」

「――なんだって?」

「二流以下と、言ったのじゃよ。所詮、お主の剣筋など見えてしまえば、児戯にも等しいものじゃよ」

「舐めるなよ、クソジジイがあぁー!」

 

 激昂し冷静さを失うキョウヤ。

 

 『天眼』で三百倍『思考加速』を掛け、新たな刀身を『切断者』で生み出しハクロウに斬り掛かる。

 

 しかし、キョウヤはハクロウの額に、〝第三の目〟が開いてる事に気付いてはいなかった。

 

 溢れ迸る凄まじい妖気(オーラ)

 

 それは、魔物の等級で言うと、軽くAランクを超える魔素量(エネルギー)であった。

 

「さて、剣の真髄を見せると言う、約束じゃったな」

「ジジイ! 雑魚の癖に偉そうにしやがって!」

 

 キョウヤは荒れ狂ったような声で叫び、見えない斬撃を見舞う。

 だが、〝第三の目〟――エクストラスキル『天空眼』が、見えざる剣を紙一重で(かわ)していく。

 

「頃合いよな。そろそろ、お主の『天眼』にもワシの動きが追えるじゃろうて」

「なんだと? 何を言って――」

 

 キョウヤは言葉の意味を理解出来ずにいたが、何か不吉なものを感じ、間合いを空けようとするも、身体が動かなかった。

 

「え? え?――」

「刮目せよ。朧・流水斬」

 

 ――(きら)めく一閃。

 

 キョウヤはハクロウの技名を聞いて、必死に迫る刃を避けようと身体を動かそうとするが、果てしなくゆっくりとしか動けなかった。

 

 ハクロウが逆袈裟で見えざる剣を弾き、そのまま返す刀で横に薙いでくる刃を、ただ見てるだけしか出来なかったのだ。

 

 『天眼』で(かわ)せるはずの刃がキョウヤの首筋に食い込み、ゆっくりと首を胴体から斬り飛ばした。

 

「――ええ?」

 

 ザスッ、ハクロウはキョウヤに背を向けたまま、後ろ手に刀でキョウヤの心臓を穿ち、落ちていくキョウヤの頭を左手で掴む。

 

 時間にして0.8秒で全てが終わっていた。

 

「終わりじゃよ。千倍に引き伸ばされた時間の中で、己が所業を悔やむとよいぞ」

 

 それがキョウヤの聞いた最後の言葉であり、『思念伝達』で伝えられたハクロウの言葉であった。

 

 ハクロウはいつでもキョウヤを殺せた。しかし、リムルの命令通りに生かして追い払おうとした故の、敗北だったのだ。

 

 キョウヤの『天眼』が最大限の力を発揮するのを待ち、自分の剣技を見せ、格の違いを見せつけたのであった。

 

 

 一方ショウゴの方は、ゲルドの〝混沌喰(カオスイーター)〟に身体を侵食され苦戦していた。

 

 そこに。

 

「ゲルドよ、まだ終わっておらぬのか?」

「これはハクロウ殿、そちらは終わったようですな。こちらも、今から止めを刺すところです」

 

 今さっき迄キョウヤと戦っていたハクロウが来たことで、ショウゴが声を荒げる。

 

「クソがっ! キョウヤは一体何をしてやがる!?」

 

 ハクロウに向かって叫ぶと。

 

「ヤツなら、ここだ」

 

 そう言いながら、ショウゴの足元にキョウヤの頭を、無造作に投げて寄越した。

 

「はあ!? う、うわぁああああああああーー!!」

 

 ごろりと転がったキョウヤの頭を見て、ショウゴは一目散に逃げた。

 

 逃げながらどうするかを必死に考え、走る先に見えるテントにキララがいるのを思い出す。

 

 テントに飛び込み、キララを見ると、ショウゴは。

 

「キララ、悪いんだけどさ」

「――なに、終わったん?」

「俺の為に死んでくれ」

「はあ? 何言ってんだよバカ! ウチに――」

 

 ショウゴの言葉を冗談だと取ったキララの、運命の分かれ道。

 

 ガシッとショウゴの両手が、力任せにキララの首を(つか)む。

 

「ちょ、マジで、く、ぐるヂィー……」

 

 ゴギッ。

 

 完全に油断していたキララの首を、ショウゴは力任せにへし折った。

 

 悔恨も恨み事も言う暇もなく、キララは即死した。

 

 死の瞬間に流れたのは、元の世界にいた自分の事。

 帰りたかった、元の世界の事。

 

 それも(かな)わず、キララの人生はここに終わりを迎えた。

 

 ショウゴを追って来たゲルドとハクロウが見たのは、仲間であるはずのキララを殺した現場だった。

 

「鬼畜の所業よのう。そこまで墜ちた、か」

「もはや情けを掛けるには、値しない。貴様は、武人ではない」

 

 そこへ世界の言葉が、響く。

 

《確認しました。ユニークスキル『生存者(イキルモノ)』を獲得……成功しました》

 

 キララの魂を代償として、新たな力が生まれた。

 それは『超速再生』、ユニークスキル『生存者』の能力である。

 

 みるみるうちにショウゴの侵食された身体が、再生していく。

 

「なに!? 世界の言葉とは……こ奴、これが狙いじゃったか」

「仲間殺し――それはリムル様が定める、最大の罪。貴様は魂の無い、魔物以下の悪行だ」

「黙れよ、ゴミムシ共が! 勝てばいいんだろうがよ! 俺は力を手に入れた!」

 

 ショウゴは叫び、手にした『生存者』と攻撃スキル『乱暴者』を解放していく。

 

「手を貸そうか?」

「いえ、ハクロウ殿は、ゴブタ達の援護に向かってください」

「その必要もなさそうじゃがな」

 

 ハクロウは一歩下がりながら、ゴブタ達の方に視線を向けると、残っている騎士はもう、数人にも満たなかった。

 

 ゲルドは構えを取ると、ショウゴは「死ねや!と叫び、ゲルドに襲い掛かっていく。

 

 だが、どんな力を手にしたとしても――

 上には上がいるのだ。

 

 激しい攻防の中、ついにショウゴはゲルドの力に屈する。

 

 ショウゴの頭を掴み持ち上げ、腕を引きちぎり、ゲルドは自分の腕に〝混沌喰(カオスイーター)〟を巻き付けて、何度も殴りつける。

 

 『生存者』により、死ににくくなった分、ショウゴの苦痛は長引いていった。

 

「オゴウッ! も、も゛う。やべで、やべでぐだざい。ごめ、ごめんざざい」

 

 十分も満たない時間の中でショウゴは、助かりたいと言う身勝手な言葉を連ねていく。

 

「ふむ。後は苦しまない様に、止めを刺してやろう」

 

 ショウゴを地面に落とし、右拳を握り締め、ショウゴの頭に拳を振り下ろそうとした時。

 

「ふむ。何やら騒がしいので来てみれば……生き残ったのはショウゴのみ、か。これはなんとも、儂としたことが、魔物どもの力を見誤っていたようじゃ」

 

 ショウゴの前に一人の男が現われた。

 業かな魔法糸で編まれたローブを纏い、強力な魔法の杖を持った老人。

 

 その者は、ファルムス王国最高の魔法使い――

 王宮魔術師長、ラーゼンであった。

 

「ラッ!? ラーゼンざん、俺を、だずけに来てぐれて!?」

「ふむ」

 

 すかさずゲルドの前に手を(かざ)し、元素魔法:魔法障壁を張り、ゲルドの攻撃を相殺した。

 

 ラーゼンの背に縋り付く様にショウゴは移動した。

 

「なるほどのう、ショウゴ達では勝てぬ訳じゃな。むう……Aランクか、それも厄災級(カラミティ)とはの。今のままでは、分が悪い。一度引くとするわい」

 

 言いながら上級転移魔法の詠唱を始める。

 

 攻撃しようとゲルドが動くと、それをハクロウが止めた。

 

「迂闊に動くなよ、ゲルド、そ奴只者ではないぞ」

「――なんと!?」

 

 ゲルドの足元にぽわーっと魔法陣が浮かび上がる。

 

「カカカッ! 鋭いのう、これを察知するか。やはり、お主も只者ではないのう」

「狸めっ。最初から、狙っておったくせに……」

「まあよい、魔法も完成したようじゃし。また、相まみえようぞ」

「――それはない。貴様が向かう戦場には、我が主が向かわれるからのう。主らはやり過ぎたのじゃ。決して怒らせてはならぬ御方を、激怒させてしもうた。楽には――死ねぬぞ」

「カカカッ! つまらんハッタリよ。一応忠告として聞いておこう。では、サラバじゃ!」

 

 そう言い残すとラーゼンは、ショウゴを連れて消え去り、同時にゲルドの足元の魔法陣も掻き消えていった。

 

「あのラーゼンと言う魔法使いを、逃がしてよかったのですか?」

 

 ゲルドが足元を見ながら問うとハクロウは。

 

「よくはなかろうが。戦えば、ワシか貴様か、よもすれば全員が死んでおったかも知れぬな」

「なんと……先程の魔法陣はそれ程迄の威力が?」

「恐らくは<元素魔法>の究極、核撃魔法じゃろうて。ここには、ゴブタやリグルもおるし、巻き込むわけにはいかぬからのう……」

 

 とハクロウは、苦々しく言い。

 魔法装置を破壊すべく前に行くと、ヒュンと刀を抜き放ち魔法装置を破壊した。

 

 ゴブタやリグルがハクロウ達の所へ集まり、何かを言おうとした瞬間。

 

「誰じゃ、お主?」

 

 静かにハクロウが、己の背後にいる影に問う。

 

 いつの間に来たのか、一切の気配を感じさせず、ハクロウの背後に現れた影。

 

 ハクロウが向き直りその影と対峙すると、もやもやした影が揺らぎ薄れていく。

 その姿が露わらになると、その者は女性だった。

 

「その、恰好……」

 

 ハクロウは目の前に現れた女性の姿に、不思議な違和感を、持った。

 

 着てる服装は、膝丈迄の白い小袖に、腕には黒い手甲をして、脚の脛にも黒い脚絆を巻いていた。

 

 脚絆はもこっとした物ではなく、ぴったりと脛に巻き付けるタイプの物だった。

 

 胴には黒い角帯を締めていて、帯の後ろに刃渡り六十センチの小太刀を差していた。

 

 髪は銀髪で、長さは肩より少し下くらいで、一番の違和感は――

 顔に付けた仮面。

 

 その白い仮面には、ハクロウも見たことの無い模様が書かれていた。

 

 それは、〝へのへのもへじ〟と書かれた仮面であった。

 

 

 同時刻。

 

 ベニマルの所にも、小袖の色は黒で、後は同じ装束を着て、黒髪で肩より少し長めの髪で顔の右目部分を前髪で隠した髪型をした女性が現われていた。

 

 同じ仮面を被って。

 

「誰だ? お前」

 

 ベニマルが問うも、その女性は無言で近づいて来る。

 

 

 ずっとベニマルの戦いを監視していたサンコが、訝し気にそれを見ていた。

 

『ニャア~。あれ、ツキハ様とコハク様の装束とそっくりニャア?』

 

 そこへ。

 

『サンコちゃーん。あの鬼人のところに、変な奴が、来たんだけども~』

『ニコお姉。こっちにも、いるニャよ』

『ねえ。あの仮面の模様、なにかしらねぇ?』

『ニャー。ツキハ様に聞いてみるニャ』

 

 サンコはイングラシア王国の宿屋で寛いでいるツキハに、『念話』を飛ばす。

 

『ツキハ様、お寛ぎの所すまないニャ』

『んー? どしたのサンコ』

『えーと、これを見て頂きたいのですニャ』

『どれどれ』

 

 魂の回廊を通じてサンコの目とリンクして、ツキハはサンコの見ている者を見る。

 

 すると――

 

『これは……。ねえコハク、これ見て』

『なんおすか?』

 

 ツキハは、ベッドで横になってるコハクに声を掛け、コハクもサンコの目とリンクする。

 

『これは……何であれが、ここにいますんや!?』

『ウニャっ!』

 

 いきなり声を荒げたコハクに、サンコがビクッと声を上げた。

 

『コハク、あの〝へのへのもへじ〟のお面、あれだよね?』

『せやな、間違いあらへん――〝歩き巫女ノ忍び〟や』

『だね。あんなふざけたお面被るのは、あいつらしか――いねえよな』

 

 ツキハとコハクの目が鋭く座り、(いにしえ)の記憶を呼び覚ます。

 

 

 何故、ツキハとコハクの、元いた世界の忍びがいるのか?

 

 その忍びは誰なのか?

 

 ファルムス王国とも、クレイマン勢力とも違う、第三勢力なのか?

 

 

 

 新たな危機が、ベニマルとハクロウを襲う。

 

 




 二十話を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新も読んで頂けたら、幸いです。





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