忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
これであらかた、皆の話は終わったようである。
そこでリムルは、この機会を利用してある事を確認しようとした。
これこそが関係者を全てこの場に集めた理由でもあったのだ。
「皆さんに一つ、聞きたい事があるんだけど――」
そうリムルが切り出したのは、東の商人の事だった。
リムルは東の商人が色々と工作をしていると考えていた、だから忠告の意味も込めて話題に出したのだ。
「我が国は誰でも受け入れるし、通行の自由を認めておるからな。東の商人も出入りしているだろうさ。だが――」
「はい、ガゼル王。出入りする者達は、全て我等の監視下に置いおりますわ」
武装国家ドワルゴンでは、
なので、ここで暗躍するのは困難であり、自殺行為に当たるだろうと。
リムルはそれを聞き、ここでは東の商人も大人しくしていると考えた。
次に発言して来た者は。
「残念事に我が国には、取引相手としては弱小国家に過ぎません。にもかかわらず、諜報部だけは優秀ですからね。商品の流入はありますが、東の商人の姿はあまり見かけませんね。割に合わないと思っているんじゃないですか?」
「おいおい、国王陛下もおられるのに、そんな言い方はねーだろうよ……」
ベルヤード男爵がそう言ったところに、フューズがそれとなく忠告する、が。
ブルムンド王夫妻は、気にもせずにニコニコと微笑んでいた。
(ふむ。数は少ないけども、来てるみたいだな。諜報部は優秀、か。なら、監視もしてるという事だろう。ここも、心配はなさそうだ)
リムルは、ブルムンド王国も問題はないと思った。
次に口を開いたのは。
「私の国では安心よねえ」
「当然です。外来品は全て中央で管理し、十三王家には関与する権限を与えておりませんので」
そもそも魔導王朝サリオンは、鎖国に近い状態で一国独立性である。
他国とはほとんど付き合いがなく、東の商人が立ち入る隙がない。
仮に立ち入ろうとしても、魔導王朝サリオン国境線の周辺地域には、傭兵商会ルヴナンの人間種の傭兵達が分散して、秘密裏に旅人や村の住人、行商人や町人などに扮して警備しているのも理由である。
(ま、エルメシア殿の目を誤魔化せるような者はなかなかいないだろうし、ルヴナンの傭兵が平民を
そう思いリムルは、ヨームに視線を向けてみる。
「そういや、ディアブロさんに命じられてラーゼンのオッサンが帳簿を調べていたぜ?」
「もう、言葉遣いが悪いわよ。失礼。全てを洗い直して、どこまで影響を受けていたのかを調査し、その根を断ち切るとの事ですわ」
(そうか。既にディアブロが対策済みとはね。コイツ、有能過ぎて怖いわ。何なんだろうね、悪魔族って……。うん、よくわからん)
そして――
「自由組合としては、各自の判断に任せるしかないんだよね」
ユウキは、東の商人との取引を否定しなかった。
これに関しては、自由組合本部の方でそれとなく指導を行うと、ユウキはリムルと約束をした。
(まあそうだろうな。東の商人も工作員だけではなく、普通に商談を行っている者もいるだろう。そんな相手との現在進行形の商談全てを、本部からの命令で停止するなどは、組合員の生活に直結する話だから出来るハズもない。しかし……)
リムルは何かを得たように、一人納得をする。
次に、ヒナタが口を開いた。
「西方聖教会として――いえ、神聖法皇国ルベリオスとしては、東の商人達との取引を全面停止にしたわ」
「え?」
思わぬ事を言い出したヒナタに、リムルは驚く。
そして、その理由をヒナタに尋ねる、と。
「商人の名はダムラダ。かなりの大物だったわね。だからこそ、その言葉を信じたのだけど……まさか私を騙そうとするとは思わなかったわね」
「騙す? 利用されたのか?」
「ええ。あの晩――
「ふむ。それは疑いようもなく、繋がっておるだろうな」
ヒナタの説明を聞いて、ガゼルもダムラダと侵入者はグルだろうと言った。
そしてリムルは、この場で敢えてコハクとツキハにこの話題を振らなかった、意図的に。
(ガゼルの言う通り、俺もそう思う。ヒナタが言っていた、正体不明の相手……。ソイツ等は、東の商人と繋がっているのか……? というか、その夜に魔王ロイが殺されたと言っていた。なら、その侵入者が魔王ロイを殺したって考える方が自然だよな)
「ま、何にせよ、これで理解してくれたと思う」
リムルがそう結論を言うと、皆も
この場に集まった者の意志を確認して、この場は解散となったのだった。
***
――そして、野外会議場にはリムルの仲間達と、コハクとツキハだけが残った。
「それで、リムル様。結論は出ましたか?」
「ああ、間違いない。クレイマンの言っていた〝あの方〟というのは、
「クフフフフ、私もそう考えます。証拠がないのがネックですが、間違いないでしょう。そうでしょう、コハク」
ベニマルの問いにリムルは答え、ディアブロもそれに賛同しながらコハクにも振り、コハクはそれを否定もせず口端に薄く笑みを浮かべ返した。
これでリムルも、疑う余地はないと確信した。
リムルは祭りの最中にルミナスから忠告を聞いた時、今まで抱いていた疑問が確信へと変わっていたのだ。
ユウキに関しては黒確定、後、もう二人については保留というか、その中の一人については漠然としない、そんな感じだったのだ。
そもそも、リムルとシズの関係を知る者は少ない。
誰がその情報をヒナタに流したのかというのが疑問だったリムルだが。
それは東の商人だったと、ヒナタ本人から聞いている。
ならば、その情報を東の商人に流したのは誰か、それは
リムルは、この件に関して独自に聞き込みをして回っていた。
その中で、面白い情報を手に入れていたのだ。
ここでリムルは、コハクとツキハに、いやコハクにこの件を尋ねる。
「コハク、今までハッキリとは聞かなかったが、中庸道化連、これについて情報はないか? そして、東の商人についてもだ」
「せやねえ。
意味深な笑みを浮かべながら、そう言ったコハク。
しかしリムルは――
「ああ、構わない。言い値で買おう、ルヴナンの情報を」
「金貨五百枚。支払いは、直ぐでなくてもええで」
「わかった。その契約は後で、ミョルマイル君と交わしてくれ」
「へえ」
これで情報売買の契約は成立した。
コハクがいつになく真顔になり、話し始めていく。
「中庸道化連はな、クレイマンの家ともいえる大事な場所やったんや」
「家? 組織なのか?」
「せや。四人の道化なる者が、中庸道化連なんや。今は三人になったけどな」
「なるほど。ミュウランが言うには、中庸道化連など聞いた事がないって話だった」
「そらそうやろ。クレイマンは難儀なくらい用心深くて、自分の配下すら信用しておまへんからな」
「そうか。東の商人との繋がりはあったのか?」
「あんさんところも、シュナが調べとったんやろ? 大方その通りや。まあ、公に接触はしてはりましたなぁ。商人からの相談にも乗っていたみたいやで」
「ほう。という事は――」
「道化共は商人の姿に扮して、クレイマンと接触していたという事ですかな?」
ゲルドとガビルもコハクの説明に納得をしたのか、
「ああ、それについては、アダルマンからも証言を得た。アダルマンの前では、中庸道化連はその姿をあらわにしていたそうだ」
「せやな。アイツ等は、クレイマンの居城に
「そうか。中庸道化連の誰がよく来ていたかわかるか?」
「せややねぇ、ラプラスがよく来ていたどすなぁ。このラプラスは、クレイマンとうちらルヴナンの繋ぎもやっていたさかい」
「連絡係か?」
「せやで。まあ、クレイマンとの付き合いも、あんさん等より長かったおすからなぁ」
リムルはこの事を聞きながら、自分の推測が正しかった確率が高まった事を悟る。
「中庸道化連と、東の商人。コハクの話を
ディアブロが、笑みを深めてそう言った。
「となると、魔王ロイを殺したのは、あの大戦時に姿を見せなかったラプラスって野郎だな。そうでしょう、コハク様」
「正解や」
ベニマルも不敵に笑って、自分の推論が正しいかどうかコハクに問うた。
「中庸道化連。
「いや、愉快で狂気って……」
何とも楽しそうに言うコハクにリムルは、何ともいえない感じで
ここでコハクは、カガリ、元魔王のカザリームの事は明かさなかった。
そして、中庸道化連が真に目論む、魔王レオンへの復讐も。
その意図は、簡単に答えに辿り着いたら面白くない、この一言に尽きるのだろう。
情報は売る、売るが、その中から新たな情報を見つけてみろ、そうコハクはリムルに投げかけているのである。
偶然見つけた、自分達と同じ魔物として転生して来たリムルに、コハクとツキハは興味津々であったのだ。
これが善なら全てを明かし、リムルの手助けをするだろう。
しかしコハクとツキハは、リムルの成長を見る楽しみの為に、肝心な部分は隠すのである。
こういうところが、悪たる
ハッキリ言って、コハクとツキハに目を付けられたリムルは、幸運なのか不運なのかわからないのである。
(ふむ……。残る三人の道化の内、フットマンとティアは大戦の裏で暗躍していた。恐らく、クレイマンを裏切りそうな魔人を始末する役目を負っていたんだろう。そんな状況で、もう一人がルベリオスに侵入して何かを探っていたとみるべきだろうな。その駄賃に、魔王ロイが殺された、と……)
リムルは、また新たな確信を得るべく、自分の推察を頭の中に並べていった。
そしてリムルは、再び言葉を続けていく。
「俺とシズさんの関係を知る者全てが、さっきの会議場に出席していた。それで先程の最後の質問を投げかけたのさ」
ここで一呼吸置き、皆を見回しながらリムルは語る。
「カバル、エレン、ギドの三名は論外。ガゼルやエルメシア殿も、容疑者から外れる。フューズやベルヤード、ブルムンド王国夫妻なんかも、疑いが晴れたと言ってもいい。東の商人との関係性が薄く、明確な動機がないからな。そしてヒナタも、利用されそうになった点で、黒幕ではない。そこで残るのは、ユウキのみと、いう訳だ」
「東の商人との付き合いがあるのを、彼は認めていましたね」
「認めない訳にはいかないだろうさ。例えば高品質の紙なんかも、東の帝国からの輸入品らしいね。それを大量に輸入出来るユウキが、東の商人と付き合いがないと言えるハズもないだろうさ」
「クフフフ、そういった時点で言質を取れたのでしょうが。コハク。ルヴナンは、あの者との情報の取引はありましたか?」
ディアブロが何かを見透かしたかのような目でコハクを見て、問い掛けた。
「元、お得意さんやで」
「「「「「「え!?」」」」」
「クフッ」
コハクの返答にリムル以下幹部達が驚き、ディアブロだけは嬉しそうな笑いを漏らした。
「いつからだ?」
リムルが少し険しい顔で、コハクに聞いた。
「あんさん等と、出会う前からやね」
「じゃあ、今は?」
「既に契約は、終了してますねん」
「そうか。なら、幾らでも払う、ユウキの目論見を全て教えてくれないか?」
「それは、できまへんな」
「そうか。その訳はなんだ?」
コハクの返答にリムルは静かに問うが、気付かない内に覇気が漏れ出してしまう。
「あんさん、怒ってはるんか?」
「いや。まあ、そうかもな。散々俺達を引っ掻き回した者と繋がってたんだ、そりゃあ怒りもするさ」
「さよかぁ。あの惨劇はまだあんさんには記憶に新しいものやし、仕方ありまへんやろ。でもな、いくら契約主でも教えられんものがあるのは、あんさんもわかりますやろ?」
「ああ。それは、理解している。それでもだ、コハク。頼む、駄目な理由だけでも教えてくれないか?」
そう言うとリムルは、席を立ちコハクに向かって深々と頭を下げる。
コハクはそんなリムルに対して短い溜息を吐くと席から立ち上がり。
「リムル。一国の王たる者が、そないに簡単に頭を下げたらアカンで。全くあんさんは……わかったからもう、頭を上げて座りなはれ」
「ありがとう、コハク。でもな、これが俺の性分なんだ」
「ほんまにあんさんは、変わった魔物やねぇ」
「お互いにな」
「せやろか? ふふっ」
「ああ、そうだ」
コハクとリムルは、顔見合わせたままクスリと笑い席に座る。
そしてコハクが、その理由を話し始めた。
「あの少年はな、うちらを利用したり裏切った訳ではないねん。だから、口止め料という契約を最後にしたんや」
「それは、俺の国に住む事になったからか?」
「せや。よう気付きましたな。うちらは、善も悪も区別なく商売してるねん。それはもう、わかってるやろ?」
「ああ、お前達が悪の側だという事は理解している」
「さよかぁ。そこまでわかってたんなら、皆まで言わんとわかりますやろ。顧客の情報は、裏切り、うちらを過度に利用したりせえへんかったら、うちらは、それを明かしまへん。それがどんな悪党でもや」
「そうか。でも、ユウキがお前達から情報を買っていたとわかっただけでも、良かったよ」
「へえ。でもな、これからあの少年が企む事を邪魔はせえへんとは、契約してへんねん。だから、リムル。あの少年が、この国と、あんさん等に災いを持って来るいうんなら、うちらはそれを邪魔、もしくは防ぐ事も出来るんや」
「ユウキとそんな契約をしていたのか? 俺達の国の情報はどこまで流れたんだ?」
「はあ……それも聞くんか、あんさんは。クレイマンとの戦争までに売った情報は、せいぜいテンペスト軍の戦力くらいやねぇ。後は、幹部の人数とか、どのくらいの強さかくらいどすか。でも、あんさん等の強さなど目安にもならへんしなぁ。経験を重ね、技量を磨けばいくらでも強うなるさかい。後は、〝魔導列車〟の情報を売ろうと思てたら、この国に住む事になったし、、傭兵契約までしてしもうたからなぁ」
「……そうなのか。ありがとう、コハク」
「へぇ」
予想より売られた情報が少なかった事に拍子抜けしたリムル。
そして、もう一つの事をコハクに訊ねた。
「ところで、東の商人のダムラダってヤツの正体は、ルヴナンでは掴んでいるのか? それと東の帝国はどのくらいの戦力を持っているんだ?」
これを聞いたコハクは、リムルの目を見たまま話す。
「東の帝国。正式は、ナスカ・ナムリウム・ウルメリア東方連合統一帝国。ここは、うちらが手が出せへん国や。うちとツキハですら、入り込むのは無理なんや」
「え!? お前とツキハでもなのか?」
「せや。だから、人間の密偵を何人も送り込んだやけど、ほとんどが捕縛、もしくは殺されとる。それに、帝国内に張り巡らせられてる『結界』は、うちとツキハでも突破出来へんねん」
「そんなに厳重なのか。一体、誰がそんなに強力な結界を張っているんだよ」
「わからしまへん」
「お前達でも、わからない事があるんだな」
「当たり前や。うちらは万能の神やおまへんで」
「確かに。本当に何でもわかったら、お前の言った通りだよな」
リムルはコハクの言葉に頷く。
「後は、ダムラダどすけど。ツキハ、あんたぁ何度か見た事おますやろ。どないどした?」
「え? あー、うん、アイツかぁ……」
いきなり話を振られたツキハは、腕を組み、うーんと唸っていると……。
「アイツさあ、見た感じではそんなに強そうには見えないんだけど、
強いよと言ったツキハの顔は、どこか楽しそうに薄く笑みを浮かべていた。
「
「軍の人間が密偵とか、どこでもやってるじゃん。でも、それがガチで巧妙に隠されているから、余程情報を扱う部署が優秀なんだと思う」
「確かに、な。ありがとう、ツキハ。この情報だけでも助かる」
「いいよ、このくらいなら。本当なら、もっと詳しい情報を売りたいところだけど、あそこはマジに強固なんだ、あらゆる防御結界がね。それとソウエイ、絶対に行くんじゃないよ。行けば確実に、あんたは死ぬからね。リムル、ちゃんと配下を抑えなよ、それも
「ああ、わかっている」
最後にツキハがいつになく真面目な顔でソウエイに釘を刺し、更にリムルにも釘を刺した。
リムルもそれに真剣な顔で返し、ソウエイもツキハが死ぬと言ったら本当だろうと理解し、黙ったまま
そして、リムルは自分なりの推測を語る。
「恐らく東の商人達の目的は、西側諸国で勢力を広げる事なんじゃないかと思う。それには一番に、聖教会勢力が邪魔だったんじゃないかな? そして、ガットエランテの実態を探る動きも見せていたみたいだしな」
「俺もそう思いますね。あのヒナタとリムル様を戦わせようとしたのも、共倒れを狙っていた可能性がありますし、教会側が取れたら、次はガットエランテだったのでしょう」
「どっちが勝っても問題ない、そういう意図が透けて見えます。しかし、ガットエランテまで視野に入れているとは、勢力を広げるというより、征服に近いのでしょうね」
リムルの推測に、ベニマルやディアブロが頷く。
「西側諸国では、評議会と聖教会が二大勢力を築いている。多分だが、東の商人は両勢力に働きかけているんじゃないかと思う。そうして徐々に、自分達の影響を増していたんだろう。そんな中で、唯一実態が掴めないガットエランテが
「自由組合、という訳ですね?」
ディアブロの言葉に、リムルは大きく頷いた。
こここで物的証拠はないが、ルヴナンとの情報売買取引、そして今言った事。
リムルはもう間違いないと、ここで確信出来たのであった。
「それで、どうしますか?」
ディアブロが暗に、今すぐ始末して来ましょうかというようにと、リムルに問い掛けて来た。
だがしかしリムルは――
「うーん、相手の出方次第かな。ああも堂々と協力を申し出られると、俺が間違ってるのかなと思わせられたけど。今後は注意深く用心するようにして、相手の尻尾を掴むとしよう」
「承知。この街に作る支部とやらも、要観察対象に設定しておきます」
「頼むぞ、ソウエイ。そして東の帝国に関しては、現時点で近づくのを厳禁とする。コハク、東の帝国の情報収集を頼めるか? 金に糸目はつけない」
「へぇ、
「良し。いいか皆も、決して先走る事のないように!」
「「「「「ハハッ!」」」」」
(本音を言うと、今すぐ問い詰めたいんだけど……。いくらルヴナンとの取引があったとしても、それはどこも大なり小なりやっている。確実な物証がない以上、言い逃れられたらおしまいだ。ルヴナン、いや、コハクとツキハは物的証拠は持っている、がしかし、あの二人はそれを漏らす事はない。徹底している。とことんまで徹底している。一度結んだ契約は、アイツ等に反する事をしない以上、顧客の秘密は永遠に守られる。ユウキは、それを熟知した上でルヴナンから情報を買っていた。俺の勘違いであれば、良かったんだが――)
《解。その可能性は極小であると推測します》
(推測、かぁ。いくら
リムルは、ユウキがルヴナンの情報を買いながら何を企んでいたのか考えるも、それはわからなかった。
(俺やヒナタ、それにクレイマン……。東の商人、自由組合、もしかすると評議会そのものまでも、ユウキの手の平の上かも知れない。いや、本当にそうなのか? 真に暗躍するのは、ルヴナン、そしてコハクとツキハだったりし、て……?)
この時、リムルが思った事は半分当たっていて半分ハズれていた。
コハクとツキハは、ユウキの真の目的――世界征服をやれるならやってみろと言わんばかりに見逃している。
だがしかし、世界征服が成された時、またその途中で自分達に喧嘩を売れば、全力で潰すつもりなのだ。
自分たちに手を出さなければ、誰が世界の王であっても構わない、そんな考えである。
しかし現実は、魔王の頂点にいるギィに他の七人の魔王達。
そしてこの世界での絶対強者、〝竜種〟を倒さなければそれは成されない。
コハクとツキハは、ヴェルドラの強さも怖さも知っているが、その姉、ヴェルザードの怖さを身をもって知っている。
この世界に生きる人間や魔物が
だがしかし、例外もある。
だからコハクとツキハは、ユウキが世界征服をやれると、現時点では思ってはいない。
(うーん、まあアレだな、今の俺達にそれを確かめる
楽しい祭りは終わり、急き立てるように日常が戻って来る。
やるべき事は山のようにあり、またそれに追われる毎日に身を投じていくリムル。
これから始まるであろうユウキとの化かし合いを思って、リムル憂鬱な気分で溜息をゆっくりと吐いたのだった。
――ツキハとコハクの、〝異世界珍道中〟――
人の心はわかるが、魔物の心を持つツキハとコハク。
人の心を持ち、また魔物の心をも持つリムル。
一見、決して交わる事がないように見える三人だが、どこか交わらずとも均衡を保つ不思議な関係。
何とも奇妙な出会いがもたらすものは――この世界にどんな影響を与えるのか……?
そして、祭りの日にあったクロエは、どこでツキハに会ったのか? 本当にツキハの事を知っているのか?
〝へのへのもへじ〟のお面を付けた〝忍び〟は、誰なのか? ツキハとコハクに因縁がある者なのか?
番外魔王の二人とは別なる〝忍び〟の二人――
その影は静かな夜の如く、ツキハとコハクの闇に入り込もうとする。
自由気ままに波乱に満ちた運命という道を歩く、ツキハとコハク。
その運命が指す道筋は?
果たして二人はどこへ向かうのか?
それは、
そして、ツキハとコハクの〝異世界珍道中〟は、新たな局面へと向かっていく。
******
――強 欲 の 炎・Mariabell――
ミューゼ公爵はテンペスの街中を、ふらふらと歩いていた。
恐怖を味わい……絶望を突き付けられた。
魔王リムルは、ミューゼがどうこう出来る相手ではなかったのだ。
そして、ガットエランテのリアナもまた、同様であった。
上手く恩を売り、ミューゼの意のままに動くように
今まではそれが出来たのだった――だがしかし、今回は違った。
完膚なきまでに叩きのめされ、全ての計画が破綻してしまった。
今思えば、あの忌まわしき傭兵商会ルヴナンと、番外魔王の二人が住み着いた国でもあり、ルヴナンが何らかの形で裏で動いてるのは容易に想像出来たはずなのにと、後悔の念に襲われるミューゼ。
ミューゼは、自分が滑稽ですらあった。
いつもの如く手の平で転がしていると思っていたのに、転がされていたのは自分だったのだから。
笑わずにはいられなかったが、そんな気力など当に尽きてしまった。
(思えば、ワタシよりあの者共の方が悲惨よな……)
ミューゼが集めさせた商人達の末路を思い、背筋に冷気を吹きかけられたような感覚に襲われ、ブルッと身震いをするミューゼ。
魔王リムルの配下が、一人一人の出身国と名前、そして商品とその代価を読み上げていった。
その声は呪縛のように、ミューゼの心を縛ってしまう。
(アヤツ等は、どこまで調べ上げていたのだ……? 魔の国の暗部なのか、もしくはあのルヴナンなのか、いや、もうよそう。今更どうだと言うのだ……)
魔の国での商売は、二度と許されないだろう。
ならば、その商人達の行く先は自国のみ。
他の商人がこの国で商売をするのを、指を
今後凄まじい発展が予想される魔王領。
そして、その協力国家。
それは、一大経済圏が築かれるという事であり、その経済圏から
国が自国に所属する商人を守り、新たな経済圏を無視するという選択は、まずない。
それは、今回の開国祭を見たミューゼには、手に取るように理解出来た。
今まで聞いた事のない、素晴らしい音楽。
更に、突出した新しい技術。
西側諸国では珍しい美味なる料理の数々。
たかが魔物が住む国と、この地に訪れるまでは馬鹿にしていた自分が、今では惨めに思えるほどだった。
未だ見た事のない文化の気配を感じ、胸の高鳴りを覚えたほどなのだから。
そんな魔王との交渉断裂は、絶対にあってはならぬ重大案件。
それなのにミューゼは、慢心から来る自分の計画の自信から魔王への対応を誤り、計画を破綻させてしまった。
(あの商人共も行き場を失うだろうが、ワタシとて同じ事よな。あの一族が許すはずもなし……)
ミューゼは、内心でそう
完全に出世の道は断たれた。
失敗をした者を許すほど、五大老は甘くはない。
財産を全て失い、粛清されるのは間違いないだろう。
だがそれでも、ミューゼは真実を報告する事のみ。
いっそのこと、傭兵商会ルヴナンに持っている情報を全て渡すと言い、逃げ込む事も考えた。
だが、自分には身内がいる、逃げれば身内が粛清の対象になる、そう考えるとミューゼには残された手などなかった。
この広い世界の
ただ一つ言える事は、ミューゼが正しく傭兵商会ルヴナンの本質を理解していれば、身内共々逃れる手はあったのだ。
だがミューゼは、忌まわしき魔物が率いる傭兵商会と馬鹿にし侮っていたから、それに気付く事などなかった……。
***
「やはり失敗したのよ。お爺様」
「そうだね、マリアベル。お前に任せれば良かったね。報告を聞いた私が、あの国を潰すのが惜しいと思ってしまったばかりに……。それに、もっと考慮すべきだった、ガットエランテの存在を」
「それは仕方ないのよ。私も見たわ、聞いたわ。そして感じたの。懐かしい文化の香りを。でもだからこそ、それが知れ渡る前に滅ぼすべきだったの。出来れば、あの番外魔王の二人が住み着く前に。ルヴナンもガットエランテも、未だに実態が掴めないのは異常なのよ。絶対にこの二つは接点があるはず。なのに、全く見えてこないの。一体どれほどの情報が裏で動いているのかしら……」
グランベルの指示は温過ぎたのだと、マリアベルが暗に告げ、ルヴナンとガットエランテの実態にも懸念を示す。
それを自覚する五大老の纏め役にしてロッゾ一族の首領グランベル・ロッゾは、苦々しくマリアベルに同意する。
各国の王侯貴族が招待された開国祭。
マリアベルの制止を聞かず、それを見てみようと判断したのはグランベルであり、魔王リムルに恩を売れれば、自分達の有利に評議会へと
先の聖魔戦で動かせる駒を大きく減らした事で、グランベルは弱気になっていた。
だからこそ、マリアベルが動くのを止めて、
その結果が、今回の失敗である。
マリアベルさえいれば、ロッゾ一族の敗北はない。
そう信じているグランベル。
しかし、見た目が幼い少女であるマリアベルを手放す事を
「お爺様、やはり私が動きます」
「――それしか、ないか」
「心配しないで? 私はマリアベル。私は〝強欲〟。全てを望み、全てを手に掴む者。あの悪である番外魔王の二人も、〝強欲〟に染め上げて飲み込んであげるわ。そして、あの魔王リムルを駆逐してあげる。この世は全て、我等ロッゾ一族のものなのよ!」
「そうだね、その通りだ。お前に全てを任せよう」
そう言って、グランベルは膝に抱いたマリアベルの頭を優しく撫でたのだった。
――ここに、〝
この一ヶ月の事であった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今回で、お祭り編は終わりです。
次回から始まる、新編〝魔人達とYの暗躍編(仮)〟を、何卒宜しくお願い致します!