忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。201話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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魔人達とYの暗躍編
201話 Live And Let Die(死ぬのは奴らさ)


 

 

 ここはイングラシア王国、とある秘密の拠点。 

 

 

 自由組合本部とは別に設けてある拠点に戻って来た、ユウキ。

 

 ユウキは、ふうと深く溜息を付き、無造作に椅子に座る。

 

「えらい憂鬱そうやけど、何か問題でもあったんでっか?」

 

 そう問うて来たのは、中庸道化連に属する魔人、ラプラスだった。

 

「まあね。招待されたからお邪魔してみたんだけど、唖然(あぜん)とするくらい凄かったよ。それで少し自信喪失したというか、計画の見直しが必要だと思ってさ」

「計画の見直しですって?」

 

 秘書に扮した元魔王、カザリームことカガリがユウキに聞き返した。

 

「そうそう。やっぱりあのスライムとは、なるべくなら敵対したくはないと思ってね。それに、あの番外魔王の二人なんだけど、余りにも不気味なんだよね」

「不気味とは?」

「僕達の事、いや、僕達の本当の目的は――恐らくばらさない。何故なら、あの時支払った口止め料には、これも含まれてると思ってね」

「その根拠は?」

「番外魔王の二人の態度さ。番外魔王の二人は物的証拠を握ってはいるけども、それをあのスライムに渡してはいない。僕が受けた印象はこんな感じだね。全く、あの()け猫共は、何を考えているかわからないよ」

「なるほど。それじゃあ、このまま魔王リムルと親密な関係を維持すればいいのではなくて? ワタクシも遺跡調査に赴く予定になっていますし、こちらにとっては問題はないと思いますが?」

「いや、計画はそのままだよ? たださ、その難易度が上がっちゃったんだよね」

「何でですのん? 大人しゅうしとったら、()める事もあらへんのとちゃいますか?」

「〝暴風竜〟ヴェルドラ。あれさ、最後の反省会という集まりの中、人間体に変化(へんげ)したあのヴェルドラが何か我侭を言い始めてね。その中で、番外魔王ツキハが魔猫に()けてヴェルドラの頭の上に乗って、鼻頭を前足で叩きながら(たしな)めるように言い合いというか、あれは痴話喧嘩にも見えるような事を始めたんだよねぇ」

「「「「え?……」」」」

 

 ユウキの話を聞いていたカガリ達は、思わず驚きの声を出して固まってしまう。

 それもそのはず、この世界最強の〝竜種〟の一体の頭の上に乗るとか、一瞬で殺されても文句は言えない行為に加え、更に鼻とはいえ、そこを叩いたのだから驚くのも無理はない。

 

「カガリから、〝暴風竜〟ヴェルドラと番外魔王ツキハとの関係を聞いてもいたし、史実にもそのような事は記されてはいたけども、あれを目の当たりにすると、どうにもね。あれさ、どちらに手を出しても両方を相手にしないといけなくなると、僕は思う。そうなれば、あのスライムと事を荒立てれば、答えは(おのず)ずと見えてくるだろう?」

「そうでんな」

 

 ユウキの言葉に、ラプラスは同意するように返す。

 

 そう考えるのはラプラスだけではなかった。

 

 フットマンやティアもそうであり、道化達の会長であるカガリもまた、感情のままに行動する危険性は十分に理解していた。

 

 この世の真理は、弱肉強食。

 

 ラプラス達は今までの経験から、必ず勝てるという確証を得るまでは、絶対に事を起こしては来なかった。

 何故なら、無理に事を起こしても(ろく)な目に遭わないと学んでいたからである。

 

 魔王レオンへの復讐を果たすどころか、あろう事かクレイマンが死んでしまった。

 せっかくカザリームがカガリとして復活したというのに、これでは振り出しに戻ってしまったというようなもの。

 

 この上、魔王リムルが――いや、番外魔王ツキハと番外魔王コハク、それにルヴナンが本格的に敵に回ってしまえば、魔王レオンへの復讐どころではなくなってしまう。

 

 そもそも、番外魔王の二人が魔国に住み着くなど、カガリ達にとって想定外だった。

 故にそれを十分に理解してるからこそ道化達は、ユウキの命令に従い大人しくしていたのだ。

 

 それなのにユウキは、問題が生じたとカガリ達に告げたのである。

 

「それでさ、話を元に戻すけど、どうやらそれも難しくなったみたいなんだ」 

「と、いいますと?」

「どうやらあのスライムが、僕の事を怪しいと疑っているみたいなんだよね……」

「何やて? まさか、あの番外魔王の(ねえ)さん達が全部バラしたんでっか? それとも何か尻尾を掴まれるようなヘマをしはったんでっか?」

「まっさか~! ラプラスじゃあるまいし、ボスがそんな失敗をする訳ないじゃん!! それに、アイツ等(ルヴナン)が契約を反故(ほご)にするような事なんて、アタイ達してないじゃん!?」

「ホッホツホ。そうですよ、ラプラス。ボスほど用心深い人物を、私は他に知りませんし、あのルヴナンは、こちらが明白な敵対行動を取らなければ、秘密は守られるハズ。だからボスが迂闊(うかつ)な真似をするとは思えませんね」

 

 常に慎重なユウキが、自分の失敗を認めるような発言した事にラプラスが驚いて、問い返した。

 それに否定するようにティアとフットマンが反応したのだ。

 

 それだけユウキは、道化達からの信頼を勝ち得ていたいう事になる。

 

「落ち着きなさい、お前達。ユウキ様が失敗したというより、あスライムが用心深かったというだけの話し。あの番外魔王の二人がワタクシ達の情報をバラさずとも、何か助言をしたとも考えられるでしょうよ。それに直接対峙(たいじ)してみて感じたのだけど、あのスライムは番外魔王にも劣らず異常だったわ。全身をくまなく監視されて、とても落ち着かない気分にさせられたし。その実力までは見抜けなかったけど、番外魔王と同じく油断出来ない相手だと感じたわね」 

 

 道化達を宥めたのは、彼等の会長であるカガリ。

 

 カガリは一度リムルと対面している。

 

 そして、魔王時代に幾度か番外魔王の二人と小競り合いをした事があり、その時に他の魔王達とは違う異様な不気味さをツキハとコハクに感じていた。

 

 だから実際のリムルを目の当たりにして、本能的に番外魔王と同じくリムルの危険性を察知していたのだ。

 

 そんなカガリにユウキが頷く。

 

「いやいや、あのスライム――魔王リムルは、本気でヤバイと思う。番外魔王ツキハとコハクは、それ以上だね。あの祭りの場に、僕達の出資者である評議会の重鎮がいたんだけどさ、下手に仕掛けて手痛い目に遭ったみたいだよ。狡猾で用心深く、敵対者には容赦しない。普段は温厚だけど、怒らせたら手が付けられない感じだね。そして僕達は、あのスライムを利用しようとして失敗している。警戒されて当然だったのさ。それに君達も覚えているだろう? 番外魔王コハクとツキハがここに現れた時の事を。あの時、僕達の中の一人が不用意に動きでもしたら、番外魔王コハクは躊躇なくあの周辺ごと、僕達を吹き飛ばしていただろうね。あの、意味不明なエネルギー爆発で。今から言う事はちょっと馬鹿げているけども、霊子でもない魔素以外の何かのエネルギーが含まれていると思う。多分、僕の能力でも防げない。これは、僕の勘なんだけども。ホント、存在自体が冗談みたいなものだよ、あのイカレタ猫二匹は」

 

 肩を(すく)めつつ、ユウキはそう言った。

 

「せやかてボス、どれだけ警戒されていても、あの(ねえ)さん達がバラさへんかったら、証拠がないでっしゃろ? 仮に、ルヴナンと情報の取引があるくらいはバレても、問題あらへんやん。どこでもやってる事や。だから、、開き直って堂々としていれば、相手はそれ以上は何も出来ませんでっしゃろ?」

「確かに、物的証拠は残していないさ。猫どもは、かなり掴んでるみたいだけど。それにね、シズさんの情報をヒナタに流したのは僕だし、あのスライムにとって、それだけでも状況証拠としては十分じゃないかな。実際、最後に関係者が集められて今後の打ち合わせをしたんだけどさ。その場には魔王リムルが怪しいと睨んだ人物が、全員集められていてね。更に、番外魔王の二人も敢えて呼んでいたんだよ。完全にバレたと思って間違いないだろうね」

「「「……」」」

「何とまあ……」

 

 唖然となったラプラス達の代わりに、カガリが何ともいえないような気分の声を出した。 

 

「そうね。遅いか早いかの違いだったでしょうね。あの番外魔王の二人が黙っていてくれたお陰で、時間は稼げたといったところでしょう。あのスライムは本当に厄介だわ。それでボス、どういう風に計画を見直すのかしら?」

 

 真っ先に気持ちを切り替えたのは、カガリだった。

 元魔王だけあり、数々の修羅場を(くぐ)り抜けて来たのは伊達ではなかったのだ。

 

「うん。大人しくしているってのは、これまで通り継続する。魔王リムルも確たる証拠がない以上、表立って僕達との敵対は望まないだろう。大雑把に見えてかなり慎重な正確みたいだし、損得勘定はしっかりしている。で、特に僕達は、今は絶対にルヴナンとだけは敵対しては駄目だ。ハッキリ言ってここの戦力は、どんなに手を尽くしても実態が掴めない。だから、ルヴナンに関しても今まで通りでいこう」

「なるほど。だから古代遺跡の話をワタクシの前でしてみせたのね。こちらの出方を(うかが)うつもりなのでしょうね。こちらから仕掛ければ、容赦はしない、と。番外魔王の二人は、(つつ)かない方が良さそうね」

「だと思うし、番外魔王の二人は今は放置でいいよ。人っていうのは、考え方が変わる生き物だ。〝昨日の敵は今日の友〟という言葉があるくらいだし、事情が変わった今は敵対する必要はない。そう思わせる事が出来たら、僕達の勝ちだろう。ただし、番外魔王の二人にそれが通用するかはわからないけど」

 

 ユウキはそう言って、カガリ達を見回し、それぞれの反応を窺う。

 

「それでは、当面は協力関係を維持する、ちゅう事でんな? そして、番外魔王の(ねえ)さん達には、極力触らんと」

「力で従えるのは簡単ですが、ボスがそう言うのなら従いましょう」

「馬鹿だねえフットマンは。それが出来ないから苦労してるんじゃん? アタイはあの気の狂ったニコと()り合うのだけは、勘弁してもらいたいわよ」

「まあまあ。フットマンの言い分もわかるやろ。新参者に舐められるのは、誰しも嫌な気分になるもんやて。けどまあ、総力戦でやれば勝てるかも知れへん、あの魔王リムルの戦力だけならや。でもや、どうやって引き込んだんか知らへんけど、あのえげつなさ満載の姐さん二人をあの国に住まわせよった、眷属共々に。更に、〝暴風竜〟までおるんや。何も今、分の悪い賭けをする必要なんてあらへんで」

「そだね。アタイらは難しい事を考えず、ボスや会長の命令に従ってるのが一番だね!」

「やれやれ、最初から従うと言ってるでしょう? 私としても、会長達の意見に異議はないとも」

 

 三人は少し不満そうではあったが、方針そのものへの反対意見はなかった。

 それを確認したユウキは、カガリと目配せをして頷く。

 

 西方聖教会、その背後にいる神聖法皇国ルベリオス。

 

 自由組合の上層組織である、西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウエスト)。 

 その中枢を牛耳る、ロッゾ一族。

 

 どこにも属さない、大規模行商隊を率いる、ガットエランテ。

 そして、人や魔物相手に商売をする、傭兵商会ルヴナン。

 

 前両者に加え、イレギュラー的な両者。

 

 特に前両者こそ、西側諸国での覇権を得る上での障害であった。 

 

 後両者は、立ち回り次第では良い商売相手になると踏んでいた、が。

 

 ここに今、魔王リムルが統べる魔国連邦(テンペスト)が加わってしまった。

 

 ユウキは今回、テンペスト開国祭で魔国の実状を目の当たりにして、魔王リムルと敵対するのは愚だと悟ったのである。

 

 ユウキには一つだけ懸念があった。

 

 それは、自分が魔王リムルと明確な敵対をしないと宣言したとして、道化達がそれを素直に受け入れるのか、という心配があったのだが。

 

 どうやらそれは、杞憂だったと思い至る。

 

 昔はともかく、一度レオンに敗北した事で冷静さを身に付けたカガリ。

 記憶に新しいところでは、狂乱猫ニコに敗北したフットマンとティアも、感情的な行動に走らない事を覚えた。

 ラプラスは、異様なまでの殺気を持つツキハとコハクを相手にするようになってからは、飄々(ひょうひょう)としながらも警戒心が更に強化された。

 

 長き年月を耐え忍び、その野望を成就しようと企んでいた道化達。

 

 ユウキのかけがえのない頼もしい仲間達は、考えなしに暴走するような愚か者はいなかったのだ。

 

「ホント、頼もしいよ。それじゃあ君達には、ダムラダに任せていた仕事を引き継いでもらうとしよう」

 

 笑顔でユウキは、そう言った。

 

「ちゅうと……まさか、特定機密商品でっか?」

「え!? あの仕事を、アタイ達が……?」

「ホッホツホ、いいのですかボス?」

 

 それを聞いた道化達三人の顔色が変わった。

 

「ああ、今の君達なら大丈夫だろう? それに、奴隷商会オルトロスが壊滅してから鳴りを潜めていたバステトが、活動を再開したみたいだし。いくつか取引を打診してあるから、それも含めて頼むよ」

「任せてや! ボスが心配なんは、ワイ等が暴走するんちゃうかって事やろ? せえへんせえへん。たとえ勝てる思うても、絶対に手を出さんと誓うで! それに、バステトの取引もキッチリやってやるでえ!」

「そうそう! クレイマンだって、最後の最後で慎重さを忘れてさ……。アタイ達まで同じ失敗をしちゃったら、あの世でアイツを馬鹿に出来ないもん。バステトかあ、あそこ不気味なのよねえ。人間や亜人などの奴隷を扱ってるハズなのに、どこに流しているのか一部だけ、全くの不明なんだけど。まあ、油断しなければ、大丈夫!」

「そうですね。怒りのままに行動しても失敗します。〝怒った道化(アングリーピエロ)〟であるこの私こそが、それを覚えておかねばなりませんね。魔王レオンはいつか必ず復讐すると誓った相手ですが、それはまだ時期尚早という事なのでしょう。バステト、ここは商売敵でもあるから、取引には慎重に慎重を重ねるべきでしょうね」

 

 ラプラス、ティア、フットマンは、それぞれの言葉で大丈夫だとユウキに応える。

 

(フフッ。思った以上に成長したもんだね)

 

 ユウキはそれを聞いて小さく笑い、(つぶ)いた。

 

 それからユウキは、ふと気になる事を思い出す。

 

「そういえば、特定機密商品で思い出したけど……僕が保護していた子供達を、魔王リムルが連れ出したんだよね」

「ああ、シズエ・イザワ(井沢静江)が介入したせいで、手が出せなくなっていたな、あの子供達――」

「そうそう。わざわざ祭りを名目にしていたけど、これも考えてみれば、僕が疑われてるっぽいよね。まあ、今更それはいいんだけど。気になったのは、魔王リムルのセリフなんだよ……」

 

 ユウキは思案しつつ、自分の考えを纏める。

 

(あの子供達は、あり得ない早さでどんどん強くなっていた。それこそ、砂が水を吸収するかのように。魔王リムルが子供達を助ける為にした行動……それが原因なのは間違いない。魔王リムルは秘密だと言っていたが、今回、『精霊についてもっと詳しく知ってもらった方がいい』と、口を滑らせていた。あれは意図的? もしくは……)

 

 幾つもの推測を頭の中に思い浮かべながら、ユウキは口を再び開く。

 

「以前聞いた時は、はぐらかされたんだけどね」

「子供達が強くなり過ぎて、誤魔化せなくなったのかしら?」

「どうだろう? もしかしたら何かの策略かも知れないと思って、ちょっとドキドキしちゃったよ。だけど、精霊を使って魔素量(エネルギー)を中和してるのは間違いなさそうだね」

 

 ユウキが肩を(すく)めてそう言うと、カガリもそれに同意する。

 

「確かにね。そういえば、シズエ・イザワも炎の上位精霊を使役する精霊使役者(エレメンタラー)だったわね。とすると、不完全召喚された〝勇者のなりそこない〟は、精霊を使って再利用が可能になるという事かしら?」

 

 このカガリの推測を聞いて、ラプラス達にも、思い当たる事があったのだ。

 

「せやったか、それが魔王レオンの狙いなんやろか? 召喚に失敗した〝異世界人〟を集めとるようやけど、レオンやったら戦士に育てられるんちゃうか!?」

「うーん、そうそう思い出した! 確か炎の巨人(イフリート)も、元はレオンの配下だったんだよね? クレイマンが部下に命じて、何度か襲撃させたみたいだけど、全員イフリートにやられちゃったんだよね」

「ホッホツホ、同じような手段で、シズエ・イザワのような精霊使役者(エレメンタラー)を増やしているのかも? そうであれば、特定機密商品を渡すのは考えものかも知れませんね。いっその事、バステトに売ってはどうでしょうか? あそこなら高値で引き取ってもらえるでしょう」

 

 と、三人は口々に考えを述べた。

 

 特定機密商品――

 

 実は、不完全召喚で呼び出された、子供達の事を指すのである。

 

 とある場所では未だに、何度も何度も不完全召喚が行われていた。

 

 生前のシズエ・イザワの目をも(あざむ)き、西側諸国にも悟られぬままに……。

 

 試行回数が多ければ多いほど、失敗例も数多く存在する。

 

 それを回収していたのが、秘密結社〝三巨頭(ケルベロス)〟の一人のダムラダだ。

 決して表に出せない子供達を、実験素材という名目で譲り受けていたのである。

 

 だがしかし、それは建前であり、実際には別の目的が存在した。

 

 それこそが、魔王レオンの要求だったのである。

 

 魔王レオンは、〝十歳に満たぬ異世界の子供〟を探し集めていたのだ。

 その真の目的は、魔王レオンは一切明かしていない。

 

 ユウキは、レオンの目的が見えてこなかった。

 

 レオンの目的が単純に戦力増強だったら、納得は出来る。

 

 しかし何故、東の帝国や西側諸国まで召喚術式の新理論を流すのか?

 

 その点からしても、ユウキは目的が他にあるように思えてならなかったのだが、結論は出なかった。

 

 ならば、これまで通り魔王レオンとの契約に従いやっていくしかない。

 

 ユウキは表情を引き締め、ラプラス、ティア、フットマンに命じる。

 

「それじゃあ君達に、魔王レオンとの商談も任せる。その目的が戦力増強なのか、それとも他にもあるのか、それを探れるようなら探ってくれ。バステトに関しては、過度に探らないように。(やぶ)をつついて蛇を出すのは得策じゃないからね。ロッゾとの交渉はミーシャが引き継いでいるから、彼女から商品を受け取って行動に移るように」

「了解やで。任せてや!」

「うんうん! アタイ達も頑張るよ!!」

「ホッホツホ、承知しました」

 

 俄然やる気に燃える三人を見て、カガリは思わず苦笑いを漏らす。

 

「張り切り過ぎて、レオンに正体がバレるんじゃないわよ?」

「いいかい、くれぐれも慎重に行動してくれよ? 今の僕達に、魔王レオンまで敵に回す余裕はないんだからね。それと、番外魔王の二人を絶対に刺激しない事。もし利害の一致があるのならば、それを利用したいからね」

 

 ユウキの念押しに、三人は頷き返す。

 

 ラプラス達三人は馬鹿ではない。

 狡猾さと用心深さを併せ持つ魔人。

 

 ユウキは頼もしい仲間達を信じる事にして、作戦の詳細を説明するのだった。

 

 

 ***

 

 

 ラプラス達に命じ終えたユウキに、カガリが真顔で問う。

 

「それでボス、ワタクシはどうすればいいのかしら?」

 

 カガリの問いは、遺跡調査の件だった。

 

 カガリが魔王カザリームだった時、魔法技術を駆使して都市防衛機構を構築した。

 それこそが、古代遺跡〝アムリタ〟の真なる姿だったのだ。

 

 〝アムリタ〟は、カザリームが施した呪術と多数のゴーレム(魔人形)によって守られている。

 クレイマンの最高傑作ビオーラでさえも、遺跡を守護するゴーレム(魔人形)の中では、上の下程度の性能しか有していなかった。

 

 これだけの防衛機構を持つ遺跡――

 つまり、この〝アムリタ〟という遺跡こそが、傀儡国ジスタ―ヴの秘匿された真の姿だったのだ。

 

 この〝アムリタ〟という遺跡、何故これほどまでの強固な防衛を誇るのか?

 

 その理由を知る為には、遥か昔へと遡ってみなければならない。

 

 遥か昔、繁栄を誇った耳長族(エルフ)の超魔導大国は、自らの愚かさによって滅びてしまった。

 

 当時は魔王ではなかった少女――竜皇女ミリムの怒りを買い、一夜にしてこの地上から姿を消したのだった。

 

 その名残こそが、古代遺跡〝ソーマ〟であり、生き残った耳長族(エルフ)達が復興を願った場所でもあったが、それは叶わなかった。

 

 それは、自らの手で生み出した最悪の魔物――混沌竜(カオスドラゴン)の暴威に(あらが)えず、

故郷から逃げるように追い出されたのだ。

 

 混沌竜(カオスドラゴン)の力は、天災級(カタストロフ)に準じるものだった。

 〝竜種〟には及ばぬものの、エルフ達の手に負える相手ではなかったのである。

 

 生き残った耳長族(エルフ)達は各地に散り散りとなり、それぞれの生活を築き始めた。

 

 極少数の一部の者共のせいで、耳長族(エルフ)の栄華は終焉したのである。

 

 そして――その罪によって呪われ、黒妖耳長族(ダークエルフ)となった者達は、ミリムの目を逃れるように遠方の新天地を目指した。

 

 元魔王カザリームのカガリもその一人であり、魔王ミリムの恐怖を体験して生き残った、数少ないエルフの王族だったのだ。

 

 当時、魔王ではなかったカザリームは落ち延びた地で、故郷を模した都を興した。

 

 そうして生まれた都こそが、傀儡国ジスタ―ヴの首都アムリタである。 

 

 

 カガリは遠い過去を思い出し、頭を振ってそれを追い払う。

 

「アムリタの防衛機構は生きてるわ。それを利用して、魔王リムルを罠に()めてみる?」

 

 リムルとの約束で、クレイマンの領地にある古代遺跡の調査を、カガリが一緒に行う事になっていた。

 

 その時にリムルを罠に導くだけならば、今のカガリにとって容易い事。

 

 それに脅威なのは、ミリムとヴェルドラに、ツキハとコハクのみ。

 

 リムルだけならば始末出来るのではないか――と、考えていたのだ。

 

 防衛機構を作動させるだけなら、悟られずに実行可能、そう考えての提案だった。

 

 だがしかし、ユウキはそれを迷わず否定する。

 

「それも面白そうだね。でも、いいのかい? 魔王ミリムが同行するかも知れないんだぜ?」

「ま、何とかなると思うわよ、流石に番外魔王のどちらかまで来たら、アレだけど、それはないでしょう。機構を作動させるだけなら、ワタクシが疑われる事はないもの」

 

 この時、ユウキもカガリも、ミリムとツキハとコハクが懇意にしている事は知らなかった。

 

 これは、意図してツキハとコハク、ルヴナンが誰にも知られないよう情報操作して来た結果である。

 ヴェルドラとの事は史実にや伝承にも残されているが、ミリムとの事は一切記されて来なかったのだ。

 

 まあこれも、遺跡調査が始まればバレる事になるのだが、ツキハとコハクにとってはもうバレても良いというところなのだろう。

 

 そしてユウキは、カガリの過去がトラウマになっているのではないかと心配をしたが、当の本人には気にした様子はなかった。

 

 耳長族(エルフ)から黒妖耳長族(ダークエルフ)へと変質し、そして妖死族(デスマン)へと進化して魔王となったカガリ。

 

 その過程を経て、魔王ミリムに対するトラウマを克服していたのだった。

 

 もっとも、勝てるかどうかと言えば、無謀を通り越した何かだろうと考えていたカガリ……。

 

「良し! それなら、お願いするよ。倒すのは多分無理だと思うけど、魔王リムルの戦闘能力がどの程度の者なのか、その情報が欲しいと思っていたしね。これに関しては、ホント忌々しいよ、あのスライムが。ルヴナンと契約して、あの国にあの二人を住まわせてしまい、魔王リムルの情報が買えなくなってしまったからねえ」

「それは、何とも。でも、魔王リムルは、それほどの相手なのかしら?」

「ああ、間違いないと思う。だからカガリ、決して正体がバレないように頼むぜ? 僕が疑われているのは間違いないけど、君に関しては白とも黒ともつかない状況なんだからね。逆に相手に情報を与えないように、くれぐれも慎重に行動してくれ」

「わかっているわよ、ボス。コハク、特に空気を読まずに、いきなり暴走する〝馬鹿ネコ〟が来なければ、大丈夫よ」

 

 そう話し合いが纏まると、ユウキとカガリは笑みを交わす。

 

「よっしゃ! それじゃワイらはミーシャはんと接触するわ」

「ワタクシは、このまま準備を進めます。それで、ボスはどうする予定なの?」

「僕かい? 僕はダムラダに連絡を取って、東側での活動拠点を拡張する予定さ。万が一の場合は、そっちに逃げ込めるようにね。あそこは、番外魔王の二人に、ルヴナンですら手が出せない地域だからね。でもその前に――」

「なんやなんや、やっぱり何か企んではるんですか? ワイらには自重せえ言うといて、自分だけはちゃっかりしてまんな」

 

 からかうように言うラプラスに、ユウキは苦笑いを返す。

 

「そんなんじゃないさ、ラプラス。ただ、打てる手は、全て打っておこうと思っただけだよ。だってさ、僕はまだ西側で覇権を取るのを、諦めた訳ではないんだ」

 

 そこで言葉を区切り、ユウキは一度目を伏せ、静かに目を開けると。

 

「最後に笑うのは僕達……」

 

 そう言った後に、ユウキは小さく呟く。

 

 〝Live And Let Die〟

 

 聞き慣れない発音の言葉を聞いたカガリ達は、不思議そうにユウキを見た。

 

 そして――

 

「死ぬのは奴らさ」

 

 ユウキは薄く(わら)いを浮かべ、静かにそれを言った。

 

 

 ここに、闇に潜む魔人達は、密かに行動を開始する。 

 

 

 窓の外では、二匹の野良魔猫がじゃれ合っていた……。

 

 

 





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