忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。205話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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205話 武田の忍び(前編

 

 

 とりあえずの迷宮設定変更を終えた翌日。

 

 

 リムルは溜まった雑務の片付けに追われ、ようやく昼前に六割がたの様々な契約と取引の承認を終え、ひと段落していた。

 

「ああ、ちょっとサボっただけでこの書類の山は何なんだろう……」

 

 祭りの準備から開催、そして迷宮運営と多忙を極めていたから仕方のない事だとはいえ、未だ残る生類の山に少し辟易していたリムル。

 

 智慧之王(ラファエル)に頼めばあっという間に終わるのだが、そこはやはり、自分の力でやらねばと奮闘するも、既に心が折れかけていたのである。

 

 執務机の席から立ち、窓際に行くと、少し曇った空に目を向け短い溜息を一つ吐いた。

 

「はあぁ。やっぱり、先生に頼むべきだったよなあ……」

 

《……》

 

「あ、はい。先生がやると(おしゃ)ったのを断ったのは、俺です。完全に舐めてました、この書類の山を……」

 

《……》

 

「いや、ホント、ごめんなさい」

 

 独り()ちながら智慧之王(ラファエル)に謝るリムル。

 

 そして、つい最近まで人で溢れかえった開国祭の日々を思い出す。

 

(そういえば、あの時ルミナスが言っていた三人目の怪しい気配。あれ、急にその存在を消し去っていたよな。まるでツキハやコハクみたいに。でも、まだこの街にいる気がしてならないんだけど、気のせい、か?)

 

《告。そのような気配を持った存在は、現在感知出来ていません》

 

(だよなぁ。全く不穏な気配が感じられない。アイツ等も何も言ってこないし、やっぱり……いや、アイツ等がそれに気付いてないはずがない。泳がせている? まさかね。いやいや、まだ潜伏してるとか? う~ん、わからん。気にし過ぎもどうかと思うが、あの一件があるから、油断は禁物だ)

 

 開国祭の時に感じた三人目の怪しい気配の事を思案するも、色々な憶測が頭の中を(よぎ)るリムルであった。

 

 そして、窓から街並みを眺めていたリムルは、ふと街中を散歩でもして気分転換をしようと考える。

 

「そうだな、執務室に(こも)りっきりもアレだし。昼食を済ましてから、少し街中を視察でもするか」

 

 そう考えたリムルは、シオンとシュナを伴い、配下・幹部用食堂へと向かった。

 ディアブロにも声をかけたが、少し私用があるとの事で、もの凄く残念そうにその誘いを丁寧に辞退したディアブロ。

 

 そして食堂へ着き、昼のスペシャルランチを頼み、三人で空いた席を探していると。

 リムルは、ツキハとコハクの姿を見つけ、二人が座る六人掛けテーブルへと向かう。

 

「お前達も来てたのか」

「ん? ここのお昼のスペシャルランチは絶品だからね」

「ほんま、美味(おい)しゅうてかなわんわ。ここのランチは」

 

 声をかけられた二人は、ランチを食べる手を止め、笑顔で返す。

 

 シオンとシュナもにこやかに会釈をして、リムルと一緒に真向いの席に着いた。

 

 何気ない日常の会話を交えながら、ランチを食べていくリムル達。

 

 やがて、皆が食べ終えるとシュナが食後のコーヒーを運んで来る。

 

 他の配下達やルヴナン関係者が昼食を食べる為、食堂に集まって来てガヤガヤと賑やかさを増す。

 

 リムル達他、配下や幹部達は、働いた分のポイント制でこの食堂を利用している。

 

 では、ツキハやコハク、ルヴナン関係者はどうしているかというと、現金制であった。

 

 リムルの特別な計らいで、ルヴナン関係者に限ってだけ、貨幣を支払えばこの食堂を利用出来るのだ。

 (なお)、ここを利用するにはテンペスト発行の、〝食堂利用カード〟を持たなければ利用は出来ない。

 

 テンペストとは違い、給金制度が充実しているルヴナンだからこそ出来るのであって、これもまたテンペストにとって重要な収入源になっていたのだ。

 

 ちなみに、この〝食堂利用カード〟は一回ランチを利用する(たび)にポイントが付き、それが溜まると、割引や、各種ランチ無料の特典が付いてくる仕組みになっている。

 

 コーヒーを飲みながら、人心地をつくリムル達。

 

 そこへコハクが。

 

「あ、せや、リムル」

「ん、何だ?」

「また〝食堂利用カード〟を六十枚ほど頼みたいんやけど、お願い出来るどすか?」

「いいよ。後からでいいか?」

「かましまへん」

「ところで、今度は誰用なんだ?」

「うっとこの、訓練を卒業した子達やねん。卒業して二、三年経った子達やな」

「へえー。もう実戦投入してるのか?」

「まさか。今は実戦経験を積むための訓練を兼ねた、研修中やねん。これをしっかりやらな、死に直結するさかい。そうは()うても、そろそろ研修も終わりなんやけど」

「そうなんだ。しかし、お前達のところは給金制度がしっかりしてるよなあ。俺のところも早くそれを確立しないとな」

「元々、戦国時代からの制度を(もう)けて、色々変えながら今に至るさかいな。リムルもゆっくりやればよろしおす」

「確かに。急いでやっても(ろく)な事にならないもんな」

「せやで」

 

 リムルはそう返すと残ったコーヒーを飲み干し、コハクも笑みを浮かべながらそう返した。

 

 それからは、コハクから訓練場を移転した〝ルードネス〟の訓練の進捗具合の報告を聞いたり、シャルフューズとの農業協力や貿易の話を交わしながら昼の時間は穏やかに過ぎて行った。

 

 そして、リムルが「少し街中を散策してくるよ」と言い、それにシオンが「ならば私も」と、供をする事を宣言し、シュナは、今から服飾の工房で用があると言って工房へ向かって行った。

 

 ツキハとコハクは、護衛がてら付き合うよと言い、リムルの散策に付き合う事となる。

 

 中央都市リムル。

 

 最初は小さな町から始まり、今や、大きな街へと発展していた。

 

 中央広場を中心に、東方面に伸びる道は、ドワルゴンへ続く街道へと繋がっている。

 西へ続く道は、ブルムンドへ続く街道へ繋がり、南へ続く道はユーラザニア方面と続く街道。

 

 北側には、大きな建物の執務館があり、その西側に迎賓館地区が広がる。

 そして、その東側に西方聖教会の教会が建てられ、その東側の地に居住地区。

 

 執務館の更に後ろには、封印の洞窟へと向かう細道がある。

 

 更に、そこから南西にルヴナンの敷地が広がり、その隣のルードネス用の敷地は移転閉鎖となっていた。

 閉鎖した敷地は自然へ返すべく、自然に特化した能力(スキル)を持つ者や、シオンの『料理人(サバクモノ)』を利用して、急速に元の姿を取り戻しつつあった。

 

 これは、ジュラの大森林を開墾はしても、大森林の自然の姿を極力壊さない方がいいのではないかという教授の助言に伴い、リムルが定めたジュラの大森林に対する取り決めだったのだ。

 

 リムルが元いた世界の現代文化を取り入れつつも、自然とこちらの世界の文化と調和した街を作ろうと考えた結果であった。

 

 そして、中央広場から南西方面には商工業地区、南東方面に観光娯楽地区が広がる。

 

 リムル達は、この商工業地区と観光娯楽地区との間にある、ユーラザニア街道へ続く道の両端に広がる露店市場を見て散策していた。

 

 祭り程とは言わずとも、大勢の魔物と人で賑わっていた。

 

 あちこちで、露店主の呼び込みの声が響く。

 

 肉に野菜、新鮮な生魚や干し魚、生活雑貨にちょっとした食べ物の屋台など様々である。

 

 道行く魔物や人々が、リムルの姿を見つけお辞儀をして来る。

 リムルはそれに応えるように、右手を軽く上げていった。

 

 中には(ひざまず)こうとする人間がいたりしたが、それをリムルがやんわりと制し、にこやかに手を軽く振った。

 

 元から住んでいる魔物や人間達は、リムルから街中散策中は(かしこ)まらずとも良いと、お達しが出ていたので、皆笑顔でお辞儀をしていた。

 

 リムルが真ん中で、その右隣にシオン、ツキハとコハクはリムルとシオンを挟むように、少し後ろを歩いていた。

 

 曇った空が色濃く染まり、どんよりとした空気を(かも)し出す。

 

「あれ以来、人が増えたよねえ」

 

 賑やかな通りを見て、ツキハがポツリと呟く。

 

「そうだな。祭りが盛況の内に終わって、本当に良かったよ」

 

 リムルがニコニコしながらツキハに返す。

 

 ガヤガヤと商いの声が飛び交う中、客と店主のやり取りが周辺に響き渡る。

 

 いつもの日常、いつもの風景、そんな変わらないいつもの街の姿……。

 

 ちょうど通りの真ん中辺りに来た時、ツキハが鼻をスンと鳴らしリムルの前に出ると同時にコハクも前に出たその時――

 

 日用雑貨の露店にいた二十代前半くらいの若い女性客が、何の前触れもなく右手に短剣を持ち。

 リムルの眼前に一瞬で飛び出る。

 

「えっ!?」

 

 完全に虚を突かれたリムルは、無意識に両腕を顔面前で交差して防御した刹那。

 

「うぎゃッ!」

 

 バッと背中から血飛沫を上げ、前につんのめるようにリムルの前に倒れ伏す。

 

 ツキハがリムルに襲い掛かろうとする女性の背中を、袈裟斬(けさぎ)りにしたのだった。

 

 その隙に左横から三十くらいの男性が、同じく短剣でリムルに襲い掛かろうとするも、コハクが男の前に立ちはだかり。

 

 突き出された短剣を払いながら、男の右手首を自分の右手で掴み。

 その手首ごと後ろに引くように引き寄せ、左掌底で男の顎を打ち抜き、そのまま一本背負いで地面に叩きつけて、掴んだ男の腕をネジ折り、右足で首を踏み抜き折る。

 

 ベギッと鈍い音が鳴り、声もなく男の命が消えた。

 

 一瞬で二人を倒したツキハとコハクだが、戦闘態勢を解く様子はなかった。

 

 既に、通りの賑わいは消えていて、異様な空間ともいえるものにリムル達は囚われていたのだ。

 

「リムル様!」

 

 遅れてシオンがリムルの前に立ち、拳を構える。

 街の散策だからと、〝剛力丸・改〟を持ってこなかったシオンだったのだ。

 

 左足を前にした左半身を取りながら、切っ先を上にし、刃を前に向けた八相の構えを取るツキハ。

 

 コハクは角帯(かくおび)の後ろの『空間収納』から、クロベエに打ってもらった小脇差(しょうわきざし)を出し、右逆手(さかて)で柄を握り、左手で柄の先の部分に当たる鞘尻(さやじり)を握るコハク。

 

 刃渡り一尺三寸(四十センチ)、切っ先三寸(九センチ)の部分が両刃(こしら)えのコハク専用刀。

 

 〝妖刀・小烏丸(こがらすまる)〟。

 

 これは、人間の忍び時代に愛用していた刀であり、それをクロベエに忠実に再現してもらった一品である。

 

 そして、年の違う男女十八人が一応に短剣を構え、リムルを睨み付けていた。 

 

「リムル、厄介な手練(てだ)れがいるで。一瞬でここら辺りを、結界で覆いよった」 

「クソがっ。あたしが気付いた瞬間、結界を張りやがった。シオン、リムルから離れるんじゃないよ。コイツらは囮だ。本命は、姿を消してこの結界内にいる。だから、あたしとコハクに任せな。リムルの護衛に徹して、手を出すんじゃないよ」

「はい、お任せします。ツキハ様」

 

 〝忍び〟の姿を(あらわ)にしたツキハに、素直に従うシオン。

 

「コイツ()は、暗殺者か?」

 

 リムルが二人に問うと。

 

「違うで。この者達からは、血の匂いがせえへん。恐らく、ただの庶民や」

「何だ、と!?」

 

 コハクの言葉にリムルは驚きを隠せず、言葉に詰まってしまう。

 

 そして、追い打ちを掛けるように一人の三十代くらいの女性がおもむろに口を開いた。

 

「魔王リムル。あんたは私の(おっと)の魂を、喰らい殺した憎き魔物。あのファルムス王国騎士団切っての精鋭だった、私の夫の、仇。憎んでも憎んでも、この恨みは晴れない。アンタは、絶対に殺してやる!!」

「ッ……」

 

 凄まじき女性の憎悪。

 

 リムルは、生まれて初めてここまでの憎悪の目を向けられた事に対して、一切の言葉が出なかった。

 

(何て目をしてるんだ……。これは、恨みとかより、とてつもなく激しい憎しみじゃないか……)

 

 あれは戦争であり、戦場(いくさば)で起こった命のやり取りにしか過ぎない。

 ()るか、()られるか、それだけである。

 

 それにも(かか)わらず、その女性はありったけの憎しみをリムルにぶつけて来たのだ。

 

 ましてあの時に、このような憎しみを受ける事は覚悟もしたし、それを全て受け入れようと心に決めたリムルだった、が。

 

(これ……覚悟は決めたんだが、普通の人間に、これまでの憎悪を向けられると、流石にキツイ、な。ツキハはこれを言いたかったのか……)

 

 この憎悪の目を向けられ、これがツキハが言った覚悟の意味だと、今理解したのだ。

 

 そして、もしかして精神操作の(たぐい)ではないかと、思うも。

 

《告。あの者達に精神操作の兆候は見受けられません。しかし、魔法による身体能力の強化が施されています》

 

 と、無情にも智慧之王(ラファエル)が告げる。

 

(これほどまでに憎しみが籠った目。それほどまでに俺が憎いのか……。いや、そうだろうな。俺のやった事は、俺の国に対しての正義であり、アイツ()にはただの圧倒的な暴力でしかない。それでも、この(ごう)は背負うと決めたんだ。是非もなし。でも、シオン達が殺された時の俺も、あんな目をしていたんだろうな……)

 

 恨みを買う、憎しみを抱かれる、リムルはこれらを含めて受け入れ、女性の憎悪に燃える目を正面から見据えた。 

 

 と、そこへ。

 

「リムル、斬るよ」

 

 淡々とした言葉でツキハが言うと。

 

「ああ、やってくれ」

 

 またリムルも、感情無き声で答える。

 

 ここは魔国、魔王リムルに対して敵意を剥き出しにして武器を向ける。

 

 だれが手引きをしたかは別にして、それは許されざる行為。

 

 これを許せば魔王としての威厳、ひいては国を治める者としての立場が揺るぎかねない。

 いくらリムルが人間と友好的に共存したいといえど、これは容赦なく排除すべき行為なのだから。

 

 それに、ツキハが斬る宣言をしたからには、この者らの背後関係はないと判断したと、リムルは取ったのだ。

 

「よりにもよってまあ、こんなにも憎悪を(たぎ)らせるなんて、どこのどいつだ? コイツらを()きつけた奴は。尋常じゃないな、この憎しみは」

「ほんま、久しぶりに見たで。ここまで憎しみを燃やす、人間を。もう、何をしても止まりまへんな、この人間達。(いくさ)においては、国同士の戦いや。恨むなら、無謀な戦いを起こした元ファルムス王を恨みなはれと、言いたいところやけども、理屈じゃないんどすよなぁ、コイツらにとっては」

 

 じりじりとリムル達を囲んでいく、復讐者達。

 

 それを見ながら、ツキハとコハクは静かに吐き捨てる。

 

「死ねえ! 人類に仇名す魔物めッ!!」

 

 一人の男が叫び、リムルに襲いかかる。

 

 剣閃が(きら)めき、男の胸が真一文字に斬られ、真っ赤な血飛沫(ちしぶき)が宙に舞う。

 

 右片手で横薙ぎに繰り出した刃をツキハは返し上段に構えると、ツキハの左から向かって来た中年の男に向けて一気に斬り下ろした。

 

「弟の仇ぃッ! グエッ!」

 

 男は振りかざした短剣を振り下ろす事なく、頭の真ん中から真下に向けて斬られ、一言(うめ)き声を上げると、身体が左右に分かれて、ドチャッと嫌な音を立てながら倒れ地面に大量の血と臓物をぶちまける。

 

「この薄汚い魔物があーーーー!! 返せ! 俺の父を返せえーーッ!!」 

 

 シオンに襲いかかる若い男性。 

 胸を一突きにしようと右腕を伸ばす。

 

(この、目……以前の私の目だ。溢れかえる憎しみの、感情)

 

 拳を構えたまま、一瞬躊躇(ちゅうちょ)するシオン。

 

 またシオンも、憎しみに満ちた目を自身に向けられたのは、生まれて初めてだった。

 

「シッ」

 

 シオンの前に割って入った影一つ。

 そして、短い声が響く。

 

 キラリと剣閃が走り、それは短剣を持った右腕を切り飛ばし、更に右斜め上に逆袈裟(けさ)斬りで若い男を斬り伏せた。

 

「シオン、コイツらは暗殺者であり復讐者や。取り押さえようとなど、考えたらアカン。改心も引く事も何も考えていないんや。だから、慈悲も情けもいらんでぇ」

 

 怖気(おぞけ)が来るような声でコハクが言い放つ。

 

 シオンは無言で頷き、今一度自分に活を入れる。

 

(そう。私はリムル様の第一秘書であり、リムル様をお守りする者。これくらいで臆する事はない!)

 

 スゥッと目が鋭利に細くなり、悪鬼(オニ)の本性を表していくシオン。

 

「ええ顏や」

 

 そう言うとコハクは、フッと足下に砂塵を巻き上げると、リムルに迫りくる三人目掛け一瞬で接敵し、無情な刃を振るい、あっという間に三人を斬り伏せる。 

 

 パッと三つの血の華を咲かせ、その三人は力なく崩れ落ちていく。

 

 ツキハは五人囲まれるのも気にせず、一番近い右側の男に斬りかかり、首を斬り飛ばす。

 首のなくなった死体を左に蹴り飛ばすと、左から来る若い女にぶち当たり、「ギャッ」という悲鳴と共にもろともに地面に転がって行った。

 

 ツキハは、剣先を右斜めに下ろしたまま、真正面の三人目を見据えた。

 

 その時、無防備なツキハの背中目掛け、四人目の男が短剣を振り上げ斬りかかる――

 

 刹那、ツキハはそのまま右に身体を回しながら、(やいば)を真一文字に右に()ぐ。

 

「あ!? ……」

 

 斬られた男がどこか気の抜けた声を出し、ちょうどへそ辺りに視線を落とすと。

 

 着ている服がピッと真横に切れて、ブバッと吹き出る鮮血と共に内臓がバシャバシャッと地面に踊り落ち、ドサッと地に両膝を付き、そのまま横倒しに倒れ絶命した。

 

 そして先程の二人を難なく斬り伏せ、コハクと並び立ち。

 

 残る者達を、表情も変えず全て斬り伏せて行った。

 

 いくら身体能力を強化したとしても、所詮(しょせん)は普通の人間を少し強くした程度。

 古き魔物である二人に(かな)うハズも無し。

 能力(スキル)は使わず、鍛えた剣術と体術だけで二人に簡単に倒されてしまった。

 

 ツキハとコハクは、刃に付いた血脂をピッと振って、血振(ちぶ)るいを済ますとリムルのところに歩み寄る。

 

 コハクは刃を鞘に(おさめ)たが、何故かツキハだけは剣を右手に下げたままだった。

 

 そして―ー

 

「終わったのか?」

 

 と、リムルが(けわ)しい顔で聞くと。

 

 ツキハはリムルを見たまま若干視線を下に下向け、左足を前に出して右足を少し後ろに引き。

 

 両手で持った刀の切っ先で、後ろを振り向きもせずに右斜め後ろを指した。

 

 チャリッ、(つば)鳴りの軽い音がリムルの耳に響く。

 

 すると。

 

 その虚空を指す方向の空間が揺らぎ始め――

 

 言い様のない、禍々しい妖気(オーラ)が漏れ出し。

 

 若い女の声が大気を震わせていった。

 

 

 ふふふふふ

 

 ふふっふふふっふ

 

 うふふふふふふふふ

 

 ツ~キ~ハぁ~~~~~~

 

 あはははははははははははははははははははははは

 

 あはははっあはははははははははははははははははははーーーーーーーッ!!

 

 

「ツキハ!? 誰だ、この声は?」

 

 リムルが警戒心も露わに言うと。 

 

 何もない空間に、ボヤァッと白いお面が浮かび上がる。

 

 

 それは、顔のように〝へのへのもへじ〟が書かれたお面

 

 

 それを見たコハクの眉がつり上がり、切れ上がるように細められた目で、低く殺意の(こも)った声で言葉を吐き捨てた。

 

 

 望月 千代女(モチヅキ チヨメ) 

 

 

 と。

 

 

 





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