忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。206話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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206話 武田の忍び(中編

 

 

 異様な結界空間内に響く、狂気ともとれる笑い声。

 

 

 その笑い声の主が、リムル達の前に姿を現す。

 

「あの時の忍者……いや、忍びか。それに望月 千代女(チヨメ モチヅキ)って、甲斐の国の武田の忍びだったよな?」

「せやで。元は甲賀の里の出の、武田信玄とこの忍びやった女や」

 

 リムルは、以前ハクロウとベニマルを襲った、女の〝忍び〟を思い出し、コハクがそれを肯定した。

 そして、元いた世界の戦国時代にいたであろう事も思い出す。

 

「ヤバいな、コイツ。シオン、俺から離れるなよ」

「はい」

 

 (じか)に見るこの忍びにリムルは、只ならぬ雰囲気を感じ警戒を強める。

 

 

 へのへのもへじのお面を被る女。

 

 着ている装束(しょうぞく)は、膝丈迄の白い小袖(こそで)、腕には黒い布地(ぬのじ)の手甲をして、脚の(すね)にぴったりと巻き付けた黒い脚絆(きゃはん)を巻き。

 

 下は、スパッツみたいなハーフパンツを穿()いていた。

 

 足には魔獣の皮を紐状に編みこんだ、旅草鞋(たびわらじ)みたいなものを素足に履く。

 

 胴には黒い角帯を締めていて、帯の後ろに刃渡り六十センチの小太刀を差し。

 髪は銀髪で、長さは肩より少し下くらいの若い女

 

 そして、右手でお面に手をかけると、ゆっくりと素顔を晒していった。

 

 

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「お? 綺麗なお姉さん(ヤバッ! シオンに……)」

 

 お面をとった素顔に思わず声を漏らし慌てるリムルだが、シオンは警戒を強めたままリムルの前に立ち、拳を構えたままだった。

 

「なんやアンタ。目の色が(あお)うなってるやないか。とうとう、南蛮かぶれでもしはったんか? 相変わらずド変態な顔してはるな」

 

 いきなり毒を吐くコハク。 

 

「これ? ふふっ、うふふふふっふ。どうしてだか、わかる? お・馬・鹿・さん」

 

 氷の如く微笑みを浮かべ、コハクを(あお)るチヨメ。

 

「しらんわ、ドアホ! どうせ、何かやらかして目の色が抜け落ちたんやろ。ほんま、しょうもない女やな、チヨメ」

 

 更に煽るように吐き捨てるコハク。

 

「いいわ、お馬鹿なお前にもわかるように教えてあげるわ~。いい、聞きなさい」

「いらへん。死んどきなはれ、ド変態がッ!」

 

 変態が変態を、更に更に煽る。

 

 しかしチヨメは、そんな事も意に介さず喋り続ける。

 

「まず、私が何故この世界にいるか、そこから語らないとね。うふふふふふ」

 

 そう言うとチヨメは、優雅に歩きながらリムル達に近付くも、ある一定の距離まで来ると、歩みを止めた。

 

 そして。

 

「相変わらず怖い人ね、ツキハは。私が、あの変態女と仕方なしにお喋りをしているにも関わらず、貴女の剣の間合いは、私を捉えたまま。貴女を中心に半径五メートルが必中の間合い。これ、今の貴女ならどこまで広がるのかしら? 十? 百? まさか千とか言わないわよねえ。うふふ」

 

 勝手に喋り続けるチヨメにツキハ背を向けたまま、未だ切っ先を向けたままであった。

 

(ツキハの殺気がどんどん強くなっている? この女、よほどのヤツなのか……)

 

 リムルとシオンもチヨメの出方がわからず、迂闊(うかつ)に動けないでいた。

 

「まあ、いいわ。よーく、そのあざとい猫耳をかっぽっじって聞きなさいな、コハク。もう六百年も前かしら? いや、もう少し経っている? ツキハとの死闘で手酷い傷を負った私は、忍びとしての生命を絶たれたの。ううん、愛しい愛しいツキハから受けた傷だもの。そんな事はどうでも良かった。でも、でもね。いつまでもツキハの隣に、憎らしい憎らしい、ほんと憎らしい、女。コハク、あんたがいるのだけは許せなかった。どうやって呪殺しようかと、日々を過ごしていたわ……」 

 

 どこか支離滅裂な事を話だし、リムルは少し戸惑う。

 

(何かさ、めちゃくちゃヤバいヤツなんじゃねえの? コハクとは別のアレだな、多分……いや、コハクの方がマシに思えるくらい、ヤバい女だ)

 

 と、警戒心より、近づきたくない感情に襲われる。

 

「だから、なんや」

「もう、焦らないの、馬鹿女」

「あ゛?」

「それでね、ある日、吉報が入ったの。乱波(らっぱ)の忍びの琥珀(コハク)が死んだと」

 

 そこまで言うとチヨメは、顔を輝かせて次の言葉を言った。

 

「それを聞いた瞬間……私は歓喜したのよオォー―――ッ! うふふっ、うふふふふふふっふふ、あはははははははははははっはは」

 

 身悶えしながら狂気の笑い声を上げるチヨメ。

 

「「……」」

 

 流石のリムルとシオンもドン引きである。

 

「でもね……でもでもでもででもぉ――ッ!! でも……」

 

 叫ぶように張り上げた声の調子がストーンと落ち、急に項垂(うなだ)れるチヨメ。

 

 そして――

 

「憎ったらしいコハクのせいで、私の愛するツキハまで死んだんじゃ意味がないのよッ!!」

 

 と、妖気(オーラ)全開でリムル達に向け放ち叫ぶ。

 

「何ッ!? これって、魔王覇気じゃ?」

 

 リムルがそう言葉を(こぼ)すと。

 

「ええ、そうよ。魔王リムル。私はね、進化、覚醒したのよ。覚醒魔王級にね。その時に何故か、瞳の色が蒼くなっちゃったの。本当にどうしようかしら、ツキハに嫌われてしまうわ。いやいやいや、そんな事絶対に、いやッ!!」

「なあ、アホ女。だいたいな、何でアンタがこの世界にいるんや? そこを()よ言わんかい!!」

「もう、せっかちさんね、ク・ズ・オ・ン・ナ。うふっ」

「やかましわ! さっさと言いなはれ。そしたらその後、命乞いをする間もなく、そっ首叩き切ってやるさかい」

 

 チヨメの挑発に敢えて乗るコハクは、〝妖刀・小烏丸〟を逆手で抜くと左足を前に少しだし、スッと刃を背に隠し、いつでも攻撃に転じられるように態勢を整える。

 

「いいわよお。やれなら、ね。えーと、どこまで話したのかし、ら?」

 

 そう言うと小首を傾げ、腕を組んで真剣に考え始めるチヨメ。

 

(え? もしかして、極度の情緒不安定さん?)

 

 その仕草に、若干呆れ返るリムルであったが、そこへ。

 

「チヨメ。さっさと話しなよ。その間は待っててやるから、斬るのを」

 

 切っ先を向け、チヨメに背を向けたままのツキハが、低く威圧の入った声で言う。

 

「あらあらあらあら、待ちくたびれたのね。ごめんなさい、ツキハ。それじゃあ、話して、ア・ゲ・ル。うふっ」

 

 ツキハの威圧も意に介せず、ホワリとしたえみを浮かべると、チヨメはここに来た経緯をやっと話し出す。

 

「六百年前。貴女がコハクに殺されてから半年経った頃、だったかしら。信玄様の館に呼び出され、その館に向かう途中、不意に異様なモノの気配、いえ、言い様のない圧迫感というモノに包まれたの。そして、瞬時に私の見ていた景色が反転、(うず)を巻き目の前が真っ暗になったわ。そこからは、意識だけが存在してるような不思議な空間を漂っている感覚を感じていたのよ。その間、とてもとても不思議な声が響いていたわ。ナニナニ耐性とか様々な能力(スキル)をもらったの。そしてね、ユニークスキルというモノも、もらったのよ。ユニークスキル『呪殺ノ者(ノロウモノ)』という能力(スキル)をね。うふっ、うふふふふ」

 

そう言うと心底怖気(おぞけ)が来るような笑いを吐き出した。

 

(何なんだ、コイツ。美人なお姉さんなのに、ちっともときめかねえ)

 

《……》

 

 リムルが内心でそう思うと、いやそこじゃないというように、智慧之王(ラファエル)が無言の何かを示す。

 

 そして、リムル達を上目遣いでねめるように見て、チヨメは言葉を続けていく。

 

「それでね、召喚されちゃつた。異世界であるこの世界に。でね、この世界に召喚した愚か者は、どこぞの小国の馬鹿どもだったの。そしてそして、あろう事か……私の魂を縛り使役しようとしたのよ、クズどもが、ね。でもでもでも、そんなもの私には通用しなかったのよ。何故だと思う?」

「アホか。どうせ精神操作系無効でももろたんやろ。しょうもない」

「うふふふ~。ご名答~。偉いわよ、コ・ハ・ク。ふふっ」

「はんっ。たかだか六百年しか生きていないヒョッコが、生意気を抜かすなおすえ」

「あらあ~。もの凄く長く生きてるお婆ちゃんには、気に入らなかったのかしら?」

「ババアがババアを語ってどないするねん。ほんま、昔からしょうもない女やなぁ。クスッ」

「あ゛? 殺すわよ、と、言いたいところだけど、話がまだ終わってなかったわね。ところで、コハク。お前、私の能力(スキル)は見える? 見えないわよねええ~。だってだって、私も持ってるんだもの、究極能力(アルティメットスキル)を、ね。うふふふっ」

 

 コハクにツキハ、そしてリムルも『解析鑑定』でチヨメを鑑定したが、肝心の究極能力(アルティメットスキル)は見えてはいなかった。

 

 究極能力(アルティメットスキル)持ちは、究極能力(アルティメットスキル)を隠蔽出来る。

 

 ここでチヨメが、進化覚醒したのが本当だと確定したのだ――

 

 

種族:魔忍(半精神生命体)

  

 

加護:大いなる者の守護

 

 

 

称号:歩き巫女(ウォーキングシャーマン)

 

 

魔法:元素魔法系変換忍術 核撃魔法 

 

 

 

技術:甲賀流気闘法 

 

 

 

固有スキル:多重結界、万能感知、変装、魔王覇気、物質創造、思考加速

 

 

アルティメットスキル:????

 

           憎念(ぞうねん)操作(人や魔物の憎しみ、恨みなど、負の感情を操る)

 

 

耐性:物理攻撃無効 状態異常無効 精神攻撃無効 自然影響無効 聖魔攻撃耐性 

 

   痛覚無効 耐熱耐冷耐性

 

 

(見られてもいいところは隠さないのか。しかし、本当に精神攻撃無効を持ってるとはね。これ、チヨメとかいう女を操る事は不可能じゃん、厄介だなぁ。誰かに操られているとかではなく、自分の意志で今ここにいる。明確に敵宣言だし、けども……。何であんなにツキハ二執着するんだ? ()せぬ。 コハクもあそこまで敵意を剥き出しにするなんて、相当だろう。それに、あの権能だけワザと見せているのか? 憎念操作って、人の負の感情を操る、ねぇ。あれで、元ファルムス騎士団にいた家族や知人を殺された恨みを、あのファルメナス国の住人も憎しみを()きつけた、いや、増幅させたのか……。ヤバイヤバイッ! これ、普通の人間なんて、(ねた)(そね)み、憎しみ、怨念、多少ならずとも持ってたりするから、そこを疲れたらとんでもない事になるよな、本当に――)

 

《告。憎念操作なる権能は、ある一定の条件が必要かと推測します》

 

(え? 条件がいる?)

 

《是。もしそれが全てに適応されるなら、今この場は、その憎しみを持った者達で溢れかえっているでしょう》

 

(例えば、俺に強い憎しみを持っている者限定とかかな?)

 

《是。推測の域を出ませんが、そうでなければ今この現状を説明出来ません》

 

(なあ、先生。これ、俺限定ではなくとも、誰かに対して強い憎しみとかを抱いていれば、発動、もしくは増幅出来るんじゃないか?)

 

《是。その可能性は高いといえるでしょう》

 

 チヨメの権能について考察するリムルであった。

 

 一方ツキハの方は剣先をチヨメに向け背を向けたままであったが、左右の猫耳を独立して動かし、右の耳は右後ろ斜めに動かし、左耳は、左真横に向けて何かを探っていた。

 

(あと一人どこだ? アイツの声も聞き覚えがあった。多分、チヨメの右腕ともいえる女の忍び。よりにもよって、何でこの二人何だよ……めんどくさぁ。ってか、この世界じゃなくて、別の世界に行けばいいじゃんっ! こっち来るな!)

 

 あの時現れたもう一人の気配を探りながら、毒を吐くツキハである。

 

「それでえ、私を召喚した者達の小国は、私がその国の重鎮達を、疑心暗鬼、妬み嫉み、憎しみをちょっと突いてあげてえ、内乱を起こさせてあげたのよお~。うふっふふふふ」

「相変わらずえげつないどすな、チヨメ」

「何言ってるのかしらあ? お前も相当えげつない事をやって来たじゃない。そして、この世界でも同じく、やってるじゃない。あ、でもでもぉ、ツキハはそんな事気にしなくても大丈夫。私は、貴女の全てを受け入れるわ。だから、貴女も私の全てを受け入れないと、ダ・メ・よ。うふっ」

「そんなもん、いらんわ!」

 

 流石のツキハも、嫌悪感も露わに吐き捨てる。

 

「でねでね、その小国は、ある大国に隣接する属国だったの。そして、内乱を鎮静に来た軍隊とやり合った時にね、私の強さに惚れたみたいでえ。なんとなんとおぉ! 大国の(あるじ)に気に入られてえ、雇われちゃったのよお。凄いでしょ、ねえ、そう思わなくて、ツキハ」

「大国の主? テメエ、まさか東の帝国の犬になったんじゃないだろうな?」

「さあ、どうかしらねえ。そこは、御想像にお任せするわ、愛する、ツ・キ・ハ」

「うげッ……」

 

 残心を解かずとも、チヨメの言葉に尻尾の毛を逆立てるツキハ。 

 

「まあ、でも、貴女が魔物に転生したと知った時は、絶望したわ。私の愛するツキハが、魔物になるなんて、ね。本当に悲しかったわ……。でもお、何と可愛らしい猫娘に転生してるじゃない。その姿も、とてもス・テ・キ。もう、抱きしめたくなっちゃうじゃないのよぉ~~~」

 

 そう言うとチヨメは目を伏せ、そっと流れる一筋の涙を手の甲で(ぬぐ)い、今度は身悶(みもだ)えするように妖しく身体をくねらせる。

 

(あ、これ、絶対に関わってはいけない人だ。ツキハ、ご愁傷様)

 

 リムル、心の内でツキハに向かって合掌する。

 

「それで私は悟ったの! 愛する者が魔物、魔王に準ずる者ならば、私も魔王に進化すればいいと、ね。そう考えたのよ。そして、とある御方に相談したの、そうしたら私が強くなるのならば、それも一興。そうなっても忠誠を誓ってくれるのなら、その方法を教えると、ね」

 

(はああ!? あれを説明出来る者がいたの? マジかよ……。いや、お伽話に残っているくらいだから、それを知る者がいてもおかしくはないか。クレイマンも、魂を集めて進化しようとしたのだからな。クレイマン……東の帝国との繋がり……六百年前くらいに召喚された望月千代女(チヨメ・モチヅキ)……。これって、あの忍びが裏で動いていたとか? いや、それならばあの二人が何か気付くはず、だよな)

 

 チヨメの語る事に違和感を抱くも、ツキハとコハクがそれに気付かない事はないだろうと、とりあえずその考えを頭の中から追いやるリムルであった。

 

「それでね、あの偉大な御方様に仕える為、頑張って頑張って、頑張って魂を集めたわあ。そしてえ、三百年前にようやく進化したの。それも、覚醒魔王級というオマケ付きでね。凄いでしょ。うふっ」 

「ようそんなもんで進化出来たどすな。ド変態女の執念は、怖いどすなぁ。でもな、いかれた思考の持ち主のアンタが、信玄以外の者の下に付いたのは驚きどすえ」

「ふふっふふ。お前は知らないだろうけど、この世には逆らってはいけない者がいるのよ。お前にはわからないわよねえ、コハク」

「知らへんわ、そんなもん!」

「年を取ったお婆ちゃんなのに、そんな事もわからないなんて、同じ忍びとして恥ずかしいわ。あああ、ツキハはお婆ちゃんじゃないからね。いつまでもあの頃の、十七歳の頃の貴女だから、私の中では。うふふふふ」

「アンタも何百年も生きているお婆ちゃんやないか。何()うてますねん。何がツキハだけちゃうとか、アホちゃいますか!」

「私の想いを土足で踏み散らかすのは許さないわよ、コハク。テメエは、その内、きっちりコ・ロ・シ・テ・ア・ゲ・ル、から! ツキハ、待っててね。貴女を戦場(いくさば)で見た時に一目ぼれして以来……貴女を呪詛(じゅそ)で折った紙人形にその思念を閉じ込めて、一生可愛がって上げようと思ったのに、あんなに抵抗するんだもの。でも――」

「アンタがコハクを()めて、殺そうとしたからだよ。それに、あんたの呪術は乱波(らっぱ)の忍びには通じないからね。でも、完全に殺さなかったのは、あたしの失態だわ。やっぱり、忍びとしてのアンタを殺すんじゃなく、人としてのアンタを殺すべきだった」

 

 チヨメがつらつらと語る中、とてつもない殺気を込めた言葉でツキハが、静かに言い放つ。

 

 すると、少し哀しい表情を浮かべ、如何(いか)にも泣きそうな顔で言った。

 

「もう、つれない事言わないで、ツキハ。お姉さんは悲しくなっちゃって、泣いてしまいそう」

「さっきから話が長い。()よ終われよ」

「六百年ぶりに会ったのよ。このくらいのお喋りを楽しむくらい、いいじゃない。貴女と接触するのを。上からの(めい)で何百年も止められていたのよ。それに、貴女の隣にいるのはその女ではないわ、私なの。だからあの時もコハクを殺して、呪縛から解放して上げようとしただけじゃない。あの女の、呪縛からね」

「いや、あんたの方が呪縛じゃん」

「ふふっ。そんな事を言いながらも、残心を解かない――」

「ほんと、人の話し聞かねえのな。昔っから」

「え、何かしら? そうそう、あの頃もそうだけど、稀代の女剣術使いと言われるだけはあるわねえ。嬉しいわ、本当に嬉しい。愛する人の腕が鈍ってはいない、その現実に私は、歓喜するわあぁ~。うふっふふふふ。あの時は、一歩貴女には及ばなかった。それに、乱波の里の忍びには、私達の呪術が効きにくいとか、理不尽だわ。憎しみの感情を、怒りの感情で抑えるなんて、馬鹿げてるわ。憎しみこそ、戦いにおいて圧倒的な力を生み出すのに、本当にもったいない事よ」

「なに()うてますねん。憎しみに喰われた者がどうなるかくらい、わかってますやろ。まあ、それをわかっているからこそ、憎しみに喰われた兵や武将をぎょうさん生み出しよったんやろ。しょうもない事や」

「それも、兵法の一つよ、コハク。人の感情を利用する、素敵な事じゃない。これほど始末の負えない者はいないのだから、ね。それに、今ツキハと話してるの。お前が出しゃばっていいものじゃないのよ、わかる? 醜悪、バ・バ・ア!」

「黙りや。ド変態の、ブ・サ・イ・ク・バ・バ・ア!」

 

(うわぁー。ここまでコハクが挑発に乗るなんて初めて見たわ。しかも、盛大に(あお)り散らしてるし。しかし、この異様な結界空間は解除は、出来ないか……)

 

 リムルは『思考加速』をかけながら、自分達が囚われているこの結界を『解析鑑定』で分析するも、肝心かなめの、その結界を結界()らしめているエネルギーが解析出来なかったのだ。

 

《告。この結界を支えているエネルギーの主体は魔素ではなく、魔素とは別の何か。そう、個体名:ツキハがあの時使った謎のネルギーと酷似しているのではと推測します》

 

(マジかぁー。そりゃあ解析出来ない訳だ。これ、どうすっかな?)

 

《告。主様(マスター)

 

(ん? どうした)

 

《個体名:コハクならこの結界を打破出来るかも知れません。個体名:コハクとの会話を許可頂けるなら、こちらが協力して結界を打ち破る事が可能かも知れません》

 

(会話ねえ……。先生の存在を知られるリスクと、見合わないと思うんだけど? それに、アイツ()が受けるかねえ?)

 

《告。利用し利用される。そういう関係であれば、こちらを信用はしてもらえるでしょう。もし、人情や良心、親しい間柄を立てにすれば、即却下されるでしょう》

 

(うーん……。でもなあ、いやでも、ツキハとコハクの秘密がわかるかも? あの、意味不明のノイズと、か)

 

《告。これからの主様(マスター)の未来には、あの二名の存在が鍵となるかも知れません。そして、この世界の未来にも》

 

(え? 未来、って……。先生さ、何か予感するの?)

 

《否。そのようなものはありません。しかし、あの二名の存在は、主様(マスター)にとって今後助けとなる可能性が高いでしょう》

 

 何故、智慧之王(ラファエル)がここまでツキハとコハクに執着心を見せたのかは、智慧之王(ラファエル)自体にもわからない。

 

 しかし、自分の(あるじ)の未来にとって、ツキハとコハクが必要不可欠になると確信していたのも事実。

 

 いち能力(スキル)である智慧之王(ラファエル)に自我があるのではないかとリムルは疑っているものの、それも定かではない。

 

 これが凶と出るのか、吉と出るかは、まさに神のみぞ知るといったところであろう。

 

(わかった。任せるよ、ラファエル(智慧之王)。そのタイミングも、そちらで頼む)

 

《了》

 

 

 こうして智慧之王(ラファエル)が、ツキハとコハクと会話をする事が決まった。

 

 腹を(くく)ったリムルは、後は任せるのみと『思考加速』を解除し、未だに言い合うチヨメとコハクの方に注力する。

 

 

 そしてもう一人の忍びが、密かに動き出そうとしていた。

 

 

 

 





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