忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
異様な結界空間内に響く、狂気ともとれる笑い声。
その笑い声の主が、リムル達の前に姿を現す。
「あの時の忍者……いや、忍びか。それに
「せやで。元は甲賀の里の出の、武田信玄とこの忍びやった女や」
リムルは、以前ハクロウとベニマルを襲った、女の〝忍び〟を思い出し、コハクがそれを肯定した。
そして、元いた世界の戦国時代にいたであろう事も思い出す。
「ヤバいな、コイツ。シオン、俺から離れるなよ」
「はい」
へのへのもへじのお面を被る女。
着ている
下は、スパッツみたいなハーフパンツを
足には魔獣の皮を紐状に編みこんだ、
胴には黒い角帯を締めていて、帯の後ろに刃渡り六十センチの小太刀を差し。
髪は銀髪で、長さは肩より少し下くらいの若い女
そして、右手でお面に手をかけると、ゆっくりと素顔を晒していった。
「お? 綺麗なお姉さん(ヤバッ! シオンに……)」
お面をとった素顔に思わず声を漏らし慌てるリムルだが、シオンは警戒を強めたままリムルの前に立ち、拳を構えたままだった。
「なんやアンタ。目の色が
いきなり毒を吐くコハク。
「これ? ふふっ、うふふふふっふ。どうしてだか、わかる? お・馬・鹿・さん」
氷の如く微笑みを浮かべ、コハクを
「しらんわ、ドアホ! どうせ、何かやらかして目の色が抜け落ちたんやろ。ほんま、しょうもない女やな、チヨメ」
更に煽るように吐き捨てるコハク。
「いいわ、お馬鹿なお前にもわかるように教えてあげるわ~。いい、聞きなさい」
「いらへん。死んどきなはれ、ド変態がッ!」
変態が変態を、更に更に煽る。
しかしチヨメは、そんな事も意に介さず喋り続ける。
「まず、私が何故この世界にいるか、そこから語らないとね。うふふふふふ」
そう言うとチヨメは、優雅に歩きながらリムル達に近付くも、ある一定の距離まで来ると、歩みを止めた。
そして。
「相変わらず怖い人ね、ツキハは。私が、あの変態女と仕方なしにお喋りをしているにも関わらず、貴女の剣の間合いは、私を捉えたまま。貴女を中心に半径五メートルが必中の間合い。これ、今の貴女ならどこまで広がるのかしら? 十? 百? まさか千とか言わないわよねえ。うふふ」
勝手に喋り続けるチヨメにツキハ背を向けたまま、未だ切っ先を向けたままであった。
(ツキハの殺気がどんどん強くなっている? この女、よほどのヤツなのか……)
リムルとシオンもチヨメの出方がわからず、
「まあ、いいわ。よーく、そのあざとい猫耳をかっぽっじって聞きなさいな、コハク。もう六百年も前かしら? いや、もう少し経っている? ツキハとの死闘で手酷い傷を負った私は、忍びとしての生命を絶たれたの。ううん、愛しい愛しいツキハから受けた傷だもの。そんな事はどうでも良かった。でも、でもね。いつまでもツキハの隣に、憎らしい憎らしい、ほんと憎らしい、女。コハク、あんたがいるのだけは許せなかった。どうやって呪殺しようかと、日々を過ごしていたわ……」
どこか支離滅裂な事を話だし、リムルは少し戸惑う。
(何かさ、めちゃくちゃヤバいヤツなんじゃねえの? コハクとは別のアレだな、多分……いや、コハクの方がマシに思えるくらい、ヤバい女だ)
と、警戒心より、近づきたくない感情に襲われる。
「だから、なんや」
「もう、焦らないの、馬鹿女」
「あ゛?」
「それでね、ある日、吉報が入ったの。
そこまで言うとチヨメは、顔を輝かせて次の言葉を言った。
「それを聞いた瞬間……私は歓喜したのよオォー―――ッ! うふふっ、うふふふふふふっふふ、あはははははははははははっはは」
身悶えしながら狂気の笑い声を上げるチヨメ。
「「……」」
流石のリムルとシオンもドン引きである。
「でもね……でもでもでもででもぉ――ッ!! でも……」
叫ぶように張り上げた声の調子がストーンと落ち、急に
そして――
「憎ったらしいコハクのせいで、私の愛するツキハまで死んだんじゃ意味がないのよッ!!」
と、
「何ッ!? これって、魔王覇気じゃ?」
リムルがそう言葉を
「ええ、そうよ。魔王リムル。私はね、進化、覚醒したのよ。覚醒魔王級にね。その時に何故か、瞳の色が蒼くなっちゃったの。本当にどうしようかしら、ツキハに嫌われてしまうわ。いやいやいや、そんな事絶対に、いやッ!!」
「なあ、アホ女。だいたいな、何でアンタがこの世界にいるんや? そこを
「もう、せっかちさんね、ク・ズ・オ・ン・ナ。うふっ」
「やかましわ! さっさと言いなはれ。そしたらその後、命乞いをする間もなく、そっ首叩き切ってやるさかい」
チヨメの挑発に敢えて乗るコハクは、〝妖刀・小烏丸〟を逆手で抜くと左足を前に少しだし、スッと刃を背に隠し、いつでも攻撃に転じられるように態勢を整える。
「いいわよお。やれなら、ね。えーと、どこまで話したのかし、ら?」
そう言うと小首を傾げ、腕を組んで真剣に考え始めるチヨメ。
(え? もしかして、極度の情緒不安定さん?)
その仕草に、若干呆れ返るリムルであったが、そこへ。
「チヨメ。さっさと話しなよ。その間は待っててやるから、斬るのを」
切っ先を向け、チヨメに背を向けたままのツキハが、低く威圧の入った声で言う。
「あらあらあらあら、待ちくたびれたのね。ごめんなさい、ツキハ。それじゃあ、話して、ア・ゲ・ル。うふっ」
ツキハの威圧も意に介せず、ホワリとしたえみを浮かべると、チヨメはここに来た経緯をやっと話し出す。
「六百年前。貴女がコハクに殺されてから半年経った頃、だったかしら。信玄様の館に呼び出され、その館に向かう途中、不意に異様なモノの気配、いえ、言い様のない圧迫感というモノに包まれたの。そして、瞬時に私の見ていた景色が反転、
そう言うと心底
(何なんだ、コイツ。美人なお姉さんなのに、ちっともときめかねえ)
《……》
リムルが内心でそう思うと、いやそこじゃないというように、
そして、リムル達を上目遣いでねめるように見て、チヨメは言葉を続けていく。
「それでね、召喚されちゃつた。異世界であるこの世界に。でね、この世界に召喚した愚か者は、どこぞの小国の馬鹿どもだったの。そしてそして、あろう事か……私の魂を縛り使役しようとしたのよ、クズどもが、ね。でもでもでも、そんなもの私には通用しなかったのよ。何故だと思う?」
「アホか。どうせ精神操作系無効でももろたんやろ。しょうもない」
「うふふふ~。ご名答~。偉いわよ、コ・ハ・ク。ふふっ」
「はんっ。たかだか六百年しか生きていないヒョッコが、生意気を抜かすなおすえ」
「あらあ~。もの凄く長く生きてるお婆ちゃんには、気に入らなかったのかしら?」
「ババアがババアを語ってどないするねん。ほんま、昔からしょうもない女やなぁ。クスッ」
「あ゛? 殺すわよ、と、言いたいところだけど、話がまだ終わってなかったわね。ところで、コハク。お前、私の
コハクにツキハ、そしてリムルも『解析鑑定』でチヨメを鑑定したが、肝心の
ここでチヨメが、進化覚醒したのが本当だと確定したのだ――
種族:魔忍(半精神生命体)
加護:大いなる者の守護
称号:
魔法:元素魔法系変換忍術 核撃魔法
技術:甲賀流気闘法
固有スキル:多重結界、万能感知、変装、魔王覇気、物質創造、思考加速
アルティメットスキル:????
耐性:物理攻撃無効 状態異常無効 精神攻撃無効 自然影響無効 聖魔攻撃耐性
痛覚無効 耐熱耐冷耐性
(見られてもいいところは隠さないのか。しかし、本当に精神攻撃無効を持ってるとはね。これ、チヨメとかいう女を操る事は不可能じゃん、厄介だなぁ。誰かに操られているとかではなく、自分の意志で今ここにいる。明確に敵宣言だし、けども……。何であんなにツキハ二執着するんだ?
《告。憎念操作なる権能は、ある一定の条件が必要かと推測します》
(え? 条件がいる?)
《是。もしそれが全てに適応されるなら、今この場は、その憎しみを持った者達で溢れかえっているでしょう》
(例えば、俺に強い憎しみを持っている者限定とかかな?)
《是。推測の域を出ませんが、そうでなければ今この現状を説明出来ません》
(なあ、先生。これ、俺限定ではなくとも、誰かに対して強い憎しみとかを抱いていれば、発動、もしくは増幅出来るんじゃないか?)
《是。その可能性は高いといえるでしょう》
チヨメの権能について考察するリムルであった。
一方ツキハの方は剣先をチヨメに向け背を向けたままであったが、左右の猫耳を独立して動かし、右の耳は右後ろ斜めに動かし、左耳は、左真横に向けて何かを探っていた。
(あと一人どこだ? アイツの声も聞き覚えがあった。多分、チヨメの右腕ともいえる女の忍び。よりにもよって、何でこの二人何だよ……めんどくさぁ。ってか、この世界じゃなくて、別の世界に行けばいいじゃんっ! こっち来るな!)
あの時現れたもう一人の気配を探りながら、毒を吐くツキハである。
「それでえ、私を召喚した者達の小国は、私がその国の重鎮達を、疑心暗鬼、妬み嫉み、憎しみをちょっと突いてあげてえ、内乱を起こさせてあげたのよお~。うふっふふふふ」
「相変わらずえげつないどすな、チヨメ」
「何言ってるのかしらあ? お前も相当えげつない事をやって来たじゃない。そして、この世界でも同じく、やってるじゃない。あ、でもでもぉ、ツキハはそんな事気にしなくても大丈夫。私は、貴女の全てを受け入れるわ。だから、貴女も私の全てを受け入れないと、ダ・メ・よ。うふっ」
「そんなもん、いらんわ!」
流石のツキハも、嫌悪感も露わに吐き捨てる。
「でねでね、その小国は、ある大国に隣接する属国だったの。そして、内乱を鎮静に来た軍隊とやり合った時にね、私の強さに惚れたみたいでえ。なんとなんとおぉ! 大国の
「大国の主? テメエ、まさか東の帝国の犬になったんじゃないだろうな?」
「さあ、どうかしらねえ。そこは、御想像にお任せするわ、愛する、ツ・キ・ハ」
「うげッ……」
残心を解かずとも、チヨメの言葉に尻尾の毛を逆立てるツキハ。
「まあ、でも、貴女が魔物に転生したと知った時は、絶望したわ。私の愛するツキハが、魔物になるなんて、ね。本当に悲しかったわ……。でもお、何と可愛らしい猫娘に転生してるじゃない。その姿も、とてもス・テ・キ。もう、抱きしめたくなっちゃうじゃないのよぉ~~~」
そう言うとチヨメは目を伏せ、そっと流れる一筋の涙を手の甲で
(あ、これ、絶対に関わってはいけない人だ。ツキハ、ご愁傷様)
リムル、心の内でツキハに向かって合掌する。
「それで私は悟ったの! 愛する者が魔物、魔王に準ずる者ならば、私も魔王に進化すればいいと、ね。そう考えたのよ。そして、とある御方に相談したの、そうしたら私が強くなるのならば、それも一興。そうなっても忠誠を誓ってくれるのなら、その方法を教えると、ね」
(はああ!? あれを説明出来る者がいたの? マジかよ……。いや、お伽話に残っているくらいだから、それを知る者がいてもおかしくはないか。クレイマンも、魂を集めて進化しようとしたのだからな。クレイマン……東の帝国との繋がり……六百年前くらいに召喚された
チヨメの語る事に違和感を抱くも、ツキハとコハクがそれに気付かない事はないだろうと、とりあえずその考えを頭の中から追いやるリムルであった。
「それでね、あの偉大な御方様に仕える為、頑張って頑張って、頑張って魂を集めたわあ。そしてえ、三百年前にようやく進化したの。それも、覚醒魔王級というオマケ付きでね。凄いでしょ。うふっ」
「ようそんなもんで進化出来たどすな。ド変態女の執念は、怖いどすなぁ。でもな、いかれた思考の持ち主のアンタが、信玄以外の者の下に付いたのは驚きどすえ」
「ふふっふふ。お前は知らないだろうけど、この世には逆らってはいけない者がいるのよ。お前にはわからないわよねえ、コハク」
「知らへんわ、そんなもん!」
「年を取ったお婆ちゃんなのに、そんな事もわからないなんて、同じ忍びとして恥ずかしいわ。あああ、ツキハはお婆ちゃんじゃないからね。いつまでもあの頃の、十七歳の頃の貴女だから、私の中では。うふふふふ」
「アンタも何百年も生きているお婆ちゃんやないか。何
「私の想いを土足で踏み散らかすのは許さないわよ、コハク。テメエは、その内、きっちりコ・ロ・シ・テ・ア・ゲ・ル、から! ツキハ、待っててね。貴女を
「アンタがコハクを
チヨメがつらつらと語る中、とてつもない殺気を込めた言葉でツキハが、静かに言い放つ。
すると、少し哀しい表情を浮かべ、
「もう、つれない事言わないで、ツキハ。お姉さんは悲しくなっちゃって、泣いてしまいそう」
「さっきから話が長い。
「六百年ぶりに会ったのよ。このくらいのお喋りを楽しむくらい、いいじゃない。貴女と接触するのを。上からの
「いや、あんたの方が呪縛じゃん」
「ふふっ。そんな事を言いながらも、残心を解かない――」
「ほんと、人の話し聞かねえのな。昔っから」
「え、何かしら? そうそう、あの頃もそうだけど、稀代の女剣術使いと言われるだけはあるわねえ。嬉しいわ、本当に嬉しい。愛する人の腕が鈍ってはいない、その現実に私は、歓喜するわあぁ~。うふっふふふふ。あの時は、一歩貴女には及ばなかった。それに、乱波の里の忍びには、私達の呪術が効きにくいとか、理不尽だわ。憎しみの感情を、怒りの感情で抑えるなんて、馬鹿げてるわ。憎しみこそ、戦いにおいて圧倒的な力を生み出すのに、本当にもったいない事よ」
「なに
「それも、兵法の一つよ、コハク。人の感情を利用する、素敵な事じゃない。これほど始末の負えない者はいないのだから、ね。それに、今ツキハと話してるの。お前が出しゃばっていいものじゃないのよ、わかる? 醜悪、バ・バ・ア!」
「黙りや。ド変態の、ブ・サ・イ・ク・バ・バ・ア!」
(うわぁー。ここまでコハクが挑発に乗るなんて初めて見たわ。しかも、盛大に
リムルは『思考加速』をかけながら、自分達が囚われているこの結界を『解析鑑定』で分析するも、肝心かなめの、その結界を結界
《告。この結界を支えているエネルギーの主体は魔素ではなく、魔素とは別の何か。そう、個体名:ツキハがあの時使った謎のネルギーと酷似しているのではと推測します》
(マジかぁー。そりゃあ解析出来ない訳だ。これ、どうすっかな?)
《告。
(ん? どうした)
《個体名:コハクならこの結界を打破出来るかも知れません。個体名:コハクとの会話を許可頂けるなら、こちらが協力して結界を打ち破る事が可能かも知れません》
(会話ねえ……。先生の存在を知られるリスクと、見合わないと思うんだけど? それに、アイツ
《告。利用し利用される。そういう関係であれば、こちらを信用はしてもらえるでしょう。もし、人情や良心、親しい間柄を立てにすれば、即却下されるでしょう》
(うーん……。でもなあ、いやでも、ツキハとコハクの秘密がわかるかも? あの、意味不明のノイズと、か)
《告。これからの
(え? 未来、って……。先生さ、何か予感するの?)
《否。そのようなものはありません。しかし、あの二名の存在は、
何故、
しかし、自分の
いち
これが凶と出るのか、吉と出るかは、まさに神のみぞ知るといったところであろう。
(わかった。任せるよ、
《了》
こうして
腹を
そしてもう一人の忍びが、密かに動き出そうとしていた。
この作品を読んで頂きありがとうございます!
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