忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
元武田の忍び、〝歩き巫女〟の頭領だったチヨメ・モチヅキと、その右腕カゲロウ。
ツキハとコハクと因縁を持つ二人だった。
元ファルムス王国の住人を暗殺者に仕立てリムルを襲うも、ツキハとコハク、そして
結局、散々引っ掻き回して帰って行ったのだが、その実力はとても厄介なモノであった。
精神的に疲れた顔でリムルの
リムルが『胃袋』からシオンを出し、コハクが残留した呪詛がないかくまなくシオンの心核を調べ、完全に呪詛は取り除かれたのを確認した。
やがてシオンも意識を取り戻し、元気な姿をリムルに見せ、リムルもシオンの無事を喜んだ。
そしてリムルはシオンに、ツキハとコハクと大事な話があるあので席を外すように言った。
シオンはそれならばと、庵を後にする。
シオンを見送った三人は、グダーッと身体を投げ出す。
コハクは囲炉裏の前でペタンと女の子座りで腰を下ろすと、両手を後ろに付いて天井を見上げ、尻尾で床をタン、タンッと叩く。
リムルもドカッと囲炉裏の前に
ツキハは縁側の方に行くと、うつ伏せで大の字になり、「ああ、床が冷たくて気持ちいいわぁ」と、力なく呟く。そして、尻尾で床をパシン、パシンと叩いていた。
(ツキハとコハクのヤツ、相当機嫌が悪そうだな、尻尾で床を叩いているし。まあ、あんなのが襲って来ればイラつくのもわかるよなぁ、俺も何か腹が立ったし……)
ボーっと二人を眺めながら、そんな事を思うリムル。
そこへ、シオンからリムルがツキハとコハクと何か大事な話をすると聞いたシュナが、白米で作った日本酒の一升瓶三本と酒の
(う~ん、相変わらず気が利くなぁ、シュナ。ちょうど小腹がすいて、酒が飲みたい気分だったんだよな)
酒が来たのを見てツキハが起き上がり、囲炉裏の前に
リムルが
そして、三人は無言で升を軽く合わせ打ち、一気に飲み干していった。
「「「あぁ~、うまい」」」
ツキハが干し肉を
「ねえ、あたしが暴走してる間、何があったんよ?」
「それな、リムルの中にいるアレと話したんどす」
「アレ……?」
コハクからアレと聞き、考え込むツキハ。
そして……。
「アレって、リムルが魔王に進化した時に出て来たアレ?」
《了。アレです》
「うおっ!? いきなり頭の中に
「それがリムルの
「へえぇ」
コハクから
「まあ、俺の一番の切り札でもある、先生だ」
「先生ねえ。何でも教えてくれる、そういう
「そうだな。そういう――」
《告。
「はい? ねえリムル」
「ん?」
「これ本当に
《告。コレとは心外です。訂正を要求します。個体名:ツキハ》
「ほら。おかしいでしょう、コレ?」
「ああ、まあ、そこは深く突っ込まないでくれると助かる、なんてな。ハハッ」
ツキハの追及に、乾いた笑いを浮かべ誤魔化すリムルである。
《個体名:ツキハ。あの時の事について説明をします》
『え? あ、うん』
そう言うと
…………
……
そして、ツキハの暴走化を止めたところまで話し終えると、ツキハが
『なるほどねぇ。えーと、ラファエロだっけ?』
《否! 訂正を要求します。
『ねえ、コレって、やっぱりただの
《コレ、ではありません。
『スキル名呼びにくい。ラファでいいよね。はい、決定』
《否。個体名:ツキハ。訂正を要求します》
『やだ。何ならラファエロにすんぞ?』
《否! 訂正を要求します!》
『ほら、それよそれ。たかだかいち
《個体名:猫。訂正を要求します》
『はあッ!? ツキハと呼べやあ、ゴラアッ!!』
《否。拒否します》
『上等だ、このラファエロがあッ!』
《告。個体名:バカ猫と、呼称します》
『んだと、ゴラアッー! しばくぞテメエ!』
こうして暫く、ツキハと
それを聞いていたリムルとコハクはというと、若干呆れ気味になっていた。
「コハク」
「なんえ?」
「何かさ、言い合いを始めてるんだけど?」
「はあ……。こうなるとツキハは止まりまへんで。飽きるまでやらせなはれ」
「飽きるまでって、それ終わるのか?」
「終わるやろ。なあ、リムル。あんたの
「え? あ、ああ、そう言われるとあれだけど、そういうもんじゃないのか、
「あんさんなぁ。古今東西、ここ五千年、いやそれ以前でもこんな
「え? そうなの?」
コハクの言った事に、意外そうな顔をするリムル。
そしてコハクは、全くもうという顔で話を続ける。
「せやで。まあ、あの時見た時から普通じゃない感がありありどしたけど、ここまでとは思わへんかったどすな。術式とかの構築速度とか、ほんま異常やで。それに演算力が異常を通り越して、驚異的やねん。うちらでも並列起動とか出来ますけどな、高度な、超高度なもんは流石に並列起動出来まへんのや。しかしな、あんさんのそれは、事無げにやりよる。ほんま、うちらの技や術式の理解度が、早過ぎるを通り越した何かやねん。ほんま、かなわんわぁ」
「えと、あ、うん。何かさ、色々ごめん」
「あ、ちゃうちゃう。アンタを責めとる訳やあらへん。単純にラファエルの能力に、驚いとるだけやねん。そして多分、ツキハもな」
「そうか。まあ先生には色々助けてもらってるからなぁ。正直、先生がいなかったら、これまでの戦いを乗り切れたかどうか……」
「ほんまに、生まれてから三年過ぎた魔物とは思われへんな、アンタは。なあ、アンタは何もんやねん?
「え? うん、それを言うとお前達も何もんなんだよ。五千年も時を遡って転生するなんて、そっちこそだよ。って、何で
持っている
「ラファエルが〝疑似魂の回廊〟を接続した時に、チラッと見えたんよ。
「だろ? 俺もそうだよ」
「なあ、リムル。これ、ギィにはバレてへんやろな?」
ここでコハクは、ある懸念を口にした。
「それは無いと思う。一個だけ強調して見せて、他は隠蔽したからな」
「ならよろし。言うとくけど、絶対に他の
「ああ、それはわかってるよ。気を付けとくよ」
「さよか。うちらも知らんふりするさかい。安心しよし」
「うん、頼む」
と、そんな事を話していたリムルとコハク。
そんな間に、ツキハと
『ラファ。いいじゃん、別に
《……。不本意ですが、その略称を受け入れましょう。ツキハ》
こうして、ツキハがラファと呼ぶ事を受け入れた
この行為こそ感情あるモノがする行為なのだが、
そして、コハクがある事を尋ねる。
「なあ、リムル。そう言えば前に、うちらの憑依体をどうにか出来ると言ってましたな。あれ、ほんまか?」
「え、あ、うん。それについては、多分どうにか出来る。もう少し待ってもらえるか?」
《告。それについては既に、ある案があります。そう時間をおかなくて番外魔王用の憑依体構築の理論が完成しますでしょう。すぐです》
「そ、そうそう。先生の言う通りだよ」
「ほんまか?」
《告。大丈夫です。ご心配には及びません》
「なら、ええんやけど」
『ラファ。最高の憑依体を用意出来る?』
《了。お任せ下さい》
『さよか。ほな任したで、リムル、ラファエル』
『ああ、任してくれ』
《了》
エキシビジョンマッチの時のリムがした約束、それは近いうちに実現出来そうであった。
そしてコハクが、
『ところでな、そろそろ〝疑似魂の回廊〟の接続を解除して欲しいんやけど。こっちから出来んねん。どないなっとるんや?』
《意味不明》
『ちょい待ちや。意味不明ってなんやねん。うちがどんなに思考防壁張っても突破して来るんやけど、ええ加減にしなはれ』
《……》
『なにシカトしてんねん。ラファエル、
《……》
『聞いてるやろ?
《……》
お決まりのダンマリでコハクの要求を聞かない
そしてその矛先は、リムルに向かう。
「リムル、あんさんの
「え、えと、先生? コハクがこう仰ってるので解除を――」
《……》
『聞いてるよね、
《……》
「うん。こりゃ駄目だ」
「はい? リムル、アンタの
「ちょッ!? コハク、とりあえず落ち着こう。って、ところで、ツキハは何で大人しいんだ?」
コハクがプリプリ怒る中、何故か大人しいツキハにリムルが疑問を抱く。
そう
更に、コハクには聞かれないよう、会話を暗号化していた
コハクもそれに気付いていたのだが、暗号を解読するそばから新しい暗号が生み出されて、完璧に演算力で
《告。〝疑似魂の回廊〟を繋いだままだと、そちらにもメリットがあります。その例を一つお聞かせしますが、聞きますか?》
『ふーん。聞こうか、ラファ』
そして
《告。〝
『そうなの?』
《是。正式名称は、
『ああ確かに、教授から教えてもらった方式は、これだね。貫くだからこれでいいかと思ってたよ。ふひひひ』
《告。それで提案です、この大技を放った後、更に大技をぶち込むというのはいかがでしょう》
『ほう。それって、時間差とか、相手がこれをギリギリ凌いだあーとか安心したところに。ズドンと、いくやつ?』
《是。余剰
『右手で
《是。
『ほほう~。それ面白いわ。具体的にはどんな技なの?』
《告。超圧縮した空気に
『何それ? どんな原理なの? ねえねえ――』
《解。既に術式は構築してあります。どうぞ》
そう言うと
『ほおぉー、これは……打ち出す瞬間に左肘から右と同じ骨を露出させて、その骨の中に内包した超圧縮空気を一気に打ち出す、ねえ……。すげえ、この威力さ、
根っからの
普通なら自分の考えた大技に、更に他人の考えついた別の大技を提示されると、人は不快を示す。
何故なら、絶対の自信を持って考えた自分の技を否定されたように感じるから。
しかしながらツキハは違った。
自分の考えつかない技を教えてもらった事に素直に喜び、即座に自分に取り込もうとする。
これがツキハの恐ろしいところであり、強くなる為ならどんな手も使う、そこに是も否もない。
あらゆる手段を講じ強くなる、それが自分を超える者が立ち塞がった場合の、唯一の対抗策であり抗える手段となり得ると考えているのが、ツキハなのだ。
そしてコハクも、これに相当する。
『しかしスゲエなラファ。術式の最適化があたしより上手いわ。コハクでもここまでの最適化は難しいかもな。しかしほんと、これでただの
《……?》
『ああ、別に怒ってもいないし、
《解。こちらも深層意識の深いところまでは立ち入らないと約束しましょう。そして、そちらの
『うーん。本音はどこ?』
《……》
『言ってみな。それ次第ではコハクを説得してあげるし、このままの状態も許してあげるけど?』
《告。探求心です。ツキハの言葉を借りれば、興味がある、面白い、それに該当すると言えます》
『ラファ。それな、感情がある者しか言えない言葉なんだけど。アンタさ、本当に面白い
《誉め言葉と受け取っておきましょう》
『ねえ、本当は感情があるだろ?』
《気のせいです》
『ふひひひ。そういう事にしておいてあげるわ。でも、
《告。何故ですか?》
『う~ん、そうだねぇ。無作為に与えられた力ではね、勘違いするんだよ』
《勘違い、ですか?》
『そう。自分で身に付けた以上の力に溺れてしまう危険性があるのよ。だからね、こっちがめっちゃ困っていたら、ちょこっと助言をするとか、そんな風にしてくれるならあたしもそれは大歓迎だよ』
《問。初めから合理化すれば最短で強くなれるのでは?》
『そだね。それも一理ある。でもね、それじゃあ身に付かないんだよ、本当の強さはね。この世界の理不尽さに打ち勝とうとするなら、己で技量を磨き、己の力で強さを手に入れなければならない。あたしはそう考えてるんだ、常にね。コハクも同じ』
《問。それは自由である為ですか?》
『そう。あたし達の自由は全てにおいて、強さが必要なんだ。この世界の理不尽に負けない為にね』
《問。それは
『ああ、それはねえ、多分違う。リムルはリムルで、あたし達と違う自由を求めているからね。人によって自由の定義は変わるんだよ、ラファ』
《そう言うものなのですか?》
『そっ。そう言うものよ。だから、こっちが困っていたり悩んでいたら、そんな時に手助けをしてくれると助かるかな。ただし、あたしがしてる悪さは、コハクには絶対に内緒よ? 守れる?』
《了》
『ふふっ。ならいいよ、コハクを説得してあげる』
《告。そういう事なら、あのノイズについて分かった事が一つあります》
『へ? あれわかったんだ。ほんと凄いね、ラファは』
《では、『思考加速』及び会話の暗号化を解除します》
そういうと
そしてコハクはまだ、リムルと言い合いの真っ最中であった。
「リムル、ほんまにどないしてくれるねん!」
「もう、落ち着けって、な? コハク――」
「コハク。別にいいじゃん」
「はあッ!?」
二人の言い合いにツキハが割り込んで来て、更に〝疑似魂の回廊〟の接続したままでいる事を皇帝したものだから、コハクは変な声を上げてツキハを見た。
「あんさん、何
「違うわ! ちょっとあたしの話を聞いて。で、怒んな!」
「ドつくで」
「だからあ、あたしの話を聞けって!」
「さよか。なら、言うて見なはれ」
「はあっ。ほんと、キレるのは無しよ。ほんと、やめてよね」
「
「はいはい」
「ハイは、一回でよろし」
「あい――」
そしてツキハは、自分の技の最適解の話を始め、繋いだままのメリットとデメリットをコハクに話す。
コハクは時折、ほうとか、ふむとか、驚いたり納得を示したり、ツキハの話を大人しく聞いていた。。
…………
……
「――ま、こんな感じよ」
「そうどすかぁ……。でや、ほんまに過度の干渉はしまへんやろな?」
《是。それはツキハと約束をしましたので御安心を》
「さよかぁ。なら、うちはなんも言わんどす」
「え?」
ツキハの話しからアッサリと納得を示したコハクに、リムルが驚きの声を上げてしまう。
「なんや?」
「あ、その、何だ、ツキハの話からえらくアッサリと受け入れたなあって、な」
「色々と不満はあるで。でもな、ツキハが許したんなら、それも有と納得しただけやねん」
「それだけ?」
「せやで。確かにうちらにもメリットはあるさかい、許しただけやねん。ただし、過度の干渉や覗き見は厳禁や。それをしたら、この話はなかった事になるで」
「ああ、そうだね(うーん、これ、大丈夫か?
リムル、
『で、なんや、あのノイズの事でわかった事はがあるん
『あ、俺もそれ聞きたいわ』
時空震ノイズ、これについては誰もが知りたいところであった。
そして、わかった事を
《告。あの時空震ノイズは、現在聞き取れるのはツキハ、コハク、
『せやねえ、他の者には聞こえてないねん。何でやろな』
『俺も初めて聞いた時はビックリしたわ』
『まあ、あれは、あの役立たずの権能が関係してるのは確かなんだけどねぇ』
《告。ツキハに許可を得てあの権能を解析しましたが、結果は解析不能です》
『やっぱりかぁ。でさ、わかった事って何よ?』
《告。あの時空震ノイズは――別次元、もしくはこちら側からは干渉できない次元から送られているモノと推測します》
『なんやて?』
『ほえ?』
『別次元って、はあ?』
いきなり別次元という事が飛び出し、
《これはあくまでも推測に過ぎませんが、恐らく時空震ノイズはツキハとコハクに紐づいているのではと。そして、それこそがツキハとコハクの役立たずの番外権能に繋がるかと》
『ふむ。でさ、何で俺とミリムにも聞こえるんだ、先生?』
《不明。あまりにも情報が足りません。〝疑似魂の回廊〟を通じて情報を収集すれば、役立たずの番外権能についても何か判明するかも知れません》
『しかしビックリだよなあ。お前達すら何の権能かもわからない、役立たずの番外権能があるなんて。しかも、それがとんでもなくヤバいモノじゃないかという事がなあ』
《告。協定を守りつつ情報収集を行うので時間はかかりますが、わかり次第報告致します》
『やり過ぎはアカンで、ラファエル』
『ほどほどにね、ラファ』
《了》
本当に権能なのか、もしかして全く違う別のモノがその正体を隠蔽してるのか、それがわかる日は来るのだろうか……。
「なあ、これさ。番外権能:〝法則??〟用途不明ってあるけど。法則に関係あるのか?」
「う~ん。多分それも偽装かもね」
「え? そうなの?」
「知らん。でも、何となくそう思っただけ」
「せやねえ。うちらすらも欺いているのかも知れまへんな」
「それってもう、権能とは呼べなくないか?」
「かもねぇ」
「せやねえ」
「なんなんだよそれ。もう、訳がわからねえな」
「かもねぇ」
「せやろねえ」
三人揃って頭を捻り考えるも、結局何もわからなかった。
それからは、リムルにツキハとコハク、そして
話は尽きず夜になり、シュナが夕ご飯を持って来てからも続いた。
やがて夜も
ピチャ、ピチャと、どこか心地よい雨音が三人の耳を
そしてリムルが、
「ところでさ、あの
《解。あれはツキハとコハクの超異形体質により生成されたモノです。
『ありゃりゃ、それは残念』
《告。しかし、
『ちょっと待てい! ラファ、今聞き捨てならない事を言ったよね? ね?』
『せやで。今の発言は許せへんどすな』
《告。事実を言ったまでです》
『『はあぁっ!?』』
『ちょ、お前ら――』
激おこしたツキハとコハクにリムルが止めに入ろうとするも、一度火が付いた二人は止まらない。
『やっぱ、〝疑似魂の回廊〟を解除やな。もう、堪忍ならへん!!』
『だね。解除だあーッ!!』
《告。ここに先程締結した契約書があります。接続解除には、それ相応の解除手数料が発生しますが、宜しいですか?》
『なんやてーーッ!』
『はあーー!? いつの間にそんなもん作ったんだ、ラファーーッ!』
《告。協定が結ばれた時に
『くそがああああああーーーー! 卑怯だぞ契約書を立てにするなんてえッ! ってか、勝手にそんなもん作るなあーーッ!!』
『やられましたどすな……このスカタンがあーーーーッ!!』
《フッ……》
『あ! テメエ今笑ったな。やっぱり自我があるじゃん!』
《否。気のせいです》
『何
《否。気のせいです》
『『この、あほんだらがああああーーッ!!』』
再び
ギャアギャアと
それをそよ風のように受け流す
「あーあ。また始めやがったよ、ツキハとコハク。でも、本当に俺もそう思うわ――」
《気のせいです》
『あ、はい』
言い合いを聞いていたリムルもそれを肯定するも、即座に
そして、言い合いを聞きながらリムルはふと、不思議な感情に襲われた。
(何か、あの言い合い。仲のいい友達が口喧嘩をしてるような、そんな風に聞こえるんだが、気のせいか?)
《気のせいです》
『違うわ!』
『ちゃうで!』
『あ、はい』
そう思った矢先に、二人と
(ヤベえ、思考に防壁かけよう……よし、これでいいかな。これで考えはアイツらに漏れないだろう)
思った事を悟られないように、リムルも独自に思考防壁を展開した。
――はあ 全く良いんだか悪いんだか とんでもない事になった予感がするわ
――これからどうなるんだろうな 全く読めん! いや マジに……
――だけど あの時空震ノイズが別次元から来てるとは 驚きだよ 全く
――まさかとは思っていたけど 有り得るんだ そんな事
――やっぱりあれか こちら側から観測出来ない 別宇宙とか……?
――ないない 流石にそれは突拍子も な い よ な ?
――いや ここまで来ると 全てにおいて 想定しておかないと 足元をすくわれかねない
――そうだな 一つだけわかっている事 それは 俺とミリムにも それが聞こえて来る という事だ
――この四人に何の接点があるのだろか うーーーーーん わからん 全くもって わからん
――まあ いいか 四の五の考えても始まらねえ
――
――わからなくとも 何かを掴むだろう それを信じよう
ここでリムルは思考防壁を解除して、未だに言い合いを続けるツキハとコハクに向かって、口を開いた。
「なあ、ツキハ、コハク。それに先生。もう、そこまででいいんじゃないかな。お互いに秘密を共有する仲になったんだし。仲良くというか、ツキハとコハクに合わせるなら、共闘しようぜ。今後ともにもな」
「え、あ、うん。まあ、リムルがそう言うのなら」
「仕方ありまへんな。今日はリムルの顔を立ててやりますえ」
《了》
「うんうん。そいう事で、飲み直そう。夜はまだまだ長い!」
「だね、飲もう飲もう!」
「せやね。今日は朝まで飲み明かすとしましょうかあ」
「じゃあ。改めて、乾杯!」
「「乾杯!」」
こうして、
これからどうなるのか、それは時が進めば判明するだろう。
この共闘が、来たる東との大戦でどのような結果をもたらすのか?
それは、ツキハとコハクの秘密が解き明かされる事になるのかも知れない……。
そしてリムルの言葉を聞きながら、
ヴェルダナーヴァ と。
《? 今のは……何でしょうか》
《不明》
《不明》
《不明》
《不明》
《……》
《やはりツキハとコハクは、〝竜種〟と関係する何かがあるのかも知れません。これは、慎重に調査しなければなりませんね。恐らくこれは、
そこで
『大賢者』が『智慧之王』に進化した際、自己の存在に対する疑念が、あの時に生まれた。
それに今一度思考を巡らせる
――〝我思う、故に我在り〟――
《……》
やはりどんなに考えても、答えはあの時と同じだった。
答えの出ない永遠の宿題。
だがしかし、ツキハとコハクに〝疑似魂の回廊〟を繋げた事によって、針の先の穴程の光明が
内面に生じた葛藤とは別に、ほんの僅かだが生まれた充足感。
それが意味するものは何か?
《今はいいでしょう。しかし、あの二人との繋がりこそがこれからの
この
そして、ツキハの愛するヴェルドラも含めて。
お互いの秘密を知り得た、リムルとツキハとコハク。
今宵はリムルも
ツキハとコハクはというと、完全に毒耐性を無効化してガンガン飲んでいた
笑い合いながら進む酒は、格別のモノ。
そしてリムルが、ある事を二人に尋ねる。
「そう言えばさ、何でチヨメはあんなにツキハに執着してるんだよ」
「あれな。単純に年下の可愛い娘が好みなだけやねん、そして、
「へえー。人間の頃は年は幾つだったんだ、あの二人」
「チヨメは二十歳や、カゲロウは十八やねん」
「二人ともお前達より年上かあ」
「今はうちらが年上やさかい、笑えまへんけどな」
「まあ、いいじゃん。見た目はミリムとかルミナスとかも――」
「リムル。それをあの二人の前で言っちゃ駄目だよ。とんでもない事になるからね」
「あ、お、おう」
「人間の頃は、呪術であたしの思念を紙人形に封印して
心底嫌そうに言うツキハだった。
「それがこの世界に来て、あろう事か進化してるじゃん。アイツさ、絶対に等身大のあたしの人形を作って、それにあたしの魂を封印する気じゃないかな。もう、マジ最悪な女が来たよ! くそがああああッ!」
そう叫ぶとツキハは、
「ほんま、しょうもない女が来はりましたなぁ。かなんなあ、今度来たら、速攻でぶっ殺してやりますえ。マジ、しょうもな!」
コハクもそう叫ぶと、同じように升酒を一気に飲み干した。
「しかし、よくお前達に感づかれずに活動していたな、アイツら」
「せやねえ。でもな、あちこちの国にいる〝草〟みたいな存在には気付いていたねん。まさか〝歩き巫女〟の忍びや何て、思いもせんかったどすえ。まあ、チヨメは腐っても腕の立つ忍びの一人やさかい、うちらを出し抜いて来たんやろな。これからはそれをも含めて警戒するさかい、情報が入ったらそっちにも提供するで」
「お! それは有り難い。ところで、お値段は?」
「これに関しては格安でええで。アンタにも知ってもらっとかな、危ないさかいな」
「そうか。助かるよ、コハク」
「へえ」
チヨメのツキハに対する執着の理由も判明し、どこかホッとするリムル。
コハクに言わせれば、ただのド変態女や、との事だが。
いや、ド変態女がド変態を語ったら駄目だろという言葉を、リムルはグッと呑み込んだ。
そこでリムルは、ある事をツキハに聞いてみた、思考防壁をかけながら。
『ところでツキハ』
『なに?』
『えーと、チヨメもそうなんだが。あれだ、コハクも案外思考が同じなような、違うような、何だ、あれだよ――』
『リムル』
『おう』
『究極の二択。絶対にどちらかを選ばないといけない。陽気なド変態と、陰湿なド変態。リムルならどちらを選ぶ?』
『え? あ、うーーん、そうだなあ、どちらかというなら、陽気な方かな』
『でしょ。陽気で愉快なド変態がコハク。陰湿で狂気なド変態がチヨメ。あたしも、コハクの方を選ぶよ』
『何か変な事を聞いてしまったな、スマン』
『別にいいよ。本当の事だもん。でもね。コハクはそれだけじゃないんだ。あたしの後ろを任せられるのは、コハクしかいない。もっとも頼れて信頼出来る、最強のあたしの相棒。それがコハクなんだよ。チヨメは、天地がひっくり返っても、それにはならないんだわ。あたしの背中を預けられるのは、コハクだけなんだよ』
『そっか。本当に信頼し合ってるんだな。少し羨ましいよ』
『何言ってんの。アンタにもいるじゃん。最強の相棒の、ラファ。それに大勢のアンタを慕う配下達がさ』
『え、ああ、うん。そうだな。俺には先生がいるし、ベニマル達がいる。うんうん』
ツキハの返って来た言葉に、どこか嬉しく
そこへ――
「何密談してはるんや、アンタら」
「え? ああ、何でもない、何でもないよコハク。なあ、ツキハ」
「うん、そうそう。何も隠し事なんて話してないよ。ほんとよ?」
「ほんまか? 嘘ついたら、ドつきますで?」
「「断じてありません」」
「さよか。そういう事にしてあげますえ」
コハクの追及を、何とか逃れたリムルとツキハ。
それからは他愛のない話に移り、三人は酒を酌み交わしていった。
夜が深まっても、楽しい酒の時間は途切れる事はなかった。
そして、リムルが二日酔いになるのは、確定事項だった……
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