忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。209話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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209話 アップデート

 

 

 魔国連邦(テンペスト)から帰還したチヨメとカゲロウは、とある豪華な居室にいた。

 

 そこには一人の女性がいて、その前にチヨメとカゲロウは(ひざまず)いていた。

 

 深紅のチャイナドレスにも似た洋服を着ており、そのスリットは深く、綺麗な足が覗いていた。

 

 そして、チヨメとカゲロウを立ったまま見下ろす女性が口を開く。

 

「潜入調査、御苦労だったわね。それで、どうだったのかしら魔国の情勢は」

「はい。思っていたより町が発展しており、もはや街と呼べるまでにはなっていました――」

 

 チヨメが(うやうや)しく報告を述べる。

 

 それからは魔国内にいる貴族や、祭りで訪れた西側諸国各国の重鎮など、様々な情報を話す。

 

 …………

 

 ……

 

「そう。それで、弟はいたの?」

「はい。何やら屋台で、鉄板焼きというものをやっておりまして。番外魔王ツキハも一緒にそこにいましたですわ」

「……何をやってるのかしら、あの子は。三百年も無限牢獄に囚われていて、誰が解放したかは知らないけれど、この世界最強たる〝竜種〟が、屋台? をやってたなんて流石に、ね。あの下賤な魔物二匹が弟の周りをウロチョロしだしてから、あまり良い傾向とは言えないわね」

「やはり、相方の番外魔王コハクを先に始末しますか?」

「そうね、と言いたいところだけど、来たる作戦に向けて今は静観すべきでしょうね。貴女も番外魔王ツキハの存在を知ってから、よく私の言い付けを守り何百年も我慢したわね。もうすぐ貴女の願いも叶うわよ」

「有り難きお言葉、感銘の(きわ)みですわ、元帥閣下」

「番外魔王の二匹に貴女の存在が知れたのだから、今まで以上に警戒をなさい、チヨメ。そして、時が来たら存分におやりなさいな」

「はっ。その時が来たならば、元帥閣下の為に存分に私の力を使いましょう」

「ふふっ。ところで、手の内はどこまで見せたのかしら?」

「三分の一、といったところでしょうか。それに、魔王リムル率いるテンペスト軍には致命的な欠陥(・・・・・)が一つ御座います、元帥閣下」

「それは、なに?」

「はっ。実は――」

 

 チヨメは潜入調査時に感じた、リムルの配下達及び兵の事を話だす。

 

 ……

 

「そう。そんな事がねえ……。戦う兵士に必要不可欠なモノ、それが一つだけ欠如してると、貴女は言いたいのね?」

「はい。そうで御座いますわ」

「人の憎しみを操り愛す貴女が感じたのなら、そうなのでしょう。その情報は各軍団長にも回しておきなさい。それと、〝アノ者〟にもね」

「はっ」

「これは面白い事になるわね。ふふっ、ふふふ」

 

 元帥閣下と名乗る女性は含み笑いを漏らし、チヨメに命を出す。

 

「ではチヨメ。貴女以下〝歩き巫女(ウォーキングシャーマン)〟の忍び達は、変わらずに西側諸国を監視しなさい。傭兵商会ルヴナンとぶつかっても、絶対に事を起こしては駄目よ。いいわね」

「はっ、心得ておりますわ元帥閣下」

「時は近い。貴女の目的の為にも、もう少しの辛抱よ」

「はい。私のツキハを私のモノにする為と、大恩ある元帥閣下の為に、私の命はあります」

「いきなさい」

「「はっ!」」

 

 そう元帥閣下の女性が言うと、音もなくチヨメとカゲロウの姿は居室から消えていた。

 

 

 

 一方、チヨメとカゲロウが去った後の魔国連邦(連邦)

 

 リムルはいつもの雑務と、迷宮の再調整に忙しかった

 

 そして、迷宮の再調整も順調に進み、五階層を突破するパーティもちらほらと出て来ていた。

 

 リムルは執務室の執務机に座りながら、ぼんやりと迷宮の事を考えていると。

 

『ラファエル! また覗いてからに! 何度言ったら聞きますねん。シバくでほんまに!』

《気のせいです》

『アホちゃいますか! なに眠たい事()うてますねん!』

能力(スキル)に眠るなどの機能はありません》

《ほんまに、ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う。アンタ、感情ありますやろおッ!》

《否。気のせいです》

『アホかあッ!』

 

 と、コハクとの言い合いが度々繰り返される事になっていたのだ。

 

(まーたやってるよ。先生とコハク。それに対してツキハが大人しいのは、意外だな。案外、あんまりそういう事は気にしないタイプなんだろうか)

 

 などと、思うリムルであった。

 

 

 それからまた数日が経ち、突如一組のパーティが、猛烈な勢いで迷宮を進撃しているとの話題が持ち上がった。

 

 そのパーティはバランスの良い十人編成で、効率の良い迷宮攻略をしていたのだ。。

 

 まず最初にこの者達が(おこな)ったのは、十階層にある記録地点(セーブポイント)に登録する事だった。

 

 仕組みは、攻略済だったパーティに加えてもらい、一人が登録する。

 その後、〝帰還の呼子笛〟で入口まで戻り、本来の仲間と一緒に十階層に向かう。

 

 これは想定された事であり、リムル達運営には文句はなかったが。

 その攻略スピードに驚かされたのであった。

 

 何と、わずか三日で二十階層のボスモンスターを討伐して見せたのである。

 

 彼等は本物の実力者だった。

 個々がBランク程度の実力で、パーティ総合力としてはB⁺ランクに相当したのだ。

 

 だがリムルは、ここまでの攻略スピードに、何かカラクリがないと説明が付かないと思った。

 

 そう、このパーティは、迷いもせずに最短コースを選択していたのである。

 

(何か、おかしくね?)

 

《解。精霊の干渉を確認。精霊使役者(エレメンタラー)による『精霊交信』であると判明しました》

 

(あ、そういう事……)

 

 精霊使役者(エレメンタラー)とは、精霊を使役する事が可能な魔法使。

 その魔法スキルの一つに、精霊の声を聞くことが出来る『精霊交信』があると智慧之王(ラファエル)が説明する。

 

 要は、風や大地の精霊と深く交信出来れば、階段までの正しい道のりを簡単に把握する事が出来てしまうという事なのだ。

 

 智慧之王(ラファエル)の説明を聞きながらリムルは。

 

(汚い! 精霊使役者(エレメンタラー)汚い! でもなあ……)

 

 と、心の内で憤慨するも、これはあくまでもルールに(のっと)っている攻略であったのだ。

 

(使役する精霊の属性によっては、『精霊交信』しても正しい道がわからないだろうし。そもそもの話し、精霊使役者(エレメンタラー)自体希少なので、そんな裏技があるとは思わなかったわ。うん、これは正しい攻略法だし、対策を取るまでもない。寧ろ、そんな攻略法思い付くセンスを褒めたい) 

 

 そうリムルは結論付けて、このまま暫く静観する事にしたのである。

 

 そして、このパーティの快進撃は続いて行く。

 

 一つ階層をクリアする度に、街の中にアナウンスが流れる。

 

 その為、このパーティの名は一躍有名になっていった。

 

 チーム〝緑乱(りょくらん)〟――正体不明の精霊使役者(エレメンタラー)をリーダーとする、精鋭パーティとして。

 

 更にこのパーティは、マサユキ率いるチーム〝閃光〟に迫る勢いで人気を獲得していったのだ。

 

 

 リムル達の思惑通りに、実力者達が集い始めた。

 

 また、十階層辺りで魔物の強さに手こずっているパーティなどに今、密かなブームも起きていた。

 

 それは、いつ現れるかわからない移動雑貨屋台、〝やんのかニャンコロ〟の存在である。

 パフパフと子気味良いラッパの音と、チリンチリンと鳴るベルの音と共に現れる移動雑貨屋台。

 

 手持ちのアイテムや食料が心もとない時に現れる、救いの神ならぬ救いの猫、〝やんのかニャンコロ〟。

 

 これに運よく遭遇したパーティから密かに噂が広まり、誰がこの移動雑貨屋台〝やんのかニャンコロ〟に出会えるか、賭けまでする冒険者が現れる始末で、これが密かなブームとなっていたのだ。

 

 こうして、挑戦者の数もどんどんと増える事で、迷宮運営は軌道に乗り始めていくのであった――

 

 

 ***

 

 

 リムル達は、再度集まった。

 

 迷宮構造の変遷(へんせん)から十日以上経ったので、何かないか意見を出し合う為である。

 

 前回と違い、今回は順調なので自然と皆は笑みがこぼれていた。

 

「おう、マサユキと言ったか。我は貴様には見所があると思っておったが、なかなか大した男だったようだな」

 

 集まった途端に、上機嫌のヴェルドラがマサユキを褒める。

 

「え、あ、はい、そうですか? それはどうも……」

 

 いきなり褒められて困惑するマサユキ。

 

 そして、誰ですかこの人? というような目をリムルに向ける。

 

(え? 前にもいたし、紹介した気がするんだけど、マサユキは緊張してて覚えていないんじゃない?)

 

「えと、前にも紹介したと思うんだけど――」

「いや、何か前の時は、こう、自然な感じで会議が始まったもで……」

「あれ、そうだっけ?」

「ああ、そうだわ。多分、自己紹介していないような気がするわ」

 

(ええ、したような気が――)

《解。ツキハが言った通り、個体名:本城正幸(マサユキ・ホンジョウ)との自己紹介は行われておりません》

 

(あらま。俺の勘違いとは、俺の記憶もあやふやだね)

 

 マサユキが戸惑うのも無理はないと思いつつ、リムルは改めて紹介をする事にした。

 

「それじゃあ、改めて。まず、番外魔王ツキハは、既に知ってるよね。でその隣にいる人が、俺の親友のヴェルドラさん。この迷宮で、百階層の主を担当してもらってる。ちなみに、番外魔王ツキハが、その百階層の裏ボスね」

「うむ、ヴェルドラだ。貴様の事は認めよう。宜しく頼むぞ、マサユキよ」

 

 迷宮の件でマサユキを認めているヴェルドラが、ご機嫌な笑顔で挨拶をする。

 

 その途端、マサユキの顔がサッと青褪(あおざ)め、引きつった顔で言う。

 

「あ、あのう……ヴェルドラっていうと、ファルムスの軍隊を番外魔王の二人と皆殺しにしたという、天災級(カタストロフ)――?」

「そだよ~。ちなみに、あたしとコハクも天災級(カタストロフ)と言われているのは、知ってるよね? それと、あたしの愛するヴェルドラを、トカゲとか言ったら、即、ぶっ殺しちゃうぞ。うひひひ」

「ツキハ、何気(なにげ)に脅さない。まあ、そうは言っても凄い人だから、怒らせないようにね」

「クアハハハ! 我は寛大だから、滅多な事では怒ったりはせぬぞ? そして、貴様が我とツキハにオヤツを献上するというなら、我とツキハの加護を授けるのも(やぶさ)かではない!」

「ヴェルドラ?」

「何だ、ツキハよ」

「何であたしも入るのよ? 大体ね、オヤツ如きで人間があたしの加護を得ようなんて、百万年早いわ!」

「いや、あのオヤツだぞ? シュナ、鬼娘の特製のあれを、いらないとういうのか?」

「もしかして、アレ?」

「うむ、アレだ。お前もあのオヤツは、もの凄く気に入っていたであろう?」

「アレかあ……それは、悩むわぁ。う~ん、悩むわぁ、あれなら加護を、いやいや、でもなぁ、あれかぁ……」

「おい、お前達。何言ってんの? (大体、何でアレで話が通じるんだよ、あの二人は!)」

「なに?」

「何だ?」

 

 自己紹介から、どこか明後日の方向に話をしだすツキハとヴェルドラに、リムルがツッコミを入れると、二人はキョトンとしてリムルを見た。

 

「いい加減にしろ!」

 

 二人して小首を傾げているものだから、リムルはそう言うと、ノートをクルクルと丸めて。

 

 スパン、スパンと、二閃。

 

 お調子者二人に、リムルのお仕置き炸裂。 

 

 「何をするのよ!?」、「何をする!?」などと叫ぶツキハとヴェルドラを放置して、リムルはラミリスの紹介に移る。

 

「で、こっちはラミリス。この迷宮の支配者ともいえる妖精だ」

「へ、へえ……。ラミリスさんは妖精なんですか。それにしても、あんなに素晴らしい迷宮を創るなんて凄いですね」

 

 パタパタと飛ぶラミリスを見ながら、褒めるマサユキ。

 

 それを聞き、今度はラミリスが調子に乗った。

 

「ちょ! アンタ、気に入ったわ。アタシの舎弟にしてあげる。ね、ね、リムル聞いた!? こいつ、アタシを凄いって褒めてくれたよ!!」

 

 リムルに向かってドロップキックをしながら、大興奮して自慢するラミリス。

 

(う、ウザイ。相手にしたら、果てしなく付け上がりそうだな、まったく) 

 

 リムルはドロップキックを軽く回避して、適当に流す事にした。

 

「はいはい。凄い凄い。ま、マサユキが舎弟になっても言いって言うんなら、好きにしたらいいんじゃね?」

 

 と、流すように答える。

 

 そこへ。

 

「そだねぇ。なっちゃえなっちゃえ。舎弟と言わず、眷属にでもなっちゃえばいいよ。妖精勇者マサユキ。いいんじゃね?」

 

 リムルに叱られたツキハが棒読みで言い、軽くマサユキに八つ当たりをする。

 

(いや、舎弟は良いとしても、流石に眷属は駄目だろ)

 

 リムル、心の中でツッコミを入れる。

 何故なら、今のツキハになにか言えば、矛先が自分に向くのは明らかだから。

 

 当のマサユキ本人は、かなり混乱していた。

 

「え、ええ? 舎弟? 眷属? ツキハさん、妖精勇者ってどんな勇者ですか……。それにラミリスさんって、どういう人なんですか?」

 

 マサユキがリムルに小声で聞いて来た。

 

「そうは見えないかも知れないけど、これでも俺と同じ魔王の一柱なんだよ」

「え!?」

 

 リムルの言葉に驚き固まるマサユキ。

 

 そんなマサユキに、笑顔のラミリスが迫る。

 小声での会話だったのに、ラミリスの地獄耳はそれをしっかりと捉えていたのだ。

 

「やっほー!! アタシが八星魔王(オクタグラム)の一人、ラミリスよ。マサユキちゃん、ヨロシクね!!」

「は、はい? あ、えと、ラミリス……さんが、魔王? それに、ヴェルドラさんが竜で……うえぇ!?」

 

 マサユキ、完全に固まってしまう

 

(マサユキ……。ま、知らずに接していた相手が、魔王と〝暴風竜〟だものな。そりゃそうなるわ。ちゃんと説明して自己紹介すれば良かったんだけど、あの時番外魔王であるツキハに、意識を全て持っていかれたんだろうな。アイツらの悪業は、調べれば調べる程凄まじいものがあるから、無理もない。ハッキリいって、一応人類の敵だからなぁ。それでも、傭兵商会ルヴナンと契約をしたがるのが多いのは、如何(いかん)ともしないところなんだけど、ね。まあ、それだけ強烈なんだよなぁ、傭兵商会ルヴナンって。毒を以て毒を制す、みたいな感じで使うところが、やっぱり(まつり)ごとなんだろうかねえ)

 

 リムルは、マサユキを見てそんな事を思いながら、傭兵商会ルヴナンが如何に人間に恐怖を与え活動して来たかを、今一度思い返す。

 

 そこへミョルマイルが、マサユキに救いの手を差し伸べた。

 

「ラミリス様、無茶を申されるものではありませぬぞ。そしてツキハ様、そこまでで勘弁してあげて下さい。マサユキ様が困ってしまわれたではありませぬか」

 

 と、ミョルマイルの言葉に苦笑いを浮かべるマサユキ。

 

「この人はミョルマイル。俺の頼もしい相談役にして、魔国連邦(テンペスト)の財務総括部門を任せているんだ。言ってみれば、我が国の財務大臣だよ」

 

 すかさず入ったリムルの紹介にミョルマイルは、マサユキに向かって深々と礼をする。

 

「ミョルマイルです。宜しくお願いしますぞ」

「あ、いえ。こちらこそ、宜しくお願いします」

 

 お互いに握手を交わす、ミョルマイルとマサユキ。

 

「それで、ミョルマイルさんの言う通り、僕はラミリスさんの舎弟にも眷属にもなれないです。だって既に、三上――じゃなくて、リムルさんに協力するって約束をしてるんで」

 

 マサユキはそう言って、ラミリスに軽く頭を下げる。

 

 それを聞いてミョルマイルが。

 

「そうでしょうな。リムル様は人たらしですからな」

 

 といって、一人納得をする。

 

(はあ? 解せぬ)

 

 そしてラミリスとツキハも。

 

「あ、そういう事なら仕方ないさ! それにしてもリムルって、ホント、抜け目ないよね」

「だよねぇ。可愛い顔して、結構アレだよね」

 

(ふんぬー。コイツらぁ) 

 

 一人憤慨するもリムルは。

 

「早い者勝ちだからな」

 

 しれっと、そう答えたのだ。

 

 するとそこへ、ヴェルドラが割り込んで来て、何故か偉そうに自慢するように語り出す。

 

「クアハハハ。リムルほど頼もしき者は、そうはおるまいよ。ラミリスよ、貴様がリムルの先を行くのは諦めた方が良いであろうな。それにツキハよ、そう言うではない。それよりも、さっさとマサユキを紹介せよ。話が進まぬではないか!」

 

(うーむ。コイツらの俺への認識がどうなっているのか気になるよなあ。ほんと、コイツらって……。おっと、自己紹介の途中だった。でももうマサユキの名前を知っているし、今更感が、まあいいか)

 

「そうだな。それじゃあマサユキ、自己紹介を頼む」

 

 リムルがそう言うと、マサユキは「はい」と頷いた。

 

「既に知っている人もいると思いますが、マサユキです。リムルさんと同じ世界から来た縁で、協力する事になりました。一応〝勇者〟とか呼ばれていますが、気にしないで欲しいです。特にツキハさん、本当に気にしないで下さいね」

 

 最後、精一杯の笑顔でツキハに言ったマサユキ。

 

 それに対してツキハは。

 

「しつこい」

 

 と、同じように笑顔で返す。

 

 それを見たマサユキが、「ひい」っと、小さな声を上げた。

 

 すかさずヴェルドラがツキハの背中を軽くポンと叩き、「こら、脅すでない」と小声で(いさ)める。

 

 一癖も(ふた)癖もある者達に囲まれ、マサユキも大変であったのだ。

 

 こうして自己紹介終わり、ミョルマイルが迷宮の近況報告を始めた。

 

 売り上げは順調。

 

 それは、ミョルマイルが嬉しい悲鳴を上げるほどに。

 更に、この街にやって来た者達が宿屋を利用するので、飲食関係の店も含めて大繁盛してるようだった。

 

「こちらが報告書となります」

 

 そう言ってミョルマイルがリムルに、報告書の束を差し出す。

 

 リムルがパラパラと報告書を(めく)り見ていると、ヴェルドラやラミリスにツキ、それにマサユキが興味を示すように覗き込んで来た。

 

 そこでリムルは、『胃袋』で報告書のコピーを作成して、三人とマサユキにも手渡す。

 

 リムルが再び報告書に目を通していると、ツキハがなにやらブツブツと呟いていた。

 

 リムルがよく耳を澄ますと、「ふ~ん、ここにお金が」とか「ほお、ここにもお金が流れてるのねえ」など、どうやら、迷宮と街の宿、それに飲食関係のお金の流れを追っていたようだ。

 

(へえー。アイツ、お金の流れを読んでいるのか。この報告書にある、資金の収支と支出を完全に理解しているんだな。伊達にルヴナンを経営してる訳ではないんだな。って、こう言ったら怒るだろうな、ツキハ)

 

 内心そう考えながら、苦笑いを浮かべるリムル。

 

「それにしても、宣伝効果は上々のようだな」

「はい! 毎日大忙しですわい」

 

 リムルにそう言われて、嬉しそうなミョルマイル。

 

 そこでマサユキがある事を言った、それは。

 

「えとですね、倒した魔物からアイテムとかを、獲得とか出来たりしませんかね?」

 

 倒した魔物がアイテムを落とす。

 ゲームではよくあるシステムだが、現実世界では医務不明である。

 

 そこで、ヴェルドラがマサユキに「何故そんな事をする必要があるのだ?」と、問うて来た。

 対するマサユキの答えは、単純だった。

 

「え? いや、回復薬って案外高いんですよ。高ランク冒険者なんかはお金に余裕があるので、惜しみな薬を使用してますけど、普通は無理せず逃亡を選択します。もしくは、この迷宮では死んでも無傷で復活するので、クスリをケチって敗北をする人が結構いるんですよ。〝やんのかニャンコロ〟にしても、高ランク冒険者は遭遇したらよく利用するみたいなんですが、下位ランクの冒険者は、あまり利用出来てないのが現状なんです。なので、下位回復薬(ローポーション)なんかを魔物に落とさせて、誰もが気軽に回復薬などを使用出来るようにしたらどうかな? って思ったんです」

「なるほど。一理ある意見だね」

 

 マサユキの意見を聞いてリムルは頷く。

 

 ちなみに、魔国では下位回復薬(ローポーション)の値段が、銀貨四枚。

 上位回復薬(ハイポーション)は、銀貨三十五枚。

 完全回復薬(フルポーション)だけは、直接の販売は行ってはいない。

 売るとしたら、金貨五枚以上の値段になるだろう。

 

 それに、魔国で一番安い宿屋の料金が、素泊まりで銀貨三枚。 

 風呂と一食付きで、銀貨五枚となっている。

 

 もしDランク程度の冒険者が迷宮で稼ぐとしたら、一日平均で一人頭銀貨十五枚程度。

 パーティ換算で言えば、一人頭、銀貨二十枚になるかどうかである。

 

 今はいい、日々を暮らすには十分な稼ぎだ。

 

 だがしかし、先行きの事を考えると、心許(こころもと)ないのもある。

 

 何故なら、病気や大怪我などの場合の社会保障など、彼等には無縁のものなのだから。

 それに、日々の武器や防具の手入れ、これを怠ると即死に直結しかねない。

 実際、そういう例もちょこちょこ聞かれていた。

 

「確かに、ゲームではよくある設定なんだけどな。うん、マサユキの言い分もわかる。でもなあ……迷宮の魔物は自然発生してるから、アイテムを持たせるのは難しいと思う――」 

 

 リムルが難色を示すと、そこへラミリスが。

 

「出来ると思うよ」

 

 能天気な声でそう言ってきたのだ。

 

「マジで?」

「うん。生まれたての魔物に、タトゥー式の簡易型空間収納の刻印魔法を刻めばいいんだよ。それについては、きょ――」

 

 ラミリスが何かを言おうとした時に、咄嗟にツキハがラミリスを捕まえ口を塞ぐ。

 

「ムググッ、モガモガアッ!(何するだあ――ッ!)」

「ちょっと黙ろうか、ラミリス。『ラミリス~。教授の事は、マサユキにはバラすんじゃないわよぉ』」

「ムゴッ、ムゴゴッ『あ、はい』」

 

 ツキハが表情の抜け落ちた顔で言い放ち、更に『思念伝達』も飛ばし、それにビビったラミリスは即座に大人しくなる。

 

 そして、リムルに目配せをするツキハ。

 

「お、あ、うん。ラミリス、それに付いては俺にも出来るかも知れないから、任せろ。魔物が倒されたら、その刻印魔法が発動して、簡易空間に仕込まれたアイテムが落ちるようにすればいいんじゃないか」

「え? そうなの。じゃあ、生まれたばかりの魔物にそれを刻めばいい訳ね」

「そうだな」

 

 咄嗟にリムルが助け舟を出し、それを察したラミリスがそれに合わせる。 

 

 そこへツキハがリムルに『思念伝達』で、同じく『思念伝達』で教授に聞いて来てたタトゥー式の刻印魔法術式を伝える。

 

『おお、早いな』

『うん。何か凄く単純だから、これでいいはずよって言ってた』

『ああ、でだ、お値段の方は――』

『何かさ、この間のお礼だから、報酬はいらないんだって』

『そうなのか。そりゃ有り難いな』

『ねえ、なにお世話したの?』

『え? ああ、何だ、大した事でないよ。ちょっと相談に乗っただけと言うか、うん、そんな感じ』

『ふ~ん。手え出したの?』

『出してないわ!』

『ほんと?』

『そういう事は、断じてない!』

『そっか。そういう事にしておいてあげる。うひひ』

『だから、ないって言ってんだろうがあッ!』

 

 軽くツキハに揶揄(からか)われたリムルは、怒りながら『思念伝達』を遮断した。

 

 これで、マサユキの案も解決した。

 

 そして、大体の話は纏まったかなと、リムルが思うと。

 

 ラミリスが精霊交信について、話して来た。

 

「あ、そうそう。精霊使役者(エレメンタラー)の『精霊交信』についてなんだけど。ああいう風に精霊から情報を得るとは盲点だったわね! でさ、アタシなら妨害出来るよ? どうする?」

「うーん、妨害かぁ……」

 

 リムルは邪魔したい気落ちはあるが、人間の頃にプレイしてたMMMORPGオンラインゲームで、バグを利用した訳じゃないのに、こちらが見つけた最適な攻略法を(ことごと)く運営に潰されて萎えた記憶が蘇り、少し躊躇する。

 

「過度に穴を潰すのもなぁ、それはそれで、攻略する冒険者の攻略意欲を削ぐことになるし、精霊だって嫌々従っている訳じゃないんだろ?」

「そうね。あそこまで精霊と信頼関係があるのは、かなり好かれている証拠だね」

「そうか。だったら、妨害は無しだな。そういうのは好みじゃない」

「わかった! リムルならそう言うんじゃないか、って思ってたさ」

 

 ラミリスはアッサリと引き下がった。

 提案はしたものの、どうやら本心では乗り気ではなかったのだろう。

 

 するとそこへ。

 

「別に妨害なんかしなくても、空白地帯を作れば済む話じゃん」

「うむ、嘘は駄目だ。が、しかし、ツキハの言う通り精霊のいない区域を作ればどうだ? ラミリス。あの『精霊交信』とやらは、その地に根付く小精霊の声を聞く能力(スキル)であろう? そこに精霊がいなければ、発動しようがないのではないか?」

 

 意外な発言は、ツキハとヴェルドラだった。

 

 リムルはそれをラミリスに聞いてみる。

 

「で、どうなのラミリス?」

「うん、大丈夫! 精霊に頼んで、場所を移ってもらうよ。意志がある精霊がいなくなれば『精霊交信』は発動しないからね!」

 

(ツキハとヴェルドラのお陰で、精霊使役者(エレメンタラー)の対策が出来そうだな。妨害ではなく、精霊のいない区域もある、と、いう事なら文句も出ないだろうな) 

 

「じゃあ、それでいこう。やっぱり皆で意見を出し合うのは、いいな。(はかど)るわ」 

 

 とりあえず魔物に仕込むアイテムは、様々なモノを仕込む事にしたリムル達。

 

 ゴミアイテムから、低確率で出る当たりアイテムまで幅広くしようという事になった。

 

 そう、普段は使えるアイテムから、何だコレ? みたいなものに始まり、突然価値ある当たりアイテムが出るという仕様。

 

 更に、どんなアイテムかわからないように、魔法でアイテムの本当の姿を隠したらどうでしょうとマサユキが言い、それも即座に採用された。

 

 〝未鑑定アイテム〟

 

 これによりゴミアイテムでも捨てられなくなり、荷物を圧迫し、一度アイテム鑑定に迷宮の外へ出なければならなくなる。

 

 その結果、〝帰還の呼子笛〟が飛ぶように売れる事となりましょうなとと、ミョルマイルが嬉しそうに言った。

 

 未鑑定――どこか魅惑的な響きがある。

 この、ワクワクしながら鑑定結果を待つ楽しみは、脳汁ドパドパ出るような興奮が押し寄せるだろう。

 

 リムルは言う、大当たりの数は少なくてもいいが、その分、その場で出る下位回復薬(ローポーション)などは増やしていけばいいだろうと皆に言った。

 

 そうすれば、低ランクの者達の支援になるだろうと。

 

「よし。そろそろ、次の段階に移っても良さそうだな」

「アップデートというヤツですね!」

 

 リムルの言葉に即反応したマサユキ。

 

(お、良い事言うねえ、マサユキ君。正に、その通りだわ) 

 

 アップデートという言葉に気分を良くするリムル。

 

「それがいいわね」

 

 何故か訳知り顔で頷くラミリス。

 

(おい。お前、意味知って言ってる?)

 

 内心で突っ込むリムルがラミリスを見ると、サッと目を()らすラミリスであった。

 

 どうやら、雰囲気に合わせて言ってみただけのようである。

 

 そして、ミョルマイルとツキハは悪い顔になり、何やらコソコソと密談を始める。

 

 ヴェルドラは、いつものように高笑いしていた。

 

 

 ともあれ。

 

 リムル達は顔を見合わせて、頷き合ったのだった。

 

 

 こうして今回の迷宮運営緊急会議は、終わりを迎えたのだ。

 

 

 

 





 この作品を読んで頂きありがとうございます!

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