忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
※作中使用の特殊フォントは、〝ライム酒様〟作成の特殊フォントを使用させて頂いています。
特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますので、ご了承ください。
ハクロウ達の前に現れた、謎の人物。
奇妙な仮面を被ったその女は、ハクロウの間合いギリギリのところで、歩を止めた。
「ゴブタ、リグルよ。可能な限り離れておれ。
「り、了解っす」
「わかった」
ハクロウは、この領域を満たす異質な
ハクロウの只ならぬ様子に、ゴブタ達はすぐに距離を取った。
ゲルドが
それは――
ギャーーンと、唸りを上げ、五本の飛苦無が、ガガガッと音を鳴り響かせ盾に突き刺さる。
刺さったままで、飛苦無はギィーンと微細な振動を発していた。
その時。
女が言霊を発し、印を三つ結び、浮かび上がる呪文。
はせろ
(爆ぜろ)
「ゲルド、離れよ!」
「なにっ!?」
ハクロウの声が飛び、ゲルドは盾から手を離し後方に飛ぶ――
瞬間、五本の飛苦無が
凄まじい火球がその場に広がり、地面を焦がし爆炎球を形成する。
後方に退避したゲルドの真後ろに、いつの間にか仮面の女が拳を構えていた。
「いつのまに!?」
ゲルドが声を発すると、トンと拳を放りだすように背中に拳を放つ。
ゴアン!!
大鐘を大きな木槌で打ち付けたような轟音が、周辺の空間に響き渡った。
ゲルドの鎧前部が吹き飛び、バッと口から鮮血を飛び散らせる。
ガクッと片膝を付き、ある記憶が頭を過る。
「ぐ、ぐぬっ……。これは、あの〝番外魔王〟が俺に放った、拳打と……同じだ。ガハッ」
ゲルドはつい先日喰らった、〝番外魔王〟の放った打振と同じだと確信した。
打振が波紋のように広がり内部に浸透し、内部破壊を起こす。
もし、一度もこの技を受けてなかったら、ゲルドは即死していたであろう。
咄嗟に、自身の
それでも、相殺しきれずゲルドは魔力回路をズタズタにされ、深手を負ってしまう。
そう、この打振は確実に殺す気で、打たれたものだった。
「ゲルドさん! 大丈夫っすか!?」
「ぬっ……心配かける、大丈夫、だ」
ゴブタが慌てて駆け寄り、回復薬をゲルドに振り掛ける。
瞬時に傷は治癒されていくが、ズタズタにされた魔力回路は直ぐには修復出来ず、更に体力を限界まで削られたゲルドはまだ満足に動けなかった。
ハクロウが、仮面の女とゲルドの間に割って入る。
「あら、殺す気で打ったのに生きてるのね」
初めて声を出した仮面の女の声は、かなり若い声であった。
そう、まだ十代後半位の女の声に聞こえたのだ、
「もう一度、聞こう。
「……忍び」
「シノビ? それはなんだ?」
「……」
ハクロウは、「忍び」とだけ言い押し黙った仮面の女に「そうか」とだけ言い、仕込み刀を胸前に構える。
その戦いをニコを通して見ていたツキハとコハクは、ある確信を得ていた。
「チッ、あいつ、鎧通しを打ちやがったよ。あの打ち方は、甲賀系と
「決まりですなぁ。あの忍びと名乗った女は、間違いなく――歩き巫女の忍びであり、転生者か召喚者かの、どちらかどすな。しかも……恐らく、上位の者や」
「上位、か。あの白地の小袖……確か……!? あいつか?」
「それはあらへん! あいつはあんさんが、再起不能にしたはずや。あれから、あの女の影は消えたんや! うちらが死ぬ前まで、一切表舞台に出て来いひんかったんやで!? あの女だけはあかん!! あかん、あかんのや!!」
「コハク!? 落ち着いて、落ちつけって! コハク、コハク!!」
「あ……ぁ……。す、すんまへん。ちょっと、取り乱してしまいましたな。堪忍え」
「うん、いいよいいよ。あいつが、この世界に来るわけないし。多分、歩き巫女の誰かだよ、きっと」
「そ、そうどすな……」
あの女でいきなり取り乱したコハクを、ツキハがコハクの両肩を掴み宥め、落ち着きを取り戻したコハク。
コハクが取り乱す程のあの女とは……それは、
一方、ベニマルは。
仮面の女が放つ、爆撃のような車手裏剣に苦戦していた。
車手裏剣とは一般的に十字手裏剣などがあり、仮面の女が使っている車手裏剣は三枚の刃が付いた三菱型の車手裏剣であった。
仮面の女は百メートルを軽くジャンプし、上空から車手裏剣を投げる。
投げられた車手裏剣は、あらぬ軌道を描きながら、四方八方から襲い来るのだ。
ベニマルは太刀でそれらを弾いていくも、弾けばその場で爆発し爆炎の火球を生み出し、地面に刺さっては爆発すると言う、爆裂車手裏剣。
「チッ! 厄介だな。弾けば爆発、避けたのが地面に刺さっても爆発。しかも、その爆発が尋常では、ないときてる」
正眼の構えを取るベニマルは苦々しく吐き捨て、眼前にいる仮面の女を睨み見る。
背の高い樹々の枝の上から戦いを見ているサンコが、警戒を露わにしていた。
『ニャアー、にゃんだあの手裏剣は……おっかない手裏剣ニャアぁ』
『あーあれはね、ほんとは火車手裏剣と言って、中央に火薬を仕込んで投げる、びっくり手裏剣なんだけどね』
『ニャアー、魔力爆発みたいなものかニャ?』
『そう。それよりサンコ。あの鬼人がやばくなったら、介入を許可する。それと、そこの場所の空間座標を送りな』
『ニャ!? いいのニャ? ぶっ殺していいのかニャ? あ、座標送りましたニャ』
『うん、いいけど。そのお面の女、かなり腕が立つから、あんたが逆に――ぶっ殺されるかもよ?』
『ニャ~、ですよニャ……。ぶっ殺したいけど、アチシが死ぬのは勘弁ニャ~。あ、でもお面じゃなくて、仮面ニャよ? ツキハ様』
『いいんだよ、同じみたいなもんだし。それとな、そっちにはコハクが行くから。いざという時は、鬼人を守りな』
『ニャ? ツキハ様。それは、報酬は出るのニャ?』
『今回は報酬は無しよ。サービスみたいなもんよ。今、あの鬼人達に死なれると、色々困るからね』
『困る? なんでニャ?』
『リムルと言う魔物を、これ以上キレさせたら、マジもんの戦争になるからよ。人間と、ね』
『ニャ~、人間がいなくなったら、商売に影響が出るものニャ。流石守銭奴の、ツキハ様ニャ!』
『あ゛あ゛!?』
『ニャ!! ニャんでもないニャよ? ほ、ほら、人間はカモだから、カモる相手がいなくなると困るニャね! ね、ね、ツキハ様!』
『はぁ。とりあえず、監視続行で、ヤバくなったら即割り込みな。そしたら、あたしらも出る』
『了解ニャ!!』
ツキハは『思念伝達』を終えると、妖刀・時雨を腰に差し、いつでも出られるように準備する。
「ツキハ……。あの仕込み刀を持ってる鬼人の方は――」
「駄目、そっちはあたしが行く。コハクは、サンコの方へ行ってね」
「で、でも……。せやな、そっちは任したで」
「うん、大丈夫だよ。コハク」
少し心配そうなコハクを宥め、ツキハはニコと視覚をリンクしていく。
ハクロウの方を見るツキハは、(こりゃ相当ヤバいね)と小さく呟いていた。
仮面の女が小太刀を抜き、右逆手で眼前に構え、切っ先を真下に刃を縦にして、左手は刃の峰に添えていた。
「その構え、どの剣術でも見ぬ型じゃな。お主――〝召喚者〟か?」
「……」
「余計なことは、一切申さぬとは。余程の手練れじゃのう」
じりじりと間合いを詰めながらも、ハクロウは攻めあぐねていた。
あの縦に構えた小太刀の太刀筋は、左右上下、袈裟斬りから逆袈裟までどのようにも対応して斬撃を繰り出し、あまつさえ体術も使って来た。
実際、『天空眼』を使い仮面の女の間合いに入り、斬撃を仕掛けるも。
小太刀の剣筋に紛れて、拳や蹴りが飛んで来るのだ。
間合いが詰まり、お互いの斬撃が飛び交う。
鍔競り合いの間合いの中、
ハクロウは瞬動で瞬時に間合いを離し、懐から回復薬を取り出し飲み、砕けた骨を治癒する。
刀と体術が一体になった小太刀術に、ハクロウはじわりじわりと、押されていく。
(まずいのう……この領域は魔法通信が、遮断されておる。『思念伝達』は……届かぬか。ここからゴブタ達を逃がし、すぐランガを呼んでもらいたいのじゃが。ゴブタ達は動いた瞬間に、斬られるであろう、な。このような手練れがいるとは……。シノビか……リムル様がいつか言っていた、忍者の
剣鬼と呼ばれ、剣の達人ハクロウ。
そのハクロウを以てしても、仮面の女の攻撃を凌ぐので手一杯であった。
チラリと仮面の女がゴブタ達の方へ、顔を向けた瞬間。
ハクロウはそれを見逃さず瞬動で接敵し、刀を抜き様に刃を右横に
ゴシャッ!
ハクロウが繰り出した右横薙ぎの刃が仮面の女の胴に届く寸前。
待ち受けたようにハクロウの右手を自身の右肘と右膝で挟む様に、ハクロウの右手を潰したのだ。
右手に握った仕込み刀が、ポロリと手から零れ落ちる。
「しまった!」
いつの間にか仮面の女が小太刀を、左手に持ち替えていて。
そのままハクロウの首目掛け、
ガキュン! 目の間で火花が飛び散り。
目の間に飛び込んで来た、黒い物体がハクロウの胸を軽く蹴り飛ばした。
「なに!?」
後方に飛ばされたハクロウは驚きの声を上げ、飛び込んで来た黒い物体に目をやった。
目に映ったのは、三毛猫種の魔猫だった。
「魔猫じゃと?」
「にゃああ、んゃにゃー」
口に苦無を咥えたニコが、仮面の女の刃を弾きながら、ハクロウを後ろ足で後方に蹴り飛ばしていたのだ。
『おっとっと。これじゃ~、わからないわよねぇ。そこの、鬼人。あの、ハイオークがいるとこまで、下がるのよぉー。邪魔だから、急ぎなさいぃ~』
にゃあにゃあ鳴いてる体長四十センチにも満たない魔猫が、苦無を咥え『思念伝達』を飛ばして来たもので、ハクロウも流石に少し困惑気味に返した。
『ぬ、ああ。助かったが、お主は誰の眷属なのだ?』
『それは、後ぉー。いいから、早くそっちに行く! 邪魔! 早くいきなさいなのよぉーー』
ハクロウの問いに、ニコは長い尻尾の先で、ゲルドの方をピッピッと指し、早よ行けと促す。
ニコは目の前に落ちてる仕込み刀を、ハクロウの前へと前足でパシリと、放り返した。
返された仕込み刀を鞘に納め、ハクロウはゲルドの所まで一旦引いていった。
仮面の女は明らかにニコを警戒し、不用意に間合いを詰めて来なかった。
『しかたないかぁ。久しぶりに、好き勝手全開しちゃおうかなあぁ~。うふふふふふぅ~』
ニコは、『猫騙し』の効果を解除し、低い姿勢を取ると――
フウゥーーッと唸りだし、
ニコを中心に、
ザザザッと草を揺らし、大気が風を巻き起こし、周辺の樹々を揺らしあげて行った。
「これは……。これ程の
ニコの
同時刻のベニマルも、サンコの助けが入った所であった。
「ゲルドよ。動けるか?」
「うむ。魔力回路も修復出来た。しかし、あの仮面の女には、勝てぬかも知れないな」
「今は、だ、ゲルドよ。リムル様は言ったではないか、絶対に無理はするなと。ならば、この魔猫の乱入を好機と捉え、我等がすべきことは――場を見極め、退避するか? あの仮面の目的を確かめるかだ、が――」
「そうだな。リグル、ゴブタよ、いつでも逃げれる態勢を忘れぬようにな」
「わかったす、ゲルドさん」
「了解だ」
「ゲルドよ、あの魔猫。誰の使いだと思う?」
「……恐らく、〝番外魔王〟ではないか?」
「なるほどのう。〝番外魔王〟の眷属ならば、あの馬鹿げた
ゲルドとハクロウは、状況を見極めつつ、いつでも逃げれる態勢を整えていく。
ただ、ハクロウの懸念は、あの魔猫がどこまで仮面の女を抑えられるか、未知数の事だった。
『さてとぉ。雷遁・
ニコが後ろ足立ちして、前足を胸の所でパンと叩き合わせる。
眼前で発生した、放電が苦無の刃に纏わり付いて行き。
咥えた苦無を首を横に振って飛ばし、それを尻尾の先で柄の部分を掴んだ。
タシッと四つん這いになり、尻尾をブンブンと振り回す。
チリチリチリと苦無の刃が放電現象で鳴き始める。
ニコが全力で相手を殺しに行く時に、好んで使う
仮面の女は小太刀を構えたまま、左手に飛苦無を持つ。
『それじゃあぁ~、いきますかぁーー』
ニコの後ろ足が大地を蹴り、バンッと蹴り上げられた土砂が宙に舞う。
疾駆するニコ。
『重力操作』で重力を無視した軌道で、地を駆ける。
さながら地面を横に走る稲妻のように、仮面の女に迫る。
低い姿勢のまま横を通り抜けざま、鞭のように尻尾をしならせ、苦無で斬り付ける。
ギャギャッン! 火花と電撃が入り混じり、凄まじいスパークを起こす。
腰を低く落とし仮面の女は、それを弾く。
「……」
『無口な女よねぇー。初撃のこれを躱すとはー。ちょっと、むかついたかもぉー』
ダッダッ、地面を蹴り宙に飛ぶと、首に巻いた飾り紐から苦無の束を取り出し。
眼前に苦無をばら撒くと、前足後ろ足で仮面の女目掛け蹴り放つ。
ドドドドンッ、まるで砲弾のように飛来する苦無。
仮面の女はそれを側転、連続後転、前転回避等で、鮮やかに躱していく。
地面に突き刺さった苦無は、凄まじい衝撃で直径二メートルのクレーターを形成し土くれを巻き上げる。
仮面の女も躱しながら苦無をニコに投げ飛ばす。
『うざっ!』
キィキキンッ。
尻尾をぶんとしならせ、投げられた苦無を弾いた瞬間。
その苦無は、雷撃の網を発生させニコを包み込む。
『あらら!? ウギャン!』
包み込まれたニコが、雷撃に身体を焼かれ、所々焼け焦げた毛がプスプスと白い煙をあげる。
空中であらぬ方向に身を回し、尻尾に掴んでる苦無で雷撃の網を破っていく。
ザシッ、地面に着地したニコは、すかさず前を向いたまま後方に飛び退りながら、前足をパンと合わせ大きく息を吸い込む。
『焼け死になさいなぁー! 火遁・
吐き出した息が黒炎の火炎放射となり、仮面の女を襲う。
「水遁・
うずまけ
(渦巻け)
仮面の女の
ザアーッと仮面の女の前に巨大な水柱が立ち昇り、それが渦を巻きながら女を囲んでいく。
魔力を帯びた水流の竜巻が壁を作り、そこに黒炎の火炎放射がぶつかる。
膨大な熱量に水が瞬時に蒸発し、凄まじい水蒸気の霧を巻き上げて行った。
それを見ていたゴブタが、信じられないと言った声を上げる。
「な、なんなんっすか? あいつ。あの魔猫が、あんなに強いなんて、聞いた事ないっすよ?」
「確かにな。あいつら、いつも隠れながら、森で生きてたし。基本人里から出てこないし、な」
ゴブタとリグルは顔を見合わせ、驚きの顔で言葉を並べた。
「見た目の大小で、物事は計れぬ。あれが良い例じゃ。〝番外魔王〟の眷属、末恐ろしい者じゃのう」
「確かに。見るのは初めてですが、あんな魔物がいたとは……俺達ももっと、精進せねばな」
ゲルドとハクロウが二人頷き合ってると、リグルとゴブタはニコを見ながらゴクリと唾を飲み込み――
魔物同士の戦いの激しさを、改めて痛感していた。
激しい熱風が収まり、焼けた地面が真っ赤な熱を発し陽炎が揺れ、濃い水蒸気が晴れていく。
『うーん。こんがり、焼けたかなぁ~。あらら!?――』
ニコが仮面の女の生死を確かめていると。
髪から水を滴らせた仮面の女が、右横に立っていた。
『いつの間に!? ニャブッ!』
ボゴッ、前蹴りでニコを蹴り上げた。
蹴り上げられたニコは――
仮面の女の眼前で、ボフッと魔素粒子になり霧散した。
〝幻遁・変わり身の術 空蝉〟
『あーまーいー。えい! あらあらー?』
変わり身で背後に飛んでいて、尻尾で掴んでいる苦無で顔面を斬り付けた、が。
あっさり仮面が斬り裂かれた瞬間に、仮面の女の身体が霧のように霧散していったのだ。
〝変わり身の術・
まだ空中にいるニコに、仮面の女はポンと縦拳を当てる。
『まずっ!! アギャァーーーー』
打振を打ち込まれ、ニコはそのまま吹き飛びながら地面に落ちても、勢いは衰えず。
ガガガッと一直線に地面を抉りながら、ようやくその動きを止める。
仰向けに倒れ大の字ままニコは、『思念伝達』でサンコに助けを求める。
『サンコちゃ~ん。ちょっと、お姉ちゃんピンチなのぉー。お助けに来てくれるかなぁー?』
返って来た返答は――
『バカお姉! 今それどころじゃないニャ! こっちが死にそうなのニャよ!!』
そう返って来た言葉を最後に、『思念伝達』が途絶えた。
『あらあらー。まずいわよぉーー。この打振はぁ、ツキハ様並みの威力じゃないかしらぁー。身体が……動きません事よ~。どうしましょう~。誰か、お助けして欲しいの、よぉーー』
『思念伝達』を垂れ流しながら、ニコは緊迫感の欠片も無い口調で
その『思念伝達』を聞いたゴブタがジト目で、仰向け大の字でニャアニャア言ってるニコを見て一言。
「あれ、猫やめてないっすか?」
ぼそりと呟き、その場にいる全員が頷いていた。
そうしてる内に仮面の女がニコの側迄来て、止めを刺そうと左足を上に上げ、踏みつぶそうとした時。
ハクロウが「まずい」、そう言い飛び出そうと構えた瞬間、仮面の女の右横に一人の亜人が空間を歪ませ現れた。
「あれは、〝番外魔王〟!」
現れた亜人を見て、ゲルドが声を上げる。
「なに人様の眷属を、好き勝手にしてくれてるの?」
言いながら、ズンと震脚を踏みながら仮面の女の右脇腹に、右掌底を打ち込んだ。
仮面の女は咄嗟に右肘でブロックしたが、衝撃波は右腕を抜け、身体を横くの字に折り曲げながら数百メートルは吹き飛び、吹き飛んだ先の樹々を薙ぎ倒しながら止まった。
震脚の余波でニコは上に巻き上げられた土煙と一緒に、真上に打ち上げられていた。
「ツキハさまー、ひどいーー」
「ああ、ごめんごめん」
笑いながらニコをキャッチして回復薬を振り掛け、鬼人のところで待機してろと言い付ける。
そして、仮面の女が吹き飛んだ先に視線を移す。
ツキハは妖刀・時雨の鯉口を切り、角帯から少し鞘を前に出す。
そこへ。
ヒィーーンと音を上げながら十本の飛苦無が飛来する。
横一閃。
抜き放った刃は十本の飛苦無を全て弾き返した。
ドドドドン!、弾かれた飛苦無は爆発し、轟音と共に十個の火球でツキハ覆った。
爆炎の中、ツキハは悠々と歩き刃を鞘に納め爆炎を抜けて来る。
飛苦無の飛来の後を追いながら駆けて来た仮面の女は、小太刀を右逆手で抜き。
ツキハの手前で、キュンッと左横に方向を変え、そのまま逆袈裟に斬り降ろして来た。
それをツキハは右逆手で刃を抜き、下から斬り上げるように、その刃を弾く。
キイィーン、澄んだ金属音が響き、パッと火花が咲いた。
その斬り合いは激しくも剣を極めたものには美しく見え、ハクロウは感嘆の声を上げた。
「なんとも、凄まじき剣筋じゃ。もしやあれは……昔祖父に聞いた――魔物が操る剣術、〝
「なんすか? 師匠。その、て、てん何とか流ってのは?」
ハクロウの呟きにゴブタが、興味あり気に聞き返す。
「〝番外魔王〟、ツキハ様が使う剣術でな。〝
しみじみと言うハクロウにゴブタは「へえー 怖いっすねー」と相槌を打ってその戦いに目を移した。
激しく斬り結ぶ中、仮面の女が左手に魔力球を形成し、ツキハの腹部めがけ放った。
ツキハ後方に飛び退りながら刃を鞘に納め、両手でその魔力球を挟み、叩き潰す。
バッ、眩い閃光と破裂音が響き、一瞬ツキハの視界を覆う――
同時に仮面の女の貫き手がツキハの胸を穿つ。
残像。
貫き手が胸を穿った刹那、ツキハの身体は残像を残し仮面の女の背後に回り込み、右廻し蹴りを放った。
首元に当たった蹴りは、ボギギと嫌な音を立て骨を折り砕きながら、仮面の女は横に回転しながら地面をバウンドし、深い溝を作りながら地面に埋まり止まった。
しかし、折れた首をグリグリと動かしながら立ち上がり、体にかかった土くれをポンポンと
ツキハが殺気を放ちながら、口を開く。
「なあ、あんた――〝歩き巫女の忍び〟だろ? 転生者か? それとも、召喚者なのか?」
「……」
「なんで今まで、姿を見せなかった? どこの勢力なんだ? もしかして、てめえ、あ――」
ツキハが、あいつか?と問おうとしたら、仮面の女は仮面の口にあたる部分に右人差し指を立てて当て、その言葉を止めた。
そして、そのまま右手を胸まで下ろし、一瞬身もだえするような恰好を取った。
「なっ!?……ぁ~」
ツキハの尻尾の毛が盛大にボワワッと逆立ち、何かを思い出したように凄まじく嫌な顔になる。
そこへ仮面の女の元へ、もう一人の仮面の女から『思念伝達』が飛んで来た。
『どうしますか? 今日は様子見だけでしたが』
『そうですね。そろそろ、引くとしましょう。あまり遊ぶと、〝中尉〟の小言が煩いですからね。あなたも、すぐに引きなさい。〝番外魔王〟には、まだ手を出すなと言われてましたもの、忌々しい事ですわ。……ツキハ、ようやく……フッフフ』
『わかりました』
『思念伝達』を終え、仮面の女は二本指を立てた左手を眼前で真横に切り、空間を歪ませ何処かへ『空間転移』して行った。
ツキハの中で呼び起こされた、とてつもなく嫌な感覚……それをツキハは無理やり頭の隅に押しやり、(もういい、あれは、多分違う――違う事にしよう、そうしよう)そう忘れる事にした。
コハクに『思念伝達』で、もう一人の仮面の女を追えるかと聞くと。
「あきまへん。見事に転移の痕跡を消して、逃げはりましたわ」
と、腹立たし気に返して来た。
コハクの権能『
「あんたら、大丈夫?」
そうハクロウ達に話し掛ける。
「はい。お陰様で助かりましたぞ、〝番外魔王〟ツキハ様」
ハクロウが代表して礼を述べた。
「うん、いいよいいいよ。あんたらに死なれたら、ちょっと困るしね」
「困るとは?」
「あんたらの
「確かに……我等も、リムル様を世界全ての人間の敵にはしたくありませんからな。本当に感謝しますぞ。ところで、ツキハ様は人間をお好きなのですかな? リムル様のように」
「人間? あぁ――」
『ちがうのよ~。ツキハさまはぁ、人がいなくなるとねぇ、商売でカモれなくなるからなのよ~』
『なんと!?』
『なるほど』
『へえー 人間相手にカモるっすかー』
『ほおー』
『黙れニコ。あんたら姉妹は、揃いも揃ってそんなにお仕置きが、欲しいのかな?』
『あら、あらあらあら。今のは、なしなのよ~』
「あ、今のは聞かなかったことに、してちょうだい」
ニコが『思念伝達』で話しに割り込んで来た事に対して、ツキハがバツの悪そうに言い、ハクロウ達も思わず笑みを零した。
その後、ゲルドやリグル、ゴブタも感謝の言葉を口にしていった。
しかし、すぐにハクロウが真剣な顔付で、ツキハに尋ねる。
「
ハクロウの問いにツキハは。
「うん、多分そうなるかな。でも、その時はあんたらの
「そうですか……出来るならば、戦いたくはありませんな。しかし、その時が来たならば我等一同、死力を尽くして戦いますぞ」
「うん、全力で向かって来な。じゃあ、あたしは行くね。あ、それとあんたの祖父ビャクヤとは、昔斬り合った事あるんだよ、純粋に剣術だけでね。あんたも朧流継承者として、恥じない腕をしてるね。見てて、若い頃のビャクヤを少し、思い出したよ。じゃあね」
ハクロウは、ツキハの言葉に祖父の事を思い出して少し顔を
そのハクロウ達に「じゃあね」と言葉を残し、ニコを伴いツキハは『空間転移』していき、その場を後にした。
ベニマルの所のコハクも、同じように『空間転移』で去っていた。
ハクロウは、忍びと名乗った仮面の女の事をリムルに報告しながら、これからあの仮面の女がどう関わってくるのかと、一人思案をする。
両手を後ろ手に組み、空を見上げ「いずれあの者は……またこの国に現れるやも、知れんな」小さく呟き。
流れゆく雲を、静かに眺めていた。
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