忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
前回の会議から数日が経った頃。
ついに、三十階層突破者が出現した。
それは――
マサユキ一行である。
まあ、これは完全に出来レースなのだが、バレなければ問題ない。
という、
迷宮内のアナウンスで、三十階層の階層ボスである
その効果は凄まじく。
多くの者が集う宿屋や酒場にて、大きな歓声が沸き起こったのだ。
また、歓楽街のとある大きな酒場では、深夜にも関わらず。
『マ~サッユキ、マ~~サッユキーーッ!!』
と、大声援を上げる客達で溢れかえり、街中が歓喜に包まれ、マサユキ一色に染まったかのようだった。
迷宮も挑戦する者達が後を絶たず、日に日に収益が
そして、リムルが『思念伝達』を使いマサユキに『お前の活躍は凄く宣伝になっているから、頑張ってくれよ!』と声をかけ。
『了解です。じゃあ、そのまま次の階層に向かいますね!』
と、元気よく返して来た。
このように、迷宮の運営は順風満帆。
ミョルマイルが喜色満面で、皆に収支報告する。
「皆様方。収益は上り調子で増えており、順調ですぞ。迷宮で配布しておるドロップ品などの必要経費を差し引いても、十分に利益は出ておりますわい。投資に対しての利益率ですが、今のところ十%と言うところかと。二十%を目指しておりますが、利用者が更に増えれば達成可能なのではと愚考します」
と、報告がなされた。
(ふむふむ。大体予想通りだな。提供したアイテムなども、原価ではなく売値で計算しているハズ。だから、実際にはもっと利益率は高いだろう。うんうん、これなら――)
ミョルマイルの報告を聞き、ホクホク顔のリムルである。
「もっと投資分を増やしても良さそうだな」
「そうすると、国家的な利益が出るのは当分先になりそうですが、そう時間がかからず黒字化出来そうですな」
ただ利益を出すならば、作ったモノを高値で売れば済む話であり、魔国はそれが出来る力を持っている。
だがしかし、それだけでは国家は成り立たない。
街には様々な仕事に従事する者達がおり、適切に役割分担されてこそ皆が頑張れるのだ。
だからこそ、誰もが満足して働けるように、環境を整えてやるのが大切だとリムルは考えている。
――とは言うものの、今のままでいいとも思えなかったのも事実。
「だけどさ、無賃というのもねえ……」
「実際、ブルムンド王国の平均賃金換算で計算しても、労働者への賃金は十分に賄えるのです。皆さんが受け取っておらぬだけで……」
と言って、ミョルマイルは苦笑した。
商人のミョルマイルからすれば、無賃金で働くなど論外なのだろう
この賃金を受け取らぬ者とは、リムル配下の魔物達の事である。
特に
飢えから解放されて、今では主に建設業に携わり、安定した生活と衣食住を手に入れ、更に
その為、リムルに対して尊敬と感謝の念が非常に強く、『これ以上は何もいりません。今の生活だけで、とても満足なのです』と、賃金を受け取ろうとしなかったのである。
これは、ホブゴブリンやゴブリナ達も同様であったのだ。
ちなみに、まだまだ数が少ないが、魔国で働く人間の労働者には正当な賃金が支払われていた。
(まあ、気持ちはわかるんだけど、給料無しと言うのは、流石に問題なんだよな。これに関しては、余りにもブラック過ぎるので、その内にルヴナンみたいな給与体系を構築しないといけないな。まあ、先生が色々としていてくれるから、助かっているんだけどねえ)
そう、労働者に関しては
この件に関しては、リグルドや他の三役達とも要相談なのだった。
と、このように住人達が無賃でも喜んでくれている中で。
自分の欲望に忠実な者もいる。
「と、ところで、アタシへの支払いは大丈夫なの?」
ゴクリと唾を飲み込み、緊張した顔付でラミリスがそう質問した。
どうやら、無賃という言葉が出て来て、自分への報酬がなくなるのではないかと心配になったのだ。
それに対してミョルマイルは、ニヤリと笑う。
そして、勿体ぶるように口を開いた。
「期待して頂いても大丈夫ですぞ! かなりの額をお支払いする事が出来るでしょう」
すると、ラミリスはニンマリと笑った。
「来たわね!」
「は? 何が?」
「ツキハ! は? じゃないでしょうが! 来たのよ、時代が! とうとうアタシの時代が、ついに来たってワケよ!」
「へえ~。そりゃ良かったね」
「でしょでしょ!」
「じゃあさ、長年溜まりに溜まった、あたしからの借金が、これでようやく返せるね。うひっ――」
「はッ!? そうね、時代よ、アタシの時代の到来なのよおッ!」
「おい、誤魔化すな。ちゃんと請求するからね。ヨ・ロ・シ・ク♪」
「はうッ! そ、そんなもの、あっと言う間に返してあげるわよ! アハッ、アハハハハハ」
ツキハがそう言うも、勢いでなかった事にしようとするラミリスだった。
まあ、このやり取りもお約束みたいなもので、本当に取り立てるつもりはないツキハである。
ツキハの中では、迷宮領地を創ってもらった事で、お釣りが来るくらいなのだから。
ラミリスが迷宮の外の世界の食べ物やお酒などを欲しがった時にツキハは、「後で代金請求するからね」と冗談半分でいつも言いながらラミリスに持って来ていたのだ。
そんなラミリスに、お茶を持ってやって来たトレイニーが、微笑ましそうに見ていた。
(トレイニーさん……。ちょっと過保護が過ぎやしませんかね? でも、まあ、いいか)
と思うも、他人事なので放置する事にする。
そして。
「その支払いとやらだが、我にはないのか?」
なんと、ヴェルドラまでお金に興味を持ってしまう。
これに関しては、完全にツキハの影響だろう。
ツキハが魔国に住み始めてからは、よく一緒に食事に行ったり酒を飲みに行ってたりしたのだから。
更に、これら全てがツキハの
リムルに視線を向けて来たミョルマイルにリムルは、軽く頷いて合図をする。
「勿論、用意して御座います。ラミリス様と同額、という事で宜しいでしょうか?」
これも、リムルとミョルマイルが既に打ち合わせ済だった。
迷宮の環境維持も、ヴェルドラの魔素に頼っているのが実情だから、当然であると二人は考えていたのだ。
それに、ヴェルドラの魔素で鉄鉱石を〝魔鋼石〟に変質させてくれるだけでも、膨大な利益を魔国に持たしているのも理由の一つである。
この〝魔鋼石〟、リムルが転生する前ではとても貴重な鋼石だったのだが、ルヴナンは、ツキハとコハクの魔素を利用して〝魔鋼石〟を作り、ガットエランテを通じ凄まじく高い値段で西側諸国に卸していたのだ。
シャルフューズには古くから、ツキハとコハクの魔素を溜め込む鉄鉱石倉庫が存在する。
現在は、リムルとルヴナン側で西側諸国に卸す年間排出量を取り決め、価値が下がらないようコントロールしているのであった。
「お、おお! そうかそうか、流石はリムルよな。貴様に任せておけば、我も安心というものよ」
「無駄遣いすんなよな。ツキハの底なし財布のお金とは違うんだからな」
「む、無論だとも!」
「も、勿論だよ? アタシだって、貯金って言葉くらい知ってるし!」
(ラミリス。それ知ってるだけじゃ駄目なんだけどね)
リムル、心の中での突っ込み。
「ハハハ、多少の無駄遣いは構わんでしょう。ツキハ様みたいな使い方は、流石にお勧め出来ませんが。使う楽しみを知ってこそ、貯めるために頑張ろうと思えるものです」
「だよね! ミョルマイルちゃん、アンタってば、わかってるよね!」
(ミョルマイル君。ラミリスはね、甘やかすと際限なく調子に乗るんだよ。トレイニーさんを反面教師にして、それを学んで欲しい)
二人を見ながら、などと思うリムルであった。
「であろうが? 我も、タコ焼き屋で働いたしな。それに、ツキハから常々金を稼ぐ事の大変さを聞かされていたからな。故に、金の大切さを学んだぞ」
(おお。まあ、あれだ、色々と突っ込みたいところだらけなんだけど、何事も経験だしな)
そして、リムルとミョルマイルは、ツキハの方に視線を移した。
「え、なに?」
ツキハが不思議そうに問うと。
ミョルマイルがリムルに変わり口を開いた。
「ツキハ様にも、御二人と同額を支払わせて頂きますが、宜しいでしょうか?」
「え?」
「「え?」」
驚いたようにツキハがそれに返すと、ミョルマイルとリムルも、何で驚いてるのという感じで声を出す。
そして、リムルがそれに答える。
「だってお前、もう、立派な迷宮運営の一員だろ? だからだよ」
そう笑みを浮かべて言うリムル。
「あ、いや、あたしは面白いから遊びみたいな感じでやってたんだけど?」
「それでもだよ。現にお前の意見も役に立っているし、あの凶悪極まりない罠の数々も、楽に攻略させないように出来てるからな」
「そうですぞ、ツキハ様。これは、立派な対価であり報酬なのです」
「あ、うん」
リムルの言葉にミョルマイルが続き、ツキハは少し戸惑った表情を浮かべてしまう。
「へえ、お前もそんな表情するんだな」
「うっさい。ほっとけ!」
からかうようにリムルが言うと、ツキハが少し怒り気味に返す。
「だから、受け取って欲しい。お前の取るべき対価だから、これは」
にこやかにリムルが言うとツキハは。
「そう、わかったよ。遠慮なく頂くよ、リムル」
ツキハもニカッと笑い、そう返した。
それから、ラミリスとヴェルドラとツキハに、給料を支払った。
ラミリスとヴェルドラはとても嬉しそうにして、ツキハもそんな二人とにこやかに言葉を交わす。
迷宮の経営が軌道に乗った今、リムルは好きな事に時間を当てられるなと考える。
百階層には、新たに用意してもらった研究施設があり、そこはいくつかの区画に分かれていた。
今あるのは、ガビルを研究所長に据えた一角と、ラミリスが自分用に研究を行う施設、そして教授の第二研究室兼開発室だ。
そこでリムルは、ラミリスに自分の研究施設を作って欲しいと頼む。
「あのさ、俺専用の施設も用意してくれない?」
「いいけど、リムルも何か研究するの?」
「いや、俺の場合は開発だな。色々と思い付いた事があるから、それを作ろうとおもってさ」
研究に関しては、クロベエが頑張っていた。
街の南西区画にクロベエの工房があり、その周辺に一人前と認められた弟子達の工房が並んでいる。
噂を聞き付けた職人達まで住み着き始め、更に工房を開く者までいるとの事だった。
なので今では、一種の工房区画となっていたのだ。
そして、そこで発見された技術は、隠そうとしても困難な状況となっていた。
それは、誰もが発見された技術を共有し、切磋琢磨する場となっていたからだ。
無論これに関してリムルは、無理に秘匿する気はなかった。
何故なら、更なる技術発展の為には自由な発想と研究も必要だと考えているから。
しかし、世に出してはいけない技術は秘匿するようにと、クロベエに申し付けていた。
クロベエに頼んでいるのは、誰にも真似の出来ない技術的な武具に留めていたのである。
だから、こんな場所では機密開発は行えないと考えたリムル。
それに、リムルの場合は研究するのに場所は取らない。
リムルには
そう、リムルは脳内で完成された図面を元に、開発施設を設置する場所が欲しかったのだ。
「オッケー! 今日中に用意するね」
ラミリスは、リムルの頼み事を快く了承する。
そこにツキハも、ラミリスに頼み事をして来た。
「あ、そうだ。ねえ、ラミリス。あたしもさ、そう広くなくていいんだけど、秘密地下修行場が欲しいんだけど、作ってもらえない?」
「え? 別にいいけど。でも言っとくけど、迷宮を破壊するようなガチの修行はお断りなんだけど?」
ラミリスは少し
「ああ、大丈夫大丈夫。コハクの防御結界とヴェルドラの防御結界を二重に張るから、大丈夫よ」
「ええ? もしかして、師匠と修行するの?」
「そだよ」
「うーーん。本当に大丈夫?」
「案ずるでない、ラミリスよ。我とコハクの防御結界なら、そうそう本気を出しても迷宮には影響は出ぬ」
「それ、面白そうだな。俺も時々、修行に参加させてもらえないかな? それに、俺も防御結界を張るから、三重にすれば安心だろう?」
「ん? いいよぉ~」
ツキハの秘密地下修行場に興味をもったリムルが話に加わって来て、それをツキハがニコニコと了承する。
「リムルも防御結界を張るなら、安心ね。わかったわ、ツキハ。それ、作ってあげる!」
「お、やったあー♪ ヴェルドラ、これで遠慮なく組み手が出来るよぉ」
「うむ。お前との組み手は、場所選びが大変だからな。クワハハハハ」
(いや、オッサン。アンタの力が一番大変だろ)
とう突っ込みは、置いておくリムルであった。
これで最下層である地下百階には、ヴェルドラの大広間から始まり、その隣にツキハの別室が。
そして、各種研究施設が備わり、更にツキハの秘密地下修行場がある大空間となったのだ。
研究施設については、防衛の観点から見ても、機密漏洩阻止の観点からも、これ以上に安心出来る場所はない。
まさに、難攻不落。
今後重要な開発は、ここで行おうと決めたリムルであった。
そして教授も、重要な研究や開発などは徐々にこちらへと移して行く事となる。
「それでリムル、一体何を作るつもり?」
「秘密だよ」
「は? アンタって、教授と一緒でいつもとんでもないものを作るから、とっても気になるんですけど?」
「そうだぞ。我と貴様の間に、秘密はナシだ!」
(何を勝手な事を……。ラミリスとヴェルドラだって、俺に秘密で色々やってるクセに。特に、ヴェルドラ。ツキハと一緒に秘密地下修行場を作るのを、俺に黙っていたよな? な?)
リムル、ジト目で二人を見る。
しかし、ヴェルドラとラミリスは、そんな事では
「教えなさいよ!」
「教えるのだ、リムルよ!」
(うぬー。こうなるとこの二人はしつこい。誤魔化すのも面倒だから、適当に答えを一つか二つ言っておこう)
「ツキハとコハクの、憑依体になる身体を作るんだよ。後、トレイニーさん達の妹の
これを聞いたラミリスとヴェルドラは、「ああ、それね!」「ほお。ツキハとコハクの憑依体とな。良かったな、ツキハ!」と、アッサリと追及をやめてしまう。
(実際は、ディアブロからの依頼分もあるからねえ。千体ともなるとチマチマ作ってられない。だから、大量生産可能な施設が欲しくなったんだ)
これが
「広めで頼むな。ちょっと色々と試したいから」
「わかったわ。アタシの配下の為だもんね、何でも協力するよ!」
――フフッ。
一部だけ情報を与えて正解だったな。
これで、俺も色々と試せるようになる。
思い付いたアイデアは沢山あるんだけど、作る暇がなかったからな。
ようやく、それの開発に移れそうだ。
それに、ツキハとコハクの憑依体に関しては、
教授の第二研究施設もこちらにあるから、憑依体作成の意見を聞きにも行こう。
さあて、忙しくなるぞお。
――そう思い、リムルはニヤリと笑ったのだった。
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