忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。212話です

 ツキハ

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 コハク

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 傭兵商会ルヴナン・真の紋章


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 ※〝打刀〟
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212話 予想外のチーム〝緑乱〟

 

 

 リムル専用の開発施設が出来て、数日が経つ。

 

 

 開発用の機材をせっせと設置していたリムル。

 

 久しぶりに智慧之王(ラファエル)に頑張ってもらい、リムルは『胃袋』内で色々と複製しまくっていた。

 

 後世に伝える技術なら、こんな真似は出来ないだろう。

 

 これに関してリムルは、一切の技術を流出させる気は毛頭ない。

 

 だから、自重など投げ捨てて、好き放題していたのだ。

 

 ツキハとコハクの憑依体、これは思いっ切り思いつく限りのアイデアを注ぎ込むつもりである。

 

 ワンオフ。

 

 世界に二体しか存在しない、ツキハとコハクの為だけの身体。

 

 試作型でありながらも、(けた)外れの性能を持った身体、そんなモノを作ろうとしていたリムルだったのだ。

 

(あの二人って、魔素から疑似生体を作れるから、骨格だけでいいと言っていたな。地味に凄くないか?)

 

《告。普通は(にえ)なり、(しかばね)などから依代(よりしろ)となる身体を作る魔物が主です。しかし、ツキハとコハクの例は、非常に稀有なものと言えるでしょう》

 

 リムルがそう思っていると、智慧之王(ラファエル)が答えて来る。

 

『だよなぁ。悪魔族(デーモン)でさえも、生贄の身体が必要だものな。それらを(かんが)みても、とんでもないな、あの二人って』

 

《是。その通りと言えるでしょう。ツキハとコハクはこの世界の魔物としては、どこか異質なものを感じざるを得ません》

 

『異質かあ、確かにそうだよなぁ。体内で魔素粒子を魔電粒子に変換生成するなんて、普通はあり得ないし、さらに精神力を精神波(サイコウェーブ)に変換してエネルギー源にするとか、本当に戦国時代の人間だったのかよと、疑いたくなるよ。マジに……』

 

《告。主様(マスター)。その疑念はないと断言出来ます。ツキハとコハクの(いにしえ)の記憶から、本当

に戦国時代の〝忍び〟だった頃の記憶が垣間見えます》

 

『え? 智慧之王(ラファエル)さん。二人の深層意識を覗いたの?』

 

《否。覗いたのでありません。あくまでも必要な調査を行ったに過ぎません》

 

『いや、それを覗きと――』

 

《調査です》

 

『あ、うん。バレたら、俺が二人に起こられるから、自重して下さいね智慧之王(ラファエル)さん。バレたら、あの二人絶対に激オコするからね』

 

《御安心を主様(マスター)。バレる心配はありません》

 

(その自信はどこから来るんだろうね、全く……)

 

 智慧之王(ラファエル)はさらりと、バレたら二人が激怒する案件を言い、頭を抱えるリムルであった。

 

 そんなこんなで、開発に勤しむリムルである。。 

 

 ――魔鋼製の骨格に……

 

 うーーん 頑丈さと柔軟さを兼ね備えた……

 

 進化する 骨格 あの二人の……

 

 教授の案も取り入れてみるか……

 

 おっと、これは失敗……

 

 多分、ただの魔鋼製ではあの二人の力に耐えきれない……

 

 そう言えば、あの二人って疑似的な内臓器官も作り出せるとか言っていた……

 

 よくよく考えてみたら、ああ見えてディアブロが二人の実力を認めてるのも(うなづ)けるというものだな……

 

 魔素粒子、粒子、ある特性を持った粒子を骨の内部に封印する、教授の何気ない発言…… 

 

 うーーーーん……

 

 確か漫画か、いやロボットアニメにそんなものがあったような、気が……

 

 …………

 

 ……――

 

 

 開発に没頭するリムルの耳に、扉の外から呼ぶ者がいた。

 

(ん? せっかく今いいところだったのに――)

 

《告。ここ数日間、外部との連絡を絶っています。何かあった可能性があります》

 

(え? そうだっけ? あぁ~、言われてみるとそんな気が……) 

 

 リムルはちょっと夢中になり過ぎていたと、智慧之王(ラファエル)の指摘で思い出す。

 

 呼ばれる声に返事を返し、リムルは開発室から出てみると。

 

 そこにいたのは予想通り、シュナとシオンであった。

 

「リムル様、御無事でしたか!?」

「心配しました。毎日楽しみにしているお食事にも姿をお見せにならないので、何かあったのではないか、と」

 

(あちゃ~。心配させてしまっていたかぁ) 

 

「ああ、何かゴメン。つい夢中になっていた」

「い、いえ! 無事ならばそれで――」

「シオンの言う通りです。ずっと頑張っておられたのですし、リムル様がもっと自由に過ごされても、誰も文句は言いませんよ。もっとも、ツキハ様みたいな極端な自由奔放(ほんぽう)は、少し困りますけども」

 

 リムルが無事だとわかると、シオンもシュナも笑顔を見せた。

 

「これからは、毎日きちんと姿を見せるようにするよ」

「そうして下されば、私としても嬉しいです」

 

 リムルが反省の言葉を告げると、シュナは微笑みながら返す。

 

 そうリムルが反省していると、シオンが何かを思い出したようにポツリと(つぶ)いた。

 

「そう言えば、昨日からミョルマイル殿が、リムル様を探しておられましたよ?」

「え? それなら、俺を呼んでくれれば良かったのに」

「お呼びしたのですが、反応がなかったもので……。申し訳御座いません、もっと強く声をおかけすれば良かったです」

「あ、いや。それは、気付かなかった俺が悪いな。そうだな、後で呼び鈴でも用意するよ」

 

 リムルが開発室に(こも)って数日間、そんなに心配はしていなかったシオンだが、今日になってもミョルマイルがリムルを探している姿を見て、急に不安になりシュナに相談したのだ。

 

 ちなみにだが、ミョルマイルの用件は迷宮に関する事らしく、しかしシオンは、その内容を聞いてはいなかった。

 

(こういう時って、ツキハとコハクのところだったら、問答無用で呼び出すんだよな。アイツ(眷属)らって、(あるじ)に対して遠慮というものが存在しないも同然だから。特にツキハが工房に(こも)って出てこない時など、扉どころか工房を破壊する勢いで扉を叩いているのを一度見た事があるし。そういうところを見習って欲しい訳じゃないんだけど、もう少し押しが強くても良い気がする気がするけども……。まあ、アッチはアッチ、コッチはコッチというところか)

 

 リムルは内心でそう思いながら、どこかクスリと笑みを漏らす。

 

 という事で、リムルはミョルマイルから迷宮案件を聞く為、一旦執務室に戻る事にする。 

 

 リムルは応接室に入り椅子に腰を下ろすと、シュナがお弁当ですとサンドイッチをテーブルに置き、シオンがすかさず紅茶を用意した。

 

 リムルはサンドイッチを美味しそうに頬張りつつ、紅茶を飲み、ミョルマイルが来るまで(しば)しのんびりとした時間を楽しむ……。

 

 そして、リムルがサンドイッチを半分ほど食べ終えた頃、大慌てでミョルマイルが応接室に飛び込んで来た。

 

「おお、リムル様! 探しましたぞ。大変です、大変な事が起こったのです!」

 

 (くつろ)ぐリムルに対して、早口でそう(まく)し立てる。

 

「どうした、何かあったのか?」

「マサユキ殿に続いて、三十階層突破者が現れたのです」

「おお、凄いな。思ったより早いじゃないか」

「そんな悠長な事を言っておる場合ではありませんぞ! 何しろ彼等は破竹の勢いで、既に四十階層の手前まで迫っておるのですから!!」

 

(お、おお。そりゃ、一大事になるのかな?)

 

 リムルは、そこまで大慌てするような事ではないのではと思うが、ミョルマイルの次の言葉で、その考えを改める事となる。

 

「彼等の攻略方法は、迷宮規定に違反するかしないかの、ギリギリを攻めて、いやこれは、盲点とも言えるところをついておるのです。例えばですな――」

 

 そう言って、ミョルマイルが語った内容とは。

 

 それは完全に予想外の話しであった。

 

 …………

 

 ……

 

 …

 

 何と彼等は、ラミリスのアイテムを見事に使いこなしていたのだ。

 

 彼等の攻略手段とは。

 

 先ず、二十階層のボスモンスターの手前で、〝事象の記録玉〟を使用。

 このアイテムはパーティに適応されるので、ボスに挑んで失敗しても、全員が登録地点に復活出来る。

 

 これは想定通りの使用法であるが、次からが違ったのだ。

 

 彼等は〝帰還の呼子笛(よびこぶえ)〟を使用して、全員が迷宮の外へと出たのであった。

 

 そしてパーティを解散して、各々が上限の十名となるように、元パーティメンバーの一人一人が新たにパーティを結成したのだとミョルマイルが言う。

 

「えっと、そうすると人数が――」

「左様です。もはやパーティというよりも、小部隊という方が正しい規模になりました」

「マジかあ……」

 

 分隊規模のパーティが十組の、総勢百名。

 個々の実力は、C⁺からのB⁺の実力者だとミョルマイルは言った。

 

 その者等は、とある紋章が刺繍(ししゅう)された、同じ意匠の外套(がいとう)を着用していたと。

 

 当然、全員が三十階層のボスの手間に出たのは言うまでもなかった。

 

 ボスモンスターへ挑めるのも、パーティ単位である。

 

 こうして十組の挑戦者達が、連続してボスモンスターに挑む事態となったのだ。 

 

 三十階層のボス、大鬼の狂王(オーガロード)と、その配下五人衆。

 かなり強力な魔物達である。

 

 結果、苦戦しつつも三組目にして、見事に三十階層を突破したのだと言う。

 

 …………

 

 ……

 

 …

 

「何かこれさ、最近も似たような話があったよな」

「御明察の通りですぞ。その者共とは、チーム〝緑乱〟ですわい」

「やはりそうか。紋章と、統一意匠の外套。どこかの貴族の手駒って事か」

 

 惜しみなく金貨一枚もする〝事象の記録玉〟を使用する彼等。

 余程強力なスポンサーが付いてるのは明白であった。

 

 恐らく、大貴族に当たる者だとリムルは推測した。

 

「その紋章から、どこの貴族かわかったのか?」

「はい。ソーカ殿に調べてもらいましたところ、〝緑の使徒(ヴェルト)〟という、表で有名な傭兵団だそうです。ルヴナンにも確認をしたところ、「ああ、そんなのもいましたね」との事でした。ルヴナンに取っては眼中にもないとの印象でしたわい。そして、更にソーカ殿の調査で、金の出所はイングラシア王国ではないかとの事でしたな。ルヴナンにも調査を依頼しようともしたのですが、コハク様から断られました――」

「え、何で!? 金になるのにか?」

 

 これを聞いてリムルは、驚きの声を上げた。

 

 そしてミョルマイルは、どこか苦笑い気味に話を続ける。

 

「はい。理由を聞きましたところ、それは藍闇衆(クラヤミ)の地力を上げる為に必要だと申しまして。これに関しては一切手助けはしないと、(おお)せになりましたのです。またルヴナンでは、あの件や通常の依頼で忙しいとの事で。差し詰まった案件でなければ、こちらでやれとの事です」

「ほう。ソーカ達の調査力の底上げの為にと、いう事か。それに、チヨメの〝草〟のあぶり出しに、傭兵の依頼やなんやかんや、増えたと聞いたな」

「左様で御座います」

「うーーん、〝緑の使途(ヴェルト)〟とか、聞いた事ないな。何と言うか、アレだ。金にモノを言わせた感じで印象は悪いが、ルールを違反している訳ではないんだな?」

「はい。その通りで御座います」

「そうかあ。こりゃあ、困ったな」

 

 リムルは、どこにも取り締まる理由がないという結論になる。

 

 ミョルマイルは慌てているが、現時点では何も出来そうはない感じだったのだ。

 

「利益は上がっておりますし、文句を言うのは筋違いでしょう。ですが、このままではリムル様が仕掛けを施した階層が、あっという間に攻略されてしまいそうで……」 

 

 そう、つまりはリムルが引き籠っている間に、迷宮が攻略されしまうのを恐れて、慌てて声をかけて来たのだった。

 

「そうか、心配かけちゃったか。でも、大丈夫。本番は四十階層以下なんだよ、実際、ツキハの罠なんかは六十階層から牙を剥くからね。それよりも先に、嵐蛇(テンペストサーペント)を倒すのが大変だと思うけどね」

 

 嵐蛇(テンペストサーペント)はA⁻ランクの中でも上位の強さである。

 B⁺ランクが十名で挑んでも、あの強力な範囲攻撃に耐えられるとは思えないとリムルは思う。

 

 だがしかし、ミョルマイルの言葉が不穏な雰囲気を漂わせてしまう。

 

「ところがですな、ラミリス様とヴェルドラ様が(おっしゃ)るには、チーム〝緑乱〟のリーダーが実力を詐称しておるのではないかと、そしてツキハ様が「だろうね」と一言仰った次第で……」

「えっ!?」

 

 リムルは驚き、やおら思考を巡らせる。

 

(うーむ。確かに映像を見ただけでは、確実な『解析鑑定』を行えないという事か――)

 

《告。戦闘映像を『解析鑑定』しただけでは、魔素量(エネルギー)の算出が行えません》

 

 と、智慧之王(ラファエル)から忠告が入る。

 

 そう、映像の動きから、自由組合が規定する魔物の等級に換算しているだけで、そのパーティが何ランクなのかまでは不明なのだ。

 

 例えばリムルの場合、自由組合でのランクはB⁺で、本当の実力はSランクである。

 

 ツキハが人間に変幻(ヘンゲ)している時の地下闘士のランクはBランクであり、実際の実力は特Sランク。

 

 とこんな風に、実際の実力とランクが釣り合わない場合もあるのだ。

 

 まして偽装されていたならば、対策が必要だとリムルは考えた。

 

「ヴェルドラ達から、話を聞きたいな」

「お任せを。既に連絡をしておりますので、場所を移しましょう!」

 

 流石はミョルマイルである。

 手際の良さは、リムルも信頼を預けるには申し分のなさであった。

 

 そしてリムルは(うなづ)き、席を立ったのだった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 ※ショートストーリー

 

 

 ☆シオンとサンコの日常☆

 

 

 開国祭も終わり、いつもの日常が戻って来た魔国連邦(テンペスト)

 

 

 夜の(とばり)が下り、酒場通りが賑わう時間。

 

 一軒の居酒屋にシオンとサンコがいた。

 

 店に入って小二時間。

 

 二人は、仲良く酒を飲んでいた、はずだったのだが。

 

 ドンッ!

 

 キンキンに冷えたビールを飲み干し、ビールジョッキをテーブルに叩きつけるように置くサンコ。

 

「クソがあぁーーっ! び・ん・ぼう、にゃあああああああッ!!」

 

 いきなり、怒りの叫びで吐き捨てるサンコだった。

 

 今日はサンコの(おご)りという事で、二日目から一緒に飲む約束をしていたシオン。

 

 その一言に目を剥き、サンコを問い詰めるシオン。

 

「ちょ、ちょっとサンコ。貴女、今日奢ってくれるって約束でしたよね!? もう、結構食べて飲んでますよ!?」

「にゃあ、そうにゃ。実はにゃ、ここに来る前にアチシの財布が爆発して粉砕されたのにゃッ!」

「はいッ!? 意味がわかりませんよ、サンコ。私、お金とか持ってませんよ? どうするんですか、コレッ!?」

「にゃあぁ。仕方ないにゃ、食い逃げするかにゃ? ――」

「馬鹿ですか、貴女はッ!?」

「ふにゃ!」

 

 堂々と犯罪予告をするサンコに、シオンが拳をテーブルに叩きつけ、サンコを叱る。

 

「馬鹿と言っていいのは――」

「はいはい。ニコ姉さんとイチコ殿にイチオ、それにツキハ様とコハク様だけですよね」

「そうにゃ! わかってればいいのにゃ」

「それでは。今この時点から、私も加えて下さい」

 

 酒が入って目の座ったシオンが、、サンコに凄みを利かせ言い放つ。

 

 ちなみに、シオンは酒にあまり強くはない。

 

「にゃ、にゃんで?」

「私も色々とありますが、貴女は根本的に大事な何かが抜け落ちてます! また眷属達との賭け事でカモにされましたね? 貴女、学習という大事なものはどこに落として来たのですか!?」

「にゃ、にゃあぁ……多分、生まれる時に(かあ)様がアチシに与えてくれなかったのにゃ。だから――」

「あらあら、それは大変だこと。サンコ、それについては明日ゆっくりと、母と〝オハナシ〟しましょうね」

「ひいぃーーーーーッ!? にゃんでここに?」

「あら、母も息抜きくらいしますよ。ふふっ」

「アチシ、終わったにゃ……」

「ではシオン、お馬鹿な娘だけど、ヨロシクね」

「あ、はい(この店にいたのですか。気配が全く掴めませんでした……)」

「サンコ。あまりシオンに迷惑をかけるんじゃありませんよ」

「いや、あの、あの(かあ)様、違うにゃ! 誤解にゃあぁーーッ!! そうにゃ、今アチシのピンチなのにゃッ! か、(かあ)様。お、お金貸して! って、どこ行くにゃ? 待ってにゃ、ちょっと待つにゃあああああッ!!」

 

 何とイチコは、眷属の女達数人とこの居酒屋で飲んでいたのだ。

 

 悲痛な絶叫を上げるサンコを気にせず、イチコ達は他の店へと移動して行ったのであった。

 

 サンコ、明日は地獄を見る事になるだろう。

 

 残るサンコとシオン。

 

 しかし、明日の事より今日のお勘定である。

 

 散々飲み食いしてからの、サンコのお金が無い告白。

 

 最初に言えば良かったのに言い出せず、それならばと酔いに任せて言ったサンコだったのだ。

 

「ねえ、サンコ。本当にどうするんですか?」

「にゃあ……。よし、待つにゃ」

「はい? 何をですか?」

「今から、パパッと、お金を稼いで来るにゃ」

「当てはあるのですか? 賭け事は容認できませんよ」

「大丈夫にゃ。ルヴナン本店にある暗殺依頼をちゃちゃっとやって来るにゃ! 一時間くらいで戻るから、ゆっくり飲んでるにゃ!」

「ちょ、サンコ?」

 

 思い立ったが吉日とばかりに、シオンが止める間もなく居酒屋から『空間転移』で消えたサンコであった。

 

「はあぁ……。仕方ありませんね。言われた通り、飲みながら待つとしましょう」

 

 そう切り替えたシオンは、追加の料理と魔国米の黒酒を頼んだ。

 

 一方サンコは、ルヴナン本店に駆け込んで無理やり数件の暗殺依頼書を半ば強引に奪い、暗殺に出向いた。

 

 そして、サンコが最初の目標を見つける。

 

 暗殺。

 

 依頼終了。

 

 暗殺、暗殺。

 

 依頼終了、終了。

 

 また暗殺。

 

 依頼終了……。

 

 こうして、一時間ちょっとで数件の暗殺を終了して本店に帰り。

 

 暗殺済の依頼書を受付カウンターに叩きつけて、報酬をもぎ取る。

 

 しめて、金貨二百十五枚。

 

 ちなみにルヴナン本店受付は、支店統廃合のおり昼と夜の交代制になり、夜の部は明け方まで営業している。

 これは、不意の飛び込み依頼や、終わった依頼などの処理を迅速にする為にこのような営業をしてるらしい。

 

 夜の部は(おも)に、夜に強い夜行性の魔物や深夜手当目当ての人間達で占められているのだが。

 皆お手当の良い夜の部をやりたがり、常に夜の勤務の争奪戦が繰り広げられているらしい。

 

 

「にゃはあぁ♪ お金持ちにゃ~♪ シオンが待ってるから、急いで戻るにゃ~」

 

 報酬の金貨を空間収納式〝ガマ口財布〟に全部入れると、本店から出るサンコ。

 

 するとそこへ。

 

「よお、サンコ。たんまり稼いだみたいじゃねえか。また、一勝負するか? 皆いるぜ」

 

 ホクホク顔のサンコを見つけた眷属のヨモゴオ(四百五番)が、ニヤリとした顔で賭け事に誘う。

 

「にゃああ……ちょこっとなら、いいにゃよ?」

 

 この時点で、サンコの頭の中から最初の目的がアッサリ消滅。

 

 お遊びという思考に切り替わる。

 

「なら決りだ。キャットタワーの下に皆いるから、行こうぜ(カモがネギ背負(しょ)って来たぜえー。ウハハハハ)」

「いくにゃあ~」

 

 サンコ、皆に交じりポーカーを始めるも。

 

 …………

 

 ……

 

 結果は、いつも通りのボロ負け。

 

 財布があっという間に爆発した、サンコであった。

 

 

 そして、シオンの事が頭の中に(よぎ)り、当初の目的が復活。

 

 

 シュンと両猫耳を伏せイカミミ状態になり、トボトボと居酒屋に戻って来たサンコ。

 

 既に黒酒の一升瓶を半分以上空け、〝ぐい呑み〟に()いだ酒をグビグビ飲んでいるシオンがそこにいた。

 

 完全に出来上がって目が据わり、顔を真っ赤に染めているシオン。

 

 こうなったシオンの怖さを知っているサンコの尻尾の毛が、ボワッと一斉に逆立った。

 

 恐る恐る席に座り、シオンを見るサンコ。

 

「ただまーにゃ。も、戻ったにゃよ?」

 

 引き()った顔で言うサンコにシオンは

 

「うー、ヒック。でぇ、お金はぁ、稼げましたかぁ?」

 

 と、酔っぱらいながら問うた。

 

「ちゃんと、か、稼げたにゃよ?」

「何故にぃ、首を~、(かし)げてぇ、疑問系ぃ、なのぉですぅかぁ?」

「あ、え、にゃんで?」

「こぉちっ~がぁ、聞いぃてぇ、るんですぅけどぉ?」

「あ、あにゃ、にゃうぅ……」

 

 半分ろれつが回らなくなったシオンに、サンコの目が泳ぎ回る。

 

「お金えぇはぁ、稼げえぇ、たんですよぉねえぇ?」

「稼げたけどにゃ、一瞬で財布ごと霧散したにゃ……なんで? また、び・ん・ぼぅ、にゃ、よ?」

「……」

 

 それを聞いたシオンは、手に持った〝ぐい呑み〟をコトリとテーブルに置き、ユラリと立ち上がると。

 

 右手でサンコの頭を、グワシッ! と力強く掴んだ。 

 

 そして。

 

「はあああああッ!? 馬鹿ですかあ、貴女はぁッ!!」

 

 シオンの極大カミナリがサンコに落ちる。

 

「ふにゃあああああ! 頭が、頭が割れるにゃあぁーーーー! ゴメ、ゴメ、ゴメンしてにゃあぁーー」

 

 店内にシオンの怒号が響き渡り、頭を掴まれたサンコがシオンの手をペチペチと叩きながら許しを()う。

 

 ガヤガヤと賑やかだった店内が、一瞬で静まり返る。

 

 皆の目が二人に集中するも、誰かが「何だ、サンコちゃんが叱られてるのか」と言うと、何事もなかったように店内は賑やかさを取り戻す。

 

「いいでぇしょうぅ、サンコぉ。今日はぁ、閉店までぇ、付き合ってぇ、もらいますよぉ、いいですねッ!」

「にゃい。でもにゃあ、アチシのお金は当てのない旅に旅立ったにゃよ?」

「意味不明ぃッ! でもおぉ、大丈夫ぅ、ですよぉ~。さっきぃ、イチコ殿があ、金貨ぁ二枚ぃ、置いていってぇ、くれたのですぅ。ヒック」

「にゃ!? 目一杯飲んで食べてもお釣りがガバッとくるにゃ!」

「ええ、ええ。飲みながらぁ、私が、おバカな子猫にぃ、一般常識やぁ、学習とぉいうものぉ、教えてぇあげますうぅーー」

「いらん、面倒にゃ。アチシに、そんなものいらないにゃ――」

「あ゛?」

「ひッ!? ご、ゴメンナサイにゃ……」

 

 シオンの凄まじい迫力にサンコは何故か椅子の上にチョコンと正座をして、懇々とシオンにお説教をされる事となったのである。

 

 閉店まで続くシオンのお説教。

 

「サンコぉ。賭け事はぁ、金輪際ぃ、禁止ですうぅよおぉ~」

「はにゃ!? いやにゃああああッ!」

「あ゛?」

「に、にゃ、ゴメンにゃさい……」

「子にゃんこがぁ、賭け事とかあぁ、言語道断ですうぅー」

「いや、アチシは千年以上生きてるにゃよ?」

「あ゛?」

「にゃい、やめますにゃ!(酔っぱらいシオン、めちゃ怖いにゃ……)」

 

 逃げる事も出来ずにいるサンコの悲鳴が、閉店するまで虚しく店内に響いていたのだった。

 

 

 そして、翌日。

 

 

 イチコの〝オハナシ〟を受けたサンコは――

 

 数日間、どこにも姿が見えなかった……。

 

 





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